(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るマルチワイヤ放電加工機1を前方から見た外観図である。尚、
図1に示す各機構の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。
【0017】
図1は本発明におけるマルチワイヤ放電加工システム(半導体基板または太陽電池基板の製造システム)の構成を示す図である。マルチワイヤ放電加工システムは、マルチワイヤ放電加工装置1、電源装置2、加工液供給装置50から構成されている。
マルチワイヤ放電加工システムは、放電により並設された複数本のワイヤの間隔で被加工物を薄片にスライスすることができる。
【0018】
1はマルチワイヤ放電加工装置であり、1には、サーボモータにより駆動されるワーク送り装置3がワイヤ103上部に設けられ上下方向にワーク105を移動できる。本発明ではワーク105が下(重力)方向に送られ、ワーク105とワイヤ103の間で放電加工がおこなわれる。
【0019】
2は電源装置であり、2には、サーボモータを制御する放電サーボ制御回路が放電の状態に応じて効率よく放電を発生させるために放電ギャップを一定の隙間に保つように制御し、またワーク位置決めを行い、放電加工を進行させる。
【0020】
加工電源回路(
図7)は、放電加工のための放電パルスをワイヤ103へ供給するとともに、放電ギャップで発生する短絡などの状態に適応する制御を行いまた放電サーボ制御回路への放電ギャップ信号を供給する。
【0021】
50は加工液供給装置であり、50は、放電加工部の冷却、加工チップ(屑)の除去に必要な加工液をポンプによりワーク105とワイヤ103へ送液する共に、加工液中の加工チップの除去、イオン交換による電導度(1μS〜250μS)の管理、液温(20℃付近)の管理を行う。おもに水が使用されるが、放電加工油を用いることもできる。
【0022】
8,9はメインローラであり、メインローラには、所望する厚さで加工出来るようにあらかじめ決められたピッチ、数で溝が形成されており、ワイヤ供給ボビンからの張力制御されたワイヤが2つのメインローラに必要数巻きつけられ、巻き取りボビンへ送られる。ワイヤ速度は100m/minから900m/min程度が用いられる。
2つのメインローラが同じ方向でかつ同じ速度で連動して回転することにより、ワイ
【0023】
ヤ繰出し部から送られた1本のワイヤ103がメインローラ(2つ)の外周を周回し、並設されている複数本のワイヤ103を同一方向に走行させる(走行手段)ことができる。
【0024】
ワイヤ103は
図8に示すように、1本の繋がったワイヤであり、図示しないボビンから繰り出され、メインローラの外周面のガイド溝(図示しない)に嵌め込まれながら、当該メインローラの外側に多数回(最大で2000回程度)螺旋状に巻回された後、図示しないボビンに巻き取られる。
マルチワイヤ放電加工機1は、電源ユニット2と電線513を介して接続されており、電源ユニット2から供給される電力により作動する。
【0025】
マルチワイヤ放電加工機1は、
図1に示すように、マルチワイヤ放電加工機1の土台として機能するブロック15と、ブロック15の上部の中に設置されている、ブロック20と、ワーク送り装置3と、接着部4と、シリコンインゴット105と、加工液漕6と、メインローラ8と、ワイヤ103と、メインローラ9と、給電ユニット10と、給電子104と、を備えている。
図2を説明する。
図2は、
図1に示す点線16枠内の拡大図である。
【0026】
8,9はメインローラであり、メインローラにワイヤ103が複数回巻きつけられており、メインローラに刻まれた溝に従い、所定ピッチでワイヤ103が整列している。
メインローラは中心に金属を使用し、外側は樹脂で覆う構造である。
【0027】
2つのメインローラの間であって、メインローラ8,9の内部のほぼ中央部の上の部分には、給電ユニットに取り付けられた給電子104を配置し、給電子104は、上向きに露出する表面をワイヤに接触させることで走行する複数本のワイヤ103に加工電源を一括して給電する。
図3に示したように、給電子104はワイヤ103の10本と接触することで、加工電源からの放電パルス(
図6の504)を10本のワイヤに供給している。
給電子104が配置される位置は、シリコンインゴット105の両端よりワイヤの長さがほぼ等しくなる位置(511L1=511L2)に設けてある。
給電子104には、機械的摩耗に強く、導電性があることが要求され超硬合金が使用されている。
【0028】
2つのメインローラの間であって、メインローラ8,9の内部のほぼ中央部の下の部分には、ワーク送り装置3に取付けたシリコンインゴット105を配置し、ワーク送り装置3がワークを105下方向に送り出すことでスライス加工が進行する。
【0029】
メインローラの下部に加工槽6を設け、ワイヤ103およびシリコンインゴット105を浸漬し、放電加工部の冷却、加工チップの除去を行う。加工槽6は加工液を貯留し、送り出されたワークを浸漬するためのものである。
