(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、アミノ酸配列が改変された抗体定常領域、該定常領域を含む抗体、該抗体を含む医薬組成物、ならびに、それらの製造方法を提供する。
【0018】
抗体の重鎖定常領域にはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4タイプの定常領域が存在している。本発明においては特に限定されないが、重鎖定常領域は好ましくはヒト重鎖定常領域である。又、本発明においては特にヒトIgG2定常領域が好ましい。ヒトIgG2定常領域のアミノ酸配列は公知である(配列番号:24)。ヒトIgG2定常領域としては、遺伝子多形による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0019】
又、抗体の軽鎖定常領域にはκ鎖とλ鎖タイプの定常領域が存在している。本発明においては特に限定されないが、軽鎖定常領域はヒト軽鎖定常領域である。又、本発明においてはヒトκ鎖定常領域が好ましい。ヒトκ鎖定常領域のアミノ酸配列は公知である(配列番号:32)。ヒトκ鎖定常領域とヒトλ鎖定常領域としては、遺伝子多形による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0020】
なお本発明のアミノ酸が改変(置換、欠損、付加および/または挿入)された抗体定常領域は、本発明のアミノ酸の改変を含むものである限り、他のアミノ酸の改変や修飾を含んでもよい。
具体的には、次のような改変を含む定常領域は、いずれも本発明に含まれる。
*配列番号:24(ヒトIgG2定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入する。
*改変された配列番号:24(ヒトIgG2定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入する。
*配列番号:24(ヒトIgG2定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入し、更に付加的な改変も導入する。
【0021】
同様に、次のような改変を含む定常領域も本発明に含まれる。
*配列番号:32(ヒトκ鎖定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入する。
*改変された配列番号:32(ヒトκ鎖定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入する。
*配列番号:32(ヒトκ鎖定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入し、更に付加的な改変も導入する。
【0022】
また同様に、次のような改変を含む定常領域も本発明に含まれる。
*配列番号:37(ヒトλ鎖定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入する。
*改変された配列番号:37(ヒトλ鎖定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入する。
*配列番号:37(ヒトλ鎖定常領域)のアミノ酸配列に対して本発明に基づく改変を導入し、更に付加的な改変も導入する。
【0023】
また定常領域に糖鎖が結合する場合、結合する糖鎖の構造は如何なる構造でもよい。例えば、EUナンバリングの297番目の糖鎖は如何なる糖鎖構造であってもよく(好ましくはフコシル化された糖鎖)、また糖鎖が結合していなくてもよい(例えば大腸菌で生産することで可能)。
【0024】
<アミノ酸改変IgG2定常領域及び当該定常領域を含む抗体>
本発明は、安定性、ヘテロジェニティー、免疫原性および/または薬物動態が改善された重鎖定常領域を提供する。また本発明は当該重鎖定常領域を含む抗体を提供する。
より具体的には配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域(IgG2定常領域)において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、103番目(EUナンバリング220番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGlu、21番目(EUナンバリング138番目)のSer、147番目(EUナンバリング268番目)のHis、234番目(EUナンバリング355番目)のArgおよび298番目(EUナンバリング419番目)のGlnが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する重鎖定常領域及び当該重鎖定常領域を含む抗体を提供する。
【0025】
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、103番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに、147番目のHisはGlnに、234番目のArgはGlnに、298番目のGlnはGluに置換されることが好ましい。
【0026】
これらの置換を行うことにより、抗体の安定性、免疫原性および/または薬物動態を改善することが可能となる。特に、これらの置換によりIgG1よりも優れた薬物動態を有し、安定性、免疫原性にも優れた重鎖定常領域、及び当該重鎖定常領域を含む抗体を提供することが可能となった。
【0027】
本発明により提供される重鎖定常領域は少なくとも上述のアミノ酸置換が行われていればよく、同時に他のアミノ酸の改変(置換、欠損、付加および/または挿入など)や修飾がおこなわれていてもよい。
【0028】
さらに、本発明は、上述の重鎖定常領域にさらにアミノ酸置換を加えることにより、Fcγレセプターへの結合を低下させた重鎖定常領域を提供する。また本発明は当該重鎖定常領域を含む抗体を提供する。
より具体的には、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域(IgG2定常領域)において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、103番目(EUナンバリング220番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGlu、21番目(EUナンバリング138番目)のSer、147番目(EUナンバリング268番目)のHis、234番目(EUナンバリング355番目)のArg、298番目(EUナンバリング419番目)のGln、209番目(EUナンバリング330番目)のAla、210番目(EUナンバリング331番目)のPro、218番目(EUナンバリング339番目)のThrが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び当該重鎖定常領域を含む抗体を提供する。
【0029】
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、103番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに、147番目のHisはGlnに、234番目のArgはGlnに、298番目のGlnはGluに、209番目のAlaはSerに、210番目のProはSerに、218番目ThrはAlaに置換されることが好ましい。
【0030】
これらの置換を行うことにより、抗体の安定性、ヘテロジェニティー、免疫原性、安全性および/または薬物動態を改善することが可能となる。
【0031】
本発明により提供される重鎖定常領域は少なくとも上述のアミノ酸置換が行われていればよく、同時に他のアミノ酸の改変(置換、欠損、付加および/または挿入など)や修飾がおこなわれていてもよい。
【0032】
さらに、本発明は上述のいずれかの重鎖定常領域において、325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysがさらに欠損したアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び当該重鎖定常領域を含む抗体を提供する。これらのアミノ酸を欠損させることによりC末端のヘテロジェニティーを改善することが可能である。
【0033】
このようなアミノ酸の改変が行われた重鎖定常領域の具体的な例として、配列番号:30に記載のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域(M66)、または配列番号:31に記載のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域(M106)を挙げることができる。
【0034】
これらの重鎖定常領域は、Fcγレセプターへの結合活性の低下、免疫原性リスクの低減、ヒンジ領域のヘテロジェニティーの低減、C末端のヘテロジェニティーの低減、および/または薬物動態の向上という性質を有する、最適化された重鎖定常領域である。
【0035】
さらに、本発明においては上述のアミノ酸改変に加えて、さらに酸性での安定性が改善する為のアミノ酸改変を加えてもよい。
酸性での安定性を改善する為のアミノ酸改変の具体例としては、例えば、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、276番目(EUナンバリングの397番目)のMetを他のアミノ酸に置換する改変を挙げることができる。他のアミノ酸は特に限定されないが、Valであることが好ましい。配列番号:24に記載のアミノ酸配列において276番目(EUナンバリングの397番目)のMetが他のアミノ酸であることにより、抗体の酸性条件下での安定性を向上させることが可能である。
【0036】
<アミノ酸改変κ鎖定常領域及び当該κ鎖定常領域を含む抗体>
さらに、本発明はヒンジ領域のヘテロジェニティーを改善する為に用いることが可能な軽鎖定常領域を提供する。また本発明は当該軽鎖定常領域を含む抗体を提供する。
より具体的にはヒトκ鎖定常領域において、102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するヒトκ鎖定常領域、及び当該ヒトκ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:32に記載のアミノ酸配列を有するヒトκ鎖において、102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するとは、102番目のPhe〜106番目のGluの位置に少なくとも1つのCysが存在することを意味する。
【0037】
ヒトκ鎖の102番目〜106番目に含まれるCysの数は特に限定されないが、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。
【0038】
又、Cysが存在する位置は特に限定されないが、好ましくは104番目、105番目または106番目であり、より好ましくは105番目又は106番目であり、特に好ましくは106番目である。
【0039】
ヒトκ鎖の102番目〜106番目に少なくとも1つのCysが存在するヒトκ鎖定常領域において、当該定常領域に含まれるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは102アミノ酸〜107アミノ酸であり、より好ましくは105アミノ酸〜106アミノ酸であり、さらに好ましくは106アミノ酸である。
【0040】
102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するヒトκ鎖定常領域を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法を挙げることが出来る。又、以下の挿入、置換、欠損を組み合わせることも可能である。
・102〜106番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する
・102〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する
・1〜106番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる
【0041】
さらに、本発明はヒトκ鎖定常領域において、107番目の位置にCysが存在しないヒトκ鎖定常領域、及び当該ヒトκ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:32に記載のアミノ酸配列を有するヒトκ鎖において、107番目にCysが存在しないとは、107番目のCysが欠損している、他のアミノ酸に置換されている、他のアミノ酸が挿入されている、他の位置に移動していること等を意味する。好ましいヒトκ鎖定常領域としては、107番目のCysが欠損している、他の位置に移動している、又は他のアミノ酸に置換されているヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。
【0042】
本発明のヒトκ鎖定常領域の好ましい態様として、ヒトκ鎖定常領域において102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在し、かつ107番目の位置にCysが存在しないヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。
【0043】
このようなヒトκ鎖定常領域の好ましい例としては、例えば、1番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損しているヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。例えば、配列番号:32に記載のアミノ酸配列を有するヒトκ鎖定常領域において、106番目のGluが欠損した場合、107番目のCysは106番目に移動することから、106番目にCysが存在し、107番目にCysが存在しないヒトκ鎖定常領域となる。アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、105番目又は106番目のアミノ酸が欠損することがさらに好ましい。
【0044】
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
【0045】
このようなヒトκ鎖定常領域の好ましい例としては、105番目のアミノ酸が欠損しているヒトκ鎖定常領域、または106番目のアミノ酸が欠損しているヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。
【0046】
又、上述のヒトκ鎖定常領域の好ましい他の態様として、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysに置換され、かつ107番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されているヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
【0047】
Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、105番目または106番目を挙げることができる。
【0048】
このようなヒトκ鎖定常領域の好ましい例としては、105番目GlyがCysに置換され、かつ107番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトκ鎖定常領域、または106番目のGluがCysに置換されかつ107番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。本発明のヒトκ鎖定常領域の具体的な例として、配列番号:33(k3)のアミノ酸配列を有するヒトκ鎖定常領域、または配列番号:34(k4)のアミノ酸配列を有するヒトκ鎖定常領域を挙げることができる。
【0049】
本発明のヒトκ鎖定常領域は、上述のアミノ酸の改変に加えて、他のアミノ酸改変が行われてもよい。上述のアミノ酸改変が行われる限り、さらに他のアミノ酸の改変や修飾が行われたヒトκ鎖定常領域も、本発明のヒトκ鎖定常領域に含まれる。
【0050】
本発明のヒトκ鎖定常領域を用いることにより、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減らすことが可能となる。特に、配列番号:30(M66)又は配列番号:31(M106)のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域のように、EUナンバリング219又はEUナンバリング220のいずれか一方のみがCysとなっている重鎖定常領域(例えば、EUナンバリング219のみがCysとなっている重鎖定常領域)と本発明のκ鎖定常領域を組み合わせると効果的である。
【0051】
<アミノ酸改変λ鎖定常領域及び当該λ鎖定常領域を含む抗体>
さらに、本発明はヒンジ領域のヘテロジェニティーを改善する為に用いることが可能な軽鎖定常領域を提供する。また本発明は当該軽鎖定常領域を含む抗体を提供する。
より具体的にはヒトλ鎖定常領域において、99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するヒトλ鎖定常領域、及び当該ヒトλ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するヒトλ鎖において、99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するとは、99番目のVal〜103番目のGluの位置に少なくとも1つのCysが存在することを意味する。
【0052】
ヒトλ鎖の99番目〜103番目に含まれるCysの数は特に限定されないが、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。
【0053】
又、Cysが存在する位置は特に限定されないが、好ましくは101番目、102番目または103番目であり、より好ましくは102番目又は103番目であり、特に好ましくは103番目である。
【0054】
ヒトλ鎖の99番目〜103番目に少なくとも1つのCysが存在するヒトλ鎖定常領域において、当該定常領域に含まれるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは100アミノ酸〜103アミノ酸であり、より好ましくは102アミノ酸〜103アミノ酸であり、さらに好ましくは103アミノ酸である。
【0055】
99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するヒトλ鎖定常領域を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法を挙げることが出来る。又、以下の挿入、置換、欠損を組み合わせることも可能である。
・99〜103番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する
・99〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する
・1〜103番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる。
【0056】
さらに、本発明はヒトλ鎖定常領域において、104番目の位置にCysが存在しないヒトλ鎖定常領域、及び当該ヒトλ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するヒトλ鎖において、104番目にCysが存在しないとは、104番目のCysが欠損している、他のアミノ酸に置換されている、他のアミノ酸が挿入されている、他の位置に移動していること等を意味する。好ましいヒトλ鎖定常領域としては、104番目のCysが欠損している、他の位置に移動している、又は他のアミノ酸に置換されているヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。
【0057】
本発明のヒトλ鎖定常領域の好ましい態様として、ヒトλ鎖定常領域において99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在し、かつ104番目の位置にCysが存在しないヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。
【0058】
このようなヒトλ鎖定常領域の好ましい例としては、例えば、1番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損しているヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。例えば、配列番号:37に記載のアミノ酸配列を有するヒトλ鎖定常領域において、103番目のGluが欠損した場合、104番目のCysは103番目に移動することから、103番目にCysが存在し、104番目にCysが存在しないヒトλ鎖定常領域となる。アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、102番目又は103番目のアミノ酸が欠損することがさらに好ましい。
【0059】
