(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787543
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】肉盛溶接構造
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20150910BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20150910BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20150910BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
B23K35/30 340M
C22C19/07 G
B23K9/00 501D
B23K9/04 S
B23K9/04 J
B23K9/04 K
B23K9/04 N
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-29258(P2011-29258)
(22)【出願日】2011年2月15日
(65)【公開番号】特開2012-166237(P2012-166237A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(73)【特許権者】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100000
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100068087
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 義弘
(72)【発明者】
【氏名】庄崎 晃
(72)【発明者】
【氏名】永岡 圭介
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中野 太輔
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲一
【審査官】
高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−012483(JP,A)
【文献】
特開平08−267277(JP,A)
【文献】
特開2005−349415(JP,A)
【文献】
特開2007−136466(JP,A)
【文献】
特開2001−003149(JP,A)
【文献】
特開平03−294085(JP,A)
【文献】
特開昭62−136546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
B23K 9/04
C22C 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相系ステンレスの母材金属表面に形成する第1の肉盛溶接層と、第1の肉盛溶接層の上に形成する第2の肉盛溶接層を備え、第1の肉盛溶接層はPREN値が40以上で100度以下の低温予熱で溶接割れのないCo基合金からなり、第2の肉盛溶接層は、Coを主成分とし、Cr、W、C、Mo、Si、Ni、Fe、N、不可避不純物を含み、重量%単位において、Cr:25−32、W:1−4、C:0.45−0.9、Mo:4−8で、Si、Ni、Fe、Nの合計値が5以下でPREN値40以上さらにHv400以上のCo基合金からなることを特徴とする肉盛溶接構造。
【請求項2】
第1の肉盛溶接層は、Hv280〜400であることを特徴とする請求項1に記載の肉盛溶接構造。
【請求項3】
多層の肉盛溶接層の層厚さは3mm以上であることを特徴とする請求項1または2記載の肉盛溶接構造。
【請求項4】
母材の表面に摺動面を形成する多層の肉盛溶接層を有し、多層の肉盛溶接層が請求項2に記載の肉盛溶接構造からなることを特徴とする摺動部材。
【請求項5】
ディスク形状をなして軸心廻りに回転する母材と、母材の軸心周囲の摺動面を形成する多層の肉盛溶接層を有し、多層の肉盛溶接層が請求項2に記載の肉盛溶接構造からなることを特徴とするバランスディスク。
【請求項6】
ケーシング内に、回転軸の軸心廻りに回転する羽根車と、回転軸と一体的に回転するバランスディスクと、回転軸の軸心方向でバランスディスクの摺動面に対向し、バランスディスクの摺動面の硬度より低くかつ硬度差がHv90〜120であるケーシング側に装着するバランスシートを備え、バランスディスクが請求項5に記載のバランスディスクからなることを特徴とするポンプ。
