特許第5786851号(P5786851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786851
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】皮膚用材料および皮膚用材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20150910BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20150910BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 8/89 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 33/18 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/10
   A61K9/70 401
   A61L15/03
   A61K8/81
   A61K8/89
   A61K8/34
   A61K33/18
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-503177(P2012-503177)
(86)(22)【出願日】2011年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2011054583
(87)【国際公開番号】WO2011108520
(87)【国際公開日】20110909
【審査請求日】2014年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-292169(P2010-292169)
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-45038(P2010-45038)
(32)【優先日】2010年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 瑠美子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
(72)【発明者】
【氏名】楠田 聡
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−210014(JP,A)
【文献】 特表2008−535956(JP,A)
【文献】 特開平11−180847(JP,A)
【文献】 特開2009−148392(JP,A)
【文献】 特開2008−083649(JP,A)
【文献】 特開2010−032992(JP,A)
【文献】 特表平01−503072(JP,A)
【文献】 特表2009−500645(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/073566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00− 47/48
A61K 9/00− 9/72
A61L 15/00− 33/00
A61K 8/00− 8/99
C08F 20/00−220/70
C08G 77/00− 77/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有しポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体、並びに抗菌剤およびアルコールの両方の成分を含む、シート形状の皮膚用材料。
【請求項2】
初期含水率が10〜80重量%かつ収縮率が20%以下である請求項に記載の皮膚用材料。
【請求項3】
前記抗菌剤がハロゲンを含む請求項1または2に記載の皮膚用材料。
【請求項4】
前記アルコールが沸点150℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚用材料。
【請求項5】
皮膚用材料中のケイ素原子の含量が該皮膚用材料の乾燥重量に対して5〜30重量%である請求項1〜のいずれかに記載の皮膚用材料。
【請求項6】
前記シリコーンモノマー中の水酸基の含量が0.0005〜0.01当量/gである請求項1〜のいずれかに記載の皮膚用材料。
【請求項7】
衛生用品、化粧品皮膚保護材および薬剤担体から選ばれた1種を用途とする請求項1〜のいずれかに記載の皮膚用材料。
【請求項8】
炭素−炭素二重結合を有しポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体に、抗菌剤およびアルコールの両方の成分を付与するシート形状の皮膚用材料の製造方法。
【請求項9】
炭素−炭素二重結合を有しポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマー組成物を重合して得られるシリコーン成分含有重合体を、アルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させた後、抗菌剤を含む溶液に浸漬する請求項に記載のシート形状の皮膚用材料の製造方法。
【請求項10】
炭素−炭素二重結合を有しポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマー組成物を重合して得られるシリコーン成分含有重合体、およびアルコールを含む皮膚用材料の表面に抗菌剤を含む溶液を塗布する請求項に記載のシート形状の皮膚用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚用材料に関する。皮膚用材料とは、創傷、炎症、褥創などの被覆または予防を目的とした皮膚保護材、生理用品、オムツなどの衛生用品、外用薬(皮膚貼付用基材など)などの各種の薬剤担体、ゲル状フェイスマスク用材料などの化粧品、および細胞培地(細胞繁殖培地など)などに用いられる材料である。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤を含有する創傷被覆材や皮膚保護材は知られている。例えば、特許文献1には、抗菌剤であるポビドンヨードを含有するネイティブジェランガムを基材とするハイドロゲル損傷皮膚治療剤が開示されている。しかしながら、損傷皮膚治療剤として損傷皮膚を早期に治癒するためには、被覆される患部に十分な酸素を行き渡らせることが重要であるところ、この損傷皮膚治療剤は高い抗菌性を有する一方、高い酸素透過性を有するものとは言えなかった。
【0003】
また、特許文献2には、ポリアクリル酸やジェランガム等の水性高分子および多価金属化合物等のゲル化剤に加え、任意成分としてヨウ素、ポピドンヨード等の薬効成分等を添加して調製された創傷被覆用製剤が開示されている。しかし、これらの創傷被覆用製剤も、引用文献1に記載されたものと同様に高い酸素透過性を有するものではなかった。
【0004】
特許文献3には、ポリエーテル系共重合体、ヒドロシリル基を有する化合物およびヒドロシリル化触媒を含有し、任意成分としてポビドンヨードを使用可能であり、かつ、皮膚への濡れ性やなじみが良好な創傷被覆材が開示されている。かかる材料は、ヒドロシリル基を有する化合物を含有することで、酸素透過性が向上していると考えられる。しかしながら、かかるヒドロシリル基を有する化合物の添加される量に限りがあった。
【0005】
特許文献4には皮膚接触層/シロキサン結合を有するポリエーテル系共重合体からなる吸収層/裏張り層の3層構造からなり、任意成分として、吸収層にポビドンヨード、皮膚接触層にグリセリンまたはポビドンヨードを混入可能な皮膚刺激性の少ない創傷被覆材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−104974号公報
【特許文献2】国際公開第2002/022182号パンフレット
【特許文献3】特開2009−148392号公報
【特許文献4】特開2009−148393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、引用文献1、2に開示された材料は、高い酸素透過性を有するものではなかった。また、発明者らが検討したところによれば、特許文献3に記載されたポリエーテル系共重合体を有する材料は、ポビドンヨードの保持力に劣るという問題が存在することが判明した。特許文献4に記載された材料も、ポリエーテル系共重合体を有するため、同様の問題があると考えられる。また、シロキサン結合を有するポリエーテル系共重合体は、アルコールを含む場合には形状保持性が悪いという課題もある。
【0008】
本発明は、透明で、適度な含水率を有し、かつ、高い酸素透過性を有する皮膚用材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の構成を有する。
【0010】
本発明は、炭素−炭素二重結合を有しポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体、並びに抗菌剤およびアルコールの両方の成分を含む、シート形状の皮膚用材料である。
【0011】
また、本発明は、炭素−炭素二重結合を有しポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体に、抗菌剤およびアルコールの両方の成分を付与するシート形状の皮膚用材料の製造方法を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明で、適度な含水率および高い酸素透過性を有する皮膚用材料を得ることができる。本発明の皮膚用材料は、各種医療用具、中でも創傷被覆材に特に好適に用いられる。
【0013】
