(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
係合装置と、当該係合装置を介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、前記第一回転電機及び前記第二回転電機が発電した電力により充電される蓄電装置と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、
前記車両用駆動装置における前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が、それぞれ前記差動歯車装置の異なる回転要素に駆動連結され、
前記第二回転電機が、前記出力部材が駆動連結された回転要素に駆動連結され、
前記内燃機関の回転が停止している状態で、前記出力部材に負トルクを出力させる制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する制動トルク制御実行判定部と、
前記蓄電装置の充電状態を表す充電状態指標が予め定められた充電制限判定値以上である場合に充電制限ありと判定し、前記充電状態指標が前記充電制限判定値未満である場合に充電制限なしと判定する充電制限判定部と、
前記制動トルク制御実行判定部により前記制動トルク制御を実行すると判定されていると共に前記充電制限判定部により充電制限なしと判定されている場合に、前記第二回転電機を発電させて、前記第二回転電機の発電トルクにより前記出力部材に負トルクを出力させ、
前記制動トルク制御実行判定部により前記制動トルク制御を実行すると判定されていると共に前記充電制限判定部により充電制限ありと判定されている場合に、前記入力部材の回転速度を、ゼロより高い回転速度に設定された目標回転速度に近付けるように前記第一回転電機を力行させると共に、前記係合装置の伝達トルクを、前記内燃機関が回転し始めるトルクである静止限界トルク未満となるように制御して、前記係合装置の伝達トルクにより前記出力部材に負トルクを出力させる制動トルク制御部と、
を備える制御装置。
前記制動トルク制御部は、前記下限回転速度が予め定められた初期回転速度未満である場合は、前記初期回転速度を前記入力部材の前記目標回転速度として設定し、前記下限回転速度が前記初期回転速度以上である場合は、前記下限回転速度より大きい回転速度を前記入力部材の前記目標回転速度として設定する請求項3に記載の制御装置。
前記制動トルク制御部は、前記充電制限判定部により充電制限ありと判定されている場合に、前記第一回転電機の力行に要する電力を、前記第二回転電機の回転速度で除算して求めたトルクに応じた発電トルクを、前記第二回転電機に出力させる請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置1は、係合装置CLと、当該係合装置CLを介してエンジンEに駆動連結される入力軸Iと、車輪Wに駆動連結される出力軸Oと、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2が発電した電力により充電されるバッテリBT(
図2参照)と、少なくとも3つの回転要素E1、E2、E3を有する差動歯車装置PGと、を備えている。
【0019】
そして、入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1が、それぞれ差動歯車装置PGの異なる回転要素に、当該差動歯車装置PGの他の回転要素を介することなく駆動連結されている。そして、第二回転電機MG2が、出力軸Oが駆動連結された回転要素に、差動歯車装置PGの他の回転要素を介することなく駆動連結されている。
本実施形態では、差動歯車装置PGは、サンギヤS、キャリヤCa、及びリングギヤRの3つの回転要素E1、E2、E3を有する遊星歯車装置PGとされている。そして、入力軸Iは、キャリヤCaに、サンギヤS及びリングギヤRを介することなく駆動連結されている。出力軸Oは、リングギヤRに、サンギヤS及びキャリヤCaを介することなく駆動連結されている。第一回転電機MG1は、サンギヤSに、リングギヤR及びキャリヤCaを介することなく駆動連結されている。第二回転電機MG2は、出力軸Oが駆動連結されたリングギヤRに、サンギヤS及びキャリヤCaを介することなく駆動連結されている。なお、入力軸Iは、係合装置CLを介してエンジンEに駆動連結され、出力軸Oは、車輪Wに駆動連結されている。なお、エンジンEが、本願における「内燃機関」であり、入力軸Iが、本願における「入力部材」であり、出力軸Oが、本願における「出力部材」であり、バッテリBT(
図2参照)が、本願における「蓄電装置」である。
【0020】
制御装置30は、車両用駆動装置1を制御するための装置とされている。
図2に示すように、制御装置30は、制動トルク制御実行判定部36、充電制限判定部37及び制動トルク制御部38などを備えている。
制動トルク制御実行判定部36は、エンジンEの回転が停止している状態で、出力軸Oに負トルクを出力させる制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する。
充電制限判定部37は、バッテリBTの充電状態を表す充電状態指標が予め定められた充電制限判定値以上である場合に充電制限ありと判定し、充電状態指標が充電制限判定値未満である場合に充電制限なしと判定する。
制動トルク制御部38は、制動トルク制御実行判定部36により制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電制限判定部37により充電制限なしと判定されている場合に、第二回転電機MG2を発電させて、第二回転電機MG2の発電トルクにより出力軸Oに負トルクを出力させる回生制動トルク制御を実行する。
一方、制動トルク制御部38は、制動トルク制御実行判定部36により制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電制限判定部37により充電制限ありと判定されている場合に、入力軸Iの回転速度Wiを、ゼロより高い回転速度に設定された目標回転速度Wioに近付けるように第一回転電機MG1を力行させると共に、係合装置CLの伝達トルクTclを、エンジンEが回転し始めるトルクである静止限界トルクTcr未満となるように制御して、係合装置CLの伝達トルクTclにより出力軸Oに負トルクを出力させる発熱制動トルク制御を実行する点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0021】
1.車両用駆動装置1の構成
まず、本実施形態に係る車両用駆動装置1の構成について説明する。
図1に示すように、車両用駆動装置1は、エンジンE、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2を駆動力源として利用して走行可能なハイブリッド車両用の駆動装置である。本例では、車両用駆動装置1は、いわゆる2モータスプリット方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。
