特許第5787379号(P5787379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787379
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】オレフィン気相重合
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/34 20060101AFI20150910BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C08F2/34
   C08F10/00 510
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-511569(P2013-511569)
(86)(22)【出願日】2011年5月12日
(65)【公表番号】特表2013-527292(P2013-527292A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】EP2011002386
(87)【国際公開番号】WO2011147539
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年4月4日
(31)【優先権主張番号】10075226.0
(32)【優先日】2010年5月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】バナット,ヤヒャ
(72)【発明者】
【氏名】アル−オバイディ,ファハド
(72)【発明者】
【氏名】マレク,アブール カダー
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−201802(JP,A)
【文献】 米国特許第04588790(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0182207(US,A1)
【文献】 特開平07−062009(JP,A)
【文献】 特表2004−537617(JP,A)
【文献】 特開平11−100405(JP,A)
【文献】 特表2003−519254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 2/60
C08F 10/00−10/14
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを含むガス流により、乾燥モードまたは(超)凝縮モードで流動層式反応装置内において、エチレンおよびアルファオレフィンから選択される1種類以上のオレフィン系モノマーを気相重合するプロセスであって、前記不活性ガスが不活性成分の混合物:
(1) 5〜60モル%の窒素、
(2) 10〜90モル%の、露点を調節すると同時に蒸気流熱容量を改善するガス熱容量増加剤、
(3) 1〜50モル%の、エチレンおよびアルファオレフィンの、そのような成分のポリエチレンへの収着により、触媒活性部位の周囲の微視的条件に関するエチレンおよび/またはアルファオレフィンの局所濃度が増加する、成長するポリマーの微粒子レベルでの局所濃度の促進剤として働く、収着促進剤、および
(4) 0.1〜10モル%の、成長中に形成されるポリマーを膨潤および可塑化させることによって、ポリマーの成長中に瞬時に発生する、ポリマーの物理的性質および粘弾性改質剤として働き、結晶相の特徴に影響を与える、ポリマー膨潤剤、
を含み、前記不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量が100%であり
前記ガス熱容量増加剤が飽和(C2〜C)炭化水素またはそれら炭化水素の混合物であり、前記収着促進剤がn−ブタンであり、および前記ポリマー膨潤剤が飽和(C5〜C20)炭化水素または少なくとも2種類の異なる飽和(C5〜C20)炭化水素の混合物である、プロセス。
【請求項2】
前記反応装置が、ガス分配板により下面で、仮想端面により上面で制限された反応区域を含み、該装置において、流動層が前記下面と前記上面との間に維持され、該反応装置の上部から引き出されたガス流の少なくとも一部が冷却され、その結果生じた二相流の少なくとも一部が前記反応装置に再循環され、ここで、前記ガス流は、不活性成分の混合物:
(1) 窒素、
(2) ガス熱容量増加剤、
(3) 収着促進剤、および
(4) ポリマー膨潤剤、
