特許第5787172号(P5787172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787172
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】防波堤の嵩上げ工法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
   E02B3/06 301
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-33318(P2012-33318)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170354(P2013-170354A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】別所 友宏
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和雄
(72)【発明者】
【氏名】小澤 加苗
【審査官】 竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−190254(JP,A)
【文献】 特開2000−027149(JP,A)
【文献】 特開2008−019561(JP,A)
【文献】 特開2010−168824(JP,A)
【文献】 特開2003−253649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/00−3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎マウンドを港内側に拡幅する基礎マウンド拡幅工程と、
前記基礎マウンドの上に沈設した既設ケーソンの港内側に新設ケーソンを設置するケーソン設置工程と、
前記ケーソン設置工程において設置した新設ケーソンを貫通する杭を打設し、該新設ケーソンを基礎マウンドに据え付けるケーソン据付工程と、
前記ケーソン据付工程において据え付けた新設ケーソンと前記既設ケーソンとに跨がる態様で、嵩を上げるコンクリートを打設するコンクリート打設工程と
前記ケーソン据付工程と前記コンクリート打設工程との間に、前記既設ケーソンと前記新設ケーソンとを一体化するケーソン一体化工程と
を有することを特徴とする防波堤の嵩上げ工法。
【請求項2】
前記ケーソン一体化工程において、前記既設ケーソンと前記新設ケーソンとの間に鉄筋篭を投入し、その後、コンクリートを打設することを特徴とする請求項1に記載の防波堤の嵩上げ工法。
【請求項3】
前記ケーソン据付工程において、設置した新設ケーソンと打設した杭との間にグラウトを充填することを特徴とする請求項1または2に記載の防波堤の嵩上げ工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防波堤の嵩上げ工法に関するもので、特に、既設の重力式防波堤の嵩上げに好適な防波堤の嵩上げ工法に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災で発生した「想定以上の津波」によって、既設の防波堤は損傷を受け、東北地区は大きな被害を受けた。特に、重力式防波堤は、海底Bに敷設した基礎マウンド102の上にケーソン(堤体)を沈設したものであり、図1に示すように、防波堤101の港外(沖側)と港内(陸側)との水位差により防波堤101が転倒・滑動した事例や、図2に示すように、防波堤101を越えた津波(越流)が基礎マウンド102を洗掘した事例が見られた。そして、防波堤101を越えた津波は、防波堤101の背後となる市街地に多大な被害をもたらした(たとえば、非特許文献1参照)。
【0003】
このことを踏まえて、防波堤設計における設計津波高さの見直しが進められており、今後、それに見合った防波堤の嵩上げを講じていく必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】独立行政法人港湾空港技術研究所 アジア太平洋沿岸防災研究センター、”巨大津波による防災施設の被災とレベルIとレベルIIへの対応−粘り強い防災施設を目指して−”[online][平成24年2月10日検索]インターネット<URL:http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/higashinihon/4/2-2.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、防波堤をただ嵩上げするだけでは、上述した防波堤の転倒・滑動・支持力に対しての安全性の不足等の課題が残り、防波堤の安全確保が十分でない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、見直された設計津波高さまで嵩上げでき、さらに、防波堤の転倒・滑動・支持力に対して安全性を確保できる防波堤の嵩上げ工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、基礎マウンドを港内側に拡幅する基礎マウンド拡幅工程と、前記基礎マウンドの上に沈設した既設ケーソンの港内側に新設ケーソンを設置するケーソン設置工程と、前記ケーソン設置工程において設置した新設ケーソンを貫通する杭を打設し、該新設ケーソンを基礎マウンドに据え付けるケーソン据付工程と、前記ケーソン据付工程において据え付けた新設ケーソンと前記既設ケーソンとに跨がる態様で、嵩を上げるコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記発明において、前記ケーソン据付工程と前記コンクリート打設工程との間に、前記既設ケーソンと前記新設ケーソンとを一体化するケーソン一体化工程を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記発明のケーソン一体化工程において、前記既設ケーソンと前記新設ケーソンとの間に鉄筋篭を投入し、その後、水中不分離性コンクリートを打設することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明のケーソン据付工程において、設置した新設ケーソンと打設した杭との間にグラウトを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる防波堤の嵩上げ工法は、基礎マウンドを港内側に拡幅する基礎マウンド拡幅工程と、基礎マウンドの上に沈設した既設ケーソンの港内側に新設ケーソンを設置するケーソン設置工程と、ケーソン設置工程において設置した新設ケーソンを貫通する杭を打設し、新設ケーソンを基礎マウンドに据え付けるケーソン据付工程と、ケーソン据付工程において据え付けた新設ケーソンと既設ケーソンとに跨がる態様で、嵩を上げるコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを有するので、見直された設計津波高さまで防波堤を嵩上げでき、さらに、防波堤の転倒・滑動・支持力に対して安全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、防波堤の港内側と港外側との水位差により防波堤が滑動した事例を示す模式図である。
図2図2は、防波堤を越えた津波が基礎マウンドを洗掘した事例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法を説明する図であって、ケーソンを据え付ける工程を示す図である。
図4図4は、本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法を説明する図であって、据え付けたケーソンを既設のケーソンに一体化する工程を示す図である。
図5図5は、本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法を説明する図であって、嵩上げ上部コンクリートを打設する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる防波堤の嵩上げ工法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図3図5は、本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法を説明する図であって、図3は、ケーソンを据え付ける工程を示す図、図4は、据え付けたケーソンを既設のケーソンに一体化する工程を示す図、図5は、嵩上げ上部コンクリートを打設する工程を示す図である。
【0015】
本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法は、既設の防波堤1を見直された設計津波高さを満足するように嵩上げするものである。既設の防波堤1は、海底Bに敷設した基礎マウンド2の上にケーソン(以下、「既設ケーソン」という)3を沈設したものであり、既設ケーソン3の天端には、上部工(上部コンクリート)4が設けてある。
【0016】
図3に示すように、本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法では、まず、既設の防波堤1を構成する基礎マウンド2を港内側に拡幅する(基礎マウンド拡幅工程)。これにより、拡幅した基礎マウンド2の上に新設ケーソン5が設置可能となる。
【0017】
つぎに、既設ケーソン3の港内に臨む面(背面)と既設の防波堤1を構成する上部工4の天端面(上面)とに後施工アンカー31,41を打設する。後施工アンカー31,41は、既設ケーソン3と新設ケーソン5とを一体化するとともに、既設の防波堤1を嵩上げするためのものである。
【0018】
つぎに、別途製作した新設ケーソン5を引き船Sが曳航し、既設の防波堤1の港内側に設置する。新設ケーソン5は、既設の防波堤1を拡幅するとともに、既設の防波堤1とに跨がる上部工(嵩上げのために打設されたコンクリート)6(図5参照)を支持するためのものである。新設ケーソン5は、公知のケーソンと同様に、鉄筋コンクリート製の中空の函体で、内部は隔壁51により複数の隔室52に仕切られている。また、新設ケーソン5の底版には、杭施工用の開口53が設けてある。開口53は、仮蓋54により閉塞可能であり、新設ケーソン5の曳航時には、仮蓋54が取り付けられて開口53が閉塞される。
【0019】
また、新設ケーソン5は、設置した場合に既設の防波堤1と対向する面に鉄筋55が張り出している。この鉄筋55は、既設ケーソン3の港内に臨む面に打設した後施工アンカー31とにより、既設ケーソン3と新設ケーソン5とを一体化するものである。
【0020】
そして、新設ケーソン5は、隔室52にバラスト水を注入することにより、浮体として安定する深さまで沈めた状態で、引き船Sに曳航される。