【0022】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、係合装置CLを介して、遊星歯車装置PGのキャリヤCaに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、エンジンEは、摩擦係合要素である係合装置CLを介して遊星歯車装置PGのキャリヤCaに選択的に駆動連結される。
【0023】
出力軸Oは、出力用差動歯車装置DFに備えられる差動入力ギヤ24の回転軸とされている。出力用差動歯車装置DFは、本例では、互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構により構成されており、駆動力源側から出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車輪Wに分配されて伝達される。
【0024】
第一回転電機MG1は、非回転部材に固定された第一ステータSt1と、この第一ステータSt1の径方向内側に、回転自在に支持された第一ロータ軸RS1を備えた第一ロータRo1と、を有している。第一ロータ軸RS1は、遊星歯車装置PGのサンギヤSと一体回転するように駆動連結されている。
第二回転電機MG2は、非回転部材に固定された第二ステータSt2と、この第二ステータSt2の径方向内側に、回転自在に支持された第二ロータ軸RS2を備えた第二ロータRo2と、を有している。第二ロータ軸RS2は、第二回転電機出力ギヤ21と一体回転するように駆動連結されている。
【0025】
図2に示すように、第一回転電機MG1は、第一インバータIN1を介してバッテリBTに電気的に接続されており、第二回転電機MG2は、第二インバータIN2を介してバッテリBTに電気的に接続されている。バッテリBTに代えて、キャパシタ等の公知の各種の蓄電装置を用いることもできる。第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のそれぞれは、バッテリBTの電力及び他方の回転電機が発電した電力の一方又は双方の供給を受けて動力(トルク)を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生させ、発生した電力をバッテリBT又は他方の回転電機に供給するジェネレータ(発電機)としての機能を果たすことが可能とされている。
回転電機MG1、MG2は、回転方向と同じ方向のトルクを出力している場合は、力行し、回転方向と反対方向のトルクを出力している場合は発電する。
【0026】
本例では、係合装置CLは、摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素である。これらの摩擦係合要素は、サーボ機構を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
摩擦係合要素は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合要素の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、サーボ機構が発生した力の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、サーボ機構が発生した力の大きさに比例して変化する。
【0027】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0028】
本実施形態では、係合装置CLの入力側係合部材CLaが、エンジン出力軸Eoに駆動連結され、出力側係合部材CLbが、入力軸Iに駆動連結されている。そして、入力側係合部材CLaと出力側係合部材CLbとの摩擦により、入力側係合部材CLaと出力側係合部材CLbとの間でトルクを伝達する。
【0029】
本実施形態では、遊星歯車装置PGは、シングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。すなわち、遊星歯車装置PGは、複数のピニオンギヤPを支持するキャリヤCa(第二回転要素E2)と、ピニオンギヤPにそれぞれ噛み合うサンギヤS(第一回転要素E1)及びリングギヤR(第三回転要素E3)と、の3つの回転要素を有している。
【0030】
図3は、遊星歯車装置PGの速度線図である。この速度線図において、縦軸は、各回転要素E1、E2、E3の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、各回転要素E1、E2、E3に対応している。並列配置された複数本の縦線間の間隔は、遊星歯車装置PGの歯数比λ(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に基づいて定まっている。これら三つの回転要素は、回転速度の順にサンギヤS、キャリヤCa、及びリングギヤRとなっている。ここで、「回転速度の順」は、高速側から低速側に向かう順、又は低速側から高速側に向かう順のいずれかであり、遊星歯車装置の回転状態によりいずれともなり得るが、いずれの場合にも回転要素の順は変わらない。
【0031】
本実施形態では、サンギヤSは、キャリヤCa及びリングギヤRを介することなく、第一回転電機MG1の第一ロータ軸RS1と一体回転するように駆動連結されている。サンギヤS(第一回転要素E1)の回転速度は、第一回転電機MG1の回転速度Wm1に等しくなる。
キャリヤCaは、サンギヤS及びキャリヤCaを介することなく、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。キャリヤCa(第二回転要素E2)の回転速度は、入力軸Iの回転速度Wiに等しくなる。
【0032】
リングギヤRは、サンギヤS及びキャリヤCaを介することなく、カウンタギヤ機構Ctを介して出力軸O及び第二回転電機MG2の第二ロータ軸RS2に駆動連結されている。カウンタギヤ機構Ctは、第一カウンタギヤG1と、第二カウンタギヤG2と、これらが一体回転するように連結するカウンタ軸23と、を有して構成されている。リングギヤRは、カウンタドライブギヤ22と一体回転するように駆動連結されている。このカウンタドライブギヤ22は、カウンタギヤ機構Ctの第一カウンタギヤG1と噛み合っており、遊星歯車装置PGのリングギヤRの回転が、第一カウンタギヤG1を介してカウンタギヤ機構Ctに伝達される。
