(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、動脈血管を通して心臓の内部まで挿入される電極カテーテルなどでは、心臓内に挿入されたカテーテルの先端(遠位端)の向きを、体外に配置されるカテーテルの後端(近位端または手元側)に装着された操作部を操作して変化(偏向)させる必要性がある。
【0003】
カテーテルの先端を手元側で操作して偏向させるための機構として、下記の特許文献1に示す機構が知られている。特許文献1に示す機構では、カテーテルの先端部分の内部に、板状のリードバネを配置し、このリードバネの片面または両面に操作用ワイヤの先端を接続固定してある。そして、操作用ワイヤの後端を引張操作することにより、リードバネ(操作用ワイヤの接続固定位置よりも後端側)を撓ませ、カテーテルの先端の向きを変化させる。
【0004】
また、先端偏向操作可能な電極カテーテルにおいて、先端に固定されている先端電極の脱落を防止するなどの観点から、本出願人は、先端電極に対して板バネ(首振り部材)の先端を連結するとともに、この先端電極に操作用ワイヤの先端を接続固定してある先端偏向操作可能カテーテルを提案している(特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に示す先端偏向操作可能カテーテルによれば、これを構成する先端電極が、カテーテル(チューブ部材)の先端および板バネの先端に連結してあるのみでなく、操作用ワイヤの先端に対しても接続固定してあるため、先端電極の脱落を有効に防止することができる。
【0006】
特許文献2に示す先端偏向操作可能カテーテルにおいて、操作用ワイヤは、カテーテル(チューブ部材)に配置された操作用チューブの内部に軸方向に移動自在に挿通されている(特許文献2の段落0030参照)。
操作用チューブの内部に操作用ワイヤを挿通することにより、操作用ワイヤの移動空間(ルーメン)が確保されるとともに、操作用ワイヤと、導線(樹脂被覆された金属芯線)との接触が回避されるので、操作用ワイヤとの接触・摩擦によって導線の被覆樹脂が剥離すること(導線の絶縁性が損なわれること)を防止することができる。
ここに、操作用チューブは、低摩擦係数のフッ素樹脂、ポリイミド樹脂などにより構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、操作用チューブの構成材料として好適とされるフッ素樹脂やポリイミド樹脂は柔軟性に劣り、これらの樹脂材料により形成されるチューブは撓み抵抗(曲げ抵抗)が高い。
このため、そのような操作用チューブに挿通されている操作用ワイヤを引張操作して、カテーテルの先端部分を撓ませようとするときに、操作用チューブは、撓ませようとするカテーテルの先端部分の形状に追従することができずに折れ曲がり、これにより、カテーテルの先端部分も途中(操作用チューブの折れ曲がりに対応する位置)で折れ曲がって、滑らかなカーブ形状を形成することができないという問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、絶縁性や操作用ワイヤの移動空間の確保など、操作用チューブに要求される性能を充足し、操作用ワイヤの引張操作によって、カテーテルの先端部分を途中で折れ曲がりのない滑らかなカーブ形状に変形することができる先端偏向操作可能カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、操作用ワイヤの引張操作時に撓み抵抗を示す操作用チューブを複数に分割することにより、操作用チューブの撓み抵抗を低下できることを見出し、かかる知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の先端偏向操作可能カテーテルは、先端に可撓部分(以下、「先端可撓部分」という。)を有するカテーテルチューブと、
前記カテーテルチューブの先端に固定された先端電極と、
前記カテーテルチューブの先端可撓部分を撓ませるために、前記カテーテルチューブの内部に延在し、その先端が前記先端電極または前記カテーテルチューブの先端部に接続固定され、その後端を引張操作できる操作用ワイヤと、
前記カテーテルチューブの軸方向に沿って先端可撓部分の内部に配置され、前記操作用ワイヤを軸方向に移動自在に挿通するための空間を有する操作用チューブとを備え、
前記操作用チューブが複数の部分チューブに分割されていることを特徴とする。
【0012】
このような構成の先端偏向操作可能カテーテルによれば、操作用チューブを複数の部分チューブに分割することにより、操作用ワイヤの引張操作時において、操作用チューブの撓み抵抗(撓み形状の外側に発生する引張応力および撓み形状の内側に発生する圧縮応力)を緩和することができる。これにより、複数の部分チューブからなる操作用チューブは、撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に追従することができ、この結果、カテーテルチューブの先端可撓部分を、途中で折れ曲がりのない滑らかなカーブ形状に変形することができる。
