(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る非水電解質二次電池用活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、高い放電容量が得られる点から、Co、Ni及びMnを含む遷移金属元素、並びに、Liを含有し、前記遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1.25〜1.60であり、前記遷移金属元素Me中のCoのモル比Co/Meが0.02〜0.23であり、前記遷移金属元素Me中のMnのモル比Mn/Meが0.63〜0.72であればよい。
【0017】
リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Li
aCo
xNi
yMn
zO
2(a+x+y+z=2)で表され、a/(x+y+z)が1.25〜1.60であり、x/(x+y+z)が0.02〜0.23であり、z/(x+y+z)が0.63〜0.72であることが好ましい。
遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1.25〜1.60(a/(x+y+z)が1.25〜1.60)、Meに対するCoのモル比Co/Meが0.02〜0.23(x/(x+y+z)が0.02〜0.23)、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.63〜0.72(z/(x+y+z)が0.63〜0.72)を満たすリチウム遷移金属複合酸化物を活物質として用いることにより、放電容量が大きいリチウム二次電池を得ることができる。
【0018】
遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1.25よりも小さい、又はLi/Meが1.60よりも大きいと、放電容量が小さくなるので、放電容量が大きいリチウム二次電池を得るために、Li/Meは1.25〜1.60(a/(x+y+z)は1.25〜1.60)とする。
なかでも、初期充放電効率が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという観点から、前記遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1.25〜1.40であるものを選択することが好ましい。
【0019】
遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meが0.02よりも小さい、又はCo/Meが0.23よりも大きいと、放電容量が小さくなると共に、初期充放電効率が低くなるので、放電容量が大きく、初期充放電効率が優れたリチウム二次電池を得るために、Co/Meは0.02〜0.23(x/(x+y+z)は0.02〜0.23)とする。Co/Meは0.04〜0.21が好ましく、0.06〜0.17がより好ましい。
【0020】
遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.63よりも小さいと、放電容量が小さくなり、Mn/Meが0.72よりも大きいと、放電容量が小さくなると共に、初期充放電効率が低くなるので、放電容量が大きく、初期充放電効率が優れたリチウム二次電池を得るために、Mn/Meは0.63〜0.72(z/(x+y+z)は0.63〜0.72)とする。Mn/Meは0.65〜0.71が好ましい。
【0022】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO
2構造を有している。空間群としてはP3
112又はR3‐mに帰属可能である。ここで、P3
112は、R3‐mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3‐mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P3
112モデルが採用される。なお、「R3‐m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
本願明細書では、以下、結晶構造に関し、「(003)面」、「(104)面」、「(108)面」及び「(110)面」というミラー指数を用いて説明をするが、これらは結晶構造モデルとして空間群R3−mに帰属した場合のミラー指数である。一方、結晶構造モデルとして空間群P3
112に帰属した場合、上記に対応するミラー指数はそれぞれ「(003)面」、「(114)面」、「(118)面」及び「(300)面」となる。従って、結晶構造モデルとして空間群P3
112に帰属した場合には、本願明細書中の「(104)面」との記載は「(114)面」と、「(108)面」との記載は「(118)面」と、「(110)面」との記載は「(300)面」と、それぞれ読み替えて解釈されなければならない。
【0023】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、前記したように、電位4.8V(vs.Li/Li
+)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上六方晶構造の単一相として観察されるものであることを特徴としている。なかでも、電位5.0V(vs.Li/Li
+)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上六方晶構造の単一相として観察されるものであることが好ましい。
【0024】
ここで、「電位4.8V(vs.Li/Li
+)まで電気化学的に酸化したとき」とは、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用活物質を含有する電極を作用極とし、対極、参照極および電解質を備えた電気化学セルを構成し、金属リチウムによって構成される参照極の電位に対する作用極の電位を4.8Vとすればよく、具体的な条件としては、後述する実施例に記載する通りとすればよい。
【0025】
また、「エックス線回折図上六方晶構造の単一相として観察される」との要件を満たすには、エックス線回折測定によって得られた回折パターンのうち、最大強度を示すピークを回折図のフルスケール内に収まるように描画したとき、目視上、六方晶の(003)面に帰属されるピークにスプリットが観察されないことをもって足る。後述する比較例1の測定にあたっては、SPring−8を採用したが、必ずしもこのような測定方法又は測定条件を採用する必要はなく、他の実施例や比較例において用いているように、CuKα線源を用いたエックス線回折測定装置のような一般的な装置を用いることで、「エックス線回折図上六方晶構造の単一相として観察される」か否かを区別できる。
