(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
(実施形態1)
図1は、本発明のスプレーガンの実施形態1を示す全体構成図である。
【0017】
図1に示すスプレーガン(本体)1は、銃身部2、引金3、および握り部4を備えて構成されている。スプレーガン1は、引金3の操作にともなって、銃身部2の先端から塗料流と空気流が噴出され、これら塗料流と空気流は大気中で混合され霧化されるようになっている。
【0018】
なお、
図1に示す各部材の以下の説明において、その便宜上、銃身部2側を先端部(前方部)と、銃身部2と反対側を後端部(後方部)と称する場合がある。
【0019】
図1において、スプレーガン1の握り部4からは圧縮空気が空気ニップル5、空気通路6を介して空気弁部7に送り込まれ、該圧縮空気は空気通路6’を介して銃身部2の先端部に送られるようになっている。引金3は支点3Aを中心にして握り部4側へ引くことができ、該引金3に取り付けられた弁棒8を介して空気弁部7の空気弁9を開き、圧縮空気を銃身部2の先端部に送るようになっている。また、引金3には、該引金3を引くことによってガイド室10内で後退するニードル弁ガイド11が取り付けられ、このニードル弁ガイド11には銃身部2の中心軸上に配置されるニードル弁12が取り付けられている。ニードル弁12は、引金3が引かれていない場合に、ガイド室10内に配置されるコイルばね13によって銃身部2の先端側に取り付けられた塗料ノズル30の塗料噴出口30Aのシート内面に押圧されてシールされるようになっている。
【0020】
なお、引金3を引いた場合、ニードル弁12が塗料ノズル30の塗料噴出口30Aから引かれるより僅かに早く前記空気弁9が開かれるように構成されている。
【0021】
塗料ノズル30は、塗料噴出口30Aを有する先端部(以下、ノズル先端部31と称す)において径が小さく後端部において径の大きな円筒状部材から構成されている。塗料ノズル30の後端部には塗料ジョイント14が形成され、この塗料ジョイント14に付設されるたとえば塗料容器(図示せず)から塗料ノズル30に塗料が供給されるようになっている。塗料ノズル30に供給された塗料は、塗料ノズル30のニードル弁12によるシールが解除された際に、該塗料ノズル30の塗料噴出口30Aから塗料流として噴出するようになっている。
【0022】
また、塗料ノズル30のノズル先端部31を囲むようにして空気キャップ16が配置されている。この空気キャップ16は空気キャップカバー18を介して銃身部2に取り付けられている。空気キャップ16の内周面と塗料ノズル30のノズル先端部31の外周面との間には環状のスリット19が形成されるようなっている。前記空気通路6’からの圧縮空気は、前記空気弁部7の空気弁9が開かれた際に、該スリット19から塗料ノズル30のノズル先端部31の周囲に沿って空気流を噴出するようになっている。
【0023】
図2に示すように、塗料ノズル30のノズル先端部31は、先端面32を有し、この先端面32の中心軸上に塗料噴出口30Aが形成されている。塗料噴出口30Aの内径は塗料ノズル30のノズル先端部31の外径に対して比較的小さく形成され、塗料ノズル30の該先端面32には、塗料噴出口30Aから噴出する塗料流を規制する案内壁32Aを有するようになっている。案内壁32Aは、塗料噴出口30Aの内周から塗料ノズル30の先端側に向かって拡開された円錐状として形成されている。そして、案内壁32Aの外周縁は、塗料ノズル30のノズル先端部31の外周から内側に、正面視において、0.5mmを超えない範囲に位置するように構成されている。換言すれば、案内壁32Aの外周縁が塗料ノズル30のノズル先端部31の外周側面からの距離pを0.5mm以下に形成するように構成されている。さらに換言すれば、塗料ノズル30の先端面32には、該案内壁32Aの他に該案内壁32Aの外周縁から塗料ノズル30のノズル先端部31の外周までの部分において、塗料ノズル30の中心軸Oに垂直な面であって、0.5mm以下の幅を有する環状の平面部32Bが形成されている。このように、案内壁32Aの外周縁を塗料ノズル30のノズル先端部31の外周から内側に0.5mmを超えない範囲に位置するように構成することによって、後に詳述するように、塗料噴出口30Aからの塗料噴出量の増加と微粒化の向上が図れる効果を奏するようになる。
【0024】