また、第二回転電機出力ギヤ21は、カウンタドライブギヤ22とは周方向(第一カウンタギヤG1の周方向)の異なる位置で、第一カウンタギヤG1と噛み合っており、第二回転電機MG2は、第一カウンタギヤG1を介して、リングギヤRに駆動連結されている。また、出力軸Oは、第二カウンタギヤG2に噛み合うように配置されることで、リングギヤRに駆動連結されている。すなわち、本実施形態では、リングギヤRと第二回転電機MG2と出力軸Oとの間の回転速度の関係は、互いに比例関係にあり、その変速比(すなわち、回転速度比)は、間に介在する歯車の歯数に応じた値となる。
【0033】
2.制御装置30の構成
制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置30のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、
図2に示すような制御装置30の各機能部31〜38が構成されている。また、各機能部31〜38は、互いにセンサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部31〜38の機能が実現される。また、制御装置30は、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置40と、通信可能に接続されている。
【0034】
車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se7を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30に入力される。制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。エンジン回転速度センサSe1は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、エンジン回転速度センサSe1の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度Weを検出する。入力軸回転速度センサSe2は、入力軸Iの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、入力軸回転速度センサSe2の入力信号に基づいて入力軸Iの回転速度Wiを検出する。第一回転電機回転速度センサSe3は、第一回転電機MG1の回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、第一回転電機回転速度センサSe3の入力信号に基づいて第一回転電機MG1の回転速度Wm1を検出する。第二回転電機回転速度センサSe4は、第二回転電機MG2の回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、第二回転電機回転速度センサSe4の入力信号に基づいて第二回転電機MG2の回転速度Wm2を検出する。第二回転電機MG2の回転速度は、出力軸Oの回転速度及びリングギヤRの回転速度と比例関係にあるため、制御装置30は、第二回転電機回転速度センサSe4の入力信号に基づいて、出力軸Oの回転速度Wo及びリングギヤRの回転速度Wrを検出する。
【0035】
アクセル開度検出センサSe5は、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するためのセンサである。制御装置30は、アクセル開度検出センサSe5の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。
バッテリ充電状態検出センサSe6は、バッテリBTの充電状態を検出するためのセンサである。本実施形態では、バッテリ充電状態検出センサSe6は、バッテリ電圧を検出するための電圧センサ、バッテリ電流を検出するための電流センサ、及びバッテリ温度を検出するための温度センサなどから構成されたセンサである。
【0036】
シフト位置センサSe7は、シフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。制御装置30は、シフト位置センサSe7からの入力情報に基づいて、「ドライブレンジ」、「ニュートラルレンジ」、「後進ドライブレンジ」、「パーキングレンジ」等のいずれのレンジが運転者により指定されたかを検出する。また、本実施形態では、「ドライブレンジ」の中でも、「回生増加レンジ」等の運転者の制動力の増加要求又は減少要求を受け付けるシフト位置を変更可能な構成となっている。
【0037】
2−1.エンジン制御装置
エンジン制御装置40は、エンジン制御部41を備えている。エンジン制御部41は、エンジンEの動作制御を行う機能部である。本実施形態では、エンジン制御部41は、制御装置30の車両制御部34からエンジン要求トルクが指令されている場合は、車両制御部34から指令されたエンジン要求トルクを出力トルク指令値に設定し、エンジンEが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。また、エンジン制御部41は、車両制御部34からエンジンEへの燃料供給停止が指令されている場合は、エンジンEへの燃料供給を停止して、エンジンEを燃料供給停止状態に制御する。
【0038】
2−2.第一回転電機制御部31
制御装置30は、第一回転電機制御部31を備えている。第一回転電機制御部31は、第一回転電機MG1の動作制御を行う機能部である。本実施形態では、第一回転電機制御部31は、車両制御部34から指令された第一目標トルクTm1oが指令されている場合は、第一目標トルクTm1oをトルク指令値に設定し、第一回転電機MG1がトルク指令値のトルクを出力するようにトルク制御を行う。具体的には、第一回転電機制御部31は、第一インバータIN1が備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、第一回転電機MG1の出力トルクを制御する。
【0039】
2−3.第二回転電機制御部32
制御装置30は、第二回転電機制御部32を備えている。第二回転電機制御部32は、第二回転電機MG2の動作制御を行う機能部である。本実施形態では、第二回転電機制御部32は、車両制御部34から指令された第二目標トルクTm2oが指令されている場合は、第二目標トルクTm2oをトルク指令値に設定し、第二回転電機MG2がトルク指令値のトルクを出力するようにトルク制御を行う。具体的には、第二回転電機制御部32は、第二インバータIN2が備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、第二回転電機MG2の出力トルクを制御する。
【0040】
2−4.係合装置制御部33
制御装置30は、係合装置制御部33を備えている。係合装置制御部33は、係合装置CLの制御を行う機能部である。係合装置制御部33は、車両制御部34から指令された目標伝達トルク容量Tcpoに基づき、サーボ機構を制御することにより、係合装置CLの伝達トルク容量を制御する。本実施形態では、係合装置CLのサーボ機構は、サーボモータ機構とされており、車両制御部34は、目標伝達トルク容量Tcpoに基づき、サーボモータへの供給電力を算出して、サーボモータを駆動制御するように構成されている。
