特許第5786992号(P5786992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5786992センサ付き転がり軸受、自動車、鉄道車両、製鉄設備、及び工作機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786992
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】センサ付き転がり軸受、自動車、鉄道車両、製鉄設備、及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20150910BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20150910BHJP
   B25J 19/02 20060101ALI20150910BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20150910BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20150910BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20150910BHJP
   B61F 15/12 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   F16C41/00
   F16C19/06
   B25J19/02
   B23B19/02 B
   B60B35/02 Z
   B60B35/14 Z
   B61F15/12
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-45109(P2014-45109)
(22)【出願日】2014年3月7日
(62)【分割の表示】特願2010-145996(P2010-145996)の分割
【原出願日】2010年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-159875(P2014-159875A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】大平 和広
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−229078(JP,A)
【文献】 特開2006−132709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/76
41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側輪と、
固定側輪と、
前記回転側輪及び前記固定側輪間に介在する転動体と、
前記回転側輪に固定されたマグネットホルダに保持されたリング磁石と、
前記固定側輪に固定されたセンサハウジングに保持されて前記リング磁石と所定間隙を保って軸方向に対向する磁気感応センサとを備え、
前記固定側輪における前記軸方向端面より内側に前記センサハウジングの固定部に係止凹溝を形成し、
前記センサハウジングは、前記固定側輪に固定する固定部に、前記軸方向端面及び前記係止凹溝間を把持する把持部が形成され、
前記把持部は、前記固定側輪の半径方向に突出して前記軸方向端面に当接する複数の当接片と、当該当接片が当該軸方向端面に当接した状態を維持しながら前記係止凹溝に係止される係止部を有する係止片とを少なくとも備えており、
前記当接片と前記係止片とが周方向の異なる位置に設けられているセンサ付き転がり軸受。
【請求項2】
前記把持部は、前記固定側輪の半径方向両側のうち、前記係止凹溝が形成されている側とは反対側に突出して前記軸方向端面に当接する複数の当接片と、当該当接片が当該軸方向端面に当接した状態を維持しながら前記係止凹溝に係止される係止部を有する係止片とを少なくとも備えている請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受。
【請求項3】
前記当接片及び前記係止片は円周方向に交互に形成されている請求項1又は2に記載のセンサ付き転がり軸受。
【請求項4】
前記係止片は、前記センサハウジング内で前記磁気感応センサを覆うように形成したモールドの一部を前記固定部に沿わせて前記係止凹溝まで延長させた延出部で構成されている請求項1乃至3の何れか1項に記載のセンサ付き転がり軸受。
【請求項5】
