(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したアンテナを用いて被測定物の近傍電界を測定しようとすると、測定したい箇所の周囲に存在するノイズ源からのノイズも拾ってしまい、正確な測定を行うことが難しかった。すなわち、ノイズ源の位置とノイズ強度とを精度よく把握することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、近傍電界を測定する際に、受信範囲を所望する範囲に狭めることが可能な電界プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電界プローブは、棒状のモノポールアンテナと、該モノポールアンテナと同軸上に、モノポールアンテナを覆うように配置された、中空で、導電性を有する反射部材とを備え、当該反射部材は、一方の端部が、モノポールアンテナの
ヌル方向である軸線方向に開口されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る電界プローブによれば、モノポールアンテナの周囲が導電性の反射部材によって覆われている。この反射部材は、モノポールアンテナの軸線方向、すなわちヌル方向に開口部が位置するように配設されている。そのため、電界プローブの横方向(モノポールアンテナの軸線と垂直な方向、すなわちモノポールアンテナが指向性を有する方向)から入ってくるノイズが遮断される。その結果、モノポールアンテナ(電界プローブ)の軸線方向(例えば被測定物の上方から電界プローブの開口部を下に向けて使用する場合には真下方向)に位置するノイズ源からのノイズだけを測定することができる。よって、受信範囲を絞って、近傍の電界を測定することが可能となる。
【0008】
本発明に係る電界プローブでは、モノポールアンテナの一方の端部が反射部材の開口端面と略一致するようにモノポールアンテナが配設されていることが好ましい。
【0009】
モノポールアンテナの端部が反射部材の開口端よりも外側に出てしまうと、横方向(モノポールアンテナの軸線と垂直な方向、すなわちモノポールアンテナが指向性を有する方向)からのノイズを拾い易くなり、受信範囲が広がってしまう。逆に、モノポールアンテナの端部が反射部材の開口端よりも内側に入り込んでしまうと(すなわち反射部材の軸線方向の長さをモノポールアンテナよりも長くすると)、反射部材がノイズを拾ってグランド(リファレンス)が揺れ、受信感度が劣化する。この場合、モノポールアンテナの端部(先端)と反射部材の開口端面とが略一致するように配置されているため、受信感度を高く保ちつつ、受信範囲を絞ることが可能となる。
【0010】
本発明に係る電界プローブでは、反射部材の開口端が他端部よりも拡げられていることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、受信感度をより向上させることができる。ここで、より具体的には、反射部材は、底面が開口された円錐状、底面が開口された四角錐状、又は、底面が開口された半球状に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、近傍電界を測定する際に、受信範囲を所望する範囲に狭めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0015】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る電界プローブ1の構成について説明する。
図1は、電界プローブ1の構成を示す部分断面図である。
【0016】
電界プローブ1は、例えば電子回路基板などの近傍電界を測定するための電界プローブである。電界プローブ1は、円柱状の本体部10と、該本体部10の先端に連続的に接続された棒状のモノポールアンテナ20と、該モノポールアンテナ20と同軸上に、モノポールアンテナ20を覆うように配設された中空円錐状の反射部材30とを備えている。続いて、各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
本体部10は、例えば、同軸構造のセミリジッドケーブルであり、銀メッキ銅チューブからなる内部導体(芯線)11を誘電体(PTFE)12で覆い、この誘電体12を無酸素銅からなる外部導体13で被覆した構造になっている。なお、本実施形態では、本体部10の寸法を、直径9.62mm、長さ40mmとした。
【0018】
モノポールアンテナ20は、本体部10から突出したセミリジッドケーブルの先端部の外部導体13を取り除き、内部導体11を本体部10の先端から所定長さ(本実施形態では30mm)だけ露出させたものである。すなわち、本実施形態では、セミリジッドケーブルの内部導体11をモノポールアンテナ20として利用した。したがって、モノポールアンテナ20は、本体部10の内部導体11と電気的に連結されている。モノポールアンテナ20の周囲は、誘電体12と一体の誘電体21によって被覆されている。