【0030】
図3のように、ワイヤ104の本数を10本に対して接触する給電子104を1個で示しているが、給電子あたりのワイヤ本数や給電子の総数は必要数に応じて増やすことは言うまでもない。
【0031】
ブロック20は、ワーク送り装置3と接合されている。また、ワーク送り部3は、シリコンインゴット105(ワーク)と接着部4により接着(接合)されている。
本実施例では、加工材料(ワーク)として、シリコンインゴット105を例に説明する。
【0032】
接着部4は、ワーク送り装置3と、シリコンインゴット105(ワーク)とを接着(接合)するためのものであれば何でもよく、例えば、電導性の接着剤が用いられる。
【0033】
ワーク送り部3は、接着部4により接着(接合)されているシリコンインゴット105を上下方向に移動する機構を備えた装置であり、ワーク105を保持した状態でワーク送り部3が下方向(重力方向)に移動することにより、シリコンインゴット105をワイヤ103の方向に近づけることが可能となる。
ワーク送り部3は給電子104よりも低い位置に配置されている。
保持するワーク105が加工液に浸漬されるように、ワーク送り部3はワーク105を周回するワイヤに接近する方向に送りしている。
加工液漕6は、加工液を貯留するための容器であり複数のメインローラ(8,9)を周回するワイヤの外側に配置されている。
【0034】
加工液は、例えば、抵抗値が高い脱イオン水である。ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間に、加工液を設けられることにより、ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間で放電が起き、シリコンインゴット105を削ることが可能となる。
【0035】
メインローラ8、9には、ワイヤ103を取り付けるための溝が複数列形成されており、その溝にワイヤ103が取り付けられている。そして、メインローラ8、9が右又は左回転することにより、ワイヤ103が走行する。
また、
図2に示すように、ワイヤ103は、メインローラ8、9に取り付けられ、メインローラ8、9の上側、及び下側にワイヤ列を形成している。
【0036】
また、ワイヤ103は、伝導体であり、電源ユニット2から電圧が供給された給電ユニット10の給電子104と、ワイヤ103とが接触することにより、当該供給された電圧が給電子104からワイヤ103に印加される。(給電子104がワイヤ103に電圧を印加している。)
【0037】
そして、ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間で放電が起き、シリコンインゴット105を削り(放電加工を行い)、薄板状のシリコン(シリコンウエハ)を作成することが可能となる。
図3を説明する。
図3は、給電子104の拡大図を示す。
給電子104(1個)はワイヤ103(10本)と接触している。
ワイヤ103同士の間隔(ワイヤのピッチ)は0.3mm程度である。
図4を説明する。
図4は従来方式であるワイヤ毎に個別に加工電流を給電する個別給電での電気回路400を示す図である。
【0038】
401は加工電源(Vm)である。放電加工に必要な電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmは60V〜150Vで任意の加工電圧に設定することができる。
【0039】
402は加工電源(Vs)である。放電を誘発するために設定される誘発電圧である。さらにワイヤとワークとの間にて極間電圧(極間電流)の状態をモニターする目的にも使用される。Vsは60V〜300Vで任意の誘発電圧に設定することができる。
403はトランジスタ(Tr2)である。加工電源VmのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
404はトランジスタ(Tr1)である。加工電源VsのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
【0040】
405は加工電流制限抵抗体の抵抗(Rm)である。固定の抵抗値を設定することで、1本毎のワイヤ電流(Iw)や極間放電電流(Ig)を制限する。Rmは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVm=60V(ボルト)、Vg=30V、Rm=10Ωとした場合で、Iw(Ig)=(60V−30V)/10Ω=3A(アンペア)となる。
【0041】
なお、上記の計算式では、加工電源(Vm)から給電点(給電子)までの電圧降下を30Vとしたが、ワイヤ抵抗(Rw)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
【0042】