前記マグネットホルダ及び前記センサハウジングを磁性体で構成し、前記マグネットホルダは前記回転側輪及び前記固定側輪間の軸受空間を覆うように配設され、前記センサハウジングは前記マグネットホルダを覆うように断面コ字状に形成されている請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ付き転がり軸受。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ付き転がり軸受を備えた自動車。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ付き転がり軸受を備えた鉄道車両。
【請求項8】
請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ付き転がり軸受を備えた製鉄設備。
【請求項9】
請求項1乃至の何れか1項に記載のセンサ付き転がり軸受を備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング磁石及び磁気感応センサを備えたセンサ付き転がり軸受、並びにこのセンサ付き転がり軸受を備えた自動車、鉄道車両、製鉄設備、及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のセンサ付き転がり軸受としては、例えば図6に示すように、センサ121を埋設したセンサキャリア123が、センサ保持装置125を介して外輪110の内径面に設けられた凹状溝116bに全周に亘ってビーディング固定され、センサ121に対向して被検出部材120が、内輪111の外径面に圧入されたL状部材122の半径方向の平面部上に配置された構成を有するセンサ付き転がり軸受が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、固定軌道輪を軌道面の両側に環状のシール溝が設けられた外輪とし、環状のセンサ保持部材に形成した突条をシール溝の一方に嵌め込んで外輪に装着し、センサ保持部材の軸方向端部に、回転軌道輪としての内輪に装着される磁気エンコーダの軸方向外側へ径方向張り出し、磁気センサが磁気エンコーダと対向する環状隙間の軸方向外側を覆う鍔部を設けるようにした回転センサ付き転がり軸受が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3352791号公報
【特許文献2】特開2008−249037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、転がり軸受を使用する際には、内輪及び外輪の軸方向端面は、予圧・固定のために使用されるが、前述した特許文献1に記載された従来例にあっては、外輪の軸方向端面がセンサキャリア123によって覆われており、外輪の軸方向端面を予圧・固定のために使用することができないという未解決の課題がある。
また、前述した特許文献2に記載された従来例にあっては、転がり軸受のシール溝にセンサ保持部材と磁気エンコーダとを配置するようにしており、内輪及び外輪の軸方向端面を開放して予圧・固定のために使用することができるものであるが、シール溝形状は、転動体の転動面や、軸受外形に対して加工精度か低いため、センサ部のアキシアルギャップを均一にすることが難しい。このため、特許文献2に記載された従来例では、センサ及び磁気エンコーダがラジアルギャップを挟んで対向されたラジアル検出方式を採用している。
【0006】
このように、転がり軸受では、一般的に、内部隙間は、ラジアル方向よりアキシアル方向の方が大きいため、より隙間の小さいラジアルギャップでセンサ部を構成するものが多いが、磁気エンコーダとセンサとを軸方向に配置するため、軸方向の高さが高くなる場合が多い。このため、アキシアルギャップでセンサ部を構成し、アキシアルギャップを均一で高精度に形成することが望まれている。
そこで、本発明は、上述した従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、アキシアルギャップを均一で高精度に形成することが可能なセンサ付き転がり軸受、自動車、鉄道車両、製鉄設備、及び工作機械を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一の形態に係るセンサ付き転がり軸受は、回転側輪と、固定側輪と、前記回転側輪及び前記固定側輪間に介在する転動体と、前記回転側輪に固定されたマグネットホルダに保持されたリング磁石と、前記固定側輪に固定されたセンサハウジングに保持されて前記リング磁石と所定間隙を保って軸方向に対向する磁気感応センサとを備え、前記固定側輪における前記軸方向端面より内側に前記センサハウジングの固定部に係止凹溝を形成し、前記センサハウジングは、前記固定側輪に固定する固定部に、前記軸方向端面及び前記係止凹溝間を把持する把持部が形成され、前記把持部は、前記固定側輪の半径方向に突出して前記軸方向端面に当接する複数の当接片と、当該当接片が当該軸方向端面に当接した状態を維持しながら前記係止凹溝に係止される係止部を有する係止片とを少なくとも備えており、前記当接片と前記係止片とが周方向の異なる位置に設けられている
【0008】
