【実施例】
【0015】
本実施例に係る核特性計算プログラムは、可燃性毒物を含む燃料棒の核特性を評価するプログラムである。核特性計算プログラムは、例えば、核定数計算コードであり、原子数密度N、実効増倍率、無限増倍率や出力等の核特性を算出している。この燃焼計算プログラムは、炉心に装荷される燃料集合体の核定数を算出する核定数計算コードに組み込まれている。先ず、
図1を参照して、燃料計算プログラムを組み込んだ核定数計算コードについて説明する。
【0016】
図1は、本実施例の核定数計算コードを記憶した解析装置を概略的に表した説明図であり、
図2は、解析対象領域となる燃料集合体を軸方向に直交する面で切ったときの断面図である。
図1に示すように、核定数計算コード50は、解析装置(ハードウェア)40上において実行可能なプログラムであり、解析装置40の記憶部41に記憶されている。この核定数計算コード50は、燃料集合体6を軸方向に直交する面で切った断面となる四角形の幾何形状を2次元の解析対象領域30(
図2参照)としており、この解析対象領域30における核定数を算出可能なコードとなっている。なお、核定数は、炉心計算に用いられる入力データであり、核定数としては、拡散係数、吸収断面積、除去断面積および生成断面積などがある。つまり、核定数計算コード50を用いて核定数計算を行うことにより、炉心計算用の入力データである核定数を生成している。
【0017】
図2に示すように、解析対象領域30となる燃料集合体6は、複数の燃料棒10と、各燃料棒10を覆う複数の被覆管11と、複数の被覆管11を束ねる図示しないグリッドと、で構成され、燃料集合体6の内部は減速材(冷却材)13で満たされると共に、複数の制御棒14および炉内核計装15が挿入可能となるように構成されている。
【0018】
燃料集合体6は、断面方形状に形成され、例えば、17×17のセル20で構成されている。そして、17×17のセル20のうち、24個のセル20には、それぞれ制御棒14が挿入され、集合体中心のセル20には、炉内核計装15が挿入される。このとき、制御棒14が挿入されるセル20を制御棒案内管、炉内核計装15が挿入されるセル20を計装案内管という。また、その他のセル20には、燃料棒10がそれぞれ挿入される。なお、燃料集合体6が沸騰水型軽水炉(BWR)に用いられる場合、燃料集合体6は、その外側がチャンネルボックスに覆われる。一方で、燃料集合体6が加圧水型軽水炉(PWR)に用いられる場合、燃料集合体6は、その外側が開放されている。そして、BWRの場合にはチャンネルボックスの外側に、PWRの場合には燃料集合体6の外側に、集合体間ギャップ12が存在する。
【0019】
燃料棒10は、複数の燃料ペレットで構成され、円筒の被覆管11に挿入されている。燃料ペレットは、核燃料としてのウラン235を所定の濃縮度にし、二酸化ウランとして焼き固め、ペレット状に形成したものである。なお、本実施例では、核燃料としてウラン235を用いたが、これに限らず、例えば、プルトニウム等の核分裂物質を用いてもよい。また、この燃料ペレットには、可燃性毒物としてのガドリニウムが含まれている。可燃性毒物(burnable poison)とは、中性子吸収能力が大きい物質のことであり、中性子吸収反応に伴い中性子吸収能力を失っていく物質である。なお、可燃性毒物としては、ガドリニウム(Gd)、ホウ素(B)、エルビウム(Er)やジスプロシウム(Dy)等がある。
【0020】
核定数計算コード50は、燃料集合体6の非均質体系に対応した2次元輸送計算コードとなっており、特性曲線法(MOC:Method of Characteristics)による中性子輸送方程式を用いて燃料集合体6内の中性子束を計算したり、燃焼計算を行ったり、核定数計算を行ったりしている。
【0021】
この核定数計算コード50は、共鳴計算プログラム51と、輸送計算プログラム52と、燃焼計算プログラム53と、核定数計算プログラム54とで構成され、解析装置40により実行される。そして、この核定数計算コード50は、解析装置40に入力される燃料集合体6に関する諸元データや、解析装置40の記憶部41に記憶された断面積ライブラリ55から取得される実効断面積に基づいて、各種計算を行っている。なお、諸元データとしては、例えば、燃料棒の半径、集合体間ギャップ、燃料組成、燃料温度や減速材温度等である。
【0022】
