特許第5786817号(P5786817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スターライト工業株式会社の特許一覧

特許5786817押出成形用熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた熱伝導性樹脂押出成形品
<>
  • 特許5786817-押出成形用熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた熱伝導性樹脂押出成形品 図000003
  • 特許5786817-押出成形用熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた熱伝導性樹脂押出成形品 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786817
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】押出成形用熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた熱伝導性樹脂押出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20150910BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20150910BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20150910BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20150910BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20150910BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20150910BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20150910BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20150910BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150910BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20150910BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20150910BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20150910BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20150910BHJP
   B29C 47/94 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/00
   C08L27/18
   C08L77/00
   C08L69/00
   C08K3/38
   C08K3/26
   C08K3/20
   C08K3/36
   C08K7/14
   C08K3/28
   C08L33/00
   C08L25/04
   B29C47/94
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-166580(P2012-166580)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-24965(P2014-24965A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(72)【発明者】
【氏名】門間 裕輔
【審査官】 新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0155948(US,A1)
【文献】 特開2005−320515(JP,A)
【文献】 特開2004−331843(JP,A)
【文献】 特開2011−057884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00− 13/08
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートをマトリクスとし、白色系の熱伝導性無機フィラーとして窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、ガラス繊維の内から選ばれた2種以上の組合せを30体積%以上含み、かつミクロンサイズの繊維状押出成形性改質剤としてPTFEと、高分子鎖の絡み合いを増加させるアクリル系高分子量押出成形性改質剤ポリカーボネート中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤の一方又は双方を含有し、熱伝導率を1W/m・K以上としたことを特徴とする押出成形用熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤が、エポキシ基を含みポリカーボネート中の官能基と反応するアクリル系押出成形性改質剤である請求項記載の押出成形用熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載の押出成形用熱伝導性樹脂組成物を用いて押出成形により成形された成形体であることを特徴とする熱伝導性樹脂押出成形品。