つまり従来方式である個別給電方式の場合には加工電流Iwの値は、加工電流制限抵抗体の抵抗Rmにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流や放電電流(Ig)を得るためには、ワイヤ抵抗RwがRm>Rwの関係になるように設定される。
【0043】
406は誘発電流制限抵抗(Rs)である。固定の抵抗値を設定することで放電を誘発する誘発電流を制限する。Rsは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。
407は極間電圧(Vg)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間(極間)に印加される極間放電電圧である。
408は極間電流(Ig)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる極間放電電流である。
410はワイヤ1本毎に個別に供給される加工電流(Iw)である。
図5を説明する。
図5は従来方式であるワイヤ毎に個別に加工電流を給電する個別給電での電気回路400が複数本のワイヤに給電している図である。
409はワイヤ1本毎の抵抗を示すワイヤ抵抗(Rw)である。
204は個別の給電子である。シリコンインゴット105の両端の近傍に設けた、2ヶ所の個別給電子から加工電圧のパルスを印加し、放電加工を行う。
巻回するワイヤ103の本数と同数の電源回路400に接続されている。
【0044】
図6は、本発明の極間放電電圧(Vgn)及び極間放電電流(Ign)の変化とTr1、Tr2のON/OFF動作(タイミングチャート)を示す。グラフの横軸は時間である。
【0045】
まずトランジスタTr1503をONし、誘発電圧を印加する。このときワイヤ103とワーク105間(極間)は絶縁されているため、ほとんど極間放電電流は流れない。その後、極間放電電流が流れ始めて放電を開始するとVgnが電圧降下することで、放電開始を検出しTr2をONすると、大きな極間放電電流を得る。所定時間経過後にTr2をOFFする。Tr2のOFFを所定時間経過した後に再び一連の動作を繰り返す。
図7を説明する。
【0046】
図7は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電での電気回路2とワイヤ放電加工装置1との関係を示す図である。加工電流とワイヤ電流と極間放電電流が流れている状態を示している。
図7は、
図8に示す電気回路2との等価回路を示している。
【0047】
仮に
図4に示す従来方式の電気回路400を、複数のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電での電気回路にそのまま導入したとすれば、加工電源から給電点の間にて加工電流を制御するために、電流制限抵抗体Rm405の代わりに、複数のワイヤ(10本)に供給されるワイヤ電流の合計(10倍)の加工電流が供給されるように、Rmを10本(メインローラ8、9を巻回する周回数)で割った抵抗値の電流制限抵抗体を加工電源から給電点との間に設置すればよい。
まず、このように固定された抵抗値を持つRm/10本を加工電源から給電子との間に設置した場合を説明する。
【0048】
10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合には、10本のワイヤで放電電流が均等に分散されるので、固定された抵抗値(Rm/10本)に応じた放電電流が各ワイヤとワークとの間に供給されるので、過剰な放電電流の供給は問題とならない。
【0049】
しかしながら、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合には、固定された抵抗値(Rm/10本)に応じたワイヤ電流が放電状態になったワイヤとワークとの間に集中して供給されるので、過剰なワイヤ電流の供給が問題となる。つまり、10本の中で1本のみが放電状態になった場合には、本来1本のワイヤとワークに供給されるべきワイヤ電流の10倍のワイヤ電流が、放電状態になっているワイヤとワークに供給され、ワイヤが断線してしまう。
【0050】
505は配線513のインピーダンス(抵抗)である。加工電源(Vmn)マイナス側に接続する上り用のケーブルである。加工電源部(Vmn)から給電子104に加工電源を供給する。
520は配線514のインピーダンス(抵抗)である。加工電源(Vmn)プラス側に接続する下り用のケーブルである。
【0051】
本発明の配線513の抵抗値Rmn505は従来方式の加工電流制限抵抗体のように抵抗値を所定の値に固定するものではなく、10本の中で1本のみが放電状態になった場合であっても、放電状態となった本数に応じて抵抗値が変動するように制御できる機構を備えている。
【0052】
さらに、本発明の抵抗値Rmn505をワイヤ抵抗Rwn509と比べて十分に小さな抵抗値の範囲で変動させることで、加工電流を制限するにあたってRwn509の方が支配的になり、抵抗値Rmn505の影響はほぼ無視することができる。
【0053】
