(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787406
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】物質変換方法、バイオリアクタの製造方法、バイオリアクタ
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20150910BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20150910BHJP
C12M 1/14 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C12M1/00 D
C12M1/14
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-38438(P2012-38438)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-172662(P2013-172662A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年11月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 日本生物高分子学会主催の「日本生物高分子学会2011年度大会」(平成23年9月16日〜17日)の講演要旨集第48頁(平成23年9月1日発行)に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年9月16日に、日本生物高分子学会主催の「日本生物高分子学会2011年度大会」の一般講演において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年9月16日に、日本生物高分子学会主催の「日本生物高分子学会2011年度大会」のシンポジウムにおいて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】小田 忍
(72)【発明者】
【氏名】堀邊 英夫
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−029251(JP,A)
【文献】
特開昭58−031987(JP,A)
【文献】
特開昭64−039983(JP,A)
【文献】
特開平11−164682(JP,A)
【文献】
特開2000−354486(JP,A)
【文献】
特開2004−129572(JP,A)
【文献】
特開平05−041984(JP,A)
【文献】
特開昭62−215384(JP,A)
【文献】
Journal of Bioscience and Bioengineering,2010, Vol.109, No.3, pp.224-226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−1/38
C12M 1/00−3/10
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽に、親水性の基質を含む水溶液と、前記水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、前記第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、前記水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子を含む複合層を形成するステップと、
前記複合層中の糸状菌を生体触媒として、前記親水性の基質を反応させるステップと、を含み、
前記第2の合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含み、平均粒径が10μm〜500μm、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とする物質変換方法。
【請求項2】
前記第1の合成高分子微粒子は、中空構造を有することを特徴とする請求項1に記載の物質変換方法。
【請求項3】
疎水性の有機溶媒を含む有機層を、前記複合層の液面に重層するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の物質変換方法。
【請求項4】
前記疎水性の有機溶媒が、炭素数6以上18以下の直鎖状または分岐状パラフィン類、粘度2cP以下の疎水性シリコンオイル、炭素数10以上18以下の脂肪族エーテル類およびエステル類から選択されることを特徴とする請求項3に記載の物質変換方法。
【請求項5】
前記親水性の基質が前記糸状菌により親水性の化合物に変換されて、当該化合物が前記水層に蓄積されることを特徴とする請求項1または2に記載の物質変換方法。
【請求項6】
前記親水性の基質が前記糸状菌により疎水性の化合物に変換されて、当該化合物が前記有機層に蓄積されることを特徴とする請求項3または4に記載の物質変換方法。
【請求項7】
培養槽に、水溶液と、前記水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、前記第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、前記水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合層を形成するステップと、
疎水性の基質および疎水性の有機溶媒を含む有機層を、前記複合層の上面に重層するステップと、
前記複合層中の糸状菌を生体触媒として、前記疎水性の基質を反応させるステップと、を含み、
前記第2の合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含み、平均粒径が10μm〜500μm、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とする物質変換方法。
【請求項8】
前記疎水性の基質が前記糸状菌により親水性の化合物に変換されて、当該化合物が前記水層に蓄積されることを特徴とする請求項7に記載の物質変換方法。
【請求項9】
前記疎水性の基質が前記糸状菌により疎水性の化合物に変換されて、当該化合物が前記有機層に蓄積されることを特徴とする請求項7に記載の物質変換方法。
【請求項10】
培養槽に、親水性の基質を含む水溶液と、前記水溶液よりも比重の小さい合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、前記水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/合成高分子微粒子の複合層を形成するステップと、
前記複合層中の糸状菌を生体触媒として、前記親水性の基質を反応させるステップと、を含み、