【0013】
(2)本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、先端可撓部分を有するカテーテルチューブと、
前記カテーテルチューブの先端に固定された先端電極と、
前記カテーテルチューブの軸方向に沿って少なくとも先端可撓部分の内部に配置され、撓み方向に変形可能な先端側部分を有する首振り用の板バネと、
前記カテーテルチューブの先端可撓部分を第1方向に撓ませるために、前記カテーテルチューブの内部に延在し、その先端が前記先端電極、前記板バネまたは前記カテーテルチューブの先端部に接続固定され、その後端を引張操作できる第1操作用ワイヤと、
前記カテーテルチューブの先端可撓部分を第1方向とは反対側の第2方向に撓ませるために、前記カテーテルチューブの内部に延在し、その先端が前記先端電極、前記板バネまたは前記カテーテルチューブの先端部に接続固定され、その後端を引張操作できる第2操作用ワイヤと、
前記カテーテルチューブの軸方向に沿って先端可撓部分の内部に配置され、前記第1操作用ワイヤを軸方向に移動自在に挿通するための空間を有する第1操作用チューブと、
前記カテーテルチューブの軸方向に沿って先端可撓部分の内部に配置され、前記第2操作用ワイヤを軸方向に移動自在に挿通するための空間を有する第2操作用チューブとを備え、
前記第1操作用チューブおよび前記第2操作用チューブの各々が、複数の部分チューブに分割されていることが好ましい。
【0014】
このような構成の先端偏向操作可能カテーテルによれば、第1操作用ワイヤの引張操作時において、第2操作用チューブを構成する部分チューブが互いの離間距離を広げることによって、第2操作用チューブの撓み抵抗(引張応力)を緩和することができる。これにより、第2操作用チューブは、第1方向に撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に対して確実に追従することができる。
一方、第2操作用ワイヤの引張操作時において、第1操作用チューブを構成する部分チューブが互いの離間距離を広げることにより、第1操作用チューブの撓み抵抗(引張応力)を緩和することができる。これにより、第1操作用チューブは、第2方向に撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に対して確実に追従することができる。
この結果、第1方向および第2方向の何れの方向に撓ませる場合においても、カテーテルチューブの先端可撓部分を途中で折れ曲がりのない滑らかなカーブ形状に変形することができる。
【0015】
(3)本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記操作用チューブ(前記第1操作用チューブおよび前記第2操作用チューブの各々)が、先端側部分チューブと後端側部分チューブとに分割(二分割)されていることが好ましい。
【0016】
(4)上記(3)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記カテーテルチューブが直線状であるときに、前記先端側部分チューブと、前記後端側部分チューブとの離間距離(G)が1〜5mmであることが好ましい。
【0017】
(5)上記(4)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記カテーテルチューブが直線状であるときに、前記先端側部分チューブと、前記後端側部分チューブとの離間距離(G)が2〜4mmであることが好ましい。
【0018】
上記のような構成の先端偏向操作可能カテーテルによれば、第1操作用ワイヤの引張操作時において、第2操作用チューブを構成する先端側部分チューブと、後端側部分チューブとが互いの離間距離を広げることにより、第2操作用チューブの撓み抵抗(引張応力)を緩和することができる。これにより、第2操作用チューブは、第1方向に撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に対して確実に追従することができる。
また、第1操作用チューブを構成する先端側部分チューブと、後端側部分チューブとが、直線状態において一定の離間距離を有しているので、第1操作用ワイヤの引張操作時において、この離間距離を狭めることによって、第1操作用チューブの撓み抵抗(圧縮応力)を緩和することができる。これにより、第1操作用チューブは、第1方向に撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に対して容易に追従することができる。
【0019】
一方、第2操作用ワイヤの引張操作時において、第1操作用チューブを構成する先端側部分チューブと、後端側部分チューブとが互いの離間距離を広げることにより、第1操作用チューブの撓み抵抗(引張応力)を緩和することができる。これにより、第1操作用チューブは、第2方向に撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に対して確実に追従することができる。