【0019】
図1に示されるように、モノポールアンテナ20は、側方視した場合に、先端20aの位置が、反射部材30の開口端面30aと一致するように配設されている。なお、モノポールアンテナ20で受信された信号は、本体部10の内部導体11及び後述するSMAコネクタ40を介して計測器などに出力される。
【0020】
反射部材30は、導電性を有する例えば銅などの金属によって、底面が開口された中空円錐状に形成された部材である。反射部材30は、モノポールアンテナ20と同軸上に、該モノポールアンテナ20を覆うように、本体部10を構成する外部導体13の先端側の端部に取り付けられており、底面部分が、モノポールアンテナ20の軸線方向に開口されている。
【0021】
反射部材30の開口端面30aの径は、所望する受信範囲(測定範囲)に応じて寸法が設定される。すなわち、受信範囲(測定範囲)を狭めたい場合には、開口端面30aの径を小さくすればよい。ここで、本実施形態では、反射部材30の開口端面30aの直径を35mmとし、反射部材30の軸線方向の長さを30mmとした。なお、反射部材30は、本体部10の外部導体13及びSMAコネクタ40を介して計測器などのグランドに接続される。
【0022】
本体部10の後端側には、スペクトラムアナライザなどの計測器に接続するためのSMAコネクタ40が取り付けられている。電界プローブ1は、使用される際に、SMAコネクタ40に同軸ケーブルが接続され、スペクトルアナライザなどの計測器と接続される。
【0023】
続いて、
図2〜
図6を併せて参照しつつ、反射部材30の有無による電界プローブの受信範囲の違いについて、シミュレーション結果を示して説明する。ここで、
図2は、比較例として用いた反射部材30を備えていない電界プローブ100の構成を示す図であり、
図3は、該電界プローブ100のX−Z方向(XZ平面)の電界分布(受信範囲)を示す図である。また、
図4は、本実施形態に係る電界プローブ1のX−Z方向(XZ平面)の電界分布(受信範囲)を示す図である。
図6は、電界プローブ1,100の先端から20mm下方の位置でのX軸方向の電界強度(受信範囲)を示す図である。また、
図5は、
図6に示される電界強度(受信範囲)を説明するための図である。なお、ここで、電界プローブ1,100(モノポールアンテナ20)の軸線方向(
図2,5の上下方向)をZ軸方向とし、電界プローブ1,100(モノポールアンテナ20)の軸線と直交する方向(
図2,5の左右方向)をX軸方向とした。
【0024】
図2に示されるように、比較例として用いた電界プローブ100は、実施形態に係る電界プローブ1から反射部材30を取り除いたものである。その他の構成は電界プローブ1と同一であるので、ここでは詳細な説明は省略する。シミュレーションに際しては、電界プローブ1及び電界プローブ100それぞれをモデル化し、シミュレーションソフト(アンソフト、HFSS)を用いて電界プローブ1,100の電界分布を求めた。より具体的には、モデル化した本体部10の後端から、1Wの正弦波を電界プローブ1,100に給電したときの送信特性を計算することで電界プローブ1,100の電界分布を確認した。なお、相反の定理より、電界プローブ1,100の送信特性を該電界プローブ1,100の受信特性とした。
【0025】
その結果を、
図3及び
図4に示す。上述したように、
図3は、電界プローブ100(比較例)のX−Z方向(XZ平面)の電界分布(受信範囲)を示し、
図4は、本実施形態に係る電界プローブ1のX−Z方向(XZ平面)の電界分布(受信範囲)を示す。
図3及び
図4に示されるように、反射部材30を備えていない電界プローブ100(比較例)と比較して、本実施形態に係る電界プローブ1は、電界分布のX軸方向への広がりが少ないことが認められた。よって、電界プローブ1では、電界プローブ100に比べて、近傍電界の受信範囲が狭められていることが確認できた。
【0026】
次に、電界プローブ1,100の先端から20mm下方の位置でのX軸方向の電界強度(受信範囲)を
図6に示す。
図6に示されたグラフの横軸は、電界プローブ1,100の直下からのX軸方向の距離(mm)であり、縦軸は電界強度(dB)である。また、
図6のグラフでは、本実施形態に係る電界プローブ1のシミュレーション結果を実線で、比較例の電界プローブ100のシミュレーション結果を破線で示した。
【0027】
図6に示されるように、最も電界強度が高いプローブ直下と、該プローブ直下の電界強度と比較して電界強度(受信量)が−6dB以下になる位置とのX軸方向の距離Lx(