【請求項4】
前記押出成形体が、中空構造である請求項記載の熱伝導性樹脂押出成形品。
【請求項5】
前記押出成形体が、発熱を伴う電子デバイスの放熱構造に用いる発熱デバイス用構造体である請求項記載の熱伝導性樹脂押出成形品。
【請求項6】
前記押出成形体が、LEDを用いた直管型蛍光灯タイプの照明部材のヒートシンクに使用する長尺品である請求項記載の熱伝導性樹脂押出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は押出成形性に優れ、熱伝導性、電気絶縁性も良好な白色系の樹脂組成物と、これを押出成形してなる外観性が良好な熱伝導性樹脂押出成形品に関するものである。特に、直管型蛍光灯タイプのLED照明用部材へと用いられる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は安価で軽量であり、加工性も優れることから、電気・電子分野、精密機械分野、自動車分野等さまざまな用途に使用されており、今日の産業活動において欠かせない材料となっている。特に電気・電子分野、自動車分野においては今後の需要増大が予想される。
【0003】
これらの分野においては殆どの機器部材が発熱する部品を搭載している。特に最近では電子機器の小型化に伴い部品当りの消費電力量が増え、発熱源の放熱は重要な問題である。したがって、これら電子機器の熱に由来する問題を解決するためには、ヒートシンク等を用い、効率的なサーマルマネジメントを達成する必要がある。特に近年ではLEDの用途が広がるのに伴い、その熱対策は重要な課題である。
【0004】
従来のヒートシンクは、主にアルミニウムに代表される金属材料により製造されている。しかし各種機器の軽量化、小型化の要求により、金属製ヒートシンクから樹脂材料によるヒートシンクへと代替する需要が高まってきている。この際、特に電気・電子分野では絶縁性を求められる用途も多く、高熱伝導性、絶縁性、軽量性、易加工性を併せ持つ樹脂材料が望まれている。
【0005】
高分子材料に熱伝導性を付与するための方法として、樹脂マトリックス中に熱伝導性フィラーを高充填する方法が知られている。特許文献1においては、樹脂マトリックス中に板状黒鉛などの高熱伝導性フィラーを充填し、熱伝導性を高めた樹脂組成物が提案されている。ところで、特許文献1に記載の樹脂組成物は、射出成形、中空成形、押出成形などの一般的な成形加工方法に適用される樹脂組成物と記載されているものの、実際に押出成形を行い検討した旨については言及していない。同様に、特許文献2に記載の熱伝導性樹脂組成物に関しても射出成形、押出成形が可能な樹脂組成物と記載されているものの、実際の押出成形性について検討した記載は無い。
【0006】
成形加工の分野において、射出成形と押出成形は代表的なプラスチック成形方法である。一般に、射出成形においては材料の流動性が重要な要素となる。特に、熱伝導性樹脂組成物は多量の熱伝導性フィラーを含むため、材料の流動性を確保することは重要な問題である。このため、射出成形用の熱伝導性樹脂組成物を調製する際、マトリクス樹脂には分子量が低く、低粘度の材料が選定される。
【0007】
一方押出成形では、マトリクス樹脂のドローダウン性、溶融弾性、溶融張力が重要となる。本特性は分子量が大きく、粘度の高いマトリクス樹脂の方が優れるため、押出成形用の樹脂組成物を調製する際には、分子量の大きいマトリクス樹脂を用いるのが一般である。
すなわち、射出成形性に優れる分子量の低い高分子材料は、押出成形に要求される材料物性を満足できる材料とは言い難い。
【0008】
さらに押出成形用熱伝導性樹脂組成物では、熱伝導性フィラーの高充填化に伴い、ドローダウン性、溶融弾性、溶融張力は失われてしまい、押出成形性は著しく低下してしまう。また、熱伝導性樹脂はフィラーを多量に含むため、押出成形の成形条件によっては成形品の表面外観に毛羽立ちやざらつきが見られ、外観性に優れる押出成形品を得るのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−16936号公報
【特許文献2】特開2010−1402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、押出成形性に優れ、高熱伝導性、絶縁性が良好な白色系の樹脂組成物、および樹脂組成物による表面外観性が良好な成形品を得ることである。また樹脂組成物をLED用照明部材に用いることも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述の課題解決のために、熱伝導性樹脂の粘弾性挙動を制御することにより、押出成形に適した熱伝導性樹脂組成物を得るものでる。すなわち、(1)熱可塑性高分子マトリクス中に、(2)絶縁性且つ白色系の熱伝導フィラーを充填し、(3)溶融混練を行うことにより押出機中で数ミクロンサイズの繊維状物質となる押出成形性改質剤を添加することで本発明に至った。ここで、白色系とは、白色、アイボリー、淡白色を含む概念である。