また、塗料ノズル30のノズル先端部31を拡大した断面図である
図3に示すように、円錐状からなる該案内壁32Aは、側面視において、60°から150°の範囲で開き角度αを有して構成されている。このように、案内壁32Aの開き角度を60°から150°の範囲で構成することにより、後に詳述するように、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aであるストレートな通過路から該案内壁32Aへの角度変化を小さくでき、塗料の該案内壁32Aへ沿っての流れをスムーズに行うようにできるようになっている。なお、
図3では、塗料ノズル30の他にニードル弁12および空気キャップ16も併せて描いている。
【0025】
また、
図2に戻り、塗料ノズル30のノズル先端部31は、その外周において周方向に等間隔にたとえば4個のV字状溝15が形成されている。すなわち、これらV字状溝15は、塗料ノズル30の先端面から観た場合、塗料噴出口30を中心に十文字に配置されている。これらV字状溝15は、塗料ノズル30のノズル先端部31において長手方向に後端側(図中左側)の所定の位置(以下、V字状溝15の始点rと称する場合がある)から先端面32まで穿設されて形成され、塗料ノズル30の先端面32に向かうに従い深くなる底部を有する。これらV字状溝15は、空気通路6’から前記スリット19を通して噴出される空気流の一部を塗料噴出口30Aの前方に誘導するように構成されている。すなわち、
図3に対応する図であり前記V字状溝15が形成されている部分で断面をとった
図4に示すように、空気通路6’からの圧縮空気がスリット19から噴出される際に、同図の矢印に示すように、該圧縮空気は塗料ノズル30の各V字状溝15内に導かれ、各V字状溝15内の空気流は、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aからの塗料流に気液接触面積を増大させながら衝突混合できるようになっている。これにより、圧縮空気がたとえ低圧の空気流であっても噴出塗料の中心部にまで微粒化させる働きをもたせるようになっている。
【0026】
ここで、前記各V字状溝15は、
図2に示すように、その底部(図中符号bで示す)が塗料ノズル30の先端面32において前記案内壁32Aの範囲内に位置するように構成されている。換言すれば、各V字状溝15の底部bは、塗料ノズル30の先端面32において、塗料噴出口30Aの内径よりもたとえばt(>0)だけ大きな径の円周上に位置するように形成されている。すなわち、各V字状溝15の底部bが、塗料ノズル30の先端面32において、塗料噴出口30Aの内径上に位置して形成される場合、あるいは塗料噴出口30Aの内周面にまで侵入して形成される場合を回避させた構成となっている。このように、各V字状溝15の底部bを塗料ノズル30の先端面32において案内壁32Aの範囲内に位置するように構成することにより、後に詳述するように、各V字状溝15内に流入される圧縮空気が塗料ノズル30の塗料噴出口30Aからの塗料流に侵入する際に、該塗料流に生じる抵抗を大幅に減少できるようになっている。
【0027】
そして、
図1に戻り、該空気キャップ16は、その先端側の面において、塗料ノズル30を間にして一対の角部16Aが形成されている。
図5は、空気キャップ16を銃身部2の近傍とともに示した斜視図であり、一対の各角部16Aは、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aを間にして互いに対向するようにして形成されている。空気キャップ16の角部16Aには、
図1に示すように、前記空気通路6’に連結される側面空気孔20が形成され、これら側面空気孔20からの空気流は、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aからの塗料流に交差するように噴射できるようになっている。これにより、塗料ノズル30から噴出される塗料は空気キャップ16の側面空気孔20から噴出される圧縮空気によって楕円形のスプレーパターンとして形成できるようになっている。空気キャップ16の側面空気孔20へ送られる圧縮空気は、パターン開き調節装置23によって流量調整され、該側面空気孔20から噴出されるようになっている。パターン開き調節装置23はパターン調整つまみ24を回転することによって流量調整がなされるようになっている。これにより、塗料ノズル30から噴出される塗料スプレーパターンの扇状の広がりが調節できるようになる。