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
【0060】
このようなヒトλ鎖定常領域の好ましい例としては、102番目のアミノ酸が欠損しているヒトλ鎖定常領域、または103番目のアミノ酸が欠損しているヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。
【0061】
又、上述のヒトλ鎖定常領域の好ましい他の態様として、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysに置換され、かつ104番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されているヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
【0062】
Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、102番目または103番目を挙げることができる。
【0063】
このようなヒトλ鎖定常領域の好ましい例としては、102番目のThrがCysに置換され、かつ104番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトλ鎖定常領域、または103番目のGluがCysに置換されかつ104番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。本発明のヒトλ鎖定常領域の具体的な例として、配列番号:38のアミノ酸配列を有するヒトλ鎖定常領域、または配列番号:39のアミノ酸配列を有するヒトλ鎖定常領域を挙げることができる。
【0064】
本発明のヒトλ鎖定常領域は、上述のアミノ酸の改変に加えて、他のアミノ酸改変が行われてもよい。上述のアミノ酸改変が行われる限り、さらに他のアミノ酸の改変や修飾が行われたヒトλ鎖定常領域も、本発明のヒトλ鎖定常領域に含まれる。
【0065】
本発明のヒトλ鎖定常領域を用いることにより、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減らすことが可能となる。特に、配列番号:30(M66)又は配列番号:31(M106)の配列を有する重鎖定常領域のようにEUナンバリング219又はEUナンバリング220のいずれか一方のみがCysとなっている重鎖定常領域(例えば、EUナンバリング219のみがCysとなっている重鎖定常領域)と本発明のヒトλ鎖定常領域を組み合わせると効果的である。
【0066】
なお、特定の理論に拘束されるものではないが、本発明のヒトκ鎖定常領域またはヒトλ鎖定常領域を用いることによりヒンジ領域のヘテロジェニティーが減少する理由として、例えばκ鎖を例として、以下のように考えることも可能である。
【0067】
図15に示すように、ヒトκ鎖定常領域の107番目の位置にあるシステインは、抗体に含まれる2つのH鎖のEUナンバリング219番目のシステインの両方とジスルフィド結合を形成することができる。この2種類のジスルフィド結合の存在により、ヒンジ領域のヘテロジェニティーが発生すると考えられる。
一方、本発明のヒトκ鎖定常領域のようにシステインの位置をN末端側に移動させることにより、このシステインと一方のH鎖のEUナンバリング219番目のシステインとの距離が遠くなり、2つのH鎖のうち片一方のH鎖に存在するEUナンバリング219番目のシステインとしかジスルフィド結合を形成できなくなる。その結果としてヒンジ領域のヘテロジェニティーが減少すると考えられる(
図16参照)。つまり、ヒトκ鎖定常領域のシステインと一方のH鎖EUナンバリング219番目のシステインとの距離を遠くすることにより、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを軽減できると考えられる。同様の方法により、ヒトλ鎖定常領域においても、一方のH鎖EUナンバリング219番目のシステインとの距離を遠くすることにより、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを軽減できると考えられる。
【0068】
<ヒト以外の動物由来のκ鎖定常領域及び当該κ鎖定常領域を含む抗体>
さらに、本発明の軽鎖定常領域の改変は、ヒト以外の動物由来の軽鎖定常領域を対象とすることも可能である。ヒト以外の動物由来の軽鎖定常領域の例としては、マウス抗体のκ鎖定常領域(配列番号:40)、ラット抗体のκ鎖定常領域(配列番号:41)、ラビット(ウサギ)抗体のκ鎖定常領域(配列番号:42または配列番号:43)などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0069】
従って本発明は、マウス抗体のκ鎖定常領域またはラット抗体のκ鎖定常領域において、102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するマウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域、及び当該定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するマウスκ鎖定常領域または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するラットκ鎖定常領域において、102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するとは、102番目のPhe〜106番目のGluの位置に少なくとも1つのCysが存在することを意味する。
【0070】
また本発明は、ラビット抗体のκ鎖定常領域(配列番号:42)において、99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するラビットκ鎖定常領域、及び当該ラビットκ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:42に記載のアミノ酸配列を有するラビットκ鎖において、99番目〜103番目の位置に少なくともCysが存在するとは、99番目のPhe〜103番目のAspの位置に少なくとも1つのCysが存在することを意味する。
【0071】
また本発明は、ラビット抗体のκ鎖定常領域(配列番号:43)において、101番目〜105番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するラビットκ鎖定常領域、及び当該ラビットκ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するラビットκ鎖において、101番目〜105番目の位置に少なくともCysが存在するとは、101番目のPhe〜105番目のAspの位置に少なくとも1つのCysが存在することを意味する。
【0072】
マウスκ鎖定常領域の102番目〜106番目、ラットκ鎖定常領域の102番目〜106番目、ラビットκ鎖定常領域(配列番号:42)の99番目〜103番目、またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:43)の101番目〜105番目に含まれるCysの数は特に限定されないが、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。
【0073】
又、Cysが存在する位置は特に限定されないが、マウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域の場合、好ましくは104番目、105番目または106番目であり、より好ましくは105番目又は106番目であり、特に好ましくは106番目である。
ラビットκ鎖定常領域(配列番号:42)の場合、好ましくは101番目、102番目または103番目であり、より好ましくは102番目又は103番目であり、特に好ましくは103番目である。
ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43)の場合、好ましくは103番目、104番目または105番目であり、より好ましくは104番目又は105番目であり、特に好ましくは105番目である。
【0074】
これらのκ鎖定常領域において、当該定常領域に含まれるアミノ酸の数は特に限定されないが、マウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域の場合、好ましくは102アミノ酸〜107アミノ酸であり、より好ましくは105アミノ酸〜106アミノ酸であり、さらに好ましくは106アミノ酸である。
又、ラビットκ鎖定常領域(配列番号:42)の場合、好ましくは99アミノ酸〜104アミノ酸であり、より好ましくは102アミノ酸〜103アミノ酸であり、さらに好ましくは103アミノ酸である。
又、ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43)の場合、好ましくは101アミノ酸〜106アミノ酸であり、より好ましくは104アミノ酸〜105アミノ酸であり、さらに好ましくは105アミノ酸である
【0075】
102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するマウスまたはラットκ鎖定常領域を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法を挙げることが出来る。又、以下の挿入、置換、欠損を組み合わせることも可能である。
・102〜106番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する
・102〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する
・1〜106番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる
【0076】
又、99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するラビットκ鎖定常領域を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法を挙げることが出来る。又、以下の挿入、置換、欠損を組み合わせることも可能である。
・99〜103番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する
・99〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する
・1〜103番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる
【0077】
又、101番目〜105番目の位置に少なくとも1つのCysが存在するラビットκ鎖定常領域を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法を挙げることが出来る。又、以下の挿入、置換、欠損を組み合わせることも可能である。
・101〜105番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する
・101〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する
・1〜105番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる
【0078】
さらに、本発明はマウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域において、107番目の位置にCysが存在しないマウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域、及び当該κ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:40に記載のアミノ酸配列を有するマウスκ鎖定常領域または配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するラットκ鎖定常領域において、107番目にCysが存在しないとは、107番目のCysが欠損している、他のアミノ酸に置換されている、他のアミノ酸が挿入されている、他の位置に移動していること等を意味する。好ましいκ鎖定常領域としては、107番目のCysが欠損している、他の位置に移動している、又は他のアミノ酸に置換されているκ鎖定常領域を挙げることができる。
本発明のκ鎖定常領域の好ましい態様として、κ鎖定常領域において102番目〜106番目の位置に少なくとも1つのCysが存在し、かつ107番目の位置にCysが存在しないκ鎖定常領域を挙げることができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、例えば、1番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損しているκ鎖定常領域を挙げることができる。例えば、配列番号:40または41に記載のアミノ酸配列を有するκ鎖定常領域において、106番目のGluが欠損した場合、107番目のCysは106番目に移動することから、106番目にCysが存在し、107番目にCysが存在しないκ鎖定常領域となる。アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、105番目又は106番目のアミノ酸が欠損することがさらに好ましい。
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、105番目のアミノ酸が欠損しているκ鎖定常領域、または106番目のアミノ酸が欠損しているκ鎖定常領域を挙げることができる。
又、上述の、107番目の位置にCysが存在しないマウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域の好ましい他の態様として、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysに置換され、かつ107番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されているκ鎖定常領域を挙げることができる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、105番目または106番目を挙げることができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、105番目のAsnがCysに置換され、かつ107番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトκ鎖定常領域、または106番目のGluがCysに置換されかつ107番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたκ鎖定常領域を挙げることができる。
本発明のマウスκ鎖定常領域またはラットκ鎖定常領域は、上述のアミノ酸の改変に加えて、他のアミノ酸改変が行われてもよい。上述のアミノ酸改変が行われる限り、さらに他のアミノ酸の改変や修飾が行われたκ鎖定常領域も、本発明のκ鎖定常領域に含まれる。
【0079】
さらに、本発明はラビットκ鎖定常領域(配列番号:42)において、104番目の位置にCysが存在しないラビットκ鎖定常領域、及び当該κ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:42に記載のアミノ酸配列を有するラビットκ鎖定常領域において、104番目にCysが存在しないとは、104番目のCysが欠損している、他のアミノ酸に置換されている、他のアミノ酸が挿入されている、他の位置に移動していること等を意味する。好ましいκ鎖定常領域としては、104番目のCysが欠損している、他の位置に移動している、又は他のアミノ酸に置換されているκ鎖定常領域を挙げることができる。
本発明のκ鎖定常領域の好ましい態様として、κ鎖定常領域において99番目〜103番目の位置に少なくとも1つのCysが存在し、かつ104番目の位置にCysが存在しないκ鎖定常領域を挙げることができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、例えば、1番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損しているκ鎖定常領域を挙げることができる。例えば、配列番号:42に記載のアミノ酸配列を有するκ鎖定常領域において、103番目のAspが欠損した場合、104番目のCysは103番目に移動することから、103番目にCysが存在し、104番目にCysが存在しないκ鎖定常領域となる。アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、102番目又は103番目のアミノ酸が欠損することがさらに好ましい。
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、102番目のアミノ酸が欠損しているκ鎖定常領域、または103番目のアミノ酸が欠損しているκ鎖定常領域を挙げることができる。
又、上述の、104番目の位置にCysが存在しないラビットκ鎖定常領域の好ましい他の態様として、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysに置換され、かつ104番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されているκ鎖定常領域を挙げることができる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、102番目または103番目を挙げることができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、102番目のGlyがCysに置換され、かつ104番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトκ鎖定常領域、または103番目のAspがCysに置換されかつ104番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたκ鎖定常領域を挙げることができる。
本発明のラビットκ鎖定常領域は、上述のアミノ酸の改変に加えて、他のアミノ酸改変が行われてもよい。上述のアミノ酸改変が行われる限り、さらに他のアミノ酸の改変や修飾が行われたκ鎖定常領域も、本発明のκ鎖定常領域に含まれる。
【0080】
さらに、本発明はラビットκ鎖定常領域(配列番号:43)において、106番目の位置にCysが存在しないラビットκ鎖定常領域、及び当該κ鎖定常領域を含む抗体を提供する。例えば、配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するラビットκ鎖定常領域において、106番目にCysが存在しないとは、106番目のCysが欠損している、他のアミノ酸に置換されている、他のアミノ酸が挿入されている、他の位置に移動していること等を意味する。好ましいκ鎖定常領域としては、106番目のCysが欠損している、他の位置に移動している、又は他のアミノ酸に置換されているκ鎖定常領域を挙げることができる。
本発明のκ鎖定常領域の好ましい態様として、κ鎖定常領域において101番目〜105番目の位置に少なくとも1つのCysが存在し、かつ106番目の位置にCysが存在しないκ鎖定常領域を挙げることができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、例えば、1番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損しているκ鎖定常領域を挙げることができる。例えば、配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するκ鎖定常領域において、105番目のAspが欠損した場合、106番目のCysは105番目に移動することから、105番目にCysが存在し、106番目にCysが存在しないκ鎖定常領域となる。アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、104番目又は105番目のアミノ酸が欠損することがさらに好ましい。
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、104番目のアミノ酸が欠損しているκ鎖定常領域、または105番目のアミノ酸が欠損しているκ鎖定常領域を挙げることができる。
又、上述の、106番目の位置にCysが存在しないラビットκ鎖定常領域の好ましい他の態様として、101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysに置換され、かつ106番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されているκ鎖定常領域を挙げることができる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、104番目または105番目を挙げることができる。
このようなκ鎖定常領域の好ましい例としては、104番目GlyがCysに置換され、かつ106番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたヒトκ鎖定常領域、または105番目のAspがCysに置換されかつ106番目のCysが欠損または他のアミノ酸に置換されたκ鎖定常領域を挙げることができる。
