(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のステアリング機構に結合されたパワーシリンダに、操舵部材に機械的に連結されていない油圧制御バルブを介して、油圧ポンプからの作動油を供給することによって、操舵補助力を発生させる油圧式パワーステアリング装置であって、
前記操舵部材に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵部材の操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段と、
前記油圧制御バルブの開度を制御するためのバルブ駆動用モータと、
前記油圧制御バルブの開度の指令値を演算する開度指令値演算手段と、
前記開度指令値演算手段によって演算される開度指令値に基づいて、前記バルブ駆動用モータを制御する手段とを含み、
前記開度指令値演算手段は、
前記操舵トルク検出手段によって検出される操舵トルクを用いて、基本的な開度指令値を求めるための基本指令値を設定する基本指令値設定手段と、
前記操舵トルク検出手段によって検出された操舵トルクの方向が切り込み方向でありかつその大きさが第1の閾値以上であり、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度の方向が切り戻し方向でありかつその大きさが第2の閾値以上のときに、前記切り込み方向の操舵補助力を増加させるためのダンピング制御値を設定するためのダンピング制御手段と、
前記基本指令値設定手段によって設定された基本指令値と、前記ダンピング制御手段によって設定されたダンピング制御値とに基づいて、開度指令値を演算する演算手段とを含む、油圧式パワーステアリング装置。
前記ダンピング制御手段は、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度の絶対値が大きいほどダンピング制御値の絶対値を大きく設定するとともに、ダンピング制御値の方向を操舵角速度の方向とは反対方向に設定するように構成されている、請求項2に記載の油圧式パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る油圧式パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
油圧式パワーステアリング装置1は、車両のステアリング機構2に操舵補助力を与えるためのものである。ステアリング機構2は、車両の操向のために運転者によって操作される操舵部材としてのステアリングホイール3と、このステアリングホイール3に連結されたステアリングシャフト4と、ステアリングシャフト4の先端部に連結され、ピニオンギア6を持つピニオンシャフト5と、ピニオンギア6に噛合するラック7aを有し、車両の左右方向に延びた転舵軸としてのラック軸7とを備えている。
【0012】
ラック軸7の両端にはタイロッド8がそれぞれ連結されており、このタイロッド8は、それぞれ、左右の転舵輪9,10を支持するナックルアーム11に連結されている。ナックルアーム11は、キングピン12まわりに回動可能に設けられている。
ステアリングホイール3が操作されてステアリングシャフト4が回転されると、この回転が、ピニオンギア6およびラック7aによって、ラック軸7の軸方向に沿う直線運動に変換される。この直線運動は、ナックルアーム11のキングピン12まわりの回転運動に変換され、これにより、左右の転舵輪9,10が転舵される。
【0013】
ステアリングシャフト4の周囲には、ステアリングシャフト4の回転角である操舵角θhを検出するための舵角センサ31が配置されている。この実施形態では、舵角センサ31は、ステアリングシャフト4の中立位置からのステアリングシャフト4の正逆両方向の回転量(回転角)を検出するものであり、中立位置から左方向への回転量を例えば正の値として出力し、中立位置から右方向への回転量を例えば負の値として出力する。ピニオンシャフト5には、操舵トルクThを検出するためのトルクセンサ32が設けられている。
【0014】