【請求項7】
バランスシートはHv280から310である二相系ステンレスであることを特徴とする請求項6に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ等に適用される耐食性、耐磨耗性に優れた被覆部材および肉盛溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なポンプにおいてはケーシングの内部に羽根車等の回転体を内蔵しており、回転体の摺動部では水等の潤滑流体が存在していても固定部材との接触により磨耗が発生する問題がある。
【0003】
このため、特許文献1では、耐食性及び耐摩耗性を要求される部材に、Niの外に全体に対する重量%として、Crを23〜50%、Vを7〜20%、Cを1.6%以上で(0.236V%+2)%以下を含み、Moを最大40%以下で、(11−0.1xCr%)%又は(125−4xCr%)%の何れか多い方以上の比率で含有し、更にCr、V、Moの合計が90%以下であるNi−Cr−Mo−V−C系合金を用いることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、土砂が混入した海水環境下やキャビテーションが発生する条件で運転されるポンプに適する耐食性と耐摩耗性に優れた被覆部材を用いた部品に関して、母材の表面に、C元素を不可避不純物として含有するNi基またはCo基の耐隙間腐食性に優れた合金組成からなる材料を被覆した第1の被膜と、硬度を発揮させるための炭化物と耐食性を発揮させるための金属成分を含有する硬質材料を被覆した第2の被膜を備え、第1の被膜が被覆施工時に生じる第2の被膜から母材へのC元素の拡散の障壁となり、母材への浸炭を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−120458号公報
【特許文献2】特開2003−247084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポンプ部品の回転体の摺動部では、カジリや焼付きが発生する問題があり、焼付きは、ポンプ部品の摺動部が相手部材に接触し、摺動部の金属が溶融して相手材に付着することにより生じる。このカジリや焼付きを防止する対策としてポンプ部品の摺動部と相手材との間に硬度差を設けることが一般的に行なわれている。例えば、一方の部材としてSUS420J2に高周波焼入れしたHv430程度のものを使用し、他方の部材としてSUS304等のHv200程度のものを用いる。
【0007】
しかしながら、硬度差による対策は万全ではなく、硬度差が小さい金属同士ではカジリや焼付きが発生し易い問題がある。
また、摺動部の磨耗は部品の寿命を短くする要因であり、摺動部の耐磨耗層が磨耗許容代を超えるほどに磨耗すると部品の交換が必要となるので、摺動部の耐磨耗層が厚いほど部品の寿命が長くなる。
【0008】
しかしながら、溶射やDCLコーティング、窒化、メッキ処理などの硬化処理による方法では、耐磨耗層を厚く形成することは困難であり、例えば溶射では0.3mm程度が限界である。また、硬化処理として一般的な溶射ではポーラス(微細孔)な耐磨耗層が形成されるので、耐食性が必ずしも十分に確保できない。このため、ポーラスの封孔処理として樹脂等で埋めるが、耐磨耗層が磨耗した場合には封孔処理材が剥がれてしまう問題があった。
【0009】
また、海水耐食性が高い二相系ステンレスは、溶接作業などで熱を加えると、475℃付近で475℃脆化、850度付近でσ脆化が起きて、耐食性、靭性が著しく低下する。475℃脆化はフェライト相内の分離現象であり、σ脆化はFe、Cr、Moの金属間化合物であるσ相の析出現象である。
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、耐食性、耐磨耗性に優れた被覆部材および肉盛溶接構造、さらにはバランスディスクおよびポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の肉盛溶接構造は、二相系ステンレスの母材金属表面に形成する第1の肉盛溶接層と、第1の肉盛溶接層の上に形成する第2の肉盛溶接層を備え、第1の肉盛溶接層はPREN値が40以上で
100度以下の低温予熱で溶接割れのないCo基合金からなり、第2の肉盛溶接層は、Coを主成分とし、Cr、W、C、Mo、Si、Ni、Fe、N、不可避不純物を含み、重量%単位において、Cr:25−32、W:1−4、C:0.45−0.9、Mo:4−8で、Si、Ni、Fe、Nの合計値が5以下
でPREN値40以上さらにHv400以上のCo基合金からなることを特徴とする。