また、本発明の他の形態に係るセンサ付き転がり軸受は、前記把持部は、前記固定側輪の半径方向両側のうち、前記係止凹溝が形成されている側とは反対側に突出して前記軸方向端面に当接する複数の当接片と、当該当接片が当該軸方向端面に当接した状態を維持しながら前記係止凹溝に係止される係止部を有する係止片とを少なくとも備えている。
また、本発明の他の形態に係るセンサ付き転がり軸受は、前記当接片及び前記加締め部は円周方向に交互に形成されている。
【0009】
また、本発明の他の形態に係るセンサ付き転がり軸受は、前記係止片は、前記センサハウジング内で前記磁気感応センサを覆うように形成したモールドの一部を前記固定部に沿わせて前記係止凹溝まで延長させた延出部で構成されている。
また、本発明の他の形態に係るセンサ付き転がり軸受は、前記マグネットホルダ及び前記センサハウジングを磁性体で構成し、前記マグネットホルダは前記回転側輪及び前記固定側輪間の軸受空間を覆うように配設され、前記センサハウジングは前記マグネットホルダを覆うように断面コ字状に形成されている。
【0010】
また、本発明の一の形態に係る自動車は、上記センサ付き転がり軸受を備える
また、本発明の一の形態に係る鉄道車両は、上記センサ付き転がり軸受を備える
また、本発明の一の形態に係る製鉄設備は、上記センサ付き転がり軸受を備える
また、本発明の一の形態に係る工作機械は、上記センサ付き転がり軸受を備える
【発明の効果】
【0011】
本発明のセンサ付き転がり軸受によれば、磁気感応センサを保持するセンサハウジングの転がり軸受の固定側輪への固定部に、固定側輪に設けた係止凹溝と軸方向端面との間を把持する把持部を形成したので、この把持部で固定側輪の軸方向端面を基準面として磁気感応センサを配置することができ、磁気感応センサ及びリング磁石間のアキシアルギャップを均一に高精度で形成することができる。
また、把持部を固定側輪の半径方向に突出して固定側輪の軸方向端面に当接する当接片と固定側輪に形成した係止凹溝に係止される加締め部とを少なくとも有する構成とすることで、固定側輪の軸方向端面に当接する当接片を介して固定側輪の予圧・固定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るセンサ付き転がり軸受の第1の実施形態を示す断面図である。
図2】リング磁石の極性構造を示す平面図である。
図3】センサハウジングを示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のA −A線上の断面図、(c)は(a)のB−B線上の断面図である。
図4】磁気感応センサ及び基板を示す断面図である。
図5】本発明に係るセンサ付き転がり軸受の第2の実施形態を示す断面図である。
図6】従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るセンサ付き転がり軸受の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示す縦断面図である。図中、1は自動車、鉄道車両、製鉄設備、工作機械等の回転軸に適用して回転速度を検出するセンサ付き転がり軸受である。
このセンサ付き転がり軸受1は、互いに対向する回転側輪としての軸受内輪2及び固定側輪としての軸受外輪3と、これら軸受内輪2及び軸受外輪3間に介在された多数の転動体4とで転がり軸受5が構成されている。ここで、軸受内輪2及び軸受外輪3のそれぞれは、互いの対向面の軸方向の一端側に端面から所定距離だけ転動体4側に円周方向の係止凹溝6及び7が形成されている。これら係止凹溝6及び7としては、転がり軸受のシール溝を使用することができ、このシール溝を使用することにより、特別な加工を施すことなく溝形成を行うことができる。
【0014】
軸受内輪2には、リング磁石11を保持する磁性体で構成されるマグネットホルダ12が固定されている。また、軸受外輪3には、マグネットホルダ12を覆うようにホール素子等の磁気感応センサ15を保持する磁性体で構成されるセンサハウジング16が固定されている。
マグネットホルダ12は、軸受内輪2の係止凹溝6に係止される加締め部12aを形成した軸受内輪2の軸方向端部より外方に僅かに突出する円筒部12bと、この円筒部12bの軸方向突出端部から半径方向に転がり軸受5の軸受内輪2及び軸受外輪3間の軸受空間の一部を覆うように延出する円環状板部12cと、この円環状板部12cの外周縁から軸方向外方に突出する円筒状のフランジ部12dとから構成されている。
【0015】
そして、マグネットホルダ12の円筒部12bの先端が円周方向に所定間隔で係止凹溝41に加締められて加締め部12aが形成されている。
ここで、円筒部12bの加締め部12aの円周方向の加締め箇所数は、特許第4269642号公報に記載されているように、正の整数をn、転動体4の数をZ、2以上の整数をXとしたとき、
(加締め箇所の数)=nZ±X …………(1)
