(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロース誘導体にアクリル成分をグラフト重合又は単に結合させて得られるアクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)であって、ニトロセルロース又は酢酸酪酸セルロースであるセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物であって、該セルロース誘導体(B)と該アクリル樹脂(C)の質量比(B/C)が90/10〜30/70(質量%/質量%)であり、該セルロース誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)が20000〜500000であり且つ該アクリル樹脂(C)のガラス転移温度が50℃以上である混合物を樹脂成分として含み、該樹脂成分は、酸価と水酸基価の合計が7〜100mgKOH/gであり、
前記アクリル樹脂(C)が、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜24のアルコールとのエステル、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、アミノアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体、及び(メタ)アクリロニトリル又はその誘導体よりなる群から選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させて得られる重合体であることを特徴とする樹脂組成物。
前記アクリル変性セルロース誘導体(A)を構成するセルロース誘導体が、セルロースエーテル、セルロースエステル、ポリエステル変性セルロース誘導体及びポリウレタン変性セルロース誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2又は4に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の樹脂組成物を詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、
セルロース誘導体にアクリル成分をグラフト重合又は単に結合させて得られるアクリル変性セルロース誘導体(A)であって、該アクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量又は結合量が10〜70質量%であり(但し、アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物と併用する場合は除く)、該アクリル変性セルロース誘導体の重量平均分子量(Mw)が20000〜500000であり且つ該アクリル変性セルロース誘導体を構成するアクリル成分のガラス転移温度が50℃以上であるアクリル変性セルロース誘導体(A)、及び
前記アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物であって、該セルロース誘導体(B)と該アクリル樹脂(C)の質量比(B/C)が90/10〜30/70(質量%/質量%)であり(但し、アクリル変性セルロース誘導体(A)と併用する場合は除く)、該セルロース誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)が20000〜500000であり且つ該アクリル樹脂(C)のガラス転移温度が50℃以上である混合物
の内の少なくとも一方を樹脂成分として含み、該樹脂成分は、酸価と水酸基価の合計が7〜100mgKOH/gであり、但し、前記樹脂成分が、前記アクリル変性セルロース誘導体(A)及び前記アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物の両方を含む場合、アクリル変性セルロース誘導体(A)、アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)の合計に占めるアクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量又は結合量及びアクリル樹脂(C)の合計割合は、10〜70質量%であることを特徴とする。なお、本発明の樹脂組成物は、プラスチック基材への付着性、耐水性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成することが可能であるため、塗料として好適である。
【0021】
本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)、及び上記アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物の内の少なくとも一方を含むことを要する。
【0022】
また、本発明の樹脂組成物において、上記樹脂成分は、酸価と水酸基価の合計が7〜100mgKOH/gであることを要し、10〜50mgKOH/gであることが好ましい。ここで、酸価及び水酸基価は、樹脂成分を構成する成分のいずれに由来するものであってもよい。樹脂成分の酸価と水酸基価の合計が上記特定した範囲内であれば、耐水性に優れる塗膜を形成できる。一方、樹脂成分の酸価と水酸基価の合計が100mgKOH/gを超えると、塗膜の耐水性や耐湿性が低下し、塗膜の白化やフクレが発生する可能性がある。なお、セルロース誘導体には、通常、水酸基が存在するため、樹脂成分の酸価と水酸基価の合計を7mgKOH/g未満に設計することは困難である。
【0023】
上記アクリル変性セルロース誘導体(A)は、セルロース誘導体にアクリル成分をグラフト重合又は単に結合させて得られる化合物であり、グラフト重合及び結合には、通常の合成方法が使用できる。
【0024】
上記アクリル変性セルロース誘導体(A)において、上記セルロース誘導体としては、セルロースエーテル、セルロースエステル、ポリエステル変性セルロース誘導体及びポリウレタン変性セルロース誘導体等が好ましい。なお、これらセルロース誘導体は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記セルロース誘導体は、耐薬品性の観点から、セルロースエステルが好ましく、プラスチック基材への付着性を特に向上させる観点から、ポリエステル変性セルロース誘導体、及びポリウレタン変性セルロース誘導体が好ましい。
【0025】
セルロースエーテルとしては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリチルセルロース、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロース(ヒドロキシエチルセルロースとも称する)等が挙げられる。また、セルロースエステルとしては、例えば、アセチルセルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等の脂肪酸セルロース、ニトロセルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース、硝酸酢酸セルロース等が挙げられる。
