(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基礎架台と、該基礎架台に配設された励磁部と、該基礎架台に配設され該励磁部に連動する機構部と、該基礎架台に配設され該機構部に連動する遮断部とを備えた開閉器を診断する方法であって、
前記開閉器が動作する際の音響又は加速度振動の波形を検出するための検出手段を配置する検出手段配置工程と、
前記検出手段を用いて正常な前記開閉器が動作する際の波形(基準波形)を検出し記録する基準波形記録工程と、
前記基準波形記録工程で記録された基準波形から少なくとも2個のブロックの波形を抽出する第1抽出工程と、
前記検出手段を用いて診断対象である前記開閉器が動作する際の波形(診断波形)を検出し記録する診断波形記録工程と、
前記診断波形記録工程で記録された診断波形から、少なくとも2個のブロックの波形であって、前記第1抽出工程で抽出した波形に対応する箇所の波形を抽出する第2抽出工程と、
前記第1抽出工程で抽出した各ブロックの波形と、該各ブロックの波形に対応する前記第2抽出工程で抽出した各ブロックの波形との相互相関係数を、各ブロック毎に算出する相互相関係数算出工程と、
前記相互相関係数算出工程で算出した相互相関係数の最大値と、該相互相関係数が最大値になるときの前記第1抽出工程で抽出した各ブロックの波形に対する前記第2抽出工程で抽出した各ブロックの波形の遅れ時間とを、各ブロック毎に算出する最大相互相関係数・遅れ時間算出工程と、
正常な前記開閉器の動作時間と、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の遅れ時間とに基づき、診断対象である前記開閉器の動作時間を算出するか、あるいは、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の遅れ時間に基づき、正常な前記開閉器の動作時間に対する診断対象である前記開閉器の動作時間の遅れを算出する動作時間算出工程と、
前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の最大相互相関係数と、前記動作時間算出工程で算出した動作時間又は動作時間の遅れとに基づき、診断対象である前記開閉器の動作不良を判定する判定工程と、
を含むことを特徴とする開閉器の診断方法。
基礎架台と、該基礎架台に配設された励磁部と、該基礎架台に配設され該励磁部に連動する機構部と、該基礎架台に配設され該機構部に連動する遮断部とを備えた開閉器を診断する装置であって、
前記開閉器が動作する際の音響又は加速度振動の波形を検出するための検出手段と、
前記検出手段によって検出された正常な前記開閉器が動作する際の波形(基準波形)及び診断対象である前記開閉器が動作する際の波形(診断波形)を記録する波形記録部と、
前記波形記録部に記録された基準波形から少なくとも2個のブロックの波形を抽出し、前記波形記録部に記録された診断波形から、少なくとも2個のブロックの波形であって、前記基準波形から抽出した波形に対応する箇所の波形を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって前記基準波形から抽出された各ブロックの波形と、該各ブロックの波形に対応する前記抽出部によって前記診断波形から抽出された各ブロックの波形との相互相関係数を、各ブロック毎に算出する相互相関係数算出部と、
前記相互相関係数算出部によって算出された相互相関係数の最大値と、該相互相関係数が最大値になるときの前記基準波形から抽出された各ブロックの波形に対する前記診断波形から抽出された各ブロックの波形の遅れ時間とを、各ブロック毎に算出する最大相互相関係数・遅れ時間算出部と、
正常な前記開閉器の動作時間と、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の遅れ時間とに基づき、診断対象である前記開閉器の動作時間を算出するか、あるいは、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の遅れ時間に基づき、正常な前記開閉器の動作時間に対する診断対象である前記開閉器の動作時間の遅れを算出する動作時間算出部と、
前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の最大相互相関係数と、前記動作時間算出部で算出された動作時間又は動作時間の遅れとに基づき、診断対象である前記開閉器の動作不良を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする開閉器の診断装置。
【背景技術】
【0002】
電路に使用されている遮断器や負荷開閉器などの開閉器は、電気設備の事故や点検等の際に電路の開閉を行なうもので、通常は静止している機器である。例えば、遮断器は、短絡事故が生じた際に一刻も早く電力系統から事故点を切り離すために速やかに開動作しなければならず、重要な役割を果たしている。また、負荷開閉器は、通常負荷運転している電路の開閉を行なう機器である。これらの開閉器が正常に動作しなければ、電力系統の上位に波及する事故に繋がったり、開閉器自体の損壊事故が生じる可能性がある。このため、これらの開閉器は、一旦故障すると電力系統への影響が非常に大きく、また修復するために長時間の停止を余儀なくされる。
【0003】
開閉器は、使用を繰り返すことによって機構部や遮断部に摩耗やゆるみが生じて開閉動作ができなくなったり、或いは、開閉動作に時間を要して開閉器本来の役割を果たせなくなる可能性がある。また、円滑な動作を補償するために機構部にはグリスが塗布されているが、グリスが経年劣化で硬化することで、開閉動作の時間が遅くなることがある。このため、定期的に日常点検、精密点検、或いは分解整備を行って、開閉器の健全性を確保している。
【0004】
通常、精密点検や分解整備には時間を要するため、長時間に亘って電力系統のラインを停止することが必要である。また、点検整備は専門家が行なうため、その費用も高額となる。一方、開閉器を定期的に分解整備しても、特に緊急を要して補修する部位がない場合が多い。このため、定期点検の周期をできるだけ延長したいものの、万が一開閉器に動作不良が生じた場合の影響の大きさを考えると、点検周期をなかなか延長できないのが現状である。
