【0023】
クラッド式正極板においては、活物質を有効利用するために活物質密度を低下させると活物質にクラックが生じやすく、その結果、得られる鉛蓄電池の寿命性能や放電性能が低下することがある。しかし、本発明者らは、正極活物質中にアンチモンを配合しておくと、クラックが生じても寿命性能や放電性能は低下せず、このため、活物質密度を低下させて活物質の有効利用することが可能になることを見出した。また、正極活物質密度が低い場合も、ペーストが固液分離しやすくなるので、充填量や充填密度にばらつきが生じやすくなるが、正極活物質原料ペーストにアンチモンを配合しておくと、活物質密度が低い場合であっても、固液分離しにくいペーストが得られるので、正極板への充填量や充填密度のばらつきを抑えて、得られる鉛蓄電池の寿命性能や歩留まりを向上させることが可能となる。このため、本発明は、正極活物質の密度(化成後)が3.2〜3.6g/cm
3と低い場合に特に有効である。正極活物質の密度(化成後)が3.2g/cm
3未満であると、ペーストにアンチモンを配合しても充分な寿命性能は得られず、一方、正極活物質の密度(化成後)が3.6g/cm
3を超えると、活物質の利用率が不充分である上、ペーストにアンチモンを配合しても寿命性能の向上効果は限定的なものとなる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
<試験1>
(サンプル1)
Sb
2O
3(三酸化アンチモン)を添加して湿式充填用の正極活物質原料ペーストを調製し、芯金としてPb−Sb系合金(4質量%Sb)からなるものを使用して、ベント形鉛蓄電池用のクラッド式正極板(チューブ高さ(H):300mm、チューブ半径(R):4.8、参考)H/R=300/4.8=62.5)を従来よりも低密度となるように作製した。なお、化成は、正極活物質の理論容量の280%の電気量になるように、定電流で40時間行った。得られたクラッド式正極板の正極活物質中のアンチモン含有量は、化成後において、0.2質量%である。
【0029】
(サンプル2)
従来のベント形鉛蓄電池用のクラッド式正極板(チューブ高さ(H):300mm、チューブ半径(R):4.8)を試験に供した。なお、当該従来品であるクラッド式正極板は、正極活物質原料ペーストへのアンチモン配合の有無と正極活物質密度の違いを除けば、サンプル1と同様にして作製されたものである。
【0030】
(サンプル3)
Sb
2O
3を添加せずに湿式充填用の正極活物質原料ペーストを調製したこと以外は、サンプル1と同様にしてクラッド式正極板を作製した。なお、得られたクラッド式正極板の正極活物質中のアンチモン含有量は、化成後において、0.003質量%である。
【0031】
各サンプルにつき10枚の正極板を用意して、正極活物質の全質量(化成後)を測定し、そのばらつきを調べた。なお、正極活物質原料ペーストの充填量の違いは、ペーストの詰まり具合(充填量のばらつきや充填密度の不均一化)を把握するに際しては、未化成及び既化成のどちらの状態で測定してもかまわないが、試験1及び下記試験2においては、既化成状態で正極活物質の質量を測定することにより確認した。得られた結果を表1に示した。なお、表1において、「正極活物質密度」は、同一ロットの極板の既化成活物質密度(平均値)を表し、「正極活物質質量(化成後)の標準偏差の比」は、サンプルNo.2のロットの極板の標準偏差を1としたときの相対値を表す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、正極活物質原料ペーストの活物質密度が低く、正極板への充填量にばらつきが生じやすい場合であっても、正極活物質中にアンチモンを配合することにより、充填量のばらつきを抑制することができた。
【0034】
<試験2>
正極活物質原料ペーストへのアンチモン添加量を変えたこと以外は、試験1と同様にして、各サンプルのクラッド式正極板を作製し、得られたクラッド式正極板について、(1)クラッド式正極板の上部と下部とにおける正極活物質の質量差(化成後)、(2)相対寿命サイクル数、及び、(3)放置試験後容量維持率を測定した。また、対比として乾式充填法により作製したクラッド式正極板も用意し、同じ評価を行った。更に、水酸化ナトリウムを添加量を変えて正極活物質原料ペーストへ配合したクラッド式正極板も用意し、同じ評価を行った。