前記合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含み、平均粒径が10μm〜500μm、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とする物質変換方法。
【請求項11】
培養槽に、水溶液と、前記水溶液よりも比重の小さい合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、前記水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/合成高分子微粒子の複合層を形成するステップと、
疎水性の基質および有機溶媒を含む有機層を、前記複合層の上面に重層するステップと、
前記複合層中の糸状菌を生体触媒として、前記疎水性の基質を反応させるステップと、を含み、
前記合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含み、平均粒径が10μm〜500μm、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とする物質変換方法。
【請求項12】
培養槽に、水溶液と、糸状菌と、前記水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、前記第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、を添加し、前記水溶液の水面に糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成するステップを含み、
前記第2の合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含み、平均粒径が10μm〜500μm、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とするバイオリアクタの製造方法。
【請求項13】
培養槽と、
前記培養槽に収容された水溶液と、
前記水溶液の液面に形成された複合マットと、を備え、
前記複合マットは、
糸状菌と、
前記水溶液よりも比重が小さい第1の合成高分子微粒子と、
前記第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、を含み、
前記複合マットは、前記第1の合成高分子微粒子と、前記糸状菌および前記第2の合成高分子微粒子とが複合体となることにより、前記水溶液の液面に形成され、
前記第2の合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含み、平均粒径が10μm〜500μm、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とするバイオリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌を用いて物質変換を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アスペルギルス(Aspergillus)属あるいはペニシリウム(Penicillium)属に代表される糸状菌は、古来より醤油や味噌、酒類やチーズ等の食品の製造に欠くことのできない重要な微生物である。また、ゲノムサイズが大きく、属種の多様性が非常に大きい糸状菌は、上記の食品産業以外にも、抗生物質や抗脂血症治療薬原料等の医薬品原料、香料等の化粧品原料、あるいは難分解性の有害物質の分解除去等、多岐にわたる産業分野で利用可能な有用微生物群である。
【0003】
しかしながら、自然界において通常固体の表面に付着した状態で増殖する糸状菌を液体培養法を用いて培養する場合、その形態をうまく制御することが非常に困難となる。糸状菌の菌形態には、ペレット状、フィラメント状、およびアグリゲート状等がある。これらのうち、前二者が物質生産に適した菌形態であるが、どちらがより好適であるかは菌種や標的とする生成物によって異なる。例えば、アスペルギルス・ニガー(A.niger)によるペクチナーゼの生産や、リゾプス・アーヒザス(Rhizopus arrhizus)によるフマル酸の生産には、フィラメント状の菌形態が適している。一方、アスペルギルス・ニガー(A.niger)によるクエン酸の生産や、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)によるセルラーゼの生産には、ペレット状の菌形態が適している(非特許文献1)。
【0004】
菌形態がフィラメント状に制御された場合には培養液粘度の著しい上昇が生じるため、酸素や生成物の拡散障害や発酵熱の蓄熱が問題となる(非特許文献2)。また、強撹拌によって糸状菌の遊離菌糸が損傷を受けることも深刻な問題である(非特許文献3)。
【0005】
一方、菌形態がペレット状に制御できた場合には、フィラメント状形態の場合に見られる培養液粘度の上昇は生じない。そのため、培養を安定的に推移させることができる(非特許文献4)。しかしながら、ペレットが大きくなり粒径が2μmを超えると、ペレット内部での酸素や栄養源の欠乏が顕著になるため、ペレット内部の糸状菌細胞が死滅する(非特許文献5)。従って、ペレット状、あるいはフィラメント状に菌形態を制御するという問題以前に、細菌や酵母の液体培養とは異質な、糸状菌の液体培養に特有の問題が存在すると考えられる。
【0006】
上記の液体培養法とは異なる糸状菌の培養法として、固体培養法、液面培養法、膜面液体培養法、固/液界面培養法等のいくつかの手法が提案されている。
【0007】
固体培養法とは、農産(廃棄物)あるいはポリウレタンフォームのような不活性担体を固体基質として用い、その表面に糸状菌を増殖させて物質生産に利用する手法である(非特許文献6)。固体培養法は液体培養法と比較して、標的物質の生産性が高い、生産された標的酵素のプロテアーゼによる分解を受け難い、エネルギー消費が低い、製造設備が安価である、あるいはカタボライト抑制を受け難いなど、いくつかの長所がある(非特許文献7)。しかし固体培養法では、固体基質ベッド内部における低水分活性、低酸素濃度、低物質拡散速度、あるいは蓄熱の問題などが生じる上に、製造設備のスケールアップにも難点がある(非特許文献8)。
【0008】
液面培養法とは、液体培地液面に自然に形成された糸状菌マットを物質生産に利用する方法である。液面培養法を用いると、標的物質の生産性が液体培養を凌ぐ場合がある(非特許文献9)。しかしながら、液面に十分量の糸状菌マットを形成させるためには長期間を要するうえに、形成された糸状菌マットは非常に脆弱である。そのため、液面培養法を大規模な物質生産に適用するのは困難であった。
【0009】
膜面液体培養法とは、液体培地液面に多孔性の高分子膜を設置し、その膜面に糸状菌を増殖させる方法である。膜面液体培養法は、優れた発酵生産能を示すことが報告されている(非特許文献10)。しかしこの手法にも、糸状菌の栄養菌糸による多孔性高分子膜細孔の閉塞や、スケールアップ困難などの問題点があった。
【0010】