【0005】
例えば、遮断器の場合、定期的に行われる日常点検では、電路から遮断器を切り離した状態で、遮断器の一次側と二次側に専用の測定装置を接続して開閉動作時間を測定する。そして、所定の動作時間内で開閉可能であるか否かを診断するのが一般的である。この方法は正確であるものの、遮断器を電路から切り離して引き出さなければ、開閉動作の時間を測定することができない。また、この方法では、開閉動作の時間が長くなり動作不良が生じていることが分かったとしても、不良箇所を特定することはできないため、開閉器全体を調査して場合によっては分解整備を行なう必要がある。
【0006】
上記のような開閉器の診断に関する技術として、例えば特許文献1には、主回路を開閉する開閉器のコンタクト及び該コンタクトと連動する機構部の移動量と、前記コンタクトの導通タイミングを時系列データとして検出することにより開閉器の規定される試験データの開閉特性を計測し、基準値と比較して異常を診断する開閉器の開閉動作特性診断方法が提案されている(特許文献1の請求項1等)。
また、特許文献2には、遮断器を収納した配電盤の外表面に着脱可能に取り付けられる振動センサと、前記振動センサで検出した振動波形を波形整形する波形整形回路と、前記波形整形回路で波形整形された振動波形のうち周期が所定値以下の部分をカットし周期が所定値以上の振動波形を出力するレベル抑制回路と、前記遮断器にトリップ信号を出力する保護継電器の動作指令を出力するとともに動作指令から振動波形を受信するまでの時間を測定する処理回路と、前記処理回路の測定結果を出力する出力装置とを備えたことを特徴とする遮断器の動作時間測定装置が開示されている(特許文献2の請求項1等)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に提案されている方法では、開閉器を一旦停止させて、主回路の端子信号や、投入コイル・トリップコイル等の信号を得るために、測定器への信号線を開閉器に接続する必要がある。このため、開閉器の異常の診断に時間がかかり、また主回路へ接続するために安全対策を施すか、又は、開閉器を主回路から完全に切り離す必要が生じるので、開閉器の開閉動作特性を容易に診断することができないという問題がある。
また、特許文献2に提案されている装置では、動作時間を測定するためにトリップ信号を必ず利用する必要がある上、配電盤の微振動により誤判定する可能性があるためレベル抑制回路を設けなければならず複雑な回路になるという問題がある。
【0008】
上記のような従来技術の問題を解決するため、本件出願人は、特許文献3に記載の開閉器の診断方法を提案している。
特許文献3に記載の診断方法は、加速度振動検出手段を用いて検出された基準となる加速度振動波形を記録する、第1振動波形記録工程と、前記第1振動波形記録工程で記録した前記加速度振動波形を、n個(nは2以上の整数)のブロックに分割する、第1振動波形分割工程と、前記加速度振動検出手段を用いて診断時における前記開閉器の加速度振動を検出し、診断時の加速度振動波形を記録する、第2振動波形記録工程と、前記第2振動波形記録工程で記録した前記加速度振動波形を、n個(nは2以上の整数)のブロックに分割する、第2振動波形分割工程と、前記第1振動波形分割工程で分割された前記n個のブロックの前記加速度振動波形と、前記第2振動波形分割工程で分割された前記n個のブロックの前記加速度振動波形との相関係数を、前記n個のブロック毎に導出する、相関係数導出工程と、前記相関係数導出工程で導出された前記相関係数が予め定められた値に満たない場合に、機構部に異常があると判断する、異常判断工程と、を有することを特徴とする、開閉器の診断方法である(特許文献3の請求項1等)。
【0009】
特許文献3に記載の方法によれば、機構部の異常の有無を、主回路に触れることなく安全且つ容易に診断することが可能である。
しかしながら、基準となる加速度振動波形と診断時の加速度振動波形との相関係数の大小のみに応じて開閉器の異常の有無を判断する方法であるため、必ずしも診断の精度が十分ではないという問題があった。
【0010】
その他、特許文献4には、遮断器の動作開始の指令時刻を示す遮断指令信号を受信する遮断指令信号受信部と、遮断器が動作する際の動作音を検出する音響センサと、前記遮断指令信号受信部が受信した遮断指令信号と前記音響センサが検出した動作音とに基づいて前記遮断器が動作するまでの動作時間を算出する演算部とを備えることを特徴とする遮断器監視装置が提案されている(特許文献4の請求項1等)。
また、特許文献5には、振動検出手段により検出した固定接触子と可動接触子の接触振動の発生時期から該両電極の接触時点を求め、遮断器の投入励磁コイルに付与される投入指令信号の発生時点との差より動作時間を求めて、正常時に求めた動作時間と比較し、その差が基準値を上回るとき異常信号を発生することを特徴とする遮断器の開閉異常検出装置が提案されている(特許文献5の請求項2等)。
【0011】
特許文献4に提案されている装置では、音響センサを用いて算出した遮断器の動作時間のみによって遮断器の異常の有無を判断する方法であるため、診断の精度が十分ではないという問題がある。
同様に、特許文献5に提案されている装置では、振動検出手段を用いて算出した遮断器の動作時間のみによって遮断器の異常の有無を判断する方法であるため、診断の精度が十分ではないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、主回路に接続されたままの状態であったとしても、安全で容易に且つ精度良く診断することが可能な開閉器の診断方法及び診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、基礎架台と、該基礎架台に配設された励磁部と、該基礎架台に配設され該励磁部に連動する機構部と、該基礎架台に配設され該機構部に連動する遮断部とを備えた開閉器を診断する方法であって、以下の各工程を含むことを特徴とする。
(1)検出手段配置工程:前記開閉器が動作する際の音響又は加速度振動の波形を検出するための検出手段を配置する。
(2)基準波形記録工程:前記検出手段を用いて正常な前記開閉器が動作する際の波形(基準波形)を検出し記録する。