油圧式パワーステアリング装置1は、油圧制御バルブ14、パワーシリンダ17および油圧ポンプ23を含んでいる。油圧制御バルブ14は、例えばロータリバルブであり、ロータハウジング(図示略)と作動油の流通方向を切り替えるためのロータ(図示略)とを備えている。油圧制御バルブ14として、例えば前記特許文献1に開示されている油圧制御バルブを用いてもよい。油圧制御バルブ14のロータが電動モータ15(以下「バルブ駆動用モータ15」という)によって回転されることにより、油圧制御バルブ14の開度が制御される。バルブ駆動用モータ15は、三相ブラシレスモータからなる。バルブ駆動用モータ15の近傍には、バルブ駆動用モータ15のロータの回転角θ
Bを検出するための、例えばレゾルバからなる回転角センサ33が配置されている。
【0015】
油圧制御バルブ14は、ステアリング機構2に操舵補助力を与えるパワーシリンダ16に接続されている。パワーシリンダ16は、ステアリング機構2に結合されている。具体的には、パワーシリンダ16は、ラック軸7に一体に設けられたピストン17と、このピストン17によって区画された一対のシリンダ室18,19とを有しており、シリンダ室18,19は、それぞれ、対応する油路20,21を介して、油圧制御バルブ14に接続されている。
【0016】
油圧制御バルブ14は、リザーバタンク22および操舵補助力発生用の油圧ポンプ23を通る油循環路24の途中部に介装されている。油圧ポンプ23は、例えば、ギヤポンプからなり、電動モータ25(以下、「ポンプ駆動用モータ25」という)によって駆動され、リザーバタンク22に貯留されている作動油をくみ出して油圧制御バルブ14に供給する。余剰分の作動油は、油圧制御バルブ14から油循環路24を介してリザーバタンク22に帰還される。
【0017】
ポンプ駆動用モータ25は、一方向に回転駆動されて、油圧ポンプ23を駆動するものである。具体的には、ポンプ駆動用モータ25は、その出力軸が油圧ポンプ23の入力軸に連結されており、ポンプ駆動用モータ25の出力軸が回転することで、油圧ポンプ23の入力軸が回転して油圧ポンプ23の駆動が達成される。ポンプ駆動用モータ25は三相ブラシレスモータからなる。ポンプ駆動用モータ25の近傍には、ポンプ駆動用モータ25のロータの回転角θ
Pを検出するための、例えばレゾルバからなる回転角センサ34が配置されている。
【0018】
油圧制御バルブ14は、バルブ駆動用モータ15によって油圧制御バルブ14のロータが基準回転角度位置(中立位置)から一方の方向に回転された場合には、油路20,21のうちの一方を介してパワーシリンダ16のシリンダ室18,19のうちの一方に作動油を供給するとともに、他方の作動油をリザーバタンク22に戻す。また、バルブ駆動用モータ15によって油圧制御バルブ14のロータが中立位置から他方の方向に回転された場合には、油路20,21のうちの他方を介してシリンダ室18,19のうちの他方に作動油を供給するとともに、一方の作動油をリザーバタンク22に戻す。
【0019】
油圧制御バルブ14のロータが中立位置にある場合には、油圧制御バルブ14は、いわば平衡状態となり、操舵中立でパワーシリンダ16の両シリンダ室18,19は等圧に維持され、作動油は油循環路24を循環する。バルブ駆動用モータ15によって油圧制御バルブ14のロータが回転されると、パワーシリンダ16のシリンダ室18,19のいずれかに作動油が供給され、ピストン17が車幅方向(車両の左右方向)に沿って移動する。これにより、ラック軸7に操舵補助力が作用することになる。
【0020】
バルブ駆動用モータ15およびポンプ駆動用モータ25は、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)40によって制御される。ECU40には、舵角センサ31によって検出される操舵角θh、トルクセンサ32によって検出される操舵トルクTh、回転角センサ33の出力信号、回転角センサ34の出力信号、車速センサ35によって検出される車速V、バルブ駆動用モータ15に流れる電流を検出するための電流センサ36(
図2参照)の出力信号等が入力される。
【0021】
図2は、ECU40の電気的構成を示すブロック図である。