【0026】
次に、本発明のリチウム二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明の非水電解質二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を、目的とする活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)の組成通りに含有するように原料を調整し、最終的にこの原料を焼成すること、によって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0027】
目的とする組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を作製するための方法として、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくい。このため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。本発明に係る非水電解質二次電池用活物質を製造するにあたり、前記「固相法」と前記「共沈法」のいずれを選択するかについては限定されるものではない。しかしながら、「固相法」を選択した場合には、本発明に係る正極活物質を製造することは極めて困難である。「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である点で好ましい。
【0028】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO
2)等を用いることができる。なかでも、後述する実施例のように、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0029】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、8.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電特性を向上させることができる。
【0030】
前記共沈前駆体の作製は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。ただし前駆体は水酸化物に限定されるものではなく、他にも炭酸塩、クエン酸塩などの元素が原子レベルで均一に存在した難溶性塩であれば水酸化物と同様に使用することができる。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0031】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0032】
前記共沈前駆体の作製に用いる原料としては、アルカリ水溶液と沈殿反応を形成するものであればどのような形態のものでも使用することができるが、好ましくは溶解度の高い金属塩を用いるとよい。
【0033】
本発明におけるリチウム二次電池用活物質は前記共沈前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。
【0034】
可逆容量の大きな活物質を得るにあたって、焼成温度の選択は極めて重要である。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li
1/3Mn
2/3]O
2型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向があり、このような材料は、活物質の可逆容量が大きく減少するので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが重要である。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0035】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性も大きく低下するので好ましくない。焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが必要である。十分に結晶化させることは結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すために重要である。結晶化の度合いの見極め方として走査型電子顕微鏡を用いた視覚的な観察が挙げられる。本発明の正極活物質について走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、試料合成温度が800℃以下ではナノオーダーの一次粒子から形成されているものであったが、さらに試料合成温度を上昇させることでサブミクロン程度まで結晶化するものであり、電極特性向上につながる大きな一次粒子を得られるものであった。
また、発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することで800℃までの温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が1%以下、かつ結晶子サイズが100nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは50nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。即ち、焼成温度を上記した活物質の酸素放出温度にできるだけ近付けるように選択することにより、はじめて、可逆容量が顕著に大きい活物質を得ることができる。
【0036】
上記のように、好ましい焼成温度は、活物質の酸素放出温度により異なるから、一概に焼成温度の好ましい範囲を設定することは難しいが、本発明においては、Li/Meが1.25〜1.60である場合に放電容量を充分なものとするために、焼成温度を800〜1000℃とすることが好ましく、850〜1000℃とすることがより好ましい。
【0037】
本発明に係るリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO
4,LiBF
4,LiAsF
6,LiPF
6,LiSCN,LiBr,LiI,Li
2SO
4,Li
2B
10Cl
10,NaClO
4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO
