特許第5787532号(P5787532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5787532-火花点火式内燃機関の火花点火制御方法 図000002
  • 特許5787532-火花点火式内燃機関の火花点火制御方法 図000003
  • 特許5787532-火花点火式内燃機関の火花点火制御方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787532
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】火花点火式内燃機関の火花点火制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02P 23/04 20060101AFI20150910BHJP
   F02P 3/01 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   F02P23/04 B
   F02P3/01 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-12776(P2011-12776)
(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公開番号】特開2012-154218(P2012-154218A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2013年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 毅
(72)【発明者】
【氏名】尾井 宏朗
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和久
【審査官】 安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−007163(JP,A)
【文献】 特開2009−146636(JP,A)
【文献】 特開2009−170324(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/088045(WO,A1)
【文献】 特開2010−216467(JP,A)
【文献】 特開2010−096144(JP,A)
【文献】 特開2010−101182(JP,A)
【文献】 特開2009−036125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/01
F02P 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグを備え、点火プラグに接続される点火コイルを介して印加される高電圧により生じる火花放電時に生成される生成物と電界生成手段により点火プラグを介して燃焼室内に生成される電界とを反応させてプラズマを生成して混合気に着火する火花点火式内燃機関の火花点火制御方法であって、
火花放電のための前記高電圧を負極性の電圧とし、前記電界の生成ための電圧を正極性の脈流により生成する火花点火式内燃機関の火花点火制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室内に生成される電界と点火プラグによる火花放電により生成される生成物とを反応させてプラズマを生成して燃焼を促進する火花点火式内燃機関の火花点火制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用の内燃機関では、点火プラグの中心電極と接地電極との間に高電圧を印加し、両電極間のギャップに生成する火花放電により、点火時期毎に燃焼室内の混合気に着火している。このような点火プラグによる着火において例えば、火花エネルギが不足して火炎核ができにくい場合が生じたりする。
【0003】
このような火花点火時の不具合を解決するために例えば、特許文献1に記載のもののように、燃焼室内にプラズマを生成し、そのプラズマと火花放電とを反応させることにより、火炎核を確実に生成するようにしたものが知られている。この特許文献1のものでは、点火プラグを介して供給するマイクロ波により、火花放電の直前あるいは火花放電とほぼ同時に高周波電界を発生させ、火花放電とプラズマとを反応させて、より強力な火炎核を生成している。
【0004】
ところで、特許文献1のもののようにマイクロ波を用いる場合例えば、マグネトロンを使用することになり、高周波電界を発生させるための装置が複雑になる傾向があった。このような事情に鑑み、高周波電界をマイクロ波より周波数の低い高周波を用いることが考えられている。この場合例えば、高周波電圧をダイオードで半波整流して得られる脈動電圧を点火プラグに印加することが試みられている。この場合、自動車に搭載される内燃機関では、点火プラグの中心電極に負極性の高電圧を印加して火花放電を実施しているので、脈流電圧も火花放電に対応させて負極性の電圧としている。
【0005】
