(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
炭素鋼や低合金鋼製の容器を備える原子炉容器にあっては、その底部の球形鏡にステンレス鋼やニッケル基合金製の管台が溶接により取り付けられている。具体的には、
図2に示すように、溶接による管台の劣化を防止するために球形鏡5側にステンレス鋼やニッケル基合金材料で肉盛溶接して溶接後熱処理を実施した後に、J溶接により管台を球形鏡5に取り付けている。
上述した肉盛溶接およびJ溶接による溶接部位13,14は、応力腐食割れ(SCC)等の経年劣化により損傷する可能性がある。そのため、肉盛溶接およびJ溶接による溶接部位に損傷が生じた場合および損傷の虞がある場合には、管台2の補修を行っている。
管台2の補修方法としては、従来、既設の管台2および溶接部位13,14を全て除去し、除去した開先を溶接により埋め直し、新規の管台を挿入して溶接により再度接合するという方法があり、例えば近年、既設管台2および溶接部位13,14を除去し、炭素鋼又は低合金鋼面に対して肉盛溶接し、継手溶接用加工を行った後に管台2を設置して継手溶接を行う方法が提案されている(例えば、引用文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した原子炉容器の内部は、水中環境又は放射線線量の高い気中環境であることから、管台補修に係る溶接や加工作業等は自動装置で行うことが望ましく、従来の管台補修方法にあっては、既設の溶接部位13,14が3次元鞍型のような複雑な形状であり、管台2が球形鏡5に林立された狭隘環境にあるため、既設の溶接部位13,14と同様の構造に復旧しようとした場合、狭隘環境での3次元溶接が可能で小型な、非常に高性能な溶接装置が必要となるため、作業の自動化が容易でないという課題がある。
【0005】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶接部の補修作業を容易に自動化可能で作業者の負担軽減を図ることが可能な管台補修方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決して係る目的を達成するために以下の構成を採用する。
本発明に係る管台の補修方法は、原子炉容器
の下部を
鉛直方向に貫通し該原子炉容器に肉盛部および溶接部を介して固定された既設の管台の補修方法において、前記肉盛部および前記溶接部を
上面視で複数のエリアに分割して該エリア毎に予め所定の開先形状を設定するとともに、
前記管台周辺の前記原子炉容器の下部の傾きにおける最も高い地点と最も低い地点とを結ぶ線に沿った方向を高低方向とした場合に、前記管台よりも高い側である山側のエリアの開先形状を
上面視で台形に設定し、前記複数のエリアのうち、前記肉盛部および溶接部の損傷箇所を含むエリアを特定して、該エリアを予め設定された所定の開先形状で切削除去する工程と、該切削除去された切削部を肉盛補修によって埋め戻す工程と、を備えることを特徴としている。
本発明に係る管台の補修方法によれば、損傷箇所を含む肉盛部および溶接部を、エリア毎に予め設定された開先形状により、切削除去して肉盛補修により埋め戻すことで、管台補修に係る溶接や加工作業を単純化することができるため、例えば、水中環境や放射線線量の高い気中環境などの原子炉容器の内部における溶接や加工作業等に熟練が必要なくなり、自動装置を用いた遠隔補修が可能になる。さらに、予め設定された開先形状に切削して肉盛補修を行うので、狭いエリアに管台が林立するような狭隘な環境であっても、複雑な切削作業や溶接作業が必要とならないため、小型で3次元溶接が可能な高性能な自動装置を用いずに作業の自動化を図ることができる。
【0007】
また、本発明の管台の補修方法は、上記本発明の管台の補修方法において、前記複数のエリアを前記管台の周方向に分割して設けても良い。
このように構成することで、管台の周囲の原子炉容器の壁面が傾斜している場合であっても、例えば、山側用の開先形状や、谷側の開先形状など、壁面の傾斜に対応した最適な形状で切削除去した後に、この切削除去した部分を肉盛補修により埋め戻すことができる。
【0008】
さらに、本発明の管台の補修方法は、上記本発明の管台の補修方法において、損傷又は損傷可能性のある箇所が前記肉盛部および前記溶接部の全域に亘る場合に、前記管台上部を切断除去する工程と、予め設定された所定の開先形状で、前記肉盛部および前記溶接部の全域を切削除去する工程と、該切削除去された開先を肉盛補修によって埋め戻す工程と、該肉盛補修により埋め戻された埋め戻し部に新たな管台上部を接合する工程とを備えるようにしもよい。