固/液界面培養法とは、栄養寒天平板のような親水性担体とパラフィンのような低毒性の疎水性の有機溶媒との固/液界面に微生物を増殖させる方法である。固/液界面培養法では、疎水性有機層中に添加した脂溶性(疎水性)の基質の毒性を著しく回避することができる(非特許文献11)。固/液界面培養法を微生物を用いた物質変換に適用した場合、液体培養法と比較して著しく高い基質添加量と産物蓄積量が達成される(非特許文献12)。しかしながら、この手法にも、担体中に蓄積する副生物(有機酸等)の毒性発現やpHの低下(非特許文献13)、あるいは担体中への栄養源の追加不能といった問題点が認められていた(非特許文献14)。
【0011】
これら種々の糸状菌の培養や利用法に関する問題点を調和的に克服し得るシステムとして、本発明者らは糸状菌を培養し利用するシステムを提案してきた。これらのシステムでは、ポリアクリロニトリル製で中空構造を有する合成高分子微粒子(以下、中空型合成高分子微粒子ともいう)の速やかな液面への浮上性を利用して、培地中に懸濁させた糸状菌細胞を液面に形成された中空型合成高分子微粒子層中にトラップさせ、所定時間の前培養によって糸状菌と中空型合成高分子微粒子の複合マットを形成させる(特許文献1、2)。この複合マットを利用して、液体培地中の栄養源から水溶性の二次代謝物や酵素を生産し、液体培地中に高濃度で蓄積させるシステムが、液面固定化(LSI)システムである(特許文献3、非特許文献15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】増田俊明ら、特開2009?113037号公報
【特許文献2】野村貫通ら、特開2011?256224号公報
【特許文献3】小田忍、熊谷博行、特開2008?29251号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Znisarsic,P.,Pavko,A.,Food Technol. Biotechnol.,39:237(2001)
【非特許文献2】Johansen,C.L.,et al.,Biotechnol.Prog.,14:233(1998)
【非特許文献3】Gervais,P.,Molin,P.,Biochem.Eng.J.,13:85(2003)
【非特許文献4】Hosobuchi,M.,et al.,J.Ferment.Bioeng.,76:470(1993)
【非特許文献5】Xu,J.,et al.,Biotechnol.Prog.,16:222(2000)
【非特許文献6】Holker,U.,et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,64:175(2004)
【非特許文献7】Mahadik,N.D.,et al.,Process Biochem.,38:715(2002)
【非特許文献8】Gelmi,C.,et al.,Process Biochem.,35:1227(2000)
【非特許文献9】Ciegler,A.,et al.,Appl.Environ.Microbiol.,39:285(1980)
【非特許文献10】Ogawa,A.,et al.,J.Ferment.Bioeng.,80:35(1995)
【非特許文献11】Oda,S.,Ohta,H.,Biosci.Biotech.Bicohem.,56:1515(1992)
【非特許文献12】Oda,S,Ohta,H.,Biosci.Biotech.Biochem.,56:2041(1992)
【非特許文献13】Oda,S.,et al.,J.Biosci.Bioeng.,91:178(2001)
【非特許文献14】Oda,S.,et al.,J.Biosci.Bioeng.,87:473(1999)
【非特許文献15】Oda,S.,Isshiki,K.,Process Biochem.,42:1553(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したLSIシステムを含む糸状菌の培養システムでは、生成物の生産率のさらなる向上が望まれている。筆者らは、これらの糸状菌の培養システムにおいて汎用性および生産率をさらに向上させるために、空気/液体培地の表面や、疎水性の有機溶媒/液体培地の界面の物性、例えば、親水/疎水バランスや荷電状態に改善の余地を見出した。
【0015】
本発明はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、糸状菌を生体触媒として、基質を効率良く物質変換する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の物質変換方法は、培養槽に、親水性の基質を含む水溶液と、水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子を含む複合層を形成するステップと、複合層中の糸状菌を生体触媒として、親水性の基質を反応させるステップと、を含む。なお、本明細書中で物質変換とは、糸状菌を生体触媒として、基質を別の物質に変換することをいう。具体的には、たとえば栄養源でもあるグルコースを基質として用いて、代謝によりクエン酸に変換することをいう。
【0017】
この態様によると、糸状菌を生体触媒として、基質を効率良く物質変換することができる。また、液体培養法とは異なり、カタボライト抑制と標的酵素のプロテアーゼによる分解の両問題を効果的に回避することができる。物質変換に最適な親水/疎水バランスや荷電状態は、使用する糸状菌、発酵および微生物変換反応の種類によって大きく異なることが想定される。しかし、たとえば第2の合成高分子を粉砕および分級することによって、第2の合成高分子微粒子の粒径を任意に設定して任意の割合で混合すれば、液体培地の液面に形成される高分子微粒子層の荷電状態を任意に変動させることができる。そのため、本実施の形態の物質変換方法を用いれば、糸状菌や発酵および微生物変換反応の種類に応じたオーダーメイドな物質変換を容易に行うことができる。
【0018】
物質変換方法において、第1の合成高分子微粒子は、中空構造を有してもよい。この態様によると、より安定して複合層を形成させることができる。
【0019】
物質変換方法において、第2の合成高分子微粒子は、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、およびポリ塩化ビニルの少なくとも1つを含んでもよい。この態様によると、物質変換の効率を高めることができる。
【0020】
物質変換方法において、第2の合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂を含んでもよい。この態様によると、物質変換の効率を高めることができる。
【0021】
物質変換方法において、第2の合成高分子微粒子は、平均粒径が10μm〜500μm、真比重が0.07〜1.30、水の接触角が75°以上、総イオン交換容量が1.0
meq/g以上であってもよい。この態様によると、物質変換の効率をさらに高めることができる。
【0022】