本発明のラビットκ鎖定常領域は、上述のアミノ酸の改変に加えて、他のアミノ酸改変が行われてもよい。上述のアミノ酸改変が行われる限り、さらに他のアミノ酸の改変や修飾が行われたκ鎖定常領域も、本発明のκ鎖定常領域に含まれる。
【0081】
さらに、本発明は上述のいずれかに記載のアミノ酸の改変を有する重鎖定常領域を含む抗体を提供する。又、本発明は上述のいずれかに記載のアミノ酸の改変を有する軽鎖定常領域を含む抗体を提供する。さらに本発明は、上述のいずれかに記載のアミノ酸の改変を有する重鎖定常領域、及び、上述のいずれかに記載のアミノ酸の改変を有する軽鎖定常領域を含む抗体を提供する。本発明の抗体におけるアミノ酸の改変には、本明細書の記載から特定可能な全ての改変、及びその組み合わせが含まれる。
さらに、本発明は上述のいずれかに記載のアミノ酸改変を有する軽鎖定常領を含む軽鎖、および少なくとも一つのCysが他のアミノ酸に置換された重鎖定常領域を含む抗体を提供する。重鎖定常領域は特に限定されないが、IgG2定常領域であることが好ましい。重鎖定常領域がIgG2定常領域の場合、置換される
Cysは特に限定されないが、例えば、EUナンバリング131(配列番号:24の14番目)、EUナンバリング219(配列番号:24の102番目)、EUナンバリング220(配列番号:24の103番目)のCysの少なくとも1つが他のアミノ酸に置換された定常領域を挙げることができる。2つのCysが他のアミノ酸に置換される場合、その組み合わせは特に限定されず、EUナンバリング131とEUナンバリング219の組み合わせ、EUナンバリング131とEUナンバリング220の組み合わせ等を挙げることができる。
さらに、本発明は上述のいずれかに記載のアミノ酸改変を有する軽鎖定常領域を含む軽鎖、およびEUナンバリング219(配列番号:24の102番目)がCysであり、EUナンバリング220(配列番号:24の103番目)がCysでない重鎖定常領域を含む重鎖を含む抗体を提供する。重鎖定常領域は特に限定されないが、好ましくはIgG2定常領域、より好ましくはM66又はM106である。抗体定常領域は1または複数のアミノ酸(例えば、20アミノ酸以内、10アミノ酸以内など)が置換、欠失、付加および/または挿入されていてもよい。
本発明の抗体を構成する可変領域は、任意の抗原を認識する可変領域であることが出来る。本発明における好ましい可変領域として、抗原の中和作用を有する抗体の可変領域を示すことが出来る。たとえば、IL6受容体、IL31受容体、RANKLの中和作用を有する抗体の可変領域を、本発明の抗体を構成する可変領域とすることが出来る。
【0082】
本発明の抗体は上述の抗体定常領域を有する限り、抗原の種類、抗体の由来などは限定されず、いかなる抗体でもよい。抗体の由来としては、特に限定されないが、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体などを挙げることができる。又、本発明の抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。本発明の抗体の好ましい態様として、ヒト化抗体を挙げることができる。
【0083】
本発明の抗体分子は、通常、重鎖と軽鎖とを含む。重鎖は、定常領域に加え、可変領域を含むことができる。可変領域は、ヒトのみならずヒト以外の動物種に由来する可変部を含むこともできる。更に、マウスなどのヒト以外の種に由来する可変部からCDRを移植して可変部をヒト化することもできる。重鎖と軽鎖で構成される抗体分子は、オリゴマーであることもできる。具体的には、1量体、2量体、あるいはそれ以上のオリゴマーであってもよい。
また、上述の抗体定常領域は生理活性ペプチド、抗原結合ペプチド等の様々な分子と結合させて、融合蛋白質とすることも可能である。
【0084】
また本発明の抗体には、上述のいずれかに記載の定常領域を含む抗体であればその修飾物も含まれる。
【0085】
抗体の修飾物の例としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞障害性物質等の各種分子と結合させた抗体を挙げることができる。このような抗体修飾物は、本発明の抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0086】
さらに、本発明の抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいうが、当該エピトープは異なる分子中に存在していてもよいし、同一の分子中に存在していてもよい。
【0087】
上述の抗体定常領域は任意の抗原に対する抗体の定常領域として使用することが可能であり、抗原は特に限定されない。
【0088】
本発明の抗体は当業者に公知の方法で作製することが可能である。例えば、1又は複数のアミノ酸残基を目的の他のアミノ酸に置換する方法、または、1又は複数のアミノ酸残基を欠損される方法としては、例えば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)が挙げられる。該方法を用いて、抗体の定常領域の所望のアミノ酸を目的の他のアミノ酸に置換することができる。また1又は複数のアミノ酸残基を欠損させることが出来る。
【0089】
抗体を取得する為の別の態様としては、まず、当業者に周知な方法によって、目的の抗原に結合する抗体を得る。取得された抗体が非ヒト動物抗体であれば、ヒト化することもできる。抗体の結合活性は当業者に公知の方法で測定することができる。次いで、抗体の定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基を、目的の他のアミノ酸に置換または欠損する。
【0090】
本発明は、以下の(a)及び(b)の工程を含む、重鎖定常領域のアミノ酸残基および/または軽鎖定常領域のアミノ酸残基が改変された抗体の製造方法に関する。
(a)定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された重鎖および/または定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された軽鎖をコードするDNAを発現させる工程
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程
重鎖定常領域のアミノ酸残基の改変としては、例えば以下が挙げられるがこれらに限定されない。
(1)IgG2定常領域(配列番号:24のアミノ酸配列)において、14番目(EUナンバリング131番目)のCysをSerに、16番目(EUナンバリング133番目)のArgをLysに、103番目(EUナンバリング220番目)のCysをSerに、20番目(EUナンバリング137番目)のGluをGlyに、21番目(EUナンバリング138番目)のSerをGlyに、147番目(EUナンバリング268番目)のHisをGlnに、234番目(EUナンバリング355番目)のArgをGlnに、298番目(EUナンバリング419番目)のGlnをGluに置換する。このような置換により、安定性が向上した抗体、免疫原性および/または薬物動態が改善された抗体を製造することが可能である。
(2)IgG2定常領域(配列番号:24のアミノ酸配列)において、14番目(EUナンバリング131番目)のCysをSerに、16番目(EUナンバリング133番目)のArgをLysに、103番目(EUナンバリング220番目)のCysをSerに、20番目(EUナンバリング137番目)のGluをGlyに、21番目(EUナンバリング138番目)のSerをGlyに、147番目(EUナンバリング268番目)のHisをGlnに、234番目(EUナンバリング355番目)のArgをGlnに、298番目(EUナンバリング419番目)のGlnをGluに、209番目(EUナンバリング330番目)のAlaをSerに、210番目(EUナンバリング331番目)のProをSerに、218番目(EUナンバリング339番目)のThrをAlaに置換する。このような置換により、Fcγレセプターへの結合を低下させた抗体を製造することが可能である。
(3)IgG2定常領域(配列番号:24のアミノ酸配列)において、325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysを欠損させる。このような欠損により、C末端のヘテロジェニティーが改善された抗体を製造することが可能である。
(4)IgG2定常領域(配列番号:24のアミノ酸配列)において、276番目(EUナンバリングの397番目)のMetをValに置換する。このような置換により、酸性条件下での安定性が向上した抗体を製造することが可能である。
【0091】
また軽鎖定常領域のアミノ酸残基の改変としては、例えば以下が挙げられるがこれらに限定されない。以下の改変により、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減らすことが可能である。
(1)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、102番目〜106番目に少なくとも1つのCysが存在するようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(2)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、107番目の位置にCysが存在しないようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(3)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、102番目〜106番目に少なくとも1つのCysが存在し、かつ107番目の位置にCysが存在しないようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(4)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、1番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させる。
(5)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させる。
(6)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、105番目のアミノ酸を欠損させる。
(7)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、106番目のアミノ酸を欠損させる。
(8)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysに置換する。
(9)ヒトκ鎖定常領域(配列番号:32のアミノ酸配列)、マウスκ鎖定常領域(配列番号:40のアミノ酸配列)またはラットκ鎖定常領域(配列番号:41のアミノ酸配列)において、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysを置換し、かつ107番目のCysを他のアミノ酸に置換する又は欠損させる。
(10)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、99番目〜103番目に少なくとも1つのCysが存在するようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(11)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、104番目の位置にCysが存在しないようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(12)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、99番目〜103番目に少なくとも1つのCysが存在し、かつ104番目の位置にCysが存在しないようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(13)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、1番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させる。
(14)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させる。
(15)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、102番目のアミノ酸を欠損させる。
(16)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、103番目のアミノ酸を欠損させる。
(17)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysに置換する。
(18)ヒトλ鎖定常領域(配列番号:37のアミノ酸配列)またはラビットκ鎖定常領域(配列番号:42のアミノ酸配列)において、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysを置換し、かつ104番目のCysを他のアミノ酸に置換する又は欠損させる。
(19)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、101番目〜105番目に少なくとも1つのCysが存在するようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(20)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、106番目の位置にCysが存在しないようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(21)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、101番目〜105番目に少なくとも1つのCysが存在し、かつ106番目の位置にCysが存在しないようにアミノ酸を置換または欠損させる。
(22)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、1番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させる。
(23)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させる。
(24)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、104番目のアミノ酸を欠損させる。
(25)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、105番目のアミノ酸を欠損させる。
(26)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysに置換する。
(27)ラビットκ鎖定常領域(配列番号:43のアミノ酸配列)において、101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つがCysを置換し、かつ106番目のCysを他のアミノ酸に置換する又は欠損させる。
【0092】
また本発明は、本発明のアミノ酸の改変を有する重鎖定常領域を含む抗体重鎖をコードするポリヌクレオチド及び/又は本発明のアミノ酸の改変を有する軽鎖定常領域を含む抗体軽鎖をコードするポリヌクレオチドが導入されたベクターを含む宿主細胞を培養する工程を含む、抗体を製造する方法を提供する。
より具体的には、以下の工程を含む、本発明のアミノ酸の改変を有する重鎖定常領域及び/又は本発明のアミノ酸の改変を有する軽鎖定常領域を含む抗体の製造方法を提供する。
(a)本発明のアミノ酸の改変を有する重鎖定常領域を含む抗体重鎖をコードするポリヌクレオチド及び/又は本発明のアミノ酸の改変を有する軽鎖定常領域を含む抗体軽鎖をコードする遺伝子が導入されたベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(b)当該遺伝子によりコードされる抗体重鎖及び/又は抗体軽鎖を取得する工程。
重鎖定常領域のアミノ酸の改変としては上述の(1)〜
(4)に記載のアミノ酸置換やアミノ酸欠損が挙げられるがこれらに限定されない。
軽鎖定常領域のアミノ酸の改変としては上述の(1)〜(27)に記載のアミノ酸置換やアミノ酸欠損が挙げられるがこれらに限定されない。
【0093】
本発明の抗体の製造方法においては、まず、抗体の重鎖をコードするDNAであって、定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された重鎖をコードするDNA、および/または抗体の軽鎖をコードするDNAであって、定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的のアミノ酸に置換または欠損された軽鎖をコードするDNAを発現させる。定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された重鎖および/または定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された軽鎖をコードするDNAは、例えば、野生型の重鎖および/または軽鎖をコードするDNAの定常領域部分を取得し、該定常領域中の特定のアミノ酸をコードするコドンが目的の他のアミノ酸をコードするよう、適宜置換を導入することによって得ることが出来る。
【0094】
また、あらかじめ、野生型重鎖の定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損されたタンパク質をコードするDNAを設計し、該DNAを化学的に合成することによって、定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された重鎖および/または定常領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された軽鎖をコードするDNAを得ることも可能である。
【0095】
アミノ酸置換及び欠損の種類としては、これに限定されるものではないが、本明細書に記載の置換及び欠損が挙げられる。
【0096】
また、定常領域中において、1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された重鎖および/または1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換または欠損された軽鎖をコードするDNAは、部分DNAに分けて製造することができる。部分DNAの組み合わせとしては、例えば、可変領域をコードするDNAと定常領域をコードするDNA、あるいはFab領域をコードするDNAとFc領域をコードするDNAなどが挙げられるが、これら組み合わせに限定されるものではない。
【0097】
上記DNAを発現させる方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、重鎖可変領域をコードするDNAを、重鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み重鎖発現ベクターを構築する。同様に、軽鎖可変領域をコードするDNAを、軽鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み軽鎖発現ベクターを構築する。これらの重鎖、軽鎖の遺伝子を単一のベクターに組み込むことも出来る。発現ベクターとしては例えばSV40 virus basedベクター、EB virus basedベクター、BPV(パピローマウイルス)basedベクターなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
以上の方法で作製された抗体発現ベクターにより宿主細胞を共形質転換する。宿主細胞としてはCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)等上述の細胞の他にも大腸菌、酵母や枯草菌などの微生物や動植物の個体が用いられる(Nature Biotechnology 25, 563 - 565 (2007)、Nature Biotechnology 16, 773 - 777 (1998)、Biochemical and Biophysical Research Communications 255, 444-450 (1999)、Nature Biotechnology 23, 1159 - 1169 (2005)、Journal of Virology 75, 2803-2809 (2001)、Biochemical and Biophysical Research Communications 308, 94-100 (2003))。またヒト胎児腎癌細胞由来HEK298H細胞が用いられる。また、形質転換にはリポフェクチン法(R.W.Malone et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,6077 (1989), P.L.Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413 (1987)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(F.L.Graham & A.J.van der Eb,Virology 52,456-467(1973))、DEAE-Dextran法等が好適に用いられる。