本発明の肉盛溶接構造において、第1の肉盛溶接層は、Hv280〜400であることを特徴とする。
本発明の肉盛溶接構造において、多層の肉盛溶接層の層厚さは3mm以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の摺動部材は、母材の表面に摺動面を形成する多層の肉盛溶接層を有し、多層の肉盛溶接層が上記の肉盛溶接構造からなることを特徴とする。
本発明のバランスディスクは、ディスク形状をなして軸心廻りに回転する母材と、母材の軸心周囲の摺動面を形成する多層の肉盛溶接層を有し、多層の肉盛溶接層が上記の肉盛溶接構造からなることを特徴とする。
【0014】
本発明のポンプは、ケーシング内に、回転軸の軸心廻りに回転する羽根車と、回転軸と一体的に回転するバランスディスクと、回転軸の軸心方向でバランスディスクの摺動面に対向し、
バランスディスクの摺動面の硬度より低くかつ硬度差がHv90〜120であるケーシング側に装着するバランスシートを備え、バランスディスクが請求項5に記載のバランスディスクからなることを特徴とする。
本発明のポンプにおいて、
バランスシートはHv280から310である二相系ステンレスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によると、海水用などの耐食性の高い機械部品を実現できる。例えば耐食性の高い二相系ステンレスを用いた部品において、その摺動部にスーパー二相ステンレスと同等の耐海水腐食性とともに、焼付きを生じない優れた耐摩耗性を有する肉盛溶接構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における多段ポンプを示す断面図
【
図2】同多段ポンプのバランスディスクを示し、(a)は断面図、(b)は正面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明における実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1〜
図3に示すように、一重胴輪切型の多段ポンプ1は、ポンプケーシング2に吸込口3と吐出口4とが設けられており、ポンプケーシング2の内部に、回転軸5と一体的に回転する複数の羽根車6a〜6cが備えられている。ポンプケーシング2は、吸込口3を有する吸込ケーシング7と、吐出口4を有する吐出ケーシング8と、これら吸込ケーシング7と吐出ケーシング8との間に挟み込まれた複数の輪切型の中間ケーシング9a,9bとに分割されている。
【0018】
各ケーシング7,8,9a,9bは、締結手段11によって、回転軸5の軸心方向Aに締め付けられて締結されている。締結手段11は複数の締付ボルト12とナット13とを有している。各締付ボルト12は、両端に位置する吸込ケーシング7と吐出ケーシング8とに、軸心方向Aから挿通されている。また、各ナット13は締付ボルト12の両端部に螺合されており、これにより、吸込ケーシング7と吐出ケーシング8とが締結されている。
【0019】
回転軸5はポンプケーシング2に挿通されており、軸封部14においてパッキン等のシール材15でシールされている。羽根車6a〜6cは、各中間ケーシング9a,9b内と吐出ケーシング8内とに収納されており、回転軸5に外嵌されて、回転軸5と一体に回転する。各羽根車6a〜6cは流出口16と流入口17とを有し、流出口16が流入口17よりも回転軸5の径方向の外側に位置している。
【0020】
吸込ケーシング7内には、水18(流体の一例)を吸込口3から初段の羽根車6aの流入口17へ導く吸込流路19が形成されている。吸込流路19は、水18を羽根車6aの流入口17に出来るだけ均一に流入させるように回転軸5の外周を取り囲むように円環状に設けられている。
【0021】
各中間ケーシング9a,9b内には、水18を各羽根車6a,6bの流出口16から次段の各羽根車6b,6cの流入口17へ導く中間流路20が形成されている。中間流路20は、各羽根車6a,6bの流出口16の外側に形成された円環状のディフューザ21a,21bを有している。
【0022】
吐出ケーシング8内には、円環状の最終段のディフューザ21c(圧力回収部の一例)と吐出流路22とが形成されている。最終段のディフューザ21cは最終段の羽根車6cの流出口16の外側に形成されている。また、吐出流路22は、最終段のディフューザ21cを通過した水18を吐出口4に導く流路であり、回転軸5の軸心周りを旋回する方向に渦巻状に形成されている。
【0023】