ECU40は、マイクロコンピュータ41と、マイクロコンピュータ41によって制御され、バルブ駆動用モータ15に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)42と、マイクロコンピュータ41によって制御され、ポンプ駆動用モータ25に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)43とを備えている。
【0022】
マイクロコンピュータ41は、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、バルブ駆動用モータ15を駆動回路42を介して制御するためのバルブ駆動用モータ制御部50と、ポンプ駆動用モータ25を駆動回路43を介して制御するためのポンプ駆動用モータ制御部70とを含んでいる。
【0023】
バルブ駆動用モータ制御部50は、操舵角速度演算部51と、バルブ開度指令値演算部52と、回転角演算部53と、角度偏差演算部54と、PI(比例積分)制御部55と、モータ電流演算部56と、電流偏差演算部57と、PI制御部58と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部59とを含んでいる。
操舵角速度演算部51は、舵角センサ31の出力値を時間微分することによって、操舵角速度を演算する。
【0024】
バルブ開度指令値演算部52は、バルブ開度指令値を演算するものであり、基本アシストトルク指令値設定部61と、ダンピング制御部62と、加算部63と、バルブ開度指令値設定部64とを含んでいる。
基本アシストトルク指令値設定部61は、トルクセンサ32によって検出される検出操舵トルクThと車速センサ35によって検出される車速Vに基づいて、パワーシリンダ16によって発生させるべき基本的なアシストトルクの指令値である基本アシストトルク指令値T
AO*を設定する。
【0025】
具体的には、基本アシストトルク指令値設定部61は、車速毎に検出操舵トルクとアシストトルク指令値との関係を記憶したマップに基づいて、基本アシストトルク指令値T
AO*を設定する。
図3は、検出操舵トルクに対する基本アシストトルク指令値の設定例を示すグラフである。
検出操舵トルクThは、例えば左方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、右方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、基本アシストトルク指令値T
AO*は、パワーシリンダ16によって左方向操舵ためのアシストトルクを発生させるときには正の値とされ、パワーシリンダ16によって右方向操舵ためのアシストトルクを発生させるときには負の値とされる。
【0026】
基本アシストトルク指令値T
AO*は、検出操舵トルクThの正の値に対しては正の値をとり、検出操舵トルクThの負の値に対しては負の値をとる。検出操舵トルクThが−T1〜T1の範囲の微小な値のときには、基本アシストトルク指令値T
AO*は零とされる。そして、検出操舵トルクThが−T1〜T1の範囲以外の領域においては、基本アシストトルク指令値T
A*は、検出操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定されている。また、基本アシストトルク指令値T
A*は、車速センサ35によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定されている。
【0027】
基本アシストトルク指令値設定部61によって設定された基本アシストトルク指令値T
AO*は、加算部63に与えられる。
ダンピング制御部62は、切り込み状態からステアリングホイール3が中立位置に向かって戻される場合に、切り込み方向の操舵補助力を増加させるためのダンピング制御値(この実施形態ではダンピングトルク指令値T
D*)を生成するものである。つまり、ダンピング制御部62は、操舵角速度演算部51によって演算される操舵角速度ωhと、トルクセンサ32によって検出される検出操舵トルクThとに基づいて、ダンピングトルク指令値T