に基づいて算出することが好ましい。このように加締め箇所数を算出することにより、転がり軸受5に発生する可能性のある異音や振動等を低減することができる。
【0016】
そして、リング磁石11が円環状板部12c及びフランジ部12dに接触した状態で、軸受空間の半径方向の略中央位置となるように例えば接着剤で固定保持されている。リング磁石11は、図2に示すように、平面から見て、円周方向にN極及びS極となるようにアキシアル着磁された円弧状の磁石片11aを隣接する磁極が異極性となるように8個連結して、円周方向にN極及びS極が交互に整列された着磁パターンとなるように構成されている。
【0017】
センサハウジング16は、軸受外輪3に固定される軸受外輪3の半径方向厚みの中央部程度の外径を有する外筒部16aと、この外筒部16aの外方端から半径方向に内方に軸受内輪2まで延長する円環状板部16bと、この円環状板部16bの内方端から軸受内輪2の軸方向端部に向かって延長し、軸受内輪2に僅かな空隙20aを空けて対向する内筒部16cとでリング磁石11を3方から覆う断面コ字状に形成されている。
【0018】
ここで、外筒部16aには、図3に示すように、下端部に把持部16dが形成されている。この把持部16dは、外筒部16aの下端部を16分割するスリットを形成し、そのうちの1つ置きの8個の分割片を、図3(b)に示すように、半径方向外方に略90°折り曲げて形成した半径方向に突出して軸受外輪3の軸方向端面に当接して軸受外輪3の外径面まで延長する当接片16eと、残りの8個の分割片の下端に、図3(c)軸受外輪3に形成した係止凹溝7に係止される加締め部で構成される係止部16fを有する係止片16gとを少なくとも備えている。
ここで、係止片16gの係止部16fは、当接片16eを軸受外輪3の軸方向端面に当接させた状態を維持しながら軸受外輪3に形成した係止凹溝7に係止されるように構成され、当接片16eと係止片16gの係止部16fとで軸受外輪3の軸方向端面と係止凹溝7との間を把持する。
【0019】
そして、センサハウジング16には、図4に示す磁気感応センサ15を実装した円環状の基板17が、円環状板部16bに磁気感応センサ15がリング磁石11に所定間隔のアキシアルギャップを保って対向するように装着されている。
ここで、磁気感応センサ15は、軸受内輪2に嵌挿される回転軸の回転速度を検出するためには、少なくとも1つの磁気感応センサ15を配置すれば良く、回転速度と回転方向とを検出するためには、磁気感応センサ15に対してリング磁石11の着磁パターンに対して90度の位相差を持つようにもう1つの磁気感応センサ15′を配置すれば良い。
【0020】
この磁気感応センサ15(又は15及び15′)は、合成樹脂材のモールド18によって覆われており、モールド18とリング磁石11との対向面間に所定間隙のアキシアルギャップ19が形成されている。
したがって、アキシアルギャップ19は、磁性体で構成されるマグネットホルダ12及びセンサハウジング16によって四方から囲まれている。
【0021】
また、モールド18には、センサハウジング16の内筒部16cに沿って軸受内輪2側に突出し、マグネットホルダ12の円環状板部12c及びリング磁石11に対して僅かな空隙部20b及び20cを介して対向する円筒部18aが形成されている。
そして、センサハウジング16の内筒部16cの下端と軸受内輪2の軸方向端面との間の空隙部20aと、モールド18の円筒部18aとマグネットホルダ12の円環状板部12c及びリング磁石11の内径面との間の空隙部20b及び20cと、アキシアルギャップ19、マグネットホルダ12のフランジ部12dとセンサハウジング16の内筒部16aとの間の空隙部20dとでラビリンス20が形成されている。
【0022】
また、基板17には、図4に示すように磁気感応センサ15から出力される磁界強度に応じた例えば正弦波状の電気的検出信号を信号処理してパルス検出信号に変換する信号処理回路21を備えており、この信号処理回路21で信号処理されたパルス検出信号が信号線22を介して外部の回転速度測定装置に出力される。
【0023】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
今、転がり軸受5の軸受外輪3をハウジング等の固定部に固定するとともに、軸受内輪2内にブラシレスモータ等の三相電動モータ(図示せず)に連結された回転軸(図示せず)を嵌挿した組付状態とする。この状態で、三相電動モータを回転駆動させると、これに応じて軸受内輪2が回転されて、リング磁石11が回転することにより、このリング磁石11に対向して配設された磁気感応センサ15でリング磁石11の着磁パターンに応じた磁界を検出して、軸受内輪2の回転速度に応じた周波数の例えば正弦波でなる検出信号を出力する。
この検出信号を基板17上に実装された信号処理回路21で信号処理してパルス検出信号に変換し、このパルス検出信号が信号線22を介して外部の回転速度測定装置に出力される。この回転速度測定装置では、単位時間当たりのパルス検出信号数を計数するか又はパルス信号のパルス間隔を計測することにより、回転速度を求めることができる。