このように構成することで、損傷箇所が明らかな場合に加えて、非破壊検査が困難な場合など、肉盛部および溶接部に明らかな損傷箇所が認められない場合であっても、切削除去の際に邪魔になる管台上部を切断除去し、損傷可能性がある肉盛部および溶接部の全域を、予め設定された開先形状で全て切削除去して、前記開先に肉盛補修した後、新たな管台上部を接合することで、損傷可能性のある肉盛部および溶接部の全域を切削除去することができるとともに、肉盛部および溶接部の全域を切削除去する際の溶接や加工作業を単純化して自動装置を用いた遠隔補修を行うことができる。
【0009】
そして、本発明の管台の補修方法は、上記本発明の管台の補修方法において、前記開先の埋め戻し量を、前記切削除去される前よりも少ない埋め戻し量としてもよい。
このように構成することで、補修前の肉盛部および補修前の溶接部と同じだけ溶接する場合と比較して、溶接量を低減することができ、例えば、肉盛補修時の溶接量を必要最小限にすることができる。
【0010】
さらに、本発明の管台の補修方法は、上記本発明の管台の補修方法において、前記肉盛補修をテンパービード法による溶接としてもよい。
このように構成することで、肉盛補修時に、例えば、肉盛部を形成した後に溶接部を形成する場合と比較して、肉盛部を形成した後に行う溶接後熱処理を行う必要がなくなるため、作業工程が減少し、より容易に作業の自動化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る管台の補修方法によれば、管台補修に係る溶接や加工作業を単純化して、例えば、水中環境や放射線線量の高い気中環境などの原子炉容器の内部における溶接や加工作業等に熟練が必要なくなり、自動装置を用いた遠隔補修が可能になるため、作業時間が短縮されて補修作業者の負担を軽減することができる効果がある。
また、複雑な切削作業や溶接作業を必要としないことで、小型で3次元溶接が可能な高性能な自動装置を用いずに作業の自動化を図ることができるため、コスト増加を抑制しつつ作業者の負担を軽減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態における原子炉容器下部の部分断面図である。
【
図3】管台周りに設定される各エリアを説明する図である。
【
図4】管台の谷側を切削除去して開先を形成する工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【
図5】
図4の開先に補修肉盛部および補修J溶接部を形成する工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【
図6】管台の谷側のエリアに対応付けされた開先形状を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は上面図である。
【
図7】管台の山側のエリアに対応付けされた開先形状を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は上面図である。
【
図8】管台の右側のエリアに対応付けされた開先形状を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は上面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態における管台周りの全域を切削除去して開先を形成する工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は(a)のC−C線に沿う断面図である。
【
図10】
図9の開先に補修肉盛部および補修J溶接部を形成する工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図である。
【
図11】
図10の補修J溶接部にネジ孔部および貫通孔を形成する工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は(a)のE−E線に沿う断面図である。
【
図12】
図11のネジ孔部に管台上部を固定する工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は(a)のF−F線に沿う断面図である。
【