【0099】
抗体の製造においては、次に、発現産物を回収する。発現産物の回収は、例えば、形質転換体を培養した後、形質転換体の細胞内又は培養液より抗体を分離、精製することによって行うことが出来る。抗体の分離、精製には、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、1q、FcRn、プロテインA、プロテインGカラム、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0100】
本発明は上記のようにして製造された抗体を提供する。すなわち本発明は、次の工程によって製造することができる抗体に関する。
(a)可変領域と定常領域を含む抗体の重鎖と、軽鎖をコードするDNAを宿主細胞で発現させる工程;、および
(b)(a)において発現された抗体を回収する工程;
【0101】
上記方法において、重鎖及び軽鎖の定常領域のアミノ酸配列は、本発明によって提供された上記の定常領域であることを特徴とする。本発明の好ましい態様において、重鎖の定常領域はたとえば配列番号:24、26〜31に示すアミノ酸配列からなる。このアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを、重鎖可変領域をコードするDNAと連結すれば、抗体の重鎖をコードするDNAとすることができる。また、軽鎖の定常領域はたとえば配列番号:32〜34、37〜39に示すアミノ酸配列からなる。このアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを、可変領域をコードするDNAと連結すれば、抗体の
軽鎖をコードするDNAとすることができる。
【0102】
上述のとおり、本発明の抗体を構成する可変領域は、任意の抗原を認識する可変領域であることが出来る。本発明の抗体を構成する可変領域は特に限定されるものではないが、例えば以下の可変領域が例示できる。
【0103】
例えばIL6受容体の中和作用を有する抗体の場合、重鎖の可変領域として、配列番号:5に示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗体の重鎖におけるCDR1、CDR2、CDR3を有する可変領域が挙げられる。また軽鎖の可変領域として、配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗体の軽鎖におけるCDR1、CDR2、CDR3を有する可変領域が挙げられる。
【0104】
例えばIL31受容体の中和作用を有する抗体の場合、重鎖の可変領域として、配列番号:13に示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗体の重鎖におけるCDR1、CDR2、CDR3を有する可変領域が挙げられる。また軽鎖の可変領域として、配列番号:12に示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗体の軽鎖におけるCDR1、CDR2、CDR3を有する可変領域が挙げられる。
【0105】
例えばRANKLの中和作用を有する抗体の場合、重鎖の可変領域として、配列番号:17に示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗体の重鎖におけるCDR1、CDR2、CDR3を有する可変領域が挙げられる。また軽鎖の可変領域として、配列番号:16に示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗体の軽鎖におけるCDR1、CDR2、CDR3を有する可変領域が挙げられる。
【0106】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を構成するアミノ酸配列は、その抗原結合活性が維持される限り、1又は複数のアミノ酸残基の改変及び/又は修飾が許容される。本発明において、抗体の可変領域を改変する場合、そのCDRのアミノ酸配列を保存することが好ましい。CDRのアミノ酸配列を保存することによって、可変領域の抗原結合活性を維持することが出来る。可変領域において改変が許容されるアミノ酸残基の数は、通常1から10、例えば1から5、好ましくは1または2アミノ酸である。
例えば、可変領域のN末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である。したがって、本発明の抗体は、その重鎖のN末端がグルタミンの場合には、それがピログルタミン酸に修飾された可変領域を含む。
なお本発明の改変には、上アミノ酸の置換、欠損、付加及び/又は挿入、並びにそれらの組み合わせが含まれる。
【0107】
さらに、本発明は本発明のアミノ酸の改変を有する抗体の定常領域をコードする遺伝子を提供する。本発明の定常領域をコードする遺伝子はDNA、RNAなど、如何なる遺伝子でもよい。
【0108】
さらに、本発明は当該遺伝子を含むベクターを提供する。ベクターの種類はベクターが導入される宿主細胞に応じて当業者が適宜選択することができ、例えば上述のベクターを用いることができる。
【0109】
さらに、本発明は当該ベクターにより形質転換された宿主細胞に関する。宿主細胞は当業者が適宜選択することができ、例えば上述の宿主細胞を用いることができる。
【0110】
さらに、本発明は当該宿主細胞を培養し、発現した本発明の定常領域を回収する工程を含む、本発明の定常領域の製造方法に関する。
【0111】
<重鎖定常領域のアミノ酸改変による抗体の機能改変>
また本発明は、配列番号:24に記載のヒトIgG2定常領域のアミノ酸を改変する工程を含む、抗体の機能を向上させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。抗体の機能向上としては、抗体の安定性の向上、免疫原性の低減、薬物動態を改善などが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の方法は以下(a)〜(h)の工程を含む。
(a)配列番号:24の14番目(EUナンバリング131番目)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(b)配列番号:24の16番目(EUナンバリング133番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、
(c)配列番号:24の103番目(EUナンバリング220番目)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(d)配列番号:24の20番目(EUナンバリング137番目)のGluを他のアミノ酸に置換する工程、
(e)配列番号:24の21番目(EUナンバリング138番目)のSerを他のアミノ酸に置換する工程、
(f)配列番号:24の147番目(EUナンバリング268番目)のHisを他のアミノ酸に置換する工程、
(g)配列番号:24の234番目(EUナンバリング355番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、
(h)配列番号:24の298番目(EUナンバリング419番目)のGlnを他のアミノ酸に置換する工程。
【0112】
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、103番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに、147番目のHisはGlnに、234番目のArgはGlnに、298番目のGlnはGluに置換されることが好ましい。
【0113】
本発明の方法は、上記工程を含む限り、他のアミノ酸の改変(置換、欠損、付加および/または挿入)や修飾、その他工程を含むものであってもよい。アミノ酸の改変や修飾の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
【0114】
さらに、本発明の方法は、上述の工程に加えて、C末端のヘテロジェニティーを減少させるために、
325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysを欠損させる工程、
をさらに含んでもよい。
【0115】
また本発明は、配列番号:24に記載のヒトIgG2定常領域のアミノ酸を改変する工程を含む、抗体の機能を向上させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。抗体の機能向上としては、抗体の安定性の向上、免疫原性の低減、安全性をの向上、薬物動態の改善などが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の方法は以下(a)〜(k)の工程を含む。
(a)配列番号:24の14番目(EUナンバリング131番目)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(b)配列番号:24の16番目(EUナンバリング133番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、
(c)配列番号:24の103番目(EUナンバリング220番目)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(d)配列番号:24の20番目(EUナンバリング137番目)のGluを他のアミノ酸に置換する工程、
(e)配列番号:24の21番目(EUナンバリング138番目)のSerを他のアミノ酸に置換する工程、
(f)配列番号:24の147番目(EUナンバリング268番目)のHisを他のアミノ酸に置換する工程、
(g)配列番号:24の234番目(EUナンバリング355番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、
(h)配列番号:24の298番目(EUナンバリング419番目)のGlnを他のアミノ酸に置換する工程、
(i)配列番号:24の209番目(EUナンバリング330番目)のAlaを他のアミノ酸に置換する工程、
(j)配列番号:24の210番目(EUナンバリング331番目)のProを他のアミノ酸に置換する工程、
(k)配列番号:24の218番目(EUナンバリング339番目)のThrを他のアミノ酸に置換する工程。
【0116】
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、103番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに、147番目のHisはGlnに、234番目のArgはGlnに、298番目のGlnはGluに、209番目のAlaはSerに、210番目のProはSerに、218番目ThrはAlaに置換されることが好ましい。
【0117】
本発明の方法は、上記工程を含む限り、他のアミノ酸の改変(置換、欠損、付加および/または挿入)や修飾、その他工程を含むものであってもよい。アミノ酸のの改変や修飾の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
【0118】
さらに、本発明の方法は、上述の工程に加えて、C末端のヘテロジェニティーを減少させるために、
325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysを欠損させる工程、
をさらに含んでもよい。
【0119】
さらに、本発明は抗体定常領域のジスルフィド結合パターンを制御(又は改変)することにより、抗体の血中動態(薬物動態)を向上させる方法に関する。抗体定常領域は特に限定されないが、抗体軽鎖定常領域(κ鎖定常領域又はλ鎖定常領域)とIgG2定常領域との間のジスルフィド結合パターンを制御することが好ましい。
具体的には本発明は、重鎖定常領域EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間で特異的にジスルフィド結合を形成させる工程を含む、抗体の薬物動態を向上させる方法に関する。
上述の工程においては、さらに重鎖定常領域EUナンバリング220のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合を形成させないことが好ましい。
本発明の方法においては必ずしも全ての抗体が重鎖EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合を形成する必要はなく、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の抗体が重鎖EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合を形成していればよい。
【0120】
重鎖EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合を形成させる工程は如何なる方法により行われてもよく、例えば、重鎖EUナンバリング220(配列番号:24の103番目)のCysを他のアミノ酸に置換することにより行うことができる。重鎖EUナンバリングの220のCysを他のアミノ酸に置換することにより、軽鎖C末端に存在するCysと重鎖EUナンバリング220との間でジスルフィド結合が形成することがなくなり、軽鎖C末端に存在するCysと重鎖EUナンバリング219(配列番号:24の102番目)のCysとの間でジスルフィド結合が形成されることになる。
本発明においては、EUナンバリング220のCysとともに、さらにEUナンバリング131番目のCysも他のアミノ酸に置換してもよい。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、例えばSerに置換することが可能である。
【0121】
本発明の方法において軽鎖C末端領域のCysとは、例えばヒトκ鎖定常領域の場合、通常、102番目〜106番目(例えば配列番号:32に記載のヒトκ鎖定常領域の102番目〜106番目)の領域に存在するCysであり、好ましくは104番目〜106番目の領域に存在するCysである。又、例えばヒトλ鎖定常領域の場合、通常、99番目〜105番目(例えば、配列番号:37に記載のヒトλ鎖定常領域の99番目〜105番目)の領域に存在するCysであり、好ましくは102番目〜104番目の領域に存在するCysである。
本発明の方法で使用されるIgG2定常領域は、配列番号:24に記載のアミノ酸配列から1又は複数(例えば20アミノ酸以内、10アミノ酸以内、など)のアミノ酸が欠失、置換、付加および/または挿入されていてもよい。又、本発明の方法で使用されるIgG2は、本明細書の記載から特定可能な改変又はその組み合わせを含むことが出来る。
又、本発明の方法で使用されるヒトκ鎖定常領域は、配列番号:32に記載のアミノ酸配列から1又は複数(例えば20アミノ酸以内、10アミノ酸以内、など)のアミノ酸が欠失、置換、付加および/または挿入されていてもよい。
又、本発明の方法で使用されるヒトλ鎖定常領域は、配列番号:37に記載のアミノ酸配列から1又は複数(例えば20アミノ酸以内、10アミノ酸以内、など)のアミノ酸が欠失、置換、付加および/または挿入されていてもよい。
又、本発明の方法で使用されるヒトκ鎖定常領域、ヒトλ鎖定常領域は、本明細書の記載から特定可能な改変又はその組み合わせを含むことが出来る。
【0122】
重鎖定常領域EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合が形成された抗体は、重鎖定常領域EUナンバリング220のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合が形成された抗体と比較して、薬物動態が高いことが判明した。従って、本発明は重鎖定常領域EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合を形成させることにより薬物動態が向上した抗体を提供する。本発明の方法は医薬品として優れた、高い薬物動態を有する抗体の作製に有用である。
【0123】
<軽鎖定常領域のアミノ酸の改変による抗体の機能改変>
また本発明は、配列番号:32に記載のヒトκ定常領域、配列番号:40に記載のマウスκ鎖定常領域または配列番号:41に記載のラットκ鎖定常領域において、102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入するとは、ヒトκ鎖定常領域の102番目〜106番目に少なくとも1つのCysが存在する状態にすることを言う。
【0124】
さらに本発明は、配列番号:32に記載のヒトκ定常領域、配列番号:40に記載のマウスκ鎖定常領域または配列番号:41に記載のラットκ鎖定常領域において、107番目のCysを消失(欠損)させる工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、107番目のCysを消失させるとは、ヒトκ鎖定常領域の107番目の位置にCysが存在しない状態にすることを言う。
【0125】
さらに本発明は、配列番号:32に記載のヒトκ鎖定常領域、配列番号:40に記載のマウスκ鎖定常領域または配列番号:41に記載のラットκ鎖定常領域において、
(a)102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程、および
(b)107番目のCysを消失(欠損)させる工程
を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程と107番目のCysを消失させる工程は単一の工程で行われてもよい。
【0126】
102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程において、導入するCysの数は特に限定されないが、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。
Cysが導入される位置は特に限定されないが、好ましくは104番目、105番目または106番目であり、より好ましくは105番目又は106番目であり、特に好ましくは106番目である。
【0127】
102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程の具体的な例としては、例えば以下の工程を挙げることができる。又、これらの工程を組み合わせることも可能である。
・102〜106番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する工程
・102〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する工程
・1〜106番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる工程
【0128】
107番目のCysを消失させる工程の具体的な例としては、例えば以下の工程を挙げることができる。
・107番目のCysを欠損する工程
・107番目のCysを他のアミノ酸に置換する工程
・107番目の位置に他のアミノ酸を挿入する工程
・1〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させることにより107番目のCysを他の位置に移動させる工程
【0129】
本発明の方法(配列番号:32に記載のヒトκ鎖定常領域、配列番号:40に記載のマウスκ鎖定常領域または配列番号:41に記載のラットκ鎖定常領域において、(a)102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程、および(b)107番目のCysを消失させる工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法、FcRnへの結合を増強する方法)の好ましい態様として、例えば、
ヒトκ鎖定常領域の1〜106番目のアミノ酸において1〜5アミノ酸を欠損させる工程
を挙げることができる。1〜106番目の1〜5アミノ酸を欠損させることにより、107番目のCysが102番目〜106番目に移動するので、102番目〜106番目に少なくとも1つのCysを導入する工程と107番目のCysを消失させる工程を同時に行うことが可能である。
【0130】
アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、105番目又は106番目のアミノ酸が欠損することがさらに好ましい。
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
【0131】
このような工程の好ましい例として、以下の工程を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
・105番目のアミノ酸を欠損させる工程、または
・106番目のアミノ酸を欠損する工程
【0132】
又、本発明の方法の好ましい他の態様として、
(a)102番目〜106番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysに置換する工程および
