(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下流路は、前記第2区画壁に形成され、前記間欠機構を経た前記潤滑油を前記シリンダ室内に向けて排出可能な排出孔と、前記ロータにおける前記第2区画壁側の後面に凹設され、前記各背圧室から前記軸心に向かって延び、前記駆動軸の回転方向の位相によって前記排出孔と連通可能な細溝とを有する請求項1記載のベーン型圧縮機。
前記各細溝は、前記各背圧室から前記軸心に向かって第1方向で延びる第1細溝と、前記各背圧室から前記軸心に向かって前記第1方向と異なる第2方向で延びる第2細溝とを有している請求項2記載のベーン型圧縮機。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来のベーン型圧縮機が開示されている。このベーン型圧縮機は、ハウジングと、駆動軸と、ロータと、複数のベーンとを備えている。
【0003】
ハウジングは、フロントハウジングとリヤハウジングとシリンダブロックとフロントサイドプレートとリヤサイドプレートとを有している。フロントハウジングとリヤハウジングとが接合されている。シリンダブロックにはシリンダ室が形成されている。シリンダ室は、フロントサイドプレートの後面によって区画されているとともに、リヤサイドプレートの前面によって区画されている。シリンダブロック、フロントサイドプレート及びリヤサイドプレートは、フロントハウジング及びリヤハウジング内に収納されている。フロントハウジングとフロントサイドプレートとが吸入室を形成し、リヤハウジングとリヤサイドプレートとが吐出室を形成している。
【0004】
駆動軸は、ハウジングに軸心周りで回転可能に設けられている。ロータは、シリンダ室内で駆動軸と同期回転可能に設けられている。ロータには、複数個のベーン溝が形成されている。各ベーンは、各ベーン溝に各々出没可能に設けられている。各ベーンは、シリンダ室の内面、ロータの外面、フロントサイドプレートの後面及びリヤサイドプレートの前面とともに各圧縮室を形成している。各ベーン溝と各ベーンの底面との間は、フロントサイドプレートの後面とリヤサイドプレートの前面とで区画される背圧室とされている。
【0005】
吐出室と各背圧室との間には、吐出室内の高圧の潤滑油を各背圧室に供給可能な背圧供給手段が設けられている。背圧供給手段は、駆動軸の回転方向の位相によって吐出室と各背圧室とを連通又は非連通とする間欠機構を有している。
【0006】
このベーン型圧縮機では、背圧供給手段が吐出室内の高圧の潤滑油を各背圧室に供給するため、各ベーンが好適にシリンダ室の内面に押し付けられる。このため、各ベーンはベーン溝内で潤滑されるとともにチャタリングが防止され、かつ圧縮室からの冷媒ガスの漏れが防止されて効率が向上する。
【0007】
また、このベーン型圧縮機では、間欠機構が、駆動軸の停止後に吐出室と各背圧室とを非連通にしうるため、駆動軸の停止後における冷媒ガス等の逆流と駆動軸の逆転とを防止することができる。詳述すると、駆動軸の停止時に駆動軸の位相が非連通となる位置であれば、吐出室と各背圧室とは非連通となる。駆動軸の停止時に駆動軸の位相が連通する位置であっても、わずかに冷媒ガスの逆流と駆動軸の逆転が生じれば、それによって駆動軸の位相がずれるため、直ちに吐出室と各背圧室とが非連通となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来のベーン型圧縮機では、背圧供給手段の流路と間欠機構の流路との設定によっては、駆動軸の停止後における冷媒ガス等の逆流と駆動軸の逆転とを生じるおそれがある。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、冷媒ガス等の逆流と駆動軸の逆転とをより確実に低減可能なベーン型圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のベーン型圧縮機は、吸入室、吐出室及びシリンダ室が形成されたハウジングと、
前記ハウジングに回転可能に設けられた駆動軸と、
前記シリンダ室内で前記駆動軸と同期回転可能に設けられ、複数個のベーン溝が形成されたロータと、