【0026】
ポリエステル変性セルロース誘導体は、セルロースエーテル、セルロースエステル等のセルロース誘導体に、例えば、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル成分(即ち、主鎖中に複数のエステル結合を有する成分)をグラフト重合又は単に結合させて得られる化合物である。
【0027】
なお、上記アクリル成分及びポリエステル成分を一緒に使用することもできるし、また、上記アクリル成分又はポリエステル成分をグラフト重合又は単に結合させる際に、例えば、スチレン、ビニルエステル等の他のモノマーを一緒に使用することもできる。
【0028】
ポリウレタン変性セルロース誘導体は、セルロースエーテル、セルロースエステル等のセルロース誘導体の水酸基に、イソシアネートプレポリマーを反応させて得られる化合物である。イソシアネートプレポリマーとは、水酸基含有化合物にポリイソシアネートを反応させることにより得られるイソシアネート基を含有する化合物である。ここで、水酸基含有化合物は、水酸基を分子内に1個以上有する化合物であり、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸の重縮合物等の分子内に1個の水酸基を有する化合物や、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール等の分子内に複数の水酸基を有する化合物が挙げられ、ポリイソシアネートは、複数のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート、イソシアヌレート等が挙げられる。なお、ポリオールとしてアクリルポリオールを用いた場合、イソシアネートプレポリマーがアクリル成分であるため、得られるポリウレタン変性セルロース誘導体は、アクリル変性セルロース誘導体(A)に含まれる。かかるポリウレタン変性セルロース誘導体をポリウレタン/アクリル変性セルロース誘導体と称する場合がある。
【0029】
上記アクリル変性セルロース誘導体(A)において、上記アクリル成分は、上述したポリオールとしてアクリルポリオールを用いた場合に得られるイソシアネートプレポリマー以外にも、限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸並びにそのエステル、アミド及びニトリル等から選択される化合物を含み、例えば、以下(a)〜(g)に示されるような化合物が挙げられる。また、上記アクリル成分は、例えば、ポリエステル成分、スチレン、ビニルエステル等の他のモノマーを一緒に使用することもできる。なお、これらアクリル成分は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)は、アクリル成分を含むため、その他のセルロース誘導体に比べてプラスチック基材への付着性に優れる。
【0030】
(a):(メタ)アクリル酸と炭素数1〜24のアルコールとのエステル
例えば、メチルメタクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
(b):多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物
例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
(c):カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー
例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0033】
(d):エポキシ基含有重合性不飽和モノマー
例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
(e):アミノアルキル(メタ)アクリレート
例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
(f):(メタ)アクリルアミド又はその誘導体
例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドメチルエーテル、N−メチロールアクリルアミドブチルエーテル等が挙げられる。
【0036】
(g):(メタ)アクリロニトリル又はその誘導体
例えば、(メタ)アクリロニトリル、3−アミノ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物において、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)は、アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物と併用する場合を除き、該アクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量又は結合量が10〜70質量%であることを要し、20〜50質量%であることが好ましい。上記アクリル成分のグラフト量又は結合量が上記特定した範囲内であれば、耐薬品性、特には日焼け止め剤に対する耐性(以下、耐日焼け止め剤性という)と、プラスチック基材への付着性とに優れる塗膜を形成できる。ここで、上記アクリル成分のグラフト量又は結合量が10質量%未満であると、プラスチック基材への付着性が低下し、塗膜の剥離が起こり易くなる。また、この場合、本発明の樹脂組成物の粘度が高くなるため、塗装作業性も低下する。一方、上記アクリル成分のグラフト量又は結合量が70質量%を超えると、塗膜の耐薬品性が低下する。このため、該塗膜に薬品を塗布すると、該塗膜が剥離し易くなる。また、この場合、塗膜の白化、艶引けやひび割れが生じ易くなる。
【0038】
本発明の樹脂組成物において、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)は、その重量平均分子量(Mw)が20,000〜500,000であることを要し、25,000〜150,000であることが特に好ましい。上記アクリル変性セルロース誘導体(A)の重量平均分子量が20,000未満では、本発明の樹脂組成物により得られる塗膜の耐薬品性が著しく低下する。このため、該塗膜に薬品を塗布すると、塗膜の密着性が低下し、塗膜の剥離が起こりやすくなる。また、この場合、塗膜の白化、艶引けやひび割れが生じ易くなる。一方、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)の重量平均分子量が500,000を超えると、本発明の樹脂組成物の粘度が高くなり、該樹脂組成物の塗装作業性が低下する。
【0039】
本発明の樹脂組成物において、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)は、該アクリル変性セルロース誘導体を構成するアクリル成分のガラス転移温度が50℃以上であることを要する。上記アクリル成分のガラス転移温度が50℃以上であると、高温時における塗膜の軟化が起こり難くなり、薬品の浸積を抑え塗膜の耐薬品性が向上する。