(b)107番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
を含む方法が挙げられる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、105番目または106番目を挙げることができる。
【0133】
このような工程の具体的な例としては、ヒトκ鎖定常領域の場合、
(a)105番目のGlyまたは106番目のGluをCysに置換する工程、および
(b)107番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
を挙げることができる。
またマウスおよびラットκ鎖定常領域の場合、
(a)105番目のAsnまたは106番目のGluをCysに置換する工程、および
(b)107番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
を挙げることができる。
【0134】
また本発明は、配列番号:37に記載のヒトλ定常領域または配列番号:42に記載のラビットκ鎖定常領域において、99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入するとは、ヒトλ鎖定常領域の99番目〜103番目に少なくとも1つのCysが存在する状態にすることを言う。
【0135】
さらに、本発明は配列番号:37に記載のヒトλ定常領域または配列番号:42に記載のラビットκ鎖定常領域において、104番目のCysを消失(欠損)させる工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、104番目のCysを消失させるとは、ヒトλ鎖定常領域の104番目の位置にCysが存在しない状態にすることを言う。
【0136】
さらに、本発明は配列番号:37に記載のヒトλ鎖定常領域または配列番号:42に記載のラビットκ鎖定常領域において、
(a)99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程、および
(b)104番目のCysを消失させる工程
を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。
本発明において、99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程と104番目のCysを消失させる工程は単一の工程で行われてもよい。
【0137】
99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程において、導入するCysの数は特に限定されないが、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。
Cysが導入される位置は特に限定されないが、好ましくは101番目、102番目または103番目であり、より好ましくは102番目又は103番目であり、特に好ましくは103番目である。
【0138】
99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程の具体的な例としては、例えば以下を挙げることが出来る。又、以下の工程を組み合わせることも可能である。
・99〜103番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する工程
・99〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する工程
・1〜103番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる工程
【0139】
104番目のCysを消失させる工程の具体的な例としては以下の工程を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
・104番目のCysを欠損する工程
・104番目のCysを他のアミノ酸に置換する工程
・104番目の位置に他のアミノ酸を挿入する工程
・1〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させることにより105番目のCysを他の位置に移動させる工程
【0140】
本発明の方法(配列番号:37に記載のヒトλ鎖定常領域または配列番号:42に記載のラビットκ鎖定常領域において、(a)99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程、および(b)104番目のCysを消失させる工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法)の好ましい態様として、例えば、
ヒトλ鎖定常領域の1〜103番目のアミノ酸において1〜5アミノ酸を欠損させる工程
を含む方法を挙げることができる。1〜103番目の1〜5アミノ酸を欠損させることにより、104番目のCysが99番目〜103番目に移動するので、99番目〜103番目に少なくとも1つのCysを導入する工程と104番目のCysを消失させる工程を同時に行うことが可能である。
【0141】
アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、さらに好ましくは102番目又は103番目のアミノ酸が欠損することが好ましい。
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
【0142】
このような工程の好ましい例として以下を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
・102番目のアミノ酸を欠損させる工程または
・103番目のアミノ酸を欠損する工程
【0143】
又、本発明の方法の好ましい他の態様として、
(a)99番目〜103番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysに置換する工程および
(b)104番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
を含む方法が挙げられる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、102番目または103番目を挙げることができる。
【0144】
このような工程の具体的な例としては、ヒトλ鎖定常領域の場合、以下を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
(a)102番目のThrまたは103番目のGluをCysに置換する工程および
(b)104番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
また配列番号:42に記載のラビットκ鎖定常領域の場合、以下を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
(a)102番目のGlyまたは103番目のAspをCysに置換する工程および
(b)104番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
【0145】
また本発明は、配列番号:43に記載のラビットκ鎖定常領域において、101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入するとは、ラットκ鎖定常領域の101番目〜105番目に少なくとも1つのCysが存在する状態にすることを言う。
【0146】
さらに、本発明は配列番号:43に記載のラビットκ鎖定常領域において、106番目のCysを消失(欠損)させる工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。また本発明は、当該工程を含む方法によって製造された抗体に関する。
本発明において、106番目のCysを消失させるとは、
ラビットκ鎖定常領域の106番目の位置にCysが存在しない状態にすることを言う。
【0147】
さらに、本発明は配列番号:43に記載のラビットκ鎖定常領域において、
(a)101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程、および
(b)106番目のCysを消失させる工程
を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法に関する。
本発明において、101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程と106番目のCysを消失させる工程は単一の工程で行われてもよい。
【0148】
101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程において、導入するCysの数は特に限定されないが、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。
Cysが導入される位置は特に限定されないが、好ましくは103番目、104番目または105番目であり、より好ましくは104番目又は105番目であり、特に好ましくは105番目である。
【0149】
101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程の具体的な例としては、例えば以下を挙げることが出来る。又、以下の工程を組み合わせることも可能である。
・101番目〜105番目の位置に少なくとも1つのCysを挿入する工程
・101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysで置換する工程
・1〜105番目のアミノ酸のうち1〜5個のアミノ酸を欠損させる工程
【0150】
106番目のCysを消失させる工程の具体的な例としては以下の工程を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
・106番目のCysを欠損する工程
・106番目のCysを他のアミノ酸に置換する工程
・106番目の位置に他のアミノ酸を挿入する工程
・1〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つを欠損させることにより106番目のCysを他の位置に移動させる工程
【0151】
本発明の方法(配列番号:43に記載のラビットκ鎖定常領域において、(a)101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程、および(b)106番目のCysを消失させる工程を含む、ヒンジ領域のヘテロジェニティーを減少させる方法)の好ましい態様として、例えば、
ラビットκ鎖定常領域の1〜105番目のアミノ酸において1〜5アミノ酸を欠損させる工程
を含む方法を挙げることができる。1〜105番目の1〜5アミノ酸を欠損させることにより、106番目のCysが101番目〜105番目に移動するので、101番目〜105番目に少なくとも1つのCysを導入する工程と106番目のCysを消失させる工程を同時に行うことが可能である。
【0152】
アミノ酸が欠損する部位は特に限定されないが、101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つが欠損することが好ましく、さらに好ましくは104番目又は105番目のアミノ酸が欠損することが好ましい。
又、欠損するアミノ酸の数は特に限定されず、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個のアミノ酸を欠損することができる。
【0153】
このような工程の好ましい例として以下を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
・104番目のアミノ酸を欠損させる工程または
・105番目のアミノ酸を欠損する工程
【0154】
又、本発明の方法の好ましい他の態様として、
(a)101番目〜105番目のアミノ酸の少なくとも1つをCysに置換する工程および
(b)106番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
を含む方法が挙げられる。Cysに置換されるアミノ酸の数は特に限定されないが、通常1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。Cysに置換される部位は特に限定されないが、好ましい置換部位として、104番目または105番目を挙げることができる。
【0155】
このような工程の具体的な例としては、以下を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
(a)104番目のGlyまたは105番目のAspをCysに置換する工程および
(b)106番目のCysを欠損または他のアミノ酸に置換する工程
【0156】
本発明の方法は上述の工程を含んでいる限り、他の工程、例えば他のアミノ酸を改変(置換、欠損、付加および/または挿入)する工程や修飾する工程などをさらに含んでいてもよい。
【0157】
<抗体を含む医薬組成物>
本発明は、本発明の抗体または本発明の定常領域を含む、医薬組成物を提供する。
さらに、本発明は、重鎖定常領域EUナンバリング219のCysと軽鎖C末端領域のCysとの間でジスルフィド結合が形成した抗体の割合が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である抗体医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、抗体または定常領域に加えて医薬的に許容し得る担体を導入し、公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0158】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0159】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0160】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0161】
投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0162】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0163】
本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。
アラニン:Ala:A
アルギニン:Arg:R
アスパラギン:Asn:N
アスパラギン酸:Asp:D
システイン:Cys:C
グルタミン:Gln:Q
グルタミン酸:Glu:E
グリシン:Gly:G
ヒスチジン:His:H
イソロイシン:Ile:I
ロイシン:Leu:L
リジン:Lys:K
メチオニン:Met:M
フェニルアラニン:Phe:F
プロリン:Pro:P
セリン:Ser:S
スレオニン:Thr:T
トリプトファン:Trp:W
チロシン:Tyr:Y
バリン:Val:V
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0164】
〔実施例1〕IgG分子のC末端ヘテロジェニティーの改善
H鎖C末端ΔGK抗体の発現ベクター構築
IgG抗体のH鎖C末端配列のヘテロジェニティーとして、C末端アミノ酸のリジン残基の欠損、および、C末端の2アミノ酸のグリシン、リジン両方の欠損によるC末端カルボキシル基のアミド化が報告されている(Anal Biochem. 2007 Jan 1;360(1):75-83.)。抗IL-6レセプター抗体であるTOCILIZUMABにおいても、その主成分は塩基配列上存在するC末端アミノ酸のリジンが翻訳後修飾により欠損した配列であるが、リジンが残存している副成分およびグリシン、リジン両方の欠損によるC末端カルボキシル基のアミド化された副成分もヘテロジェニティーとして存在する。目的物質/関連物質のヘテロジェニティーの製造間差を維持しつつ医薬品として大量に製造することは容易ではなくコスト増につながるため、可能な限り単一物質であることが望まれる。抗体を医薬品として開発する上にはこれらのヘテロジェニティーが低減されていることが望ましい。よって医薬品として開発する上ではH鎖C末端のヘテロジェニティーは存在しないことが望ましい。
【0165】
そこで、C末端アミノ酸のヘテロジェニティーを低減させることを目的にC末端アミノ酸の改変を行った。具体的には、天然型IgG1のH鎖定常領域のC末端のリジンおよびグリシンを塩基配列上あらかじめ欠損させた。C末端の2アミノ酸のグリシン、リジンの欠損により、C末端アミノ基のアミド化を抑制することが可能かどうかを検討した。
【0166】
参考例1の方法を用いて、H鎖としてH0-IgG1(アミノ酸配列番号:1)、L鎖としてL0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるTOCILIZUMAB(以降、IL6R H0/L0-IgG1と略)を作製し、さらにH鎖のEUナンバリング447番目のLysおよび/またはEUナンバリング446番目のGlyをコードする塩基配列について、これを終止コドンとする変異を導入した。これにより、C末端の1アミノ酸のリジン(EUナンバリング447)をあらかじめ欠損させた抗体のH鎖であるH0-IgG1ΔK(アミノ酸配列番号:3)、C末端の2アミノ酸のグリシン(EUナンバリング446)、リジン(EUナンバリング447)をあらかじめ欠損させた抗体のH鎖であるH0-IgG1ΔGK(アミノ酸配列番号:4)の発現ベクターを作製した。
【0167】
H鎖としてH0-IgG1(アミノ酸配列番号:1)、L鎖としてL0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-IgG1/L0-k0、H鎖としてH0-IgG1ΔK(アミノ酸配列番号:3)、L鎖としてL0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-IgG1ΔK /L0-k0、および、H鎖としてH0-IgG1ΔGK-k0(アミノ酸配列番号:4)、L鎖としてL0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-IgG1ΔGK /L0-k0の発現と精製は参考例1で記した方法で実施した。
【0168】
H鎖C末端ΔGK抗体の陽イオン交換クロマトグラフィー分析
精製した抗体のヘテロジェニティーの評価を陽イオン交換クロマトグラフィーにより実施した。カラムとしてはProPac WCX-10, 4×250 mm (Dionex) を使用し、移動相Aは25 mmol/L MES/NaOH, pH 6.1、移動相Bは25 mmol/L MES/NaOH, 250 mmol/L NaCl, pH 6.1を使用し、適切な流量およびグラジエントを用いて実施した。精製したIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG1ΔK /L0-k0およびIL6R H0-IgG1ΔGK /L0-k0陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図1に示した。
【0169】
その結果、H鎖定常領域のC末端のリジンだけでなく、H鎖定常領域のC末端のリジンおよびグリシンを両方を塩基配列上あらかじめ欠損させることで初めてC末アミノ酸のヘテロジェニティーを低減可能であることが見出された。ヒト抗体定常領域IgG1、IgG2、IgG4において、C末端配列はいずれもEUナンバリング(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242 を参照)447番目がリジン、446番目がグリシンになっていることから、本検討で見出されたC末アミノ酸のヘテロジェニティーを低減させる方法はIgG2定常領域とIgG4定常領域、あるいはそれらの改変体にも適用可能であると考えられた。
【0170】
〔実施例2〕天然型IgG2の安定性を維持したままヘテロジェニティーの低減する新規定常領域
天然型IgG1と天然型IgG2のヘテロジェニティー
標的細胞をエフェクター機能等で殺傷するような癌に対する抗体医薬の場合は、エフェクター機能を有するIgG1の定常領域(アイソタイプ)が好ましいが、標的抗原の機能を中和するような抗体医薬、あるいは、標的細胞に対して結合はするが殺傷することは避ける必要がある抗体医薬の場合は、Fcγレセプターへの結合は好ましくない。
【0171】
Fcγレセプターへの結合を低下させる方法としては、IgG抗体のアイソタイプをIgG1からIgG2あるいはIgG4に変える方法が考えられ(Ann Hematol. 1998 Jun;76(6):231-48.)、FcγレセプターIへの結合および各アイソタイプの薬物動態の観点からはIgG4よりはIgG2が望ましいと考えられた(Nat Biotechnol. 2007 Dec;25(12):1369-72)。一方、抗体を医薬品として開発するにあたり、そのタンパク質の物性、中でも均一性と安定性は極めて重要であり、IgG2アイソタイプは、ヒンジ領域のジスルフィド結合の掛け違いに由来するヘテロジェニティーが極めて多いことが報告されている(J Biol Chem. 2008 Jun 6;283(23):16194-205.、J Biol Chem. 2008 Jun 6;283(23):16206-15.、Biochemistry. 2008 Jul 15;47(28):7496-508.)。