つまり、加工電源部501から給電子104までの間に流れ、極間ではワーク105に放電する極間放電電流になる加工電流の下限を制限する加工電流制限抵抗体を備えなくてもよいということである。
つまり、Rmnを10本(メインローラ8、9を巻回する周回数)で単純に割った抵抗値よりも小さい抵抗値にすればよいということである。
【0054】
つまり各ワイヤの抵抗Rwn509であるインピーダンスを利用することで、各ワイヤのワイヤ電流Iwnが安定して供給されるので、ワイヤ電流の集中が起こらない。
509はワイヤ1本毎のワイヤによる抵抗(Rwn)である。
【0055】
ここで給電子104から放電部までのワイヤ抵抗値とは、給電子104と接触してから、かつ走行するワイヤ(1本)による、放電部までのワイヤの長さよる抵抗である。
例えば、ワイヤ10本(メインローラ8、9を10周巻回する)に一括で給電する場合の各ワイヤ抵抗をそれぞれRw1、Rw2、〜Rw10とする。
【0056】
従来方式のように、RmnではなくRwnを1本毎のワイヤ電流(Iw)や放電電流(Ig)を制限する抵抗とすることで、1本毎のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を制限することができる。つまり給電点(給電子)と放電点(放電部)との距離(長さL)を変えることで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVmn=60V、Vgn=30V、Rwn=10Ωとした場合には、Iwn(Ign)=(60V−30V)/10Ω=3Aとなる。
【0057】
なお、上記の計算式では、ワイヤ抵抗(Rwn)による給電点から放電点までの電圧降下を30Vとしたが、加工電源から給電点までの電圧降下を起こす抵抗(Rmn)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
【0058】
つまり本発明である一括給電方式の場合にはIwnは、Rmnにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を得るためには、加工電源から給電点までの電圧降下を起こす抵抗RmnがRmn<Rwnの関係になるように設定される。
【0059】
また各ワイヤ個別のワイヤ抵抗Rwnは(1)ワイヤの材質による電気抵抗値ρ、(2)ワイヤの断面積B、(3)ワイヤの長さL、の3つのパラメータからRwn=(ρ×B)/Lの関係式によりで定めることができる。
【0060】
501は加工電源部(Vmn)である。放電加工に必要な加工電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmnは任意の加工電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも加工電流の供給量が大きくなるので、401と比べると大きな電力(加工電圧と加工電流の積)を供給する。
加工電源部501は給電子104に加工電源(Vmn)を供給する。
【0061】
502は加工電源部(Vsn)である。放電を誘発するために設定される誘発電圧である。さらにワイヤとワークとの間にて極間電圧(極間電流)の状態をモニターし、ワーク送り装置の制御に利用する目的にも使用される。Vsnは任意の誘発電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも誘発電流の供給量が大きくなるので、402と比べると大きな電力を供給する。
加工電源部502は給電子104に加工電源(Vsn)を供給する。
503はトランジスタ(Tr2)である。加工電源VmnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
504はトランジスタ(Tr1)である。加工電源VsnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
507は放電極間電圧(Vgn)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に印加される放電極間電圧である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電極間電圧をそれぞれVg1、Vg2、〜Vg10とする。
【0062】
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電圧が印加される部分が放電部である。放電部において、走行する複数のワイヤと給電子との接触により走行する複数のワイヤに一括で給電された加工電源をワークに放電する。
508は放電極間電流(Ign)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる放電極間電流である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電極間電流をそれぞれIg1、Ig2、〜Ig10とする。