【0035】
(1)クラッド式正極板の上部と下部とにおける正極活物質の質量差(化成後)としては、
図1に示すように、チューブの上下両端からそれぞれ25〜75mmの間の50mmの領域に充填された正極活物質の質量(化成後)を測定し、上部の質量から下部の質量を引いて得られた値(g)を評価した(n=10)。
【0036】
(2)相対寿命サイクル数は、各サンプルのクラッド式正極板を用いて、公称電圧が2Vで、5時間率定格容量が200Ahで、電解液比重が1.28(20℃)であるベント形のクラッド式鉛蓄電池を組み立てて、これを供試電池として用い(n=2)、以下の条件下において寿命サイクル数を測定し、電池No.1を100とする相対値で表した。
周囲温度:15℃
放電:1CA−1分の放電と、30秒の休止とを1.2Vになるまで繰り返す。
充電:準定電圧充電
【0037】
(3)放置試験後容量維持率は、JIS D5303−1に準拠して測定した(n=3)。
【0038】
得られた結果を表2に示した。なお、表2において、「正極活物質密度」は、化成後の極板における活物質密度を表し、「含有量」は、化成後の極板におけるSbの含有量(分析値)又はNaの含有量(分析値)を表し、「上下の正極活物質質量差(化成後)」は、化成後の極板における極板上部の質量と極板下部の質量との差分(極板上部質量−極板下部質量)を表す。いずれの結果も平均値による。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示すように、クラッド式正極板の上部−下部での正極活物質の質量差(化成後)は、正極活物質密度が低下すると、湿式充填の場合は負の方向に増大し、乾式充填の場合は正の方向に増大した。すなわち、湿式充填の場合は、上部−下部での正極活物質の質量差(化成後)がゼロ〜マイナスとなり、乾式充填の場合は、上部−下部での正極活物質の質量差(化成後)がプラスになり、このことから、湿式充填か、乾式充填かを知ることができる。
【0041】
また、湿式充填の場合は、ペーストへのアンチモン配合によって上部−下部での正極活物質の質量差(化成後)が縮小し、寿命性能も向上した。しかし、アンチモン含有量(化成後)が0.02質量%未満である場合の上部−下部での正極活物質の質量差(化成後)は、寿命性能に影響しなかった。一方、アンチモン含有量(化成後)が0.8質量%を超える場合は放置後の容量減少が顕著になった。
【0042】
更に、ペーストに水酸化ナトリウムを配合した場合は、上部−下部での正極活物質の質量差(化成後)は縮小するが、Na含有量が多いほど寿命性能が低下した。
【0043】
<試験3>
正極活物質密度を変えたこと以外は、試験2と同様にして供試電池を作製し(n=2)、(1)正極活物質利用率の変化、及び、(2)相対寿命サイクル数を測定した。
【0044】
(1)正極活物質利用率は、化成後に0.2CA完全放電を5サイクル繰り返し、5サイクル目の容量から算出した。また、(2)相対寿命サイクル数は、電池No.13を100として、試験2と同様にして算出した。得られた結果を表3に示した。なお、表3において、「正極活物質密度」は、化成後の極板における活物質密度を表し、「Sb含有量」は、化成後の極板におけるSb含有量(分析値)を表し、「正極活物質利用率の変化」は、活物質密度の変化に伴う正極活物質利用率の変化を、電池No.13の正極活物質利用率を平均したものを基準とし、各正極活物質密度における正極活物質利用率を平均した値から差し引いた値として表す。いずれの結果も平均値による。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、化成後の極板における活物質密度が3.2g/cm
3未満であるか又は3.6g/cm
3を超える場合は、正極活物質中にアンチモンが配合されていても寿命性能向上効果は限定的であった。また、アンチモンを0.8重量%にまで添加し過ぎると正極活物質の利用率が低下した。