図5参照)は、電界プローブ100(比較例)では、100mm以上であった。一方、本実施形態に係る電界プローブ1では、距離Lxが18mmであった。よって、電界プローブ1では、電界プローブ1,100の先端から20mm下方の位置での受信範囲も狭まっていることが確認された。以上の結果から、本実施形態に係る電界プローブ1を用いることにより、近傍電界の受信範囲を絞ることができることが確認された。
【0028】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、モノポールアンテナ20の周囲が導電性の反射部材30によって覆われている。この反射部材30は、モノポールアンテナ20の軸線方向、すなわちヌル方向に開口部が位置するように配設されている。そのため、電界プローブ1の横方向(モノポールアンテナ20の軸線と垂直な方向、すなわちモノポールアンテナ20が指向性を有する方向)から入ってくるノイズが遮断される。その結果、モノポールアンテナ20(電界プローブ1)の軸線方向(例えば被測定物の上方から電界プローブ1の開口部(先端部)を下に向けて使用する場合には真下方向)に位置するノイズ源からのノイズだけを測定することができる。よって、受信範囲を絞って、近傍の電界を測定することが可能となる。
【0029】
ところで、モノポールアンテナ20の先端20aが反射部材30の開口端よりも外側に出てしまうと、横方向(モノポールアンテナ20の軸線と垂直な方向、すなわちモノポールアンテナ20が指向性を有する方向)からのノイズを拾い易くなり、受信範囲が広がってしまう。逆に、モノポールアンテナ20の先端20aが反射部材30の開口端よりも内側に入り込んでしまうと(すなわち反射部材30の軸線方向の長さをモノポールアンテナ20よりも長くすると)、反射部材30がノイズを拾ってグランド(リファレンス)が揺れ、受信感度が劣化する。本実施形態によれば、モノポールアンテナ20の先端20aと反射部材30の開口端面30aとが略一致するように配置されているため、受信感度を高く保ちつつ、受信範囲を絞ることが可能となる。
【0030】
また、本実施形態によれば、反射部材30が、底面が開口された円錐状に形成されているため、すなわち反射部材30の開口端部が他端部よりも拡げられているため、受信感度をより向上させることができる。
【0031】
ところで、電界プローブ1の受信感度及び近傍電界の受信範囲(測定範囲)は、電界プローブ1のディメンジョン、より具体的には、
図7に示される、電界プローブ1を構成するモノポールアンテナ20の長さL1、及び、モノポールアンテナ20の中心線(軸線)と反射部材30との成す角度θ(以下、単に「反射部材30の角度θ」という)等によって変化する。
【0032】
そこで、次に、
図7〜10を併せて参照しつつ、モノポールアンテナ20の好ましい長さ、及び、反射部材30の好ましい角度について説明する。ここで、
図7は、電界プローブ1の好ましいディメンジョンを説明するための図である。
図8は、モノポールアンテナ20の長さL1を変化させたときの反射部材30の角度θと受信感度との関係を示すグラフであり、
図9は、測定周波数を変化させたときの反射部材30の角度θと受信感度との関係を示すグラフである。また、
図10は、反射部材30の角度θを変化させたときのX軸方向の電界強度(受信範囲)を示す図である。
【0033】
電界プローブ1では、モノポールアンテナ20の長さL1を「20mm≦L1≦50mm」とし、反射部材30の角度θを「50°≦θ<70°」とし、かつ、反射部材30の開口端面30aとモノポールアンテナ20の先端20aの位置とが一致するように形成することが好ましい。このようにすれば、受信感度を高くでき、かつ受信範囲を狭く絞ることができる。
【0034】
また、電界プローブ1では、モノポールアンテナ20の長さL1を「30mm≦L1≦40mm」とし、反射部材30の角度θを「約60°」とし、かつ、反射部材30の開口端面30aとモノポールアンテナ20の先端20aの位置とが一致するように形成することがより好ましい。このようにすれば、受信感度をより高くでき、かつ受信範囲をより狭く絞ることが可能となる。以下、
図8,9,10を用いて、シミュレーション結果を示しつつ、その理由を説明する。
【0035】
まず、
図8を用いて、モノポールアンテナ20の長さL1を変化させたときの、反射部材30の角度θと受信感度との関係について説明する。なお、モノポールアンテナ20の先端20aは、反射部材30の開口端面30aと一致するように設定した。
図8の横軸は反射部材30の角度θ(°)であり、縦軸は受信感度(dBV/m)である。
【0036】
図8では、測定周波数を2.5GHzとし、モノポールアンテナ20の長さL1を、10mm、20mm、30mm、40mm、50mmと5段階に変化させたときの、反射部材30の角度θと受信感度とのシミュレーション結果を示す。なお、