【0063】
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電流が流れる部分が放電部である。放電部において、走行する複数のワイヤと給電子との接触により走行する複数のワイヤに一括で給電された加工電源をワークに放電する。
510はワイヤ1本毎に個別に供給されるワイヤ電流(Iwn)である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各ワイヤ電流をそれぞれIw1、Iw2、〜Iw10とする。
511は給電点から放電点までの距離Lであり、すなわち給電点(給電子)から放電点(ワーク)までのワイヤの長さである。
図8を説明する。
図8は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電の電気回路2により複数本のワイヤに一括給電している図である。
【0064】
104は給電子である。給電子104は走行する複数本のワイヤに一括で接触する。シリコンインゴット105と対向する位置に設けた、1ヶ所の給電子104から放電パルスを印加し、放電加工を行う。
メインローラを巻回するワイヤ103の本数(10本)に対して1つの電源回路2が接続されている。
以下、
図8の配置を参照して、ワイヤに流れる加工電流(各ワイヤ電流の合計)を説明する。
【0065】
図8に示すように、給電点(給電子104とワイヤ103が接触する位置)から放電点(ワイヤ103とワーク105との間)に流れるワイヤ電流は左右のメインローラの2方向に流れるので、各方向に対するワイヤ抵抗が存在している。
511L1は電流が左のメインローラ方向に流れた場合の給電点と放電点との長さ(距離)であり、L1の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1aとする。
511L2は電流が右のメインローラ方向に流れた場合の、放電点と給電点との長さ(距離)であり、L2の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1bとする。
ワイヤ103がメインローラ8、9を1周巻回する長さを2mとする。
給電子104は、1周巻回する長さのほぼ半分の距離に配置されているので、放電点と給電点との距離(ワイヤの長さL)を1mである。
よって給電子から放電部までを走行するワイヤの距離は0.5mよりも長い。
【0066】
ワイヤ103の材質の主成分は鉄であり、ワイヤの直径は0.12mm(断面積0.06×0.06×πmm
2)である。ワイヤの抵抗値Rw1a、Rw1bはそれぞれ、同じ長さ(L1=L2=1m)であるので各々のワイヤ抵抗値は同一の20Ω程度とすればRw1aとRw1bによる1本(メインローラ8、9を1周巻回する)の合成のワイヤ抵抗値は10Ω程度となる。
【0067】
また、
図8のようにL1及びL2の長さによるワイヤ抵抗値を同じ抵抗値にするために、L1とL2の長さが同じになるように給電子104を配置することが好ましいが、L1とL2の長さの違いが10%程度(例えばL1が1mでL2が1.1m)ことなるように給電子104を配置しても特に問題はない。
放電電圧Vg1〜Vg10がほぼ等しい場合、VmnがそれぞれのRw1〜Rw10に印加されているので、Iw1〜Iw10は全て同じワイヤ電流である。
ここでワイヤ抵抗による電圧降下値(Rw1×Iw1)と放電電圧(Vgn)からVmnを求める.
給電子104から放電部までの電圧降下は走行するワイヤの抵抗による電圧降下である。
Rw1=10Ω(給電子104から放電部までの抵抗値)。
Iw1=3A
Vgn=30Vとすれば、Vmnは以下のようになる。
Vmn=10(Ω)×3(A)+30V=60V
よって給電子から放電部までの電圧降下は10Vよりも大きい。
よって給電子から放電部までの抵抗値が1Ωよりも大きい。
尚、Rwn=(ρ×B)/Lの関係式により、ワイヤのパラメータによりワイヤ抵抗による電圧降下値を設定してもよい。
【0068】
よって、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合のRmnを計算すると、全てのワイヤで放電状態となり10本のワイヤにIw1=3Aが流れている場合は、加工電源から給電点との間では全体で10本×3A=30Aの加工電流が必要となり、この加工電源から給電点との間の電圧降下をVmnの100分の1(0.6V)とすれば、この場合のRmnは以下のようになる。
よって加工電源部から給電子104までの電圧降下は1Vよりも小さい。
よって加工電源部から給電子までの電圧降下は、給電子から放電部までの電圧降下よりも小さい。
Rmn=0.6V/30A=0.02Ω(加工電源部501から給電子104までの抵抗値)。
よって加工電源部から給電子までの抵抗値は0.1Ωより小さい。
よって加工電源部から給電子までの抵抗値が、給電子から放電部までの抵抗値よりも小さい。
よって加工電源部から給電子104までの電圧降下と給電子104から放電部までの電圧降下との比は10倍以上である。