【0172】
そこで実際に天然型IgG1の定常領域を有するIL6R H0-IgG1/L0-k0と天然型IgG2の定常領域を有するIL6R H0-IgG2/L0-k0を作製し、両者のヘテロジェニティーの評価を行った。実施例1で作製したH鎖としてIL6R H0-IgG1(アミノ酸配列番号:1)、L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-IgG1/L0-k0、および、H鎖定常領域をIgG2に変換したH鎖としてIL6R H0-IgG2(アミノ酸配列番号:5)、L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からIL6R H0-IgG2/L0-k0の発現と精製を参考例1で記した方法で実施した。
【0173】
天然型IgG1の定常領域を有するIL6R H0-IgG1/L0-k0と天然型IgG2の定常領域を有するIL6R H0-IgG2/L0-k0のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーの評価方法として、陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った。カラムとしてProPac WCX-10 (Dionex)を用い、移動相Aとして20mM Sodium Acetate, pH5.0、移動相Bとして20mM Sodium Acetate, 1M NaCl, pH5.0を使用し、適切な流量およびグラジエントを用いて実施した。その結果、
図2に示すとおり、天然型IgG2の定常領域を有するIL6R H0-IgG2/L0-k0は複数のピークが見られ、ほぼ単一のメインピークのみからなる天然型IgG1の定常領域を有するIL6R H0-IgG1/L0-k0と比較して著しくヘテロジェニティーが高いことが分かった。
【0174】
IgGタイプの抗体のヒンジ領域周辺構造の詳細を
図3に示した。IgG抗体はヒンジ領域近傍において、H鎖とL鎖(あるいは2つのH鎖)がジスルフィド結合している。このジスルフィド結合のパターンは、以下に記すようにIgGタイプの抗体のアイソタイプによって異なる。天然型IgG1のヒンジ領域におけるジスルフィド結合は、
図4に示すような単一なパターンであるためジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーは存在せず、陽イオン交換クロマトグラフィーにおいてほぼ単一のメインピークとして溶出したと考えられる。一方、天然型IgG2のヒンジ領域におけるジスルフィド結合では、
図3に示すように、天然型IgG2はヒンジ領域に2つのシステインを有する(EUナンバリング219番目と220番目)。このヒンジ領域の2つのシステインに隣接するシステインとして、H鎖のCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインとL鎖のC末端のシステイン、および、2量化する相手H鎖の同じヒンジ領域の2つのシステインが存在する。そのため、IgG2のヒンジ領域周辺にはH2L2の会合した状態では合計8個のシステインが隣接している。これにより、天然型IgG2はジスルフィド結合の掛け違いによる様々なヘテロジェニティーが存在し、著しくヘテロジェニティーが高いと考えられる。
【0175】
これらジスルフィド結合の掛け違いに由来する目的物質/関連物質のヘテロジェニティーの製造間差を維持しつつ医薬品として大量に製造することは容易ではなくコスト増につながり、可能な限り単一物質であることが望まれる。よってIgG2アイソタイプの抗体を医薬品として開発する上では安定性を低下させることなくジスルフィド結合由来のヘテロジェニティーが低減されていることが望ましい。実際、US20060194280(A1)において、天然型IgG2はイオン交換クロマトグラフィー分析においてジスルフィド結合に由来する様々なヘテロピークが観察されており、これらのピーク間では生物活性が異なることも報告されている。このヘテロピークを単一化する方法として、US20060194280(A1)においては精製工程におけるリフォールディングが報告されているが、製造においてこれらの工程を用いることはコストがかかり煩雑であるため、好ましくはアミノ酸置換によりジスルフィド結合が単一なパターンで形成されるIgG2変異体を作製することでヘテロピークが単一化することが望ましいと考えられた。しかしながら、これまでにジスルフィド結合が単一なパターンで形成されるようなIgG2変異体に関する報告はなく、同様に安定性を低下させることなくジスルフィド結合由来のヘテロジェニティーが低減されたIgG2変異体に関する報告はない。
【0176】
H鎖とL鎖を結ぶジスルフィド結合のパターンの及ぼす安定性への影響
天然型IgG1においては、IgG1のH鎖定常領域配列(アミノ酸配列番号:23)のH鎖EUナンバリング220番目のシステインとL鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合をしている(Nat Biotechnol. 2007 Dec;25(12):1369-72、Anal Chem. 2008 Mar 15;80(6):2001-9.)。一方、天然型IgG4においては、IgG4のH鎖定常領域配列(アミノ酸配列番号:25)のH鎖EUナンバリング131番目のシステインと L鎖214番目((Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合をしている(Nat Biotechnol. 2007 Dec;25(12):1369-72、Protein Sci. 1997 Feb;6(2):407-15.)。このように天然型IgG1と天然型IgG4においては、H鎖とL鎖を結ぶジスルフィド結合のパターンが異なることが報告されている。天然型IgG1と天然型IgG4のジスルフィド結合のパターンを
図5に示した。しかしながら、これまでH鎖とL鎖を結ぶジスルフィド結合のパターンの及ぼす安定性への影響に関する報告はない。
【0177】
実施例1で作製したH鎖としてIL6R H0-IgG1(アミノ酸配列番号:1)、L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-IgG1/L0-k0、および、H鎖定常領域をIgG4に変換したH鎖としてIL6R H0-IgG4(アミノ酸配列番号:6)、L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からIL6R H0-IgG4/L0-k0の発現と精製を参考例1で記した方法で実施した。
【0178】
安定性の評価方法として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)の評価を行った(N-DSCII、Calorimety Sceince Corporation製)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、医薬品として安定な製剤を作製するためには、熱変性中間温度(Tm値)が高いことが望ましい(J Pharm Sci. 2008 Apr;97(4):1414-26.)。精製したIL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-IgG4/L0-k0を20mM sodium acetate, 150mM NaCl, pH6.0の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、約0.1mg/mLのタンパク質濃度で、40℃から100℃まで1℃/minの昇温速度でDSC測定を行った。得られたDSCの変性曲線を元にFab部分のTm値を算出し表1に示した。これよりIgG1のほうがIgG4よりもFab部分のTm値が高いことが示された。このTm値の違いはH鎖とL鎖を結ぶジスルフィド結合のパターンの違いによると考えられ、H鎖とL鎖のジスルフィド結合のパターンとしてH鎖EUナンバリング131番目のシステインと L鎖214番目((Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照))のシステインがジスルフィド結合した場合は、H鎖EUナンバリング220番目のシステインと L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照) のシステインがジスルフィド結合した場合と比較して、熱安定性が大きく低下することが示された。
【表1】
【0179】
各種天然型IgG2変異体の作製
天然型IgG2のジスルフィド結合の掛け違いによるヘテロジェニティーを低減する方法として、H鎖のヒンジ領域に存在するEUナンバリング219番目のシステインのみをセリンに改変する方法、および、220番目のシステインのみをセリンに改変する方法が考えられる(Biochemistry. 2008 Jul 15;47(28):7496-508.)。具体的には、天然型IgG2のH鎖定常領域配列(アミノ酸番号:24)のEUナンバリング219番目のシステインをセリンに改変したH鎖定常領域であるSC(配列番号:26)、および、EUナンバリング220番目のシステインをセリンに改変したH鎖定常領域であるCS(配列番号:27)が考えられる。しかしながら、これらH鎖定常領域であるSCおよびCSについては、
図6に示すとおり、天然型IgG2のジスルフィド結合のパターンが単一ではなく、複数のパターンが考えられ、その中には上述のようにH鎖EUナンバリング131番目のシステインと L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合することで安定性が低下するような好ましくないジスルフィド結合のパターンが存在する。
【0180】
そこで、安定性が低下するようなジスルフィド結合のパターンを取らず、単一なジスルフィド結合のパターンを形成するようなH鎖定常領域として、SC(配列番号:26)に対してさらにH鎖EUナンバリング131番目のシステインと133番目のアルギニンをそれぞれセリンとリジンに改変したH鎖定常領域であるSKSC(配列番号:28)が考えられた。これに対してさらに免疫原性と薬物動態を改善するために、H鎖EUナンバリングの137番目のグルタミン酸をグリシンへ改変し、138番目のセリンをグリシンへ改変し、268番ヒスチジンをグルタミンへ改変し、355番アルギニンをグルタミンへ改変し、419番グルタミンをグルタミン酸へ改変し、さらにH鎖C末端のヘテロジェニティーを回避するためにH鎖定常領域のC末端のリジンおよびグリシンを塩基配列上あらかじめ欠損させたM58(配列番号:29)が考えられた。これらH鎖定常領域であるSKSCおよびM58については、
図7に示すとおり、安定性が低下するようなジスルフィド結合のパターンを取らず、単一なジスルフィド結合のパターンを形成すると考えられた。
【0181】
そこで、IL6R H0-SC(アミノ酸配列番号:7)、IL6R H0-CS(アミノ酸配列番号:8)、IL6R H0-SKSC(アミノ酸配列番号:9)、IL6R H0-M58(アミノ酸配列番号:10)の発現ベクターの構築を参考例1に記した方法で実施した。L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)を用い、H鎖としてそれぞれのH鎖を利用したIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG2/L0-k0、および、天然型IgG2変異体であるIL6R H0-SC/L0-k0、IL6R H0-CS/L0-k0、IL6R H0-SKSC/L0-k0およびIL6R H0-M58/L0-k0の発現および精製を参考例1で記した方法で実施した。
【0182】
各種天然型IgG2変異体の陽イオン交換クロマトグラフィー分析
各種天然型IgG2変異体ヘテロジェニティーの評価方法として、上述に記載した陽イオン交換クロマトグラフィーによる方法を用いて実施した。IL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG2/L0-k0、および天然型IgG2変異体であるIL6R H0-SC/L0-k0、IL6R H0-CS/L0-k0、IL6R H0-SKSC/L0-k0およびIL6R H0-M58/L0-k0の陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図8に示した。
【0183】
その結果、
図8に示すとおり、H鎖定常領域をIgG1からIgG2に変換することでヘテロジェニティーが増大したが、H鎖定常領域をSKSCおよびM58に変換することでヘテロジェニティーが大幅に低減された。一方、H鎖定常領域をSCにした場合はH鎖定常領域をSKSCとした場合と同様にヘテロジェニティーが低減されたが、H鎖定常領域をCSにした場合は十分にヘテロジェニティーが改善しなかった。
【0184】
各種天然型IgG2分子変異体のDSC分析
一般に抗体を医薬品として開発するためにはヘテロジェニティーが少ないことに加えて、安定な製剤を調製するため高い安定性を有することが望ましい。そこでIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG2/L0-k0、および天然型IgG2変異体であるIL6R H0-SC/L0-k0、IL6R H0-CS/L0-k0、IL6R H0-SKSC/L0-k0およびIL6R H0-M58/L0-k0の安定性の評価方法として、上述と同様に示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)の評価を行った(VP-DSC、Microcal社製)。精製した抗体を20mM sodium acetate, 150mM NaCl, pH6.0の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、約0.1mg/mLのタンパク質濃度で、40℃から100℃まで1℃/minの昇温速度でDSC測定を行った。得られたDSCの変性曲線を
図9に、Fab部分のTm値を以下の表2に示した。
【表2】
【0185】
IL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-IgG2/L0-k0WT-IgG1のFab部分のTm値はほぼ同等で約94℃程度(IgG2のほうが約1℃低い)であったのに対して、IL6R H0-SC/L0-k0およびIL6R H0-CS/L0-k0のTm値は約86℃であり、IL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-IgG2/L0-k0と比較して著しくTm値が低下していた。一方、IL6R H0-SKSC/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0のTm値は約94℃であり、ほぼIL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-IgG2/L0-k0と同等であった。
【0186】
H鎖定常領域としてSCおよびCSは安定性がIgG1およびIgG2と比較して著しく低いことから、安定性が低下するようなジスルフィド結合のパターンを形成しているためと考えられた。上述のとおり、H鎖EUナンバリング131番目のシステインと L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合した場合、Fab部分の安定性が低下する。SCおよびCSにおいて安定性が低下したのもこのようなジスルフィド結合を形成している分子種が存在するためと考えられた。これより安定性の観点からは、H鎖EUナンバリング131番目のシステインもセリンに改変したH鎖定常領域SKSCおよびM58のほうが医薬品としては優れていると考えられた。
【0187】
また、DSC変性曲線を比較した場合、IL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-SKSC/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0のFab部分の変性ピークはシャープかつ単一であったのに対して、IL6R H0-SC/L0-k0およびIL6R H0-CS/L0-k0はこれらと比較して、Fab部分の変性ピークがブロードであり、IL6R H0-IgG2/L0-k0はFab部分の変性ピークの低温側にショルダーピークが認められた。DSCの変性ピークは単一成分の場合は通常シャープな変性ピークを示すが、Tmが異なる複数成分(つまりヘテロジェニティー)が存在する場合、変性ピークはブロードになると考えられる。すなわち、H鎖定常領域IgG2、SCおよびCSには複数成分存在し、SCおよびCSは、天然型IgG2のヘテロジェニティーが十分低減されていない可能性が示唆された。このことから、野生型IgG2のヘテロジェニティーは、ヒンジ領域のH鎖EUナンバリング219番目と220番目のシステインのみならず、CH1ドメインのH鎖EUナンバリング131番目システインの両方が関与していると考えられ、DSC上のヘテロジェニティーを低減するためにはヒンジ部分のシステインのみならず、CH1ドメインのシステインも改変する必要があると考えられた。これよりヘテロジェニティーの観点からも、H鎖EUナンバリング131番目のシステインもセリンに改変したH鎖定常領域SKSCおよびM58のほうが医薬品としては優れていると考えられた。
【0188】
以上より、IgG2のヒンジ領域に由来するヘテロジェニティーを低減したH鎖定常領域として、ヒンジ部分のシステインのみをセリンに置換したH鎖定常領域であるSCとCSはヘテロジェニティーおよび安定性の観点で不十分であると考えられ、ヒンジ部分のシステインに加えて、CH1ドメインに存在するH鎖EUナンバリング131番目のシステインもセリンに置換することで初めてIgG2と同等の安定性を維持しつつヘテロジェニティーを大幅に低減することが可能であることが見出された。
【0189】
様々な抗体における天然型IgG2変異体(M58-k0)のヘテロジェニティー改善効果
抗IL-6レセプター抗体以外の抗体として、抗IL-31レセプター抗体であるIL31R H0-IgG1/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:11、L鎖アミノ酸配列 配列番号:12)、抗RANKL抗体であるRANKL H0-IgG1/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:15、L鎖アミノ酸配列 配列番号:16)、を使用した。それぞれの抗体に対して、H鎖定常領域をIgG1からIgG2に変換したIL31R H0-IgG2/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:13、L鎖アミノ酸配列 配列番号:12)およびRANKL H0-IgG2/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:17、L鎖アミノ酸配列 配列番号:16)、さらにH鎖定常領域をIgG1からM58に変換したIL31R H0-M58/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:14、L鎖アミノ酸配列 配列番号:12)およびRANKL H0-M58/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:18、L鎖アミノ酸配列 配列番号:16)の発現ベクターを作製した。これらの発現と精製は参考例1で記した方法で実施した。
【0190】
ヘテロジェニティーの評価方法として、上述と同様の方法を使用し、陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)による評価を行った結果を
図10示した。
図10に示したとおり、抗IL-6レセプター抗体だけでなく、抗IL-31レセプター抗体および抗RANKL抗体においても、H鎖定常領域をIgG1からIgG2に変換することでヘテロジェニティーが増大し、H鎖定常領域をIgG2からM58に変換することでいずれの抗体においてもヘテロジェニティーを低減できることが確認された。これより、H鎖のCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインとH鎖のヒンジ領域に存在するEUナンバリング219番目のシステインをセリンに改変することにより、可変領域の抗体配列および抗原の種類に関わらず、天然型IgG2に由来するヘテロジェニティーを低減できることが示された。
【0191】
〔実施例3〕新規定常領域M58-k0による薬物動態改善効果
IgGタイプの抗体の薬物動態
IgG分子の血漿中滞留性が長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRnが機能しているためである(Nat Rev Immunol. 2007 Sep;7(9):715-25)。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下(pH6.0付近)においてエンドソーム内に発現しているFcRnに結合する。FcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへ進みライソソームで分解されるが、FcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下(pH7.4付近)においてFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