を含む、不活性ガスを含んでいることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記オレフィン系モノマーがエチレンモノマーを含み、供給流中のエチレンの量が前記オレフィン系モノマーの総量の50質量%と95質量%の間に及ぶことを特徴とする請求項1または2記載のプロセス。
【請求項4】
前記ガス熱容量増加剤がエタンであることを特徴とする請求項1からいずれか1項記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポリマー膨潤剤がn−ペンタンまたはイソペンタンであることを特徴とする請求項1からいずれか1項記載のプロセス。
【請求項6】
前記不活性ガスが、
(1) 5〜60モル%の窒素、
(2) 10〜90モル%のエタン、
(3) 1〜50モル%のn−ブタン、および
(4) 0.1〜10モル%のn−ペンタンまたはイソペンタン、
を含み、前記不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量が100%であることを特徴とする請求項1からいずれか1項記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層反応装置内における気相重合プロセスである、オレフィンモノマー、特にエチレンモノマーの重合プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合は、極めて発熱性の反応である。反応装置内の温度を所望のレベルに維持するように、熱を継続的に除去する必要がある。そのような熱の除去は、反応装置に供給される温度よりも高い温度で反応装置を出るガス流により行ってもよい。気相重合において、成長する高分子の層からの熱の除去は、速度制限工程である傾向にある。
【0003】
従来、気相重合プロセスは概して継続的に行われ、したがって、流動層反応装置の温度は、流動層から排出されたガスを反応装置の外部にある冷却器/熱交換器に循環させ、冷却されたガス流を反応装置に再循環させることにより、重合の熱を継続的に除去することによって、実質的に等温レベルに制御される。流動層重合反応装置に導入されるまたは再生利用される再循環流の温度が露点温度よりも高い場合、液体は実質的に存在しない。このプロセスは「乾燥モード」プロセスとして知られている。熱の除去能力を最大にする方法の1つは、動作中ずっと、反応装置に入るガス供給流の温度を可能な最低値に減少させることである。
【0004】
「凝縮(condensed)モード」プロセスによれば、二相混合物が、流動媒体として流動層に向けられ、その液体部分は、反応装置の熱に暴露されると、蒸発する。再循環流を露点温度未満に冷却することによって、流体が形成され、それによって、ガスの一部分が液体に転化され、冷却された再循環流が流動層重合反応装置に導入される。その目的は、蒸発によって、すなわち、流動層の温度を、高分子と触媒の分解が避けられ、かつ高分子の凝集と塊形成(chunking)が避けられる程度にすることによってもたらされる冷却効果を利用することにある。液相は、重合に必要な反応条件に対して不活性である、モノマーと低沸点液体炭化水素を含む再循環ガスの一部分、および凝縮によって与えられる。凝縮モードの流動層反応装置重合プロセスが、例えば、特許文献1および2に開示されている。これらの文献には、不活性液体を再循環流中に導入して再循環流の露点温度を上昇させ、そのプロセスを、冷却された再循環流の総質量に基づいて、17.4質量%までの液体のレベルで動作させることが記載されている。凝縮モードプロセスは、重合により生じた多量の熱を除去する能力のために、流動層重合反応装置の高分子生産能力が増加するので、都合よい。一般に使用される液体炭化水素はイソペンタンであり、これは、約27℃で沸騰し、その結果、再循環ガス中に存在する熱を受けて再循環ライン中で蒸気になる。再循環ガスは、反応装置を出て、冷却され、次いで、気相と液相が形成される程度に凝縮される。再循環ガス/液体混合物の速度は、流動層を支持するのに十分であるべきであるが、過剰な微粒子(fines)の同伴を避けるほど十分に遅いべきである。冷却能力は、空間/時間/収率に鑑みて、生産速度を改善するのに十分であるべきである。
【0005】
「超凝縮モード」流動層反応装置重合プロセスは、例えば、特許文献3に記載されているように、冷却された再循環流中の17.4質量%超の液体で動作する。これらのプロセスは、流動層の不安定化を避けるための制限された動作条件範囲内で、ある種のより特有の制限条件下に限定されなければならない。