物質変換方法において、疎水性の有機溶媒を含む有機層を、複合層の液面に重層するステップをさらに含んでもよい。この態様によると、疎水性の基質を物質変換させることができる。
【0023】
物質変換方法において、疎水性の有機溶媒が、炭素数6以上18以下の直鎖状または分岐状パラフィン類、粘度2cP以下の疎水性シリコンオイル、炭素数10以上18以下の脂肪族エーテル類およびエステル類から選択されてもよい。この態様によると、有機溶媒が糸状菌の成長に及ぼす影響を抑止し、物質変換の効率を高めることができる。
【0024】
物質変換方法において、親水性の基質が糸状菌により親水性の化合物に変換されて、当該化合物が水層に蓄積されてもよい。この態様によると、親水性の基質を用いて物質変換により親水性の生成物を得ることができる。
【0025】
物質変換方法において、親水性の基質が糸状菌により疎水性の化合物に変換されて、当該化合物が有機層に蓄積されてもよい。この態様によると、親水性の基質を用いて物質変換により疎水性の生成物を得ることができる。
【0026】
本発明の別の態様も、物質変換方法である。この物質変換方法は、培養槽に、水溶液と、水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合層を形成するステップと、疎水性の基質および疎水性の有機溶媒を含む有機層を、複合層の上面に重層するステップと、複合層中の糸状菌を生体触媒として、疎水性の基質を反応させるステップと、を含む。
【0027】
本発明の別の態様も、物質変換方法である。この物質変換方法は、培養槽に、親水性の基質を含む水溶液と、水溶液よりも比重の小さい合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/合成高分子微粒子の複合層を形成するステップと、複合層中の糸状菌を生体触媒として、親水性の基質を反応させるステップと、を含む。合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、またはポリ塩化ビニルの少なくとも1つを含む。
【0028】
本発明の別の態様も、物質変換方法である。この物質変換方法は、培養槽に、水溶液と、水溶液よりも比重の小さい合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、水溶液から形成される水層の液面に、糸状菌/合成高分子微粒子の複合層を形成するステップと、疎水性の基質および有機溶媒を含む有機層を、複合層の上面に重層するステップと、複合層中の糸状菌を生体触媒として、疎水性の基質を反応させるステップと、を含む。合成高分子微粒子は、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、三級アミノ基を陰イオン交換基として有するアニオン交換樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、またはポリ塩化ビニルの少なくとも1つを含む。
【0029】
本発明の別の態様は、バイオリアクタの製造方法である。このバイオリアクタの製造方法は、培養槽に、水溶液と、糸状菌と、水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、を添加し、水溶液の水面に糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成するステップを含む。
【0030】
本発明の別の態様は、バイオリアクタである。このバイオリアクタは、培養槽と、培養槽に収容された水溶液と、水溶液の液面に形成された複合マットと、を備える。複合マットは、糸状菌と、水溶液よりも比重が小さい第1の合成高分子微粒子と、第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、を含む。複合マットは、第1の合成高分子微粒子と、糸状菌および第2の合成高分子微粒子とが複合体となることにより、水溶液の液面に形成される。
【0031】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、基質を効率良く物質変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
図1(A)は、第1の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
図1(B)は、第2の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
図1(C)は、第3の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
図1(D)は、第4の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
【
図2】物質変換により生成した化合物の量を示すグラフである。
図2(A)は、実施例1および比較例1の実験において、物質変換により生成した化合物の量を示すグラフである。
図2(B)は、実施例2および比較例2の実験において、物質変換により生成した化合物の量を示すグラフである。
図2(C)は、実施例3および比較例3の実験において、物質変換により生成した化合物の量を示すグラフである。
図2(D)は、実施例4および比較例4の実験において、物質変換により生成した化合物の量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において重複する説明は適宜省略する。
【0035】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の物質変換方法は、培養槽12に、親水性の基質を含む水溶液と、水溶液よりも比重の小さい第1の合成高分子微粒子と、第1の合成高分子微粒子とは疎水度およびゼータ電位の少なくとも一方が異なる第2の合成高分子微粒子と、糸状菌と、を添加し、水溶液から形成される水層20の液面に、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子を含む複合層30を形成するステップと、複合層30中の糸状菌を生体触媒として、親水性の基質を反応させるステップと、を含む。
【0036】
図1(A)は、第1の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
【0037】