【0012】
つまり、本発明は、ポリカーボネートをマトリクスとし、白色系の熱伝導性無機フィラーとして窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、ガラス繊維の内から選ばれた2種以上の組合せを30体積%以上含み、かつミクロンサイズの繊維状押出成形性改質剤としてPTFEと、高分子鎖の絡み合いを増加させるアクリル系高分子量押出成形性改質剤ポリカーボネート中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤の一方又は双方を含有し、熱伝導率を1W/m・K以上としたことを特徴とする押出成形用熱伝導性樹脂組成物を構成した(請求項1)。
【0013】
また、前記ポリカーボネート中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤が、エポキシ基を含みポリカーボネート中の官能基と反応するアクリル系押出成形性改質剤であるとより好ましい(請求項)。
【0014】
そして、本発明は、前述の押出成形用熱伝導性樹脂組成物を用いて押出成形により成形された成形体であることを特徴とする熱伝導性樹脂押出成形品である(請求項)。
【0015】
ここで、前記押出成形体が、中空構造であること(請求項)、あるいは発熱を伴う電子デバイスの放熱構造に用いる発熱デバイス用構造体であること(請求項)、あるいはLEDを用いた直管型蛍光灯タイプの照明部材のヒートシンクに使用する長尺品であること(請求項)が好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上にしてなる本発明の押出成形用熱伝導性樹脂組成物によれば、ポリカーボネートをマトリクスとし、白色系の熱伝導性無機フィラーとして窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、ガラス繊維の内から選ばれた2種以上の組合せを30体積%以上含み、熱伝導率を1W/m・K以上としたので、十分な熱伝導性を備えとともに、ポリカーボネート中に、ミクロンサイズの繊維状押出成形性改質剤としてPTFEと、高分子鎖の絡み合いを増加させるアクリル系高分子量押出成形性改質剤ポリカーボネート中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤の一方又は双方を含有させたので、マトリクス樹脂であるポリカーボネートのドローダウン性を改善し、高い溶融弾性と溶融張力を達成し、もって良好な押出成形を実現し、成形品表面の毛羽立ちやざらつきを抑制し、外観性が良好な成形品を得ることができる。
【0017】
特に、前記ポリカーボネート中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤が、エポキシ基を含みポリカーボネート中の官能基と反応するアクリル系押出成形性改質剤であると更に好ましい結果を得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の押出成形用熱伝導性樹脂組成物のSEM像である。
図2】本発明の中空構造の熱伝導性樹脂押出成形品の例を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態について順次説明する。
【0020】
<熱可塑性高分子マトリクス>
本発明で使用する熱可塑性樹脂の種類は特に制限されず、結晶性、非晶性樹脂のいずれであってもよい。例えば、結晶性熱可塑性樹脂であればポリプロピレン、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドが好適に利用できる。非晶性熱可塑性樹脂としてはABS樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、スチレン系樹脂が好適に利用できる。なお、熱可塑性高分子マトリクスはこれらの1種あるいは2種以上のアロイであってもよい。熱可塑性樹脂の中でも耐熱性、成形性、白色の樹脂組成物を得る観点からポリアミド6、ポリアミド66、ポリカーボネートが好ましい。
【0021】
<熱伝導性フィラー>
本発明において使用される熱伝導性フィラーは、樹脂組成物の絶縁性を確保するため絶縁性且つ白色系の熱伝導性フィラーを使用することが好ましい。具体的には窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、ガラス繊維、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ダイヤモンド、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、窒化ホウ素ウィスカを用いることができる。これらの熱伝導性フィラーは単独で熱可塑性高分子マトリクスに充填してもよく、複数種類を併用して使用することも可能である。白色系とする理由は、成形品に対する色の自由度が高くなるとともに、LED照明器具の部品として使用する場合に、光の反射率が高くなって照度の向上を図るためである。