【0006】
凝縮モードおよび超凝縮モードのプロセスは、流動層に入る液体の概算量しか制御/モニタされなかったことを含むいくつかの要因のために限られてきた。マイナスの側面は、反応装置から熱を除去できる最大速度の影響を受ける、生産速度、すなわち、空間/時間/収率;不活性であると考えられるが、高分子形態および多くの重合運転を悩ませる、静電気、塊形成、およびシーティング(sheeting)に影響し得る、モノマー以外の炭化水素の導入;多すぎる液体による反応装置の底部でのフラッディングおよび泡立ち;および再循環流をガス/液体混合物に転化させるための追加の冷却および凝縮設備の要件に課せられる制限にある。
【0007】
Fraser等は、非特許文献1に、オレフィン気相プロセスの一般的な概念を開示している。一般に、オレフィンの気相重合において、供給流は、成長している高分子粒子の流動層または撹拌層を通過する。成長している高分子粒子は、モノマー、コモノマー、水素、窒素および不活性凝縮ガスの再循環ガス流により流動化される。再循環ガス流は、重合のためのモノマーとコモノマーを供給し、層を撹拌し、また重合の熱を取り除く。再循環ガスは、反応装置の上部から排出され、次いで圧縮機により圧縮され、流動層の底部に供給される前に熱交換器により冷却される。再循環流には追加の供給流が補われ、成長しているポリマーの層に戻される。供給流中のモノマーは、成長しているポリマー粒子中の触媒と接触し、重合される。
【0008】
この気相重合に適用される好ましい反応装置システムは縦型の細長い反応装置であり、この中で、ポリマー粒子の層が、重合すべきガス状モノマーを含有する上昇するガス供給流の助けを借りて流動状態に維持される。この反応装置は、ガス分配板により下面で、仮想端面により上面で制限された反応区域を含み、その装置において、流動層が下面と上面との間に維持され、反応装置の上部から引き出されたガス流の少なくとも一部が、そのガス流が部分的に液体に凝縮する点まで冷却され、その結果生じた二相流の少なくとも一部が、ガス分配板の下で反応装置の端部にある入口を通じて反応装置に再循環される。
【0009】
上昇するガス流は、不活性ガスと、例えば、鎖長調節剤としての水素とを含んでよい。この不活性ガスは、ガス混合物の露点を制御するために加えられる。適切な不活性ガスの例としては、窒素、並びに(イソ)ブタン、(イソ)ペンタンおよび(イソ)ヘキサンなどの不活性炭化水素が挙げられる。不活性ガスは、気体として、または液体として凝縮形態で、ガス流に加えてよい。ガス流は、反応装置の上部を通じて排出され、ある処理操作後に、重合で消費されたモノマーを補うために、新たなモノマーがガス流に加えられ、次いで、そのガス流は、層を維持するために上昇するガス流(の一部)として反応装置に再び供給される。触媒もその層に加えられる。
【0010】
超凝縮方式に入るのに必要な再循環流における凝縮レベルを促進するには、反応装置の安定な動作を損なうかもしれない量の不揮発性成分が必要であることが、公知のプロセスの不都合な点である。より高い生産速度に到達するために、より高い熱除去能力の達成は十分ではない。何故ならば、安定な動作を維持することも必須であるからである。安定な動作をそれ自体維持できない場合、熱除去能力は、生産速度の制限要因ではもはやなく、一方で、凝縮モードおよび超凝縮モードにおける動作の利点は損なわれてしまう。プロセスの安定性を超凝縮モードに維持する上での難点並びにそれらの欠点に対応する方法が、特許文献3および特許文献4に論じられている。
【0011】
適切な熱除去および反応装置層の安定性に関連する問題のために、1−ペンテン、1−ヘキセンまたは1−オクテンなどの長鎖であり、その結果として低い揮発性のコモノマーが、主要モノマーとの共重合のために比較的多量に適用される、気相重合プロセスのさらに別の変種において、そのプロセス条件と、そのようなモノマーの特徴との組合せにより、前記コモノマーの分縮がもたらされ、その結果として、高い生産速度でプロセスを動作させることが不可能になるかもしれない。
【0012】
特許文献5には、流動層式反応装置における1種類以上のオレフィン系モノマーの気相重合のためのプロセスが開示されている。その反応装置は、ガス分配板により下面で、仮想端面により上面で制限された反応区域を含み、その装置において、流動層が下面と上面との間に維持され、反応装置の上部から引き出されたガス流の少なくとも一部が冷却され、その結果生じた二相流の少なくとも一部が反応装置に再循環され、ここで、ガス流は不活性ガスを含んでいる。