本物質変換方法では、バイオリアクタ10を使用する。バイオリアクタ10は、培養槽12と、水層20と、複合層30とを含む。培養槽12は、糸状菌を培養して物質変換を行うための培養反応器である。水層20は、水と糸状菌に供給される栄養源とを含む水溶液である液体培地から形成される。また、本実施の形態では、水層20は糸状菌を生体触媒として物質変換される親水性の基質Xも含む。親水性の基質Xは、栄養源自体であってもよい。複合層30は、糸状菌と、第1の合成高分子微粒子と、第2の合成高分子微粒子とから形成されたマット状の複合体である。第1の合成高分子微粒子は、水溶液よりも比重が小さく、糸状菌および第2の合成高分子微粒子と複合体を形成することにより、糸状菌を水溶液の液面に浮かせることができる。本明細書中で比重とは、中空構造を有する微粒子の場合にはその内部に含まれる気体も考慮した値をいう。一方、真比重とは、微粒子を粉末にした場合の比重、つまり内部に含まれる気体を考慮しない値をいう。また、第2の合成高分子微粒子は、第1の合成高分子微粒子とは疎水性の程度(以下、疎水度)および荷電状態の少なくとも一方が異なる。本明細書中で荷電状態が異なるとは、具体的にはゼータ電位が異なることをいう。ゼータ電位の測定には、たとえばゼータ電位・粒径測定システム(ELSZ−2、大塚電子株式会社)を用いることができる。
【0038】
次に、バイオリアクタ10の製造方法を説明する。本実施の形態では、まず第1の合成高分子微粒子と第2の合成高分子微粒子とを培養槽12中にて任意の割合にて混合し、得られた混合物に極少量の水分を添加する。次に培養槽12を密栓し、高圧蒸気滅菌を行う。任意の組成の液体培地と所定量の糸状菌の菌体懸濁液とを混合し、滅菌後の培養槽12に注入する。混合液中の糸状菌の菌体と第2の合成高分子微粒子とが第1の合成高分子微粒子の液面浮上に伴って浮上し、液体培地の液面に固定化されることにより、複合層30が形成される。任意の温度で所定の時間静置培養することにより、複合層30中の糸状菌は液体培地中の栄養源と水を使って増殖する。これにより、水層20の液面に物理的に強固な糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合層30が形成される。以下、物理的に強固な状態となった複合層30を特に、複合マットと呼ぶ。なお、
図1(A)に示したバイオリアクタ10が製造できるのであれば、各物質を加える順序や滅菌方法はここで示したものに限られない。
【0039】
本実施の形態に使用される第1の合成高分子微粒子として、例えば特開2008?29251号公報に記載の諸製品などを好適に用いることができる。ただし、複合マットを形成した上で、比較的比重の大きな第2の高分子微粒子を水層20の液面に浮上させる必要がある。そのため、特に比重の軽い中空構造を有する合成高分子微粒子を用いることが好ましい。具体的には、平均粒径が約20〜約40μm、真比重が約0.1以下(比重が約0.06以下)の中空構造を有する合成高分子微粒子が好ましい。これらの性質を満たす第1の合成高分子微粒子として、例えばMMF−DE−1(松本油脂製薬株式会社製、平均粒径30μm、真比重0.06)、MFL−80GCA(松本油脂製薬株式会社製、炭酸カルシウムコート型、平均粒径20μm、真比重0.2)が挙げられる。
【0040】
本実施の形態に使用される第2の合成高分子微粒子として、例えばポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、およびポリ塩化ビニルから形成される微粒子を好適に用いることができる。このような第2の合成高分子微粒子として、たとえばポリメチルメタクリレートHBS000(三菱レーヨン社製)、低密度ポリエチレン45,200(プライムポリマー社製)、高密度ポリエチレンHJ560U66414(ノバティックHD社)、ポリビニルクロライド223−00255(和光純薬工業社製)、ポリスチレン441147−1KG(アルドリッチ社製)が挙げられる。
【0041】
また、第2の合成高分子微粒子として、ポリスチレン、ポリアクリレート、またはポリメチルメタクリレートを基体樹脂とし、表面に三級アミノ基を陰イオン交換基として有するイオン交換樹脂(以下、アニオン交換樹脂ともいう)も好適に用いることができる。アニオン交換樹脂を使用する場合、平均粒径が約10μm〜約500μm、真比重が約0.05〜約1.30、水の接触角が約75°以上、総イオン交換容量が約1.0
meq/g以上であることが好ましい。また、平均粒径が約10μm〜約100μm、真比重が約0.07〜約0.20のアニオン交換樹脂を使用することがより好ましい。
【0042】
本実施の形態に使用される第2の合成高分子微粒子は、粒子表面の疎水度に基づいて選定される。この場合、併用される第1の合成高分子微粒子の表面の疎水度を基準として第2の合成高分子微粒子を選ぶことができる。第2の合成高分子として、基体樹脂とする第1の合成高分子微粒子とは接触角の値が異なる物質を用いることが好ましい。例えば、第1の合成高分子微粒子としてポリアクリロニトリル(50〜60°)を用いる場合、第2の合成高分子としてポリメチルメタクリレート(60〜70°)、ポリエチレン(70〜80°)、ポリスチレン(80〜90°)等を使用する。これにより、各粒子の種類や配合比によって、複合マットの疎水性を任意に設定することが可能となる。
【0043】
また、第2の合成高分子を粉砕および分級することによって、第2の合成高分子微粒子の粒径を任意に設定し、複合層中の疎水性領域(ドメイン)のサイズを任意に設定してもよい。たとえば、上述した第2の合成高分子を、粒径100μm以下または粒径50μm以下に粉砕および分級して使用する。これにより、適用する糸状菌の種類や標的とする発酵あるいは微生物変換の種類に応じて、オーダーメード的な対応を図ることができる。
【0044】
また、第1の合成高分子微粒子と第2の合成高分子微粒子との混合比は、任意に選択することができる。複合マットを水層20の液面に安定して浮上させるためには、両者の混合比はたとえば約1:1〜約1〜10であることが好ましい。なお、複合マットの疎水性を変動させるために配合する第2の合成高分子微粒子を、第1の合成高分子微粒子として用いることもできる。この場合、第1の合成高分子微粒子を用いず第2の高分子微粒子のみを用いてもよい。またこの場合、中空構造を有する第2の合成高分子微粒子を使用することが特に好ましい。
【0045】
また、本実施の形態に使用される液体培地の組成は、使用する糸状菌の種類に応じて選定される。液体培地として、真菌類の培養に一般に用いられる培地、例えば、サブロー培地、YM培地、YPD培地、ポテトデキストロース培地等を好適に使用することができる。
【0046】
本実施の形態に使用される糸状菌としては、菌糸の形成能を有し、第1の合成高分子微粒子と第2の合成高分子微粒子とを菌糸により結合するように成長し、物理的に強固な糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成できるものであれば、特に制約はない。標的とする発酵能もしくは微生物変換能を備えているか否かが、採択の基準となる。糸状菌として、例えば様々な酵素や有機酸の生産性に優れるアスペルギルス(Aspergillus)属やリゾープス(Rhizopus)属、抗生物質等の生物活性二次代謝物の生産性に優れるペニシリウム(Penicillium)属やトリコデルマ(Trichoderma)属の糸状菌を用いることができる。植菌時における糸状菌の形態には特に制限はなく、胞子状であってもよいし菌糸状であってもよい。
【0047】