図13】本発明の第3実施形態における、開先形状のコーナー部の曲率半径が10mmの場合を示す断面図である。
【
図14】開先のコーナー部の曲率半径が20mmの場合の
図14に相当する図である。
【
図15】テンパービード法を用いた場合のコーナー部の曲率半径が10mmの場合と20mmの場合における周囲の球形鏡の強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明の第1実施形態における管台2について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、炭素鋼や低合金鋼で形成された原子炉容器1下部の球形鏡5には、管台2が複数林立して取り付けられる。管台2は、それぞれステンレス鋼やNi基合金からなるパイプ状に形成され、球形鏡5に鉛直方向に貫通して設けられる。これら管台2は、球形鏡5の貫通孔7の容器内側(
図1中、上面側)周縁に形成された開先6に溶接されて原子炉容器1に固定される。貫通孔7の容器外側周縁には、開先加工を伴わない肉盛溶接部3が形成される。なお、
図1中、符号9は炉内計装筒のセーフエンド、符号10は、コンジットチューブ、符号11は、セーフエンド9をコンジットチューブ10に固定するためのステンレス溶接部である。
【0014】
図2に示すように、球形鏡5に形成された貫通孔7を通じて、管台2の管台上部2aが原子炉容器1の内部に配置され、管台2下部が原子炉容器1の外部に配置される。原子炉容器1は、その内面に鏡面仕上げされたステンレス層8を備えており、管台2は、貫通孔7の球形鏡5の内面側の周縁に形成された開先6に溶接で固定されて球形鏡5に取り付けられる。開先6への溶接は、まず開先加工として切削した開先6の内面にステンレス鋼またはNi基合金材料による肉盛溶接を行うことで肉盛部13を形成し、次いで、球形鏡5の強度を確保するべく溶接後熱処理を行い、その後、肉盛部13上にステンレス鋼またはNi基合金材料による溶接でJ溶接部14を形成して、このJ溶接部14により管台2と球形鏡5とを接続固定している。ここで、肉盛部13およびJ溶接部14は経年劣化により応力腐食割れ(SCC)等の損傷が生じる虞があり、損傷が生じた場合には補修を行うこととなる。なお、図示都合上、
図2では、貫通孔7の容器外側周縁の肉盛溶接部3を省略している。
【0015】
この実施形態における管台2は、上述した取り付け構造を有しており、次にこのように球形鏡5に取り付けられた管台2の補修方法について図面を参照しながら説明する。
まず、管台2周りの既存の溶接部位(肉盛部13およびJ溶接部14)を上面視で分割した複数のエリアを設定し、これらエリアのうち損傷のあるエリアを特定する。ここで、複数のエリアは、
図3に示すように、例えば、管台2周辺の球形鏡5の傾きにおける最も高い地点と最も低い地点とを結ぶ線に沿った方向を高低方向と仮定した場合に、管台2よりも低い側(
図3中、0度側)のエリア、管台2よりも高い側(
図3中、180度側)のエリア、管台2の左側(
図3中、90度側)のエリア、および、管台2の右側(
図3中、270度側)のエリアの4つが設定される。なお、以下、管台2よりも低い側を「谷側」、管台2よりも高い側を「山側」と称する。
【0016】
次いで、例えば、上述した管台2よりも谷側の溶接部位に損傷が存在する場合を一例に説明すると、
図4(a),(b)に示すように、谷側用に予め設定されている所定の開先形状で、肉盛部13およびJ溶接部14の切削除去をエンドミル等により行う。この切削除去の作業は、切削位置および開先形状の情報を切削加工機(不図示)に設定入力することで自動的に行われる。なお、切削後に開先6の内面をゴム砥石等により成形するようにしてもよい。
【0017】
上述した切削除去の作業が終了すると、次に補修溶接を行う。具体的には、
図5(a),(b)に示すように、専用の溶接装置(不図示)により開先6の内面全体に層状の補修肉盛部15を形成して、その後、この補修肉盛部15周辺の球形鏡5を加熱する溶接後熱処理を行い、さらに、上記溶接装置により補修肉盛部15の内側に補修J溶接部16を形成する。この補修J溶接部16により、切削除去前の溶接量と同等になるまで埋め戻される。この補修肉盛部15および補修J溶接部16を形成する肉盛補修の作業は、予めエリア毎に開先形状が設定されているため、開先形状や切削位置の情報を上記溶接装置に設定入力することで自動的に行われる。
【0018】
図6〜
図8は、上述したエリア毎に設定された開先形状で切削除去する部分を示している。