前記各ベーン溝に各々出没可能に設けられ、各圧縮室を形成するベーンとを備え、
前記ハウジングは、第1区画壁及び第2区画壁を有し、前記第1区画壁の後面である第1面と前記第2区画壁の前面である第2面との間に前記シリンダ室が形成され、前記シリンダ室と前記吐出室とを前記第2区画壁が区画し、
前記圧縮室は、前記シリンダ室の内面、前記ロータの外面、前記第1面、前記第2面及び前記各ベーンによって形成され、
前記各ベーン溝と前記各ベーンとの間は、前記第1面と前記第2面とで区画される背圧室とされ、
前記吐出室と前記各背圧室との間には、前記吐出室内の潤滑油を前記各背圧室に供給可能な背圧供給手段が設けられているベーン型圧縮機において、
前記背圧供給手段は、前記吐出室と連通する上流路と、前記駆動軸の回転方向の位相に応じて前記ロータにより前記各背圧室と連通又は非連通となる下流路と、前記上流路と前記下流路との間に設けられ、前記駆動軸の回転方向の位相に応じて前記上流路と前記下流路とを連通又は非連通とする間欠機構とからなり、
前記間欠機構が前記上流路と前記下流路とを連通する時、前記ロータが前記下流路をいずれの前記背圧室とも非連通とし、かつ、前記ロータが前記下流路をいずれかの前記背圧室と連通する時、前記間欠機構が前記上流路と前記下流路とを非連通とすることを特徴とする(請求項1)。
【0012】
上記従来のベーン型圧縮機では、シリンダ室と吐出室とを区画するリヤサイドプレートにも、またロータにも、何等の工夫が施されていない。このため、間欠機構が上流路と下流路とを連通する時において、ロータが下流路をいずれかの背圧室と連通する場合がある。
【0013】
これに対し、本発明のベーン型圧縮機では、間欠機構が上流路と下流路とを連通する時には、ロータが下流路をいずれの背圧室とも非連通となる。また、ロータが下流路をいずれかの背圧室と連通する時、間欠機構が上流路と下流路とを非連通とする。
【0014】
したがって、このベーン型圧縮機によれば、吐出室と背圧室との間で少なくとも一箇所は非連通となり、冷媒ガス等の逆流と駆動軸の逆転とをより確実に低減可能である。
【0015】
下流路は、第2区画壁に形成され、間欠機構を経た潤滑油をシリンダ室内に向けて排出可能な排出孔と、ロータにおける第2区画壁側の後面に凹設され、各背圧室から軸心に向かって延び、駆動軸の回転方向の位相によって排出孔と連通可能な細溝とを有し得る(請求項2)。
【0016】
この場合、ロータの回転により、下流路の排出孔が細溝を介して各背圧室に連通することとなる。細溝は、各背圧室から軸心に向かって延びているため、ロータの回転に従って排出孔と各背圧室とが連通している角度範囲が従来よりも小さくなる。このため、このベーン型圧縮機では、間欠機構又はロータが吐出室と各背圧室とを非連通とする角度設定を行い易い。
【0017】
各細溝は、各背圧室から軸心に向かって全て同一方向に延びていることが可能である。しかし、各細溝は、各背圧室から軸心に向かって第1方向で延びる第1細溝と、各背圧室から軸心に向かって第1方向と異なる第2方向で延びる第2細溝とを有していることが好ましい(請求項3)。このように、延びる方向が異なる細溝を採用することにより、排出孔が細溝と連通するタイミングを任意に変更できる。このため、冷媒ガス等の逆流と駆動軸の逆転とをより生じ難くすることができる。
【0018】
背圧供給手段及び間欠機構としては、種々のものを採用することが可能である。
【0019】
例えば、第2区画壁には、駆動軸の後端部を軸支する軸支穴と、軸支穴の後方に位置し、後端部によって軸支穴と区画される供給室とが形成され得る。上流路は、第2区画壁に形成され、吐出室から供給室まで延びる導入路と、供給室と、後端部に形成され、供給室と連通する軸路とからなり得る。下流路は、第2区画壁に形成され、軸支穴に開く受入路と、受入路と連通する排出孔とからなり得る。間欠機構は、軸路と受入路との間に設けられていることが好ましい(請求項4)。
【0020】
この場合、吐出室内に存在する潤滑油が導入路、供給室及び軸路に至っている。そして、駆動軸の位相によって軸路と受入路とが連通すれば、軸路内の潤滑油が受入路を経て排出孔に導かれる。また、駆動軸の位相によって軸路と受入路とが非連通となれば、軸路内の潤滑油は受入路及び排出孔に供給されない。