【0040】
なお、本発明において、アクリル成分のガラス転移温度(Tg)とは、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
上記FOX式において、Tgは、n種類のモノマー(アクリル成分)からなるポリマーのガラス転移温度(K)であり、Tg(1、2、i、n)は、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W(1、2、i、n)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1である。
【0041】
また、上記セルロース誘導体(B)は、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)以外のセルロース誘導体であり、セルロースエーテル、セルロースエステル、ポリエステル変性セルロース誘導体、及びポリウレタン変性セルロース誘導体等が好ましい。なお、これらセルロース誘導体は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記セルロース誘導体は、耐薬品性の観点から、セルロースエステルが好ましく、プラスチック基材への付着性を特に向上させる観点から、ポリエステル変性セルロース誘導体、及びポリウレタン変性セルロース誘導体が好ましい。
【0042】
上記セルロース誘導体(B)において、セルロースエーテル、セルロースエステル、ポリエステル変性セルロース誘導体及びポリウレタン変性セルロース誘導体は、具体的に、上記アクリル変性セルロース誘導体(A)の説明に記載されるものと同一のものを使用できるが、但し、アクリル成分が含まれるセルロース誘導体は除かれる。なお、ポリウレタン変性セルロース誘導体を合成する際に、ポリオールとしてポリエステルポリオールを用いた場合、ポリウレタン変性セルロース誘導体をポリウレタン/ポリエステル変性セルロース誘導体と称する場合がある。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、上記セルロース誘導体(B)は、その重量平均分子量(Mw)が20,000〜500,000であることを要し、25,000〜150,000であることが特に好ましい。上記セルロース誘導体(B)の重量平均分子量が20,000未満では、本発明の樹脂組成物により得られる塗膜の耐薬品性が著しく低下する。このため、該塗膜に薬品を塗布すると、塗膜の密着性が低下し、塗膜の剥離が起こりやすくなる。また、この場合、塗膜の白化、艶引けやひび割れが生じ易くなる。一方、上記セルロース誘導体(B)の重量平均分子量が500,000を超えると、本発明の樹脂組成物の粘度が高くなり、該樹脂組成物の塗装作業性が低下する。
【0044】
上記アクリル樹脂(C)は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸並びにそのエステル、アミド及びニトリル等から選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させて得られる重合体が挙げられる。上記アクリル成分の具体例としては、上記(a)〜(g)に示されるような化合物が挙げられる。また、上記アクリル樹脂には、アクリル成分と、例えば、スチレン、ビニルエステル等の他のモノマーとを重合させて得られる重合体も含まれる。なお、これらアクリル樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、上記アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上であることを要する。アクリル樹脂のガラス転移温度が50℃以上であると、高温時における塗膜の軟化が起こり難くなり、薬品の浸積を抑え塗膜の耐薬品性が向上する。
【0046】
なお、本発明において、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)とは、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
上記FOX式において、Tgは、n種類のモノマーからなるポリマーのガラス転移温度(K)であり、Tg(1、2、i、n)は、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W(1、2、i、n)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1である。
【0047】
上記セルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物は、アクリル変性セルロース誘導体(A)と併用する場合を除き、セルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)の質量比(B/C)が、樹脂固形分換算で、90/10〜30/70(質量%/質量%)であることを要し、80/20〜50/50(質量%/質量%)であることが好ましい。セルロース誘導体(B)/アクリル樹脂(C)の質量比が上記特定した範囲内であれば、耐薬品性、特には日焼け止め剤に対する耐性(以下、耐日焼け止め剤性という)と、プラスチック基材への付着性とに優れる塗膜を形成できる。ここで、セルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)の合計に占めるセルロース誘導体(B)の割合が90質量%を超えると、プラスチック基材への付着性が低下し、塗膜の剥離が起こり易くなる。また、この場合、本発明の樹脂組成物の粘度が高くなるため、塗装作業性も低下する。一方、セルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)の合計に占めるセルロース誘導体(B)の割合が30質量%未満では、塗膜の耐薬品性が低下する。このため、該塗膜に薬品を塗布すると、該塗膜が剥離し易くなる。また、この場合、塗膜の白化、艶引けやひび割れが生じ易くなる。
【0048】
なお、ここで云う「樹脂固形分」とは、本発明の樹脂組成物中に含まれる樹脂成分の固形分を意味する。本発明において、樹脂固形分は、樹脂成分1.0gを105℃±2℃で60分加熱した後に残る残留物の質量として定義される。
【0049】