図6(a),(b)は、予めエリア毎に設定された開先形状のうち、管台2の谷側のエリアに対応する開先形状で切削して埋め戻した場合を示しており、
図7(a),(b)は、予めエリア毎に設定された開先形状のうち、管台2の山側のエリアに対応する開先形状で切削して埋め戻した場合を示している。また
図8(a),(b)は、管台2の右側方のエリアに対応する開先形状で切削して埋め戻した場合を示している。
図7(a),(b)の場合、山側の開先形状が、切削時に球形鏡5の山側の内面が作業の邪魔となるため、谷側よりも上面視(図参照)の面積が大きい略台形に設定されている。また、
図8(a),(b)の場合、右側方の開先形状が、上面視で、山側の開先形状の略台形よりも、上辺および下辺が短い略台形をなし、その中心がやや山側にずれるように設定される。なお、左側方の開先形状は、上述した右側方の開先形状と管台2を基準とした対称形状であるため省略する。
【0019】
上述した何れのエリアの開先形状も、損傷部を完全に除去するべく切削前の元の肉盛部13およびJ溶接部14の深さに応じた切削深さに設定される。また、溶接装置のトーチを揺動させながら肉盛補修を行う場合が多いため、各開先形状の底部は、上面視の長手方向の断面形状が比較的曲率半径の大きい曲線となるように形成される。なお、この実施形態では、上述した4つのエリアのうち、何れか一つに損傷が存在する場合について説明したが、複数のエリアに個別に損傷がある場合には、それぞれの損傷箇所に対して上述した補修を個別に行う。また、2つのエリアが重なる部分に損傷箇所が存在する場合には、開先形状は、損傷部を除去・補修するのに適した方を選定する。
【0020】
したがって、上述した実施形態における管台2の補修方法によれば、損傷箇所を含む肉盛部13およびJ溶接部14を、予めエリア毎に設定された開先形状により、切削除去して埋め戻す肉盛補修を行うことで、管台2の補修に係る溶接や加工作業を単純化することができるため、水中環境や放射線線量の高い気中環境などの原子炉容器1の内部における溶接や加工作業等の熟練が不要となり、自動装置を用いた遠隔補修が可能になる。この結果、作業時間が短縮されて補修作業者の負担を軽減することができる。
【0021】
さらに、予めエリア毎に設定された開先形状となるように切削して肉盛補修を行うので、狭いエリアに管台2が林立するような狭隘な環境であっても、複雑な切削作業や溶接作業が必要とならないため、小型で3次元溶接が可能な高性能な自動装置を用いずに作業の自動化を図ることができる。この結果、コスト増加を抑制しつつ作業者の負担を軽減することができる。
【0022】
次に、この発明の第2実施形態の管台の補修方法について図面を参照しながら説明する。この第2実施形態の管台2の補修方法は、補修前の肉盛部13およびJ溶接部14の損傷箇所が特定できない場合や、全体に損傷の虞が有る場合に行う補修方法であるため、上述した第1実施形態と同一部分に同一符号を付して説明する。
まず、
図9に示すように、溶接装置との干渉を防止するべく管台上部2aを切断すると共に、上述した第1実施形態の複数のエリアとは異なる、予め管台2周りの全体のエリアに対応して設定された所定の開先形状によって、肉盛部13およびJ溶接部14からなる全ての溶接部位を切削除去する。この切削により形成された開先21は、切削前の肉盛部13およびJ溶接部14よりも若干大きく設定される。そして、開先21は、その底壁22から上方に向かって側壁23が拡径して形成される。この開先21の底壁22と側壁23とのなす角度は、切削装置および溶接装置が有する自動切削および自動溶接可能な条件に適合すべく、例えば60度程度に設定される。
【0023】
次いで、溶接によって切削除去した開先21の内面全体に肉盛部(不図示)を形成して、溶接後熱処理を行った後に、
図10に示すように、切削前の溶接部位の溶接量よりも少ない溶接量の補修J溶接部25を形成して埋め戻す肉盛補修を行う。この溶接量は管台上部2aを取り付ける際の強度が十分に得られる程度の溶接量とされる。また、補修J溶接部25の上面26は、管台2の径方向に沿って略水平に形成される。
【0024】
さらに、
図11に示すように、管台下部2bの軸線の延長上の補修J溶接部25に、貫通孔27と管台上部2aを螺設するためのネジ孔部28とをそれぞれ切削して形成する。そして最後に、
図12に示すように、新たな管台上部2aの底部に形成された上記ネジ孔部28に対応する雄ネジ部31を、上記ネジ孔部28に螺合して、管台上部2aを補修J溶接部25に固定する。これにより、管台上部2aと管台下部2bとが貫通孔27を介して連通されることとなる。