4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF
3SO
3,LiN(CF
3SO
2)
2,LiN(C
2F
5SO
2)
2,LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2),LiC(CF
3SO
2)
3,LiC(C
2F
5SO
2)
3,(CH
3)
4NBF
4,(CH
3)
4NBr,(C
2H
5)
4NClO
4,(C
2H
5)
4NI,(C
3H
7)
4NBr,(n−C
4H
9)
4NClO
4,(n−C
4H
9)
4NI,(C
2H
5)
4N−maleate,(C
2H
5)
4N−benzoate,(C
2H
5)
4N−pht
halate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0039】
さらに、LiBF
4とLiN(C
2F
5SO
2)
2のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0040】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0041】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0042】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを
放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li
1/3Ti
5/3]O
4に代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0043】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0044】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0045】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0046】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0047】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0048】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0049】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0050】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0051】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0052】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0053】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0054】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0055】
リチウム二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0056】
従来の正極活物質も、本発明の活物質も、正極電位が4.5V(vs.Li/Li
+)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li
+)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られるリチウム二次電池が求められる場合がある。本発明の活物質を用いると、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li
+)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li
+)以下や4.3V(vs.Li/Li
+)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
【0057】
本発明に係る正極活物質が、高い放電容量を備えたものとするためには、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素が層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分に存在する割合が小さいものであることが好ましい。これは、焼成工程に供する前駆体において、Co,Ni,Mnといった遷移金属元素が十分に均一に分布していること、及び、活物質試料の結晶化を促すための適切な焼成工程の条件を選択することによって達成できる。焼成工程に供する前駆体中の遷移金属の分布が均一でない場合、十分な放電容量が得られないものとなる。この理由については必ずしも明らかではないが、焼成工程に供する前駆体中の遷移金属の分布が均一でない場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分、即ちリチウムサイトに遷移金属元素の一部が存在するものとなる、いわゆるカチオンミキシングが起こることに由来するものと本発明者らは推察している。同様の推察は焼成工程における結晶化過程においても適用でき、活物質試料の結晶化が不十分であると層状岩塩型結晶構造におけるカチオンミキシングが起こりやすくなる。前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。本発明において、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比は、I
(003)/I
(104)≧1.20であることが好ましく、I
(003)/I
(104)≧1.40であることがより好ましく、I
(003)/I
(104)≧1.50であることが特に好ましい。本願明細書の実施例に示した正極活物質は、比較例も含めて全て、正極活物質が合成によって得られた段階、即ち、未だ充放電に供していない状態において、I
(103)/I
(104)≧1.58であった。また、充放電を経た放電末の状態においてI
(103)/I
(104)>1であることが好ましい。前駆体の合成条件や合成手順が不適切である場合、前記ピーク強度比はより小さい値となり、しばしば1未満の値となる。