よって加工電源部から給電子104までの抵抗値と給電子から放電部までの抵抗値との比が10倍以上である。
よってRmnを考慮して10本の加工電流をもとめると(60V−30V)/((10Ω/10本)+0.02Ω)=29.41Aとなり
ワイヤ一本当たりに割ったあとの加工電流は2.941Aとなる。
【0069】
また、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合に1本のワイヤ電流が流れたとしても、ワイヤ一本当たりに割ったあとの加工電流は(60V−30V)/(10Ω+0.02Ω)=2.994Aとなり、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合と比べても大きな差は生じない。
【0070】
また更なる効果として、複数本であるN本(メインローラ8、9をN周巻回する)のワイヤに1箇所(一括)で給電する場合には、1本のワイヤ毎に個別に給電したときの加工速度に比べて加工速度が1/Nとなるが,本発明によれば、N本のワイヤへ1箇所(一括)で給電した場合においても1本のワイヤへ個別に給電したときと同等の加工速度を維持することができる。
図9及び
図10を説明する。
【0071】
600は同軸ケーブル(同軸配線部)であり、放電加工するための電源をワイヤ放電加工装置1に供給している。同軸配線部は、配線抵抗L
Lを抑えるために、A点に加工する電流を供給する上り用配線513と加工電源部(Vmn)に加工した後の電流が戻る下り用配線514を内包している。
601Lは配線513のケーブルの物理的な長さである。
602Lは配線514のケーブルの物理的な長さである。
A点は配線513のケーブルの終点であり、給電子104と電気的に接続されている。
【0072】
B点は同軸ケーブルでの配線514のケーブルの終点であり、ここから先は配線515とさらに繋がっている。B点からC点までは単線(配線515)として分岐している。
C点は配線515の単線ケーブルの終点であり、ワーク送り部3を介してワーク105と3に電気的に接続されている。
515が単線ケーブル(単線部)であり、同軸配線部600が内包している上り用あるいは下り用のケーブルが同軸配線部600から分岐している部分である。
【0073】
さらに分岐している単線部は給電子あるいはワーク送り部3のいずれか一方側(または両方側)と電気的に接続されている。
図10の場合ではワーク送り部3と接続している場合を示している。
図11を説明する。
【0074】
電源装置から同軸ケーブル600で中継端子(A点とB点)まで配線される。中継端子までは、同軸ケーブルであるので低インピーダンスであり長さの影響は大きくない。
【0075】
放電加工を行うためワークとワイヤへ電圧を印加するため、中継端子でワーク側(+)と給電子(ワイヤ)側(−)に分離(分岐)し、それぞれへ単線の電線で配線される。
【0076】
分岐している単線部は給電子あるいはワーク送り部3のいずれか一方側(または両方側)と電気的に接続されている。
図11の場合ではワーク送り部3と接続している場合を示している。
【0077】
図11のように周回するワイヤのループの外側にワーク送り部3、給電子104が配置された場合、ワーク、給電子への単線部を、周回するワイヤとの干渉を避けるためワイヤのループの外側に電線を引き回す必要がある。
【0078】
ワーク、給電子への各単線部の長さは50cm〜1m程度必要となる。2本の合計では1m〜2mとなりこのため比較的大きなインピーダンスを持つことになり、放電するワイヤの本数により、個々の放電エネルギーが一定にならない。
図12を説明する。
【0079】
ワークと給電子をワイヤのループ内に配置する場合を説明する。ワークと給電子への配線は、電源装置からの同軸ケーブルの片側(マイナス極)を直接、給電子または給電子取付台に取付る。同軸ケーブルのプラス極は単線の電線と結線し、ワーク取付台へ配線する。
【0080】
もし給電子取付台とワーク取付台との間隔を最短距離に配置できれば、単線部の長さはワークの移動量分の電線の余裕で十分であり、ワークの移動量は標準的なシリコンインゴットの大きさ156mmであるので、ワークの移動に伴ってワークを追従するケーブル部分のみを同軸配線部から分岐すればよく、単線部515の長さは最短では20cm程度(ワーク送り部3が周回するワイヤ103に接近する方向にワーク105を送り出す距離とほぼ同等)になる。
よって、
図11と比較した場合、1/5〜1/10まで単線部の長さを短縮することができる。
【0081】
つまりこの
図12のように給電子104とワーク送り部3を内側に配置した場合には、最長でも、複数のメインローラ8,9の外周に形成され、それぞれが異なる方向に走行する2つのワイヤ走行面(上面と下面)どうしの間隔による長さ(距離)よりも、同軸ケーブル部から分岐された単線部515の長さの方が短くなる。
【0082】
なお同軸ケーブル部から分岐される単線部511は