【0041】
2−5.車両制御部34
車両制御部34は、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、及び係合装置CL等に対して行われる各種トルク制御等を車両全体として統合する制御を行う機能部である。
【0042】
車両制御部34は、駆動力源側から出力軸Oに伝達される目標駆動力である車両要求トルクと、各駆動力源及び係合装置CLの運転モードと、を決定する。ここで、車両要求トルク、及び運転モードは、アクセル開度、車速、シフト位置及びバッテリBTの充電量SOC等に応じて決定される。
本実施形態では、車両制御部34は、シフト位置が「回生増加レンジ」に変更されたと検出した場合に、車両の制動力を増加させる要求があったと判定して、負トルク側の車両要求トルクの大きさを増加させるように構成されている。
【0043】
そして、車両制御部34は、エンジンEに対して要求する出力トルクであるエンジン要求トルク、第一回転電機MG1に対して要求する出力トルクである第一目標トルクTm1o、第二回転電機MG2に対して要求する出力トルクである第二目標トルクTm2o、係合装置CLに対して要求する伝達トルク容量である目標伝達トルク容量Tcpoを算出し、それらを他の制御部31、32、33及びエンジン制御装置40に指令して統合制御を行う。なお、本実施形態では、負トルク側の車両要求トルクが、要求制動トルクTbkとして設定される。
【0044】
車両制御部34は、アクセル開度、車速、シフト位置及びバッテリBTの充電量SOC等に基づいて、各駆動力源の運転モードを決定する。なお、係合装置CLが滑り係合状態にある場合は、駆動力源として機能する。本実施形態では、運転モードとして、少なくとも第二回転電機MG2を駆動力源とする電動モード、及び少なくともエンジンEを駆動力源とするパラレルモード等を有する。例えば、車両制御部34は、バッテリBTの充電量SOCが電動モード禁止判定値を下回った場合には、電動モードを禁止して、パラレルモードに決定する。
【0045】
本実施形態では、車両制御部34は、運転モードを電動モードに決定している場合は、基本的には、係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpoをゼロに設定し、係合装置CLを解放状態に制御させる。これにより、車両用駆動装置1の動力伝達機構からエンジンEが切り離され、第二回転電機MG2の駆動力のみで車両を駆動する。このとき、車両制御部34は、エンジンEへの燃料供給停止を指令する。このため、エンジンEは、回転停止状態になる。
【0046】
車両制御部34は、バッテリ充電状態検出センサSe6の入力信号に基づいて、バッテリBTの充電状態を表す充電状態指標として、充電量SOC、劣化状態、及び満充電量を推定する。なお、バッテリBTの充電状態を表す充電状態指標として、バッテリ電圧、バッテリ電流などが用いられてもよい。
【0047】
運転モードが電動モードに決定されている場合の、トルク制御の概略を説明する。
図4のフローチャートに示すように、車両制御部34は、電動モードにおいて、車両要求トルクがゼロ未満であると判定した場合(ステップ♯01:Yes)は、制動トルク制御を実行する(ステップ♯02〜♯04)。そして、車両制御部34は、バッテリBTの充電量SOCが、充電制限判定値以上であると判定した場合(ステップ♯02:Yes)は、後述する発熱制動トルク制御を実行する(ステップ♯03)。一方、車両制御部34は、バッテリBTの充電量SOCが、充電制限判定値未満であると判定した場合(ステップ♯02:No)は、回生制動トルク制御を実行する(ステップ♯04)。車両制御部34は、車両要求トルクがゼロ以上であると判定した場合(ステップ♯01:No)は、力行トルク制御を実行する(ステップ♯05)。
【0048】
2−5−1.制動制御部35
次に、制動トルク制御について説明する。
車両制御部34は、電動モードにおいて車両要求トルクがゼロ未満になり、車両の制動が要求された場合に、通常は、第二回転電機MG2に負トルクである発電トルクを出力させる。しかし、バッテリBTの充電状態が満充電状態に近い場合は充電電流が制限されるため、第二回転電機MG2に十分な大きさの発電トルクを出力させることができない場合がある。例えば、バッテリBTの充電状態が満充電状態に近い場合は、バッテリBT及び周辺回路を保護するために、バッテリBTに流れる充電電流を制限する必要があり、第一回転電機制御部31及び第二回転電機制御部32が回転電機MG1、MG2の発電を制限する場合がある。
【0049】
本実施形態では、このような発電トルクの制限により車両を十分制動できない場合にも対応できるように、制動制御部35は、発熱制動トルク制御を実行するように構成されている。すなわち、制動制御部35は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値以上であると判定した場合には、係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpoを制御して、係合装置CLの係合摩擦力(滑り摩擦トルク)を利用して、車両を制動するように構成されている。
【0050】
制動制御部35は、制動トルク制御実行判定部36、充電制限判定部37、及び制動トルク制御部38を備えている。
制動トルク制御実行判定部36は、上記したように、エンジンEの回転が停止している状態で、出力軸Oに負トルクを出力させる制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する。
充電制限判定部37は、バッテリBTの充電状態を表す充電状態指標が予め定められた充電制限判定値以上である場合に充電制限ありと判定し、充電状態指標が充電制限判定値未満である場合に充電制限なしと判定する。
【0051】
制動トルク制御部38は、制動トルク制御実行判定部36により制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電制限判定部37により充電制限なしと判定されている場合に、第二回転電機MG2を発電させて、第二回転電機MG2の発電トルクにより出力軸Oに負トルクを出力させる回生制動トルク制御を実行する。なお、回生制動トルク制御は、制動トルク制御部38に備えられた回生制動トルク制御部43により実行される。
一方、制動トルク制御部38は、制動トルク制御実行判定部36により制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電制限判定部37により充電制限ありと判定されている場合に、入力軸Iの回転速度Wi(入力回転速度Wiとも称す)を、ゼロより高い回転速度に設定された目標回転速度Wio(入力目標回転速度Wioとも称す)に近付けるように第一回転電機MG1を力行させると共に、係合装置CLの伝達トルクTcl(絶対値)を、エンジンEが回転し始めるトルクである静止限界トルクTcr(絶対値)未満となるように制御して、係合装置CLの伝達トルクTclにより出力軸Oに負トルクを出力させる発熱制動トルク制御を実行する。なお、発熱制動トルク制御は、制動トルク制御部38に備えられた発熱制動トルク制御部42により実行される。