(3)第1抽出工程:前記基準波形記録工程で記録された基準波形から少なくとも2個のブロックの波形を抽出する。
(4)診断波形記録工程:前記検出手段を用いて診断対象である前記開閉器が動作する際の波形(診断波形)を検出し記録する。
(5)第2抽出工程:前記診断波形記録工程で記録された診断波形から、少なくとも2個のブロックの波形であって、前記第1抽出工程で抽出した波形に対応する箇所の波形(第1抽出工程で抽出した波形と同一の時間域の波形)を抽出する。
(6)相互相関係数算出工程:前記第1抽出工程で抽出した各ブロックの波形と、該各ブロックの波形に対応する前記第2抽出工程で抽出した各ブロックの波形との相互相関係数(前記第1抽出工程で抽出した各ブロックの波形に対する前記第2抽出工程で抽出した各ブロックの波形の遅れ量をパラメータとする相互相関関数)を、各ブロック毎に算出する。
(7)最大相互相関係数・遅れ時間算出工程:前記相互相関係数算出工程で算出した相互相関係数の最大値と、該相互相関係数が最大値になるときの前記第1抽出工程で抽出した各ブロックの波形に対する前記第2抽出工程で抽出した各ブロックの波形の遅れ時間とを、各ブロック毎に算出する。
(8)動作時間算出工程:正常な前記開閉器の動作時間と、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の遅れ時間とに基づき、診断対象である前記開閉器の動作時間を算出するか、あるいは、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の遅れ時間に基づき、正常な前記開閉器の動作時間に対する診断対象である前記開閉器の動作時間の遅れを算出する。
(9)判定工程:前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の最大相互相関係数と、前記動作時間算出工程で算出した動作時間又は動作時間の遅れとに基づき、診断対象である前記開閉器の動作不良を判定する。
【0015】
本発明によれば、開閉器の動作不良を判定するに際し、開閉器が動作する際の音響又は加速度振動の波形を検出するための検出手段を用いて検出した基準波形と診断波形との相互相関係数、及び、診断対象である開閉器の動作時間(又は正常な開閉器の動作時間に対する診断対象である開閉器の動作時間の遅れ)を利用する。このため、周波数解析装置等の複雑な装置を用いることなく、開閉器が主回路に接続されたままの状態であったとしても、開閉器の動作不良の有無を診断することができ、不良と診断された時のみ、開閉器の精密点検や分解整備を行うことが可能になる。従って、本発明によれば、開閉器の動作不良の有無を、主回路に接続されたままの状態であってとしても、安全且つ容易に診断することが可能である。
また、開閉器の動作不良を判定するに際し、単純な相関係数ではなく相互相関係数を利用し、さらには、相互相関係数を用いて算出される開閉器の動作時間(又は正常な開閉器の動作時間に対する診断対象である開閉器の動作時間の遅れ)を利用し、相互相関係数と組み合わせることで、精度の良い診断が可能である。
従って、本発明によれば、開閉器が主回路に接続されたままの状態であったとしても、安全で容易に且つ精度良く動作不良の有無を診断可能である。
【0016】
本発明に係る方法において
、前記第1抽出工程では、前記基準波形記録工程で記録された基準波形から、前記励磁部が作動して前記機構部の動作が開始された時間域であるブロックの波形と、前記遮断部が作動して前記機構部の動作が終了する時間域であるブロックの波形とを抽出し、前記第2抽出工程では、前記診断波形記録工程で記録された診断波形から、前記第1抽出工程で抽出した2個のブロックの波形と同一の時間域である2個のブロックの波形を抽出し、前記判定工程では、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出工程で算出した各ブロック毎の最大相互相関係数と、前記動作時間算出工程で算出した動作時間又は動作時間の遅れとを、それぞれ所定のしきい値と比較した結果に基づき、診断対象である前記開閉器の動作不良の有無を判定すると共に、前記励磁部、前記機構部及び前記遮断部のうち、いずれに動作不良が発生しているかを判定することが好ましい。
【0017】
また、前記課題を解決するため、本発明は、基礎架台と、該基礎架台に配設された励磁部と、該基礎架台に配設され該励磁部に連動する機構部と、該基礎架台に配設され該機構部に連動する遮断部とを備えた開閉器を診断する装置であって、前記開閉器が動作する際の音響又は加速度振動の波形を検出するための検出手段と、前記検出手段によって検出された正常な前記開閉器が動作する際の波形(基準波形)及び診断対象である前記開閉器が動作する際の波形(診断波形)を記録する波形記録部と、前記波形記録部に記録された基準波形から少なくとも2個のブロックの波形を抽出し、前記波形記録部に記録された診断波形から、少なくとも2個のブロックの波形であって、前記基準波形から抽出した波形に対応する箇所の波形を抽出する抽出部と、前記抽出部によって前記基準波形から抽出された各ブロックの波形と、該各ブロックの波形に対応する前記抽出部によって前記診断波形から抽出された各ブロックの波形との相互相関係数を、各ブロック毎に算出する相互相関係数算出部と、前記相互相関係数算出部によって算出された相互相関係数の最大値と、該相互相関係数が最大値になるときの前記基準波形から抽出された各ブロックの波形に対する前記診断波形から抽出された各ブロックの波形の遅れ時間とを、各ブロック毎に算出する最大相互相関係数・遅れ時間算出部と、正常な前記開閉器の動作時間と、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の遅れ時間とに基づき、診断対象である前記開閉器の動作時間を算出するか、あるいは、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の遅れ時間に基づき、正常な前記開閉器の動作時間に対する診断対象である前記開閉器の動作時間の遅れを算出する動作時間算出部と、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の最大相互相関係数と、前記動作時間算出部で算出された動作時間又は動作時間の遅れとに基づき、診断対象である前記開閉器の動作不良を判定する判定部と、を備えることを特徴とする開閉器の診断装置としても提供される。