【0013】
一般に、気相オレフィン重合に使用される従来の流動層式反応装置は、円柱形流動層部分および拡大された円錐状同伴遊離部分を有するであろう。重合の過程で、オレフィン、例えば、エチレンの触媒重合によって、新たなポリマー粒子が生産される。そのようなポリマー粒子は、流れているガスを通じて遊離部分へと上方に投げ出され、これらの粒子のほとんどは、その速度が遊離部分において減少するので、重力によって流動層に戻る。しかしながら、いくらかの微細な粒子「微粒子」は、投げ出された粒子から飛散し、重力によって流動層に戻ることはない。そのような微粒子は、反応装置の出口を通じて流れているガスと共に去るか、または遊離部分に蓄積する。その結果、反応装置内の高レベルの微粒子が、反応装置自体の内部、または配管系統、熱交換器、圧縮機、および反応装置の入口のガス分配グリッド(gas distribution grid)により表される反応装置の外部のいずれかで重大な動作の難点を生じるであろう。流動層部分の内部では、微粒子は、壁上のシーティングの形成の主因と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4543399号明細書
【特許文献2】米国特許第4588790号明細書
【特許文献3】米国特許第5352749号明細書
【特許文献4】米国特許第5436304号明細書
【特許文献5】欧州特許第1196238号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Fraser et al. "Manufacturing efficiencies from metallocene catalysis in gas phase polyethylene production" (1997, UnivationTechnologies)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、流動層式反応装置内において気相重合プロセスで1種類以上のオレフィン系モノマーを重合させるプロセスであって、流動層式反応装置の運転を、乾燥モードおよび(超)凝縮モードの流動層式反応装置の重合プロセスの生産速度を改善するのに十分な冷却容量と組み合わせたプロセスを提供することにある。
【0017】
さらに、所望のポリマーの性質、例えば、高いポリマー粒子密度、高いポリマー嵩密度、高い触媒生産性および改善されたポリマー形態を得るべきである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題は、不活性ガスを含むガス流により、乾燥モードまたは(超)凝縮モードで流動層式反応装置内において1種類以上のオレフィン系モノマーを気相重合するプロセスであって、不活性ガスが不活性成分の混合物:
(1) 窒素、
(2) 露点を調節すると同時に、蒸気流熱容量を改善する、ガス熱容量増加剤、
(3) エチレンおよびアルファオレフィンの、そのような成分のポリエチレンへの収着により、触媒活性部位の周囲の微視的条件に関するエチレンおよび/またはアルファオレフィンの局所濃度が増加する、成長するポリマーの微粒子レベルでの局所濃度の促進剤として働く、収着促進剤、および
(4) 成長中に形成されるポリマーを膨潤させ、可塑化させることによって、ポリマーの成長中に瞬時に発生する、ポリマーの物理的性質および粘弾性改質剤として働き、結晶相の特徴に影響を与える、ポリマー膨潤剤、
を含むことを特徴とするプロセスによって達成される。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態によれば、このプロセスは、ガス分配板により下面で、仮想端面により上面で制限された反応区域を含む反応装置内で行われ、その装置において、流動層が下面と上面との間に維持され、反応装置の上部から引き出されたガス流の少なくとも一部が冷却され、その結果生じた二相流の少なくとも一部が反応装置に再循環され、ここで、ガス流は、不活性成分の混合物:
(1) 窒素、
(2) ガス熱容量増加剤、
(3) 収着促進剤、および
(4) ポリマー膨潤剤、
を含む、不活性ガスを含んでいる。
【0020】
この再循環流には追加の供給流が補われ、成長するポリマーの層に戻される。再循環流中の供給流は、オレフィン系モノマーおよび不活性成分の混合物を含む。