次に、バイオリアクタ10を用いた物質変換について説明する。形成された複合マット中の糸状菌の働きにより、親水性の基質Xは、糸状菌を生体触媒として、目的物である生成物X’に物質変換される。
【0048】
糸状菌と親水性の基質Xとを適宜組み合わせることにより、様々な生成物X’が得られる。親水性の基質Xとしてたとえば液体培地中の栄養源を用いることにより、抗生物質等の有用二次代謝物、有機酸やアミノ酸等の一次代謝物、さらには、グルコシダーゼやリパーゼ等の有用酵素を効率的に生産し、水層20中に高濃度で蓄積させることができる(LSIシステム)。
【0049】
本実施の形態のLSIシステムを用いた物質変換の例としては、たとえば栄養源でもあるグルコースを基質として用いて、クエン酸を生成する反応が挙げられる。
【0050】
以上、本実施の形態の物質変換方法によれば、糸状菌を生体触媒として、基質を効率良く物質変換することができる。また、液体培養法とは異なり、カタボライト抑制と標的酵素のプロテアーゼによる分解の両問題を効果的に回避することができる。物質変換に最適な親水/疎水バランスや荷電状態は、使用する糸状菌、発酵および微生物変換反応の種類によって大きく異なることが想定される。しかし、第2の合成高分子を粉砕および分級することによって、第2の合成高分子微粒子の粒径を任意に設定して任意の割合で混合すれば、液体培地の液面に形成される高分子微粒子層の荷電状態を任意に変動させることができる。そのため、本実施の形態の物質変換方法を用いれば、糸状菌や発酵および微生物変換反応の種類に応じたオーダーメイドな物質変換を容易に行うことができる。
【0051】
(第2の実施の形態)
図1(B)は、第2の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
【0052】
本実施の形態では、第1の実施の形態のバイオリアクタ10において、複合層30の上面に有機層40を積層した構造を有する。有機層40は、微生物に対して実質的に毒性を示さない疎水性の有機溶媒を含む。
【0053】
有機層40と水層20との液/液界面に位置する複合層30中の糸状菌は、水層20から栄養源と水、有機層40に接した大気から酸素の供給をそれぞれ受けて活発な代謝活動を続け、標的とする生成物X’を高濃度で生産および蓄積することができる。本実施の形態では、親水性の基質Xから疎水性の二次代謝物である生成物X’が有機層40に蓄積される(Ext−LSIシステム)。
【0054】
本実施の形態のExt−LSIシステムを用いた物質変換の例としては、たとえば基質としてグルコースを用いて6−ペンチル−α−ピロンを生成する発酵が挙げられる。
【0055】
疎水性の有機溶媒としては、糸状菌に対して実質的に毒性を示さず生育を阻害しない溶媒を用いることが好ましい。このような疎水性の有機溶媒としては、3以上、好ましくは4以上のLogP値を有する疎水性の有機溶媒であれば特に制約はない。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン等の直鎖状あるいは分岐状パラフィン類やジヘキシルエーテル等の中鎖脂肪族エーテル類、酢酸2−エチルヘキシル等の中鎖脂肪族エステル類、あるいは、KF−96L−1CS等の低粘性ジメチルシルコンオイルを好適に使用することができる。疎水性の有機溶媒として、炭素数6以上18以下の直鎖状または分岐状パラフィン類、粘度2cP以下の疎水性シリコンオイル、炭素数10以上18以下の脂肪族エーテル類およびエステル類のいずれかを使用することが、微生物に対しする無毒性、コスト、原料と生成物の溶解性の高さ、室温では揮発しないが減圧蒸留できる程度の適度な沸点、人体に対する無毒性等の観点から特に好ましい。
【0056】
以上、本実施の形態の物質変換方法によっても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。加えて、有機層40が疎水性の二次代謝物の抽出溶媒層およびリザーバー層として機能するため、生成物阻害あるいはフィードバック阻害を効果的に回避することができる。
【0057】
(第3の実施の形態)
図1(C)は、第3の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
【0058】
本実施の形態では、水層20ではなく有機層40に疎水性の基質Xを加える点が、第2の実施の形態のバイオリアクタ10とは異なる。
【0059】
本実施の形態のバイオリアクタ10によると、疎水性の基質Xから疎水性の生成物X’が生成され、有機層40に蓄積される(L−L IBR)。
【0060】
本実施の形態のL−L IBRを用いた物質変換の例としては、たとえば基質としてノルマルデカンを用いて5−デカノールと5−デカノンを生成する反応、基質としてベンジルを用いてベンゾインを生成する反応、基質としてノルマルノナンを用いて2−ノナノン、3−ノナノン、4−ノナノン、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノールを生成する反応が挙げられる。
【0061】
以上、本実施の形態の物質変換方法によっても、第2の実施の形態と同様に、有機層40は反応溶媒として機能するだけでなく、基質Xや生成物X’のリザーバーとして機能する。つまり、疎水性の基質Xは糸状菌に対して毒性を有することが多いが、有機層40により糸状菌と接する基質Xの濃度が希釈される。そのため、糸状菌の生存に影響を与えない基質Xとして、様々な物質を選択することができる。また、有機層40中に添加できる基質Xの濃度および有機層40中に蓄積される生成物X’の濃度は、従来の液体培養法と比較して飛躍的に向上する。L−L IBRによると、複合層30と有機層40の界面に位置する糸状菌は生育を阻害されずに活発に代謝活動を行うことができる。そのため、酸化還元反応のような補酵素要求性の反応や誘導酵素反応等も問題なく触媒することができる。L−L IBRによると、特に糸状菌が得意とする不活性炭素の水酸化反応のような高難易度な微生物変換反応を効率的に進行させることができる。また、L−L IBRによると、生成物の回収も有機層40からの取り出しのみで済む。そのため、煩雑な溶媒抽出工程を省略することができる。
【0062】
(第4の実施の形態)
図1(D)は、第4の実施の形態に係る物質変換方法を模式的に示す図である。
【0063】
本実施の形態では、第3の実施の形態と同様に、有機層40に疎水性の基質Xを加える(L−L IBR)。一方、本実施の形態のバイオリアクタ10によると、疎水性の基質Xから親水性の生成物X’が水層20に蓄積される点が、第3の実施の形態とは異なる。
【0064】
本実施の形態のL−L IBRを用いた物質変換の例としては、たとえば基質としてβ−カリオフィレンを用いて(−)−β−カリオフィレンオキサイドを生成する反応が挙げられる。
【0065】
以上、本実施の形態の物質変換方法によっても、第3の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0066】