【0018】
本発明に係る装置において
、前記抽出部は、前記波形記録部に記録された基準波形から、前記励磁部が作動して前記機構部の動作が開始された時間域であるブロックの波形と、前記遮断部が作動して前記機構部の動作が終了する時間域であるブロックの波形とを抽出し、前記波形記録部に記録された診断波形から、前記基準波形から抽出した2個のブロックの波形と同一の時間域である2個のブロックの波形を抽出し、前記判定部は、前記最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の最大相互相関係数と、前記動作時間算出部で算出された動作時間又は動作時間の遅れとを、それぞれ所定のしきい値と比較した結果に基づき、診断対象である前記開閉器の動作不良の有無を判定すると共に、前記励磁部、前記機構部及び前記遮断部のうち、いずれに動作不良が発生しているかを判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、開閉器が主回路に接続されたままの状態であったとしても、安全で容易に且つ精度良く動作不良の有無を診断可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、開閉器が交流遮断器(油入遮断器)である場合を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態に係る診断装置及びこの診断装置によって動作不良の有無を診断する開閉器(遮断器)の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、遮断器30は、基礎架台31と、基礎架台31に配設された励磁部34と、基礎架台31に配設され励磁部34に連動する機構部32と、基礎架台31に配設され機構部32に連動する遮断部33とを備えている。遮断器30は、遮断器収納箱40に収納されている。
遮断器30は、例えば外部から投入信号が入力されると、励磁部34が具備する投入コイルが作動し、この投入コイルに連動する機構部32と、機構部32に連動する遮断部33とが、主回路を繋げるように作動することにより、投入動作が行われる。投入動作の動作時間は、およそ数百ミリ秒である。一方、外部から遮断器30に開放信号が入力された場合には、励磁部34が具備するトリップコイルが作動し、このトリップコイルに連動する機構部32と、機構部32に連動する遮断部33とが、主回路を断ち切るように作動することにより、遮断動作が行われる。遮断動作の動作時間は、投入動作よりも早く、およそ数十ミリ秒である。
【0022】
図2は、本実施形態に係る診断装置の具体的構成例を示すブロック図である。
図1、
図2に示すように、本実施形態に係る診断装置100は、遮断器30が動作する際の音響波形を検出するための検出手段10と、検出手段10によって検出された音響波形に基づき遮断器30の動作不良を判定する診断装置本体20とを備えている。
【0023】
検出手段10としては、遮断器30が動作する際に発生する音響波形を検出することが可能なものであれば、その構成は特に限定されるものではないが、例えば、指向性マイクロホンが用いられる。なお、本実施形態の検出手段10は音響波形を検出するものであるが、本発明はこれに限るものではなく、加速度振動波形を検出可能な加速度センサを検出手段として用いることも可能である。
【0024】
図2に示すように、診断装置本体20は、入力ポート21、出力ポート22、中央処理装置(CPU)23及び主記憶装置(RAM)24を具備する。検出手段10によって検出された音響波形は、入力ポート21を経由してCPU23に到達し、音響波形データ(デジタルデータ)が作成される。CPU23で作成された音響波形データ(以下、単に音響波形ともいう)は、RAM24に記録される。RAM24は、検出手段10によって検出された正常な遮断器30が動作する際の波形(基準波形)及び診断対象である遮断器30が動作する際の波形(診断波形)を記録する波形記録部として機能する。
【0025】
CPU23は、上記の機能に加え、以下に述べる(1)抽出部、(2)相互相関係数算出部、(3)最大相互相関係数・遅れ時間算出部、(4)動作時間算出部、及び、(5)判定部としても機能する。
(1)抽出部:波形記録部(RAM24)に記録された基準波形から少なくとも2個のブロックの波形を抽出し、波形記録部に記録された診断波形から、少なくとも2個のブロックの波形であって、基準波形から抽出した波形に対応する箇所の波形を抽出する。
(2)相互相関係数算出部:抽出部によって基準波形から抽出された各ブロックの波形と、該各ブロックの波形に対応する抽出部によって診断波形から抽出された各ブロックの波形との相互相関係数を、各ブロック毎に算出する。
(3)最大相互相関係数・遅れ時間算出部:相互相関係数算出部によって算出された相互相関係数の最大値と、該相互相関係数が最大値になるときの基準波形から抽出された各ブロックの波形に対する診断波形から抽出された各ブロックの波形の遅れ時間とを、各ブロック毎に算出する。
(4)動作時間算出部:正常な遮断器30の動作時間と、最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の遅れ時間とに基づき、診断対象である遮断器30の動作時間を算出するか、あるいは、最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の遅れ時間に基づき、正常な遮断器30の動作時間に対する診断対象である遮断器30の動作時間の遅れを算出する。
(5)判定部:最大相互相関係数・遅れ時間算出部で算出された各ブロック毎の最大相互相関係数と、動作時間算出部で算出された動作時間又は動作時間の遅れとに基づき、診断対象である遮断器30の動作不良を判定する。
【0026】
CPU23による判定結果は、出力ポート22を経由して判定結果出力手段(モニター等、図示せず)に出力される。
【0027】
以下、上記の構成を有する診断装置100を用いた診断方法について、具体的に説明する。