しかしながら、火花放電で生成される生成物と脈流電圧による電界とが反応して生成されるプラズマには、OHラジカル等のラジカルやオゾンとともにプラスイオンが含まれている。このため、着火後は、点火プラグの中心及び接地電極近傍にラジカルやプラスイオンが電界に引き付けられることになり、形成される火炎核の成長が鈍くなるとともに、プラズマの拡散が阻害されて、燃焼が燃え広がることも抑えられることになる。このため、プラズマによる燃焼促進効果が十分に発揮されないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010‐101182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は以上の点に着目し、着火後における燃焼の拡大の促進を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の火花点火式内燃機関の火花点火制御方法は、点火プラグを備え、点火プラグに接続される点火コイルを介して印加される高電圧により生じる火花放電時に生成される生成物と電界生成手段により点火プラグを介して燃焼室内に生成される電界とを反応させてプラズマを生成して混合気に着火する火花点火式内燃機関の火花点火制御方法であって、電界を、正極性の脈流により生成することを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、正極性の脈流により電界を生成するので、火花放電時に生成される生成物であるイオンなどが点火プラグ近傍に集まることが回避される。その結果、着火後において、正極性の電界と生成物とが反発しあい、燃焼を広がらせる。
【0010】
本発明における脈流とは、流れる方向が一定で、電流及び/又は電圧の大きさに周期的又は不定期的な変動を伴った電流及び/又は電圧をいう。具体的には、正極性の脈流は、高周波を半波又は全波整流して、平滑することなく得られる正電圧のみを用いる。あるいは、正極性の脈流は、高周波の波高値と同値の直流正電圧を高周波に加算つまり高周波を波高値と同値の直流正電圧でバイアスして得るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上説明したような構成であり、火花放電時の生成物を点火プラグ近傍に留めることが抑えられるので、燃焼の広がりを促進させることができ、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態を適用するエンジンの要部を示す断面図。
図2】同実施形態における点火装置の電気回路図。
図3】同実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、点火プラグ1を備える火花点火式内燃機関である二気筒のエンジン100の一気筒の構成を示すものである。このエンジン100は、吸気ポート2の開口3及び排気ポート4の開口5が、燃焼室6の天井部分のほぼ中央に取り付けられる点火プラグ1を中心として対向配置されて、1気筒当たりそれぞれ2ヶ所に開口するものである。すなわち、このエンジン100は、シリンダブロック7に取り付けられ、燃焼室6の天井部分を形成しているシリンダヘッド8には、吸気側と排気側とにそれぞれカムシャフト9、10が取り付けてある。シリンダヘッド8の吸気ポート2は、カムシャフト9が回転することにより往復作動する吸気弁11により、また排気ポート4は、カムシャフト10が回転することにより往復作動する排気弁12によりそれぞれ開閉されるものである。そして、燃焼室6の天井部分には、点火プラグ1が取り付けられてあり、吸気ポート2には燃焼室6へ供給する混合気を生成するための燃料噴射弁を備える。なお、エンジン100それ自体は、この分野で知られている火花点火式のものを適用するものであってよい。
【0015】
この実施形態の点火プラグ1は、導電材料からなるハウジング13と、ハウジング13内に絶縁されて取り付けられる中心電極14と、中心電極14から火花放電が発生する間隙14だけ離れてハウジング13の下端に設けられる接地電極15と、イグナイタと点火コイルとが構造上一体にされてなるイグナイタ付点火コイル(以下、点火コイルと称する)21が電気的に接続される接続端子17とを基本的に備える。点火プラグ1は、この分野でよく知られたものを用いるものであってよい。
【0016】
点火プラグ1に接続される点火装置20は、図2に示すように、第一気筒の点火プラグ1に接続される点火コイル21と、点火コイル21の二次側巻線21aにカソードが接続されるダイオード23と、昇圧トランス25をその出力段に備えて火花点火時の所定時期に、燃焼室6内、特には点火プラグ1の中心電極14を中心とする領域に正極性の電界を生成するための高周波電圧発生装置26とを備えている。電界生成手段である高周波電圧発生装置26は、昇圧トランス25と、昇圧トランス25に接続される発生装置本体27と、高周波に基づく電圧を点火プラグ1に印加する時期(タイミング)を制御するためのスイッチング手段28とを備えている。スイッチング手段28は、誘導放電の開始を判定した場合に、高周波電圧が点火プラグ1に印加されるように、電子制御装置29により制御される。
【0017】
高周波電圧発生装置26の発生装置本体27は例えば、車両用のバッテリの電圧例えば約12V(ボルト)を昇圧回路であるDC‐DCコンバータにて300〜500Vに昇圧し、昇圧された直流をHブリッジ回路にて周波数が約200kHz〜600kHzの交流に変化させる構成であり、高周波電圧発生装置26は昇圧トランス25により約4kVp‐p〜8kVp‐pに昇圧した高周波を出力する構成である。
【0018】
ダイオード23は、高周波電圧発生装置26が発生する高周波(交流)に対しては整流手段として機能する。また、図示例のダイオード23は、点火コイル21が発生する火花放電のための高電圧に対して、逆流防止ダイオードとして機能する。すなわち、図示例にあっては、燃焼行程において点火を実施する際には、点火コイル21の二次側巻線21aから、点火プラグ1の中心電極14に正極性の高電圧が印加されるものである。したがって、ダイオード23は、そのカソードが対応する二次側巻線21aに接続されるので、前記正極性の高電圧が高周波電圧発生装置26に逆流することを防止する。但し、点火コイル21が発生させ点火プラグ1の中心電極14に印加される火花放電のための高電圧は、従来の自動車用内燃機関と同様、負極性の電圧であることも当然にあり得る。
【0019】