また、第2操作用チューブを構成する先端側部分チューブと、後端側部分チューブとが、直線状態において一定の離間距離を有しているので、第2操作用ワイヤの引張操作時において、この離間距離を狭めることによって、第2操作用チューブの撓み抵抗(圧縮応力)を緩和することができる。これにより、第2操作用チューブは、第2方向に撓ませようとする先端可撓部分の形状変化に対して容易に追従することができる。
【0020】
このように、第1方向および第2方向の何れの方向に撓ませる場合においても、撓み形状の外側に位置する操作用チューブの撓み抵抗(撓み形状の外側に発生する引張応力)を緩和することができるので、カテーテルチューブの先端可撓部分を途中で折れ曲がりのない滑らかなカーブ形状に変形することができる。
また、第1操作用チューブおよび第2操作用チューブの各々を構成する先端側部分チューブと後端側部分チューブとが直線状態において一定の離間距離を有しているので、撓み形状の内側に位置する操作用チューブの撓み抵抗(撓み形状の内側に発生する圧縮応力)を緩和することができ、先端可撓部分の形状変化に対する操作用チューブの追従性を更に向上させることができる。
【0021】
(6)上記(3)〜(5)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記先端側部分チューブの長さ(L
1 )が0.5〜12mm、前記後端側部分チューブの長さ(L
2 )が50〜120mm、比〔L
1 /(L
1 +L
2 )〕が0.05〜0.10であることが好ましい。
【0022】
(7)上記(3)〜(5)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記先端側部分チューブの各々は、前記板バネの一面または他面、あるいは、前記カテーテルチューブの内周面に固定され、
前記後端側部分チューブの各々は、前記板バネの一面側または他面側であって、撓み方向に変形可能な先端側部分以外の部分(後端側部分)に固定されていることが好ましい。
【0023】
このような構成の先端偏向操作可能カテーテルによれば、操作用ワイヤの引張操作時において、操作用チューブの形状変化(延いては、先端可撓部分の形状変化)をスムースに行うことができる。
【0024】
(8)本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記操作用チューブ(前記第1操作用チューブおよび前記第2操作用チューブ)は、ポリイミド樹脂から構成されていることが好ましい。
【0025】
(9)また、前記操作用チューブ(前記第1操作用チューブおよび前記第2操作用チューブ)は、樹脂被覆された金属コイルチューブからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルによれば、操作用ワイヤ(第1操作用ワイヤまたは第2操作用ワイヤ)を引張操作することにより、カテーテルの先端可撓部分を、途中で折れ曲がりのない滑らかなカーブ形状に変形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<実施形態>
本発明の一実施形態に係る先端偏向操作可能カテーテルとしての電極カテーテル100は、例えば、心臓における不整脈の診断または治療に用いられるものである。
【0029】
図1乃至
図4に示す本実施形態の電極カテーテル100は、先端可撓部分15を有するカテーテルチューブ10と、カテーテルチューブ10の先端に固定された先端電極20と、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15に装着されたリング状電極22と、カテーテルチューブ10の軸方向に沿って少なくとも先端可撓部分15の内部に配置され、撓み変形可能な先端側部分を有する板バネ50と、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15を第1方向(
図1および
図2において、矢印Aで示す方向)に撓ませるために、カテーテルチューブ10の長さ方向の少なくとも一部(板バネ50が配置された先端可撓部分15の周辺)においてカテーテルチューブ10の中心軸から偏心してカテーテルチューブ10の内部に延在し、その先端が先端電極20に接続固定され、その後端を引張操作できる第1操作用ワイヤ31と、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15を第2方向(
図1および
図2において、矢印Bで示す方向)に撓ませるために、先端可撓部分15の周辺において板バネ50を挟んで第1操作用ワイヤ31と対向するようにカテーテルチューブ10の内部に延在し、その先端が先端電極20に接続固定され、その後端を引張操作できる第2操作用ワイヤ32と、カテーテルチューブ10の軸方向に沿って先端可撓部分15の内部に配置され、第1操作用ワイヤ31を軸方向に移動自在に挿通するための空間を有する第1操作用チューブ41と、カテーテルチューブ10の軸方向に沿って先端可撓部分15の内部に配置され、第2操作用ワイヤ32を軸方向に移動自在に挿通するための空間を有する第2操作用チューブ42とを備え、第1操作用チューブ41が、先端側部分チューブ411と後端側部分チューブ412とに分割され、第2操作用チューブ42が、先端側部分チューブ421と後端側部分チューブ422とに分割されている電極カテーテルである。
【0030】
図1に示すように、電極カテーテル100は、カテーテルチューブ10と、その先端に固定された先端電極20と、カテーテルチューブ10の先端可撓部分に装着されたリング状電極22と、カテーテルチューブ10の後端に装着された制御ハンドル70とを備えている。
【0031】
カテーテルチューブ10の先端領域は先端可撓部分15となっている。ここに、「先端可撓部分」とは、操作用ワイヤ(第1操作用ワイヤまたは第2操作用ワイヤ)を引っ張ることによって撓む(曲がる)ことのできるカテーテルチューブの先端部分をいう。
【0032】
カテーテルチューブ10の後端には制御ハンドル70が装着されている。制御ハンドル70内には、複数の端子を備えたコネクタ(図示省略)が設けられ、このコネクタの端子には、先端電極20およびリング状電極22の各々に接続された導線(図示省略)が接続される。
また、制御ハンドル70には、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15の首振り操作を行うための摘み75が装着してある。
【0033】
カテーテルチューブ10は、中空のチューブ部材で構成してあり、軸方向に沿って同じ特性のチューブで構成してもよいが、比較的可撓性に優れた遠位端部分と、遠位端部分に対して軸方向に一体に形成され、遠位端部分よりも比較的に剛性のある近位端部分とを有していることが好ましい。
カテーテルチューブ10は、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂により構成される。
【0034】
カテーテルチューブ10の外径は、通常0.6〜3mmとされ、好ましくは1.3〜3mm、好適な一例を示せば2.4mmとされる。
カテーテルチューブ10の内径は、通常0.5〜2.5mmとされ、好ましくは1.2〜2.0mm、好適な一例を示せば1.5mmとされる。
カテーテルチューブ10の長さは、通常400〜1500mmとされ、好ましくは700〜1200mmとされる。
先端可撓部分15の長さ(
図2において[L
15]で示す屈曲長さ)は、例えば30〜200mmとされ、好適な一例を示せば70mmである。
【0035】
カテーテルチューブ10の先端(遠位端)には先端電極20が固定されている。また、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15にはリング状電極22が装着されていている。先端電極20およびリング状電極22の固定方法としては特に限定されるものではなく、例えば接着などの方法を挙げることができる。
【0036】
先端電極20およびリング状電極22は、例えばアルミニウム、銅、ステンレス、金、白金など、電気伝導性の良好な金属で構成される。なお、X線に対する造影性を良好に持たせるためには、白金などで構成されることが好ましい。
先端電極20およびリング状電極22の外径としては特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましい。
【0037】
図2および
図3に示すように、カテーテルチューブ10の少なくとも先端可撓部分15の内部には、首振り部材としての板バネ50が配置してあり、板バネ50の先端は、先端電極20の内側凹部に充填してあるハンダ60により、先端電極20に対して接続固定してある。板バネ50の後端は、カテーテルチューブ10の内部において、後述するコイルチューブ54の先端部に接続固定してある。
【0038】
また、板バネ50の後端側部分の片面には、先端に向けて幅が狭くなる三角形状の補強板55が連結してある。
板バネ50のうち、補強板55が連結された後端側部分は、その撓み変形が抑制される。
【0039】
板バネ50および補強板55の材質は、特に限定されず、例えばステンレス、ニッケルチタン合金、コバルトニッケル合金、フッ素樹脂やポリアミド樹脂等の高分子材料などで構成される。板バネ50の軸方向長さは、特に限定されず、例えば40〜300mmである。板バネ50の幅は、カテーテルチューブ10の内部に収まる程度であれば特に限定されない。
【0040】
図2および
図3に示すように、本実施形態の電極カテーテル100は、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15を第1方向(矢印Aで示す方向)に撓ませるための第1操作用ワイヤ31と、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15を第2方向(矢印Bで示す方向)に撓ませるための第2操作用ワイヤ32を備えている。
第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の各先端には、抜け止め用大径部(抜け止め部311,321)が形成されている。