図3は、本実施形態に係る診断方法の手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係る診断方法は、検出手段配置工程S1、基準波形記録工程S2、第1抽出工程S3、診断波形記録工程S5、第2抽出工程S6、相互相関係数算出工程S7、最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8、動作時間算出工程S9、及び、判定工程S10を含む。また、本実施形態に係る診断方法は、好ましい態様として、基準動作時間算出工程S4を含んでいる。
以下、各工程S1〜S10について、順次説明する。
【0028】
<検出手段配置工程S1>
検出手段配置工程S1は、遮断器30が動作する際の音響波形を検出するための検出手段10を配置する工程である。本実施形態では、検出手段10は、遮断器収納箱40の前面扉より前方の位置に配置される。なお、加速度振動波形を検出可能な加速度センサを検出手段10として用いる場合には、遮断器30の機構部32周辺や基礎架台31に検出手段10を取り付けるのが好ましい。
【0029】
<基準波形記録工程S2>
基準波形記録工程S2は、検出手段10を用いて正常な遮断器30が動作する際の音響波形(基準波形)を検出し、診断装置本体20の波形記録部に記録する工程である。本工程S2は、例えば、新しく設置した遮断器30や、整備して正常な動作を行なえることが確認されている遮断器30を動作させた際に生じる音響波形を検出し記録する工程とすることができる。本工程S2で音響波形を記録する時間は、励磁部34の作動開始から機構部32の動作終了までの音響波形が含まれ得る時間であれば特に限定されるものではなく、予め実験的に決定することが可能である。音響波形の記録時間は、例えば550msec程度とすることができる。音響波形の記録は、例えば外部から入力される投入信号や、投入コイルの励磁電流信号をトリガーとして開始することが可能である。また、一定以上の振幅の音響波形が検出された時点をトリガーとして音響波形の記録を開始してもよい。さらに、診断装置本体20の波形記録部にいわゆるプレトリガー機能をもたせ、上記のトリガーより所定時間だけ前の時点から音響波形の記録を開始することも可能である。なお、励磁部34の作動開始から機構部32の動作終了までとは、励磁部34が作動を開始してから遮断部33が開又は閉になるまでの時間(遮断部の固定接触子と可動接触子とが開又は閉になるまでの時間)ではなく、機構部32の動作が終了する時点(遮断部33が開又は閉になった後でも機構部32が動作する場合がある)までを含む。また、本工程S2では、投入動作の際と遮断動作の際の双方で音響波形を検出し記録することが好ましい。
図4は、本工程S2によって記録した投入動作の際の音響波形の一例を示す。
図4に示す例では、550msec程度の時間幅の音響波形を記録しているが、そのうち、励磁部34が作動を開始して機構部32が動作しているのは、音響波形の変化が顕著な符号T0で示す時間幅であるため、この符号T0で示す時間幅の音響波形を記録すれば十分であると考えられる。
【0030】
<第1抽出工程S3>
第1抽出工程S3は、診断装置本体20の抽出部によって、基準波形記録工程S2で記録された音響波形(基準波形)から少なくとも2個のブロックの波形を抽出する工程である。各ブロックの時間幅は、遮断器30の動作不良の有無を診断可能な時間幅であれば特に限定されるものではく、予め実験的に決定することが可能である。具体的には、少なくとも2個のブロックの波形のそれぞれに、振幅が一定以上になる部分とこの振幅が減衰しつつある部分とが含まれるように、各ブロックの時間幅を決定することが好ましい。本実施形態では、
図5に例示するように、基準波形記録工程S2で記録された基準波形の前半部と後半部とからそれぞれ1個ずつ、計2個のブロック(Aブロック及びBブロック)の波形を抽出している。各ブロックの時間幅は約80msecである。
【0031】
<基準動作時間算出工程S4>
基準動作時間算出工程S4は、診断装置本体20の動作時間算出部によって、基準波形記録工程S2で記録された音響波形(基準波形)から、一定以上の振幅になった2点間の時間(
図5に例示する時間t)を算出し、これを正常な遮断器30の動作時間(励磁部34の作動開始から遮断部33が作動するまでの時間)、すなわち基準動作時間とする工程である。なお、本実施形態では、好ましい態様として、基準波形記録工程S2で記録された基準波形を用いて基準動作時間tを算出する手順について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、従来から用いられている専用の遮断器動作時間測定装置を用いて予め基準動作時間tを測定しておくことも可能である。
【0032】
<診断波形記録工程S5>
診断波形記録工程S5は、検出手段10を用いて診断対象である遮断器30が動作する際の音響波形(診断波形)を検出し、診断装置本体20の波形記録部に記録する工程である。本工程S5は、主回路に接続されている状態の遮断器30を定期的に動作させた際に生じる音響波形を検出し記録する工程とすることができる。本工程S5で音響波形を記録する時間は、励磁部34の作動開始から機構部32の動作終了までの音響波形が含まれ得る時間であれば特に限定されるものではなく、予め実験的に決定することが可能である。音響波形の記録時間は、例えば前述の基準波形記録工程S2と同じ時間(550msec程度)とすることができる。本工程S5においても、基準波形記録工程S2と同様に、投入動作の際と遮断動作の際の双方で音響波形を検出し記録することが好ましい。
【0033】
<第2抽出工程S6>
第2抽出工程S6は、診断装置本体20の抽出部によって、診断波形記録工程S5で記録された音響波形(診断波形)から少なくとも2個のブロックの波形であって、第1抽出工程で抽出した波形に対応する箇所の波形(第1抽出工程S3で抽出した波形と同一の時間域の波形)を抽出する工程である。前述のように、本実施形態では、第1抽出工程S3で2個のブロック(Aブロック及びBブロック)の波形を抽出しているため、本工程S6でも、
図6に例示するように、第1抽出工程S3で抽出した波形と同一の時間域である2個のブロック(Aブロック及びBブロック)の波形を抽出することになる。
【0034】
<相互相関係数算出工程S7>