本発明の樹脂組成物において、上記樹脂成分が、アクリル変性セルロース誘導体(A)及びセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物の両方を含む場合、アクリル変性セルロース誘導体(A)、セルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)の合計に占めるアクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量又は結合量及びアクリル樹脂(C)の合計割合は、10〜70質量%であることを要し、20〜50質量%であることが好ましい。上記アクリル成分のグラフト量又は結合量とアクリル樹脂(C)の合計割合が上記特定した範囲内であれば、耐薬品性、特には日焼け止め剤に対する耐性(以下、耐日焼け止め剤性という)と、プラスチック基材への付着性とに優れる塗膜を形成できる。ここで、上記アクリル成分のグラフト量又は結合量とアクリル樹脂(C)の合計割合が10質量%未満であると、プラスチック基材への付着性が低下し、塗膜の剥離が起こり易くなる。また、この場合、本発明の樹脂組成物の粘度が高くなるため、塗装作業性も低下する。一方、上記アクリル成分のグラフト量又は結合量とアクリル樹脂(C)の合計割合が70質量%を超えると、塗膜の耐薬品性が低下する。このため、該塗膜に薬品を塗布すると、該塗膜が剥離し易くなる。また、この場合、塗膜の白化、艶引けやひび割れが生じ易くなる。
【0050】
本発明の樹脂組成物において、上記樹脂成分は、アクリル変性セルロース誘導体(A)、それ以外のセルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)以外の樹脂成分(以下、他の樹脂成分と称することがある)を含むことができる。上記他の樹脂成分としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられるが、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移温度が50℃以上である樹脂を用いると、高温時における塗膜の軟化を防ぐため、薬品の浸積を抑え塗膜の耐薬品性が向上する。
【0051】
なお、本発明の樹脂組成物において、樹脂成分は、互いに良好な相溶性を有することが好ましい。相溶性が低い樹脂成分を組み合わせた場合、本発明の樹脂組成物の保存安定性が低下する場合があり、その結果、該樹脂組成物にブツが発生したり、該樹脂組成物から得られる塗膜に艶引け、白化などが起こったりして、塗膜外観が損なわれるおそれがある。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物の固形分に対して窒素原子を0.2〜13質量%含むことが好ましく、1.0〜11.5質量%含むことが更に好ましい。樹脂組成物中に存在する窒素原子は、アクリル変性セルロース誘導体(A)、それ以外のセルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)、更に他の樹脂を含む場合には他の樹脂の内のいずれの樹脂に由来するものであってもよいが、塗膜の耐水性や耐湿性向上の観点から、アクリル変性セルロース誘導体(A)及びそれ以外のセルロース誘導体(B)に由来するものが好ましい。窒素原子を含むセルロース誘導体の具体例としては、シアノエチルセルロース、アミノエチルセルロース、ニトロセルロース、硝酸酢酸セルロース、ポリウレタン変性セルロース誘導体等が挙げられ、これらの中でも、ニトロセルロースが特に好ましい。樹脂組成物の固形分中に窒素原子が0.2質量%以上存在することによって、耐薬品性を更に向上させることができる。一方、樹脂組成物の固形分中に存在する窒素原子が13質量%を超えると、塗膜の柔軟性が低下し、塗膜の耐おもり落下性や折り曲げ性等の加工性が劣る傾向がある。また、窒素原子がセルロース誘導体に由来し且つ該窒素原子の含有量が樹脂組成物の固形分に対して13質量%を超える場合、その樹脂組成物は高粘度であるため、塗工性が劣る傾向がある。
【0053】
なお、ここで云う「樹脂組成物の固形分」とは、本発明の樹脂組成物中に含まれる固形分を意味する。本発明において、樹脂組成物の固形分は、樹脂組成物1.0gを105℃±2℃で60分加熱した後に残る残留物の質量として定義される。
【0054】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分を架橋させる目的で、硬化剤及び硬化促進剤を含んでもよい。
【0055】
更に、本発明の樹脂組成物は、顔料を含むことが好ましい。本発明の樹脂組成物は、顔料を含む場合、塗料用樹脂組成物として特に好適である。顔料としては、着色顔料、体質顔料及びメタリック顔料等が挙げられ、塗膜の着色やツヤ、塗装作業性、塗膜の強度、物性等に応じて適宜選択して使用できる。着色顔料は、公知の材料が使用でき、例えば、酸化チタン及びカーボンブラック等の無機顔料やフタロシアニン系顔料及びアゾ系顔料等の有機顔料が挙げられる。また、体質顔料も、公知の材料が使用でき、例えば、タルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられる。メタリック顔料としては、光輝顔料又は鱗片状顔料、例えば、アルミニウム粉顔料、ニッケル粉顔料、金粉、銀粉、ブロンズ粉、銅粉、ステンレス粉顔料、マイカ(雲母)顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料や、金属コーティングした硝子粉、金属コーティングしたマイカ粉、金属コーティングしたプラスチック粉、及び鱗片状酸化鉄顔料等が挙げられるが、耐薬品性の観点から、光輝顔料又は鱗片状顔料の表面が有機成分及び/又は無機成分で表面処理されたものが好ましい。なお、顔料を含まない場合、かかる樹脂組成物をクリアー塗料として使用できる。
【0056】
本発明の樹脂組成物には、各種乾燥手段が適用可能であり、揮発乾燥型(ラッカー)、熱硬化型等の各種組成物を利用できる。また、本発明の樹脂組成物には、樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤及び顔料の他に、塗料業界で通常使用される添加剤、例えば、溶剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら添加剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と、必要に応じて適宜選択される各種成分とを混合することにより調製できる。また、本発明の樹脂組成物が熱硬化型である場合には、各種成分を主剤成分及び硬化剤成分に分けて調製し、使用直前に、混合機を適宜用いて、これら成分を、例えば常温にて、混合させる混合型の樹脂としても使用できる。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、耐薬品性、特に日焼け止め剤に対する耐性に優れる塗膜を形成できるため、人の肌・手が長時間接触するようなプラスチック成形品、具体的には、自動車及び二輪車の内装部材及び外装部材、オーディオ、ビデオ、テレビ等の家電製品用部材、携帯電話、プリンター、パソコン等の事務機器用部材の塗装に有用である。
【0058】