【0028】
なお、
図1、
図3、
図4では省略して示していたが、
図6(a)、(b)に示すように、塗料ノズル30のノズル先端部31の近傍の空気キャップ16には、該塗料ノズル30のノズル先端部31を間にして一対の補助空気孔21が形成されている。
図6(a)は、空気キャップ16を塗料ノズル30とともに示した側面図(空気キャップ16は断面で示している)で、
図6(b)は、正面図である。補助空気孔21は空気通路6’に連通されて形成され、該補助空気孔21からの空気流は塗料ノズル30の塗料噴出口30Aからの塗料流に交差するようになっている。補助空気孔21は、スプレーパターンの形成上、前記の側面空気孔20からの噴射力に対応してバランスを採るために設けられている。
【0029】
このような構成からなるスプレーガン1は、上述した構成によって次に示す効果を奏するようになる。
(1)スプレーガン1は、まず、塗料ノズル30の各V字状溝15が、その底部bにおいて、案内壁32Aの範囲内に位置するように構成されている。これにより、V字状溝15に流れる空気流が塗料噴出口30Aから噴出される塗料流に直接に流れ込むことを回避できるようになる。このため、各V字状溝15内に流入される空気流が塗料噴出口30Aからの塗料流に侵入する際に、該塗料流に生じる抵抗を大幅に減少させることができるようになる。このため、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aから噴出される塗料流の量を増大できるとともに、該塗料噴出口30Aの内径の拡大に合わせてさらに増大させることができるようになる。
【0030】
(2)スプレーガン1は、案内壁32Aの外周縁が塗料ノズル30のノズル先端部31の外周側面からの距離pを0.5mm以下に形成するように構成されている。これにより、塗料流の塗料噴出量の増加と微粒化の向上が図れる効果を奏する。仮に、案内壁32Aの外周縁を塗料ノズル30のノズル先端部31の外周側面から距離pを0.5mmより大きくした場合、塗料ノズル30のノズル先端部31の外周面を流れる空気流と、V字状溝15の内部を流れる空気流によって、塗料ノズル30の先端面32に乱流が発生してしまうことが確かめられる。この乱流は、案内壁32Aの外周縁と塗料ノズル30のノズル先端部31の外周側面との距離pを上述の範囲で短くすることによって少なくなり、これにより、案内壁32Aに沿った空気流の流れがスムーズになることから、塗料噴出量が増大するとともに、塗料の微粒化も向上するようになる。
【0031】
(3)スプレーガン1は、塗料ノズル30の先端面32の案内壁32Aが、その拡開の開き角度αが60°から150°の範囲になるように構成されている。これにより、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aのストレートな通過路から該案内壁32Aへの角度変化を小さくでき、
図7(a)の右図に示すように、塗料の該案内壁32Aへ沿っての流れが図中矢印のようになり、スムーズな流れを形成することができる。このため、
図7(a)の左図に示すように、塗料の該案内壁32Aへの流れが均一化され、塗料噴出口30Aからの塗料はフラット形状で噴出されるようになる。そして、これにともない該塗料の塗料噴出量も増大できる効果を奏する。なお、
図7(a)の左図は、縦軸を塗料ノズル30の先端面32の径方向に対応させ、横軸に塗料の流量をとっている。
【0032】
ちなみに、
図7(b)は、案内壁32Aの拡開の開き角度α’を150°よりも大きく形成した場合の塗料噴出口からの塗料の噴出分布を示した図である。
図7(b)の右図から明らかとなるように、塗料噴出口30Aから噴出される塗料は、案内壁32Aに沿って流れ難くなり、
図7(b)の左図に示すように、塗料噴出口30Aの中心軸の近傍において塗料噴出量が多く該中心軸から離れるに従い塗料噴出量が少なくなり、いわゆる中高傾向の分布となって流れの均一化が図れなくなる。
(4)これにより、本発明のスプレーガン1によれば、塗料ノズル30の塗料噴出口30Aの周辺に形成された複数のV字状溝15を通して該塗料噴出口30Aからの噴射塗料に入り込む空気流が、該塗料の噴出量の増大の妨げにならないようにすることができる。そして、塗料流の微粒化、フラット化を達成することができる。