相互相関係数算出工程S7は、診断装置本体20の相互相関係数算出部によって、第1抽出工程S3で抽出した各ブロックの波形と、該各ブロックの波形に対応する第2抽出工程S6で抽出した各ブロックの波形との相互相関係数を、各ブロック毎に算出する工程である。本実施形態では、第1抽出工程S3で基準波形から抽出したAブロックの波形と第2抽出工程S6で診断波形から抽出したAブロックの波形との相互相関係数、及び、第1抽出工程S3で基準波形から抽出したBブロックの波形と第2抽出工程S6で診断波形から抽出したBブロックの波形との相互相関係数を算出することになる。各ブロックの相互相関係数は、第1抽出工程S3で抽出した各ブロックの波形に対する第2抽出工程S6で抽出した各ブロックの波形の遅れ量Kをパラメータとする下記の式(1)で表される相互相関関数によって算出する。
【数1】
上記の式(1)において、R(K)は相互相関係数(相互相関関数)を、Nは各ブロック内のサンプリング点数を、x(i)はサンプリング点iにおける基準波形の振幅を、y(i+K)はサンプリング点(i+K)における診断波形の振幅を、それぞれ意味する。
例えば、サンプリング周期を20μsec(サンプリング周波数50kHz)とし、各ブロックの時間幅を80msecとすれば、各ブロック内のサンプリング点数Nは4000となる。また、遅れ量Kにサンプリング周期を乗算した値が遅れ時間となる。
なお、x(i)及びy(i)は、両者が全く同じ波形である場合に、上記の式(1)で表される相互相関係数R(K)は1.0となる。
【0035】
<最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8>
最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8は、診断装置本体20の最大相互相関係数・遅れ時間算出部によって、相互相関係数算出工程S7で算出した相互相関係数R(K)の最大値と、相互相関係数R(K)が最大値になるときの前記第1抽出工程で抽出した各ブロックの波形に対する前記第2抽出工程で抽出した各ブロックの波形の遅れ時間とを、各ブロック毎に算出する工程である。
図7は、相互相関係数算出工程S7で算出した基準波形から抽出したAブロックの波形と診断波形から抽出したAブロックの波形との相互相関係数の一部(相互相関係数が最大値となる遅れ時間近傍のみ)を示す。
図7の横軸は遅れ時間(基準波形から抽出したAブロックの波形に対する診断波形から抽出したAブロックの波形の遅れ時間。遅れ量Kにサンプリング周期を乗算した値)を、縦軸は相互相関係数R(K)を示す。
図7において、横軸が正の値で示された領域は、基準波形から抽出したAブロックの波形に対して診断波形から抽出したAブロックの波形を遅らせた場合の相互相関係数を意味する。一方、横軸が負の値で示された領域は、基準波形から抽出したAブロックの波形に対して診断波形から抽出したAブロックの波形を進ませた場合の相互相関係数を意味する。
図7に示す例では、相互相関係数R(K)が最大値Ramaxになるとき、遅れ時間Kaは0.3msecであり、基準波形から抽出したAブロックの波形に対して診断波形から抽出したAブロックの波形が0.3msec遅れていることを示している。本工程S8では、この最大相互相関係数Ramaxと、相互相関係数R(K)が最大相互相関係数Ramaxになるときの遅れ時間Kaを算出する。
同様に、本工程S8では、相互相関係数算出工程S7で算出した基準波形から抽出したBブロックの波形と診断波形から抽出したBブロックの波形との相互相関係数R(K)の最大値Rbmaxと、相互相関係数R(K)が最大相互相関係数Rbmaxになるときの遅れ時間Kbを算出する。
【0036】
<動作時間算出工程S9>
動作時間算出工程S9は、診断装置本体20の動作時間算出部によって、正常な遮断器30の基準動作時間tと、最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8で算出した各ブロック毎の遅れ時間Ka、Kbとに基づき、診断対象である遮断器30の動作時間T(励磁34の作動開始から遮断部33が作動するまでの時間。
図6参照)を算出する工程である。あるいは、正常な遮断器30の基準動作時間tを算出しない場合(基準動作時間算出工程S4を実行しない場合)には、本工程S9において、最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8で算出した各ブロック毎の遅れ時間Ka、Kbに基づき、正常な遮断器30の基準動作時間に対する診断対象である遮断器30の動作時間の遅れを算出すればよい。
診断対象である遮断器30の動作時間Tは、以下の式(2)で表される。
T=t−Ka+Kb ・・・(2)
【0037】
以下、動作時間Tが上記の式(2)で表わされる理由について説明する。
図8は、本工程S9における、診断対象である遮断器30の動作時間Tの算出方法を説明する説明図である。
遅れ時間Ka、Kbは、基準波形から抽出した各ブロックの波形に対して診断波形から抽出した各ブロックの波形が遅れている場合に正の値となり、基準波形から抽出した各ブロックの波形に対して診断波形から抽出した各ブロックの波形が進んでいる場合に負の値となる。従って、
図8(a)に示すように、Kaが正の値の場合には、診断対象である遮断器30の動作時間Tの起点Tsは、正常な遮断器30の基準動作時間tの起点tsよりもKaだけ遅れていると考えることができる。一方、
図8(b)に示すように、Kaが負の値の場合には、診断対象である遮断器30の動作時間Tの起点Tsは、正常な遮断器30の基準動作時間tの起点tsよりも−Kaだけ進んでいる(すなわち、Kaだけ遅れている)と考えることができる。従って、Ts=ts+Kaで表わされる。
同様に、診断対象である遮断器30の動作時間Tの終点Teは、正常な遮断器30の基準動作時間tの終点teと遅れ時間kbとによって、Te=te+Kbで表わされる。
動作時間Tは、起点Tsと終点Teとの時間差によって算出されるため、
T=Te−Ts=te+Kb−(ts+Ka)=(te−ts)−Ka+Kb=t−Ka+Kbとなり、動作時間Tが上記の式(2)で表わされることがわかる。
【0038】