共鳴計算プログラム51は、入力された諸元データに基づいて、輸送計算プログラム52の入力データとなる実効断面積を計算している。共鳴計算プログラム51では、中性子のエネルギーを複数のエネルギー群に分割し、分割した各エネルギー群の平均の断面積である実効断面積が求められ、これにより、多群の実効断面積を算出する。この実効断面積は、バックグラウンド断面積に基づいて算出される。つまり、共鳴計算プログラム51は、入力された諸元データに基づいてバックグラウンド断面積を算出し、算出したバックグラウンド断面積に基づいて実効断面積を算出する。
【0023】
断面積ライブラリ55は、バックグラウンド断面積と実効断面積とを対応付けてテーブル化したものであり、核種毎に設けられている。このため、共鳴計算プログラム51においてバックグラウンド断面積が算出されると、算出されたバックグラウンド断面積を引数として、断面積ライブラリ55から実効断面積が算出される。
【0024】
輸送計算プログラム52は、算出した実効断面積を用いて、特性曲線法に基づき解析対象領域における中性子束を多群に亘って計算している。輸送計算プログラム52では、解析対象領域30上に複数の中性子飛行パスを作成し、作成された中性子飛行パス毎に中性子輸送方程式を解くことで、中性子束や、実効増倍率、無限増倍率等の物理量を算出している。このとき、輸送計算プログラムでは、入力値として散乱断面積が用いられている。
【0025】
燃焼計算プログラム53は、炉心内の核種の生成と消滅とを追跡する燃焼計算を実行している。燃焼計算プログラム53は、燃焼方程式を解くことにより、各核種の原子数密度の時間変化を評価している。燃焼計算によって得られた次の燃焼ステップの原子数密度は、共鳴計算プログラムおよび輸送計算プログラムの入力値として用いられる。これにより、燃料計算プログラム53は、所定の燃焼ステップ毎に燃焼計算と輸送計算とを繰り返し行うことで、燃焼状態(燃焼の時間変化)を追跡する。
【0026】
核定数計算プログラム54は、輸送計算プログラム52によって得られる燃料集合体6内の多群の中性子束を重みとして、燃料集合体6内の多群の実効断面積を縮約・均質化し、均質化されたマクロ核定数を算出する。
【0027】
以上から、核定数計算コード50を用いて燃焼計算を行う場合、解析装置40は、共鳴計算プログラム51を実行することで、実効断面積を算出する。そして、解析装置40は、算出した実効断面積から、輸送計算プログラム52の入力値となる散乱断面積等の物理量を算出し、算出した物理量を用いて、輸送計算プログラム52を実行することで、解析対象領域30の中性子束や実効増倍率等の物理量を算出する。この後、解析装置40は、算出した物理量から、燃焼計算プログラム53の入力値となる反応率等の物理量を算出し、算出した物理量を用いて、燃焼計算プログラム53を実行することで、原子数密度等の物理量を算出する。
【0028】
図3は、中性子の複雑な散乱を表現可能な散乱モデルに対する、中性子の簡易な散乱を表現可能な散乱モデルの誤差を評価したグラフであり、
図4は、散乱モデルの計算時間を示した表である。なお、中性子の複雑な散乱を表現可能な散乱モデルとは、中性子の非等方散乱を表現することが可能な散乱モデルである。一方で、中性子の簡易な散乱を表現可能な散乱モデルとは、中性子の等方散乱を表現することが可能な散乱モデルである。
図3のグラフは、その横軸が、燃料集合体6に含まれる燃料棒10の平均燃焼度となっており、その縦軸が、無限増倍率となっている。ここで、評価する散乱モデルとしては、散乱する中性子の角度依存性を球面調和関数で表現した(1)式の散乱モデル(n次散乱モデル)がある。また、他の散乱モデルとしては、散乱する中性子の角度依存性を等方散乱とした等方散乱モデルを補正することで非等方散乱モデルを表現した(2)式の散乱モデル(輸送補正モデル)がある。
【0029】
【数1】
【数2】
【0030】
図3のグラフにおいて、基準となる複雑な体系の散乱モデルとしては、(1)式において、ルジャンドル次数Lが3次となる散乱モデルであり、この散乱モデルにおける基準線をP3としている。なお、ルジャンドル次数Lが高次となるほど、散乱モデルは、より厳密(複雑)な中性子の散乱を表現することが可能となる。P3の散乱モデルは、燃料棒10の燃焼初期から燃焼後期に亘って、中性子の散乱を精度良く評価しているものの、
図4に示すように、その計算時間が、散乱モデルP0、Y1に比して、長いものとなっている。なお、
図4に示すグラフは、散乱モデルP0、Y1を基準「1」としたときの、散乱モデルP1、P2、P3の計算時間である。
【0031】
一方で、評価対象となるP2の散乱モデルは、ルジャンドル次数Lが2次となる散乱モデルであり、同様に、P1およびP0の散乱モデルは、それぞれルジャンドル次数が1次および0次となる散乱モデルである。また、Y1の散乱モデルは、(2)式の散乱モデルである。これらの散乱モデルは、P3の散乱モデルに比して、低次となっているため、より簡易な散乱を表現している。