本願明細書に記載した合成条件及び合成手順を採用することにより、上記のような高性能の正極活物質を得ることができる。とりわけ、充電上限電位を4.5Vより低く設定した場合、例えば4.4Vや4.3Vといった充電上限電位を設定した場合でも高い放電容量を得ることができる非水電解質二次電池用正極活物質とすることができる。
【0058】
(実施例1)
硫酸コバルト7水和物4.6873g、硫酸ニッケル6水和物6.5743g及び硫酸マンガン5水和物22.110gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co;Ni:Mnのモル比が12.5:18.75:68.75となる0.67Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2dm
3の反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、CO
2ガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCO
2を溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、0.67Mの炭酸ナトリウム及び0.067Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に8.6(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに1h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
【0059】
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、100℃にて乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
【0060】
前記共沈炭酸塩前駆体2.3040gに、炭酸リチウム0.9436gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が130:100である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、900℃で10h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0061】
得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、組成分析の結果、Li
1.13Co
0.11Ni
0.16Mn
0.60O
2という組成を有していた。また、CuK
α管球を用いた粉末エックス線回折測定の結果、α−NaFeO
2型の六方晶構造が主相として確認された。
【0062】
(比較例1)
Co、Ni及びMnの各元素がそれぞれ12.5:18.75:68.75のモル比で溶解している硫酸塩水溶液を作製した。一方、イオン交換水を満たした反応槽の温度を70℃に保ち、NaOH水溶液を滴下してpHを10.3に調整した。次いで、不活性ガスをバブリングさせることによって、溶存酸素を除去した。この反応層には、反応槽内部の液面が一定の高さを超えるとその排出口から溶液が排出されるように排出口が設けられている。また、反応槽内には、撹拌羽が備えられていると共に、攪拌時に上下方向の対流を生じさせるための円筒型の対流板が固定されている。反応槽内を攪拌させながら、前記硫酸塩水溶液を11.5ml/minの送液速度で滴下した。前記硫酸塩水溶液を滴下している間、前記排出口から反応生成物を含む溶液一部が反応槽の外へ排出されるが、前記硫酸塩水溶液の全量を滴下し終わるまでの排出溶液は、反応槽内に戻さず、廃棄した。滴下操作を継続している間、反応槽の温度を70℃に保つと共に、pHを監視しながらpHが常に10.3±0.1の範囲内に収まるようにNaOH水溶液を適宜滴下した。滴下終了後、攪拌を停止し、12h以上静止した。次に、共沈生成物を濾別し、空気雰囲気中、常圧下において、オーブンで140℃にて乾燥させた。乾燥後、共沈生成物を粒径を揃える程度に軽く粉砕した。これにより乾燥粉末を得た。
【0063】
前記乾燥粉体に、Li:(Co+Ni+Mn)のモル比が150:100となるように水酸化リチウムを加え、さらにエタノールを加えて湿式混合した。この混合物約5kgを匣鉢に移し、焼成炉に設置し、1000℃で焼成した。焼成炉の温度を常温に戻した後、焼成物を取り出し、粒径を揃える程度に乳鉢で粉砕した。このようにして、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0064】
得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、組成分析の結果、Li
1.2Co
0.1Ni
0.15Mn
0.55O
2という組成を有していた。また、CuK
α管球を用いた粉末エックス線回折測定の結果、α−NaFeO
2型の六方晶構造が主相として確認された。
【0065】
(比較例2)
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と水酸化コバルト(Co(OH)
2)と水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)とオキシ水酸化マンガン(MnOOH)とを、Li、Co、Ni、Mnの各元素が、150:12.5:18.75:68.75の比率となるように秤量し、乳鉢をもちいて各原料を十分に混合および粉砕した。次いで、得られた混合物2gを空気中において1000℃で12時間焼成した。このようにして、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0066】
得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、組成分析の結果、Li
1.2Co
0.1Ni
0.15Mn
0.55O
2という組成を有していた。また、CuK
α管球を用いた粉末エックス線回折測定の結果、α−NaFeO
2型の六方晶構造が主相として確認された。
【0067】
(比較例3)
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と水酸化コバルト(Co(OH)
2)と水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)とオキシ水酸化マンガン(MnOOH)とを、Li、Co、Ni、Mnの各元素が、130:12.6:18.4:69.0の比率となるように秤量し、乳鉢をもちいて各原料を十分に混合および粉砕した。次いで、得られた混合物2gを空気中において900℃で10時間焼成した。このようにして、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0068】