また、前述のように、正常な遮断器30の基準動作時間tを算出しない場合、本工程S9では、正常な遮断器30の基準動作時間tに対する診断対象である遮断器30の動作時間Tの遅れを算出すればよい。この遅れ(=T−t)は、上記の式(2)から導くことができ、−Ka+Kbで表わされる。
【0039】
図9は、遮断器30の投入動作の際に、本実施形態の動作時間算出工程S9で算出した動作時間Tと、従来の方法によって算出した動作時間とを比較した結果の一例を示す。具体的には、本実施形態の動作時間算出工程S9で算出した動作時間Tから、基準動作時間算出工程S4で算出した基準動作時間tを減算し(つまり、動作時間の遅れを算出し)、縦軸にプロットした。また、従来の方法によって正常な遮断器30の動作時間を測定した後、診断対象である遮断器30の動作時間を測定し、後者から前者を減算して(つまり、動作時間の遅れを算出し)、横軸にプロットした。なお、上記従来の方法は、遮断器30を電路(主回路)から切り離して引き出し、遮断器30の一次側と二次側に専用の測定装置を接続して動作時間を測定する方法(開極試験)である。
図9に示すように、本実施形態によって算出した動作時間の遅れと、従来方法によって測定した動作時間の遅れとの間には強い相関があるため、本実施形態によって算出した動作時間(又は動作時間の遅れ)を従来方法によって測定した動作時間(又は動作時間の遅れ)の代わりに用いることができることがわかる。
【0040】
<判定工程S10>
判定工程S10は、診断装置本体20の判定部によって、最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8で算出した各ブロック毎の最大相互相関係数Ramax、Rbmaxと、動作時間算出工程S9で算出した動作時間T又は動作時間の遅れ(−Ka+Kb)とに基づき、診断対象である遮断器30の動作不良を判定する工程である。本実施形態では、各ブロック毎の最大相互相関係数Ramax、Rbmaxと、動作時間Tとの組み合わせに基づき、例えば、
図10に示す判定基準に従って、診断対象である遮断器30の動作不良の有無を判定している。
図10は、判定工程S10における判定基準の一例を示す図である。
図10に示す例では、Aブロックの最大相互相関係数Ramax及びBブロックの最大相互相関係数Rbmaxを、予め設定した相互相関係数しきい値Rと比較する。また、診断対象である遮断器30の動作時間Tを、予め設定した動作時間しきい値TB(このしきい値は、遮断動作の場合と、投入動作の場合とで別個の値を設定する)と比較する。なお、診断対象である遮断器30の動作時間Tではなく、動作時間の遅れ(−Ka+Kb)を用いる場合には、この動作時間の遅れ(−Ka+Kb)を、予め設定した動作時間の遅れしきい値と比較するようにすればよい。
図4、
図5、
図6を参照すればわかるように、Aブロックの波形は、励磁部34を作動して機構部32の動作が開始された時間域である。また、Bブロックの波形は、遮断部33が作動し機構部32の動作が終了する時間域である。
前述した比較の結果、
図10に示すNo.1のケースのように、最大相互相関係数Ramax及びRbmaxの双方がしきい値R以上であり(従って、全てのブロックについて基準波形と診断波形との相関が強い)、なお且つ、動作時間Tがしきい値TB以下であれば(従って、基準波形に対して診断波形の遅れが生じていない)、励磁部34(投入コイルやトリップコイル等)に不良が生じている可能性が乏しく(
図10に示す「励磁部不良」の点数が0)、機構部32(リンク機構など)にも不良が生じている可能性が乏しく(
図10に示す「機構部不良」の点数が0)、さらに遮断部33にも不良が生じている可能性が乏しい(
図10に示す「遮断部不良」の点数が0)ため、遮断器30の動作は正常であると判定する。
また、前述した比較の結果、
図10に示すNo.2、3、4、5のケースのように、最大相互相関係数Ramaxがしきい値R未満である場合には、励磁部34を作動して機構部32の動作が開始された時間域であるAブロックにおいて基準波形と診断波形との相関が弱いため、励磁部34に不良が生じている可能性が高く(
図10に示す「励磁部不良」の点数が2)、機構部32にも不良が生じている可能性もある(
図10に示す「機構部不良」の点数が0ではない)ため、遮断器30の動作は不良であると判定する。
また、前述した比較の結果、
図10に示すNo.3、5、6、8のケースのように、最大相互相関係数Rbmaxがしきい値R未満である場合には、遮断部33が作動し機構部32の動作が終了する時間域であるBブロックにおいて基準波形と診断波形との相関が弱いため、遮断部33に不良(固定接触子や可動接触子の接点脱落、摩耗、ゆるみなど。その他、消弧室、ボルト、ナット、ピン類などの不良)が生じている可能性が高く(
図10に示す「遮断部不良」の点数が2)、機構部32にも不良が生じている可能性もある(
図10に示す「機構部不良」の点数が0ではない)ため、遮断器30の動作は不良であると判定する。
さらに、前述した比較の結果、
図10に示すNo.4、5、7、8のケースのように、動作時間Tがしきい値TBを超えていれば、基準波形に対して診断波形の遅れが生じているため、機構部32に不良が生じている可能性が高い(
図10に示す「機構部不良」の点数が2)ため、遮断器30の動作は不良であると判定する。
【0041】
図11は、最大相互相関係数・遅れ時間算出工程S8で算出した最大相互相関係数Ramax、Rbmax、及び、動作時間算出工程S9で算出した動作時間Tの一例を示す図である。
図11(a)は、正常な遮断器30を投入動作させて基準波形(基準動作時間t=110.00msec)を検出し記録した後、診断対象として同じ正常な遮断器30を繰り返し(計4回)投入動作させて診断波形を検出し記録し、基準波形との最大相互相関係数Ramax、Rbmax、及び、動作時間Tを算出した結果である。
図11(b)は、不良のある遮断器30(機構部32に塗布される潤滑用グリスを切らせた状態にしたもの)を繰り返し(計4回)投入動作させて診断波形を検出し記録し、基準波形との最大相互相関係数Ramax、Rbmax、及び、動作時間Tを算出した結果である。
図11(a)に示すように、正常な遮断器30については、最大相互相関係数Ramax、Rbmaxが全て0.40以上の値になっているため、前述した相互相関係数しきい値Rを例えば0.40に設定することができる。また、