なお、第1〜4の実施の形態では、水層20の液面にあらかじめ第1の合成高分子微粒子と第2の合成高分子微粒子の複合粒子層を形成させ、その上に糸状菌を植菌することにより、複合層30を形成してもよい。この形成方法は、特に、多数の糸状菌を対象とした微生物あるいは酵素のスクリーニング法として有効である。上述した各実施の形態では、液体培養法と比較して高い物質生産性を有している。また、通気や撹拌操作が不要であり、さらには溶媒抽出工程を省略できる。そのため、この形成方法は、多数の微生物を対象とした大規模スクリーニングに威力を発揮する。
【0067】
(用途)
上述した物質変換方法は、例えば、クエン酸やイタコン酸等の有機酸やg−デカラクトンや6−ペンチル−a−ピロン等の香料原料、あるいはメバスタチンやシクロスポリン等の医薬品原料の生産などに適用することが想定される。糸状菌を適宜選択することにより、これらの生産を容易に効率化することができる。
【0068】
糸状菌は様々な酵素の高生産性微生物として有用である。糸状菌は、たとえばアミラーゼやセルラーゼ等の糖質分解酵素の他、プロテアーゼ、リパーゼ等の高生産に好適である。上述した物質変換方法にこれら糸状菌を用いることにより、液体培養法はもちろん固体培養法をも凌ぐ生成物の高収率が達成可能となる。
【0069】
一方、微生物変換への分野への応用としては、一般的な反応種、例えば、エステルの加水分解、アルコールやアルデヒドの酸化、ケトンやオレフィンの還元等に限定されるものではない。糸状菌が得意する反応種、例えば、不活性炭素の水酸化やエポキシ化反応等、様々な反応種に利用することが可能である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例1〜4では、複合マットの形成に第2の合成高分子微粒子を用い、基質としてそれぞれノルマルデカン(n−decane)、ベンジル(benzil)、ノルマルノナン(n−nonane)、グルコースを用いて、糸状菌を生体触媒として物質変換を行った実験結果を示す。また、比較例1〜4として、複合マットの形成に第2の合成高分子微粒子を用いずに、基質としてそれぞれ実施例1〜4と同じ物質を用いて物質変換を行った実験結果を示す。実施例1と重複する操作は適宜省略する。
【0071】
(実施例1)
グルコース40g、ペプトン10g、硫酸鉄5mg、硫酸マンガン20mg、塩化カルシウム10mg、逆浸透水1Lよりなる液体培地(pH6.0)50ml、第1の合成高分子微粒子(MMF−DE−1、松本油脂製薬株式会社製、平均粒径30μm、真比重0.06)150mg、第2の合成高分子微粒子[三菱レーヨン社製ポリメチルメタクリレートHBS000の粉砕分級物(粒径100μm以下)、プライムポリマー社製低密度ポリエチレン45,200の粉砕分級物(粒径100μm以下)、ノバティックHD社製高密度ポリエチレンHJ560U66414の粉砕分級物(粒径100μm以下)、あるいは和光純薬工業社製ポリビニルクロライド223−00255の粉砕分級物(粒径100μm以下)]各700mgの混合物に、リゾープス・オリゼー(Rhizopus oryzae)NBRC4716の胞子懸濁液(1.2x10
6spores/ml)1mlを添加して、激しく混合後、直径68mm、高さ55mmの深型ガラスシャーレに全量投入した。25℃で3日間静置培養して当該糸状菌を発芽、成長させ、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成させた。その後、当該複合マットの上部に疎水性の基質としてノルマルデカンを20ml重層し、25℃で1週間静置培養した。ここで、培養器間で糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットの厚さを揃えるために、比重並びに粒径から換算して、各培養器中の第2の合成高分子微粒子の添加量は第1の合成高分子微粒子の5倍量とした。
【0072】
1週間の静置培養後、Supelcowax−10(0.25mm i.d.x60m)を装着したガスクロマトグラフィーを用いてノルマルデカンを含む有機層を直接分析することにより、物質変換により生成した化合物の量を測定した。
【0073】
その結果、ポリメチルメタクリレート微粒子配合系で10.11g/Lの5−デカノール(5−decanol)と5.09g/Lの5−デカノン(5−decanone)、低比重ポリエチレン微粒子配合系で17.42g/Lの5−デカノールと8.41g/Lの5−デカノン、高比重ポリエチレン微粒子配合系で12.98g/Lの5−デカノールと5.33g/Lの5−デカノン、ポリビニルクロライド微粒子添加系で9.62g/Lの5−デカノールと3.97g/Lの5−デカノンの蓄積が確認された。
【0074】
(比較例1)
実施例1の比較対照として、第2の高分子微粒子を添加していない培養器(第1の合成高分子微粒子200mg)と液体培養系(500mlの三角フラスコを用いて、培地、植菌量、ノルマルデカン量を揃えたもの)を設定した。実施例1と同じく、前培養3日後にノルマルデカンを20ml添加して、第1の合成高分子微粒子のみを配合したL−L IBRは1週間の静置培養、液体培養系は1週間の振盪培養(200rpm)を行った。培養後、実施例1と同じ条件でガスクロマトグラフィーを用いてノルマルデカンを含む有機層を直接分析することにより、物質変換により生成した化合物の量を測定した。
【0075】
その結果、第2の合成高分子微粒子を配合していないL−L IBRでは、5−デカノールと5−デカノンの蓄積濃度がそれぞれ6.15g/Lと2.26g/Lであった。一方、液体培養系ではそれぞれ1.36g/Lと3.26g/Lであった。
【0076】
図2(A)には、実施例1と比較例1の実験結果のまとめを示す。複合マットの形成に第2の合成高分子微粒子を用いることにより、物質変換の効率が飛躍的に向上することが確認された。
【0077】
(実施例2)
グルコース40g、トリプトン10g、硫酸鉄5mg、硫酸マンガン20mg、塩化カルシウム10mg、逆浸透水1Lよりなる液体培地(pH6.0)50ml、第1の合成高分子微粒子(MMF−DE−1、松本油脂製薬株式会社製、平均粒径30μm、真比重0.06)150mg、第2の合成高分子微粒子[三菱レーヨン社製ポリメチルメタクリレートHBS000の粉砕分級物(粒径50μm以下)、ノバルティックHD社製高密度ポリエチレンHJ560 U66414の粉砕分級物(粒径50μm以下)、あるいはアルドリッチ社製ポリスチレン441147−1KG微粒子(粒径50μm以下)]各700mgの混合物に、アスペルギルス・ソジャエ(Aspergillus sojae)NBRC32074の3日培養液1mlを添加して激しく混合後、直径68mm、高さ55mmの深型ガラスシャーレに全量投入した。25℃で3日間静置培養して糸状菌を発芽および成長させ、糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成させた。その後、当該複合マットの上部に疎水性の基質として2%ベンジルのジヘキシルエーテル溶液20mlを重層し、25℃で5日間静置培養した。実施例1と同様に、培養器間で糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットの厚さを揃えるために、比重並びに粒径から換算して、各培養器中の第2の合成高分子微粒子の添加量は第1の合成高分子微粒子の5倍量とした。