(実施形態2)
図8(a)、(b)は、スプレーガン1の実施形態2の要部を示す構成図である。
図8(a)は、塗料ノズル30のノズル先端部31を示した正面図、
図8(b)は断面図を示している。
【0033】
図8(a)、(b)に示す塗料ノズル30のノズル先端部31は、実施態様1で示したと同様に、先端面32において、塗料噴出口30Aの内周から塗料ノズル30の先端側に向かって拡開された案内壁32Aを有し、外周において、塗料ノズル30の長手方向に後端側の所定の位置から前記案内壁32Aまで穿設された複数のV字状溝15を有している。そして、これらV字状溝15が前記長手方向に沿って徐々に深くなる底部bを有し、該底部bが塗料ノズル30の先端面32の案内壁32Aの範囲内に位置する構成となっている。
【0034】
そして、このような構成において、V字状溝15の案内壁32Aと交差する輪郭で画される三角形状の面積(図中の散点で示す面積:以下、通過面積と称する場合がある)は、その案内壁面上を通る仮想高さ(図中hで示す)と、頂角の開き角度(図中gで示す)で決定され、hは0.5mm〜2.5mmの範囲内に設定され、gは20°〜100°の範囲内に設定されている。
【0035】
このように構成した理由は次の通りである。すなわち、V字状溝15を流れる空気流は塗料流内に入り込む際に該塗料流の抵抗となり、塗料噴出量を低減させることになる。塗料流の抵抗が大きくなれば塗料噴出量の低減が大きくなり、少なくなれば塗料噴出量の低減が少なくなる。すなわち、V字状溝15があることで塗料噴出量は基本的に下がる傾向となる。
【0036】
一方、V字状溝15を流れる空気流は塗料流と混合され、空気と塗料の混合効率が上がり微粒化が上がる。混合効率が上がれば微粒化が上がる割合が高くなり、混合効率が低いと微粒化が上がる割合が低くなる。すなわち、V字状溝15があることで微粒化は基本的に上がる傾向にある。
【0037】
このことから、塗料流れの抵抗と、圧縮空気と塗料の混合効率は、案内壁32Aと交差されるV字状溝15の前記通過面積の大小によって調整でき、塗料流への抵抗が大きくなると、圧縮空気と塗料との混合効率が高くなる。
【0038】
次にh、g、d、eの実使用上の性能成立範囲詳細を下記に示す。
【0039】
図9(a)は、前記h(V字状溝15の案内壁32Aと交差する輪郭で画される三角形状の高さ)、前記g(V字状溝15の案内壁32Aと交差する輪郭で画される三角形状の頂角の開き角度)と前記通過面積の関係を示したグラフである。該グラフにおいて、横軸にはh、縦軸にはgを取り、図中の曲線(1)ないし(11)は通過面積を示している。図中、曲線(1)は通過面積が0.1mm
2、曲線(2)は通過面積が0.15mm
2、曲線(3)は通過面積が0.25mm
2、曲線(4)は通過面積が0.4mm
2、曲線(5)は通過面積が0.65mm
2、曲線(6)は通過面積が1.0mm
2、曲線(7)は通過面積が1.6mm
2、曲線(8)は通過面積が2.5mm
2、曲線(9)は通過面積が4.0mm
2、曲線(10)は通過面積が6.3mm
2、曲線(11)は通過面積が10mm
2である。
【0040】
この場合、
図9(b)に示すように、曲線(3)と曲線(6)で囲まれた領域であって、hが0.5mm〜2.5mmの範囲内に、gが20°〜100°の範囲内にある領域において、実使用上適正な性能を得られることが実験により確かめられた。
【0041】
そして、上記の構成に加えて、塗料ノズル30の最先端面から前記V字状溝15の始点rまでの長さd(以下、単にV字状溝15の長さdと称す)が1.0mmから3.5mmの範囲内で前記塗料ノズル30の中心軸に沿う直線距離を有し、前記各V字状溝15の底部bが、側面視で前記V字状溝15の始点r側(あるいは本体1側)から観た場合において、30°から100°の範囲で収束角度e(以下、単にV字状溝15の収束角度eと称す)を有するように構成されている。
【0042】
図10(a)は、V字状溝15の長さd、V字状溝15の収束角度eと前記通過面積における高さhの関係を示したグラフである。該グラフにおいて、横軸にはd、縦軸にはeを取り、図中の曲線(1)ないし(10)は通過面積における高さhを示している。図中、曲線(1)は高さが0.1mm、曲線(2)は高さが0.15mm、曲線(3)は高さが0.25mm、曲線(4)は高さが0.40mm、曲線(5)は高さが0.5mm、曲線(6)は高さが0.65mm、曲線(7)は高さが1.0mm、曲線(8)は高さが1.6mm、曲線(9)は高さが2.5mm、曲線(10)は高さが4.0mmである。