本発明の皮膚用材料は、抗菌剤を含むことで抗菌性が付与され、使用時の感染症を低減することができる。また、本発明の皮膚用材料は、アルコールを含むことで保水性が付与され、使用時の乾燥を低減することができる。さらに、本発明の皮膚用材料は、抗菌剤およびアルコールの両方を含むことで抗菌性および保水性両方の付与を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、炭素−炭素二重結合を有するシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体、並びに抗菌剤およびアルコールから選ばれた成分を含む皮膚用材料である。
【0015】
本発明において、シリコーンモノマーとは、シロキサニル基および炭素−炭素二重結合を有する化合物を表す。また、シロキサニル基とは少なくとも一つのSi−O−Si結合を有する基を表す。
【0016】
シリコーンモノマーとしては、保水性、酸素透過性および透明性のバランスに優れた重合体を与えるシリコーンモノマーが好ましい。
【0017】
シリコーンモノマーとして好適なものの構造を具体的に示すと、(メタ)アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、下記式(M1)の片末端(メタ)アクリロキシプロピルポリジメチルシロキサン、
【0018】
【化1】
【0019】
[式(M1)中、n1は1〜500の整数を表す。R21はHまたはメチル基を表す。R22は炭素数1〜18のアルキル基を表す。]
下記式(M2)の両末端(メタ)アクリロキシプロピルポリジメチルシロキサン、
【0020】
【化2】
【0021】
[式(M2)中、n2は1〜500の整数を表す。R23はHまたはメチル基を表す。]
下記式(M3)の化合物、
【0022】
【化3】
【0023】
[式(M3)中、n3は1〜100の整数を表す。]
下記式(M4)の化合物、
【0024】
【化4】
【0025】
下記式(M5)の化合物、
【0026】
【化5】
【0027】
[式(M5)中、n4は1〜500の整数を表す。R24はHまたはメチル基を表す。R25は炭素数1〜18のアルキル基を表す。]
下記式(M6)の化合物、
【0028】
【化6】
【0029】
[式(M6)中、n5〜n7は各々独立に1〜100の整数を表す。n8は3〜100の整数を表す。]
下記式(M7)の化合物、
【0030】
【化7】
【0031】
[式(M7)中、n9〜n12は各々独立に1〜100の整数を表す。ただし、n11+n12は3〜100の範囲である。]
ならびに下記式(a)および(b)のシリコーンモノマーが挙げられる;
【0032】
【化8】
【0033】
[式(a)、(b)中、kは0〜100の整数を表す。bは1〜3の整数を表す。R11は、Hまたはメチル基を表す。R12およびR13は、それぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基およびフェニル基から選ばれた置換基を表す。R14は、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基から選ばれた置換基を表す。R15およびR16は、それぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基およびフェニル基から選ばれた置換基を表す。]。
【0034】
なお、本明細書において(メタ)アクリロキシという語はメタクリロキシおよびアクリロキシの両方を表すものであり、(メタ)アクリル、(メタ)アクリロイルなどの語も同様である。
【0035】
本発明の皮膚用材料は、上記シリコーンモノマーが重合された重合体(シリコーン成分含有重合体)を含む。このようなシリコーン成分含有重合体が、従来から皮膚用材料等に広く用いられるポリジメチルシロキサン(シリコーンゴム)化合物よりも吸水性と保水性に優れるという効果について、詳細な理由は不明であるものの、以下のように推定される。すなわち、ポリジメチルシロキサン化合物は、ポリマーの主鎖骨格がシロキサン結合によって形成され、炭素−炭素結合を有さないのに対し、本発明に係るシリコーン成分含有重合体は、ポリシロキサン部位を有するという点ではポリジメチルシロキサンと同じであるが、主鎖骨格の一定部分が炭素−炭素結合から形成される。このような重合体構造の違いによって、本発明に係るシリコーン成分含有重合体は、ポリジメチルシロキサン化合物よりも吸水性と保水性に優れると考えられる。したがって、例えば抗菌剤やアルコールの水溶液に浸漬させたときの抗菌剤またはアルコールの吸収性および保持性が従来のポリジメチルシロキサン化合物よりも高いと推定される。
【0036】
また、発明者らは、かかるモノマーがポリエーテル構造を含む場合、皮膚用材料中におけるポビドンヨードなどの抗菌剤の保持力が低下することを見出した。さらに発明者らは、皮膚用材料にポリエチレングリコールなどを用いて保水性を付与した場合、おそらくはポリエチレングリコールの分子運動性が高いために、皮膚用材料の形状保持性が悪いことを見出した。すなわち、本発明のシリコーンモノマーは、炭素−炭素二重結合を有し、かつ、ポリエーテル構造を含まないものであることが好ましい。
【0037】
本発明においてポリエーテル構造とは、一般式(−R−O−)で表されるエーテル結合を含む構成単位が繰り返される構造を表す。ここで、−R−は、2価のアルキレン基である。具体例としてはポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造等を挙げることができる。また、上記のポリエーテル構造は、1種類の繰り返し単位からなるものであっても、2種類以上の繰り返し単位からなるものであってもよい。さらに、直鎖状の構造であってもよいし、分岐を有する構造であってもよい。
【0038】
上記の観点から、本発明で使用されるシリコーンモノマーとしてより好適な化合物として、(メタ)アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、前記式(M1)、(M2)、(M3)、(M4)、(M5)、(a)および(b)の化合物が例示される。これらの中でも、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンモノマーは重合性に優れるために、(メタ)アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、前記式(M1)、(M2)、(M5)、(a)および(b)の化合物がさらに好適である。
【0039】
シリコーンモノマーにおける炭素−炭素二重結合を有する基としては、モノマーの重合性に優れることから(メタ)アクリロイル基が好ましく、さらに得られる皮膚用材料の化学的安定性にも優れることからメタクリロイル基が最も好ましい。
【0040】
これらのシリコーンモノマー1分子に含まれるシロキサニル基のケイ素原子数は、小さすぎると皮膚用材料に十分な酸素透過性を付与しにくくなるために好ましくなく、大きすぎると皮膚用材料の疎水性が強くなり含水性と透明性の両立が難しくなる傾向があるため好ましくない。ケイ素原子数は、2〜31がより好ましく、2〜21がさらに好ましく、最も好ましくは3〜11である。
【0041】
また、本発明の皮膚用材料は、その乾燥重量に対してケイ素原子を5〜30重量%含有することが好ましい。ここで、皮膚用材料の乾燥重量に対するケイ素原子の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(好適にはシーケンシャル型ICP発光分光分析装置 SPS4000、セイコーインスツルメンツ製)によって測定できる。測定法は以下の通りである。
【0042】
まず、皮膚用材料を乾燥状態とする。本発明において乾燥状態とは、皮膚用材料に40℃で16時間の真空乾燥を施した状態を意味する。該真空乾燥における真空度は2hPa以下とする。乾燥状態の皮膚用材料(4〜5mg)を白金るつぼに秤取し、硫酸を加えてホットプレートおよびバーナーで加熱灰化する。得られた石灰物を炭酸ナトリウムで融解し、水を加えて加熱溶解した後、硝酸を加え、水で定容する。この溶液について、ICP発光分光分析法によりケイ素原子を測定し、皮膚用材料中のケイ素原子の含有量を求める。
【0043】
皮膚用材料中のケイ素原子の含有量は、少なすぎると十分な酸素透過性が得られず、多すぎると透明な皮膚用材料が得られなくなる。その観点から、5〜30重量%であることが好ましく、10〜25重量%がより好ましく、10〜20重量%が最も好ましい。
【0044】
シリコーンモノマーとしては、水酸基を有するシリコーンモノマーが好ましい。水酸基を有するシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体は、後述する内部湿潤剤を含んでいても含水状態で透明なものが得られることから好ましい。含水状態で透明であれば、例えば創傷被覆材や皮膚保護材として使用した場合に、装着した状態でも皮膚を観察できる。シリコーンモノマー中の水酸基の含量は、少なすぎても多すぎても透明な皮膚用材料が得られにくいことから、シリコーンモノマーのうちの少なくとも一種類が水酸基を0.0005〜0.01当量/g有することが好ましく、0.0008〜0.008当量/g有することがより好ましく、0.001〜0.005当量/g有することが最も好ましい。シリコーンモノマー中の水酸基の含量は、ガス・クロマトグラフ質量分析(GC−MS)、高速液体クロマトグラフ質量分析(HPLC−MS)、核磁気共鳴(NMR)、赤外分光法(IR)等の各種分析により、水酸基を有するシリコーンモノマーの構造を同定することによって特定できる。
【0045】
シリコーンモノマーの特に好適な例として、下記式(a)、(b)のシリコーンモノマーが挙げられる。
