(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787512
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】冷間塑性加工装置
(51)【国際特許分類】
B22F 3/035 20060101AFI20150910BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
B22F3/035 D
B22F1/00 E
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-277101(P2010-277101)
(22)【出願日】2010年12月13日
(65)【公開番号】特開2012-126931(P2012-126931A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100114236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−169902(JP,A)
【文献】
特開平09−262697(JP,A)
【文献】
特開2005−325441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
B30B 11/00−11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の粉体が収容されるダイと、
前記ダイの内周に沿って移動し、粉体に対してせん断塑性ひずみを付与するパンチと、を備え、
前記パンチが前記ダイの内周を往復動することにより粉体に対して冷間塑性加工を施す冷間塑性加工装置であって、
前記ダイの内周に対向する前記パンチの外周に環状の溝が形成され、
前記溝は、前記パンチが往復動する過程で前記ダイ内周に対向する位置に形成されることを特徴とする冷間塑性加工装置。
【請求項2】
前記ダイは、内周に大径部と小径部とを有し、
前記パンチは、前記大径部に沿って移動する第1パンチと、前記小径部に沿って移動する第2パンチと、を備え、
前記溝は、前記第1パンチ及び前記第2パンチのそれぞれに複数形成されることを特徴とする請求項1に記載の冷間塑性加工装置。
【請求項3】
前記溝は、前記パンチの軸方向について等間隔に並んで形成されることを特徴とする請求項2に記載の冷間塑性加工装置。
【請求項4】
前記溝の内面は、曲面状に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の冷間塑性加工装置。
【請求項5】
前記溝の内面は、前記パンチの径方向に延びる平面部と、前記パンチの先端に向かって内径が大きくなる傾斜面と、からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の冷間塑性加工装置。
【請求項6】
前記溝の内面は、前記パンチの軸方向に延びる底面部と、前記底面部と前記パンチの外周とをつなぐ傾斜部と、からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の冷間塑性加工装置。
【請求項7】
前記底面部は、前記パンチの軸方向の長さが前記傾斜部より大きく形成されることを特徴とする請求項6に記載の冷間塑性加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉体に対して冷間塑性加工を施す装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金を製造する方法として、バルクメカニカルアロイング法が知られている。
【0003】
バルクメカニカルアロイング法として、特許文献1には、途中から広くなる柱状の内部空間を有する外部金型と、内部空間の広い側に上下動自在に嵌合する柱状金型Aと、内部空間の狭い側に上下動自在に嵌合する柱状金型Bとからなる金型を用いる方法が開示されている。外部金型の内部空間では、柱状金型Aと柱状金型Bによって粉末原料の圧縮と押し出しが繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−298836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の金型では、外部金型内にて柱状金型の上下動が繰り返される過程で、外部金型の内周に金属粉末が付着し、外部金型内周と柱状金型外周との摩擦力が次第に増加する。この場合、柱状金型を上下動させるための荷重が増加してしまうため、定期的に外部金型の内周に付着した金属粉末を除去する作業が必要となる。したがって、効率良く合金を製造することができない。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、金属の粉体に対して冷間塑性加工を効率良く施すことができる冷間塑性加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属の粉体が収容されるダイと、前記ダイの内周に沿って移動し、粉体に対してせん断塑性ひずみを付与するパンチと、を備え、前記パンチが前記ダイの内周を往復動することにより粉体に対して冷間塑性加工を施す冷間塑性加工装置であって、前記ダイの内周に対向する前記パンチの外周に環状の溝が形成され