得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、組成分析の結果、Li
1.13Co
0.11Ni
0.16Mn
0.60O
2という組成を有していた。また、CuK
α管球を用いた粉末エックス線回折測定の結果、α−NaFeO
2型の六方晶構造が主相として確認された。
【0069】
(非水電解質二次電池の作製及び評価)
実施例1及び比較例1、2のそれぞれのリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0070】
正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、質量比85:8:7の割合で混合した。この混合物を、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、PVdFについては、固形分が溶解分散された液を用いることによって、固形質量換算した。該塗布液を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に塗布し、正極板を作製した。
【0071】
対極(負極)には、正極の単独挙動を観察するため、リチウム金属を用いた。このリチウム金属は、ニッケル箔集電体に密着させた。ただし、非水電解質二次電池の容量が十分に正極規制となるような調製が実施された。
【0072】
電解液としては、EC/EMC/DMCの体積比が6:7:7である混合溶媒に、LiPF
6を、その濃度が1mol/lとなるように溶解させたものを用いた。セパレータとしては、ポリアクリレートを用いて表面改質することによって電解質の保持性を向上させた、ポリプロピレン製の微孔膜を用いた。また、ニッケル板にリチウム金属箔をはりつけたものを、参照極として用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。この外装体に、正極端子、負極端子および参照極端子の開放端部が、外部に露出するように電極を収納した。前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を、注液孔となる部分を除いて、気密封止した。
【0073】
上記のようにして作製された非水電解質二次電池に対して、25℃の下、2サイクルの初期充放電工程を実施した。電圧制御は、全て、正極電位に対して行った。充電は、電流0.1CmA、電圧4.6Vの定電流定電圧充電とした。充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
【0074】
続いて、充放電サイクル試験を行った。電圧制御は、全て、正極電位に対して行った。充放電サイクル試験の条件は、充電電圧を4.3V(vs.Li/Li
+)としたことを除いては、前記初期充放電工程の条件と同一である。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。この充放電サイクル試験における1サイクル目の放電電気量及び30サイクル目の放電電気量を「放電容量(mAh/g)」として、1サイクル目の放電電気量に対する30サイクル目の放電電気量の比率を「容量維持率(%)」として記録した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示されるように、実施例1と比較例1とは、共に、「共沈法」を採用しているにも関わらず、充放電サイクル性能の点で差が見られた。また、実施例1の「共沈法」を採用した場合と比較例2及び比較例3の「固相法」を採用した場合とでは、充放電サイクル性能の点で差が見られた。
【0077】
この原因を調べるため、実施例1及び比較例1〜3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いて、上記と同一の手順にてそれぞれ複数個の非水電解質二次電池を作製した。作成した全ての非水電解質二次電池について、それぞれ1回の初期充電を行った。電圧制御は、全て、正極電位に対して行った。前記初期充電の条件は、電流0.1CmAとし、充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。但し、充電電圧については、同一処方の電池に対して異なる電圧値を採用した。例えば、比較例1については9個の電池を作製し、このうち8個の電池に対し、それぞれ、充電電圧として4.4V、4.5V、4.55V、4.6V、4.65V、4.7V、4.8V及び5.0Vを採用した。
【0078】
次に、前記初期充電を行わなかった各1個の電池を含む全ての電池について、ドライルーム内にて電池を解体して正極板を取り出した。実施例1及び比較例2,3に係る全ての電池から取り出した正極板は、洗浄等の操作を行わず、そのまま測定用試料ホルダーに貼付し、CuKα線源を用いたエックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を行いてエックス線回折測定を行った。但し、比較例1に係る9個の電池から取り出した正極板は、さらにアルミニウム箔集電体を除去して正極合剤を採取し、洗浄等の操作を行わず、リンデマンガラス製のチューブ(TOHO製、長さ80mm、外径0.3mm、内径0.1mm)に封入した。この測定用サンプルを大型放射光施設SPring−8(BL19)を用いてエックス線回折測定を行った。波長は0.7Åとした。結果を
図1〜4に示す。
【0079】
図1に示される、実施例1に係るエックス線回折図群について、回折パターンの相違に着目して低電位側である図の上方から高電位側である図の下方に向けて順次追跡したところ、六方晶の(003)面に帰属される回折角18°付近のピーク及び六方晶の(104)面に帰属される回折角45°付近のピークについて、高角度側へのシフトが見られるが、電位が5.0Vに至ってもなおスプリットが観察されなかった。即ち、実施例1に係るエックス線回折図群についてみると、六方晶に帰属される回折パターンに変化はみられず、電位4.8以上に電気化学的酸化段階が進行しても、さらに電位5.0Vに至ってもなお、立方晶に帰属される結晶相の出現が観察されなかった。なお、この測定においては、測定試料からアルミニウム箔集電体を除去しなかったため、65°付近に金属アルミニウムの起因するピークが観察されている。
【0080】
