【実施例】
【0023】
本発明の第1実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置100は、
図1と
図2に超砥粒電着砥石1の全体構成を示す。先ず、上記超砥粒電着砥石1は、単層のCBN又はダイヤモンド砥粒10を鋼製の台金3の外周面3Bに電着して構成されている。因みに、上記台金には、粒度#80前後のCBN又はダイヤモンド砥粒を電着させたものである。また、上記台金3の側面3Aと外周面3Bには、放射状のスリットSを多数設けている。上記スリット幅は0.2mm前後の溝として120箇所前後設けている。これにより、研削液Kが超砥粒電着砥石1の外周面(砥石研削面)10Aに向けて均等供給される構成としている。更に、台金の両側にはフランジカバー5,5が挟持されており、研削液Kは台金3とフランジ5との流路(隙間)5Eに沿って放射方向に吐出されて砥粒先端となる外周面(砥石研削面)10Aまで導く構成としている。勿論、上記研削液Kは、CBN又はダイヤモンド砥粒内の結合空間を浸透通過して外周面(砥石研削面)10Aまで導かれる。
【0024】
上記超砥粒電着砥石1における砥石内研削液供給装置100は、
図1と
図2に示すように、上記超砥粒電着砥石1の台金3の中心孔3Cを受環5Bで受け止める左右のフランジカバー5の中心孔5Cを砥石アーバー6の先端軸部6Aで保持する。即ち、砥石アーバー6の先端軸部6Aには、螺子6Bが設けられ、座金7を介してナット7Aで着脱可能に上記超砥粒電着砥石1が保持される。上記砥石アーバー6は、工具ホルダHの取付穴H1に保持部6Dを挿入して取り付けられ、マシニングセンタの工作機械や研削盤等の加工機Mの主軸20の先端テーパー穴20Aに装着される。そして、主軸20に開けたスピンドルスルー20Cから砥石アーバー6の通孔6Cを介して左右のフランジカバー5の中心孔5C付近の隙間に生ずる空隙Aに向けて噴出口6Eから研削液Kを供給する構成としている。
【0025】
上記第1実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置100は、以上のように構成されており、下記のように作用する。
第1の研削方法は、単層のCBN又はダイヤモンド砥粒を鋼製の台金に電着した電着砥石と、上記台金に放射状に多数設けたスリットSと、上記台金3の両側の流路(隙間)5Eから研削液Kを砥石側面に沿って放射方向に砥粒先端まで導くフランジカバー5と、上記台金とフランジとを保持すると共に加工機Mの主軸20に装着される砥石アーバー6と、上記砥石アーバーの通孔6Cを介して台金とフランジに対して主軸から研削液を供給するスピンドルスルー20Cと、からなる超砥粒電着砥石1の砥石内研削液供給装置において、研削液供給量を5L/min前後とし、研削速度V=20m/sec前後とし、送り速度v=500mm/sec前後とし、切り込み量td=0.02m前後の往復送りとした。
【0026】
アルミニウム合金研削の実施例(比研削抵抗)について。
本発明の金属台金に一層の砥粒を配置した電着砥石で砥石内研削液供給装置100が機能するかを,アルミニウム合金A7075を対象として検証した。アルミニウム合金を加工物とした理由は、延性が大きく切り屑の溶着や目詰まりが生じ易いため,研削液供給の効果が顕著に表れると推測した。
また,単層の電着砥粒が脱落したり、溶着により切削能力を喪失時に発生する危険性を最少化することに配慮した。
【0027】
次式、k=FxV/tdbvにより、比研削抵抗に換算した結果を、
図5に示す。尚、Fxは研削抵抗の研削方向成分,bは研削幅である。研削液供給量を5L/min、研削速度V=20m/sec、送り速度v=500mm/sec、切り込み量td=0.02mmの往復送りとした。上記から、砥石の往復送りに対応して奇数パスがアップカット、偶数パスがダウンカット。アップカットの場合が比研削抵抗が高めに推移するため研削抵抗はパス毎に高低を繰り返すが、被削材が砥石作業面に凝着することによる急激な研削抵抗の上昇は見られず,安定した状態を維持していて正常な研削が行われている。加工後の砥石表面には目詰まりはなく,砥石表面上の変化は見られない。以上より,金属台金に多数のスリットを設けた砥石内研削液供給装置により,延性の大きなアルミニウム合金においても安定的に研削加工が可能であることが確認できた。
【0028】
続いて、砥石内研削液供給装置100によるCBN又はダイヤモンド砥粒電着砥石とWAビトリファイド砥石との比較試験を行った。