【0041】
図2乃至
図4に示すように、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の先端は、先端電極20の内側凹部に充填されたハンダ60の内部で、板バネ50を挟んで両側位置に板バネ50から離れて配置され、抜け止め部311,321によってハンダ60に対して抜け止めされている。
【0042】
また、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の後端は、制御ハンドル70の摘み75に接続されることによって引張操作可能になっている。
これにより、摘み75を
図1に示すA1方向に回転させると、第1操作用ワイヤ31が引っ張られ(第1操作用チューブ41内を後端側に移動し)、補強板55が連結されていない板バネ50の先端側部分が第1方向(矢印Aで示す方向)に撓み、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15が同方向に撓んで、その形状が連続的に変化する。
また、摘み75を
図1に示すB1方向に回転させると、第2操作用ワイヤ32が引っ張られ(第2操作用チューブ42内を後端側に移動し)、補強板55が連結されていない板バネ50の先端側部分が第2方向(矢印Bで示す方向)に撓み、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15が同方向に撓んで、その形状が連続的に変化する。
そして、コネクタ70を軸回りに回転させれば、体腔内に挿入された状態で、カテーテル100に対する第1方向および第2方向の向きを自由に設定することができる。
【0043】
第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の構成材料としては、例えばステンレスやNi−Ti系超弾性合金などの金属を挙げることができる。
第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の外径としては特に限定されるものではないが、0.10〜0.30mmであることが好ましく、更に好ましくは0.21〜0.28mm、好適な一例を示せば0.26mmである。
【0044】
板バネ50、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の各々を先端電極20に接続固定するためのハンダ60の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、Sn−Pbが一般的に用いられるが、Sn−Pb−AgやSn−Pb−Cuが用いられてよく、更にPbフリーのSn−Ag−Cu、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu−Biなどを用いることができる。
【0045】
本実施形態の電極カテーテル100を構成する先端電極20は、カテーテルチューブ10および板バネ50の先端に接続固定してあるのみでなく、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の先端に対しても接続固定してあるので、カテーテルチューブ10の先端と先端電極20との接続固定が外れた場合であっても、先端電極20の脱落を防止することができる。
【0046】
図2および
図3に示すように、先端可撓部分15の後端側におけるカテーテルチューブ10の内部にはコイルチューブ54が装着されている。
このコイルチューブ54は、断面平角または円形の線材をコイル状に巻回してチューブを構成してあり、第1操作用ワイヤ31または第2操作用ワイヤ32に作用する引張力の反力を受けるようになっている。
これにより、第1操作用ワイヤ31または第2操作用ワイヤ32に引張力を作用させたときに、当該コイルチューブ54が装着されているカテーテルチューブ10の部分(先端可撓部分15を除いた部分)が撓むことを抑制することができる。
換言すれば、このコイルチューブ54を存在させないことにより、撓む(曲がる)ことのできる先端可撓部分15が構成されている。
【0047】
図2および
図3に示すように、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15の内部には、第1操作用ワイヤ31の挿通空間(移動空間)を確保する第1操作用チューブ41と、第2操作用ワイヤ32の挿通空間(移動空間)を確保する第2操作用チューブ42とを備えている。
すなわち、第1操作用ワイヤ31は、第1操作用チューブ41の内部において軸方向に移動可能に挿通され、第2操作用ワイヤ32は、第2操作用チューブ42の内部において軸方向に移動可能に挿通されている。
【0048】
第1操作用チューブ41および第2操作用チューブ42は、PTFEなどのフッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの樹脂材料からなる。
ここに、絶縁性に優れた薄肉のチューブを形成できる観点から、ポリイミド樹脂を使用することが好ましい。
【0049】