【0021】
好ましい実施の形態によれば、オレフィンはエチレンである。オレフィンがエチレンである場合、供給流中のエチレンの量は、オレフィン系モノマーの総量の50質量%と95質量%との間に及ぶ。適切なコモノマーの例としては、1−ブテン、1−ヘキセンおよびプロピレンが挙げられる。
【0022】
本発明のプロセスにより、特に、空間/時間/収率に関して改善されたプロセスがもたらされると同時に、流動層式反応装置の重合プロセスの幅広い範囲の動作条件が可能になる。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態によれば、気相重合は、(超)凝縮モードのプロセスにより行われる。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態によれば、不活性ガスは、
(1) 5〜60モル%の窒素、
(2) 10〜90モル%のガス熱容量増加剤、
(3) 1〜50モル%の収着促進剤、および
(4) 0.1〜10モル%のポリマー促進剤、
を含み、不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量は100%である。
【0025】
不活性成分が飽和化合物であることが好ましい。
【0026】
気相反応装置への供給流中のガス熱容量増加剤は、露点を調節すると同時に、蒸気流の熱容量を改善する。
【0027】
ガス熱容量増加剤が、飽和(C2〜C4)炭化水素または少なくとも2種類の異なる飽和(C2〜C4)炭化水素の混合物であることが好ましい。
【0028】
ガス熱容量増加剤が、飽和(C2〜C3)炭化水素またはこれらの炭化水素の混合物であることがより好ましい。
【0029】
ガス熱容量増加剤がエタンであることが最も好ましい。
【0030】
収着促進剤は、エチレンおよびアルファオレフィンの、そのような成分のポリエチレンへの収着により、触媒活性部位の周囲の微視的条件に関するエチレンおよび/またはアルファオレフィンの局所濃度が増加する、成長するポリマーの微粒子レベルでの局所濃度の促進剤として働く。この物理的現象は共溶解性として知られている。
【0031】
収着促進剤が、飽和(C4〜C7)炭化水素または少なくとも2種類の異なる飽和(C4〜C7)炭化水素の混合物であることが好ましい。
【0032】
収着促進剤が、飽和(C4)炭化水素のn−ブタンであることがより好ましい。
【0033】
本発明の利点は、成長しているポリマーへの炭化水素の収着により、触媒の活性を促進させられることである。
【0034】
ポリマー膨潤剤は、成長中に形成されるポリマーを膨潤させ、可塑化させることによって、ポリマーの成長中に瞬時に発生する、ポリマーの物理的性質および粘弾性改質剤として働く。さらにポリマー膨潤剤は、結晶化度、層厚および晶子の界面構造などの結晶相の特徴に影響を与える。さらに、ポリマー膨潤剤は、ポリマーの成長中の結晶化反応速度に関する遅延剤として機能する。したがって、この膨潤剤は、重合中の微粒子の生成を減少させ、その上、この膨潤剤は、触媒の分解を調節することによって、粒子密度を増加させる。一般に、適用される膨潤剤は、40℃超の標準沸点を有する。
【0035】
ポリマー膨潤剤が、飽和(C5〜C20)炭化水素または少なくとも2種類の異なる飽和(C5〜C20)炭化水素の混合物であることが好ましい。
【0036】
ポリマー膨潤剤がn−ペンタンまたはイソペンタンであることがより好ましい。
【0037】
収着促進剤として、また膨潤促進剤として、例えば、イソペンタンを適用することが可能である。この場合、イソペンタンは、例えば、1.1モル%と60モル%の間の量で存在してよい。
【0038】
本発明のさらに好ましい実施の形態によれば、前記混合物は、
(1) 10〜50モル%の窒素、
(2) 25〜80モル%の(C2〜C4)炭化水素、
(3) 1〜45モル%の(C4〜C7)炭化水素、および
(4) 0.2〜7モル%の(C5〜C20)炭化水素、
を含み、不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量は100%である。
【0039】
本発明の別の好ましい実施の形態によれば、前記混合物は、
(1) 10〜50モル%の窒素、
(2) 25〜80モル%の(C2〜C3)炭化水素、
(3) 1〜45モル%の(C4)炭化水素、および
(4) 0.2〜7モル%の(C5〜C20)炭化水素、