【0052】
上記の構成によれば、充電制限ありと判定されている場合には、エンジンEを回転させない範囲内で係合装置CLの伝達トルクTclが制御されるので、係合装置CLは、解放状態から係合部材間に回転速度差がある係合状態である滑り係合状態に制御される。この滑り係合状態では、エンジンE側の係合部材CLaが回転停止しており、入力軸I側の係合部材CLbがゼロより高い回転速度で回転するため、負トルクの伝達トルクが、係合装置CLから入力軸Iに伝達され、動力伝達機構を介して出力軸Oに伝達される。この反力として、伝達トルクTclの大きさの正トルクが係合装置CLからエンジンEに伝達される。係合装置CLからエンジンEに伝達されるトルクが、静止限界トルクTcrを上回るとエンジンEは回転し始める。上記の構成によれば、係合装置CLの伝達トルクTclは、エンジンEを回転させない範囲内、すなわち、静止限界トルクTcr未満の範囲内に制御される。よって、静止限界トルクTcr未満の範囲内で、係合装置CLの伝達トルクTclを変化させることにより、入力軸I側から出力軸Oに伝達される負トルクを制御することが可能になる。
【0053】
2−5−1−1.パワーバランスに基づくトルク制御
次に、発熱制動トルク制御を実行する場合における、パワーバランスに基づくトルク制御を説明する。ここでは、駆動系の伝達損失や回転電機の損失などの各種損失は無視した理想的なモデルで検討する。
<パワーバランス>
式(1)に示すように、係合装置CLの滑り摩擦による発熱パワーPcl、第一回転電機MG1の力行又は発電による電力(パワー)Pm1、及び第二回転電機MG2の力行又は発電による電力(パワー)Pm2の合計である駆動力源出力パワー(Pcl+Pm1+Pm2)と、要求されている制動パワーPbkと、が一致すれば、駆動力源側から出力軸Oに出力される駆動力源出力トルクToが、要求制動トルクTbkに一致する。
Pbk=Pcl+Pm1+Pm2 ・・・(1)
Tbk=To
ここで、式(2)に示すように、要求制動パワーPbkは、要求制動トルクTbkと出力軸Oの回転速度Wo(出力回転速度Woとも称す)との乗算値となる。係合装置CLの発熱パワーPclは、伝達トルクTclと係合部材間の回転速度差との乗算値となる。本実施形態では、エンジンE側の係合部材CLaの回転が停止しているため、係合部材間の回転速度差は、入力回転速度Wiに等しくなる。第一回転電機MG1のパワーPm1は、第一回転電機MG1の出力トルクTm1と第一回転電機MG1の回転速度Wm1(第一回転速度Wm1とも称す)との乗算値となる。第二回転電機MG2のパワーPm2は、第二回転電機MG2の出力トルクTm2と第二回転電機MG2の回転速度Wm2(第二回転速度Wm2とも称す)との乗算値となる。
Pbk=Tbk×Wo
Pcl=Tcl×Wi ・・・(2)
Pm1=Tm1×Wm1
Pm2=Tm2×Wm2
なお、式(1)のパワーバランスにおいて、動力伝達機構のフリクションロス、インバータのスイッチングロスなどを考慮するようにしてもよい。
【0054】
<回転電機間のパワーバランス>
発熱制動トルク制御を実行する場合は、バッテリBTの充電量SOCが、充電制限判定値以上であると判定されているので、バッテリBTの充電量SOCが増加しないように制御されることが望ましく、また、充電量SOCが、制動時に減少しないように制御されることが望ましい。そこで、本実施形態では、式(3)に示すように、発熱制動トルク制御を実行する場合は、バッテリBTの充電量SOCが変化しないように、第一回転電機MG1のパワーPm1と、第二回転電機MG2のパワーPm2との合計がゼロになるように制御される。
Pm1+Pm2=0 ・・・(3)
【0055】
<係合装置の発熱パワーの設定>
式(3)を式(1)に代入すると式(4)が得られる。すなわち、本実施形態では、伝達トルクTclと入力軸Iの回転速度Wiとの乗算値である係合装置CLの発熱パワーPclが、要求制動パワーPbkに一致するように制御される。
Pbk=Pcl ・・・(4)
Pbk=Tcl×Wi
<発熱制動トルク制御の開始時のパワー設定>
なお、発熱制動トルク制御の開始直後に、伝達トルクTcl及び入力回転速度Wiを急に変化させることは容易でないため、当該伝達トルクTclと入力回転速度Wiとの乗算値となる係合装置CLの発熱パワーPclを、要求制動トルクTbkまで急に変化させることとは容易でない。このため、発熱制動トルク制御の開始直後のテーリング処理中は、式(1)が成立するように、第二回転電機MG2のパワーPm2が制御される。
【0056】
<入力軸Iの回転速度Wiの制御>
係合装置CLの発熱パワーPclは、式(2)に示したように、伝達トルクTclと入力回転速度Wiとの乗算値となる。
伝達トルクTcl(絶対値)は、エンジンEが回転しないように、静止限界トルクTcr(絶対値)未満となるように制限されるため(|Tcl|<|Tcr|)、伝達トルクTcl(絶対値)の増加が、静止限界トルクTcrにより制限される場合は、入力回転速度Wiを増加させる必要がある。
仮に、伝達トルクTcl(絶対値)を静止限界トルクTcr(絶対値)まで最大限に増加させた場合において、式(4)のパワーバランスを満たす入力回転速度Wiである下限回転速度Wilは、式(5)に示すように、要求制動パワーPbk(絶対値)を静止限界トルクTcr(絶対値)で除算した値になり、
図8に示すように、要求制動パワーPbk(絶対値)に比例する。そして、入力回転速度Wiは、下限回転速度Wilより大きくなるように、
図8に斜線のハッチングで示す領域に制御される。
Wil=|Pbk|/|Tcr| ・・・(5)
Wi>Wil
なお、要求制動パワーPbk及び発熱パワーPclは負の値になる。また、伝達トルクTclは、係合装置CLから出力軸O側に伝達する方向が正であるので、負の値になり、静止限界トルクTcrは、係合装置CLからエンジンEに伝達する方向が正であるので、正の値になる。
【0057】
入力回転速度Wiには、動力伝達機構の共振抑制、係合装置CLの係合部材の偏心抑制などから、望ましい回転速度帯がある。よって、
図8に示すように、望ましい回転速度帯内に予め設定された初期回転速度が、要求制動パワーPbkに応じて設定された下限回転速度Wilより大きい場合は、入力回転速度Wiは、初期回転速度になるように制御されることが望ましい。一方、初期回転速度が、下限回転速度Wil以下の場合は、入力回転速度Wiは、下限回転速度Wilより大きくなるように制御されることが望ましい。
【0058】
<第一回転電機MG1の出力トルクTm1の設定>