【0024】
また、磁気感応センサ15を2つ配置した場合には、2つの磁気感応センサ15及び15′から90度位相の異なる正弦波信号が出力されることにより、両センサ15及び15′間の位相差に基づいて回転方向を検出することができる。
このようにして、磁気感応センサ15(又は15及び15′)によってリング磁石11で発生される磁界を検出することにより、回転速度(又は回転速度及び回転方向)を検出することができるものであるが、前述したようにブラシレスモータ等の三相電動モータが近接配置されている場合には、この三相電動モータで発生される電気ノイズに起因する外部磁界がリング磁石11で形成される磁界を乱すおそれがある。
【0025】
しかしながら、上記第1の実施形態では、マグネットホルダ12及びセンサハウジング16が磁性体で構成され、これらマグネットホルダ12及びセンサハウジング16でリング磁石11、磁気感応センサ15及びそれら間のアキシアルギャップ19を四方から覆うようにしている。
このため、これらリング磁石11、磁気感応センサ15及びアキシアルギャップ19が外部に晒されることを防止することができるとともに、マグネットホルダ12及びセンサハウジング16が磁気シールドとしての機能を発揮することができる。この磁気シールド機能によって、近接配置された三相電動モータ等で発生される電気ノイズに起因する外部磁界の変化を遮蔽することができ、リング磁石11で発生する磁界が外部磁界によって乱れることを抑制して磁気感応センサ15によってリング磁石11で発生する磁界を正確に検出して正確な検出信号を出力することができる。
【0026】
また、磁気感応センサ15を円環状の基板17に実装したので、複数の磁気感応センサ15を配置する場合に、基板17上で所定の位相差を有して正確に配置することができる。
さらに、磁気感応センサ15をモールド18で覆うようにしているので、磁気感応センサ15を構成するIC部を外界から保護することが可能となり、センサIC部の防塵及び防水性を高めることができる。
【0027】
また、センサハウジング16が固定側輪となる軸受外輪3に把持部16dによって当接片16eを軸受外輪3の軸方向端面に当接させた状態で、係止片16gの係止部16fを軸受外輪3に形成した係止凹溝7に加締めるようにして、係止凹溝7及び軸受外輪3の軸方向端面間を把持するようにしているので、センサハウジング16を軸受外輪3に強固に固定することができる。
【0028】
しかも、センサハウジング16が軸受外輪3の高精度に仕上げられた軸方向端面を基準面として固定されることになり、センサハウジング16に保持された磁気感応センサ15の位置を正確に位置決めすることができる。このため、磁気感応センサ15とリング磁石11との間のアキシアルギャップ19を均一に高精度で形成することができる。
さらに、当接片16eが軸受外輪3の軸方向端面に当接しているので、この当接片16eを介して軸受外輪3に図1に矢印で示した押圧力を作用させることができ、当接片16eを軸受外輪3の予圧・固定のために使用することができる。
【0029】
また、センサハウジング16の軸受外輪3への固定部に当接片16e及び係止片16gを円周方向に交互に形成したので、係止片16gの係止部16fを加締める際に加える加締め力が直接当接片16eに影響を与えることがなく、当接片16eと軸受外輪3の軸方向端面との当接状態が変化することを防止することができる。
さらに、ラビリンス20を形成する各空隙部20a〜20dは数mm以下とすることが可能であるので、異物の侵入を防ぐことが可能となる。また、外部からの磁性異物がラビリンス20内に侵入した場合には、リング磁石11の内径面で吸着されるので、アキシアルギャップ19すなわち回転位置検出面への侵入を確実に防止することができるとともに、転がり軸受5の内部への侵入も確実に防止することができる。
【0030】
なお、上記第1の実施形態においては、マグネットホルダ12を、軸受内輪2に形成した係止凹溝6に加締める場合について説明したが、これに限定されるものではなく、軸受内輪2の外径面に軸方向端面より小径の小径部を形成して段部を形成し、この段部にマグネットホルダ12の円筒部12bを圧入固定するようにしてもよく、この場合には、段部を高精度に形成することにより、リング磁石11の位置決めを高精度に行うことができる。このため、リング磁石11及び磁気感応センサ15間のアキシアルギャップ19をより均一に形成することができる。
また、上記第1の実施形態においては、モールド18に形成した円筒部18aによってラビリンス20を形成する空隙部20b及び20cを形成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、円筒部18aを省略してラビリンスの形成を省略することもできる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態を図5について説明する。