を含み、不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量は100%である。
【0040】
本発明のさらに好ましい実施の形態によれば、前記混合物は、
(1) 窒素、
(2) エタン、
(3) n−ブタン、および
(4) n−ペンタンまたはイソペンタン、
を含み、不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量は100%である。
【0041】
前記混合物が、
(1) 5〜60モル%の窒素、
(2) 10〜90モル%のエタン、
(3) 1〜50モル%のn−ブタン、および
(4) 0.1〜10モル%のn−ペンタンまたはイソペンタン、
を含み、不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量は100%であることが好ましい。
【0042】
前記混合物が、
(1) 10〜50モル%の窒素、
(2) 25〜80モル%のエタン、
(3) 5〜45モル%のn−ブタン、および
(4) 0.1〜45モル%のn−ペンタンまたはイソペンタン、
を含み、不活性成分(1)、(2)、(3)および(4)の総量は100%であることがより好ましい。
【0043】
本発明による重合プロセスは、流動層式反応装置の運転を、空間/時間/収率に関して生産速度が改善されると同時に、使用する触媒の種類にかかわらず、流動層式反応装置の重合方法の幅広い範囲の動作条件が可能になり、生産速度を改善するのに十分な冷却容量、および高いポリマー粒子密度、高いポリマー嵩密度、促進された触媒生産性およ流動層ポリエチレンプロセスにおいて粉末微粒子を減少させるための改善されたポリマー形態プロセスと組み合わせる。
【0044】
本発明のプロセスは、成長しているポリマーの微粒子レベルでエチレンおよびアルファオレフィンの局所濃度の促進剤の導入により、また同時に、瞬間の粘弾性の局所特性改善剤の導入により、流動層式反応装置の例えば、ポリエチレンの生産プロセスにおいて微粒子の低レベルへの減少をもたらすと同時に、反応装置の層の安定性問題なくして動作の維持またはポリマー粒子の同伴の維持が確保されることが別の利点である。
【0045】
本発明によるプロセスは、縮合または非縮合モードで、気相反応装置において、重合条件下でガス状オレフィン系モノマーの供給物を(共)重合させる工程を有してなり、再循環流の特定のモル分率が、特定の量で混合された不活性成分から構成され、その組成により、微視的(粒子レベルで)および巨視的(反応装置レベルで)の両方で、熱輸送特性が最大になる。巨視的は、反応装置の総容積を意味するのに対し、微視的は、重合が行われる触媒部位の周りの直ぐ近傍を称する。冷却が改善されると、触媒の生産性およびポリマーの性質が改善される。それと同時に、ホットスポットの生成、シーティング、および塊形成が減少するので、反応装置の運転性能がより堅牢になる。
【0046】
膨潤剤を使用すると、全ての成分を通じて熱除去がより良好になることに加えて、粘弾性が改善され、その結果、本発明のプロセスにより、微粒子の量が減少する。
【0047】
本発明のプロセスは、1種類以上のオレフィン系モノマーの重合による、気相でのポリオレフィンの製造に適している。そのポリマーは、エチレンおよび/またはプロピレンのホモポリマーおよびコポリマー、もしくはエチレンまたはプロピレンの、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、およびオクテン−1などの1種類以上のC2〜C8アルファオレフィンとのコポリマーであってよい。高級オレフィン、例えば、デセン−1またはジエン、例えば、1,4−ブタジエン、1,6−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンおよびビニルノルボルネンを適用してもよい。
【0048】
前記プロセスが、エチレン単独重合プロセスまたはエチレン−アルファオレフィン共重合プロセスであることが好ましい。
【0049】
この重合プロセスの圧力は0.5と10MPaの間に及び、温度は30℃と130℃の間に及ぶことが好ましい。
【0050】
触媒も前記層に加えられる。そのプロセス中、存在する触媒の影響下で、新たなポリマーが継続的に形成されると同時に、形成されたポリマーが層から引き出され、その層の容積と質量は、実質的に一定に維持される。
【0051】
適用される触媒の種類にかかわらずに、目的が達成されることが本発明の別の利点である。