【0046】
【化9】
【0047】
式(a)、(b)中、kは0〜100の整数を表す。bは1〜3の整数を表す。R11は、Hまたはメチル基を表す。R12およびR13は、それぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基およびフェニル基から選ばれた置換基を表す。R14は、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基から選ばれた置換基を表す。R15およびR16は、それぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基およびフェニル基から選ばれた置換基を表す。
【0048】
kについては、小さすぎると得られる皮膚用材料の酸素透過性が低下し、大きすぎると透明な皮膚用材料が得られにくくなる傾向があることから、1〜30がより好ましく、1〜20がさらに好ましく、最も好ましくは2〜10である。bが1の場合は、得られる皮膚用材料の酸素透過性が低下する傾向があることから、bは2または3が好ましい。なお、bが3より大きいと透明な皮膚用材料が得られ難いことがある。
【0049】
11は、得られる皮膚用材料の化学的安定性の点で、好ましくはメチル基である。
【0050】
12およびR13は、より酸素透過性の高い重合体が得られる点で、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0051】
14は、より高い酸素透過性の重合体が得られる点で、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに製造の容易さの点も考慮すると、最も好ましくはメチル基またはブチル基である。
【0052】
15およびR16は、より高い酸素透過性の重合体が得られる点で、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに製造の容易さの点も考慮すると、最も好ましくはメチル基である。
【0053】
シリコーン成分含有重合体は、シリコーンモノマー以外のモノマーを共重合してもよい。共重合する場合の他のモノマーとしては、親水性モノマー、架橋剤、紫外線吸収剤、染料などのモノマーが挙げられる。他のモノマーの重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基およびビニル基などが好ましい。
【0054】
以下、他のモノマーの例を挙げる。(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、ビニル安息香酸などのカルボン酸類;メチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミドなどのN−ビニルカルボン酸アミド類;N,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;スチレンなどの芳香族ビニルモノマー類などである。これらの中でも、透明な皮膚用材料が得られやすいという点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましい。
【0055】
透明な皮膚用材料が得られやすいという点では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーを共重合させることが特に好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーの含有量は、少なすぎると透明性向上の効果が得られにくく、多すぎるとポリマー物性に影響を及ぼすことから、乾燥状態の皮膚用材料に対して0.1〜40重量%が好ましく、0.5〜30重量%がより好ましく、1.0〜20重量%が最も好ましい。
【0056】
保水性の向上という点では、N,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類を共重合させることが特に好ましい。(メタ)アクリルアミド基含有モノマーの含有量は、少なすぎると保水性向上の効果が得られにくく、多すぎるとポリマー物性に影響を及ぼすことから、乾燥状態の皮膚用材料に対して0.1〜40重量%が好ましく、0.5〜30重量%がより好ましく、1.0〜20重量%が最も好ましい。
【0057】
また、良好な機械物性、および、消毒液や洗浄液に対する良好な耐性を有する皮膚用材料が得られるという点で、1分子中に2個以上の重合性基を有するモノマーを共重合成分として用いることが好ましい。1分子中に2個以上の重合性基を有するモノマーの含有量は、乾燥状態の皮膚用材料に対して0.1重量%〜10重量%が好ましく、0.3重量%〜5重量%がより好ましく、0.5重量%〜3重量%がさらに好ましい。
【0058】
本発明の皮膚用材料は、紫外線吸収剤、色素、着色剤、各種安定剤などの添加剤をさらに含んでもよい。
【0059】
本発明の皮膚用材料は、抗菌剤を含むことで抗菌性が付与され、使用時の感染症を低減することができる。
【0060】
抗菌剤は、生体適合性を有するものが好ましい。ここで、生体適合性とは、ヒト、ないし、ほ乳類の生体に対して低毒性である性質を意味する。抗菌剤は、さらに、生体となじみやすい性質も有すると好ましい。
【0061】
抗菌剤は、細菌、真菌、アメーバ類のうち少なくとも一つに対してその数を減じたり、その数の増加を抑制する効果を有するものである。抗菌剤の好適な例としては、銀、銅、亜鉛化合物などの金属または金属イオン;ヨウ素またはヨウ素イオン;タンパク質、ペプチド類、ワサビオール、フィトンチッド、ヒノキチオールなど天然物質由来の抗菌剤;ピリドンカルボン酸系やオキサゾリジノン系の合成系の抗菌剤;などを挙げることができる。抗菌効果の強さと持続時間が長いことから、合成系抗菌剤の中でもハロゲンを含むものが好ましい。ハロゲンを含む抗菌剤としては、クロルヘキシジンの塩、または塩化ベンザルコニウムのような塩素や臭素、ヨウ素などを含む第4級抗菌剤があげられる。抗菌性能の持続性に優れること、皮膚用材料への影響が少なく、形状、外観等を変化させることが無いという点から、特に銀、銀イオン、ヨウ素およびヨウ素イオンが好ましく、ヨウ素およびヨウ素イオンが最も好ましい。ヨウ素源の中では取り扱いの容易さの点から特にポビドンヨードが好ましい。
【0062】
本発明の皮膚用材料に抗菌性を付与する場合、皮膚用材料は抗菌性の発現に十分な量の抗菌剤を含有することが好ましい。しかし、皮膚用材料から抗菌剤が過度に染み出すと生体への悪影響が懸念されることから、抗菌剤の染み出しが多すぎることは好ましくない。
【0063】
用いる抗菌剤がヨウ素である場合、目視でヨウ素由来の黄褐色の着色が観察される程度に含有されることが、より高い抗菌性を示すことから好ましい。また、着色が認められない場合でも、ヨウ素由来の臭気があれば、抗菌性の発現を期待できる。また、生体への影響がより少ないことから、皮膚用材料を水中に浸漬した際、ヨウ素が水中へ過度に染み出さないことが好ましい。皮膚用材料を水中に浸漬した際、水中へヨウ素が染み出して、水が目視で観察できる程度に黄褐色に着色する場合、生体に使用した際のヨウ素の過度の染み出しが懸念されるため好ましくない。
【0064】
また本発明の皮膚用材料は、アルコールを含むことで保水性が付与され、使用時の乾燥を低減することができる。使用時に乾燥が起きると皮膚から剥離する際に痛みが大きいなどの問題が生じるが、保水性を付与して乾燥を抑制することによりこれらの問題を軽減ないし抑制することが可能である。しかも、前述のように、ポリエーテル構造を含むシリコーンモノマーを用いて保水性を付与した場合は、皮膚用材料の形状保持性が悪いのに対して、ポリエーテル構造を含まないシリコーンモノマーを用いて、アルコールを含むことで保水性を付与した場合は、皮膚用材料の形状保持性の悪化を防止することができる。
【0065】
皮膚用材料に保水性を付与する場合、用いるアルコールは、保水性の高さおよび皮膚用材料への吸収性の高さから、沸点150℃以上のアルコールが好ましい。アルコールの沸点は180℃以上がより好ましく、200℃以上がより好ましい。大気圧下の沸点が存在しないアルコールも非常に好適である。中でも保水性の高さおよび皮膚刺激性の少なさの点で多価アルコールが好ましい。沸点150℃以上または大気圧下で沸点の存在しない多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなどをあげることができる。中でも保水性の高さと皮膚刺激性の低さからグリセリンおよびプロピレングリコールが特に好ましく、グリセリンが最も好ましい。
【0066】
さらに、本発明の皮膚用材料は、抗菌剤およびアルコールの両方を含むことで、抗菌性および保水性両方の付与を行うことができる。この場合、用いられる抗菌剤およびアルコールについては、前記のとおりである。特に、アルコールがグリセリン、抗菌剤がヨウ素である場合が最も好ましい。
【0067】
また、本発明の皮膚用材料は、紫外線吸収剤や色素、着色剤などを含んでもよい。またシリコーン成分含有重合体に、重合性基を有する紫外線吸収剤や色素、着色剤が共重合されていてもよい。
【0068】
皮膚用材料の形状としては、シートまたは流動体が好ましい。ここで、シートとは、板、フィルム、薄膜などの面状形状の物体を全て含む。本明細書においては、便宜的に、板は厚み15mm以上のもの、フィルムは厚みが0.01mm以上15mm未満のもの、薄膜は厚み0.01mm未満のものを、それぞれ表すことがある。また、流動体とは、ワックス状、水飴状、ペースト状、オイル状、液状等どのようなものであっても良い。
【0069】