D*を生成する。具体的には、ダンピング制御部62は、検出操舵トルクThの方向が切り込み方向でありかつその大きさ(絶対値)が第1の閾値A1(A1>0)以上であり、操舵角速度ωhの方向が切り戻し方向でありかつその大きさ(絶対値)が第2の閾値B1(B1>0)以上のときに、操舵角速度ωhに応じたダンピングトルク指令値T
D*を設定する。ダンピング制御部62の動作の詳細については、後述する。
【0028】
ダンピング制御部62によって生成されたダンピングトルク指令値T
D*は、加算部63に与えられる。加算部63は、基本アシストトルク指令値設定部61によって設定される基本アシストトルク指令値T
AO*に、ダンピング制御部62によって生成されるダンピングトルク指令値T
D*を加算する。この加算結果が、ダンピング制御のために基本アシストトルク指令値T
AO*が補正がされた後のアシストトルク指令値T
A*として、バルブ開度指令値設定部64に与えられる。したがって、基本アシストトルク指令値設定部61と、ダンピング制御部62と、加算部63とによって、アシストトルク指令値設定手段が構成されている。
【0029】
バルブ開度指令値設定部64は、加算部63によって演算されたアシストトルク指令値T
A*に基づいて、油圧制御バルブ14の開度の指令値(バルブ駆動用モータ15の回転角の指令値)であるバルブ開度指令値(モータ回転角指令値)θ
B*を設定する。この実施形態では、油圧制御バルブ14のロータが中立位置にあるときのバルブ駆動用モータ15の回転角を0°とする。そして、バルブ駆動用モータ15の回転角が0°より大きくなると、パワーシリンダ16によって左方向操舵ためのアシストトルクが発生するように、油圧制御バルブ14の開度が制御されるものとする。一方、バルブ駆動用モータ15の回転角が0°より小さくなると、パワーシリンダ16によって右方向操舵ためのアシストトルクが発生するように、油圧制御バルブ14の開度が制御されるものとする。なお、バルブ駆動用モータ15の回転角度の絶対値が大きくなるほど、パワーシリンダ16によって発生するアシストトルクの絶対値は大きくなる。
【0030】
バルブ開度指令値設定部64は、アシストトルク指令値T
A*とバルブ開度指令値θ
B*との関係を記憶したマップに基づいて、バルブ開度指令値θ
B*を設定する。
図4は、アシストトルク指令値T
A*に対するバルブ開度指令値θ
B*の設定例を示すグラフである。
バルブ開度指令値θ
B*は、アシストトルク指令値T
A*の正の値に対しては正の値をとり、アシストトルク指令値T
A*の負の値に対しては負の値をとる。バルブ開度指令値θ
B*は、アシストトルク指令値T
A*の絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定されている。
【0031】
回転角演算部53は、回転角センサ33の出力信号に基づいて、バルブ駆動用モータ15の回転角θ
Bを演算する。回転角偏差演算部54は、バルブ開度指令値設定部64によって設定されたバルブ開度指令値θ
B*と回転角演算部53によって演算されたバルブ駆動用モータ15の回転角θ
Bとの偏差Δθ
B(=θ
B*−θ
B)を演算する。
PI制御部55は、回転角偏差演算部54によって演算された回転角偏差Δθ
Bに対してPI演算を行なう。すなわち、回転角偏差演算部54およびPI制御部55によって、バルブ駆動用モータ15の回転角θ
Bをバルブ開度指令値θ
B*に導くための回転角フィードバック制御手段が構成されている。PI制御部55は、回転角偏差Δθ
Bに対してPI演算を行なうことで、バルブ駆動用モータ15の電流指令値を演算する。
【0032】
モータ電流演算部56は、電流センサ36の出力信号に基づいて、バルブ駆動用モータ15に流れるモータ電流を検出する。電流偏差演算部57は、PI制御部55によって求められた電流指令値と、モータ電流演算部56によって演算されたモータ電流との偏差を演算する。PI制御部58は、電流偏差演算部57によって演算された電流偏差に対してPI演算を行なう。すなわち、電流偏差演算部57およびPI制御部58によって、バルブ駆動用モータ15に流れるモータ電流を電流指令値に導くための電流フィードバック制御手段が構成されている。PI制御部58は、電流偏差に対してPI演算を行なうことで、バルブ駆動用モータ15に印加すべき制御電圧値を演算する。