【0043】
この場合、
図10(b)に示すように、曲線(5)と曲線(9)で囲まれた領域であって、eが30°〜100°の範囲内に、dが1.0mm〜3.5mmの範囲内にある領域を満足すると、前記高さhが0.5〜2.5mmの範囲に収まるようになる。
【0044】
なお、V字状溝15の長さdが1.0mm以下になると該V字状溝15の通過面積が小さすぎてV字状溝15の効果が得られず、3.5mm以上になると該V字状溝15が塗料噴出口30Aの内径に入り込んでしまうようになる。また、V字状溝15の開き角度gが20°以下になると該V字状溝15の通過面積が小さすぎてV字状溝15の効果が得られず、100°以上になると該V字状溝15の通過面積が大きすぎ塗料が出なくなる等の不都合が生じるようになる。さらに、V字状溝15の収束角度eが30°以下になると該V字状溝15の通過面積が小さすぎてV字状溝15の効果が得られず、100°以上になると該V字状溝15が塗料噴出口30Aの内径に入り込んでしまうようになる。
【0045】
上述したように、実施形態2に示すスプレーガンによれば、塗料と空気との混合効率を上げつつ該塗料の塗料噴出量を確保させるとともに、微粒化を向上させることができるようになる。
【0046】
なお、実施形態2に示した構成は、上述した実施形態1、および後述する実施形態3ないし5のうちいずれの形態に組み合わせて用いるようにしてもよいことはいうまでもない。
(実施形態3)
図11は、スプレーガン1の実施形態3の要部を示す構成図である。
図11は、
図8(a)に対応した図であり、塗料ノズル30のノズル先端部31の正面図を示している。
【0047】
この場合においても、塗料ノズル30は、実施態様1で示したと同様に、ノズル先端部31の先端面32において、塗料噴出口30Aの内周から塗料ノズル30の先端側に向かって拡開された案内壁32Aを有し、外周において、塗料ノズル30の長手方向に後端側の所定の位置から前記案内壁32Aまで穿設された複数のV字状溝15を有している。そして、これらV字状溝15が前記長手方向に沿って徐々に深くなる底部bを有し、該底部bが塗料ノズル30の先端面32の案内壁32Aの範囲内に位置する構成となっている。
【0048】
そして、このような構成において、V字状溝15の底部bに形成されるR(湾曲部の半径)が0.15mm以下の値になって構成されていることにある。
【0049】
このように構成した理由は次の通りである。塗料ノズル30のノズル先端部31のV字状溝15はたとえば切削工具によって形成されるが、該切削工具の先端にはいわゆるノーズRが形成され、これにともないV字状溝15の底部bにもRが形成される。この場合、V字状溝15の通過面積(図中散点で示す面積)は、V字状溝15の底部bのRの値によって変化し、Rの値が小さいほど、三角形状の通過面積の前記高さhが大きくなるので、塗料流と空気流との衝突時間が長くなり、塗料流への空気流の混合効率を向上させるようになる。また、この場合において、塗料流への空気流の混合は徐々になされ、塗料の拡散も徐々になされるため、塗料ノズルからの塗料流が該塗料ノズルの近傍に配置された空気キャップに付着し難くなる。
【0050】
したがって、実施形態3に示したスプレーガン1によれば、塗料流への空気流の混合効率を向上させ、塗料ノズルからの塗料流が空気キャップへ付着してしまうのを回避できるようになる。
【0051】
なお、実施形態3に示した構成は、上述した実施形態1ないし2、および後述する実施形態4および5のうちいずれの形態に組み合わせて用いるようにしてもよいことはいうまでもない。
(実施形態4)
図12は、スプレーガン1の実施形態4の要部を示す構成図である。
図12は、塗料ノズル30のノズル先端部31と該ノズル先端部31の周囲に配置される空気キャップ16を示す断面図である。
【0052】
この場合においても、塗料ノズル30は、実施態様1で示したと同様に、そのノズル先端部31の先端面32において、塗料噴出口30Aの内周から塗料ノズル30の先端側に向かって拡開された案内壁32Aを有し、外周において、塗料ノズル30の長手方向に後端側の所定の位置から前記案内壁32Aまで穿設された複数のV字状溝15を有している。そして、これらV字状溝15が前記長手方向に沿って徐々に深くなる底部bを有し、該底部bが塗料ノズル30の先端面32において案内壁32Aの範囲内に位置する構成となっている。