入力回転速度Wiを、入力目標回転速度Wioに制御するに際して、第三回転要素E3は、出力軸Oを介して車輪Wに駆動連結されており、車体のイナーシャが作用する。このため、第三回転要素E3の回転速度の変化は小さく、支点と仮定することができる。また、第二回転要素E2には、負の伝達トルクTclが伝達されている。よって、第一回転要素E1に駆動連結されている第一回転電機MG1の出力トルクを変化させることで、第三回転要素E3の支点回りに、入力回転速度Wi及び第一回転速度Wm1を変化させることができる。
よって、入力回転速度Wiが、入力目標回転速度Wioに近づくように、第一回転電機MG1の出力トルクを変化させる回転速度制御が実行される。
【0059】
また、入力回転速度Wiを入力目標回転速度Wioから変動させないためには、第二回転要素E2に伝達されている負の伝達トルクTclと釣り合うような正のトルクを第一回転電機MG1に出力させる必要がある。すなわち、第三回転要素E3を支点として、伝達トルクTclにより生じる回転モーメントと、第一回転電機MG1の出力トルクTm1により生じる回転モーメントと、が釣り合うように、第一回転電機MG1の出力トルクTm1が制御されることとなる。
【0060】
伝達トルクTclに釣り合う第一回転電機MG1の出力トルクTm1は、式(8)に示すように、伝達トルクTcl(絶対値)に、所定の歯数比λ/(1+λ)を乗算して求められる。
Tm1=λ/(1+λ)×|Tcl| ・・・(8)
なお、入力回転速度Wiが、入力目標回転速度Wioに近づくように、第一回転電機MG1の出力トルクTm1を変化させる回転速度制御を実行することによって、第一回転電機MG1の出力トルクTm1が、式(8)に示す伝達トルクTclの反力トルクに制御される。なお、入力回転速度Wiが変化している場合は、式(8)の右辺に、更に、イナーシャトルクが加算される。ここで、イナーシャトルクは、入力回転速度Wiの変化速度(回転加速度)に第一係合装置CL1の出力側係合部材CLb及び入力軸I等の第二回転要素E2と一体回転的に回転する回転部材のイナーシャを乗算した値となる。
【0061】
2−5−1−2.発熱制動トルク制御の構成
以上で説明した発熱制動トルク制御の原理に基づいて、本実施形態に係わる発熱制動トルク制御部42が構成されている。すなわち、発熱制動トルク制御部42は、充電制限判定部37により充電制限ありと判定されている場合(発熱制動トルク制御を実行する場合)に、第一回転電機MG1の力行に要する電力に応じた電力を第二回転電機MG2に発電させる。また、発熱制動トルク制御部42は、係合装置CLの伝達トルクTclと入力回転速度Wiとを乗算して求めた発熱パワーPclが、要求制動トルクTbkと出力回転速度Woとを乗算して求めた要求制動パワーPbkに近づくように、入力回転速度Wi及び係合装置CLの伝達トルクTclを制御するように構成されている。なお、発熱制動トルク制御部42は、回生制動トルク制御及び発熱制動トルク制御を実行する際に、負トルクである要求制動トルクTbkを出力軸Oに出力させるように構成されている。
【0062】
<係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpoの算出>
図5に示すブロック図に基づいて詳細に説明する。
発熱制動トルク制御部42は、ブロック54及び式(9)に示すように、要求制動トルクTbkと出力回転速度Woとを乗算して要求制動パワーPbkを算出する。
Pbk=Tbk×Wo ・・・(9)
そして、発熱制動トルク制御部42は、上記したように、発熱パワーPclが要求制動パワーPbkに近づくように、入力回転速度Wi及び伝達トルクTclを制御するように構成されている。
この際、上記のように、係合装置CLの伝達トルクTcl(絶対値)が、エンジンEが回転し始めるトルクである静止限界トルクTcr(絶対値)未満となるように制御される。本実施形態では、係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpoを算出する前に、入力軸Iの目標回転速度Wio(入力目標回転速度Wioとも称す)が決定される。よって、発熱制動トルク制御部42は、ブロック55及び式(10)に示すように、係合装置CLの発熱パワーPclが要求制動パワーPbkに近づくように、要求制動パワーPbk(絶対値)を入力目標回転速度Wioで除算した値を、係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpotとして算出するように構成されている。
Tcpot=|Pbk|/Wio ・・・(10)
ここで、入力目標回転速度Wioには、制御開始時のテーリング処理が行われる前の値Wiotが用いられる。
【0063】
<入力軸Iの目標回転速度Wioの決定>
発熱制動トルク制御部42は、要求制動パワーPbkの絶対値を静止限界トルクTcrの絶対値で除算して求めた下限回転速度Wilより大きくなるように入力軸Iの目標回転速度Wioを設定して、入力回転速度Wiを制御するように構成されている。
本実施形態では、発熱制動トルク制御部42は、ブロック50に示すように、エンジンEの油温に基づいて、静止限界トルクTcrを算出するように構成されている。静止限界トルクTcrは、油温により変化するため、発熱制動トルク制御部42は、油温と静止限界トルクTcrとの関係が予め設定された特性マップを備えている。そして、発熱制動トルク制御部42は、特性マップを用い、油温に基づいて、静止限界トルクTcrを算出する。なお、静止限界トルクTcrには、変動幅などを考慮して、所定の安全率(例えば、1.2)が乗算された値が設定されてもよい。
発熱制動トルク制御部42は、ブロック51及び式(5)に示すように、要求制動パワーPbkの絶対値を静止限界トルクTcrの絶対値で除算した値を、下限回転速度Wilとして算出するように構成されている。
発熱制動トルク制御部42は、ブロック52に示すように、下限回転速度Wilより大きくなるように入力目標回転速度Wioを決定するように構成されている。
【0064】
本実施形態では、発熱制動トルク制御部42は、
図8を用いて説明したように、下限回転速度Wilが、予め定められた初期回転速度未満である場合は、初期回転速度を入力目標回転速度Wioとして設定し、下限回転速度Wilが初期回転速度以上である場合は、下限回転速度Wilより大きい回転速度を入力目標回転速度Wioとして設定するように構成されている。
【0065】
<発電制動トルク制御の開始時のテーリング処理>
発熱制動トルク制御部42は、ブロック53、56に示すように、発熱制動トルク制御の実行開始後、入力目標回転速度Wio及び目標伝達トルク容量Tcpoを、開始前の入力回転速度Wis及び伝達トルク容量(ゼロ)から、開始後に発熱パワーPclが要求制動パワーPbkに近づくように設定された入力目標回転速度Wiot及び目標伝達トルク容量Tclotまで徐々に変化させるテーリング処理を実行するように構成されている。