【0033】
PWM制御部59は、PI制御部58によって演算された制御電圧値と、回転角演算部53によって演算されたバルブ駆動用モータ15の回転角θ
Bとに基づいて、駆動信号を生成して、駆動回路42に供給する。これにより、駆動回路42から、PI制御部58によって演算された制御電圧値に応じた電圧がバルブ駆動用モータ15に印加される。
ダンピング制御部62の動作の詳細について説明する。
図5は、ダンピング制御部62の動作を示すフローチャートである。
図5の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0034】
第1フラグF1は、左方向への切り込み状態からステアリングホイール3が中立位置に向かって戻されている場合において、第1のダンピング制御開始条件を満たしたときにセット(F1=1)されるフラグである。第1フラグF1は、第1のダンピング制御解除条件を満たしたときに、リセット(F1=0)される。第1フラグF1の初期値は、0である。第1フラグF1がセットされている場合の動作モードを、第1ダンピング制御モードということにする。
【0035】
第2フラグF2は、右方向への切り込み状態からステアリングホイール3が中立位置に向かって戻されている場合において、第2のダンピング制御開始条件を満たしたときにセット(F2=1)されるフラグである。第2フラグF2は、第2のダンピング制御解除条件を満たしたときに、リセット(F2=0)される。第2フラグF2の初期値は、0である。第2フラグF2がセットされている場合の動作モードを、第2ダンピング制御モードということにする。
【0036】
ダンピング制御部62は、まず、第1フラグF1および第2フラグF2がともにリセット(F1=F2=0)されているか否かを判別する(ステップS1)。第1フラグF1および第2フラグF2がともにリセットされている場合には(ステップS1:YES)、つまり、ダンピング制御が行なわれていない場合には、ダンピング制御部62は、ステップS2に移行する。
【0037】
ステップS2では、ダンピング制御部62は、検出操舵トルクThが第1の閾値A1(A1>0)以上でかつ操舵角速度ωhが第2の閾値B1(B1>0)の正負反転値−B1以下であるという第1のダンピング制御開始条件を満たしているか否かを判別する。言い換えれば、ダンピング制御部62は、検出操舵トルクThの方向が左方向の切り込み方向で、操舵角速度ωhの方向が右方向(切り戻し方向)であり、検出操舵トルクThの絶対値が第1の閾値A1以上でかつ操舵角速度ωhの絶対値が第2の閾値B1以上であるという条件を満たしているか否かを判別する。第1の閾値A1は、例えば1[Nm]に設定され、第2の閾値B1は、例えば360[deg/s]に設定される。
【0038】
第1のダンピング制御開始条件が満たされていない場合には(ステップS2:NO)、ダンピング制御部62は、検出操舵トルクThが第1の閾値A1の正負反転値−A1以下でかつ操舵角速度ωhが第2の閾値B1(B1>0)以上であるという第2のダンピング制御開始条件を満たしているか否かを判別する(ステップS3)。言い換えれば、ダンピング制御部62は、検出操舵トルクThの方向が右方向の切り込み方向で、操舵角速度ωhの方向が左方向(切り戻し方向)で、検出操舵トルクThの絶対値がA1以上でかつ操舵角速度ωhの絶対値が第2の閾値B1以上であるという条件を満たしているか否かを判別する。
【0039】
第2のダンピング制御開始条件が満たされていない場合には(ステップS3:NO)、ダンピング制御部62は、ダンピングトルク指令値T
D*を0に設定する(ステップS4)。この場合には、ダンピングトルク指令値T
D*が0となるため、ダンピング制御は行なわれない。そして、今演算周期の処理を終了する。