【0052】
重合反応は、気相重合に関する任意の公知の適切な触媒系、例えば、チーグラー・ナッタタイプの触媒系、クロムに基づく触媒系、およびメタロセンに基づく触媒系の存在下で行ってよい。
【0053】
触媒は、上述した触媒系を用いて、予備重合段階で調製されたプレポリマー粉末の形態にあってもよい。予備重合は、どのような公知のプロセスによって、例えば、バッチプロセス、半連続プロセスまたは連続プロセスを使用した気相または液体炭化水素希釈物中の重合によって行ってもよい。
【0054】
米国特許出願公開第2005/182207号明細書には、モノマーからポリマーを製造するための連続ガス流動層重合プロセスであって、モノマーを含むガス流を、反応性条件下で触媒の存在下において流動層式反応装置に通過させ;重合生成物および未反応モノマーガスを含む流れを引き出し;未反応モノマーガスを含む流れを冷却して、気相と液相とを含む混合物を形成し;その混合物を、十分な追加のモノマーと共に反応装置に再導入して、重合し、生成物として引き出されたモノマーを置き換える各工程を有してなり、液相が気化され、前記流れが、アルカンおよびシクロアルカンからなる群より選択される少なくとも2種類の不活性凝縮剤を含むものであるプロセスが開示されている。米国特許出願公開第2005/182207号明細書は、40℃未満の標準沸点の少なくとも2種類の不活性凝縮剤を適用する。技術的に、これは、不活性成分が、分配板より下の入口条件で凝縮することを意味する。したがって、エタンは、他の誘導凝縮剤の不在下ではそれ自体は凝縮しないので、使用されない。エタンは誘導凝縮剤ではない。その上、低濃度(0モル%〜4モル%)のエタンは、エチレン供給原料に関する不純物としてどの気相エチレン重合プロセスにも存在する、またはエチレンの水素化のために、またはさらには反応装置中の微量の水との金属アルキル反応の副生成物として、生成される。さらに、米国特許出願公開第2005/182207号明細書とは反対に、本出願においては、40℃超の標準沸点を一般に有する膨潤剤が適用される。
【0055】
米国特許第6759489号明細書には、再循環流において凝縮剤を特徴とする、ポリマーを製造するための連続ガス流動層方法が開示され、再循環流において凝縮剤を特徴とする、ポリマーを製造するための連続ガス流動層方法における連続性をモニタし、提供するための方法も開示されている。
【0056】
特許文献4は、これまで認識されたよりも著しく高い生産速度で、気相反応装置においてアルファオレフィンを重合するプロセスに関する。この発明は、流動層および流動化媒質を有する気相反応装置においてアルファオレフィンを重合するプロセスであって、流動化媒質中の液体のレベルが、流動化媒質の総質量に基づいて15質量パーセント超であるプロセスに向けられている。さらに、特許文献4は、流動層の安定性を決定するために有用な性質を特定し、流動化媒質または再循環流の組成を調節して、安定な動作条件を維持するためのその性質の値の範囲を確立することによって、気相流動層重合反応装置の安定な動作条件を決定する方法に関する。
【0057】
特許文献3には、流動層および流動化媒質を有する気相反応装置においてアルファオレフィンを重合するプロセスであって、流動化媒質が反応装置の冷却容量を制御するように働き、その改善が、流動化媒質の総質量に基づいて17.4から50質量パーセントの範囲にある、反応装置に入る流動化媒質中の液体のレベルを使用すること、および流動化嵩密度の沈降嵩密度に対する比を0.59超に維持することを含むプロセスが開示されている。
【0058】
米国特許出願第2005/182207明細書、米国特許第6759489号明細書、特許文献4および特許文献3には、窒素、ガス熱容量増加剤、収着促進剤およびポリマー膨潤剤を含む不活性成分の混合物の使用は記載されていない。
【0059】
米国特許出願第2005/182207明細書、米国特許第6759489号明細書、特許文献4および特許文献3には、5〜60モル%の窒素;10〜90モル%のガス熱容量増加剤;1〜50モル%の収着促進剤;および0.1〜10モル%のポリマー膨潤剤を含む特定の混合物は記載されていない。
【0060】
米国特許出願第2005/182207明細書、米国特許第6759489号明細書、特許文献4および特許文献3には、5〜60モル%の窒素;10〜90モル%のエタン;1〜50モル%のn−ブタン;および0.1〜10モル%のn−ペンタンまたはイソペンタンを含む特定の混合物は記載されていない。