【0032】
図3に示すように、燃料棒10に可燃性毒物が含まれる場合、燃料棒10の初期の燃焼時において、可燃性毒物は中性子を吸収するため、中性子は非等方散乱となる。このとき、散乱モデルP0、P1,Y1は、散乱モデルP3のように、中性子の無限増倍率を精度良く評価することが難しい一方で、散乱モデルP2は、散乱モデルP3のように、中性子の無限増倍率を精度良く評価している。しかしながら、散乱モデルP2も、
図4に示すように、その計算時間は、依然として長いものとなっている。
【0033】
このため、本実施例の核定数計算コード50を用いた燃焼計算では、燃料集合体6に含まれる燃料棒10の平均燃焼度に応じて、使用する散乱モデルを使い分けている。燃焼計算では、共鳴計算によって得られた実効断面積、および輸送計算によって得られた中性子束を入力値として燃焼方程式を解くことにより、原子数密度の時間変化を算出している。なお、本実施例の燃焼計算では、予測子修正子法を用いて、燃料棒10の燃焼状態を追跡している。以下、
図5を参照して、本実施例に係る燃焼計算について詳細に説明する。
【0034】
図5は、本実施例の核定数計算コードを用いて実行される燃焼計算に関するフローチャートである。先ず、解析装置40は、燃焼計算を行う場合、燃焼計算に用いられる初期の入力値として、予め計算された、初期の原子数密度N
0、解析対象領域の幾何形状、を設定する(ステップS1)。続いて、解析装置40は、設定された原子数密度N
0と幾何形状とに基づいて、初期の燃焼ステップt
0における実効断面積Σ(t
0)を計算する(ステップS2)。この後、解析装置40は、算出した実効断面積Σ(t
0)から、複雑な散乱を表現する散乱モデル(第2散乱モデル)、例えば、散乱モデルP2、または散乱モデルP1を用いて、散乱断面積を算出すると共に、算出した散乱断面積を用いて、特性曲線法に基づき、初期の燃焼ステップt
0における解析対象領域30の中性子束Φ(t
0)を算出する(ステップS3:第1核特性算出ステップ)。
【0035】
続いて、解析装置40は、次の燃焼ステップt
nにおける燃焼状態を評価すべく、初期の燃焼ステップt
0から、次の燃焼ステップt
n(n=1)へ更新する(ステップS4)。燃焼ステップを更新すると、解析装置40は、ステップS2およびS3で算出した実効断面積Σ(t
0)および中性子束Φ(t
0)に基づいて、燃焼計算を行うことで、予測子となる原子数密度N
pを算出する(ステップS5)。
【0036】
次に、解析装置40は、算出した原子数密度Npを用いて、燃焼ステップt
n(n=1)における実効断面積Σ
p(t
n)を計算する(ステップS6)。この後、解析装置40は、算出した実効断面積Σ
p(t
n)から、複雑な散乱を表現する散乱モデルを用いて、散乱断面積を算出すると共に、算出した散乱断面積を用いて、特性曲線法に基づき、燃焼ステップt
n(n=1)における解析対象領域30の中性子束Φ
p(t
n)を算出する(ステップS7)。そして、解析装置40は、ステップS6およびS7で算出した実効断面積Σ
p(t
n)および中性子束Φ
p(t
n)に基づいて、燃焼計算を行うことで、修正子となる原子数密度N
cを算出する(ステップS8)。
【0037】
予測子となる原子数密度N
pと修正子となる原子数密度N
cとが算出されると、解析装置40は、原子数密度N
pと原子数密度N
cとの平均である原子数密度N(t
n)を算出する(ステップS9)。続いて、解析装置40は、散乱モデルを切替える設定燃焼ステップ(設定燃焼度)となったか否かを判定する(ステップS10)。設定燃焼ステップは、
図3に示すグラフにおける所定の平均燃焼度Bに相当する燃焼ステップである。解析装置40は、設定燃焼ステップになった場合、複雑な散乱を表現する散乱モデルから、簡易な散乱を表現する散乱モデル(第1散乱モデル)、例えば、散乱モデルP0、または散乱モデルY1に切替える(ステップS11:散乱モデル切替ステップ)。一方で、解析装置40は、設定燃焼ステップになっていない場合、ステップS11を行わず、つまり、散乱モデルを切替えず、後述するステップS12に移行する。
【0038】
そして、解析装置40は、算出した原子数密度N(t
n)を用いて、燃焼ステップt
n(n=1)における実効断面積Σ(t
n)を計算する(ステップS12)。この後、解析装置40は、算出した実効断面積Σ(t
n)から、ステップS10およびS11において設定された散乱モデルを用いて、散乱断面積を算出すると共に、算出した散乱断面積を用いて、特性曲線法に基づき、燃焼ステップt