皮膚用材料が、シートの場合、皮膚表面に貼付するなどして皮膚に接触させて使用できるために好ましい。シートはかならずしも完全に二次元的な形状である必要はなく、適用する皮膚の形状に合わせた三次元的な形状(湾曲など)を併せ持っていてもよい。また、本発明の皮膚用材料が流動体の場合、皮膚に塗布するなどして皮膚に接触させて使用できるために好ましい。
【0070】
皮膚用材料の用途が皮膚保護材である場合、特にシート状が好適である。シートの厚みは0.05mm以上10mm未満が好ましい。厚みが薄すぎると強度が不足して破損しやすくなるため好ましくない。厚みが、厚すぎると皮膚の動きに対するシートの追随性が不足したり、適用した部位の違和感が大きくなる傾向があり、好ましくない。シートの面積は、0.1cm〜6000cmが好ましく0.2cm〜5000cmがより好ましく、1cm〜1000cmがさらに好ましい。シートの面積が小さすぎると、皮膚を保護する効果が十分ではなくなるため好ましくない。面積が大きすぎるとシートの取扱いが難しくなるために好ましくない。取扱いの容易さの点で、シートの長方向(長さが最も長い方向)の長さと短方向(長さが最も短い方向)の長さの比は、50以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が最も好ましい。シートの形状は四角形、三角形、円形、楕円形などが好ましい。使用者が適宜所望の形状にシートを切り取って使用することも好適に行われる。
【0071】
皮膚の状態、治療の進行具合などを、皮膚用材料を皮膚から剥がすことなしに容易に目視観察できることから、本発明の皮膚用材料は、皮膚用材料を通して反対側が目視観察可能な程度に透明であることが好ましい。特に、皮膚用材料の用途が創傷、炎症、褥創などの被覆または予防を目的とした皮膚保護材である場合、透明であることが好ましい。
【0072】
本発明の皮膚用材料は、含水性を有することが好ましい。含水性を有することにより保湿効果および体液吸収効果が得られる。皮膚用材料は、初期含水率が10〜80重量%であることが好ましく、20〜70重量%がより好ましく、30〜60重量%が最も好ましい。初期含水率が低すぎると、皮膚用材料の含水性が低いために保湿効果や体液吸収効果が十分に得られず好ましくない。また初期含水率が高すぎると、皮膚用材料の収縮率が大きくなる傾向があり好ましくない。なお、初期含水率とは、皮膚用材料の初期状態での含水率である。ここで、初期状態とは、皮膚用材料を製品として用いる場合に、使用開始時点の状態、あるいは、それと同等の条件に置いた場合のサンプルの状態を指す。一般に、それぞれの製品の初期状態は、製品説明書で説明あるいは規定される。原則としては、製品のパッケージから皮膚用材料を取り出した直後、清浄な水の入った3つの水浴に時間間隔を置かずに各2秒ずつ浸漬して洗浄した後、表面の水分を軽くふき取った状態を、初期状態とする。本明細書の実施例において作成したサンプルの初期状態は、各実施例において説明する。
【0073】
初期含水率は、後述で詳しく説明するように、皮膚用材料の初期状態の重量(W1)および乾燥状態の重量(W2)を測定し、次式により求められる。
【0074】
初期含水率(%)=(W1−W2)/W1×100
皮膚用材料の収縮率は、大きすぎると変形が生じたり、皮膚が覆えなくなったりすることから好ましくない。収縮率は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0075】
皮膚用材料の収縮率は、以下のようにして求められる。皮膚用材料の所定の部分の長さを、初期状態と、温度37℃、湿度90%のデシケータ中で48時間保管後の状態において測定する。前者をL1、後者をL2として、次式により収縮率を求める。ここで、初期状態の定義は、上記と同じである。
【0076】
収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100
皮膚用材料の形状が四角形の場合は、4辺の長さをそれぞれ測定し、それぞれから算出される収縮率の平均値を収縮率とする。皮膚用材料の形状が四角形以外の形状の場合は、(1)長方向(長さが最も長い方向)の長さと(2)長方向と直交する方向で、最長となる部分の長さをそれぞれ測定し、それぞれから算出される収縮率の平均値を収縮率とする。
【0077】
本発明の皮膚用材料の酸素透過係数は、用途が眼用レンズの場合は、その品位の点で70×10−11(cm/sec)mLO/(mL・hPa)以上が好ましい。酸素透過性は、酸素透過率計(理化精機工業社製の製科研式フィルム酸素透過率計等)を用いて35℃の水中にて測定する。測定は米国特許出願公開第2008/0081894号明細書の第293〜294段落に記載の方法に従って実施する。
【0078】
次に、本発明の皮膚用材料の製造方法について説明する。本発明の皮膚用材料に用いるシリコーン成分含有重合体は、前記のシリコーンモノマーを重合することにより得ることができる。重合に際して、重合をしやすくするために、過酸化物やアゾ化合物に代表される熱重合開始剤や、光重合開始剤を重合原液中に添加することが好ましい。熱重合を行う場合は、所望の反応温度に対して最適な分解特性を有する熱重合開始剤を選択して使用する。一般的には10時間半減期、温度が40℃〜120℃のアゾ系開始剤および過酸化物系開始剤が好適である。光重合開始剤としては、カルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、および金属塩などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独または混合して用いることができる。重合開始剤は、重合原液中に1重量%以下の量で添加されることが好ましい。
【0079】
重合に際して、重合溶媒を使用することができる。溶媒としては、各種の有機溶媒および無機溶媒が適用可能である。例を挙げれば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコールなどの各種アルコール系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチル、二酢酸エチレングリコールなどの各種エステル系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールランダム共重合体などの各種グリコールエーテル系溶剤である。これらは単独あるいは混合して使用することができる。これらの中でアルコール系溶剤およびグリコールエーテル系溶剤は、得られた皮膚用材料中から溶剤を水による洗浄で容易に除去できる点で好ましい。
【0080】
重合に際して、得られるシリコーン成分含有重合体の表面に水濡れ性を賦与するため、親水性ポリマーを内部湿潤剤として重合原液中に加えることが好ましい。親水性ポリマーの好適な例として、ポリビニルピロリドン、ポリ−N−ビニル−2−ピペリドン、ポリ−N−ビニル−2−カプロラクタム、ポリ−N−ビニル−3−メチル−2−カプロラクタム、ポリ−N−ビニル−3−メチル−2−ピペリドン、ポリ−N−ビニル−4−メチル−2−ピペリドン、ポリ−N−ビニル−4−メチル−2−カプロラクタム、ポリ−N−ビニル−3−エチル−2−ピロリドン、およびポリ−N−ビニル−4,5−ジメチル−2−ピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリ2−エチルオキサゾリン、ヘパリンポリサッカリド、ポリサッカリド、およびこれらの混合物、コポリマーおよびマクロモノマーが挙げられる。これらのうち、良好な濡れ性を示す点でより好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸およびポリビニルアルコールである。さらに重合原液に対する良好な溶解性を有する点で最も好ましいのは、ポリビニルピロリドンおよびポリ−N,N−ジメチルアクリルアミドである。
【0081】
親水性ポリマーの添加量は、少なすぎると十分な濡れ性が得られず、多すぎるとシリコーンプレポリマーを含む重合原液に対する溶解性が低下することから、重合原液の0.1〜30重量%が好ましく、0.5〜25重量%がより好ましく、1〜20重量%が最も好ましい。また、親水性ポリマーの添加量は、乾燥状態の皮膚用材料に対して0.08〜24重量%が好ましく、0.4〜20重量%がより好ましく、0.8〜16重量%が最も好ましい。
【0082】
親水性ポリマーの分子量は、小さすぎると十分な濡れ性が得られず、大きすぎると重合原液が高粘度になりすぎることから、1000〜200万が好ましく、1万〜100万がより好ましく、20万〜80万が最も好ましい。
【0083】
皮膚用材料の用途がシート状の創傷被覆材および皮膚保護材である場合、その重合方法および成形方法としては、次の方法を例示することができる。
【0084】
得たい皮膚用材料のサイズに合わせた大きさの硬質の板(例えばガラス板)2枚を準備する。板には、得られた皮膚用材料が剥離しやすいようにアルミシールを貼付してもよい。2枚の板の間に、得たい皮膚用材料の厚さに合わせた厚さのガスケット(例えばパラフィルムの中央部を切り抜いたもの)をスペーサーとして挟み込む。板とスペーサーで形成された空隙に、モノマーを充填し、光重合あるいは熱重合を行ってシート状の皮膚用材料を得る。光重合の場合は、空隙にモノマーを充填したガラス板に、紫外線のような活性光線を照射する。熱重合の場合は、空隙にモノマーを充填したガラス板をオーブンや液槽に入れて加熱する。光重合の後に加熱重合したり、逆に加熱重合後に光重合するなど、両者を併用する方法もあり得る。光重合の場合は、例えば水銀ランプや捕虫灯を光源とする紫外線を多く含む光を短時間(通常は1時間以下)照射するのが一般的である。熱重合を行う場合には、室温付近から徐々に昇温し、数時間ないし数十時間かけて60℃〜200℃の温度まで高めていく条件が、ポリマーの光学的な均一性、品位を保持し、かつ再現性を高めるために好まれる。