本発明の樹脂組成物の塗装方法は、例えば、該樹脂組成物を基材の表面に塗布し、その後、乾燥等により成膜させる工程を含む。なお、本発明の樹脂組成物の塗装方法においては、上記樹脂組成物を基材表面に直接塗布する以外にも、該樹脂組成物の塗布前にプライマーを基材に予め塗布してもよい。プライマーを予め塗布することにより、塗膜と基材間の密着性を向上させることができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物を塗布する方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。これらの中でも、膜厚の制御を容易に行う観点から、スプレーコート法及びロールコート法が好ましい。
【0060】
本発明の樹脂組成物の塗装方法において、該樹脂組成物の塗布量は、基材の種類や用途に応じて変えることができるが、通常、20〜400g/m
2であり、40〜200g/m
2であることが好ましい。なお、基材表面に形成される塗膜の膜厚は、該樹脂組成物の塗布量に依存する。
【0061】
本発明の樹脂組成物の塗装方法においては、基材表面に塗布された樹脂組成物に対して乾燥等を行うことにより、塗膜を形成させることができるが、例えば、該樹脂組成物が揮発乾燥型樹脂組成物である場合には、塗布後、樹脂組成物を5℃以上で且つ70℃未満の温度にて放置することにより塗膜が得られる。また、上記樹脂組成物が熱硬化型樹脂組成物である場合も同様に、塗布後、樹脂組成物を5℃以上で且つ70℃未満の温度にて放置することにより塗膜が得られる。
【0062】
本発明の樹脂組成物の塗装方法において、上記基材は、特に限定されず、基材の用途に応じて、様々な形状の基材を選択することができる。また、上記基材としては、例えば、PPE(ポリフェニレンエーテル)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系重合体;ポリカーボネート樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂及びABS樹脂等のプラスチック基材が挙げられる。
【0063】
次に、本発明の塗装体を詳細に説明する。本発明の塗装体は、プラスチック基材と該プラスチック基材の表面に形成された塗膜とを有する塗装体であって、該塗膜が、上述の樹脂組成物により得られ、且つ下記式(I):
X−Y = ΔH ≦ 2等級 ・・・ (I)
[式中、Xは、薬品処理前の鉛筆硬度であり、Yは、薬品処理後の鉛筆硬度であり、ΔHは、薬品処理前後での鉛筆硬度の等級差であり、ここで、薬品処理とは、塗装体の塗膜表面に紫外線吸収剤を含む日焼け止め剤を2.0g/100cm
2の割合で塗布し、その後、60±2℃の温度にて5時間放置する処理であり、鉛筆硬度とは、JIS K 5600−5−4:1999(ISO/DIS 15184:1996)に準拠して測定される鉛筆硬度である]の関係を満たすことを特徴とする。ここで、本発明の塗装体は、耐薬品性、特に日焼け止め剤に対する耐性に優れるため、人の肌・手が長時間接触するようなプラスチック成形品、具体的には、自動車及び二輪車の内装部材及び外装部材、オーディオ、ビデオ、テレビ等の家電製品用部材、携帯電話、プリンター、パソコン等の事務機器用部材に有用である。
【0064】
本発明の塗装体は、プラスチック基材と該プラスチック基材の表面に形成された塗膜とを備えるが、例えば、上述の樹脂組成物をプラスチック基材の表面に塗布し、その後、乾燥等により成膜させることによって製造できる。なお、上記樹脂組成物は、上述の塗装方法によって塗布できる。また、上記プラスチック基材は、特に限定されず、塗装体の用途に応じて、様々な形状の基材を選択することができる。また、上記プラスチック基材としては、例えば、PPE(ポリフェニレンエーテル)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系重合体;ポリカーボネート樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂及びABS樹脂等が挙げられる。
【0065】
本発明の塗装体において、上記塗膜は、上記式(I)の関係を満たすことを要し、通常、下記式(II):
X ≧ Y ・・・ (II)
[式中、X及びYは、上記式(I)において定義した通りである]の関係を満たす。ここで、薬品処理前後における塗膜の鉛筆硬度の等級差が2等級以下であれば、薬品処理後においても塗膜の硬度を高度に維持できるため、塗装体に優れた耐薬品性、特には日焼け止め剤に対する耐性を付与することができる。なお、薬品処理前後における塗膜の鉛筆硬度の等級差を2等級以下に抑えるためには、塗膜を形成する塗料に上記樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0066】
また、本発明の塗装体において、上記塗膜は、上述した樹脂組成物により得られることを要する。上記塗膜の形成に上記樹脂組成物を用いることによって、上記式(I)の関係を満たす塗膜を容易に形成することができる。また、上記樹脂組成物を用いた場合、塗料の乾燥工程において、70℃以上の温度にて塗料を加熱する必要がなく、5℃以上で且つ70℃未満の温度で成膜できる。
【0067】
本発明の塗装体において、上記塗膜は、窒素原子を0.2〜13質量%含むことが好ましく、1.0〜11.5質量%含むことが更に好ましい。塗膜内に窒素原子が0.2質量%以上存在することによって、耐薬品性を更に向上させることができる。一方、塗膜内に存在する窒素原子が13質量%を超えると、塗膜の柔軟性が低下し、塗膜の耐おもり落下性や折り曲げ性等の加工性が劣る傾向がある。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、酸価、水酸基価、加熱残分、及び重量平均分子量を下記の方法で測定した。
【0069】
<酸価>
樹脂固形分1g中の遊離カルボン酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を定量した。
【0070】
<水酸基価>
樹脂固形分1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を定量した。
【0071】
<加熱残分>
1.0gの樹脂溶液、前駆体溶液又は樹脂組成物をアルミカップに精秤し、これを105℃オーブンで60分乾燥させた。乾燥後、残留物の質量を精秤し、元の質量に対する残留物の質量の割合を加熱残分(質量%)として求めた。
【0072】
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)の測定は、TSKgelカラム(東ソー(株)社製)を用い、RIを装備したGPC(東ソー(株)社製;HLC−8220GPC)により求めた。GPCの条件として、展開溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速0.35ml/分、温度40℃にて測定を行った。なお、TSK標準ポリスチレン(東ソー(株)社製)を標準物質として用いた。
【0073】
1.アクリル樹脂の調製例
下記に示す調製例に従い、アクリル樹脂を合成した。
【0074】
1−1.樹脂溶液A
(第1工程)
攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、酢酸ブチル(溶剤)40.0質量部を入れ、これを加熱撹拌し、110℃に達してから、メチルメタクリレート(モノマー)28.6質量部、ブチルメタクリレート(モノマー)11.5質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(モノマー)2.5質量部、2−ヒドロキシルエチルメタクリレート(モノマー)1.2質量部及びターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.8質量部を予め混合して得た混合物を3時間かけて滴下しつつ加熱撹拌し、第1混合物を得た。
【0075】
(第2工程)
滴下終了後、110℃を保持したまま、第1混合物中に、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.4質量部及び酢酸ブチル(溶剤)3.0質量部を予め混合して得た混合物を1時間かけて滴下し、第2混合物を得た。さらに110℃で1.5時間撹拌を続けた後、冷却した。第2混合物に酢酸ブチル(溶剤)12.0質量部を加えて攪拌し、樹脂溶液Aを得た。なお、樹脂溶液Aの加熱残分は、45.0質量%であり、樹脂溶液A中に含まれる水酸基含有アクリル樹脂(アクリルポリオール)は、水酸基価が11.8mgKOH/gであり、重量平均分子量が48200であり、ガラス転移温度が64.8℃(FOX式により計算)であった。
【0076】
1−2.樹脂溶液B〜H
表1に示す化合物を用いる以外は、樹脂溶液Aと同様の方法により、樹脂溶液B〜Hを調製した。なお、樹脂溶液の加熱残分、酸価、水酸基価、重量平均分子量及びガラス転移温度を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
なお、表1中、樹脂溶液の配合処方は、質量部で示される。
【0079】
2.アクリル変性セルロース誘導体(A)の調製例
下記に示す調製例に従い、アクリル変性セルロース誘導体及びポリウレタン/アクリル変性セルロース誘導体を合成した。
【0080】
2−1.アクリル変性セルロース誘導体の調製
2−1−1.樹脂溶液I
(第1工程)
攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、酢酸ブチル16.0質量部、及びセルロースエステル[酢酸ブチルで希釈したRS1/8(KOREA CNC LTD.製,ニトロセルロース)を用いた。なお、希釈後のRS1/8中における加熱残分は、38質量%である。]63質量部を入れ、これらを加熱撹拌し、75℃に達してから、2−イソシアナトエチルメタクリレート0.1質量部を加え、第1混合物を得た。第1混合物をさらに75℃で1時間攪拌させ、次いで、該第1混合物中に、メチルメタクリレート(モノマー)2.5質量部、ブチルメタクリレート(モノマー)1.7質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(モノマー)0.1質量部、2−ヒドロキシルエチルメタクリレート(モノマー)0.1質量部及びターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)1.0質量部を予め混合して得た混合物を3時間かけて滴下し、第2混合物を得た。
【0081】
(第2工程)
滴下終了後、75℃を保持したまま、第2混合物中に、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.5質量部及び酢酸ブチル3.0質量部を予め混合して得た混合物を1時間かけて滴下し、第3混合物を得た。さらに75℃で3時間撹拌を続けた後、冷却した。第3混合物に酢酸ブチル12.0質量部を加えて、攪拌し、樹脂溶液Iを得た。なお、樹脂溶液Iの加熱残分は、29.9質量%であり、樹脂溶液I中に含まれるアクリル変性セルロース誘導体は、水酸基価が33.2mgKOH/gであり、重量平均分子量が36300であり、樹脂溶液の固形分中に含まれる窒素原子含有量は、9.5質量%であった。また、アクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量は、20質量%であり、更に、上記アクリル変性セルロース誘導体を構成するアクリル成分のガラス転移温度(Tg)は、上記FOX式により、61.1℃であった。結果を表2に示す。なお、表2中、樹脂溶液の配合処方は、質量部で示される。
【0082】
【表2】
【0083】
*1 加熱残分が38質量%となるように、RS1/8を酢酸ブチルにより希釈したもの[ここで、RS1/8は、KOREA CNC LTD.製のニトロセルロースであり、ニトロセルロース中における窒素含有量が12.2質量%であり、RS1/8中におけるイソブロピルアルコール含有量が30質量%である。]
【0084】
2−2.ポリウレタン/アクリル変性セルロース誘導体
2−2−1.前駆体溶液Xの調製例
攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、樹脂溶液A100質量部を入れ、これを加熱撹拌し、100℃に達してから、ここに、ヘキサメチレンジイソシアネート(ポリイソシアネート)1.2質量部、及び酢酸ブチル(溶剤)1.5質量部を予め混合して得た混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で5時間撹拌を続けた後、冷却し、前駆体溶液Xを得た。なお、前駆体溶液Xの加熱残分は45質量%であり、前駆体溶液X中に含まれるイソシアネートプレポリマーの重量平均分子量は52000であった。
【0085】
2−2−2.樹脂溶液Jの調製例
(第1工程)
攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、メチルエチルケトン15.00質量部、及びセルロースエステル[酢酸ブチルで希釈したRS1/8(KOREA CNC LTD.製,ニトロセルロース)を用いた。なお、希釈後のRS1/8中における加熱残分は、38質量%である。]61.20質量部を入れ、これらを加熱撹拌し、75℃に達してから、ここに、前駆体溶液X12.90質量部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、IRによりイソシアネート基が確認できなくなるまで反応させ、次いで冷却し、反応混合物を得た。
【0086】
(第2工程)
冷却後、反応混合物にメチルエチルケトン10.90質量部を加えて、攪拌し、樹脂溶液Jを得た。なお、樹脂溶液Jの加熱残分は、29.1質量%であり、樹脂溶液J中に含まれるポリウレタン/アクリル変性セルロース誘導体は、水酸基価が31.8mgKOH/gであり、重量平均分子量が130500であり、樹脂溶液の固形分中に含まれる窒素原子含有量は、9.6質量%であった。また、ポリウレタン/アクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分の結合量は、20質量%であり、更に、ポリウレタン/アクリル変性セルロース誘導体を構成するアクリル成分のガラス転移温度(Tg)は、上記FOX式により、64.8℃であった。結果を表3に示す。なお、表3中、樹脂溶液の配合処方は、質量部で示される。