n(n=1)における解析対象領域30の中性子束Φ(t
n)を算出する(ステップS13:第2核特性算出ステップ)。
【0039】
続いて、解析装置40は、ステップS9で算出された原子数密度N(t
n)、ステップS12で算出された実効断面積Σ(t
n)、ステップS13で算出された中性子束Φ(t
n)等の核特性を、計算結果として出力する(ステップS14)。この後、解析装置40は、次の燃焼ステップt
n+1があるか否かを判定する(ステップS15)。次の燃焼ステップt
n+1がある場合、解析装置40は、燃焼ステップt
nから、次の燃焼ステップt
n+1へ更新する(ステップS16)。一方で、次の燃焼ステップt
n+1がない場合、解析装置40は、燃焼計算を終了する。
【0040】
ここで、散乱モデルの切替時において、予測子となる原子数密度N
pと、修正子となる原子数密度N
cとを算出する場合、解析装置40は、切替前の複雑な散乱を表現する散乱モデルを用いて、予測子となる原子数密度N
pを算出し、この後、切替後の簡易な散乱を表現する散乱モデルを用いて、修正子となる原子数密度N
cを算出している。
【0041】
具体的に説明すると、解析装置40は、ステップS5において、原子数密度N
pを算出する場合、切替前の散乱モデルを用いて算出した実効断面積および中性子束を入力値として用いる。一方で、解析装置40は、ステップS8において、原子数密度N
cを算出する場合、切替後の散乱モデルを用いて算出した実効断面積および中性子束を入力値として用いる。
【0042】
次に、
図6および
図7を参照して、散乱モデルを切替えたときの計算精度の評価について説明する。
図6は、中性子の複雑な散乱を表現可能な散乱モデルに対する、中性子の簡易な散乱を表現可能な散乱モデルの誤差を評価したグラフであり、
図7は、散乱モデルの計算時間を示した表である。
【0043】
図6に示すグラフは、
図3に示すグラフと同様であり、(P1+Y1)が、散乱モデルP1から散乱モデルY1に切替えたときのグラフであり、(P2+Y1)が、散乱モデルP2から散乱モデルY1に切替えたときのグラフである。
図6に示すように、(P1+Y1)および(P2+Y1)のグラフは、散乱モデルP3のように、中性子の無限増倍率を精度良く評価していることが確認された。このとき、
図7に示すように、散乱モデルP1から散乱モデルY1に切替えたときの計算時間は、散乱モデルP1のみを用いた場合に比べて計算時間が短縮されており、同様に、散乱モデルP2から散乱モデルY1に切替えたときの計算時間は、散乱モデルP2のみを用いた場合に比べて計算時間が短縮されている。
【0044】
以上の構成によれば、本実施例の核定数計算コード50は、可燃性毒物が中性子吸収能力を喪失する前は、中性子は非等方散乱となり、中性子が複雑な散乱となるため、散乱モデルP2,P1等の複雑な散乱を表現する散乱モデルを用いることで、中性子の散乱時における挙動を精度良く評価することができる。一方で、可燃性毒物が中性子吸収能力を喪失すると、中性子の非等方散乱の影響は小さくなり、中性子が簡易な散乱となるため、散乱モデルP0,Y1等の簡易な散乱を表現する散乱モデルを用いることで、中性子の散乱時における挙動を精度良く評価することができる。これにより、従来のように高次の散乱モデルのみを使用して燃料棒の核特性を評価する場合に比して、計算精度を悪化させることなく、計算時間を短縮することができる。
【0045】
また、本実施例の構成によれば、散乱モデルの切替時において、解析装置40は、切替前の複雑な散乱を表現する散乱モデルを用いて、予測子となる原子数密度N
pを算出し、この後、切替後の簡易な散乱を表現する散乱モデルを用いて、修正子となる原子数密度N
cを算出することができる。これにより、原子数密度N
pと原子数密度N
cとの平均である原子数密度N(t
n)は、複雑な散乱を表現する散乱モデルと簡易な散乱を表現する散乱モデルとを考慮した値とすることができるため、原子数密度N(t
n)の散乱モデルの切替による変化を抑制することができる。これにより、解析装置40は、散乱モデルの切替時においても、算出する原子数密度N(t
n)等の核特性が不連続となることを抑制できる。
【0046】
なお、本実施例の核定数計算コード50は、燃焼計算を行う場合に適用したが、散乱モデルを用いて核特性を算出する場合であれば、いずれの核特性の算出にも適用可能である。また、可燃性毒物としては、ガドリニウムに適用したが、それ以外の可燃性毒物に適用してもよく、同様に、核燃料としては、ウランに適用したが、プルトニウムを含む核燃料に適用してもよい。