【0085】
本発明の皮膚用材料は、種々の方法で改質処理を行うことができる。用途が創傷被覆材である場合は、表面の水濡れ性を向上させる改質処理を行うことが好ましい。
【0086】
具体的な改質方法としては、電磁波(光を含む)照射、プラズマ照射、蒸着およびスパッタリングなどのケミカルベーパーデポジション処理、加熱、塩基処理、酸処理、その他適当な表面処理剤の使用、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。これらの改質手段の中で、簡便であり好ましいのは塩基処理および酸処理である。
【0087】
塩基処理および酸処理の一例としては、皮膚用材料を塩基性または酸性溶液に接触させる方法、皮膚用材料を塩基性または酸性ガスに接触させる方法等が挙げられる。具体的な方法としては、例えば塩基性または酸性溶液に皮膚用材料を浸漬する方法、皮膚用材料に塩基性または酸性溶液または塩基性または酸性ガスを噴霧する方法、皮膚用材料に塩基性または酸性溶液をヘラ、刷毛等で塗布する方法、スピンコート法やディップコート法により塩基性または酸性溶液を用いて皮膚用材料を表面処理する方法などを挙げることができる。最も簡便に大きな改質効果が得られる方法は、皮膚用材料を塩基性または酸性溶液に浸漬する方法である。
【0088】
皮膚用材料を塩基性または酸性溶液に浸漬する際の温度は、特に限定されないが、−50℃〜300℃程度の温度範囲内が好ましい。作業性を考えれば−10℃〜150℃の温度範囲がより好ましく、−5℃〜60℃が最も好ましい。
【0089】
皮膚用材料を塩基性または酸性溶液に浸漬する時間については、温度によっても最適時間は変化するが、一般には100時間以内が好ましく、24時間以内がより好ましく、12時間以内が最も好ましい。接触時間が長すぎると、作業性および生産性が悪くなるばかりでなく、酸素透過性の低下や機械物性の低下などの悪影響が出る場合がある。
【0090】
塩基としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、各種炭酸塩、各種ホウ酸塩、各種リン酸塩、アンモニア、各種アンモニウム塩、各種アミン類およびポリエチレンイミン、ポリビニルアミン等の高分子量塩基などが使用可能である。これらの中では、低価格であることおよび処理効果が大きいことからアルカリ金属水酸化物が最も好ましい。
【0091】
酸としては、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸等の各種無機酸、酢酸、ギ酸、安息香酸、フェノール等の各種有機酸、およびポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸などの各種高分子量酸が使用可能である。これらの中では、処理効果が大きく他の物性への悪影響が少ないことから高分子量酸が最も好ましい。
【0092】
塩基性または酸性溶液の溶媒としては、各種の無機溶媒および有機溶媒が使用できる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの各種アルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチルなどの各種エステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルなどの各種エーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシドなどの各種非プロトン性極性溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン系溶媒;およびフロン系溶媒などである。中でも経済性、取り扱いの簡便さ、および化学的安定性などの点で、水が最も好ましい。溶媒としては、2種類以上の物質の混合物も使用可能である。
【0093】
塩基性または酸性溶液は、塩基性または酸性物質および溶媒以外の成分を含んでいてもよい。
【0094】
塩基処理または酸処理の後、洗浄により過剰の塩基性または酸性物質を除くことが好ましい。洗浄溶媒としては、上記の各種無機溶媒および有機溶媒が使用できる。中でも、水が最も好ましい。2種類以上の溶媒の混合物を使用することもできる。洗浄溶媒は、溶媒以外の成分、例えば無機塩類、界面活性剤、洗浄剤など、を含有してもよい。
【0095】
以上のような改質処理は、皮膚用材料全体に対して行ってもよく、例えば表面のみに行うなど皮膚用材料の一部のみに行ってもよい。表面のみに改質処理を行った場合には、皮膚用材料全体の性質を大きく変えることなく表面の水濡れ性のみを向上させることができる。
【0096】
前述のように、本発明の皮膚用材料は、抗菌剤およびアルコールから選ばれた成分を含有することにより、抗菌性および保水性から選ばれた性質を付与することができる。そのような皮膚用材料は、シリコーン成分含有重合体に抗菌剤およびアルコールから選ばれた成分を付与ことにより得られる。以下に、その方法について説明する。
【0097】
本発明の皮膚用材料において、抗菌性を付与する場合、シリコーン成分含有重合体に抗菌剤を付与する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、シリコーン成分含有重合体を抗菌剤を含む溶液に浸漬させる方法、シリコーンモノマーと重合性官能基を有する抗菌剤を重合させる方法、シリコーンモノマー重合時に抗菌剤を添加する方法などがあげられる。シリコーンモノマーと重合性官能基を有する抗菌剤を重合させる方法は、抗菌剤の保持力に優れる点で好ましい。しかしながらこの方法は十分に高い抗菌性を発現できない場合がある。シリコーンモノマー重合時に抗菌剤を添加する方法は、抗菌剤を皮膚用材料中に多く含有させることができる点から好ましい。また、高い抗菌性が発揮でき、操作が簡便である点から、シリコーン成分含有重合体を抗菌剤を含む溶液に浸漬させる方法は特に好ましい。
【0098】
シリコーン成分含有重合体を抗菌剤を含む溶液に浸漬させる場合の浸漬時間は、短すぎると皮膚用材料に抗菌剤が吸着せず、長すぎると皮膚用材料の形状、外観等に影響を及ぼすことから5分から30分が好ましい。
【0099】
抗菌剤を含む溶液の濃度は、低すぎると抗菌性を示さず、高すぎると溶液への抗菌剤の溶解性、取り扱い性などが悪化することから、0.001重量%〜10重量%が好ましい。特に抗菌剤がヨウ素のときは抗菌効果が高いことから、溶液の濃度は0.001重量%〜1重量%が好ましい。皮膚保護材料の機械強度への影響が小さいことから、溶液の濃度は0.005重量%〜0.3重量%が最も好ましい。
【0100】
抗菌剤を含む溶液に用いる溶媒は、抗菌剤を均一に溶解できる溶媒ならばいずれの溶媒でもよいが、低刺激性であることから好ましくはアルコール類または水であり、最も好ましくは水である。
【0101】
また、シリコーン成分含有重合体を抗菌剤を含む溶液に浸漬させる場合の浸漬温度は、低すぎても高すぎても皮膚用材料中への抗菌剤の含有量が少なく、またシリコーン成分含有重合体へのダメージが大きいことから−5℃〜100℃が好ましく、0℃〜60℃がより好ましく、10℃〜40℃が最も好ましい。
【0102】
本発明の皮膚用材料において、保水性を付与する場合、シリコーン成分含有重合体にアルコールを付与する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、シリコーンモノマー重合時にアルコールを添加する方法、シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させる方法などがあげられる。シリコーンモノマー重合時にアルコールを添加する方法は、アルコールを皮膚用材料中に多く含有させることができる点で好ましい。しかしながらこの方法は十分に高い保水性を発現できない場合がある。高い保水性が発揮でき、操作が簡便である点から、シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させる方法が特に好ましい。
【0103】
シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させる場合の浸漬時間は、短すぎると皮膚用材料にアルコールが浸透せず、長すぎると皮膚用材料の形状、外観等に影響を及ぼすことから、24時間から96時間が好ましい。また、シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させる場合の浸漬温度は、低すぎても高すぎても皮膚用材料中へのアルコールの浸透性が悪く、また高すぎるとシリコーン成分含有重合体へのダメージが大きいことから、−5℃〜100℃が好ましく、0℃〜60℃がより好ましく、10℃〜40℃が最も好ましい。
【0104】
アルコールを含む溶液の濃度は、低すぎても高すぎても皮膚用材料の保水性が低下することから、20重量%〜80重量%が好ましく、40〜60重量%が特に好ましい。アルコールを含む溶液に用いる溶媒は、アルコールを均一に溶解できる溶媒ならばいずれの溶媒でもよいが、低刺激性であることから好ましくは水である。
【0105】
シリコーン成分含有重合体に保水性を付与した後の保管温度は低すぎても高すぎてもシリコーン成分含有重合体へのダメージが懸念されることから−20℃〜100℃が好ましく、−10℃〜40℃がより好ましく、−5℃〜20℃が最も好ましい。また、保管湿度は低すぎるとシリコーン成分含有重合体へのダメージが懸念され、高すぎると保管場所の結露が生じて使用しにくいことから相対湿度70%〜100%が好ましく、75〜95%がより好ましく、80%〜90%が最も好ましい。
【0106】