図2に示される、比較例1に係るエックス線回折図群について、回折パターンの相違に着目して低電位側である図の上方から高電位側である図の下方に向けて順次追跡すると、六方晶の(003)面に帰属される回折角7°付近のピークや六方晶の(104)面に帰属される回折角20°付近のピークが、電位が4.6V以上の試料において次第に高角度側にシフトし、電位4.7V及び電位4.8Vの試料において明確なスプリットが観察され、電位5.0Vの試料においては前記高角度側のピークのみが観察されるに至っていることがわかる。また、六方晶の(108)面及び(110)面に帰属される26〜27°付近の2本のピークが、電位4.65V以上の試料において次第に歩み寄るようにシフトし、電位4.7V及び電位4.8Vの試料において低角度側のピークが消失し始め、電位5.0Vの試料においては1本のピークとなって観察されるに至っていることがわかる。このことから、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物においては、電気化学的酸化反応の進行に伴って、六方晶に帰属される結晶相に加えて、立方晶に帰属される結晶相が出現し、二相共存状態で酸化反応が進行し、最終的に立方晶に帰属される結晶相に変化したものと推察される。
【0081】
図3(a),4(a)にはそれぞれ、比較例2及び比較例3に係り、電位5Vを採用した場合のエックス線回折図を示した。いずれも、六方晶の(003)面に帰属される回折角18°付近のピークがスプリットしている様子が目視で観察できることから、六方晶の単一相ではなく、六方晶に加えて他の相との二相共存状態であることがわかる。念のため、同ピークを拡大した図を、
図3(b),4(b)にそれぞれ示す。
【0082】
以上の知見から、六方晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Co、Ni及びMnを含む遷移金属元素Me、並びに、Liを含有し、前記全遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1.25〜1.60であり、前記全遷移金属元素Me中のCoのモル比Co/Meが0.02〜0.23であり、前記全遷移金属元素Me中のMnのモル比Mn/Meが0.63〜0.72であり、電位4.8V(vs.Li/Li
+)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上六方晶構造の単一相として観察されるという特徴を備えることにより、これを用いた非水電解質二次電池の充放電サイクル性能を優れたものとすることができることがわかった。
【0083】
なお、
図1に係る測定はCuKα線管球を用いる一般的なエックス線回折測定装置を用い、
図2に係る測定は大型放射光施設SPring−8を用いたため、六方晶に帰属される回折ピークが現れる回折角は大きく異なるが、回折パターンについては相違がないので、同様の解析が可能である。
【0084】
(実施例2〜55、比較例4〜19)
共沈炭酸塩前駆体と炭酸リチウムの混合比率及び焼成温度について、表2〜3の記載に沿って変更したことを除いては、実施例1と同様にして、リチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0085】
このようにして得られた全てのリチウム遷移金属複合酸化物は、CuKα線源を用いたエックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を行いてエックス線回折測定を行った結果、表2〜3に示されるように、実施例1〜55及び比較例4〜19のリチウム遷移金属複合酸化物は、いずれも、(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I
(003)/I
(104)は1.58以上であった。
また、実施例2〜55についても、電位4.8V(vs.Li/Li
+)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折上六方晶構造の単一相として観察されるものであることが確認された。
【0086】
実施例2〜55及び比較例4〜19に係るリチウム遷移金属複合酸化物をそれぞれリチウム二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順でリチウム二次電池を作製した。N−メチルピロリドンを分散媒とし、活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、正極板を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係るリチウム二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている活物質の質量及び塗布厚みを統一した。このようにして実施例2〜55及び比較例4〜19に係る正極板を作製した。
【0087】
これらの正極板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0088】
以上の手順にて作製されたリチウム二次電池は、25℃の下、初期充放電工程に供した。電圧制御は全て正極電位に対して行った。充電は、電流0.1CA、電圧4.6Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.1CA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この充放電を2サイクル行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ30分の休止過程を設けた。前記初期充放電工程における1サイクル目の「(放電電気量)/(充電電気量)×100」で示される百分率を「初期充放電効率(%)」(表においては「初期効率」と略す)として記録した。
【0089】
次に、充電電圧を変更して、1サイクルの充放電試験を行った。電圧制御は全て正極電位に対して行った。この充放電試験の条件は、充電電圧を4.3V(vs.Li/Li
+)としたことを除いては、前記初期充放電工程の条件と同一である。このときの放電電気量を「放電容量(mAh/g)」として記録した。結果を表2〜3に併せて示す。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表2〜3より、Li/Meが1.25〜1.60であり、Co/Me比が0.02〜0.23であり、Mn/Me比が0.63〜0.72であるものが、高い放電容量を得るために必要であることがわかる。なかでも、Li/Me比を1.25〜1.40とすれば、初期効率の点で好ましいことがわかる。