【実施例】
【0061】
本発明を、以下の非限定的実施例により説明する。
【0062】
試験例I〜IIおよび比較例A
流動層における重合プロセスを使用して、特許文献2の実施例9に開示された条件にしたがって、非凝縮乾燥モードでエチレンおよび1−ヘキセンの重合を行った。
【0063】
試験例Iにおいて、イソペンタンをn−ペンタンにより一部(約25%)置き換えた。n−ペンタンは、イソペンタンよりもポリエチレン中の溶解度が約12%高く、n−ペンタンは、イソペンタンよりも伝熱性能が約4%高い。
【0064】
試験例IIにおいて、イソペンタンをn−ブタンとn−ペンタンの混合物により置き換えた。n−ペンタンは、イソペンタンよりもポリエチレン中の溶解度が約12%高く、n−ブタンは、溶解度が約40%低い。さらに、n−ペンタンは、イソペンタンよりも、伝熱性能が4%高く、n−ブタンは、イソペンタンとほぼ同じ伝熱性能を有し、イソペンタンの27.8℃の沸点と比べて、−0.6℃のずっと低い沸点を有する。
【0065】
試験例Iと比較例Aを比べると、窒素の70%をエタンで置き換え、n−ペンタンとイソペンタンを使用することによとって、約24パーセントの生産速度の増加が得られた。
【0066】
比較例Aと試験例IIを比べると、窒素の70%超をエタンとn−ブタンで置き換えて、微視的に粒子レベルと、巨視的に反応装置レベルの両方で伝熱性能を最大にすることによって、約28パーセントの生産速度の改善が得られた。
【表1】
【0067】
試験例III〜IVおよび比較例B
特許文献2の実施例の開示にしたがって、流動層における重合プロセスを行った。
【0068】
これらの試験例は、窒素の40%超をエタンにより(試験例III)、また窒素の90%超をエタンにより(試験例IV)置き換えることによって、動作の凝縮モードで得られた、それぞれ、約8パーセントおよび約11パーセントの生産速度の増加を示す。
【表2】
【0069】
試験例V〜VIIIおよび比較例C
特許文献2の実施例に開示された条件にしたがって、流動層における乾燥モードでエチレンおよび1−ブテンの重合プロセスを行った。
【0070】
比較例Cと試験例Vを比べると、窒素の60%超をエタンと置き換えることによって、入口からの再循環流の露点に影響を与えずに、乾燥モードで約11パーセントの生産速度の増加が得られた。
【0071】
比較例Cと試験例VIを比べると、窒素の約50%をエタンと置き換え、約25%のイソペンタンをn−ペンタンとして使用することによって、約26%の生産速度の増加が得られた。
【0072】
試験例VIにおいて、約68%のイソペンタン(比較例Cと比べて)を使用すると、入口からの再循環流の露点が著しく低下し、これにより、再循環流の入口温度を低下させることができ、このことは、生産速度のさらなる改善に寄与した。
【0073】
試験例VIIは、窒素の約50%をエタンで置き換えることによる、生産速度の増加を示す。
【0074】
試験例VIIIは、窒素の50%をエタンで置き換え、約25%のイソペンタンをn−ペンタンとして、約39%のイソペンタン(比較例Cと比べて)を使用することによる、約70%の生産速度の増加を示す。
【表3】
【0075】
試験例IX〜Xおよび比較例D
特許文献2の実施例10aの開示にしたがって、流動層における重合プロセスを使用して、凝縮モードでエチレンおよび1−ブテンを重合した。表4は、比較例Dを試験例IXおよび試験例Xと比べたときに、それぞれ、約11パーセントおよび約37パーセントの生産速度の増加が得られたことを示す。
【表4】
【0076】
試験例XI〜XIIIおよび比較例E
米国特許第6759489B1号明細書の実施例6.2の開示にしたがって、凝縮モードでエチレンおよび1−ブテンの重合のための流動層における重合プロセスを行った。
【0077】
比較例Eと試験例XI、XIIおよびXIIIを比べると、それぞれ、約16パーセント、約21パーセント、および約16パーセントの生産速度の増加が得られた。
【表5】
【0078】
試験例XIV〜XVIおよび比較例F
国際公開第99/06451号パンフレットの実施例3に開示された反応条件にしたがって、凝縮モードでエチレンおよび1−ヘキセンを重合するために、流動層における重合プロセスを行った。
【0079】
表6において比較例Fと試験例XIV、XVおよびXVIを比較することにより、それぞれ、約22パーセント、約32パーセントおよび約43パーセントの生産速度の増加が得られた。
【表6】