また、本発明の皮膚用材料において、抗菌性および保水性両方の付与を行う場合、シリコーン成分含有重合体にアルコールおよび抗菌剤を付与する方法としては、種々の方法を用いることができる。その方法としては、シリコーンモノマー重合時にアルコールおよび抗菌剤を添加する方法、シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させた後抗菌剤を含む溶液に浸漬させる方法、シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させた後、抗菌剤を含む溶液を塗布する方法などがあげられる。シリコーンモノマー重合時にアルコールおよび抗菌剤を添加する方法は、アルコールおよび抗菌剤を皮膚用材料中に多く含有させることができる点で好ましい。しかしながらこの方法は十分に高い保水性および抗菌性を発現できない場合がある。シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させた後、抗菌剤を含む溶液に浸漬させる方法は抗菌性を発揮する点で好ましい。しかしながらこの方法は十分に高い保水性を発現できない場合がある。皮膚用材料が、高い保水性および高い抗菌性を発揮できるためには、まずシリコーン成分含有重合体にアルコールを付与し、その後、アルコールを含有するシリコーン成分含有重合体の表面に抗菌剤を含む溶液を塗布する方法が好ましい。特に、操作が簡便である点から、シリコーン成分含有重合体をアルコールまたはアルコールを含む溶液に浸漬させた後、抗菌剤を含む溶液を塗布する方法が特に好ましい。
【0107】
抗菌剤を含む溶液を塗布する方法としては、スプレー法、浸漬法、筆や刷毛等を用いて溶液を塗布する方法、脱脂綿、紙、布帛などに含浸させた溶液を塗布する方法、および転写法などが好適である。
【0108】
ここで、アルコールを含む溶液に用いる溶媒、アルコールの種類、アルコール濃度、アルコールを含む溶液に皮膚用材料を浸漬する温度、浸漬後の保管温度、保管湿度、抗菌剤の種類、抗菌剤を含む溶液に用いる溶媒、抗菌剤を含む溶液の濃度、抗菌剤を含む溶液に皮膚用材料を浸漬する温度等は、前記の場合と同様である。
【0109】
すなわち、本発明の皮膚用材料の製造方法の好ましい態様の一つは、炭素−炭素二重結合を有するシリコーンモノマー組成物を重合して得られるシリコーン成分含有重合体を、抗菌剤およびアルコールから選ばれた成分を含む溶液に浸漬する方法である。また、皮膚用材料に抗菌性および保水性両方の付与を行う場合の特に好ましい態様は、炭素−炭素二重結合を有するシリコーンモノマー組成物を重合して得られるシリコーン成分含有重合体、およびアルコールを含む皮膚用材料の表面に抗菌剤を含む溶液を塗布する方法である。
【0110】
本発明の皮膚用材料は、創傷、炎症、褥創などの被覆または予防を目的とした皮膚保護材、生理用品、オムツおよび各種の薬剤担体に好適であり、中でも皮膚保護材に特に好適に用いられる。本発明の皮膚用材料は、適度な含水率と高い酸素透過性を示し、かつ抗菌性を持たせることができることから、感染症の恐れと生体への影響が少ないと考えられるため、特に幼児、乳児、新生児などの子供用皮膚保護材に好適に用いられる。中でも、新生児用、特に在胎30週未満で誕生した皮膚形成が不完全な早産児用の皮膚保護材として好適である。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0112】
<着色評価>
抗菌性を付与した場合、皮膚用材料を水中に後述の日数浸漬した後に目視観察を行い、下記の基準で評価した。
A: 皮膚用材料に均一な濃い黄色の着色があり、水の着色が全くない。
B: 皮膚用材料に均一な薄い黄色の着色があり、水の着色が全くない。
C: 皮膚用材料に均一な薄い黄色の着色があり、水に薄い黄色の着色がある。
D: 皮膚用材料に着色が全くなく、水に濃い黄色の着色がある。
E: 皮膚用材料に着色が全くなく、水にも着色がない。
【0113】
<保水性評価>
皮膚用材料を24時間デシケータ中に保管後に、人指で触って状態観察を行い、下記の基準で評価した。
A: 保管前後で皮膚用材料の軟らかさおよび乾き具合に差がない。
B: 24時間保管後、保管前と比較し、皮膚用材料の硬さが少し増し、乾燥が少しみられる。
C: 24時間保管後、保管前と比較し、皮膚用材料の硬さが著しく増し、乾燥感が高い。
【0114】
<初期含水率>
まず、各実施例および比較例において規定された初期状態の皮膚用材料の重量(W1)を測定した。その後、該皮膚用材料に40℃で16時間真空乾燥を施し乾燥状態として重量(W2)を測定し、次式により初期含水率を算出した。
【0115】
初期含水率(%)=(W1−W2)/W1×100
<収縮率>
各実施例および比較例において規定された初期状態の皮膚用材料の特定部分の長さ(L1)を測定した。次に、該皮膚用材料を温度37℃、湿度90%のデシケータ中で48時間保管した。保管後の皮膚用材料のL1に対応する部分の長さ(L2)を測定した。次式により収縮率を求めた。
【0116】
収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100
皮膚用材料の形状が四角形の場合は、4辺の長さをそれぞれ測定し、それぞれから算出される収縮率の平均値を収縮率とした。皮膚用材料の形状がレンズ形状の場合は、直交する2方向の直径をそれぞれ測定し、それぞれから算出される収縮率の平均値を収縮率とした。
【0117】
実施例1
下記式(c)
【0118】
【化10】
【0119】
で表されるシリコーンモノマー(13.4重量部、水酸基含有量0.0032当量/g)、N,N−ジメチルアクリルアミド(28.0重量部)、下記式(d)
【0120】
【化11】
【0121】
で表されるシリコーンモノマー(36.6重量部、水酸基含有量0.006当量/g)、ポリビニルピロリドン(分子量約500000、12.0重量部)、光開始剤イルガキュア1850(1.0重量部)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(7.0重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1.0重量部)、下記式(e)
【0122】
【化12】
【0123】
で表される染料モノマー(0.02重量部)、およびテトラヒドロリナロール(32.0重量部)を混合し、撹拌した。ここで、式(c)の化合物は、前記式(a)で表される化合物に属し、式(d)の化合物は前記式(b)で表される化合物に属する。その結果、均一で透明なモノマー混合物が得られた。得られたモノマー混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。
【0124】
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、10cm角、厚さ3mmのガラス板2枚(うち1枚には剥離しやすいようにアルミシールを貼付)の間に、厚さ100μmのパラフィルムの中央部を切り抜いたものを2枚スペーサーとして挟み込んだものを準備した。このガラス板とスペーサーで形成された空隙に、前記のモノマー混合物を充填し、光照射(東芝FL6D、8.4キロルクス、20分間)して硬化させることにより、シート状のフィルムを得た。得られたフィルムを、60重量%イソプロパノール(IPA)水溶液に60℃で30分間浸漬し、ガラス板から剥離した後、さらに80重量%IPA水溶液に60℃、2時間浸漬して残存モノマーなどの不純物を抽出した。50重量%IPA水溶液、25重量%IPA水溶液と段階的にIPA濃度を下げた液におよそ30分ずつ浸漬し、最後に2時間以上水に浸漬して水和した。その後、該フィルムを、水を入れたUMサンプル瓶中に浸漬し、UMサンプル瓶ごとオートクレーブに入れ、120℃で30分間煮沸処理を行った。煮沸処理後のフィルムを超純水で洗浄後、ポビドンヨードを7重量%含む“イソジン”(登録商標)溶液(うがい薬用、明治製菓株式会社)中に15分間浸漬した。続いて、フィルムを清浄な水(各200mL)の入った3つのビーカーに時間間隔を置かずに各2秒ずつ浸漬して洗浄した後、表面の水分をガーゼで軽く拭き取った。この直後の状態を初期状態として、フィルムを初期含水率および収縮率の測定に供した。
【0125】
このようにして得られたフィルムを、新たな水中に5日間保管した。着色評価は保管1日後A、保管5日後Aであった。5日間保管後のフィルムは、保管1日後と同様にポビドンヨード由来の均一な黄色の着色がみられた。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は55重量%、収縮率は20%であった。得られたフィルムの乾燥重量に対するケイ素原子の含有量は11.1重量%、酸素透過係数は53×10−11(cm/sec)mLO/(mL・hPa)であり、皮膚用材料として好適であった。
【0126】
実施例2
実施例1におけるポリビニルピロリドンの代わりにポリジメチルアクリルアミド(分子量約500000、12.0重量部)を用いた以外は実施例1と同様にフィルムを作製した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Aであった。5日間保管後のフィルムは、保管1日後と同様にポビドンヨード由来の均一な黄色の着色がみられた。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は56重量%、収縮率は20%であった。得られたフィルムの乾燥重量に対するケイ素原子の含有量は11.1重量%、酸素透過係数は53×10−11(cm/sec)mLO/(mL・hPa)であり皮膚用材料として好適であった。
【0127】
実施例3