、前記溝は、前記パンチが往復動する過程で前記ダイ内周に対向する位置に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ダイの内周に対向するパンチの外周に溝が形成されるため、パンチが移動する際、ダイの内周に付着した粉体はパンチに形成された溝によって剥がされる。したがって、ダイの内周に付着した粉体を除去する作業の頻度が少なくなるため、粉体に対して冷間塑性加工を効率良く施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る冷間塑性加工装置の断面図である。
【
図2】冷間塑性加工装置100の動作を時系列順に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
まず、
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る冷間塑性加工装置100について説明する。
【0012】
冷間塑性加工装置100は、金属の粉体に対して冷間状態で塑性加工を施す装置である。粉体とは、微細な粒子が多数集合した粉末や、ペレット状、チップ状等のある程度大きな粒子が多数集合したものをいう。つまり、固体が多数集合したものをいう。
【0013】
冷間塑性加工装置100は、粉体が収容されるダイ1と、ダイ1の内周に沿って移動し、粉体に対してせん断塑性ひずみを付与するパンチ10とを備える。
【0014】
ダイ1は、貫通孔2を有する略筒状の部材である。貫通孔2は、大きな内径の大径部2aと、大径部2aと比較して小さい内径の小径部2bと、大径部2aから小径部2bに向かって序々に縮径された傾斜部2cとからなる。
【0015】
パンチ10は、大径部2aに挿入され大径部2aに沿って移動する第1パンチ11aと、小径部2bに挿入され小径部2bに沿って移動する第2パンチ11bとを備える。
【0016】
第1パンチ11aと第2パンチ11bの構成は同じであるため、以下では、第1パンチ11aを中心に説明し、第2パンチ11bについては第1パンチ11aと同一の構成には図中に同じ数字の符号を付して説明を省略する。第1パンチ11aの構成には符号に「a」を付し、第2パンチ11bの構成には符号に「b」を付して区別する。
【0017】
第1パンチ11aは、大径部2aに挿入される挿入部12aと、大径部2aの内径よりも大きな径にて形成されたフランジ部13aとを有する。挿入部12aの先端面14aは略平面状に形成される。
【0018】
挿入部12aの外周とダイ1の大径部2aの内周との間には、5〜100μmの隙間が存在する。同様に、第2パンチ11bの挿入部12bの外周とダイ1の小径部2bの内周との間にも、5〜100μmの隙間が存在する。
【0019】
第1パンチ11aと第2パンチ11bは、挿入部12aの先端面14aと挿入部12bの先端面14bとが対向した状態で配置される。貫通孔2の内周、先端面14a、及び先端面14bによってダイ1内に空間20が区画され、空間20に粉体が収容される。空間20に収容された粉体には、第1パンチ11a及び第2パンチ11bの移動によって塑性加工が加えられてせん断塑性ひずみが付与される。
【0020】
第1パンチ11a及び第2パンチ11bは、フランジ部13a,13bの背面に連結された油圧駆動装置(図示せず)の駆動によって移動する。
【0021】
次に、
図2を参照して冷間塑性加工装置100の動作について説明する。
【0022】
まず、
図1に示すように、大径部2aと小径部2bとに跨って区画された空間20に原料の粉体を収容する。次に、
図2(a)に示すように、第1パンチ11aを進入させ、第1パンチ11aと第2パンチ11bとの間にて粉体を圧縮する。これにより、粉体には、圧縮力が付与されると共に、ダイ1の傾斜部2cを通過する際にせん断力が付与される。この工程にて、粉体は、圧縮力を受けて互いにくっつき、圧粉体に変化する。
【0023】
次に、
図2(b)に示すように、第1パンチ11aを後退させる。そして、
図2(c)に示すように、第2パンチ11bを先端面14bが傾斜部2cの最小径部に位置するまで進入させる。
【0024】
次に、
図2(d)に示すように、第1パンチ11aを進入させ、第1パンチ11aと第2パンチ11bとの間にて圧粉体を圧縮する。これにより、粉体には圧縮力が付与される。
【0025】
次に、
図2(e)に示すように、第2パンチ11bを後退させる。そして、
図2(f)に示すように、第1パンチ11aを再び進入させ、圧粉体を大径部2aから小径部2bに押し出す。これにより、圧粉体は傾斜部2cを通過する際に縮径されて、圧粉体にせん断力が付与される。
【0026】
最後に、第2パンチ11bを進入させ、第1パンチ11aと第2パンチ11bとの間にて圧粉体を圧縮する。これにより、
図2(a)に示す状態に戻る。以上の工程が繰り返されることによって、粉体には冷間状態で強加工が施され、粉体中には多数のせん断塑性ひずみが付与される。
【0027】
空間20に収容される原料としては、2種類以上の純金属の粉体を混合したものでもよく、1種類の純金属の粉体でもよく、また、合金の粉体でもよい。
【0028】
2種類以上の純金属の粉体を混合したものを原料として用いた場合には、
図2に示す工程を繰り返すことによって、合金を製造することができる。そして、得られる合金は強加工によって結晶粒が微細化するため、機械的性質が優れたものとなる。また、1種類の純金属の粉体又は合金の粉体を原料として用いた場合も、
図2に示す工程を繰り返すことによって、強加工によって結晶粒が微細化するため、機械的性質を向上させることができる。
【0029】