図12のようにワーク105だけと接続する下り用の1本であってもよく、給電子104だけと接続する上り用の1本であってもよい。またにワークと接続する下り用の1本と給電子104と接続する上り用の1本の2本がそれぞれ分岐する様態であってもよい。その場合は2本を合計した単線部515の総延長が、複数のメインローラ8,9の外周に形成される、それぞれが異なる方向に走行する2つのワイヤ走行面(上面と下面)どうしの間隔による長さ(距離)よりも短ければよい。
図13を説明する。
図13は後述する理論計算の結果を表にまとめたものである。
Tr1によりパルス電圧を発生させ、ワイヤとワーク間の放電電流を制御する。
【0083】
放電電流Iは、電源電圧(Vmn)と主にインダクタンスからなる配線抵抗L
L、ワイヤ抵抗(純抵抗Rwn、インダクタンスLw)により次式により簡易的に計算することができる。(なお、厳密には放電極間電圧があるが、ここでは省略している)
配線抵抗L
Lとは、配線513、配線514、配線515の合計の抵抗成分と同じことを意味している。
放電しているワイヤが1本の場合には放電電流(アンペア)は次式で計算することができる。
I=(Vmn/Rw)*(1−e
−t/τ)
τとは放電電流の立ち上がり時間である。
τ=(L
L+Lw)/Rw
またワイヤが多数本(10本)の場合は、放電電流は次式で計算することができる。
I10=(Vmn/(Rw/n)*(1−e
−t/τ)
τ10=(L
L+(Lw/n))/(Rw/n)
ここでnは一括給電するワイヤの本数である(放電しているワイヤの本数)である。
となる。
配線抵抗L
Lは主にインダクタンスであるから、極間での放電電流(Ign)の立ち上がり時間に大きく影響する。
このように立ち上がり時間であるτ(
図15に示す)には配線抵抗L
L(インダクタンス)である電源配線の抵抗値の大小が関係する。
【0084】
もともとワイヤ放電加工装置で使用する電源供給の電源配線ケーブルによるインピーダンス(抵抗)成分は、加工電源の電圧降下の要因となり得るので、一般的にできるだけ小さいことが望ましい。
【0085】
そのため一般的なシングルワイヤでのワイヤ放電加工装置においても、電源装置からワイヤ放電加工装置の近傍まではそのインピーダンス(抵抗)成分を小さくできる同軸ケーブルを使用して配線されている。
図11に示したように、本発明のマルチワイヤ放電加工装置の中でワークと給電子がそれぞれ配置される位置は上述したように、
【0086】
(1)放電点から給電子ユニットまでのワイヤ長(ワイヤが走行する長さ)をできる限り長くすることでワイヤ長によるインピーダンス(抵抗成分)がより大きくなり、その結果、ワイヤ毎のインピーダンス(抵抗成分)が電源回路の中で支配的になり、ワイヤ毎に流れる電流値をワイヤ毎のインピーダンス(抵抗成分)で決定することができる。
【0087】
(2)給電子ユニットから放電点までの左右両側のワイヤ長(L1とL2)をできる限り等しくすることでワイヤ長によるインピーダンス(抵抗成分)もほぼ等しくなり、その結果、ワイヤ毎に流れる電流値を左右両側で等しくすることができ、ワークを左右両側(走行するワイヤの進行方向)で精度よく加工することができる。
【0088】
といった2つの理由で給電子ユニットと放電点のそれぞれが離れており、さらにワークは放電加工が進行するに伴って可動するため、電源装置から給電子に加工電源を供給して、ワイヤを流れたワイヤ電流が極間において放電を発生させ、ワークに流れた極間電流を加工電源に戻す電源回路を構成するためには、マルチワイヤ放電加工装置の近傍まで配線された同軸ケーブルから分岐された単線で配線されるケーブルは必ず必要となる。
【0089】
単線で配線されるケーブル長が長くなるとケーブル長によるインピーダンス(抵抗)成分が大きくなってしまい、配線抵抗L
L(インダクタンス)を増加させる要因となるが、
【0090】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において単線で配線されるケーブル長を出来るだけ短くすることは加工電源の電圧降下の要因となるという一般的なシングルワイヤでのワイヤ放電加工装置における一般的な理由とは異なり、各ワイヤ毎の加工エネルギーを放電状態によらず均一にすることを目的としている。
【0091】
このように、本発明のマルチワイヤ放電加工装置において単線部分のケーブルのインピーダンスをできる限り下げるためにはケーブル長はできるだけ短い方が好ましく、上述の2つの条件を満たして、最も単線部分のケーブル長が短くなるようにするには、ワーク送り部と給電子ユニットの両方を複数のメインローラの内側に配置することが最も好適である。
以下上記式を用いて理論計算した結果である。
この理論計算により立ち上がり時間であるτのバラつきと電源配線の長さの影響を示すことができる。
配線1本につきワイヤ10本へ一括給電を行うとした場合、
ワイヤ抵抗 Rwn:10Ωとし、ワイヤのインダクタンスLw:50μHと仮定する。