【0022】
こられの熱伝導性フィラーの形状や組成について、特に制限事項は無い。例えばその形状について、種々の形状を利用可能である。球状、粒子状、針状、板状、燐片形状、テトラポッド(株式会社不動テトラの登録商標)形状、ロッド状、不定形などを例示することができる。フィラーの大きさに関しても特に制限を受けず、種々の大きさが利用可能である。また、これら熱伝導性フィラーについては天然物であってもよく、合成されたものでもよい。天然物の場合、産地は特に制限を受けず、適宜選択が可能である。
【0023】
ここで、例えば窒化ホウ素に関しては、鱗片形状の平均粒径が20〜40μm、熱伝導率が40W/m・K以上を示すことが好ましい。また、炭酸マグネシウムは平均粒径が3〜10μm程度、水酸化マグネシウムは平均粒径が3〜10μm程度、酸化亜鉛は、テトラポッド形状で平均粒径が3〜10μm程度、もしくは球状で平均粒径が30〜40μm程度が好ましい。シリカは20〜40μm程度の球状、ガラス繊維は1〜10mm程度の長さであることが好ましい。
【0024】
これら挙げた熱伝導性フィラーに関しては、樹脂界面との接着性や密着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤などの表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、など公知の処理剤を利用可能である。特に、エポキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤、及びアミノシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤などが好適に利用することができる。
【0025】
<押出成形性改質剤
本発明の樹脂組成物は押出成形が可能である。押出成形では高い溶融張力、溶融弾性が要求される。溶融張力、溶融弾性は樹脂組成物に観測されるパラメータである。一般に溶融張力、溶融弾性を高める方法として、(1)樹脂マトリクスにおける高分子鎖の絡み合いを増加させる、(2)樹脂マトリクスに超高分子量成分を加える、(3)樹脂マトリクスに長鎖分岐を導入する、(4)樹脂マトリクスの分子量分布を拡げる、などが挙げられる。
【0026】
本発明では、押出成形性を改善するための成形性改質剤として、数ミクロンサイズの微細な高分子繊維状物質を使用している。かかる改質剤は押出機中で溶融混練を行うことにより、数ミクロンサイズの繊維状形態となることが特徴である。本改質剤の添加により熱伝導性樹脂組成物の溶融張力、溶融弾性が向上し、押出成形性を改善できるだけでなく、成形品表面の毛羽立ちやざらつきを抑制し、外観性が良好な成形品を得ることができる。
【0027】
数ミクロンサイズの微細な高分子繊維状物質(表1のC−1)は、熱可塑性樹脂をベースとした材料でPTFE(四フッ化エチレン樹脂)を使用することが好ましい。ここで用いるPTFEは、乳化重合により作成した粒状のものである。かかるPTFEは、他樹脂との親和性を向上させるためにアクリル変性などの処理をしていてもよい。本PTFEは溶融混練を行う前は粒状であるが、押出機内で溶融混練されることにより繊維化(フィブリル化)することが特徴である。繊維化したPTFEは溶融状態の熱伝導性樹脂組成物に高い溶融張力、溶融弾性を与え、押出成形性を改善するだけでなく、外観性が良好な成形品を得ることに役立つのである。
【0028】
<他の押出成形性改質剤
また、押出成形性を改善するために上記以外の成形性改質助剤を加える。例えば、(1)高分子鎖の絡み合いを増加させる高分子量押出成形性改質剤(表1のC−2)、(2)樹脂マトリクス中の官能基と反応し、分岐構造を形成する押出成形性改質剤(表1のC−3)が挙げられる。
【0029】
上記(1)の具体例として、重量平均分子量が50万〜450万程度であり、ポリマーの分子鎖と絡み合うことによって擬似架橋状態を形成する高分子量アクリル重合体が挙げられる。また、上記(2)の具体例として、エポキシ基やオキサゾリン基を含み、樹脂マトリクス中の官能基と反応するアクリル系、スチレン系の押出成形性改質剤が挙げられる。
【0030】
<その他の添加剤>
本発明の熱伝導性樹脂組成物の特性を失わない限りにおいて、押出成形性改質剤以外の添加剤を加えてもよい。具体的には、酸化防止剤、フェノール系安定剤、リン系安定剤などの熱的安定剤を挙げることができる。また、耐衝撃性改善剤、可塑剤、外部滑剤、離型剤、難燃剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、相容化剤などを添加することができる。
【0031】
上記の内、耐衝撃性改善剤に関しては既知の材料が使用できる。例えば、ガラス転移温度が0℃以下であるゴム、エラストマー成分が選択される。また外部滑剤に関しては、アクリル系高分子外部滑剤、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックスが好適に利用できる。
【0032】
本発明にかかる熱伝導性樹脂組成物の製造方法は特に問わないが、生産性及び簡便さから、押出機による溶融混練を用いることが好ましい。特に、単軸押出機、または二軸押出機を用いた溶融混練が好適に利用可能である。
【0033】