前記ステップS2において、第1のダンピング制御開始条件が満たされていると判別された場合には(ステップS2:YES)、ダンピング制御部62は、第1フラグF1をセット(F1=1)する(ステップS5)。これにより、動作モードが第1ダンピング制御モードとなる。そして、ダンピング制御部62は、操舵角速度ωhに基づいてダンピングトルク指令値T
D*を生成する(ステップS7)。これにより、ダンピング制御が行なわれる。ステップS7の処理の詳細については後述する。そして、今演算周期の処理を終了する。
【0040】
前記ステップS3において、第2のダンピング制御開始条件が満たされていると判別された場合には(ステップS3:YES)、ダンピング制御部62は、第2フラグをセット(F2=1)する(ステップS6)。これにより、動作モードが第2ダンピング制御モードとなる。そして、ダンピング制御部62は、操舵角速度ωhに基づいてダンピングトルク指令値T
D*を生成する(ステップS7)。これにより、ダンピング制御が行なわれる。そして、今演算周期の処理を終了する。
【0041】
ステップS7の処理について説明する。
図6は、操舵角速度ωhに対するダンピングトルク指令値T
D*の設定例を示している。操舵角速度ωhが所定の零付近の領域(−C<ωh<C。Cは所定値でC>0)では、ダンピングトルク指令値T
D*は零とされる。
操舵角速度ωhが所定値−Cより小さい負の領域(切り込み方向が左方向で操舵角速度ωhの方向が右方向の領域)では、ダンピングトルク指令値T
D*は正の値(切り込み方向と同じ左方向のトルク指令値)とされる。操舵角速度ωhが所定値−Cより小さな所定値−D(D>0)以下の領域においては、ダンピングトルク指令値T
D*は所定の上限値(>0)に固定されている。操舵角速度ωhが所定値−C以下で所定値−Dより大きな領域においては、ダンピングトルク指令値T
D*は操舵角速度ωhが速くなるに伴って、0から上限値まで単調に増加するように設定されている。
【0042】
第1ダンピング制御モード時には、操舵角速度ωhは負の値であるため、操舵角速度ωhが所定値−C以下のときには、操舵角速度ωhが速くなるほどダンピングトルク指令値T
D*は正の大きな値となる。ただし、操舵角速度ωhが所定値−D以下になると、ダンピングトルク指令値T
D*は上限値となる。また、第1ダンピング制御モード時には、検出操舵トルクThが正の値であるため、基本アシストトルク指令値設定部61によって設定される基本アシストトルク指令値T
AO*も正の値となる。ダンピングトルク指令値T
D*が基本アシストトルク指令値T
AO*に加算されることにより、アシストトルク指令値T
A*が演算されるので、第1ダンピング制御モード時には、操舵角速度ωhが速いほど、基本アシストトルク指令値T
A*に比べてアシストトルク指令値T
A*が大きくなる。これにより、第1ダンピング制御モード時には、切り込み方向(この場合は左方向)のアシストトルクが増加され、ダンピング制御が実現される。また、操舵角速度ωhが速いほど切り込み方向のアシストトルクが大きくされるので、左方向への切り込み状態から操舵部材が中立位置に向かって戻されるときの収斂性が向上するとともに操舵感が向上する。
【0043】
一方、操舵角速度ωhが所定値Cより大きい正の領域(切り込み方向が右方向で操舵角速度ωhの方向が左方向の領域)ではダンピングトルク指令値T
D*は負の値(切り込み方向と同じ右方向のトルク指令値)とされる。操舵角速度ωhが所定値Cより大きな所定値D以上の領域においては、ダンピングトルク指令値T
D*は所定の下限値(<0)に固定されている。操舵角速度ωhが所定値C以上で所定値D未満の領域においては、ダンピングトルク指令値T
D*は操舵角速度ωhが速くなるに伴って、0から下限値まで単調に減少するように設定されている。
【0044】
第2ダンピング制御モード時には、操舵角速度ωhは正の値であるため、操舵角速度ωhが所定値C以上のときには、操舵角速度ωhが速いほど、ダンピングトルク指令値T
D*は負の小さな値となる。ただし、操舵角速度ωhが所定値D以上になると、ダンピングトルク指令値T
D*は下限値となる。また、第2ダンピング制御モード時には、検出操舵トルクThが負の値であるため、基本アシストトルク指令値設定部61によって設定される基本アシストトルク指令値T