上記式(c)で表されるシリコーンモノマー(13.4重量部、水酸基含有量0.0032当量/g)、N,N−ジメチルアクリルアミド(37.0重量部)、上記式(d)で表されるシリコーンモノマー(36.6重量部、水酸基含有量0.006当量/g)、光開始剤イルガキュア1850(1.26重量部)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(9.2重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1.26重量部)、上記式(e)で表される染料モノマー(0.02重量部)、およびテトラヒドロリナロール(23.9重量部)を用いて実施例1と同様にフィルムを作製し、評価した。水中における着色評価は、保管1日後A、保管5日後Aであった。5日間保管後のフィルムは、保管1日後と同様にポビドンヨード由来の均一な黄色の着色がみられた。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は60重量%、収縮率は20%であった。得られたフィルムの乾燥重量に対するケイ素原子の含有量は11.1重量%、酸素透過係数は53×10−11(cm/sec)mLO/(mL・hPa)であり皮膚用材料として好適であった。
【0128】
実施例4
シリコーンモノマーとしてポリエーテル構造を含まない下記式(f)および(g)の化合物を用いて作製された市販品ソフトコンタクトレンズ“Acuvue Advance”(登録商標)(ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド社製、以下J&Jと表記)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は、保管1日後A、保管5日後Aであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と同様にポビドンヨード由来の均一な黄色の着色がみられた。“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のレンズはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり、透明であった。初期含水率は45.9重量%、収縮率は17%であった。
【0129】
【化13】
【0130】
実施例5
シリコーンモノマーとしてポリエーテル構造を含まない下記式(h)および(i)の化合物を用いて作製された市販品ソフトコンタクトレンズ“Pure Vision”(登録商標)(ボシュアンドロムインコーポレイテッド社製以下B&Lと表記)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Aであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と同様にポビドンヨード由来の均一な黄色の着色がみられた。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は33.4重量%、収縮率は12%であった。
【0131】
【化14】
【0132】
比較例12
“イソジン”(登録商標)溶液に浸漬させない他は実施例1と同様に作製したフィルムを50重量%グリセリン水溶液中に72時間浸漬した(グリセリンの沸点は290℃)。その後、フィルムを清浄な水(各200mL)の入った3つのビーカーに時間間隔を置かずに各2秒ずつ浸漬して洗浄し、“キムワイプ”(登録商標、以下同じ)で軽くフィルム表面の水分を拭き取った。この直後の状態を初期状態として、フィルムを初期含水率および収縮率の測定に供した。初期含水率は60重量%、収縮率は10%であった。その後、フィルムを温度37℃、湿度90%のデシケータ中で保管した。保水性評価は24時間保管後Aであり十分な保水性がみられた。また、作製直後、24時間保管後のフィルムは、いずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。作製直後と、24時間保管後で、目視観察によるフィルム形状の変化はなかった。
【0133】
実施例7
“イソジン”(登録商標)溶液に浸漬させずに実施例1と同様に作製したフィルムを50重量%グリセリン水溶液中に72時間浸漬させた。その後、フィルムを清浄な水(各200mL)の入った3つのビーカーに時間間隔を置かずに各2秒ずつ浸漬して洗浄し、“キムワイプ”で軽くフィルム表面の水分を拭き取った。この直後の状態を初期状態として、フィルムを初期含水率および収縮率の測定に供した。初期含水率は60重量%、収縮率は5%であった。このようにして得られたフィルムと、ポビドンヨードを0.5重量%含む“イソジン”(登録商標)を染み込ませた脱脂綿を使用し、フィルム表面に“イソジン”(登録商標)を塗布した。その後、フィルムを温度37℃、湿度90%のデシケータ中で保管した。保水性評価は24時間保管後Aであり、十分な保水性がみられた。48時間経過後も“イソジン”(登録商標)由来の臭気があり、乾きがない良好なフィルムが得られた。また、作製直後、24時間保管後、48時間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。作製直後、24時間保管後、48時間保管後で、目視観察によるフィルム形状の変化はなかった。
【0134】
比較例13
50重量%グリセリン水溶液の代わりに10重量%グリセリン水溶液を使用した以外は比較例12と同様の実験を行った。初期含水率は45重量%、収縮率は18%であった。保水性評価は24時間保管後Bであった。また、作製直後、24時間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。作製直後、24時間保管後で、目視観察によるフィルム形状の変化はなかった。
【0135】
比較例1
メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(98重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1.0重量部)、および光開始剤イルガキュア1850(1.0重量部)を用いて、実施例1と同様にフィルムを作製し、評価した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Cであった。5日間保管後のフィルムは、保管1日後と比較して、ポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は37重量%、収縮率は13.5%であった。
【0136】
比較例2
シリコーン成分含有重合体を含まない市販品ソフトコンタクトレンズ“1 day Acuvue”(登録商標)(構成モノマー:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸、J&J社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Dであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と比較しポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は56.7重量%、収縮率は21.6%であった。
【0137】
比較例3
シリコーン成分含有重合体を含まない市販品ソフトコンタクトレンズ“1 day Aquair Evolution”(登録商標)(構成モノマー:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸、クーパー社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Dであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と比較しポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は51重量%、収縮率は19%であった。
【0138】
比較例4
シリコーン成分含有重合体を含まない市販品ソフトコンタクトレンズ“DAILIES”(登録商標)(構成ポリマー:改良ポリビニルアルコール、CIBA Vision社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後D、保管5日後Dであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と比較しポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は70.1重量%、収縮率は25.5%であった。
【0139】
比較例5
シリコーン成分含有重合体を含まない市販品ソフトコンタクトレンズ“メダリスト”(登録商標)(構成モノマー:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドンB&L社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Cであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と比較しポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は55.8重量%、収縮率は20.3%であった。
【0140】
比較例14
シリコーンモノマーがポリエーテル構造を含む下記式(j)および(k)の化合物を用いて作製された市販品ソフトコンタクトレンズ“O2 OPTIX”(登録商標)(CIBA Vision社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Bであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と比較しポビドンヨード由来の黄色の着色が薄くポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のレンズはいずれもレンズを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は18.6重量%、収縮率は6.8%であった。