【0021】
また、第2区画壁には、駆動軸の後端部を軸支する軸支穴と、軸支穴の後方に位置し、後端部によって軸支穴と区画される供給室とが形成され得る。上流路は、第2区画壁に形成され、吐出室から延びて軸支穴に開く導入路からなり得る。下流路は、後端部に形成され、供給室と連通する軸路と、第2区画壁に形成され、供給室と連通する排出孔とからなり得る。間欠機構は、導入路と軸路との間に設けられていることが好ましい(請求項5)。
【0022】
この場合、吐出室内に存在する潤滑油が導入路に至っている。そして、駆動軸の位相によって導入路と軸路とが連通すれば、導入路内の潤滑油が軸路を経て供給室に導かれ、さらに排出孔に導かれる。また、駆動軸の位相によって導入路と軸路とが非連通となれば、導入路内の潤滑油は軸路、供給室及び排出孔に供給されない。
【0023】
軸路は駆動軸の周面に複数の間欠口を有し得る。間欠口は、駆動軸の軸心に対して点対称の位置にあることが好ましい(請求項6)。この場合、駆動軸が180°回転する度に間欠機構が上流路と下流路とを連通又は非連通とし、本発明のベーン型圧縮機を具体化し易い。
【発明の効果】
【0024】
本発明のベーン型圧縮機によれば、冷媒ガス等の逆流と駆動軸の逆転とをより確実に低減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。
【0027】
(実施例1)
実施例1のベーン型圧縮機は、
図1に示すように、フロントハウジング1と、リヤサイドプレート3と、シェル5とを備えている。フロントハウジング1が第1ハウジングに相当し、リヤサイドプレート3が第2ハウジングに相当する。また、フロントハウジング1、リヤサイドプレート3及びシェル5がハウジングに相当する。
【0028】
フロントハウジング1は、筒状のシリンダ形成部7aと、シリンダ形成部7aの前端でシリンダ形成部7aと一体に設けられた第1区画壁2とを有している。シリンダ形成部7a内にはシリンダ室7が後方から前方に向けて凹設されている。シリンダ室7は、
図2及び
図3に示すように、駆動軸8の軸心Oに直交する断面が楕円形状である柱状をなしている。
図1に示すように、第1区画壁2には前方に突出するボス1aが形成されており、ボス1a内には駆動軸8の前部を挿通させる軸支穴2bが形成されている。第1区画壁2の後面が軸心Oと直交する第1面2aとされている。
【0029】
また、シリンダ形成部7aの外周面には環状の吸入室9が凹設されている。吸入室9は、
図2に示すように、2個の吸入ポート9cによってシリンダ室7に連通している。
【0030】
図1に示すように、リヤサイドプレート3は、フロントハウジング1のシリンダ形成部7aの後端と当接する第2区画壁4を有している。第2区画壁4には、駆動軸8の後端部8aが収納される軸支穴4bが前方から後方に向けて凹設されている。第2区画壁4の前面が軸心Oと直交する第2面4aとされている。軸支穴4bの後方には、後端部8aによって区画される供給室2cが形成される。
【0031】
シェル5は、フロントハウジング1のシリンダ形成部7aとリヤサイドプレート3とを収容している。シェル5には取付足5aが形成されている。取付足5aは、車両の図示しないエンジン等に取り付けられる。シェル5とリヤサイドプレート3との間には吐出室10が形成されている。吐出室10は、第2区画壁4によってシリンダ室7と区画されている。
【0032】
シェル5には、吸入室9を外部に開く流入口9aと、吐出室10を外部に開く流出口10aとが形成されている。シリンダ形成部7aの外周面には、吸入室9の前後にOリング13a、13bが装着されている。Oリング13aは吸入室9の前方でシェル5とフロントハウジング1との間を封止している。Oリング13bは吸入室9の後方でシェル5とフロントハウジング1との間を封止している。また、第2区画壁4の外周面にはOリング13cが装着されている。Oリング13bは第2区画壁4とシェル5との間を封止している。フロントハウジング1の軸支穴2b内には軸封装置11及び滑り軸受12aを介して駆動軸8が回転可能に設けられている。第1区画壁2には吸入室9と軸封装置11とを連通させる連通路9bが形成されている。