また、第1操作用チューブ41および第2操作用チューブ42として、上記の樹脂材料によって金属コイルチューブの外周および内周を被覆してなるものを好適に使用することができる。
このような樹脂被覆されたコイルチューブによれば、操作用チューブとして十分な強度を確保することができるとともに、樹脂材料のみからなるチューブより滑らかなカーブを形成することが可能になる。
なお、好適なコイルチューブとして、金属コイルチューブの外周をポリイミド樹脂で被覆し、その内周をフッ素樹脂で被覆したものを挙げることができる。
【0050】
第1操作用チューブ41および第2操作用チューブ42の内径としては、操作用ワイヤ(第1操作用ワイヤ31または第2操作用ワイヤ32)の外径よりも僅かに大きく、その肉厚は、特に限定されないが、0.03〜0.10mmであることが好ましく、更に好ましくは0.04〜0.07mm、好適な一例を示せば0.05mmである。
【0051】
本実施形態の電極カテーテル100では、第1操作用ワイヤ31が挿通される第1操作用チューブ41が先端側部分チューブ411と後端側部分チューブ412とに分割され、第2操作用ワイヤ32が挿通される第2操作用チューブ42が先端側部分チューブ421と後端側部分チューブ422とに分割されている点に特徴を有するものである。
【0052】
先端側部分チューブ411および先端側部分チューブ421の長さ(L
1 )としては、0.5〜12mmであることが好ましく、更に好ましくは5〜10mm、好適な一例を示せば6mmである。
【0053】
また、後端側部分チューブ412および後端側部分チューブ422の長さ(L
2 )としては、50〜120mmであることが好ましく、更に好ましくは60〜100mm、好適な一例を示せば78mmである。
【0054】
長さ(L
1 )が過大または過小である〔長さ(L
2 )が過小または過大である〕場合には、操作用チューブを分割することによる後述する作用効果(操作用チューブの撓み抵抗の緩和効果)を十分に発揮することができない。
【0055】
また、比〔L
1 /(L
1 +L
2 )〕が0.01〜0.10であることが好ましく、更に好ましくは0.05〜0.09、好適な一例を示せば0.07である。
比〔L
1 /(L
1 +L
2 )〕が0.01未満である場合には、操作用ワイヤによって先端可撓部分15をカーブさせたときに、操作用チューブの分割点における曲率が過小となる(ストレート部分に近い位置に分割点が位置する)ため、操作用チューブを分割することによる効果を十分に発揮することができない。
一方、比〔L
1 /(L
1 +L
2 )〕が0.10を超える場合には、操作用ワイヤによって先端可撓部分15をカーブさせたときに、操作用チューブの分割点における曲率が過大となる(例えば、カーブの中間点に分割点が位置する)場合があり、分割点における曲率が過大である場合には、この分割点から折れ曲がることがある。
【0056】
また、電極カテーテル100を構成するカテーテルチューブ10が直線状であるときに、先端側部分チューブ411(先端側部分チューブ421)と、後端側部分チューブ412(後端側部分チューブ422)との離間距離(G)は、通常0〜10mmとされ、好ましくは1〜5mm、更に好ましくは2〜4mm、好適な一例を示せば3mmである。
【0057】
直線状態における部分チューブ間の離間距離(G)が10mm以下、更に5mm以下、特に4mm以下であることにより、そのような部分チューブによる操作用チューブの内部に挿通される操作用ワイヤと、導線(先端電極20またはリング状電極22に接続されている樹脂被覆金属芯線)との接触・摩擦を十分に回避することができるので、操作用ワイヤとの摩擦によって導線の被覆樹脂が剥離することを有効に防止することができ、良好な絶縁性を維持することができる。
【0058】
一方、直線状態において、この離間距離(G)が0mmである(先端側部分チューブの後端と、後端側部分チューブの先端とが当接している)ものであっても、本発明の範囲に包含されるが、操作用ワイヤ(例えば第1操作用ワイヤ31)の引張操作によって先端可撓部分15をカーブ(例えば、第1方向にカーブ)させたとき、カーブ形状の内側に位置する操作用チューブ(例えば第1操作用チューブ41)を構成する2つの部分チューブの端面(例えば、先端側部分チューブ411の後端面と、後端側部分チューブ412の先端面)が互いに押し合う(干渉する)ことにより撓み抵抗を生じる場合がある。
【0059】
そこで、カテーテルチューブ10が直線状であるときに、先端側部分チューブと、後端側部分チューブとの間に一定の離間距離(G)を確保して、操作用ワイヤの引張操作時に、カーブ形状の内側にある操作用チューブを構成する2つの部分チューブの端面同士を接触させないようにすることにより、端面同士が押し合う(干渉する)ことによる撓み抵抗(圧縮応力)の発生を回避することができ、これにより、先端可撓部分15の形状変化に対する操作用チューブの追従性を更に向上させることができる。
【0060】