(1)研削条件は、一般構造用鋼S45Cを対象とし,開発した台金により砥石内から研削液供給するCBN又はダイヤモンド砥粒電着砥石と,ビトリファイド砥石の気孔を通して砥石内より研削液供給する場合との比較により,CBN又はダイヤモンド砥粒電着砥石の優位性確認する。砥石条件を
図13に、研削条件を
図14に示す。更に、CBN電着砥石およびビトリファイド砥石の砥石作業面の写真を
図6に示す。
【0029】
(2)研削抵抗と加工点温度の測定
上記砥石内研削液供給装置100について、CBN電着砥石に適用し炭素鋼S45Cを研削加工した際の研削抵抗及び加工点温度の測定を行なう。研削抵抗は圧電型3成分動力計で測定した。そして、温度測定方法の概略は、
図7に示す。その構成は、加工物側の研削方向3箇所に,切込み方向t1,t2<0.02mm以内の差で熱電対を埋め込み、砥石がこれを切断するまでの温度を測定する。また、熱電対を設置した穴先端部には高熱伝導率を有するシルバーグリス(熱伝導率=9.0W/m・K)を充填し熱伝導のロスを低減するとともに,測温部の熱容量が極度に小さくなることを防止する対策を講じている。
【0030】
続いて、
図8により測定した比研削抵抗を示す。CBN又はダイヤモンド砥粒電着砥石はWAビトリファイド砥石よりも、比研削抵抗は20%程度低い値となっている。また,研削抵抗の振動成分も小さい。同図(a)の電着砥石の場合には,比研削抵抗の1パスごとの波形は右さがりの挙動を示している。これは、少なくとも1パス加工中に被削材もしくは、砥石の熱膨張により切込み量が増大して削り量が増大していないことを確認できる波形である。
火花の出るようなドライ加工データは、
図10に示すように、右上がりの波形を示すことを確認した。これで、安定した研削状態が維持されているものと推察できる。また,1パスごと交互に比研削抵抗値が上下する挙動が見られる。これは、往復加工を行うレシプロ研削によるアップカット、ダウンカットの違いであり研削液を外から掛ける通常研削でも観察できるだけでなく、ビトリファイド砥石の砥石内研削液供給機構でも見られる現象である。
【0031】
更に、
図9は被削材に埋めこんだ熱電対により測定された温度の変化を示している。本グラフの測定範囲は熱電対が最も砥石に接近していると考えられる最高温度を示した前後の66パスから76パス目の5往復10パスのデータを抽出したものである。この温度測定値にも1パスごとの研削点温度の違いが観察される。これも研削抵抗と同様にアップカットとダウンカットの違いによるものであると考えられる。温度上昇する直前及び直後の波形はアップカット、ダウンカットで異なり,研削点に対し砥石回転の周速方向への研削熱の熱伝導が多いと考えられる。
図9(b)は、ビトリファイド砥石の砥石内研削液供給機構の研削でも同様の挙動が観察される。
図9(a)と(b)とを比較すると,砥石内研削液供給機構を用いたビトリファイド砥石の場合,温度上昇は60%程度である。
図8に示した同研削条件で加工した比研削抵抗値の比較20%程度の上昇からみて3倍の差となっている。研削で発生する熱量は比研削抵抗に比例する点から考えると、CBN電着砥石の場合には,発生した熱量のうち,被削材に流入する量が,WAビトリファイド砥石の場合よりも減少していることになる。これは,超砥粒の熱伝導率が高いことで研削により発生した熱量が砥粒を介して金属台金側に移動し、フィン状のスリットになっている研削液流路で研削液に放出された結果であると考える。ダイヤモンド砥粒には劣るが、CBNの熱伝導率は常温で1300W/m・Kであり、被削材S45Cの51.6W/m・KやWAビトリファイド砥石を構成するアルミナ砥粒の熱伝導率30W/m・K前後よりもかなり高い値である。
【0032】
以上の結果による効果は,炭素鋼S45Cを被削材とした場合であるが,チタン合金やニッケル基超合金などより熱伝導率が低い被削材に対して,本研削方法において、上記のような砥石および台金へ熱を移動し,研削液へ除熱する機能は有効に作用するものと考えられる。このことは、高温に弱いとされる超砥粒のダイヤモンド砥粒での研削への可能性がある。また、研削弧長の変化に関係なく冷却効果を維持できる技術であるから、深穴研削加工に適した技術としても期待できる。また,研削液には潤滑効果が備わっており、ビトリファイド砥石の場合でも,砥石内研削液供給により研削点に確実に研削液が供給されることから,通常の外部ノズルからの供給に比べて良好な潤滑状態となっていることが予想される。そして、CBN電着砥石では、更に比研削抵抗が小さいことは、砥粒の形状の違いと砥粒の動摩擦係数の違いによる要因が大きいと考えられる。
【0033】
更に、砥石表面について。