【0141】
【化15】
【0142】
比較例15
シリコーンモノマーがポリエーテル構造を含む化合物を用いて作製された市販品ソフトコンタクトレンズ“2week Premio”(登録商標)(メニコン社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後A、保管5日後Dであった。5日間保管後のレンズは、保管1日後と比較しポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後のレンズはいずれもレンズを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は38.3重量%、収縮率は13.9%であった。
【0143】
比較例6
ポリエステル製のガーゼにシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサンであり、炭素−炭素二重結合を有するシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体ではないと推定される)をコーティングした非固着性ガーゼである市販品ガーゼ“トレックス−C”(登録商標)(富士システムズ株式会社製)を、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後D、保管5日後Dであった。保管1日後、5日後ともにポビドンヨード由来の着色は見られず、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、市販品ガーゼ自体、白色のガーゼでありガーゼを通して反対側が目視観察不可能であった。初期含水率は0重量%、収縮率は0%であった。
【0144】
比較例7
50重量%グリセリン水溶液の代わりに水を使用した以外は比較例12と同様の実験を行った。保水性評価は24時間保管後Cであった。また、作製直後、24時間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は60重量%、収縮率は20%であった。さらに、目視観察によるフィルム形状の変化はなかった。

【0145】
比較例8
50重量%グリセリン水溶液中に浸漬させなかった以外は、実施例7と同様の実験を行った。保水性評価は24時間保管後Cであった。また、作製直後、24時間保管後のフィルムはいずれもフィルムを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は52重量%、収縮率は22%であった。作製直後、24時間保管後で、目視観察によるフィルム形状の変化はなかった。
【0146】
比較例16
シリコーンモノマーがポリエーテル構造を含む上式(j)および(k)の化合物を用いて作製された市販品ソフトコンタクトレンズ“O2 OPTIX”(登録商標)(CIBA Vision社製)を50重量%ポリエチレングリコール水溶液中に72時間浸漬させ、比較例12と同様の実験を行った。保水性評価は24時間保管後Cであった。さらに50重量%ポリエチレングリコール水溶液に72時間浸漬させた直後および24時間保管後は、浸漬させる前と比較し、目視観察によりレンズ形状が左右非対称となり形状保持性が悪かったものの、レンズを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は19.9重量%、収縮率は5.8%であった。
【0147】
比較例17
シリコーンモノマーがポリエーテル構造を含む化合物を用いて作製された市販品ソフトコンタクトレンズ“2week Premio”(登録商標)(メニコン社製)を50重量%ポリエチレングリコール水溶液中に72時間浸漬させ、比較例12と同様の実験を行った。保水性評価は24時間保管後Cであった。さらに50重量%ポリエチレングリコール水溶液に72時間浸漬させた直後および24時間保管後は、浸漬させる前と比較して目視観察によりレンズ形状が左右非対称となり形状保持性が悪かったものの、レンズを通して反対側が目視観察可能であり透明であった。初期含水率は40.2重量%、収縮率は11.9%であった。
【0148】
比較例9
シリコーンモノマーが炭素−炭素二重結合およびポリエーテル構造を含まない化合物を用いて作製された市販品シリコーンフィルム(品番6-9085-02、厚さ0.1mm)(アズワン株式会社製)を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における着色評価は保管1日後E、保管5日後Eであった。保管1日後、5日後ともにポビドンヨード由来の着色は見られず、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。市販品シリコーンフィルム自体、半透明白色のフィルムであり、フィルムを通して反対側が目視観察可能なほど透明ではなかった。初期含水率は0重量%、収縮率は0%であった。
【0149】
比較例10
特開2009−148392号公報実施例1記載の方法で皮膚接触層がシロキサン結合を有するポリエーテル系重合体(炭素−炭素二重結合を有するシリコーンモノマーを重合して得られるシリコーン成分含有重合体ではない)からなる創傷被覆材を作製した。該創傷被覆材を用いて、実施例1と同様に“イソジン”(登録商標)溶液に15分間浸漬後、新たな水中に5日間保管した。水中における皮膚接触層の着色評価は保管1日後A、保管5日後Cであった。5日間保管後の皮膚接触層は、保管1日後と比較して、ポビドンヨード由来の黄色の着色が薄く、水中に“イソジン”(登録商標)が染み出しており、ポビドンヨードの保持力が実施例1と比較して劣ることが示された。また、“イソジン”(登録商標)溶液浸漬直後、1日保管後、5日間保管後の皮膚接触層はいずれも皮膚接触層を通して反対側が目視観察可能であり透明であった。皮膚接触層の初期含水率は40重量%、収縮率は14.5%であった。
【0150】
比較例11
比較例10で作製した創傷被覆材を50重量%グリセリン水溶液中に72時間浸漬させた(グリセリンの沸点は290℃)。その後、創傷被覆材を清浄な水(各200mL)の入った3つのビーカーに時間間隔を置かずに各2秒ずつ浸漬して洗浄し、“キムワイプ”で軽く皮膚接触層の水分を拭き取った。この直後の状態を初期状態として、フィルムを初期含水率および収縮率の測定に供した。このようにして得られたフィルムを、温度37℃、湿度90%のデシケータ中で保管した。保水性評価は24時間保管後Cであった。さらに50重量%グリセリン水溶液に72時間浸漬させた直後および24時間保管後は、浸漬させる前と比較して、目視観察により皮膚接触層形状が左右非対称となり形状保持性が悪かったものの、皮膚接触層を通して反対側が目視観察可能であり透明であった。皮膚接触層の初期含水率は42重量%、収縮率は15.3%であった。
【0151】
上記実施例および比較例について、着色評価結果を表1、保水性評価結果を表2にまとめた。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
<抗菌評価1>
実施例1〜3、比較例1および比較例6で得られた皮膚用材料の抗菌評価を実施した。抗菌性は、以下の試験方法によって評価した。上記方法で作製したシート状フィルムを、“イソジン”(登録商標)溶液に浸漬する前に、1cm角に切り出し、該フィルムを実施例1と同様に、15分間“イソジン”(登録商標)溶液(ポビドンヨード濃度7%、明治製菓株式会社製)に浸漬した。その後、フィルムを水で洗浄し、水中に5日間保管した。保管後のフィルムを水中から取りだし、表面の水分を軽く拭き取った後、人指で触り、雑菌を付着させた。このフィルムをトリプトソーヤ寒天培地(SCD寒天、日本製薬株式会社)上に置き、37℃のインキュベータ中で5日間保管した。コントロールフィルムは、それぞれ、“イソジン”(登録商標)溶液に浸漬しない以外は同様にして作成したフィルムとした。抗菌性の評価はサンプル1種類につき3回行った。寒天培地上に発生した菌の発生状態を観察し、3回の菌の発生した面積がフィルム全体の面積の10%以下であれば抗菌効果があると判断した。より好ましくは5%以下であり、最も好ましくは0%である。結果は表3の通りであった。“イソジン”(登録商標)溶液に浸漬していないコントロールフィルムの菌の発生面積が100%であったのに対し、実施例1〜3で作製したフィルムの菌の発生面積は0%であり優れた抗菌性を示した。一方、比較例1および比較例6で作製したフィルムは抗菌性を示さなかった。
【0155】
【表3】
【0156】
<抗菌評価2>
比較例12、実施例7の抗菌評価を実施した。上記<抗菌評価1>と同様にして、“イソジン”(登録商標)溶液を塗布していない比較例12のフィルムと“イソジン”(登録商標)溶液を塗布した実施例7のフィルムの抗菌性を比較した。結果は表4の通りであった。比較例12のフィルムの菌の発生面積が100%であったのに対し、実施例7で作製したフィルムの菌の発生面積は10%であり抗菌性を示した。
【0157】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の皮膚用材料は、創傷、炎症、褥創などの被覆または予防を目的とした皮膚保護材;生理用品、オムツなどの衛生用品、外用薬(皮膚貼付用基材など)など各種の薬剤担体;ゲル状フェイスマスク用材料などの化粧品;および細胞培地(細胞繁殖培地など)など種々の用途に好適である。中でも皮膚保護材に特に好適に用いられる。