【0087】
2−2−3.樹脂溶液K〜M
表3に示す化合物を用いる以外は、樹脂溶液Jと同様の方法により、樹脂溶液K〜Mを調製した。なお、これら樹脂溶液の特性を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
3.アクリル変性セルロース誘導体以外のセルロース誘導体(B)の調製例
下記に示す調製例に従い、ポリウレタン/ポリエステル変性セルロース誘導体を合成した。
【0090】
3−1.ポリウレタン/ポリエステル変性セルロース誘導体の調製例
3−1−1.前駆体溶液Yの調製例
攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、酢酸ブチル(溶剤)123質量部を入れ、これを攪拌し、次いで、バイロン200(東洋紡製ポリエステルポリオール、水酸基価:9mgKOH/g、ガラス転移温度:67℃)100質量部を入れ、これを溶解し、第1混合物を得た。第1混合物を加熱撹拌し、100℃に達してから、ここに、ヘキサメチレンジイソシアネート(ポリイソシアネート)1.8質量部、及び酢酸ブチル(溶剤)1.4質量部を予め混合して得た混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で5時間撹拌を続けた後、冷却し、前駆体溶液Yを得た。なお、前駆体溶液Yの加熱残分は45質量%であり、前駆体溶液Y中に含まれるイソシアネートプレポリマーの重量平均分子量は49000であった。
【0091】
3−1−2.樹脂溶液N
(第1工程)
攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、メチルエチルケトン15.00質量部、及びセルロースエステル[酢酸ブチルで希釈したRS1/8(KOREA CNC LTD.製,ニトロセルロース)を用いた。なお、希釈後のRS1/8中における加熱残分は、38質量%である。]61.20質量部を入れ、これらを加熱撹拌し、75℃に達してから、ここに、前駆体溶液Y12.90質量部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、IRによりイソシアネート基が確認できなくなるまで反応させ、次いで冷却し、反応混合物を得た。
【0092】
(第2工程)
冷却後、反応混合物にメチルエチルケトン10.90質量部を加えて、攪拌し、樹脂溶液Nを得た。なお、樹脂溶液Nの加熱残分は、29.1質量%であり、樹脂溶液N中に含まれるポリウレタン/ポリエステル変性セルロース誘導体は、水酸基価が31.8mgKOH/gであり、重量平均分子量が129200であり、樹脂溶液の固形分中に含まれる窒素原子含有量は、9.5質量%であった。結果を表4に示す。なお、表4中、樹脂溶液の配合処方は、質量部で示される。
【0093】
3−1−3.樹脂溶液O及びP
表4に示す化合物を用いる以外は、樹脂溶液Nと同様の方法により、樹脂溶液O及びPを調製した。なお、これら樹脂溶液の特性を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
*2 加熱残分が20質量%となるように、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−381−2)をメチルエチルケトンにより希釈したもの[ここで、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−381−2)は、イーストマンケミカル社製の酢酸酪酸セルロースである。]
【0096】
4.樹脂組成物の調製(実施例1〜19、参考例20〜53、比較例1〜15)
表5〜12に示す配合処方に従って、攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、原料を混合し、その後、75℃にて溶解させて、樹脂組成物を調製した。なお、表5〜12中、樹脂組成物の配合処方は、質量部で示される。
【0097】
5.樹脂組成物の調製(参考例54〜57)
表13に示す配合処方に従って、攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器中に、セルロース誘導体及びアクリル樹脂を混合し、その後、75℃にて溶解させて、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を室温まで冷却した後、該樹脂組成物に、顔料、表面調整剤等の添加剤を混合し、公知の手法によって分散させ、樹脂組成物を調製した。なお、表13中、樹脂組成物の配合処方は、質量部で示される。
【0098】
なお、樹脂組成物に関し、樹脂成分の酸価と水酸基価の合計を表5〜13に示す。また、アクリル変性セルロース誘導体(A)を用いる場合は、アクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量又は結合量、アクリル変性セルロース誘導体の重量平均分子量(Mw)、及びアクリル変性セルロース誘導体を構成するアクリル成分のガラス転移温度を一緒に示し、セルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物を用いる場合は、セルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)の質量比(B/C)、セルロース誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)、及びアクリル樹脂(C)のガラス転移温度を一緒に示す。更に、アクリル変性セルロース誘導体(A)をセルロース誘導体(B)とアクリル樹脂(C)との混合物と併用する場合は、アクリル変性セルロース誘導体(A)、セルロース誘導体(B)及びアクリル樹脂(C)の合計に占めるアクリル変性セルロース誘導体中におけるアクリル成分のグラフト量又は結合量及びアクリル樹脂(C)の合計割合も示す。
【0099】
6.塗膜形成
4milアプリケーターを用いて、乾燥膜厚が30〜40μmになるような塗布量にて、上記樹脂組成物をABS樹脂板に塗装し、10分間放置させ、その後、60℃にて30分間乾燥させ、ABS樹脂板上に塗膜を形成させた。得られた塗膜に関し、塗膜外観、耐薬品性評価(薬品処理後の塗膜外観及び薬品処理前後の鉛筆硬度)、付着性及び耐水性、並びに塗膜(樹脂組成物の固形分)中に含まれる窒素原子含有量を下記の方法で測定・評価した。結果を表5〜13に示す。なお、比較例3、4及び15の樹脂組成物は、塗装作業性が悪く、塗装が困難であったため、塗膜特性の評価を行わなかった。
【0100】
<塗膜外観>
塗膜の外観について、以下の評価基準にて目視で判定した。
○:平滑な塗膜であり、塗膜欠陥は認められない。
△:レベリング性が十分でなく、膜厚が不均一である。
×:塗装作業性が悪く、塗装が困難である。
【0101】
<耐薬品性評価(薬品処理後の塗膜外観)>