吐出ケーシング8と軸封部14との間に形成する空間100には、回転軸5と一体的に回転するバランスディスク101を配置しており、回転軸5の軸心方向Aでバランスディスク101の摺動面102に対向するバランスシート103が吐出ケーシング8に取替え可能に装着してある。
【0024】
バランスシート103は硬度がHv300程度(Hv:ビッカース硬さ)の二相系ステンレスからなる。しかしながら、バランスシート103の焼付き防止のために、樹脂製のものを採用することもあり、二相系ステンレスに限らない。
【0025】
バランスディスク101は、ディスク形状をなして軸心廻りに回転する母材104が二相系ステンレス(二相系ステンレスの耐孔食係数PREN値はCr+3.3Mo+16Nで表され、PREN値40以上のスーパー二相系ステンレスを含む)からなり、母材104の軸心周囲に摺動面102を形成する多層の肉盛溶接層105を有している。
【0026】
多層の肉盛溶接層105の肉盛溶接構造は、母材金属表面に形成する第1の肉盛溶接層106と、第1の肉盛溶接層106の上に形成する第2の肉盛溶接層107を備えている。第1の肉盛溶接層106は、層厚さが1mm程度で、PREN値(耐孔食係数)が40以上のCo基合金からなり、例えばAWS規格ERCoCr(UNS番号R30021)であり、市販品ではステライト21(ステライトは登録商標)である。ステライト21の成分例は以下のものである。重量%単位において、Cr:27.5、C:0.25、Ni:2.6、Mo:5.4、Fe:2.0、Si:1.5、Co:Bal.このため、第1の肉盛溶接層106は二相系ステンレスと同等の耐海水腐食性を維持できる。
【0027】
なお、第1の肉盛層の材料には、二相系ステンレスとの相性が良い、つまり、耐食性が二相系ステンレスと同等以上のPREN値40以上(二相ステンレスはPREN値:36以上、スーパー二相ステンレスはPREN値40以上)、ビッカース硬さは母材である二相系ステンレス(二相ステンレスはHv280以下、スーパー二相ステンレスはHv310以下)と摺動面に必要な硬度(Hv400以上)との中間的な値であるHv280〜400、さらに100度以下の低温予熱で溶接割れのない肉盛層が得られるCo基合金が特に適している。なお、本発明に必要な硬度と溶接割れを生じないCo基合金のC量は0.45%以下であり、市販品の中では前述のステライト21が最も適している。
【0028】
第2の肉盛溶接層107は、層厚さが2mm以上であり、本発明に係るPREN値が40以上で、硬度がHv400以上のCo基合金からなる。この本発明のCo基合金は、耐食性のある被覆部材であって、Coを主成分とし、Cr、W、C、Mo、Si、Ni、Fe、N、不可避不純物を含み、重量%単位において、Cr:25−32、W:1.0−4、C:0.45−0.9、Mo:4−8、Si:0−3、Ni:0−5、Fe:0−5、N:0.01−3.0、Co:Balである。ここで、Cr:25−32、W:1−4、C:0.45−0.9、Mo:4−8が必須のものであり、Si、Ni、Fe、Nはその合計値が5以下であれば良い。よって、第2の肉盛溶接層107のCo基合金は、二相系ステンレスと同等の耐海水腐食性を維持するとともに、優れた耐磨耗性を有している。
【0029】
なお、二相系ステンレスの一般的な被覆材であるステライト6は硬度Hv400以上であるがPREN値40以下であり、ステライト21はPREN値40以上であるが、硬度Hv400以下であり、硬度または耐海水腐食性が不足していた。
【0030】
この構成により、バランスシート103の摺動面110(硬度がHv300程度)とバランスディスク101の摺動面102(硬度がHv400程度)との間に90から120の硬度差を実現するとともに、バランスディスク101の摺動面に、溶射や窒化の手法によらずして3mm以上の層厚さの硬化層、つまり多層の肉盛溶接層105を実現できる。よって、溶射、窒化、メッキ処理などの方法より磨耗許容代が厚くなり、バランスディスク101の部品寿命が長くなる。
【0031】
なお、今回2層構造の肉盛溶接として理由は、以下のものである。
本発明のCo基合金は硬度と耐食性は非常によかった。しかしながら、母材の二相系ステンレスへ肉盛溶接する際には、溶接割れの問題から予熱・パス間温度を100度以上とする必要が生じた。一方、母材である二相系ステンレスの劣化を小さくするためには、予熱・パス間温度を100度以下に抑える必要があった。
【0032】
そこで、予熱が100度以下で溶接割れのない肉盛層が得られるPREN値40以上(ビッカース硬さには拘らないので、Hv400未満でも良い)のCo基合金を1層目として肉盛溶接を行い、2層目に本発明のCo基合金を肉盛溶接することにした。
【0033】