【0192】
IgGタイプの抗体として、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のアイソタイプが知られているが、これらのヒトでの血漿中半減期は、IgG1、IgG2が約36日、IgG3が約29日、IgG4が16日であることが報告されており(Nat Biotechnol. 2007 Dec;25(12):1369-72.)、IgG1およびIgG2の血漿中滞留性が最も長いと考えられている。一般に抗体医薬のアイソタイプはIgG1、IgG2、IgG4であるが、これらのIgG抗体の薬物動態をさらに向上する方法として、IgGの定常領域の配列を改変することで上述のヒトFcRnへの結合性を向上させる方法が報告されている(J Biol Chem. 2007 Jan 19;282(3):1709-17、J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56)。
【0193】
マウスFcRnとヒトFcRnでは種差が存在することから(Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Dec 5;103(49):18709-14)、定常領域の配列を改変したIgG抗体のヒトにおける血漿中滞留性を予測するためには、ヒトFcRnへの結合評価およびヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて血漿中滞留性を評価することが望ましいと考えられた(Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69)。
【0194】
IgG1-k0とM58-k0のヒトFcRnへの結合比較
ヒトFcRnの調製は参考例2に記された方法で実施した。ヒトFcRnへの結合評価にはBiacore 3000 を用い、センサーチップに固定化したProtein Lあるいはウサギ抗ヒトIgG Kappa chain抗体へ結合させた抗体に、アナライトとしてヒトFcRnを相互作用させた際のヒトFcRnの結合量よりaffinity(KD)を算出した。具体的には、ランニングバッファーとして150mM NaClを含む50mM Na-phosphate buffer、pH6.0を用い、アミンカップリング法によりセンサーチップ CM5 (BIACORE) にProtein Lあるいはウサギ抗ヒトIgG Kappa chain抗体を固定化した。その後、IL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-M58/L0-k0をそれぞれ0.02% Tween20を含むランニングバッファーで希釈してインジェクトしチップに抗体を結合させた後、ヒトFcRnをインジェクトし、ヒトFcRnの抗体への結合性を評価した。
【0195】
Affinityの算出にはソフトウエア、BIAevaluationを用いた。得られたセンサーグラムより、ヒトFcRnインジェクト終了直前の抗体へのhFcRn結合量を求め、これをsteady state affinity法でフィッティングしてヒトFcRnに対する抗体のaffinityを算出した。
【0196】
IL6R H0-IgG1/L0-k0とIL6R H0-M58/L0-k0のヒトFcRnへの結合性の評価をBIAcoreにより行った結果、表3に示すとおり、IL6R H0-M58/L0-k0の結合性はIL6R H0-IgG1/L0-k0よりも約1.4倍向上していることが見出された。
【表3】
【0197】
ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるIgG1-k0とM58-k0の薬物動態比較
ヒト FcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)における体内動態の評価は以下の通り行った。IL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-M58/L0-k0をそれぞれマウスに1 mg/kgの投与量で静脈内に単回投与し適時採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。血漿中濃度はELISA法を用いて測定した(参考例3参照)。
【0198】
IL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-M58/L0-k0のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図11に示すとおり、IL6R H0-M58/L0 -k0はIL6R H0-IgG1/L0-k0と比較して薬物動態の向上が確認された。これは上記に示したとおり、IL6R H0-M58/L0 -k0のヒトFcRnへの結合性がIL6R H0-IgG1/L0-k0と比較して向上しているからであると考えられた。
【0199】
様々な抗体におけるIgG1-k0とM58-k0のヒトFcRnへの結合比較
上記に示したとおり、抗IL-6レセプター抗体であるIL6R H0-IgG1/L0-k0において、H鎖定常領域をIgG1からM58に変換することにより、ヒトFcRnへの結合性が向上し、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて薬物動態が向上することが見出された。そこで、抗IL-6レセプター抗体以外のIgG1抗体に対しても、H鎖定常領域をM58に変換することで薬物動態を向上できるかどうかを検討した。
【0200】
抗IL-6レセプター抗体以外の抗体として、抗IL-31レセプター抗体であるIL31R H0-IgG1/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:11、L鎖アミノ酸配列 配列番号:12)、抗RANKL抗体であるRANKL H0-IgG1/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:15、L鎖アミノ酸配列 配列番号:16)、を使用した。それぞれの抗体に対して、H鎖定常領域をIgG1からM58に変換したIL31R H0-M58/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:14、L鎖アミノ酸配列 配列番号:12)およびRANKL H0-M58/L0-k0(H鎖アミノ酸配列 配列番号:18、L鎖アミノ酸配列 配列番号:16)を作製し、上述の方法でヒトFcRnへの結合性を評価した。その結果を表4に示した。
【表4】
【0201】
表4に示したとおり、抗IL-31レセプター抗体および抗RANKL抗体においても、H鎖定常領域をIgG1からM58に変換することで、抗IL-6レセプター抗体と同様に、ヒトFcRnへの結合性が向上することが確認された。これより、可変領域の抗体配列および抗原の種類に関わらず、H鎖定常領域をIgG1からM58に変換することでヒトにおける薬物動態が向上する可能性が示された。
【0202】
〔実施例4〕M58-k0の薬物動態をさらに改善した新規定常領域M66-k0
新規定常領域M66-k0の作製
実施例2に示したようにIgG分子のヒンジ領域のジスルフィド結合のパターンが大きく、ヘテロジェニティーと安定性に影響を与えることが示され、実施例3においてH鎖定常領域M58がIgG1よりも優れた薬物動態を有することが示された。そこで、さらにヒンジ領域のジスルフィド結合のパターンを最適化することで、M58よりも優れた薬物動態を示す新規定常領域を作ることが出来ないかと考え、検討を行った。
【0203】
図12に示すとおり、定常領域M58はH鎖EUナンバリング131番目と219番目のシステインがセリンに置換されていることから、H鎖EUナンバリング220番目のシステインと L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合を形成していると考えられる。一方、実施例2で見出されたように、H鎖EUナンバリング131番目のシステインと L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合を形成した場合は大きく安定性が低下する。
【0204】
そこで、
図12に示すとおり、H鎖EUナンバリング219番目のシステインと L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステインがジスルフィド結合を形成するように、H鎖EUナンバリング131番目と220番目のシステインがセリンに置換された新規H鎖定常領域M66(アミノ酸配列番号:30)を検討するために、IL6R H0-M66(アミノ酸配列番号:19)の発現ベクターを参考例1に記した方法で作製した。H鎖としてIL6R H0-M66(アミノ酸配列番号:19)、L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-M66/L0-k0の発現および精製を参考例1で記した方法で実施した。
【0205】
ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるIgG1-k0とM58-k0とM66-k0の薬物動態比較
実施例3に記した方法で、ヒト FcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)を用いたIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0およびIL6R H0-M66/L0-k0の薬物動態の評価を行った。
【0206】
IL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0およびIL6R H0-M66/L0-k0のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図13に示すとおり、IL6R H0-M66/L0 -k0はIL6R H0-M58/L0-k0と比較して薬物動態の向上が確認された。
【0207】
IL6R H0-M58/L0-k0とIL6R H0-M66/L0 -k0のアミノ酸配列の違いは、H鎖EUナンバリング219番目とH鎖EUナンバリング220番目がそれぞれIL6R H0-M58/L0-k0はセリンとシステインであるのに対して、IL6R H0-M66/L0 -k0はそれぞれシステインとセリンである。すなわち、L鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)とジスルフィド結合をする位置がIL6R H0-M58/L0-k0ではH鎖EUナンバリング220番目であるのに対して、IL6R H0-M66/L0 -k0ではH鎖EUナンバリング219番目であり、両者はジスルフィド結合の位置が異なる。
【0208】
IgGの薬物動態がジスルフィド結合の位置によって変化するという報告はこれまでに無い。J Biol Chem. 2008 Jun 6;283(23):16194-205. 、J Biol Chem. 2008 Jun 6;283(23):16206-15. 、Biochemistry. 2008 Jul 15;47(28):7496-508.に記されているように、天然型IgG2のジスルフィド結合のパターン(アイソフォーム)はform Aとform Bのように多数存在するが、J Biol Chem. 2008 Oct 24;283(43):29266-72によるとこれらのジスルフィド結合の位置が異なるアイソフォーム間での薬物動態は変わらないことが報告されている。
【0209】
本検討より、IL6R H0-M58/L0-k0とIL6R H0-M66/L0 -k0のジスルフィド結合の位置の違いにより薬物動態が大きく異なることを初めて見出した。具体的には、ジスルフィド結合の位置をH鎖EUナンバリング220番目とL鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)から、H鎖EUナンバリング219番目とL鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)に変えることによって、大幅に薬物動態を向上させることが見出された。
【0210】
新規定常領域M66-k0のDSC分析
安定性の評価方法として、実施例2と同様に示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)の評価を行った(N-DSCII、Calorimety Sceince Corporation製)。精製したIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0およびIL6R H0-M66/L0-k0を20mM sodium acetate, 150mM NaCl, pH6.0の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、約0.1mg/mLのタンパク質濃度で、40℃から100℃まで1℃/minの昇温速度でDSC測定を行った。得られたDSCの変性曲線を元にFab部分のTm値を算出し表5に示した。
【表5】
【0211】
表5に示したとおり、IL6R H0-M66/L0-k0は、H0-M58/L0-k0と同等のTm値を有していることが分かった。これより、H鎖定常領域としてH鎖定常領域M66(アミノ酸配列番号:30)を用いることにより、M58(配列番号:29)と比較して、安定性を低下させることなく、薬物動態が低減することができることが見出された。
【0212】
新規定常領域M66-k0の陽イオン交換クロマトグラフィー分析
実施例2に記載した方法によるIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG2/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k0の陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図14に示した。
【0213】
その結果、
図14に示すとおり、H鎖定常領域M58においては単一なピークであったのに対して、H鎖定常領域M66においては2つの大きなピークが観察された。同様に抗IL-31レセプター抗体においても、M58においては単一なピークであったのに対して、M66においては大きな2つのピークが観察された。
【0214】
M58はH鎖EUナンバリング219番目、220番目がそれぞれセリン、システインであるのに対して、M66は219番目、220番目がそれぞれシステイン、セリンである。この僅かな違いによって、M66はM58よりも薬物動態が大きく向上した。しかし一方でM66においてはM58では認められなかった新しいピークがヘテロジェニティーとして認められ、M66では2成分のヘテロジェニティー(アイソフォーム)が存在することが見出された。
【0215】
〔実施例5〕M66-k0のヘテロジェニティーをL鎖定常領域の変異により改善した新規定常領域M66-k3、M66-k4
新規定常領域M66-k3、M66-k4の作製
実施例4において確認されたIL6R H0−M66/L0のヘテロジェニティー(2種類の成分)は、H鎖とL鎖のジスルフィド結合パターンが異なることにより形成されると考えられた。すなわち、L鎖(k0 アミノ酸配列番号:32)のC末端の214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)のシステイン(アミノ酸配列番号32のk0における107番目のシステイン)が両方のH鎖のH鎖EUナンバリング219番目のシステインとジスルフィド結合を形成することができるため、
図15に示す2種類のジスルフィド結合パターンを示す2種類の成分が検出されると考えられた。そこでヘテロジェニティーを低減させる(1種類の成分のみが生成するようにする)ためには、
図16に示しようにL鎖のシステインが、いずれか一方のH鎖のH鎖EUナンバリング219番目のシステインとジスルフィド結合を形成できるようにすればよいと考えられた。そこで、ヘテロジェニティーを低減することを目的に、上述のL鎖のC末端のシステインの位置をN末側に移動させることを考えた。これによりL鎖のC末端のシステインは、一方のH鎖のH鎖EUナンバリング219番目のシステインとは距離が遠くなることで、もう一方のH鎖のH鎖EUナンバリング219番目とのみジスルフィド結合が出来るようになると考えた。L鎖のC末端のシステインの位置をN末側に移動させる方法として、L鎖のC末端近傍のペプチド鎖の長さを短くする改変を検討した。具体的には、天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)の106番目のグルタミン酸を欠損させた抗体の新規L鎖定常領域であるk3(アミノ酸配列番号:33)、天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)の105番目のグリシンを欠損させた抗体の新規L鎖定常領域であるk4(アミノ酸配列番号:34)を検討した。そこで、L鎖定常領域としてk3を有するIL6R L0-k3(アミノ酸配列番号:21)およびk4を有するIL6R L0-k4(アミノ酸配列番号:22)の発現ベクターを参考例1の方法に従って作製した。
【0216】
H鎖としてIL6R H0-M66(アミノ酸配列番号:19)、L鎖としてIL6R L0-k3 (アミノ酸配列番号:21)からなるIL6R H0-M66/L0-k3、およびH鎖としてIL6R H0-M66(アミノ酸配列番号:19)、L鎖としてIL6R L0-k4 (アミノ酸配列番号:22)からなるIL6R H0-M66/L0-k4の発現と精製を参考例1で記した方法で実施した。
【0217】
新規定常領域M66-k3、M66-k4の陽イオン交換クロマトグラフィー分析
実施例2に記載した方法によるIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG2/L0-k0、IL6R H0-M58/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k3およびIL6R H0-M66/L0-k4の陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図17に示した。
【0218】
その結果、
図17に示すとおり、H0-M66/L0-k0においては2つのピークが単一なピークであったのに対して、H0-M66/L0-k3およびH0-M66/L0-k4においてはH0-M58/L0-k0と同様に単一なピークが観察された。このことにより、L鎖のC末端近傍のペプチド鎖の長さを短くすることでL鎖のC末端のシステインの位置をN末側に移動させ、一方のH鎖のH鎖EUナンバリング219番目とのみジスルフィド結合が出来るようになり、ヘテロジェニティーが低減することができることが見出された。
【0219】
天然型IgG2のジスルフィド結合パターンによるヘテロジェニティー(アイソフォーム)(J Biol Chem. 2008 Jun 6;283(23):16194-205. 、J Biol Chem. 2008 Jun 6;283(23):16206-15. )を減らす方法として、これまでH鎖定常領域のシステインをセリンに置換する方法を検討してきたが、本実施例において初めてL鎖定常領域C末端のシステインの位置を移動させることでヘテロジェニティーを低減することができることが見出された。これまでにL鎖C末端のシステインの位置を移動させたL鎖定常領域に関する報告は無い。
【0220】
また、L鎖のC末端のシステインの位置をN末側に移動させる方法としては上述に記載した方法以外にも、例えば天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)の104番目のアルギニンを欠損させる方法、天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)の103番目のアスパラギンを欠損させる方法等、あるいは、天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)の106番目のグルタミン酸をシステインに置換し、さらに107番目のシステインをシステイン以外のアミノ酸に置換する方法等が考えられる。
【0221】
本実施例においてはヒトL鎖定常領域としてκ鎖(k0、アミノ酸配列番号:32)を用いているが、同様の方法をλ鎖の定常領域(アミノ酸配列番号:37)に対して適用可能であると考える。λ鎖の定常領域においては、アミノ酸配列番号37における104番目にシステインが存在するが(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングにおける214番目)にシステインが存在するため、103番目のグルタミン酸を欠損させる方法、102番目のスレオニンを欠損させる方法、101番目のプロリンを欠損させる方法、100番目のアラニンを欠損させる方法等、あるいは、天然型λ鎖定常領域(アミノ酸配列番号:37)の103番目のグルタミン酸をシステインに置換し、さらに104番目のシステインをシステイン以外のアミノ酸に置換する方法等が考えられる。
【0222】
新規定常領域M66-k0とM66-k3のヒトFcRnへの結合評価