【0033】
図2及び
図3に示すように、駆動軸8にはロータ15が圧入されている。ロータ15は、軸心Oに直交する断面が円形状である柱状をなしており、シリンダ室7内で回転可能である。ロータ15の外周面には、5個のベーン溝15aが軸心Oに向かってやや傾斜しながら凹設されている。ベーン溝15aは、ベーン17に対向するように延在する平行な2面を有する断面矩形状の矩形部15cと、矩形部15cに繋がるように矩形部15cより駆動軸8に近い位置に形成される断面円形状の丸穴部15dとを有する。各ベーン溝15aにはそれぞれベーン17が出没可能に収納されている。各ベーン17の底面と各ベーン溝15aとの間は背圧室15bとされている。隣り合う2枚のベーン17、ロータ15の外周面、シリンダ室7の内周面、第1面2a及び第2面4aによって5個の圧縮室19が形成されている。吸入行程にある圧縮室19と吸入室9とは吸入ポート9cによって連通するようになっている。
【0034】
図3に示すように、フロントハウジング1のシリンダ形成部7aとシェル5との間には2個の吐出空間10aが形成されている。吐出行程にある圧縮室19と各吐出空間10aとは、それぞれ吐出ポート10bによって連通するようになっている。各吐出空間10a内には、吐出ポート10bを閉鎖する吐出弁10cと、吐出弁10cのリフト量を規制するリテーナ10dとが設けられている。
【0035】
図1及び
図6に示すように、リヤサイドプレート3の中央には、一定の厚みを持って吐出室10側に膨出する膨出部3aが形成されている。膨出部3a内には上下に円柱状に延びる油分離室21が形成されている。油分離室21の上端には2段の円筒状に形成された分離筒21cが圧入されている。分離筒21cの上端は吐出室10内に連通し、流出口10aに対面している。油分離室21には、分離筒21cの下部と対面する円筒状の案内面21aが形成されている。吐出空間10aと油分離室21とは吐出孔10fによって連通している。吐出孔10fから吐出される冷媒ガスは案内面21aを周回するようになっている。油分離室21は下端の連通孔21bによって吐出室10と連通している。これら油分離室21、吐出孔10f、分離筒21c、案内面21a及び連通孔21bによってセパレータ20が構成されている。
【0036】
また、第2区画壁4には、第1導入路23aと第2導入路23bとが形成されている。第1導入路23aは、第2区画壁4の下端から上方に向って延びており、吐出室10に連通している。第2導入路23bは、第1導入路23aの上端から供給室2cまで延びている。なお、第2導入路23bの後端は封止されている。第1導入路23a及び第2導入路23bが導入路に相当する。
【0037】
駆動軸8の後端部8aには、後端から前方に軸心Oに沿って延びる1本の軸孔8bと、軸孔8bと連通し、軸孔8bの前部から後端部8aの軸周面まで径方向に延びる2本の径孔8cとが形成されている。両径孔8cは、
図7に示すように、駆動軸8の軸心Oを中心とした点対称の位置で間欠口8xによって開いている。軸孔8b及び径孔8cが軸路に相当する。導入路、供給室2c、軸孔8b及び径孔8cが上流路に相当する。
【0038】
図6及び
図7に示すように、第2区画壁4の軸支穴4bには滑り軸受12bが圧入されている。滑り軸受12bには、2個の通孔25aが径方向で貫設されている。両通孔25aも、駆動軸8の軸心Oに対して対称をなしている。また、軸支穴4bには滑り軸受12bの外周面に沿う環状路4dが形成されている。環状路4dは駆動軸8と同軸の環状である。通孔25a及び環状路4dが受入路である。
図7(A)及び(B)に示すように、駆動軸8の回転によって、径孔8cと通孔25aとが連通又は非連通となる。径孔8c及び通孔25aが間欠機構を構成している。
【0039】
図6に示すように、第2区画壁4には、環状路4dから第2区画壁4の第2面4aまで軸方向に延びる2本の排出孔4eが形成されている。両排出孔4eも、駆動軸8の軸心Oに対して対称をなしている。また、第2区画壁4の第2面4aには、
図7に示すように、軸心O周りで円弧形状をなす2個の排油溝4cが凹設されている。両排油溝4cも、駆動軸8の軸心Oに対して対称をなしている。各排油溝4cは、