本実施形態では、発熱制動トルク制御部42は、発熱制動トルク制御の実行開始後、ゼロから1.0まで徐々に増加するテーリングゲインKtlを用いて、式(11)に示すように、開始前の入力回転速度Wis及びゼロと、開始後の入力目標回転速度Wiot及び目標伝達トルク容量Tclotとの間をそれぞれ補間して、テーリング処理後の入力目標回転速度Wio及び目標伝達トルク容量Tcloを算出するように構成されている。
Wio=Ktl×Wiot+(1−Ktl)×Wis ・・・(11)
Tclo=Ktl×Tclot
【0066】
<第一回転電機MG1の目標トルクTm1oの算出>
発熱制動トルク制御部42は、ブロック58に示すように、入力軸Iの回転速度Wiが、入力軸Iの目標回転速度Wioに近づくように、第一回転電機MG1の目標トルクである第一目標トルクTm1oを変化させる第一回転速度制御を実行するように構成されている。
この第一回転速度制御により、発熱制動トルク制御部42は、第三回転要素E3を支点として、第二回転要素E2に伝達される伝達トルクTclと釣り合うような反力トルクを第一回転電機MG1に出力させて第一回転要素E1に伝達させることとなる。
【0067】
<第二回転電機MG2の目標トルクTm2oの算出>
発熱制動トルク制御部42は、上記のように、第一回転電機MG1の力行に要する電力に応じた電力を第二回転電機MG2に発電させるように構成されている。
本実施形態では、発熱制動トルク制御部42は、ブロック59に示すように、第一目標トルクTm1oに第一回転速度Wm1を乗算した値を、第一回転電機MG1のパワーPm1として算出するように構成されている。
また、発熱制動トルク制御部42は、ブロック60に示すように、目標伝達トルク容量Tcpotなどに基づいて算出した伝達トルクTclに入力回転速度Wiを乗算した値を、係合装置CLの発熱パワーPclとして算出するように構成されている。
そして、発熱制動トルク制御部42は、ブロック61に示すように、式(1)又は式(3)に示すパワーバランスの式に基づいて、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oを算出するように構成されている。
【0068】
この際、発電制動トルク制御の開始時のテーリング処理が終了した後は、係合装置CLの発熱パワーPclが要求制動パワーPbkに一致するように制御されるので、式(12)に示すように、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oは、第一回転電機MG1のパワーPm1に(−1)を乗算した値に設定される。
Pm2o=−Pm1 ・・・(12)
一方、発電制動トルク制御の開始時のテーリング処理を実行している場合は、係合装置CLの発熱パワーPclが要求制動パワーPbkに一致していないので、式(13)に示すように、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oは、要求制動パワーPbkから発熱パワーPcl及び第一回転電機MG1のパワーPm1を減算した値に設定される。
Pm2o=(Pbk−Pcl)−Pm1 ・・・(13)
なお、開始時のテーリング処理が終了した後においても、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oは、テーリング処理中と同様に、式(13)に基づいて設定されるように構成されてもよい。
発熱制動トルク制御部42は、ブロック62に示すように、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oを、第二回転電機MG2の回転速度Wm2で乗算した値を、第二目標トルクTm2oとして算出するように構成されている。
【0069】
2−5−1−3.制動トルク制御の挙動
次に、制動発熱制動トルク制御部42実行される処理について、
図6及び
図7に示すタイムチャートの例を用いて説明する。
<
図6の例>
図6に示す例は、時刻t11までの初期状態では、電動モードにおいて車両要求トルクが正トルクであり、力行トルク制御が実行されている。また、係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpoがゼロに設定されており、係合装置CLは解放状態である。第一回転電機MG1の回転速度Wm1がゼロに近づくように、第一回転電機MG1の出力トルクが制御されているが、係合装置CLが解放状態であるため、第一回転電機MG1の出力トルクはゼロに近づいている。
【0070】
制動トルク制御実行判定部36は、エンジンEの回転が停止し、係合装置CLが解放された状態で、アクセル開度の減少などにより、車両要求トルクが負トルクになり制動要求があったと判定した場合(時刻t11)に、制動トルク制御を実行すると判定し、本実施形態に係わる制動トルク制御を開始する。
充電制限判定部37は、制動トルクの開始時(時刻t11)は、充電量SOCが充電制限判定値未満であるので、充電制限なしと判定している。
【0071】
制動トルク制御部38は、充電制限なしと判定されているので、第二回転電機MG2に発電させて、第二回転電機MG2の発電トルクにより出力軸Oに負トルクを出力させる回生制動トルク制御を実行している(時刻t11から時刻t12)。回生制動トルク制御が実行されている場合は、
図6に示すように、出力軸Oのトルク相当に換算した第二回転電機MG2の出力トルクが、車両要求トルクに一致しており、第二回転電機MG2により車両要求トルクに応じたトルクが出力されている。第二回転電機MG2が発電しているので、バッテリBTの充電量SOCが次第に増加している。充電量SOCが充電制限判定値以上になるまで増加すると、充電制限判定部37は、充電制限ありと判定する(時刻t12)。なお、
図7の上から5つ目のトルクに関するグラフにおいて、第二回転電機MG2の出力トルク及び車両要求トルクは、第三回転要素E3(リングギヤR)に作用するトルク相当に換算したものを示している。
【0072】
制動トルク制御部38は、充電制御ありと判定されているので、回生制動トルク制御を終了して発熱制動トルク制御を開始する。発熱制動トルク制御の開始後の所定期間(時刻t12から時刻t13)は、入力回転速度Wi及び目標伝達トルク容量Tcpoを、開始前の値から、発熱パワーPclが要求制動パワーPbkに近づくように設定された入力目標回転速度Wiot及び目標伝達トルク容量Tclotまで徐々に変化させるテーリング処理が実行されている。
図6に示す例では、テーリングゲインKtlが、ゼロから1.0まで一定の傾きで増加するように構成されており、入力回転速度Wi及び目標伝達トルク容量Tcpoは、一定の傾きで増加している。
【0073】