AO*も負の値となる。ダンピングトルク指令値T
D*が基本アシストトルク指令値T
AO*に加算されることにより、アシストトルク指令値T
A*が演算されるので、第2ダンピング制御モード時には、操舵角速度ωhが速いほど、基本アシストトルク指令値T
AO*に比べてアシストトルク指令値T
A*は小さな値(負の値)となる。これにより、第2ダンピング制御モード時には、切り込み方向(この場合は右方向)のアシストトルクが増加され、ダンピング制御が実現される。また、操舵角速度ωhが速いほど切り込み方向のアシストトルクが大きくされるので、右方向への切り込み状態から操舵部材が中立位置に向かって戻されるときの収斂性が向上するとともに操舵感が向上する。
【0045】
前記ステップS1において、第1フラグF1および第2フラグF2のうちの少なくとも一方がリセットされていないと判別された場合には(ステップS1:NO)、ダンピング制御部62は、第1フラグF1がセット(F1=1)されているか否かを判別する(ステップS8)。第1フラグF1がセットされている場合には(ステップS8:YES)、つまり、動作モードが第1ダンピング制御モードである場合には、ダンピング制御部62は、ステップS9に移行する。
【0046】
ステップS9では、ダンピング制御部62は、検出操舵トルクThが第3の閾値A2(A2>0)未満であるかまたは操舵角速度ωhが第4の閾値B2(B2>0)の正負反転値−B2より大きいという第1のダンピング制御解除条件を満たしているか否かを判別する。第3の閾値A2は第1の閾値A1以上の値に設定される。この実施形態では、第3の閾値A2は第1の閾値A1と同じ値に設定される。第4の閾値B2は第2の閾値B1以下の値に設定される。この実施形態では、第4の閾値B2は第2の閾値B1と同じ値に設定される。
【0047】
第1のダンピング制御解除条件を満たしていない場合には(ステップS9:NO)、ダンピング制御部62は、操舵角速度ωhに基づいてダンピングトルク指令値T
D*を生成する(ステップS7)。これにより、ダンピング制御が行なわれる。つまり、第1のダンピング制御モードが維持される。そして、今演算周期の処理を終了する。
前記ステップS9において、第1のダンピング制御解除条件を満たしていると判別された場合には(ステップS9:YES)、ダンピング制御部62は、第1フラグF1をリセット(F1=0)する(ステップS10)。これにより、第1ダンピング制御モードが解除される。この後、ダンピング制御部62は、ダンピングトルク指令値T
D*を0に設定する(ステップS4)。そして、今演算周期の処理を終了する。
【0048】
前記ステップS8において、第1フラグF1がセットされてないと判別された場合には(ステップS8:NO)、ダンピング制御部62は、第2フラグF2がセット(F2=1)されている(動作モードが第2ダンピング制御モードである)と判断し、ステップS11に移行する。
ステップS11では、ダンピング制御部62は、操舵トルクThが第3の閾値A2(A2>0)の正負反転値−A2より大きいかまたは操舵角速度ωhが第4の閾値B2(B2>0)未満であるという第2のダンピング制御解除条件を満たしているか否かを判別する。
【0049】
第2のダンピング制御解除条件を満たしていない場合には(ステップS11:NO)、ダンピング制御部62は、操舵角速度ωhに基づいてダンピングトルク指令値T
D*を生成する(ステップS7)。これにより、ダンピング制御が行なわれる。つまり、第2のダンピング制御モードが維持される。そして、今演算周期の処理を終了する。
前記ステップS11において、第2のダンピング制御解除条件を満たしていると判別された場合には(ステップS11:YES)、第2フラグF2をリセット(F2=0)する(ステップS12)。これにより、第2ダンピング制御モードが解除される。この後、ダンピング制御部62は、ダンピングトルク指令値T
D*を0に設定する(ステップS4)。そして、今演算周期の処理を終了する。
【0050】