【0053】
そして、空気キャップ16は、その内周面が塗料ノズル30のノズル先端部31の外周面に平行して対向する平行面25を有するとともに、その後端に円錐状に拡開するテーパ面26を有し、該平行面25が、側面視において、0.3mmから1.0mmの範囲で空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離kを有し、該テーパ面26が、側面視において、0.1mmから0.5mmの範囲で空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離mを有し、10°から90°の範囲で開き角度γを有するように構成されていることにある。
【0054】
このように構成した理由は次の通りである。V字状溝15への空気流の入り込みが強い場合、V字状溝15内の空気流の流れが円滑になり、空気流と塗料流との衝突混合の効率が向上するようになる。この際、塗料流の分散が良好となって、霧化された塗料流の流量が塗料ノズルの先端面の径方向に対してほぼ均一なフラット状のスプレーパターンとなる。
【0055】
V字状溝15の始点rの位置が、空気キャップ16の塗料ノズル30のノズル先端部31との間に形成される環状のスリット19の後端qより本体側にあり、塗料ノズル30のノズル先端部31の長手方向における前記V字状溝15の始点rとスリット19の後端qとの距離が大きいほどV字状溝15への空気流の入り込みが強くなる。この理由は、空気キャップ16内への空気流の流れの向きが直接にV字状溝15へ入り込むことで、V字状溝15内の空気流の流れが強くなるからである。
【0056】
これに対し、V字状溝15の始点rが、スリット19の後端qより前方に設定した場合、V字状溝15へ直接に空気流が入り込まなくなるので、V字状溝15内の空気流の流れが弱くなり、塗料流との混合効率が低下するようになる。
【0057】
そして、上述のように、空気キャップ16の内周面は、塗料ノズル30のノズル先端部31の外周面に平行して対向する平行面25を有するとともに、その後端に円錐状に拡開するテーパ面26を有して形成されている。そして、平行面25は、塗料ノズル30との間で空気流れの直進性を保つことで塗料噴出量を確保できるようになっている。また、テーパ面26は、前記平行面25への空気流れを円滑にでき、該テーパ面26の長さを調整し得るようにすることによってV字状溝15への空気流の入り込み強さを調整できるようになっている。
【0058】
ここで、平行面25は、その空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離kを0.3mm以下にした場合、空気流れの直進性が確保できず、塗料噴出量が低減するようになる。これに対し、平行面25の空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離kが1.0mmより大きくなると、始点rに空気キャップ16の平行面25が接近し通過面積が狭くなるので、V字状溝15に流れ込む空気量が制限され微粒子化の低下、塗料噴出量の低下を招く。よって、該平行面25の空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離kは0.3mmから1.0mmの範囲が適当となる。
【0059】
また、テーパ面26は、空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離mが0.1mmより小さくなると、V字状溝15内への空気流れの入り込みが強くなり、塗料流のスプレーパターン形状がフラットになる。これに対し、テーパ面26の空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離mが0.5mmより大きくなると空気流れの入り込みが弱くなるので塗料流のパターン形状は、塗料噴出口30Aの中心軸の近傍において塗料噴出量が多く該中心軸から離れるに従い塗料噴出量が少なくなるいわゆる中高傾向になる。これにより、該テーパ面26の空気キャップ16の中心軸に沿う直線距離mは0.1mmから0.5mmの範囲が適当となる。
【0060】
ここで、
図12において、テーパ面26は1段としているが、これに限定されることはなく多段にするようにしてもよい。