塗膜の表面に、日焼け止め剤[商品名:ウルトラシアードライタッチ・サンブロックSPF45,ニュートロジーナ社製,紫外線吸収剤:サリチル酸エステル誘導体(10質量%)及びベンゾフェノン誘導体(5質量%)]を2.0g/100cm
2の割合で塗布し、その後、強制対流のない乾燥機に60±2℃の温度にて5時間放置し、薬品処理を行った。その後、水洗して日焼け止め剤を除去し、最後に、薬品処理後の塗膜の外観を以下の評価基準にて目視で判定した。
◎:塗膜外観に変化が全くない。
○:塗膜のツヤがわずかに低下する。
△:塗膜のツヤが顕著に低下する。
×:塗膜が白化する。
【0102】
<耐薬品性評価(薬品処理前後の鉛筆硬度)>
まず、JIS K 5600−5−4:1999(ISO/DIS 15184:1996)に準拠して、薬品処理前の塗膜の鉛筆硬度を引っかき硬度試験用鉛筆(Uni MITSUBISHI、三菱鉛筆社製)で判定した。次いで、塗装体の塗膜表面に、薬品処理後の塗膜外観評価と同一の薬品処理を行った。その後、水洗して日焼け止め剤を除去し、最後に、薬品処理後の塗膜の鉛筆硬度を同一の手法で判定した。
【0103】
<付着性>
ABS樹脂板に水平な塗膜表面に、切込み角60°でカッターナイフにより直線の切れ込みを入れ、その切れ込みに対して角度60°で再び切れ込みを入れる。その後、切れ込みを覆うようにセロハンテープをしっかりと貼り付け、セロハンテープを塗膜表面に対して45°に引き剥がす。セロハンテープ剥離後、塗膜の剥がれの程度を以下の評価基準にて目視で判定した。
○:塗膜の剥離がない。
△:切れ込み部分の塗膜表面の1/3が剥離する。
×:切れ込み部分の塗膜表面が完全に剥離する。
【0104】
<耐水性>
まず、塗膜表面に外観不良がないことを目視で確認した。その塗膜表面を3×5cmの短冊状に切り出し、これを試験片とし、80℃で5時間乾燥させ、次いで、純水に浸漬させたまま25℃で24時間放置し、その後、試験片を取り出し、その表面をよく拭き取り、塗膜の外観を以下の評価基準にて目視で判定した。
○:塗膜外観に変化がない。
×:塗膜のフクレや白化が認められる。
【0105】
<窒素原子含有量>
塗膜中の窒素原子含有量は、JIS M8819:1997に準拠し、全自動元素分析装置(PerkinElmer社製2400II)を使用し、以下の測定手順で行った。
まず、2mg〜3mgの試料を用意し、キャリアガスとしてのヘリウム雰囲気下、約950℃の燃焼管に純粋な酸素を送り込み、該試料を構成する化合物を完全に燃焼させ、該化合物の炭素原子(C)をCO
2に、窒素原子(N)をN
2に、水素原子(H)をH
2Oに変換させる。余分な酸素は、還元管の還元銅により酸化銅に変換し、ハロゲンと硫黄は、銀粒カラムを通してハロゲン化銀、硫化銀に変換し、それぞれトラップされる。よって、完全燃焼後に残る気体は、CO
2、N
2、H
2O及びヘリウムの混合気体である。該混合気体は、測定セル中を順に通り抜ける。なお、測定セルにはフィラメントが置かれている。H
2Oの吸収管を混合気体が通り、H
2Oを取り除く。その前後には測定セルがあり、抵抗値の差が計数に変換され出力される。次いで、CO
2の吸収管を気体が通り、CO
2を取り除く。同様に、その前後の抵抗値の差が計数に変換され出力される。また、N
2の計数を求める際には、ディレイコイル中のヘリウムが先に測定セルに送られ、ヘリウムの抵抗値が測定され、その後、混合気体が測定セルに送られ、混合気体の抵抗値が測定される。この抵抗値の差が変換され、N
2の計数値を算出する。既知の組成比を持つ標準物質によって得られた計数を用い、気圧による補正を行い、元素ごとの感度係数を決定する。得られた感度係数を用いて、試料中の窒素含有量を計算する。
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
【表7】
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
【表10】
【0112】
【表11】
【0113】
【表12】
【0114】
【表13】
【0115】
*A 使用したセルロース誘導体の重量平均分子量を「セルロース誘導体Iの重量平均分子量」の欄に記載するが、2種類のセルロース誘導体を用いる場合、表中、上側に記載のセルロース誘導体の重量平均分子量を「セルロース誘導体Iの重量平均分子量」の欄に記載し、下側に記載のセルロース誘導体の重量平均分子量を「セルロース誘導体IIの重量平均分子量」の欄に記載する。
*3 加熱残分が20質量%となるように、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−321−0.1)をメチルエチルケトンにより希釈したもの[ここで、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−321−0.1)は、イーストマンケミカル社製の酢酸酪酸セルロースである。]
*4 加熱残分が20質量%となるように、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−551−0.01)をメチルエチルケトンにより希釈したもの[ここで、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−551−0.01)は、イーストマンケミカル社製の酢酸酪酸セルロースである。]
*5 加熱残分が20質量%となるように、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−553−0.4)をメチルエチルケトンにより希釈したもの[ここで、EastmanTM Cellulose Acetate Butyrate(CAB−553−0.4)は、イーストマンケミカル社製の酢酸酪酸セルロースである。]
*6 加熱残分が38質量%となるように、RS1/16を酢酸ブチルにより希釈したもの[ここで、RS1/16は、KOREA CNC LTD.製のニトロセルロースであり、ニトロセルロース中における窒素含有量が12.2質量%であり、RS1/16中におけるイソブロピルアルコール含有量が30質量%である。]
*7 加熱残分が38質量%となるように、RS20を酢酸ブチルにより希釈したもの[ここで、RS20は、KOREA CNC LTD.製のニトロセルロースであり、ニトロセルロース中における窒素含有量が12.2質量%であり、RS20中におけるイソブロピルアルコール含有量が30質量%である。]
*8 加熱残分が38質量%となるように、RS500を酢酸ブチルにより希釈したもの[ここで、RS500は、KOREA CNC LTD.製のニトロセルロースであり、ニトロセルロース中における窒素含有量が12.2質量%であり、RS500中におけるイソブロピルアルコール含有量が30質量%である。]
*9 表面調整剤,DISPERBYK−161,BYK−Chemie社製,固形分:30%.
*10 顔料,TI−PURE R−960,デュポン(株)社製,二酸化チタン.
*11 顔料,MA−100,三菱化学(株)社製,カーボンブラック.
*12 顔料,F.X1690,東洋アルミニウム(株)社製,有機物により表面処理されたアルミニウムペースト.