図2に戻り、ポンプ駆動用モータ制御部70は、ポンプ回転数指令値設定部71と、回転角演算部72と、回転数演算部73と、回転数偏差演算部74と、PI制御部75と、PWM制御部76とを含んでいる。
ポンプ回転数指令値設定部71は、操舵角速度演算部51によって演算された操舵角速度ωhに基づいて、油圧ポンプ23の回転数(回転速度)の指令値(ポンプ駆動用モータ25の回転数の指令値)であるポンプ回転数指令値(モータ回転数指令値)V
P*を設定する。
【0051】
具体的には、ポンプ回転数指令値設定部71は、操舵角速度とポンプ回転数指令値V
P*との関係を記憶したマップに基づいてポンプ回転数指令値V
P*を設定する。
図7は、操舵角速度ωhに対するポンプ回転数指令値V
P*の設定例を示すグラフである。ポンプ回転数指令値V
P*は、操舵角速度が0のときに所定の下限値をとり、操舵角速度の増加に応じて単調に増加するように設定されている。
【0052】
回転角演算部72は、回転角センサ34の出力信号に基づいて、ポンプ駆動用モータ25の回転角θ
Pを演算する。回転数演算部73は、回転角演算部72によって演算されるポンプ駆動用モータ25の回転角θ
Pに基づいて、ポンプ駆動用モータ25の回転数(回転速度)V
Pを演算する。回転数偏差演算部74は、ポンプ回転数指令値設定部71によって設定されたポンプ回転数指令値V
P*と回転数演算部73によって演算されたポンプ駆動用モータ25の回転数V
Pとの偏差ΔV
P(=V
P*−V
P)を演算する。
【0053】
PI制御部75は、回転数偏差演算部74によって演算された回転数偏差ΔV
Pに対してPI演算を行なう。すなわち、回転数偏差演算部74およびPI制御部75によって、ポンプ駆動用モータ25の回転数V
Pをポンプ回転数指令値V
P*に導くための回転数フィードバック制御手段が構成されている。PI制御部75は、回転数偏差ΔV
Pに対してPI演算を行なうことで、ポンプ駆動用モータ25に印加すべき制御電圧値を演算する。
【0054】
PWM制御部76は、PI制御部75によって演算された制御電圧値と、回転角演算部72によって演算されたポンプ駆動用モータ25の回転角θ
Pとに基づいて、駆動信号を生成して、駆動回路43に供給する。これにより、駆動回路43から、PI制御部75によって演算された制御電圧値に応じた電圧がポンプ駆動用モータ25に印加される。
図8は、バルブ開度指令値演算部52の変形例を示すブロック図である。
【0055】
このバルブ開度指令値演算部52Aは、基本アシストトルク指令値設定部61と、基本バルブ開度指令値設定部64Aと、ダンピング制御部62Aと、加算部63Aとを含んでいる。基本アシストトルク指令値設定部61は、
図2の基本アシストトルク指令値設定部61と同様に、トルクセンサ32によって検出される検出操舵トルクThと車速センサ35によって検出される車速Vに基づいて、パワーシリンダ16によって発生させるべき基本的なアシストトルクの指令値である基本アシストトルク指令値T
AO*を設定する。
【0056】
基本バルブ開度指令値設定部64Aは、基本アシストトルク指令値設定部61によって設定された基本アシストトルク指令値T
AO*に基づいて、油圧制御バルブ14の開度の基本的な指令値である基本バルブ開度指令値(モータ回転角指令値)θ
BO*を設定する。基本アシストトルク指令値T
AO*に対する基本バルブ開度指令値θ
BO*の設定例は、
図4に示されるアシストトルク指令値T
A*に対するバルブ開度指令値θ
B*の設定例と同じであってもよい。
【0057】
ダンピング制御部62Aは、
図2のダンピング制御部62と同様な動作を行なうが、ダンピングトルク指令値T
D*の代わりに、ダンピングトルク指令値T
D*をバルブ開度に対応した値に換算した値(ダンピング制御値θ
D*)を生成する。加算部63Aは、基本バルブ開度指令値設定部64Aによって設定された基本バルブ開度指令値θ
BO*に、ダンピング制御部62Aによって生成されたダンピング制御値θ
D*を加算することによって、バルブ開度指令値θ
B*を演算する。
【0058】
この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。