図4に示すように、ロータ15の回転により、吸入行程等にある背圧室15bと連通するようになっている。
【0040】
ロータ15における第2区画壁4側の後面には、それぞれ背圧室15bと連通して軸心Oに向かって延びる第1、2細溝16a〜16eが凹設されている。
【0041】
各第1細溝16a〜16dは、各ベーン溝15aが延びる方向と同一方向に延びている。一方、第2細溝16eは、各ベーン溝15aが延びる方向とは異なる方向に延びている。各第1、2細溝16a〜16eは、
図5に示すように、軸心Oから半径r1の位置において、軸心O周りの角度幅W1を有している。角度幅W1は、軸心Oから半径r2において、背圧室15bの丸穴部15dにおける軸心O周りの角度幅W2よりも狭い。半径r1は半径r2より小さい。すなわち、第1、2細溝16a〜16eは、各背圧室15bの軸心O周りの角度幅よりも狭い角度幅で各背圧室15bから軸心Oに向って延びている。
【0042】
両排出孔4eは、第2区画壁4の第2面4aにおいて、軸心Oから半径r1の位置に開いている。このため、各背圧室15bは、ロータ15の回転により、排出孔4e及び第1、2細溝16a〜16eを介して環状路4dと連通する。ロータ15の回転により、排出孔4eが第1、2細溝16a〜16eと連通する角度範囲はθ1である。両通孔25a、環状路4d、排出孔4e及び第1、2細溝16a〜16eが下流路に相当する。上流路、下流路及び間欠機構が背圧供給手段に相当する。
【0043】
図示はしないが、流出口10eは配管によって凝縮器に接続され、凝縮器は配管によって膨張弁に接続され、膨張弁は配管によって蒸発器に接続され、蒸発器は配管によって流入口9aに接続されている。凝縮器、膨張弁及び蒸発器が外部の冷凍回路を構成している。実施例1のベーン型圧縮機を含む冷凍回路は車両用空調装置を構成している。
【0044】
実施例1のベーン型圧縮機では、エンジン等によって駆動軸8が駆動されると、ロータ15が駆動軸8と同期回転し、各圧縮室19が容積変化を生じる。このため、蒸発器を経た冷媒ガスは、流入口9aから吸入室9に吸入され、吸入ポート9cを経て各圧縮室19に吸入される。そして、各圧縮室19で圧縮された冷媒ガスは吐出ポート10bを経て吐出空間10aに吐出され、吐出孔10fからセパレータ20の案内面21aに向けて吐出される。このため、冷媒ガスから潤滑油が遠心分離される。分離された潤滑油は油分離室21内から連通孔21bを経て吐出室10内に貯留される。潤滑油が分離された冷媒ガスは流出口10aから凝縮器に向けて吐出される。
【0045】
この間、
図7(A)に示すように、駆動軸8の位相により、両径孔8cと両通孔25aとが非連通となれば、吐出室10と両排出孔4eとは非連通である。このため、吐出室10内の高圧の潤滑油は、第1導入路23a、第2導入路23b、供給室2c、軸孔8b及び両径孔8cまでは供給されるものの、両通孔25a、環状路4d及び両排出孔4eに至らず、各背圧室15bに供給されない。
【0046】
一方、
図7(B)に示すように、駆動軸8の位相により、両径孔8cと両通孔25aとが連通すれば、吐出室10と両排出孔4eとが連通する。このため、吐出室10内の高圧の潤滑油は、第1導入路23a、第2導入路23b、供給室2c、軸孔8b、両径孔8c、両通孔25a、環状路4d及び両排出孔4eに供給され、各背圧室15bに供給される。
【0047】
実施例1のベーン型圧縮機では、
図5に示すように、ロータ15の後面に第1、2細溝16a〜16eを有しているため、ロータ15の回転により、排出孔4eが第1、2細溝16a〜eを介して各背圧室15bに連通する。このため、各第1、2細溝16a〜16eは、角度範囲θ1で各排出孔4eと連通することとなる。
【0048】
図8は、各第1、2細溝16a〜16eが各排出孔4eと連通する角度範囲θ1と、両径孔8cが両通孔25aと連通する角度範囲Rとを示している。角度範囲θ1は角度範囲Rと重ならないように設定されている。すなわち、両径孔8cが両通孔25aと連通する位置にある時、各第1、2細溝16a〜16eが各排出孔4eと非連通となる位置にある。一方、各第1、2細溝16a〜16eが各排出孔4eと連通する位置にある時、両径孔8cが両通孔25aと非連通となる位置にある。つまり、駆動軸8のいずれの回転角度においても、背圧供給手段に存在する複数の連通箇所のうち少なくとも一箇所は非連通となる。