電子制御装置29は、エンジン100に取り付けられる各種のセンサから出力される信号に基づいてエンジン100の運転状態を制御する運転制御プログラムを内蔵するとともに、火花点火に関しては、火花放電における誘導放電の開始か否かを判定し、誘導放電の開始を判定した場合に正極性の高周波電圧を出力する点火制御プログラムを内蔵する。図3に点火制御プログラムの制御手順を示す。
【0020】
図3において、ステップS1では、誘導放電の開始か否かを判定する。具体的には、火花点火が始まると、まず、容量放電による容量火花が生じ、その後に誘導放電による誘導火花が生じる。この場合、点火コイル21の出力電圧である二次電圧を計測しておき、二次電圧が容量放電時の最大電圧以下で、かつ平均的な誘導放電電圧より高い電圧に設定された判定電圧以下となったことを検出した場合に、誘導放電の開始を判定する。判定電圧は、二次電圧が容量放電時の最大放電電圧を上回った後に二次電圧が降下し、誘導放電における放電電圧の近傍にまで二次電圧が降下したことを判定するものでる。したがって、判定した誘導放電の開始のタイミングは、誘導放電に至らない容量放電中である場合もあるが、二次電圧が判定電圧以下であるので、容量放電の電圧に高周波電圧が重畳しても過大な電圧にはならない。それゆえ、火花放電が誘導放電になるまでスイッチング手段28をオンするタイミングを遅延させる必要はない。
【0021】
ステップS1において、誘導放電の開始を判定した場合には、ステップS2において、スイッチング手段28を制御して、高周波電圧を半波整流した脈流を点火プラグ1に印加して、正極性の電界を生成する。
【0022】
このような構成であれば、電子制御装置29から出力される点火信号が点火コイル21のイグナイタに入力されると、点火コイル21の二次側巻線21aから、点火プラグ1の中心電極14に正極性の高電圧が印加されて、火花放電が始まる。火花放電が始まると、まず、容量放電による容量火花が生じ、その後に誘導放電による誘導火花が生じる。そして、誘導放電が始まる時点に対応して、スイッチング手段28を閉じて、高周波電圧を半波整流した脈流を点火プラグ1に印加する。
【0023】
この実施形態では、高周波電圧発生装置26からの高周波が、ダイオード23により半波整流されて正極性の脈流(電圧)となって中心電極14に印加され、脈流(電流)が中心電極14と接地電極42との間に流れることによって火花放電時の容量放電後半から誘導放電直前乃至誘導放電開始時点に中心電極14と接地電極15との間に電界が生成される。生成された正極性の電界と、中心電極14と接地電極15との間に発生する火花放電による生成物とが反応してプラズマが生成され、混合気に着火するものである。
【0024】
具体的には、点火プラグ1による火花放電の結果生み出される生成物が電界中でプラズマになる。この結果、生成したプラズマにて混合気に着火を行うことで火炎伝播燃焼の始まりとなる火炎核が火花放電のみの点火に比べて大きくなるとともに、所定空間内に大量のラジカルが発生することで燃焼が促進される。
【0025】
これは、火花放電による電子の流れ及び火花放電によって生じた生成物であるプラスイオンやラジカルが、正極性の電界の影響を受けて点火プラグ1から遠ざかりながら振動、蛇行することで行路長が長くなり、周囲の水分子や窒素分子と衝突する回数が飛躍的に増加することによるものである。プラスイオンやラジカルの衝突を受けた水分子や窒素分子は、OHラジカルやNラジカルになると共に、プラスイオンやラジカルの衝突を受けた周囲の気体は電離した状態、言換するとプラズマ状態となることで、飛躍的に混合気への着火領域が大きくなり、火炎伝播燃焼の始まりとなる火炎核も大きくなるものである。
【0026】
このように、容量放電による着火後に生成されるプラスイオンやラジカルなどが正極性の電界と反応して反発することで、プラスイオンなどの分散が助長されて燃焼の広がりを促進させることができる。この結果、燃費を向上させることができる。
【0027】
また、プラズマ中のプラスイオンやラジカルなどは、正極性の電界中で分散する方向に移動するので、燃焼の広がりを阻害する要因を含むものではなく、燃焼が広がる過程において電界の生成を停止する必要がなくなる。このため、ピストンが上死点を越した後に脈流の印加を停止するタイミングを高精度に制御する必要がなく、そのような制御のプログラムを簡素化することができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0029】
中心電極とは別に、正極性の電界生成のために、燃焼室内に高周波を放射するアンテナをシリンダヘッドに備えるものであってもよい。アンテナは、可能な限り中心電極及び接地電極に近い位置に設けるものが好ましい。
【0030】
また、高周波電圧発生装置26に代えて、高周波の周波数と同等の周期で変化する正極性の脈流を出力する電圧発生装置であってもよい。この場合、上記実施形態におけるダイオード23は、整流手段としては機能せず、逆流防止のみの機能となる。したがって、電界を生成する際に、電圧発生装置が出力する正極性の高電圧の脈流をダイオード順方向電圧降下分だけ低くすることができ、電界生成に要するエネルギを低減することができる。加えて、ダイオード23が発する熱が低くなるので、熱損失を低減することができる。
【0031】
また、エンジンの気筒数は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の活用例として、ガソリンや液化天然ガスを燃料として点火プラグによる火花放電を着火に必要とする火花点火式内燃機関に適用するものが挙げられる。
【符号の説明】
【0034】
1…点火プラグ
20…点火装置
21…点火コイル
26…高周波電圧発生装置
29…電子制御装置
100…エンジン
図1
図2
図3