このように、事前に1層の肉盛溶接を行うことで、2層目に本発明のCo基合金を肉盛溶接しても母材への入熱が減少するため、母材の劣化を防止できるとともに、1層目の肉盛溶接層への溶け込みによる耐食性および硬度の劣化を生じることなく摺動面に必要な肉盛層を形成することができる。
【0034】
バランスディスク101と吐出ケーシング8との間に形成する狭路空間108は、羽根車6cの流出口16と連通路109を通して連通している。
以下、上記構成における作用を説明する。
図1に示すように、回転軸5の回転により各羽根車6a〜6cが回転し、吸込口3からポンプケーシング2内に吸い込まれた水18は、吸込流路19を通り、初段の羽根車6aの流入口17から流入して流出口16から流出し、初段のディフューザ21aを経て中間流路20を流れた後、次段の羽根車6bの流入口17から流入して流出口16から流出し、次段のディフューザ21bを経て中間流路20を流れた後、最終段の羽根車6cの流入口17から流入して流出口16から流出し、最終段のディフューザ21cを経て、吐出流路22に流れ込み、吐出流路22を流れて吐出口4から吐出される。
【0035】
このように、水18は、各羽根車6a〜6cによって順次昇圧された後、吐出口4から吐出される。
この水18から反作用を受けて羽根車6a〜6c、回転軸5およびバランスディスク101が軸心方向Aでバランスシート103に向けてスラスト力を受けるので、ポンプの起動初期時には、バランスディスク101は自身の摺動面102をバランスシート103の摺動面110に摺接させながら回転する。
【0036】
中間ケーシング9bの内部圧力が所定圧力に高まった状態では、その圧力が連通路109を通して狭路空間108に作用して水18から受ける反作用に対抗し、バランスディスク101をバランスシート103から離間させる方向に作用する。
【0037】
本実施の形態では、バランスシート103の摺動面110とバランスディスク101の摺動面102との間に90から120の硬度差を実現しているので、焼付きやカジリが発生することを防止でき、耐食性の高い二相系ステンレスを用いた部品において、その摺動部にスーパー二相ステンレスと同等の耐海水食性とともに、焼付きを生じない優れた耐摩耗性を実現できる。また、バランスディスク101の摺動面に、衝撃に弱い溶射や窒化の手法によらずして3mm以上の層厚さの割れ難い硬化層、つまり多層の肉盛溶接層105を実現できる。ポンプにおける回転軸(主軸)5の軸心方向への移動可能量は3mm程度であるので、3mm以上の層厚さの肉盛溶接層105を形成することで、バランスディスク101の部品寿命が十分に長くなる。
【0038】
上述の実施の形態は多段ポンプの摺動部品であるバランスディスクについて説明したが、その他のポンプ、例えば両吸込みポンプや立軸斜流ポンプ等における摺動部であるライナーリングや軸スリーブ等に適用することも可能である。
【0039】
また、上述の実施の形態における2層構造とは肉盛溶接の回数に関わる概念ではない。つまり、第1の肉盛溶接層とは、二相ステンレス系の母材に接するPREN値40以上のCo基合金と本発明のCo基合金との間の領域を指し、溶接回数は1回であっても複数回であっても良く、組成の異なるPREN値40以上のCo基合金による肉盛溶接を含んでいても良い。
【0040】
第2の肉盛溶接層とは、摺動面を構成する最外面をなし、本発明のCo基合金による肉盛溶接を行った領域を指し、溶接回数は1回であっても複数回であっても良く、本発明の組成範囲内であれば材料成分が異なる肉盛溶接を含んでも良い。
【0041】
また、本発明のCo基合金が、Coを主成分とし、Cr、W、C、Mo、Si、Ni、Fe、N、不可避不純物を含み、重量%単位において、Cr:26−28、W:2−4、C:0.65−0.85、Mo:4−6で、Si、Ni、Fe、Nの合計値が5以下であれば、1層目と2層目の相性がさらに良くなり、より磨耗性の高い摺動面を構成することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 多段ポンプ
2 ポンプケーシング
3 吸込口
4 吐出口
5 回転軸
6a〜6c 羽根車
7 吸込ケーシング
8 吐出ケーシング
9a,9b 中間ケーシング
11 締結手段
16 流出口
17 流入口
18 水(流体)
19 吸込流路
20 中間流路
21a〜21c ディフューザ(圧力回収部)
22 吐出流路
100 空間
101 バランスディスク
102、110 摺動面
103 バランスシート
104 母材
105 肉盛溶接層
106 第1の肉盛溶接層
107 第2の肉盛溶接層
108 狭路空間
109 連通路