この第2の実施形態では、センサハウジング16に形成した把持部16dを当接片16eと、モールド18に形成した延出部とで形成するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図5に示すように、前述した第1の実施形態における図1の構成において、係止片16gを省略し、これに代えて係止片16gの位置にモールド18の外径部からセンサハウジング16の外筒部16aに沿って下方に延長する延出部18bを形成し、この延出部18bの下端に当接片16eを軸受外輪3の軸方向端面に当接させた状態で、係止凹溝7に係止される係止部18cを形成し、さらに軸受内輪2の軸方向端面に、軸方向端面より所定距離だけ転動体4側に段部31を形成するとともに、マグネットホルダ12の加締め部12aを省略し、この段部31にマグネットホルダ12の円筒部12bを圧入固定したことを除いては前述した図1と同様の構成を有し、その詳細説明はこれを省略する。
【0032】
この第2の実施形態によると、軸受内輪2に形成した段部31にマグネットホルダ12の円筒部12bを圧入固定するようにしたので、段部31を高精度に形成することにより、マグネットホルダ12に保持されているリング磁石11の軸方向位置を正確に位置決めすることができ、このリング磁石11と磁気感応センサ15との間のアキシアルギャップ19をより均一に形成することができる。
【0033】
また、センサハウジング16に形成した把持部16dを当接片16eとモールド18の延出部18bとで形成するようにしたので、モールド18の延出部18bの弾性変形量を第1の実施形態におけるセンサハウジング16の係止片16gに比較して大きい弾性変形量とすることができるので、軸受外輪3へのセンサハウジング16の装着をより容易に行うことができる。しかも、モールド18の延出部18bは、モールド成形によって一体成形できるので、容易に製作することができる。
【0034】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、磁気感応センサ15がホール素子等のアナログタイプである場合について説明したが、これに限定されるものではなく、リング磁石11の磁界を検出して直接パルス検出信号を出力するデジタルタイプの磁気感応センサを適用することもでき、この場合には信号処理回路21を省略することができる。また、磁気感応センサ15は、ホール素子等に限らず、他の磁気感応センサを適用することができる。たとえば、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)を適用した場合には、磁気検知の感度を広げ、軸受内部すき間が比較的大きいアキシアル方向でもより正確に検出することが可能となる。
【0035】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、軸受内輪2を回転側輪とし、軸受外輪3を固定側輪とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、軸受内輪2をハウジング等に固定して固定側輪とし、軸受外輪3を回転軸に内嵌して回転側輪とする場合でも本発明を適用することができる。この場合には、リング磁石11を保持するマグネットホルダ12を軸受外輪3側に固定し、磁気感応センサ15を保持するセンサハウジング16を軸受内輪2側に固定するようにすればよい。
【0036】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、リング磁石11が8個の磁石片11aを連結して構成されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、リング磁石11の磁極数は、センサ付き転がり軸受1の使用状況に応じて任意数に設定することができる。
また、上記実施形態においては、本発明をラジアル転がり軸受に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、スラスト転がり軸受にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…センサ付き転がり軸受、2…軸受内輪、3…軸受外輪、4…転動体、5…転がり軸受、11…リング磁石、12…マグネットホルダ、12a…加締め部、12b…円筒部、12c…円環状板部、12d…フランジ部、15…磁気感応センサ、16…センサハウジング、16a…外筒部、16b…円環状板部、16c…内筒部、16d…把持部、16e…当接片、16f…係止部、16g…係止片、17…基板、18…モールド、18a…円筒部、18b…延出部、18c…係止部、19…アキシアルギャップ、20…ラビリンス、21…信号処理回路、22…信号線
図1
図2
図3
図4
図5
図6