図11において、100パス加工後と加工前の砥石作業面の同一部分を撮影したものである。td=0.02mmと大きめの切込みを設定しているが,砥石の目詰まりや目こぼれ、摩耗は見当たらない.また、目視による観察で加工面に研削焼けは見られない。研削方向に垂直に測定した表面粗さは3.2〜3.6μmRaであり,同じ粒度のビトリファイド砥石加工で得られている0.6μmRa前後よりかなり大きな値となった。これは、CBN電着ホイールでは砥粒切れ刃高さを揃えるためのツルーイングを行っていない事が要因として最も大きいと考える。
更に、研削後の被削材の寸法測定を行った。0.02mmの切込みで連続して100パス加工した後,全体が室温になじんでからの測定値である。温度上昇と弾性変形がほとんど生じないようスパークアウトを繰り返せば,被削材の厚さは位置に依らず一定となる。また、切込みが大きく除熱が十分でない場合には,1パスの加工中に被削材もしくは研削ホイールの温度が上昇して熱膨張し,設定よりも切込みが増す。結果として、研削入口側よりも出口側の被削材厚さが小さくなる。
【0034】
図12は、測定した被削材両端と中央の厚さの寸法差を示す。最終加工パスの入口側上段を0として各点の被削材厚差を上段,中段,下段の3ライン上で測定した.ツルーイングしていない為,各ライン間で最大10μm程度の差が生じているが,入口側と出口側を比較すると,出口側で加工物厚さが小さくなる顕著な傾向は見られない。これは加工物と電着ホイール軸の間に熱変形がほとんど起こらなかった事を示しており,切込みは0.02mmと仕上加工としては小さく,研削熱が研削液と切りくずを通じて放出されたことを示している。
【0035】
上記第1実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置100とその研削方法によると、下記の効果が発揮される。
本発明の超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置とその研削方法によると、電着砥石の砥石台金に多数のスリット(スリット幅0.2mm、台金外周120箇所)を設け、台金の両側から研削液を砥石側面に沿って放射方向に砥粒先端まで導くフランジカバーを設けたから、砥石ホイール内部から研削液を砥石先端に効率良く供給できる。
これにより、研削液による台金自体の冷却効率の向上で台金の熱膨張を抑制しワークの研削寸法精度が保証できる。また、研削液の消費量も少量となる。具体的には、およそ5L/min前後の広い範囲内での実施が可能となる。
【0036】
また、上記砥石内研削液供給装置とその研削方法を採用すると、CBN又はダイヤモンド砥粒の電着砥石による研削は、アルミナ砥粒ビトリファイドボンド砥石よりも比研削抵抗を低い値にできる。更に、S45C材において、CBN電着砥石とビトリファイド砥石との研削面層の温度を比較すると、超砥粒の電着砥石は動力の低減に比べて著しい温度低下が得られる。これは、超砥粒(CBN)がアルミナ砥粒よりも熱伝導率が高く、研削熱が砥粒を通して砥石台金に放出され、研削液により効率的に除熱できる。
【0037】
続いて、本考案の第2実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置200を説明する。
図3と
図4に超砥粒電着砥石11の全体構成を示す。上記超砥粒電着砥石11は、単層のCBN又はダイヤモンド砥粒12を鋼製の台金33,34の一方側の外周面33Cに電着して構成されている。上記台金には粒度#80前後のCBN又はダイヤモンド砥粒を電着させたものである。上記台金33,34は一方側33に小孔hを多数開けた外周面33Cを有し、他方34は円板34Aからなり、該空間X内にサンドイッチ構成にドーナツ状の気泡セラミック体40が挟まれている。上記左右両側の台金33,34と気泡セラミック体40とに開けた中心孔h1,h2は、砥石アーバー6の先端軸6Aで保持されている。上記砥石アーバーは、加工機Mの主軸20に装着されこの通孔6Cの壁面に開けた噴射口6Eを介して気泡セラミック体の中心孔h2内に圧入され、該外周に配置した電着砥石11に対して外周面33Cに開けた多数の小孔hから研削液Kを供給するスピンドルスルー20Cの構成となっている。即ち、上記研削液Kは気泡セラミック体40内の結合空間S2を浸透通過し、台金33の外周面33Cに開けられた小孔hを介してCBN又はダイヤモンド砥粒12内の結合空間S3を浸透通過して超砥粒電着砥石11の外周面(砥石研削面)11Aまで導かれる。
【0038】
上記超砥粒電着砥石11における砥石内研削液供給装置200は、