ここに、先端可撓部分15を撓ませたときに、カーブ形状の内側にある操作用チューブにおける2つの部分チューブの端面同士を接触させないという観点から、離間距離(G)は1mm以上であることが好ましく、更に好ましくは2mm以上である。
【0061】
図2に示したように、先端側部分チューブ411および先端側部分チューブ421は、カテーテルチューブ10の内周面に接着層81を介して固定されている。
一方、後端側部分チューブ412は、接着層82を介して、板バネ50の一面に固定され、後端側部分チューブ422は、接着層82を介して、板バネ50の他面および補強板55の表面に固定されている。
ここに、後端側部分チューブ412および後端側部分チューブ422は、何れも、撓み変形が抑制されている板バネ50の後端側部分(補助板55が固定されている部分)において接着固定されており、撓み変形可能な板バネ50の先端側部分に対しては固定されていない。このように、撓み変形可能な板バネ50の先端側部分に後端側部分チューブ412および後端側部分チューブ422を固定しない(後端側部分チューブの先端側をフリーにする)ことにより、操作用チューブの形状変化(延いては、先端可撓部分の形状変化)をスムースに行うことができる。
【0062】
図5に示すように、制御ハンドル70の摘み75をA1方向に回転させて、第1操作用ワイヤ31を引張操作し、本実施形態の電極カテーテル100の先端可撓部分15を第1方向に撓ませたときには、
図6に示すように、先端可撓部分15の内部において、カーブ形状の外側に位置する第2操作用チューブ42を構成する先端側部分チューブ421と、後端側部分チューブ422とが、互いの離間距離を広げる(
図6において、離間距離が(G)から(G
2 )に広がる)ことにより、第2操作用チューブ42の撓み抵抗(引張応力)を緩和することができる。これにより、第2操作用チューブ42は、第1方向に撓ませようとする先端可撓部分15の形状変化に対して確実に追従することができる。
【0063】
また、カーブ形状の内側に位置する第1操作用チューブ41を構成する先端側部分チューブ411と、後端側部分チューブ412とが、直線状態において一定の離間距離(G)を有しているので、第1操作用ワイヤ31の引張操作時において、先端側部分チューブ411の後端面と、後端側部分チューブ412の先端面とが互いに押し合う(干渉する)ことなく、この離間距離を狭める(
図6において、離間距離が(G)から(G
1 )に狭まる)ことにより、第1操作用チューブ41の撓み抵抗(圧縮応力)を緩和することができる。これにより、第1操作用チューブ41は、第1方向に撓ませようとする先端可撓部分15の形状変化に対して容易に追従することができる。
【0064】
同様に、制御ハンドル70の摘み75をB1方向に回転させて第2操作用ワイヤ32を引張操作し、本実施形態の電極カテーテル100の先端可撓部分15を第2方向に撓ませたときには、先端可撓部分15の内部において、カーブ形状の外側に位置する第1操作用チューブ41を構成する先端側部分チューブ411と、後端側部分チューブ412とが互いの離間距離を広げることにより、第1操作用チューブ41の撓み抵抗(引張応力)を緩和することができる。これにより、第1操作用チューブ41は、第2方向に撓ませようとする先端可撓部分15の形状変化に対して確実に追従することができる。
【0065】
また、カーブ形状の内側に位置する第2操作用チューブ42を構成する先端側部分チューブ421と、後端側部分チューブ422とが、直線状態において一定の離間距離(G)を有しているので、第2操作用ワイヤ32の引張操作時において、先端側部分チューブ421の後端面と、後端側部分チューブ422の先端面とが互いに押し合う(干渉する)ことなく、この離間距離を狭めることにより、第2操作用チューブ42の撓み抵抗(圧縮応力)を緩和することができる。これにより、第2操作用チューブ42は、第2方向に撓ませようとする先端可撓部分15の形状変化に対して容易に追従することができる。
【0066】
このように、カテーテルチューブ10の先端可撓部分15を、第1方向および第2方向の何れの方向に撓ませる場合においても、カーブ形状の外側に位置する操作用チューブの撓み抵抗(カーブ形状の外側に発生する引張応力)を緩和することができるので、先端可撓部分15を途中で折れ曲がりのない滑らかなカーブ形状に変形することができる。
また、先端側部分チューブ411(421)と後端側部分チューブ412(422)とが直線状態において一定の離間距離(G)を有しているので、カーブ形状の内側に位置する操作用チューブの撓み抵抗(圧縮応力)を緩和することができ、先端可撓部分15の形状変化に対する操作用チューブ(第1操作用チューブ41および第2操作用チューブ42)の追従性を更に向上させることができる。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものでなく、種々の変更が可能である。
例えば、先端側部分チューブを板バネに接着固定してもよく、後端側部分チューブを、カテーテルチューブの内周面に接着固定してもよい。
また、操作用チューブの各々を構成する部分チューブは2本(分割点=1)ではなく、3本(分割点=2)またはそれ以上であってもよい。