図8では、モノポールアンテナ20の長さL1を10mmとしたときの結果を「◇」でプロットした。また、L1を20mmとしたときの結果を「□」で、L1を30mmとしたときの結果を「△」でプロットした。さらに、L1を40mmとしたときの結果を「○」で、L1を50mmとしたときの結果を「*」でプロットした。
【0037】
その結果、
図8に示されるように、モノポールアンテナ20の長さL1が「20mm≦L1≦50mm」の範囲で受信感度が高くなり、「30mm≦L1≦40mm」のときに受信感度が特に高くなることが確認された。
【0038】
次に、
図9を用いて、測定周波数を変化させたときの、反射部材30の角度θと受信感度との関係について説明する。なお、モノポールアンテナ20の先端20aは、反射部材30の開口端面30aと一致するように設定した。
図9の横軸は反射部材30の角度θ(°)であり、縦軸は受信感度(dBV/m)である。
【0039】
図9では、モノポールアンテナ20の長さを30mmに固定し、測定周波数を2GHz、2.5GHz、3GHzと3段階に変化させたときの、反射部材30の角度θと受信感度とのシミュレーション結果を示す。なお、
図9では、測定周波数を2GHzとしたときの結果を「◇」でプロットした。また、測定周波数を2.5GHzとしたときの結果を「□」で、測定周波数を3GHzとしたときの結果を「△」でプロットした。
【0040】
その結果、
図9に示されるように、いずれの周波数においても、反射部材30の角度θが「50°≦θ≦70°」の範囲で受信感度が高くなり、反射部材30の角度θが「60°」のときに受信感度が最も高くなることが確認された。
【0041】
続いて、
図10を用いて、反射部材30の角度θを変化させたときの、電界プローブ1(モノポールアンテナ20)の先端から20mm下方の位置でのX軸方向の電界強度、すなわち受信範囲(
図7参照)について説明する。ここでも、モノポールアンテナ20の先端20aは、反射部材30の開口端面30aと一致するように設定した。
図10に示されたグラフの横軸は、電界プローブ1の直下からのX軸方向の距離L2(mm)であり、縦軸は電界強度(dB)である。
【0042】
図10では、反射部材30の角度θを10°から90°まで、10°間隔で変化させたときの、X軸方向の距離L2に対する電界強度の変化を示す。
図10に示されるように、反射部材30の角度θが70°(
図10中の一点鎖線参照)以上のときには受信範囲が広くなり、角度θが60°(
図10中の太い実線参照)以下のときには、受信範囲を狭くなることが認められた。すなわち、受信範囲を狭く絞るという観点からは、反射部材30の角度θは、「70°未満」であることが好ましく、特に、「60°以下」であることがより好ましいことが確認された。
【0043】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、モノポールアンテナ20の長さL1を「20mm≦L1≦50mm」とし、反射部材30の角度θを「50°≦θ<70°」とし、かつ、反射部材30の開口端面30aとモノポールアンテナ20の先端20aの位置とが一致するように形成することにより、受信感度を高くでき、かつ受信範囲を狭く絞ることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、モノポールアンテナ20の長さL1を「30mm≦L1≦40mm」とし、反射部材30の角度θを「約60°」とし、かつ、反射部材30の開口端面30aとモノポールアンテナ20の先端20aの位置とが一致するように形成することにより、受信感度をより高くでき、かつ受信範囲をより狭く絞ることが可能となる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、モノポールアンテナ20や反射部材30の形状や大きさなどは、上記実施形態には限られない。
【0046】
特に、上記実施形態では、反射部材30が、底面が開口された円錐状に形成されていたが、反射部材30の形状は円錐状には限られない。反射部材30は、例えば、底面が開口された四角錐状、又は、底面が開口された半球状に形成されていてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、セミリジッドケーブルの内部導体11をモノポールアンテナ20として利用したが、必ずしもセミリジッドケーブルの内部導体11を利用する必要はなく、例えば、一般的な棒状の金属などを使用してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、電界プローブ1が本体部10を備えていたが、本体部10は必ずしも必要ではない。例えば、本体部10を取り去り、モノポールアンテナ20の後端にSMAコネクタ40を取り付ける構成としてもよい。