【0078】
5日間の静置培養後、Zorbax RX−SIL(4.6mm i.d.x250mm)カラムを装着した高速液体クロマトグラフィーを用いてジヘキシルエーテルを含む有機層を直接分析することにより、物質変換により生成した化合物の量を測定した。
【0079】
その結果、有機層中のベンゾイン(benzoin)の蓄積濃度は、ポリメチルメタクリレート微粒子配合系では14.22g/L、高密度ポリエチレン微粒子配合系では16.21g/L、ポリスチレン微粒子配合系では15.77g/Lであった。
【0080】
(比較例2)
第2の高分子微粒子を添加せずに第1の合成高分子微粒子を200mg用いた以外は実施例2と同様にして、5日間静置培養した。
【0081】
この場合、有機層中のベンゾインの蓄積濃度は、4.33g/Lであった。
【0082】
図2(B)には、実施例2と比較例2の実験結果のまとめを示す。複合マットの形成に第2の合成高分子微粒子を用いることにより、物質変換の効率が飛躍的に向上することが確認された。
【0083】
(実施例3)
グルコース40g、ペプトン10g、硫酸鉄5mg、硫酸マンガン20mg、塩化カルシウム10mg、逆浸透水1Lよりなる液体培地(pH6.0)50ml、第1の合成高分子微粒子(MMF−DE−1、松本油脂製薬株式会社製、平均粒径30μm、真比重0.06)150mg、第2の合成高分子微粒子(オルガノ社製陰イオン交換樹脂の粉砕分級物)[IRA910CT CL(粒径50μm以下)、IRA958CT CL(粒径50μm以下)]各500mgの混合物に、ボーベリア・バシアナ(Beauveria bassiana)ATCC7159の3日間培養ブロス1mlを添加して、激しく混合後、直径68mm、高さ55mmの深型ガラスシャーレに全量投入した。28℃で3日間静置培養して当該糸状菌を発芽、成長させて糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成させた。その後、当該複合マットの上部に疎水性の基質としてノルマルノナンを20ml重層し、28℃で1週間、静置培養した。この場合、実施例1と同様に、培養器間で糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットの厚さを揃えるために、比重並びに粒径から換算して、各培養器中の第2の合成高分子微粒子の添加量は第1の合成高分子微粒子の5倍量とした。
【0084】
静止培養後、Supelcowax−10(0.25μm i.d.x60m)を装着したガスクロマトグラフィーを用いて、ノルマルノナンを含む有機層を直接分析した。
【0085】
その結果、IRA910CT CL配合系では、2−ノナノン、3−ノナノン、4−ノナノン、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノールの有機層における蓄積濃度は、それぞれ4.08g/L、3.22g/L、4.81g/L、0.91g/L、0.86g/L、0.93g/Lであった。一方、IRA958CT CLを第2の合成高分子微粒子として配合した場合には、2−ノナノン、3−ノナノン、4ノナノン、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノールの有機層における蓄積濃度は、それぞれ5.11g/L、4.65g/L、4.06g/L、0.88g/L、1.15g/L、1.12g/Lであった。
【0086】
(比較例3)
第2の高分子微粒子を添加せずに第1の合成高分子微粒子を200mg用いた以外は実施例3と同様にして、5日間静置培養した。
【0087】
この場合、2−ノナノン、3−ノナノン、4−ノナノン、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノールの有機層における蓄積濃度は、それぞれ0.94g/L、0.63g/L、0.48g/L、0.23g/L、0.18g/L、0.37g/Lであった。
【0088】
図2(C)には、実施例3と比較例3の実験結果のまとめを示す。複合マットの形成に第2の合成高分子微粒子を用いることにより、物質変換の効率が飛躍的に向上することが確認された。
【0089】
(実施例4)
糸状菌の栄養源であると同時に本実施例では基質でもあるグルコース100g、リン酸二水素カリウム10g、硝酸ナトリウム2g、塩化アンモニウム2g、硫酸マグネシウム250mg、硫酸鉄50ng、硫酸マンガン200ng、塩化カルシウム100ng、水1L(pH6.0)よりなる液体培地50mlに、第1の合成高分子微粒子(MFL−80GCA、松本油脂製薬株式会社製、炭酸カルシウムコート型、平均粒径20μm、真比重0.2)0.5g、充填合成高分子微粒子(オルガノ社製陰イオン交換樹脂粉砕の分級物)[IRA910CT CL(粒径50μm以下)、IRA958CT CL(粒径50μm以下)]各500mgの混合物に、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NBRC 6341の胞子懸濁液(1.2x10
6spores/ml)1mlを添加して、激しく混合後、直径68mm、高さ55mmの深型ガラスシャーレに全量投入した。25℃で3日間静置培養して当該糸状菌を発芽、成長させて糸状菌/第1の合成高分子微粒子/第2の合成高分子微粒子の複合マットを形成させた。静置条件下、28℃で1週間培養した。
【0090】
培養後、水層中のクエン酸の生産量をF−キット・クエン酸(J.K.インターナショナル株式会社)で定量することにより、物質変換により生成した化合物の量を測定した。
【0091】
その結果、IRA98CT CL配合系では87.9g/L、IRA910CT CL配合系では72.3g/Lのクエン酸の蓄積が認められた。
【0092】
(比較例4)
同様の組成の液体培地50mlを500mlの三角フラスコに分注し、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NBRC6341の胞子懸濁液(1.2x10
6spores/ml)1mlを添加して、28℃、200rpmで1週間振盪培養した。その後、遠心分離によって菌体を除去し、得られた上清中のクエン酸をF−キット・クエン酸を用いて定量することにより、物質変換により生成した化合物の量を測定した。
【0093】
その結果、水層中に25.4g/Lのクエン酸の蓄積が認められた。
【0094】
図2(D)には、実施例4と比較例4の実験結果のまとめを示す。複合マットの形成に第2の合成高分子微粒子を用いることにより、物質変換の効率が飛躍的に向上することが確認された。
【0095】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。