【0049】
なお、各第1、2細溝16a〜16eのいずれかが各排出孔4eと非連通となる位置にあっても、駆動軸8の回転により、各排出孔4eは速やかに後行する第1、2細溝16a〜16eのいずれかに連通し、排出孔4eに一時的に保持された潤滑油をその第1、2細溝16a〜16eのいずれかに排出する。このため、背圧室15bの背圧が不足することはない。
【0050】
また、各第1、2細溝16a〜16eのいずれかが各排出孔4eと非連通となる位置にあり、かつ両径孔8cが両通孔25aと非連通となる位置にある場合、つまり
図8において、Rでもなく、θでもない角度範囲にある場合も、一時的に排出孔4eに潤滑油が保持されるが、駆動軸8の回転により、各排出孔4eは速やかに後行する第1、2細溝16a〜16eのいずれかに連通し、排出孔4eに一時的に保持された潤滑油をその第1、2細溝16a〜16eのいずれかに排出する。このため、この場合も背圧室15bの背圧が不足することはない。
【0051】
特に、本実施例では、第2細溝16eは、第1細溝16a〜16dが延びる方向とは異なる方向に延びている。等間隔に配置された複数のベーン溝15aに対して、細溝16a〜16eが全て同一方向に延び、細溝16a〜16eの角度範囲θ1が等間隔になる場合と比較すると、第2細溝16eの角度範囲θ1は先行側にずれている。そのため、第2細溝16eの角度範囲θ1と、第2細溝16eとは隣接しない細溝である第1細溝16bの角度範囲θ1と重なっており、第2細溝16eと第1細溝16bとが各々排出孔4eと同時に連通する角度範囲が存在する。また、第2細溝16eの角度範囲θ1と後行する第1細溝16cの角度範囲θ1との間の角度範囲が大きくなっており、この角度範囲内に、両径孔8cが両通孔25aと連通する角度範囲Rを設定している。このため、個々の細溝の方向を変更することが望ましい。
【0052】
このような構成により、駆動軸8の停止時に、駆動軸8の位相が非連通となる位置、すなわち、両径孔8cが両通孔25aと非連通となる位置であれば、吐出室10と各背圧室15bとは非連通となり、冷媒ガスの逆流と駆動軸8の逆転とを防止できる。駆動軸8の停止時に駆動軸8の位相が連通する位置、すなわち、両径孔8cが両通孔25aと連通する位置にあっても、各第1、2細溝16a〜16eと各排出孔4eは非連通となる位置にあるため、冷媒ガスの逆流と駆動軸8の逆転とを防止することができる。
【0053】
つまり、圧縮機の運転中には、背圧供給手段において非連通となる箇所があっても背圧の供給を十分に行うことができるとともに、駆動軸8の停止時に発生する僅かな冷媒ガスの逆流と駆動軸8の逆転による駆動軸8の位相のずれに依存せずに、確実に冷媒ガスの逆流と駆動軸8の逆転を防止することができる。
【0054】
こうして、実施例1のベーン型圧縮機では、両径孔8cが角度範囲Rで両通孔25aと連通する。このため、実施例1のベーン型圧縮機では、各ベーン17が好適にシリンダ室7の内面に押し付けられるため、各ベーン7はベーン溝15a内で潤滑されるとともにチャタリングが防止され、かつ圧縮室19からの冷媒ガスの漏れが防止されて効率が向上する。
【0055】
実施例1のベーン型圧縮機と比較を行うため、比較例のベーン型圧縮機について検討する。比較例のベーン型圧縮機では、
図9に示すように、ロータ15における第2区画壁4側の後面に第1、2細溝16a〜16eが凹設されていない。また、両排出孔4eは、第2区画壁4の第2面4aにおいて、軸心Oから半径r2の位置に開いている。ロータ15の回転により、排出孔4eが各背圧室15bと連通する角度範囲はθ2である。角度範囲θ2は角度範囲θ1より大きい。他の構成は実施例1のベーン型圧縮機と同様である。
【0056】
比較例のベーン型圧縮機では、ロータ15の回転により、各排出孔4eが各背圧室15bに直接連通することとなる。この場合、ロータ15の回転に従って各排出孔4eと各背圧室15bとが連通している角度範囲θ2が大きいため、
図10に示すように、排出孔4eが各背圧室15bと連通する各角度範囲θ2の間に角度範囲Rを設定することが困難になっている。