配線の長さが2mの時の配線抵抗L
Lを2μHとし、0.2mの時の配線抵抗L
L:0.2μHとした場合のτをそれぞれ計算した。
1301は極間で放電しているワイヤの本数である。
1302は配線抵抗とワイヤのインダクタンスを合計したものである。単位は[マイクロヘンリー]
1303はワイヤの抵抗である。
1304はτである。単位は時間[マイクロ秒]である。
1305はτのバラツキである。
放電の発生状態による影響を示す。
【0092】
表から、結果1300と結果1400を比較すると単線部の長さが0、2mの場合の方が、2mの場合と比べてτのバラツキが小さく、つまり放電するワイヤどうしで放電が立ち上がる時間[マイクロ秒]がほぼ均一にそろっていると言える。
【0093】
図14は、上述の(Vmn−Vgn)/((Rwn/ワイヤの本数)+Rmn)=加工電流の計算式を用いて、ワイヤの本数の増加にともなって変化する合計の加工電流の理論計算値を、Rmnだけを可変にして比較したグラフである。また式においてはVmn=60V、Vgn=30V、Rwn=10Ωとして加工電流の値(アンペア)を求めた。
【0094】
グラフの縦軸は合計の加工電流を示すアンペアであり、グラフの縦軸は給電子に接し、1箇所(一括)で給電されるワイヤの本数である。異なるサイズの給電子104をワイヤと接触されて給電することで、1箇所(一括)で給電されるワイヤの本数(1本、2本、10本、、、、100本)を変える事ができる。
グラフはRmn以外のパラメータを固定しRmnの抵抗値(Ω)だけをそれぞれ異なる3つの抵抗値に置き換えて比較したものである。
【0095】
グラフから、Rmnをより小さくするほど、ワイヤの本数の増加にともなって加工速度と直接関連性があるといえる加工電流の合計はワイヤの本数にほぼ比例するように増加していることがわかる。
【0096】
本発明においては、ワイヤ103とワーク105間(極間)の加工液の抵抗値は極間の距離により変化する。よって誘発電流制限抵抗であるRsn506をこの極間の加工液の抵抗値とほぼ同じ程度の値に設定することで、極間電圧(Vgn)の変動を検出することができる。
図15を説明する。
【0097】
図15はパルス電源の印加と、パルス電源の印加に伴って放電電流が立ち上がる関係を示したものである。本発明のワイヤ放電加工においては複数本のワイヤに同一パルスで同一電圧値の加工電源を一括給電した場合でも、
1.立ち上がりが早いワイヤの場合の加工(上図)
2.立ち上がりが遅いワイヤの場合の加工(下図)
【0098】
に模したように、電流と時間積つまり電気量に比例して加工エネルギーが定まる。極間における放電の発生はワイヤ毎にそれぞれ異なるので、そのため電流の立ち上がり時間が異なると、加工エネルギーが異なる。 つまり、上図の立ち上がり時間(τ)が短い場合は、電気量つまり加工エネルギーが増加し、ワークは多く加工される。
【0099】
逆に下図の立ち上がり時間(τ)が長い場合は、電気量つまり加工エネルギーが減少しワークは少なく加工される。このようにもし極間でのワイヤ毎に放電電流が安定して流れ出すまでの立ち上がり時間(τ)がばらついてしまうと、放電電流が立ち上がった後の加工エネルギーも変わってしまうので、ワイヤ毎の加工形状もバラバラになってしまう。
図16を説明する。
【0100】
図16は
図2の配置の変形例である。この場合はワーク送り部と給電子ユニットの両方を複数のメインローラの内側に配置し、L1(左側のメインローラを走行する長さ)とL2(右側のメインローラを走行する長さ)をほぼ等距離にしているが、ワーク送り部の配置と給電子ユニットの配置は鉛直方向に必ずしも整列していなくても、本発明の目的が達成される配置例を示したものである。
図17を説明する。
【0101】
図17は
図2の配置の変形例である。この場合はワーク送り部と給電子ユニットの両方を複数のメインローラの内側に配置しているが、L1(左側のメインローラを走行する長さ)とL2(右側のメインローラを走行する長さ)が異なる。この場合にはワイヤ毎に流れる電流値が左右両側異なるため、ワークを左右両側(走行するワイヤの進行方向)での精度も加工影響を受けるが、その差が10%程度であれば本発明の目的が達成される。
図18を説明する。
【0102】
図18は
図2の配置の変形例である。この場合はワーク送り部と給電子ユニットの両方を複数のメインローラの内側に配置し、L1(左側のメインローラを走行する長さ)とL2(右側のメインローラを走行する長さ)をほぼ等距離にしているが、複数のメインローラは
図2のように2か所ではなく、
図18のように4か所に配置しても、本発明の目的が達成される配置例を示したものである。給電子ユニットの数は
図2のように1カ所でなく
図18のように2か所に配置しても、本発明の目的が達成される配置例を示したものである。
【0103】
尚、本発明のマルチワイヤ放電加工システムでスライスされた半導体インゴットは、半導体用の基板または太陽電池用の基板として製造され、半導体デバイスや太陽電池として使用することができる。