図13(a)は
図12の要部に相当する部分を拡大して示した図である。
図13(a)では、テーパ面26をたとえば2段にしてテーパ面26’とテーパ面26’’を順次形成した構成を示している。テーパ面26を多段とすることで空気流を円滑にでき、塗料流のフラットからなるスプレーパターン形状の安定化を図ることができる。ここで、テーパ面26の拡開のひらき角度は、空気キャップ16の後端側に位置づけられるテーパ面(
図13(a)の場合、テーパ面26’’に相当する)の開き角度とする。空気キャップ16の後端側に位置づけられるテーパ面が空気流の流れを変更でき後続するテーパ面は空気流の流れを円滑にするにすぎないからである。
【0061】
また、テーパ面26は、空気キャップ16の中心軸に沿う方向に曲面を有するように構成してもよい。
図13(b)は
図10の要部に相当する部分を拡大して示した図である。
図13(b)では、テーパ面26(図中符号26’’’で示す)を塗料ノズル30側に凸面となる湾曲面で構成している。テーパ面26’’’を湾曲面とすることで空気流を円滑にでき、塗料流のフラットからなるスプレーパターン形状の安定化を図ることができる。また、前記テーパ面26’’’は、必ずしも湾曲面とすることに限定されることはなく、平行面25と空気キャップ16の背面(図中符号16Nで示す)とを正接で結ぶ面とするようにしてもよいことはもちろんである。
【0062】
なお、実施形態4に示した構成は、上述した実施形態1ないし3、および後述する実施形態5のうちいずれの形態に組み合わせて用いるようにしてもよいことはいうまでもない。
(実施形態5)
図14は、スプレーガン1の実施形態5の要部を示す構成図である。
図14は、塗料ノズル30のノズル先端部31を空気キャップ16とともに示した断面図を示している。
【0063】
塗料ノズル30および空気キャップ16はたとえば実施形態1に示したものと同様の構成となっている。
【0064】
この場合、空気キャップ16の塗料ノズル30に近接する前端面16Sに対し、塗料ノズル30の案内壁32Aの面内におけるV字状溝15の底部(図中符号Bで示す)は、塗料ノズル30のノズル先端部31の長手方向に沿って前方0.5mmから後方0.5mmの間の範囲wに位置するように構成されている。
【0065】
なお、
図14では、塗料ノズル30の案内壁32Aの面内におけるV字状溝15の底部Bを空気キャップ16の前端面16Sに対し前方0.5mmとなるように位置づけて示している。
【0066】
このように構成したスプレーガン1によれば、空気キャップ16への塗料の付着を回避させるともに、塗料の分散を良好にでき微粒化を向上させることできるようになる。すなわち、空気キャップ16の塗料ノズル30に近接する前端面16Sに対し、塗料ノズル30を、その案内壁32Aの面内におけるV字状溝15の底部Bの位置を塗料ノズル30のノズル先端部31の長手方向に沿って後方へ設定することにより、塗料流へ流入する空気流の量を多くでき、塗料の分散を良好にでき微粒化を向上させることができる。
【0067】
しかし、空気キャップ16内で塗料流と空気流との混合がなされるため、塗料ノズル30から拡散された塗料の空気キャップ16への付着が免れないようになってしまう。このため、空気キャップ16の前端面16Sに対し、塗料ノズル30を、その案内壁32Aの面内におけるV字状溝15の底部Bの位置を塗料ノズル30のノズル先端部31の長手方向に沿って前方へ設定することにより、塗料ノズル30から拡散された塗料の空気キャップ16への付着を回避させることができる。
【0068】
このようなことから、本実施形態では、前記空気キャップ16の前端面16Sに対し、前記塗料ノズル30の前記案内壁32Aの面内における前記V字状溝15の底部Bは、塗料ノズル30のノズル先端部31の長手方向に沿って前方0.5mmから後方0.5mmの間の範囲wに位置するように構成することにより、空気キャップ16への塗料の付着を回避させるともに、塗料の分散を良好にでき微粒化を向上させるようにできるようになっている。
【0069】
なお、実施形態5に示した構成は、上述した実施形態1ないし4のうちいずれの形態に組み合わせて用いるようにしてもよいことはいうまでもない。
【0070】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。