【0057】
つまり、比較例1のベーン型圧縮機では、間欠機構又はロータ15が吐出室10と各背圧室15bとを非連通とする角度設定を行い難い。このため、各排出孔4eと各背圧室15bとの連通時間を短くするため、角度範囲θ2を狭くすることも考えられる。すなわち、背圧室15bの丸穴部15dを小さくすることも考えられる。しかし、丸穴部15dは、シリンダ15を軸方向に貫通して形成されており、小径の貫通孔を穿設するのは製造コストと工数がかかる。実施例1では、ロータ15の後面に第1、2細溝16a〜16eを凹設するだけであり、加工が容易である。
【0058】
図8に示すように、角度範囲θ1を角度範囲Rに重ならないように設定するためには、特定の細溝の延びる方向を変更し、特定の細溝が角度範囲θ1で連通するタイミングを先行側或いは後行側にずらせばよい。実施例1のベーン型圧縮機においては、第2細溝16eの延びる方向を第1細溝16a〜16dと異ならせているため、排出孔4eが第1、2細溝16a〜16eと連通するタイミングを任意に変更できる。
【0059】
したがって、実施例1のベーン型圧縮機によれば、吐出室10と背圧室15bとの間で少なくとも一箇所は非連通となり、冷媒ガス等の逆流と駆動軸8の逆転とをより確実に低減可能である。
【0060】
(実施例2)
実施例2のベーン型圧縮機では、
図11に示すように、軸支穴4bの後方に供給室2dが形成されている。供給室2dは、軸支穴4bとは駆動軸8の後端部8aによって区画されているとともに、軸支穴4bよりも径方向に大きくされている。
【0061】
また、第2区画壁4には、第1導入路23cが形成されている。第1導入路23cは、第2区画壁4の下端から上方に向って延び、軸支穴4bに開いている。軸支穴4bの内周面には、摺動層26が形成されている。摺動層26としては、スズめっきを採用している。摺動層26には、第1導入路23cと連通する第2導入路23dが貫設されている。第1導入路23c及び第2導入路23dが導入路及び上流路に相当する。フロントハウジング1の軸支穴2b内に設けられた滑り軸受12aの代わりに、図示しない摺動層も形成されている。
【0062】
さらに、第2区画壁4には、供給室2dから第2区画壁4の第2面4aまで軸方向に延びる2本の排出孔4fが形成されている。両排出孔4fも、
図12(A)及び(B)に示すように、駆動軸8の軸心Oに対して対称をなしている。両径孔8c、軸孔8b、供給室2d、両排出孔4fが下流路に相当する。駆動軸8の回転によって、第2導入路23dと径孔8cとが連通又は非連通となる。第2導入路23d及び径孔8cが間欠機構を構成している。他の構成は実施例1と同様である。
【0063】
このベーン型圧縮機では、
図12(A)に示すように、駆動軸8の位相により、第2導入路23dと両径孔8cとが非連通となれば、吐出室10と両排出孔4fとは非連通である。このため、吐出室10内の高圧の潤滑油は、第1導入路23c及び第2導入路23dまでは供給されるものの、両径孔8c、軸孔8b、供給室2d及び両排出孔4fに至らず、各背圧室15bに供給されない。
【0064】
また、
図12(B)に示すように、駆動軸8の位相により、第2導入路23dと両径孔8cとが連通すれば、吐出室10と両排出孔4fとが連通する。このため、吐出室10内の高圧の潤滑油は、第1導入路23c、第2導入路23d、両径孔8c、軸孔8b、供給室2d及び両排出孔4fに供給され、各背圧室15bに供給される。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0065】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0066】
例えば、細溝等を第2区画壁に形成することも可能である。
【0067】
軸路は、軸孔8b及び径孔8cに限られず、駆動軸8の後端部8aの外周面に軸方向に延びるように凹設された軸溝であってもよい。
【0068】
また、受入路は、通孔25a及び環状溝4dに限られず、軸支穴4bの内周面に部分的に凹設された凹部であってもよい。
【0069】
さらに、摺動層26は、軸支穴4bの内周面に形成されていても良く、駆動軸8の軸周面に形成されていても良い。