図11(a)に示すように、正常な遮断器30については、基準動作時間t=110.00msecに対して、全て1.92msec以下の動作時間の遅れとなっている。このため、前述した動作時間しきい値TBを例えば112.00msecに設定することができる。
上記のようにR=0.40、TB=112.00msecに設定したとすれば、
図11(b)に示す例において、2〜4回目の投入動作では、全て、Ramax<R、Rbmax≧R、T>TBとなる。つまり、前述の
図10に示すNo.4のケースに相当し、励磁部34又は機構部32に不良が生じている可能性が高く、遮断器30の動作は不良であると判定される。また、
図11(b)に示す例において、1回目の投入動作では、Ramax≧R、Rbmax≧R、T>TBとなる。つまり、前述の
図10に示すNo.7のケースに相当し、機構部32に不良が生じている可能性が高く、遮断器30の動作は不良であると判定される。いずれにせよ、
図11(b)に示す例では、遮断部33ではなく、機構部32に不良が生じている可能性が高いと判定され、実際の状態(潤滑用グリス切れ)に合致する。このように、本実施形態に係る診断方法によれば、動作不良が生じていることのみならず、その動作不良の発生箇所をもある程度特定することが可能である。
【0042】
以上に説明した本実施形態に係る診断方法によれば、遮断器30の動作不良を判定するに際し、遮断器30が動作する際の音響波形を検出するための検出手段10を用いて検出した基準波形と診断波形との相互相関係数R(K)、及び、診断対象である遮断器30の動作時間Tを利用する。このため、周波数解析装置等の複雑な装置を用いることなく、遮断器30が主回路に接続されたままの状態であったとしても、遮断器30の動作不良の有無を診断することができ、不良と診断された時のみ、遮断器30の精密点検や分解整備を行うことが可能になる。従って、本実施形態に係る診断方法によれば、遮断器30の動作不良の有無を、主回路に接続されたままの状態であってとしても、安全且つ容易に診断することが可能である。
また、遮断器30の動作不良を判定するに際し、単純な相関係数ではなく相互相関係数を利用し、さらには、相互相関係数を用いて算出される遮断器30の動作時間Tを利用し、相互相関係数と組み合わせることで、精度の良い診断が可能であり、動作不良の発生箇所をもある程度特定することが可能である。。
従って、本実施形態に係る診断方法によれば、遮断器30が主回路に接続されたままの状態であったとしても、安全で容易に且つ精度良く動作不良の有無を診断可能である。
【0043】
本実施形態に係る診断方法の判定工程S10によって、遮断器30に動作不良が生じていると判定された場合には、遮断器30の精密点検や分解整備を行えばよい(
図3のS11)。この際、
図10に示すように、各ブロック毎の最大相互相関係数Ramax、Rbmaxと、動作時間Tとの組み合わせにより、動作不良の発生箇所をある程度特定可能であるため、精密点検を行う場合には、特定された箇所を重点的に精密点検すればよい。また、分解整備を行う場合には、動作不良の発生箇所がある程度特定されるため、必要な部品や材料の段取りが可能となる。また、本実施形態に係る診断方法によって遮断器30を診断する際に、同時期に多数の遮断器30を診断することが考えられる。この場合、
図10に示すように、診断結果を点数化する(「機構部不良」、「励磁部不良」及び「遮断部不良」の各点数を合計する)ことで、どの遮断器30から優先して精密点検や分解整備を行うべきかの判断が容易となる。すなわち、診断結果の点数が高いほど動作不良の程度が大きい(不良箇所が多い)と考えられるため、点数の高いものから順に精密点検や分解整備を行うことで、遮断器30の損壊事故や電力系統の上位に波及する事故の生じるリスクを低減することが可能である。
【0044】
励磁部34、機構部32の動作は高速であり、瞬時に動作が完了する。このため、励磁部34の作動開始から機構部32の動作終了までの全域によって構成される1つのブロックのみを診断対象にすると、些細な動作不良はデータ全体の中に埋もれてしまい、動作不良の診断が困難になることが考えられる。そこで、本実施形態に係る診断方法の第1抽出工程S3、第2抽出工程S6では、抽出するブロックを時間幅約80msecの2個のブロックとしたが、さらに細かい時間幅のブロックを3個以上抽出してもよい。遮断器30の構造によって励磁部34、機構部32の動作はそれぞれ異なるため、その動作に応じて抽出数を決めればよい。
【0045】
本実施形態に係る診断方法において、遮断器30が動作する際に発生する音響波形の周波数は、周波数解析の結果、100Hz程度から数kHz程度であった。このため、検出手段10が検出し得る音響波形の周波数帯域は10kHz程度まであれば十分である。また、オフラインで定期的に診断を行なう場合には、診断周期が数ヶ月から数年に亘ると考えられる。この場合、検出手段10は、診断を行うたびに配置することになるが、検出手段10の配置位置が毎回同じ位置となるように、配置位置にマーキングをしておくと、診断誤差を小さくすることができる。しかし、多少の位置ずれがあっても、音響波形(基準波形及び診断波形)を正規化した上で相互相関係数を算出すれば、配置位置のずれによる音響波形の振幅の大きさの変化が直接診断結果に大きく影響しない。
なお、音響波形の正規化処理は、以下の式(3)に従って行う。なお、式(3)では基準波形の正規化処理の例を示しているが、診断波形についても同様の処理を行う。
【数2】
上記の式(3)において、X(i)はサンプリング点iにおける基準波形の正規化後の振幅を、x(i)はサンプリング点iにおける基準波形の正規化前の振幅を、x
aveは各ブロック内の全サンプリング点におけるx(i)の平均値を、σは各ブロック内の全サンプリング点におけるx(i)の標準偏差を、それぞれ意味する。
【0046】
本実施形態に係る診断方法は、交流遮断器のみならず、直流遮断器や電磁接触器等にも適用可能である。また、三相交流の交流遮断器であって、各相毎に遮断部が設けられている場合には、検出手段10としての加速度センサを各相毎に配置することにより、どの相で動作不良が発生しているかを診断することも可能である。