図4に示すように、上記超砥粒電着砥石11の台金33,34及び気泡セラミック体40は、中心孔h1,h2が砥石アーバー6の先端軸部6Aに保持されている。この砥石アーバー6は、工具ホルダHの取付穴H1に取り付けられ、マシニングセンタの工作機械や研削盤等の加工機Mの主軸20の先端テーパー穴20Aに装着される。
【0039】
上記第2実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置200は、以上のように構成されており、下記のように作用する。
第2の研削方法も、上記第1の研削方法と同様に実施される。上記超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置200において、研削液供給量を0.5L/min前後とし、研削速度V=20m/sec前後とし、送り速度v=500mm/sec前後とし、切り込み量td=0.02mm前後の往復送りとして実施した。これにより、(1)アルミニウム合金研削の実施例(比研削抵抗)。(2)CBN又はダイヤモンド砥粒電着砥石とWAビトリファイド砥石との比較試験。(3)研削抵抗と加工点温度の測定。(4)砥石表面について。(5)測定した被削材両端と中央の厚さの寸法差。について、上記第1の研削方法と同様の作用と効果が得られた。
【0040】
上記第2実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置200の特別の作用を列記する。その特別な機能は、気泡セラミック体40による研削液Kの泡生成を研削作用時に発揮する。上記超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置200は、加工機Mの主軸20の先端テーパー穴20Aに装着される。そして、主軸20に開けたスピンドルスルー20Cから砥石アーバー6の通孔6Cを介して気泡セラミック体40の中心孔h2に向けて研削液Kが供給される。この時、研削液Kは気泡セラミック体40内を中心から外周方向に放射状に浸透して拡がり、台金33の外周面33Cに多数開けた小孔hからCBN又はダイヤモンド砥粒内12の結合空間S3を浸透噴出して超砥粒電着砥石11の外周面(砥石研削面)11Aまで導かれる。この時、気泡セラミック体40は、研削液Kの流れに対して泡発生機能により切粉,研削スラッジ等の不純物を濾過するとともに、泡状とした研削液Kを、CBN又はダイヤモンド砥粒12の結合空間S3を浸透噴出させて目詰まりを起こすことが無くなり、超砥粒電着砥石11の外周面(砥石研削面)11Aに噴出して、ワークとなる研削面を少量の研削液でも完璧に研削する。
【0041】
上記気泡セラミック体40は、二つの台金33,34内に収めた構成で交換可能であるから、汚れの限界に達したら交換される。そして、気泡状態は、セラミックの材質変更により数ミリからマイクロバブルまで選択される。
ここで、気泡の効用を列記すれば、
(1)気泡セラミック体40は、交換可能でランニングコストが低い。
(2)セラミックの選定で気泡の状況が自由に変えられる。
(3)セラミックにより、研削液内の異物(切粉,研削スラッジ)を除去する。
(4)セラックにより、研削液を気泡化でき、この気泡で切粉,研削スラッジを吸着して空気中への拡散が抑えられる。
(5)気泡のエロージョン効果で砥石目詰まりを吹き飛ばせる。
(6)気泡でMQLが可能となり、研削液の消費量を5L/min前後から0.5L/min前後に減少でき省エネ、対環境性に良い結果が得られる。
(7)研削砥石の温度抑制や研削面の研削焼けを防止させられる。
【0042】
上記第2実施の形態となる超砥粒電着砥石の砥石内研削液供給装置200とその研削方法によると、下記の効果を発揮する。
単層のCBN又はダイヤモンド砥粒を鋼製の台金の外周面に電着した電着砥石において、上記台金はドーナツ状の気泡セラミック体を左右両側で挟んだサンドチッチ構成で保持する砥石アーバーと、上記砥石アーバーの通孔を介して気泡セラミック体から電着砥石に対して主軸からのスピンドルスルーで研削液を供給したから、気泡セラミック体により砥石ホイール内部から砥石先端に供給される研削液は、気泡化されて研削液内の異物(切屑、スラッジ)を吸着して拡散が防止されて効率良く供給できる。更に、セラミック体は交換可能でセラミック選定で泡選別が可能な上に、泡のエローション効果で砥石の目詰まりを吹飛ばし、また、気泡で研削液のMQLが実現でき、研削焼けしない。即ち、研削液による台金自体の冷却効率の向上で台金の熱膨張を抑制しワークの研削寸法精度が保証できる。