第1パンチ11aの挿入部12aの外周とダイ1の大径部2aの内周との間には5〜100μmの隙間が存在するため、第1パンチ11aが進入及び後退する過程で、挿入部12aの外周と大径部2aの内周との間に原料粉体や加工途中の粉体が入り込む。入り込んだ粉体は、大径部2aの内周に付着し、その付着量は、加工が繰り返されることによって、序々に増加する。それに伴って、挿入部12aの外周と大径部2aの内周との摩擦力が増加するため、第1パンチ11aを進入及び後退させるために必要な荷重も序々に大きくなってしまう。そのため、第1パンチ11aを進入及び後退させるための荷重が所定値に達した場合には、加工を一次中断し、大径部2aの内周に付着した粉体を除去する作業が必要となる。第2パンチ11bについても同様であり、第2パンチ11bを進入及び後退させるための荷重が所定値に達した場合には、加工を一次中断し、小径部2bの内周に付着した粉体を除去する作業が必要となる。
【0030】
この対策として、第1パンチ11aの挿入部12a及び第2パンチ11bの挿入部12bの外周には、それぞれ溝25が形成される。この溝25について、
図3を参照して詳しく説明する。以下では、第1パンチ11aについて説明するが、第2パンチ11bにも同様の溝が形成される。
【0031】
溝25は、第1パンチ11aの挿入部12aの外周全周に亘って形成されるラビリンス溝であり、挿入部12aの軸方向に等間隔に複数形成される。本実施の形態では、4つの溝25が形成される。
【0032】
挿入部12aの外周に複数の溝25が形成されることによって、挿入部12aの外周は、溝25と、外径が一様な曲面部26とから構成されることになる。各溝25の内面は、曲面状に形成される。溝25と曲面部26との境界には角部27が形成される。曲面部26とダイ1の大径部2aの内周との隙間は5〜100μmである。
【0033】
溝25が形成された第1パンチ11aを用いた場合には、ダイ1の大径部2aの内周に粉体が付着しても、溝25の存在によって、挿入部12aの外周と大径部2aの内周との接触面積が減るため、両者の間に発生する摩擦力の増加が抑制される。また、ダイ1の大径部2aの内周に付着した粉体は、第1パンチ11aが進入及び後退する過程で、挿入部12aの外周の角部27によって剥がされるため、加工が繰り返されても、大径部2aの内周に付着する粉体の量は増加し難い。したがって、溝25が形成された第1パンチ11aを用いることによって、第1パンチ11aを進入及び後退させるための荷重の増加を抑制することができ、大径部2aの内周に付着した粉体を除去する作業の頻度を少なくすることができる。
【0034】
次に、
図4を参照して、溝25の他の形状について説明する。
【0035】
図4に示す溝30は、第1パンチ11aの挿入部12aの外周全周に亘って形成されるシェービング溝であり、挿入部12aの軸方向に等間隔に複数形成される。
【0036】
挿入部12aの外周に複数の溝30が形成されることによって、挿入部12aの外周は、溝30と、外径が一様な曲面部31とから構成されることになる。各溝30の内面は、挿入部12aの径方向に延びる平面部30aと、挿入部12aの先端に向かって内径が大きくなる傾斜面30bとからなる。曲面部31とダイ1の大径部2aの内周との隙間は5〜100μmである。
【0037】
溝30が形成された第1パンチ11aを用いた場合も、溝25が形成された第1パンチ11bを用いた場合と同様の作用効果を奏する。また、ダイ1の大径部2aの内周に付着した粉体は、第1パンチ11aが進入する過程で、溝30の平面部30aによって剥がされる一方、第1パンチ11aが後退する過程では、溝30の傾斜面30bが大径部2aの内周に付着した粉体を剥がす作用は小さい。このため、大径部2aの内周に付着した粉体は、主に、第1パンチ11aの進入時に剥がされることになる。したがって、剥がされた粉体は、第1パンチ11aの進入動作によって空間20に導かれ易いため、外部に飛散し難い。
【0038】
次に、
図5を参照して、溝25の他の形状について説明する。
【0039】
図5に示す溝40は、第1パンチ11aの挿入部12aの外周全周に亘って形成されるグルーブ溝であり、1つだけ形成される。
【0040】
挿入部12aの外周に溝40が形成されることによって、挿入部12aの外周は、溝40と、外径が一様な曲面部41とから構成されることになる。溝40の内面は、挿入部12aの軸方向に延びる底面部40aと、底面部40aと曲面部41とをつなぐ傾斜部40bとからなる。曲面部41とダイ1の大径部2aの内周との隙間は5〜100μmである。
【0041】
溝40が形成された第1パンチ11aを用いた場合も、溝25が形成された第1パンチ11bを用いた場合と同様の作用効果を奏する。また、溝40の底面部40aにおける挿入部12aの軸方向長さを大きくすることによって、挿入部12aの外周と大径部2aの内周との接触面積を減らすことができ、両者の間に発生する摩擦力の増加をより抑制することができる。
【0042】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0043】
例えば、上記実施の形態では、溝25,30,40を第1パンチ11a及び第2パンチ11bの双方に形成すると説明した。しかし、溝25,30,40を第1パンチ11a及び第2パンチ11bのいずれか一方に形成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る冷間塑性加工装置は、粉体を原料として合金を製造するバルクメカニカルアロイング法の装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
100 冷間塑性加工装置
1 ダイ
2a 大径部
2b 小径部
11a 第1パンチ
11b 第2パンチ
12a,12b 挿入部
20 空間
25,30,40 溝
26,31,41 曲面部
27 角部
30 溝
30a 平面部
30b 傾斜面
40a 底面部
40b 傾斜部