このテーリング処理により、伝達トルクTclがゼロから次第に減少していき、入力回転速度Wiはゼロ以上で次第に増加している。これにより、伝達トルクTclと入力回転速度Wiとの乗算値となる係合装置CLの発熱パワーPclは、ゼロから要求制動パワーPbkまで次第に減少している。このテーリング処理の間も、第一回転電機MG1の出力トルクTm1は、ゼロから次第に減少していく伝達トルクTclの反力トルクとなり、ゼロから次第に増加していく。そして、テーリング処理中は、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oは、第一回転電機MG1のパワーPm1、第二回転電機MG2のパワーPm2、及び係合装置CLの発熱パワーPclの合計である駆動力源出力パワーが、要求制動パワーPbkと、一致するように設定されているので、第二回転電機MG2のパワーPm2は、要求制動パワーPbkから徐々に増加している。そして、テーリング処理中であっても、駆動力源出力パワーを、要求制動パワーPbkに一致させることができており、駆動力源側から出力軸Oに出力される駆動力源出力トルクToを、要求制動トルクTbk(車両要求トルク)に一致させることができている。
【0074】
制動トルク制御部38は、テーリング処理が終了すると、通常の発熱制動トルク制御を実行する(時刻t13以降)。テーリング処理が終了すると、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oは、第一回転電機MG1のパワーPm1と、第二回転電機MG2のパワーPm2との合計がゼロになるように設定されるので、充電量SOCが変化しないようにできている。また、第二回転電機MG2の出力トルクTm2は、負トルクに制御されているので、伝達トルクTclを補助することができ、出力軸換算の伝達トルクTclを、要求制動トルクTbkから増加させることができている。
【0075】
<
図7の例>
次に、
図7に示すタイムチャートの例を説明する。
図7に示す例は、時刻t21までの初期状態では、電動モードにおいて車両要求トルクが正であり、力行トルク制御が実行されている。また、係合装置CLの目標伝達トルク容量Tcpoがゼロに設定されており、係合装置CLは解放状態である。本例では、入力軸Iの回転速度Wiがゼロに近づくように、第一回転電機MG1の出力トルクが制御されている。よって、第一回転電機MG1の回転速度Wm1が、初期状態では負の回転速度になっている。
【0076】
制動トルク制御実行判定部36は、
図6の例と同様に、車両要求トルクが負トルクになり制動要求があったと判定した場合(時刻t21)に、制動トルク制御を開始する。
充電制限判定部37は、制動トルクの開始時(時刻t21)は、充電量SOCが充電制限判定値未満であるので、充電制限なしと判定しており、
図8の例と同様に回生制動トルク制御を実行する。回生制動トルク制御により充電量SOCが充電制限判定値以上になるまで増加すると、充電制限ありと判定され、発熱制動トルク制御が開始される(時刻t22)。
【0077】
テーリング処理の前半(時刻t22〜時刻t23)では、第一回転電機MG1の回転速度Wm1は、まだ負の回転速度であり、負の伝達トルクTclの反力トルクとして、第一回転電機MG1に正のトルクが出力されるため、第一回転電機MG1は発電を行い、そのパワーPm1は負の値になる。しかし、テーリング処理中は、第二回転電機MG2の目標パワーPm2oは、第一回転電機MG1のパワーPm1、第二回転電機MG2のパワーPm2、及び係合装置CLの発熱パワーPclの合計である駆動力源出力パワーが、要求制動パワーPbkと、一致するように設定されている。このため、テーリング処理中に、第一回転電機MG1が一時的に発電を行っても、駆動力源出力パワーを、要求制動パワーPbkに一致させることができており、駆動力源側から出力軸Oに出力される駆動力源出力トルクToを、要求制動トルクTbk(車両要求トルク)に一致させることができている。
そして、制動トルク制御部38は、テーリング処理が終了すると、
図6の例と同様に、通常の発熱制動トルク制御を実行する(時刻t23以降)。
【0078】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0079】
(1)上記の実施形態において、制御装置30は、1つの制御ユニットが、複数の機能部31〜34を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、複数の制御ユニットを備えるように構成され、複数の機能部31〜34が、複数の制御ユニットに分かれて、備えられるように構成されてもよい。
【0080】
(2)上記の実施形態において、係合装置CLのサーボ機構が、サーボモータ機構とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、係合装置CLのサーボ機構が、油圧サーボ機構とされてもよい。
【0081】
(3)上記の実施形態において、アクセル開度が所定の所定値未満のコースト走行中の制御を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両制御部34は、ブレーキペダルの操作量に応じて、車両の制動要求の有無を判定し、ブレーキペダルの操作量に応じて要求制動トルクTbkを設定するように構成されてもよい。
【0082】
(4)上記の実施形態において、第二回転電機MG2が、カウンタギヤ機構Ctを介して、遊星歯車装置PGのリングギヤRに駆動連結されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第二回転電機MG2は、出力軸Oが駆動連結された回転要素に、差動歯車装置PGの他の回転要素を介することなく駆動連結されていれば、どのような駆動連結機構を介して、或いは駆動連結機構を介さずに、出力軸Oが駆動連結された回転要素に駆動連結されてもよい。例えば、第二回転電機MG2が、遊星歯車装置PGのリングギヤRと一体回転するように駆動連結されてもよい。
【0083】
(5)上記の実施形態において、発熱制動トルク制御部42が、発熱制動トルク制御を実行する場合に、第一回転電機MG1の力行に要する電力に応じた電力を第二回転電機MG2に発電させて、第一回転電機MG1のパワーPm1と、第二回転電機MG2のパワーPm2との合計がゼロになるように制御する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一回転電機MG1のパワーPm1と、第二回転電機MG2のパワーPm2との合計がゼロ以外(好ましくはゼロ未満)になるように、第一回転電機MG1の力行によるパワーPm1と、第二回転電機MG2の発電によるパワーPm2とが制御されてもよい。例えば、第二回転電機MG2の発電トルクの大きさを減少させて、Pm1とPm2との合計がゼロより小さくなるようにしてもよい。この場合でも、テーリング処理時と同様に、式(1)に基づいて、駆動力源出力パワーと要求制動パワーPbkとを近づけるように制御すれば、駆動力源出力トルクToを要求制動トルクTbkに近づけることができる。