【0025】
したがって、上述した第2実施形態の管台2の補修方法によれば、損傷箇所が明らかな場合に加えて、非破壊検査が困難な場合など、肉盛部13およびJ溶接部14に明らかな損傷が認められない場合であっても、切削除去の際に邪魔になる管台上部2aを切断除去し、損傷可能性がある肉盛部13およびJ溶接部14の全域を、予め設定された開先形状で全て切削除去して、その開先21に肉盛補修した後、新たな管台上部2aを接合することで、損傷可能性のある肉盛部13およびJ溶接部14の全域を切削除去することができるとともに、肉盛部13およびJ溶接部14の全域を切削除去する際の溶接や加工作業を単純化して自動装置を用いた遠隔補修を行うことができるため、補修作業者の更なる負担軽減を図ることが可能になる。
【0026】
また、補修により全ての肉盛部13およびJ溶接部14をより耐SCC性に優れた材料(例えば、690系Ni基合金など)に置き換えた場合には、補修後の損傷再発のリスクを軽減することができる。
さらに、肉盛補修による溶接量を、切削除去される前の肉盛部13およびJ溶接部14よりも少ない溶接量、例えば必要最小限の溶接量に設定することで、補修前の肉盛部13および補修前のJ溶接部14と同じ溶接量とした場合と比較して、強度を確保しつつ作業時間を短縮できるため、補修作業者の更なる負担軽減を図ることが可能になる。
【0027】
次に、この発明の第3実施形態の管台の補修方法について図面を参照しながら説明する。なお第1実施形態および第2実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
この第3実施形態の管台の補修方法は、上述した第1実施形態および第2実施形態の管台の補修方法で行っている肉盛補修を、テンパービード法で行う点でのみ異なっている。具体的には、上述した第1実施形態および第2実施形態の同様に肉盛部13およびJ溶接部14を切削除去する作業を行った後に、テンパービード法により肉盛補修を行っている。
【0028】
上記テンパービード法による埋め戻し溶接を実施する場合、球形鏡5の炭素鋼や低合金鋼の靭性確保の観点から、テンパービード溶接後の球形鏡5の硬度が、例えば350HVよりも低くなるのが好ましく、そのために溶接パス間のピッチを等しくする必要がある。そして、溶接パス間のピッチを等しくするには、開先形状を適正化する必要がある。例えば第2実施形態における開先形状の場合、開先21のコーナー部Cの角度を60度一定で、
図13に示すように、底壁22と側壁23とからなるコーナー部Cの曲率半径を10[mm]に設定すると、
図15のグラフに示すように、コーナー部Cの中心から3mm程度離間した位置で、硬度が350HVを超えてしまう。一方、
図14に示すように、コーナー部Cの曲率半径を20[mm]に設定すると、
図15のグラフに示すように、コーナー部Cの中心から3[mm]程度離れても硬度が350HVを超えることが無い。図示は省略するが、曲率半径が20[mm]よりも大きくなるほど硬度の上昇は抑制される傾向にある。
【0029】
したがって、上述した第3実施形態の管台2の補修方法によれば、テンパービード法を用いることで、肉盛補修の際に、肉盛部13を形成した後に溶接後熱処理を行ってから補修J溶接部16,25を形成する場合と比較して、補修肉盛部15等を形成した後に行う溶接後熱処理を行う必要がなくなるため、作業工程が減少し、より容易に作業の自動化を図ることができる。
【0030】
なお、この発明は上述した実施形態の管台2の補修方法に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
例えば、上述した第3実施形態では、肉盛部13およびJ溶接部14の全てを切削除去した開先21にテンパービード法による補修溶接を行う場合を一例に説明したが、第1実施形態のように、エリア毎の開先形状で切削して管台上部2aを切断除去しない場合にも適用できる。この場合、開先形状として曲率半径20[mm]以上の曲面や平面によって構成するのが好ましい。
【0031】
さらに、第1実施形態では、管台2を中心にして球形鏡5に傾斜があり山側と谷側とが存在し、傾斜を基準に各エリアが設定される場合を一例にして説明したが、球形鏡5の最下部近傍のように山側と谷側とが存在しない場合には、最下部近傍の切削除去用の開先形状を予め設定しておき、損傷箇所を中心にして開先6を形成すればよい。