上記溶融混練方法のうち、生産性の観点から同方向回転の二軸押出機が好ましい。更に材料の投入方法としては、サイドフィードを用いる方法、あるいはブレンドした材料をメインフィーダに一括で投入する方法のどちらであってもよい。
【0034】
<押出成形>
本熱可塑性樹脂組成物は、押出成形を行うのに好適な材料物性を備えている。押出成形を行う際はベースとなる高分子マトリクスを押出成形する際の成形条件とほぼ同等の条件により成形可能である。具体的には、結晶性の熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂に用いた場合であれば融点より20℃〜50℃高い温度、非晶性の熱可塑性樹脂をマトリクスに用いた場合であれば、ガラス転移温度より100℃〜150℃高い温度で成形することが好ましい。
【実施例1】
【0035】
次に、本発明について実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
A:熱可塑性樹脂マトリクス、
(A−1)ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック製、商品名:ユーピロンEFT2200U)を用いた。
【0037】
B:熱伝導性無機フィラーには以下の原料を使用した。
(B−1)窒化ホウ素(株式会社昌星、韓国製、KBN-20)平均粒径20μm。
(B−2)酸化亜鉛(株式会社アムテック、パナテトラWZ-0511)。
(B−3)炭酸マグネシウム(神島化学株式会社、MSL-AM)。
(B−4)ガラス繊維 繊維長5mm。
【0038】
C:押出成形性改質剤として、以下の原料を使用した。
(C−1)PTFE(三菱レイヨン、メタブレンA3800)。
(C−2)高分子量アクリル系改質剤(三菱レイヨン、メタブレンP530A)。
(C−3)エポキシ基含有アクリルポリマー(東亞合成、ARUFON UG-4035)。
【0039】
D:その他の添加剤として、以下の原料を使用した。
(D−1)耐衝撃性改善剤、
シリコーン‐アクリル複合エラストマー(三菱レイヨン、メタブレンSX-005)。
(D−2)外部滑剤、
アクリル系高分子外部滑剤(三菱レイヨン、メタブレンL-1000)。
【0040】
樹脂組成物の配合割合を表1に示す割合とした。熱可塑性樹脂マトリクスであるポリカーボネートは混練前に120℃で3h以上乾燥させた。表1に示した原料をドライブレンドし、二軸押出機(池貝、PCM30)を用いて、シリンダー温度は280℃、スクリュー回転数は80rpmにて溶融混練した。材料は押出機上流部より全て一括でフィードした。このように作製した樹脂組成物のSEM像を図1に示す。押出成形性改質剤として添加したPTFEが数ミクロンサイズの繊維状形態となっていることが分かる。
【0041】
得られた樹脂組成物について以下の評価を行い、結果を表1に示した。
【0042】
<溶融張力の評価>
溶融張力の評価はキャピラリーレオメータ(安田精機、No.140-SAS2002)を用いて行った。キャピラリーレオメータのシリンダー温度を280℃とし、見掛けのせん断速度が100s−1のとき、リボンダイ(3×1×10mm)から出てくるストランドを引張り、溶融張力を評価した(ドローダウン力)。ストランドを引張った際、容易にストランドが切れてしまう場合(×)、ストランド切れを起こしにくい場合(△)、ストランド切れを起こさず強い抵抗を感じる場合(○)に分類した。
【0043】
<熱伝導率の評価>
熱伝導率はレーザーフラッシュ法により測定した。押出成形時に得られた成形品を加工し、φ10mm、t=2mmの測定サンプルを作製した。レーザーフラッシュ法により測定した結果、押出成形時の成形流動方向に1W/m・K以上の熱伝導率が得られた場合を○とした。
【0044】
<押出成形による成形品の取得>
調製したサンプルの内、溶融張力が高いと評価できた材料について、押出成形を行った。押出成形には単軸押出機(池貝、PMS40-28、L/D=28)を使用した。成形時の樹脂温度を表1に示した。また、所定形状のダイを用いて押出成形を行い、得られた成形品を図2に示した。
【0045】
<表面外観性>
得られた押出成形品の表面外観性を評価した。金型形状の再現が出来、無機フィラーによる成形品表面のざらつき、毛羽立ちなどが認められない場合は(○)、それ以外を(×)とした。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より、押出成形性改質剤(C−1)と、(C−2)及び/又は(C−3)の添加により溶融張力の増加が認められ、同時に外観性に優れた押出成形品が得られることがわかる。なお実施例と比較例の結果より、押出成形性の改善にはPTFEを必須とし、他の押出成形性改質剤と組み合わせて添加することが特に有効であると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により得られた樹脂組成物の成形体は、電気、電子分野、自動車分野などさまざまな産業分野における熱対策デバイスとして利用可能である。特に、LEDを使用した照明装置において、LED素子の放熱構造や放熱筐体などとして利用する用途が考えられる。樹脂組成物は白色系であるため意匠性に優れ、例えば蛍光灯代替LED照明のような長尺形状を必要とする照明器具部材として好適に利用可能である。
図1
図2