【0021】
引き船Sが曳航した新設ケーソン5は、上部工4の天端面港内側に設置したウインチWにより引き寄せられ、所定の位置に位置決めした後に沈められ、拡幅した基礎マウンド2の上に設置される(ケーソン設置工程)。
【0022】
図4に示すように、新設ケーソン5が設置されると、仮蓋54(図3参照)が取り外され、開口53が開放される。そして、設置した新設ケーソン5を貫通する鋼管杭7を海底Bに向けて打設する。打設した鋼管杭7は、新設ケーソン5の底版に設けた開口53を通り、基礎マウンド2を貫通し、支持層(図示せず)まで到達する。つぎに、新設ケーソン5の底版に設けた開口53と鋼管杭7との間に残る隙間にグラウト8を充填し、新設ケーソン5と鋼管杭7とを一体化する。これにより、新設ケーソン5は、基礎マウンド2の上に据え付けられる(ケーソン据付工程)。
【0023】
つぎに、既設ケーソン3と新設ケーソン5との間に鉄筋篭(図示せず)を投入した後、妻側型枠(図示せず)をセットし、既設ケーソン3と新設ケーソン5との間に水中不分離性コンクリート9を打設する。これにより、既設ケーソン3と新設ケーソン5とは一体化する(ケーソン一体化工程)。
【0024】
つぎに、図5に示すように、新設ケーソン5の隔室52に中詰材10を投入した後、新設ケーソン5の天端に蓋コンクリート11を打設する。
【0025】
最後に、新設ケーソン5の天端と既設ケーソン3の天端とに跨がる態様で、嵩を上げるコンクリートを打設する。これにより、既設ケーソン3の天端と新設ケーソン5の天端とには、嵩上げされた上部工(嵩上げ上部コンクリート)6が設けられる(コンクリート打設工程)。
【0026】
上述した本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法により嵩上げされた防波堤は、既設の基礎マウンド2の上に沈設された既設ケーソン3と、既設ケーソン3の港内側に設置された新設ケーソン5と、既設ケーソン3と新設ケーソン5との上に跨がるように設けられた上部工6を備える。上部工6は、見直された設計津波高さを満たす高さまで嵩上げされたものであり、見直された設計津波高さの津波から防波堤の背後となる市街地を守ることになる。
【0027】
また、新設ケーソン5は、拡幅された基礎マウンド2の上に設置され、開口53を通り、基礎マウンド2を貫通し、支持層まで到達する鋼管杭7により据え付けられる。新設ケーソン5は、開口53と鋼管杭7との間に充填されたグラウト8により、鋼管杭7と一体化される。
【0028】
また、新設ケーソン5は、既設ケーソン3との間に投入された鉄筋篭、既設ケーソン3との間に打設された水中不分離性コンクリート9により、既設ケーソン3と一体化される。
【0029】
上述した本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法は、基礎マウンド2を港内側に拡幅する基礎マウンド拡幅工程と、基礎マウンド2の上に沈設した既設ケーソン3の港内側に新設ケーソン5を設置するケーソン設置工程と、ケーソン設置工程において設置した新設ケーソン5を貫通する鋼管杭7を打設し、新設ケーソン5を基礎マウンド2に据え付けるケーソン据付工程と、ケーソン据付工程において据え付けた新設ケーソン5と既設ケーソン3とに跨がる態様で、嵩を上げるコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを有するので、見直された設計津波高さまで防波堤を嵩上げでき、さらに、防波堤の転倒・滑動・支持力に対して安全性を確保できる。
【0030】
また、新設ケーソン5は、既設ケーソン3の港外側よりも静穏域となる港内側に据え付けるので、新設ケーソン5の据え付けが容易であり、施工が容易である。
【0031】
上述した本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法により嵩上げされた防波堤は、見直された設計津波高さを満たすことになり、設計津波高さを満たす防波堤を新たに建設する場合よりも安価で済む。
【0032】
また、嵩上げされた防波堤は、既設の防波堤1の港内側に新設ケーソン5を設置するので、幅広となり、嵩上げされた防波堤の転倒・滑動・支持力に対して安全性を確保できる。
【0033】
また、既設の防波堤1の港内側に設置された新設ケーソン5は、海底Bに向けて打設された鋼管杭7により基礎マウンド2に据え付けられるので、新設ケーソン5は、海底Bに固定され、脚付ケーソン(鋼管杭基礎)となる。また、新設ケーソン5は、既設ケーソン3と一体化されるので、既設の防波堤1も海底Bに固定されることになり、嵩上げされた防波堤の転倒・滑動・支持力に対して安全性を確保できる。
【0034】
以上説明したように、本発明の実施の形態である防波堤の嵩上げ工法により嵩上げされた防波堤は、巨大津波に対しても粘り強く抵抗できる構造となる。
【符号の説明】
【0035】
1 既設の防波堤
2 基礎マウンド
3 既設ケーソン
31 後施工アンカー
4 上部工(既設の上部工)
41 後施工アンカー
5 新設ケーソン
51 隔壁
52 隔室
53 開口
54 仮蓋
55 鉄筋
6 上部工(嵩上げされた上部工)
7 鋼管杭(杭)
8 グラウト
9 水中不分離性コンクリート
10 中詰材
11 蓋コンクリート
B 海底
S 引き船
W ウインチ
図1
図2
図3
図4
図5