IgGはFcRnと2価のavidityで結合することが知られている(Traffic. 2006 Sep;7(9):1127-42.)。実施例3で行った方法は、IgGをセンサーチップに固定し、アナライトとしてFcRnを流すことからIgGとFcRnの1価のaffinityで結合する。そこで、より生体内を模倣するため本実施例においては、ヒトFcRnをセンサーチップに固定化し、アナライトとしてIgGを流すことでIgGとFcRnの2価のavidityでの結合を評価した。Biacore T100 (GE Helthcare)を用い、センサーチップ上に固定化したFcRnに対して、H0-IgG1/L0-k0、H0-M58/L0-k0、H0-M66/L0-k0およびH0-M66/L0-k3をアナライトとして流すことにより、改変体のpH6.0におけるヒトFcRnに対する親和性解析を実施した。
【0223】
固定化および相互作用解析の方法を以下に示す。まずアミンカップリング法を利用して、ヒトFcRn をセンサーチップCM4 (GE Healthcare) に約2000RU固定化した。アミンカップリングに用いた試薬はエタノールアミン (GE Healthcare),50mM NaOH溶液 (GE Healthcare),NHS (GE Healthcare),EDC (GE Healthcare)であり、移動相はHBS-EP+溶液 (10倍のHBS-EP+溶液(GE Healthcare)を希釈して用いた)を使用した。続いてヒトFcRnを固定化したセンサーチップに対してアナライトとして抗体を3分間注入してヒトFcRnと抗体の結合を観測した後、5分間移動相を流すことによりヒトFcRnからの各改変体の解離を観測した。測定は全て25℃にて実施し、移動相は10 mM Cit pH6.0, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20を用いた。
【0224】
得られたセンサーグラムの結合相3分間に対して、Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用い、結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)を算出し、これらの値をもとに解離定数 KD (M) を算出し、表6に示した。
【表6】
【0225】
実施例3、4で示したように、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるH0-IgG1/L0-k0、H0-M58/L0-k0およびH0-M66/L0-k0の薬物動態とこれらの抗体の本測定系におけるヒトFcRnへの結合と相関した。H0-M66/L0-k3はH0-M66/L0-k0と比較してヒトFcRnへ同等以上の結合を示したことから、、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける薬物動態はH0-M66/L0-k0と同等以上であると考えられた。
【0226】
新規定常領域M66-k3、M66-k4のDSC評価
安定性の評価方法として、実施例2と同様に示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)の評価を行った(N-DSCII、Calorimety Sceince Corporation製)。精製したIL6R H0-IgG1/L0-k0 IL6R、H0-M66/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k3およびIL6R H0-M66/L0-k4を20mM sodium acetate, 150mM NaCl, pH6.0の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、約0.1mg/mLのタンパク質濃度で、40℃から100℃まで1℃/minの昇温速度でDSC測定を行った。得られたDSCの変性曲線を元にFab部分のTm値を算出し表7に示した。
【表7】
【0227】
表7に示したとおり、IL6R H0-M66/L0-k3とIL6R H0-M66/L0-k4は、H0-M66/L0-k0と同等のTm値を有していることが分かった。これより、L鎖定常領域としてk3(アミノ酸配列番号:33)あるいはk4(アミノ酸配列番号:34)を用いることにより、天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)と比較して、安定性を低下させることなくヘテロジェニティーが低減することができることが見出された。
【0228】
H鎖EUナンバリング219番目とL鎖214番目(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242のナンバリングを参照)がジスルフィド結合を形成するようにしたH0-M66/L0-k0は、
図14に示すように2種類のアイソフォームが存在することが示され、これらの2成分は
図15に示す2つのジスルフィド結合パターンが存在することが考えられ、H鎖EUナンバリング137番目とH鎖EUナンバリング220番目のシステインをセリンに置換するだけでは、天然型IgG2に由来するヘテロジェニティーを完全には回避することは出来ないことが見出された。そこでL鎖定常領域のC末端のシステインの位置を移動させたH0-M66/L0-k3またはH0-M66/L0-k4にすることによって、初めて天然型IgG2のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーを回避すること可能であることが見出された。H0-M66/L0-k3はH0-M66/L0-k0と比較して安定性およびヒトFcRnへの結合を低下しておらず、さらに実施例1で示したH鎖C末端のΔGKの改変によりH鎖C末端に由来するヘテロジェニティーも回避されていることから、抗体のH鎖/L鎖定常領域として、M66/k3あるいはM66/k4は極めて有用であると考えられた。
【0229】
〔実施例6〕M66-k3のFcγレセプターへの結合を低減させたM106-k3
新規定常領域M106-k3の作製
抗原を中和することが目的の抗体医薬においてはFc領域の有するADCC等のエフェクター機能は必要ではなく、従って、Fcγレセプターへの結合は不必要である。免疫原性や副作用の点から考えるとFcγレセプターへの結合は好ましくない可能性も考えられる(Nat Rev Drug Discov. 2007 Jan;6(1):75-92.、Ann Hematol. 1998 Jun;76(6):231-48.)。例えばヒト化抗IL-6レセプターIgG1抗体であるTOCILIZUMABはIL-6レセプターに特異的に結合し、その生物学的作用を中和することで、関節リウマチ等のIL-6が関連する疾患の治療薬として利用可能であり、Fcγレセプターへの結合は不必要である。
【0230】
Fcγレセプターへの結合を低下させる方法としては、IgG抗体のアイソタイプをIgG1からIgG2あるいはIgG4アイソタイプに変える方法が考えられる(Ann Hematol. 1998 Jun;76(6):231-48.)。Fcγレセプターへの結合を完全に無くす方法としては、人工的な改変をFc領域に導入する方法が報告されている。例えば、抗CD3抗体や抗CD4抗体は抗体のエフェクター機能が副作用を惹起するため、Fc領域のFcγレセプター結合部分に野生型配列には存在しないアミノ酸変異(J Immunol. 2000 Feb 15;164(4):1925-33.、J Immunol. 1997 Oct 1;159(7):3613-21.)を導入したFcγレセプター非結合型の抗CD3抗体や抗CD4抗体の臨床試験が現在行われている(Nat Rev Drug Discov. 2007 Jan;6(1):75-92、Transplantation. 2001 Apr 15;71(7):941-50.)。また、IgG1のFcγR結合部位(EUナンバリング:233、234、235、236、327、330、331番目)をIgG2(EUナンバリング:233、234、235、236)およびIgG4(EUナンバリング:327、330、331番目)の配列にすることでFcγレセプター非結合型抗体を作製することが可能であると報告されている(US 20050261229A1)。しかしながら、IgG1にこれらの変異を全て導入すると、天然には存在しないT-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列が出現し、免疫原性のリスクが高まることが考えられる。医薬品として開発する上では、免疫原性リスクは極力下げることが望ましい。
【0231】
上述の課題を解決するために、IgG2の定常領域への改変を検討した。IgG2の定常領域はFcγR結合部位のうちEUナンバリング:233、234、235、236が非結合型であるが、FcγR結合部位のうちEUナンバリング:330、331番目は非結合型のIgG4とは異なる配列であるため、EUナンバリング:330、331番目のアミノ酸をIgG4の配列に改変する必要がある(Eur J Immunol. 1999 Aug;29(8):2613-24におけるG2Δa)。しかしながら、IgG4はEUナンバリング:339番目のアミノ酸がアラニンであるのに対して、IgG2はスレオニンであるため、EUナンバリング:330、331番目のアミノ酸をIgG4の配列に改変しただけでは天然には存在しないT-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列が出現してしまい、免疫原性リスクが生じる。そこで、上述の改変に加えて新たにIgG2のEUナンバリング:339番目のThrをAlaに改変することで、新しいペプチド配列の出現を防ぐことが可能であることを見出した。そこで、これらの変異を定常領域M66(アミノ酸配列番号:30)に導入した定常領域M106(アミノ酸配列番号:31)を検討した。そこで、H鎖定常領域としてM106を有するIL6R H0-M106(アミノ酸配列番号:20の発現ベクターを参考例1の方法に従って作製した。
【0232】
H鎖としてIL6R H0-M106(アミノ酸配列番号:20)、L鎖としてIL6R L0-k0 (アミノ酸配列番号:2)からなるIL6R H0-M106/L0-k0、H鎖としてIL6R H0-M106(アミノ酸配列番号:20)、L鎖としてIL6R L0-k3 (アミノ酸配列番号:21)からなるIL6R H0-M106/L0-k3、およびH鎖としてIL6R H0-M106(アミノ酸配列番号:20)、L鎖としてIL6RL0-k4 (アミノ酸配列番号:22)からなるIL6R H0-M106/L0-k4の発現と精製を参考例1で記した方法で実施した。
【0233】
新規定常領域M106-k3の陽イオン交換クロマトグラフィー分析
実施例2に記載した方法によるIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-IgG2/L0-k0、IL6R H0-M106/L0-k0、IL6R H0-M106/L0-k3およびIL6R H0-M106/L0-k4の陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図18に示した。
【0234】
その結果、
図18に示すとおり、H0-M106/L0-k0においては2つのピークが単一なピークであったのに対して、H0-M106/L0-k3およびH0-M106/L0-k4においてはH0-M66/L0-k3およびH0-M66/L0-k4と同様に単一なピークが観察された。このことより、H鎖定常領域改変体M106においてもH鎖定常領域改変体M66と同様に、 L鎖のC末端近傍のペプチド鎖の長さを短くすることでL鎖のC末端のシステインの位置をN末側に移動させ、一方のH鎖のH鎖EUナンバリング219番目とのみジスルフィド結合が出来るようになり、ヘテロジェニティーが低減することができることが見出された。
【0235】
新規定常領域M106-k3の各種Fcγレセプターへの結合評価
H0-IgG1/L0-k0、H0-IgG2/L0-k0およびH0-M106/L0-k3のFcγレセプターへの結合の評価を活性化FcγレセプターであるFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIaを用いて評価した。
Fcγレセプターへの結合の評価はBiacore T100 (GE Healthcare) を用い、センサーチップ上に固定化したProtein Lで捕捉した抗体に対して、ヒトFcγレセプターを相互作用させ、その結合量を比較することによって行った。具体的には、ランニングバッファーにHBS-EP+ (GE Healthcare) を用い、ProteinL (ACTIgen)をアミンカップリング法によりセンサーチップCM5 (Biacore) に固定化した。その後、H0-IgG1/L0-k0、H0-IgG2/L0-k0、H0-M106/L0-k3をセンサーチップ上のProtein Lに捕捉させ、ランニングバッファーおよびランニングバッファーで10 μg/mLに希釈したFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa (R&D systems) をアナライトとして相互作用させた。この際、各抗体のProtein Lへの捕捉量を一定にすることは困難であることから、各抗体のProtein Lへの捕捉量を一定とみなすための補正を行った。具体的には、各抗体に対する各ヒトFcγレセプターの結合量から、ランニングバッファーのみを相互作用させたときの結合量を引いて得られた値を各抗体の捕捉量で割り、得られた値に100をかけたものをNormalized responseとした。
【0236】
Normalized responseを用いて各抗体と各ヒトFcγレセプターとの結合の強さを比較した結果を
図19に示した。この結果より、H0-M106/L0-k3の各種活性化Fcγレセプターに対する結合性は天然に存在するIgG1のそれよりも大幅に弱く、さらにH0-IgG2/L0-k0よりも弱く、新規定常領域M106-k3のFcγレセプターへの結合は天然型IgG2よりも弱いことも明らかとなった。このことから、H0-M106/L0-k3を使用することで、Fcγレセプターを介したAPCの取り込みに由来する免疫原性リスクやADCC等のエフェクター機能に由来する副作用を天然型IgG2よりも低減することが可能であると考えられる。
【0237】
〔実施例7〕IgG2-k3の陽イオン交換クロマトグラフィー分析
H鎖としてIL6R H0-IgG2(アミノ酸配列番号:5)、L鎖としてIL6R L0-k3 (アミノ酸配列番号:21)からなるIL6R H0-IgG2/L0-k3の発現と精製を参考例1で記した方法で実施した。実施例2に記載した方法を用いて、IL6R H0-IgG1/L0-k0およびIL6R H0-IgG2/L0-k0およびIL6R H0-IgG2/L0-k3の陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図20に示した。
その結果、
図20に示すとおり、IgG2-k0においてヘテロジェニティーが認められたが、IgG2-k3においてはヘテロジェニティーが低減された。天然型IgG2であるIgG2-k0は複数のジスルフィド結合パターンを有するためヘテロジェニティーが認められるが、L鎖のC末端近傍のペプチド鎖の長さを短くすることでL鎖のC末端のシステインの位置をN末側に移動させるだけで(IgG2-k3)、ヘテロジェニティーが低減することができることが見出された。
【0238】
〔実施例8〕ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるIgG1-k0、M66-k0、M66-k3、M106-k3、IgG2-k3の薬物動態比較
実施例3に記した方法で、ヒト FcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)を用いたIL6R H0-IgG1/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k3、IL6R H0-M106/L0-k3およびIL6R H0-IgG2/L0-k3の薬物動態の評価を行った。
IL6R H0-M66/L0-k0、IL6R H0-M66/L0-k3、IL6R H0-M106/L0-k3およびIL6R H0-IgG2/L0-k3のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図21に示すとおり、IL6R H0-M66/L0-k0と比較してIL6R H0-M66/L0-k3は薬物動態の向上が確認された。これは実施例5において確認されたFcRnへの結合評価の結果を反映していると考えられた。L鎖定常領域であるk3(アミノ酸配列番号:33)は、天然型L鎖定常領域k0(アミノ酸配列番号:32)の106番目のグルタミン酸を欠損させたL鎖であり、L鎖をL0-k0からL0-k3に置換したことにより血漿中滞留性が向上したと考えられた。FcRnはH鎖定常領域のFc部分に結合するため、一般的にL鎖定常領域は抗体の薬物動態に影響しないと考えられ、実際にこれまでにヒト FcRnトランスジェニックマウスにおいて、L鎖定常領域のアミノ酸置換により薬物動態が向上したという報告は無い。本検討により初めてL鎖定常領域をアミノ酸置換することで薬物動態が改善することが見出された。さらにIL6R H0-M106/L0-k3はL6R H0-M66/L0-k3と比較して血漿中滞留性が向上した。
本検討より、定常領域M66-k3、M106-k3、IgG2-k3は、陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価において単一ピークとして溶出し、Fcγレセプターへの結合が天然型IgG1よりも著しく減弱し、且つ、ヒト FcRnトランスジェニックマウスにおいて天然型IgG1と比較して大幅に薬物動態が向上することが示された。
【0239】
〔参考例1〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
目的の抗体のH鎖およびL鎖の塩基配列をコードする遺伝子は、PCR等を用いて当業者公知の方法で行った。アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)あるいはPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 105個/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5% CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清からrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0240】
〔参考例2〕ヒトFcRnの調製
FcRnはFcRnとβ2-microglobulinの複合体である。公開されているヒトFcRn遺伝子配列(J. Exp. Med. 180 (6), 2377-2381 (1994))を元に、オリゴDNAプライマーを作製した。ヒトcDNA(Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)を鋳型とし、作製したプライマーを用いPCR法により遺伝子全長をコードするDNA断片を調整した。得られたDNA断片を鋳型に、PCR法によりシグナル領域を含む細胞外領域(Met1-Leu290)をコードするDNA断片を増幅し、動物細胞発現ベクターへ挿入した(ヒトFcRnアミノ酸配列番号:35)。同様に、公開されているヒトβ2-microglobulin遺伝子配列(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (26), 16899-16903 (2002))を元に、オリゴDNAプライマーを作製した。ヒトcDNA(Hu-Placenta Marathon-Ready cDNA, CLONTECH)を鋳型とし、作製したプライマーを用いPCR法により遺伝子全長をコードするDNA断片を調製した。得られたDNA断片を鋳型に、PCR法によりシグナル領域を含むβ2-microglobulin全長(Met1-Met119)をコードするDNA断片を増幅し、動物細胞発現ベクターへ挿入した(ヒトβ2-microglobulinアミノ酸配列 配列番号:36)。
【0241】
可溶型ヒトFcRnの発現は以下の手順で行った。調製したヒトFcRnおよびヒトβ2-microglobulinのプラスミドを、10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を用いたlipofection法により、ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)の細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、IgG Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences)を用い、(J Immunol. 2002 Nov 1;169(9):5171-80.)の方法に従い精製を行った。その後、HiTrap Q HP(GE Healthcare)により精製を行った。
【0242】
〔参考例3〕マウスにおける抗体血漿中濃度の測定
マウス血漿中抗体濃度測定は、抗ヒトIgG抗体を用いたELISA法にて、それぞれの抗体をスタンダードとして使用して、当業者公知の方法で測定した。