(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁力を有して表面が鏡面に形成されている底板部と、この底板部の縁部に連設されるとともに照明機能を有する側壁部とを備え、前記底板部の鏡面をなす表面は磁性材料からなる部品を磁力で付けて一時保管する機能を有するエスカレータ保守点検用マグネットトレイであって、このマグネットトレイの厚みに相当する前記側壁部の高さは、エスカレータのステップに取り付けられた駆動ローラとエスカレータのトラス部の内壁面との間の隙間に配置できる寸法に設定されている、エスカレータ保守点検用マグネットトレイ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態であるマグネットトレイ50(
図4参照)を用いて保守点検作業が行われるエスカレータ10の概略構成図である。エスカレータ10は、エスカレータ自体を下方から支持する例えば金属板製のトラス12と、トラス12の上部に設けられる移動手摺り部14および欄干部16とを備える。
【0020】
トラス12は、上階の床18に設置される上部トラス部12a、下階の床20に設置される下部トラス部12b、および上部トラス部12aと下部トラス部12bとの間を傾斜した姿勢で連結する傾斜トラス部12cを含んで構成される。
【0021】
上部トラス12aは、上階の床18と面一をなす取り外し可能なランディングプレート13で覆われている。上部トラス部12a内には、モータおよび減速機等を含む駆動ユニット(図示せず)や、駆動ユニットによって回動駆動される駆動スプロケット22が配置されている。一方、下部トラス部12b内には、従動スプロケット24が配置されている。
【0022】
なお、
図1に示すエスカレータ10の下部トラス部12bは、設置建物の都合により点線11で示す通常のものよりも水平方向長さが短い短縮下部トラス部として例示されている。この短縮下部トラス部の場合、内部にエスカレータ管理会社の保守員(作業員)が入って作業できる空間がほとんど無いため、この場合には後述するように上部トラス部12a内で駆動ローラ取替等の保守点検作業が行われることになる。
【0023】
トラス12内には、多数のステップ26が設けられている。各ステップ26の幅方向両端部には、駆動スプロケット22と従動スプロケット24とに掛け渡された無端状のステップチェーン28が固定されている。これにより、駆動ユニットによって駆動スプロケット22が回転駆動されることによって、各ステップ26は階段状をなしながら下階と上階との間を上り移動または下り移動するようになっている。
【0024】
図2は、1つのステップ26を示す斜視図である。ステップ26は、利用者が乗る踏板29と、踏板29の縁部に連結され、ステップ26が階段状をなしたときの段差部に相
当するライザ30と、ステップ26の幅方向両側において踏板29およびライザ30にそれぞれ連結される、三角状開口部を含む連結部材32とを有する。
【0025】
ステップ26において、ライザ30の両側下部には、外周部がウレタンゴム等の弾性リング部からなる追従ローラ34が回転可能に取り付けられている。また、ステップ26において踏板29の下方には、駆動軸36が連結部材32を貫通して固定されており、この駆動軸36の両端部がステップ26の側面からそれぞれ大きく突出している。そして、駆動軸36には、ステップ26の両側においてステップチェーン28が連結されるとともに、両端部に駆動ローラ38が回転可能にそれぞれ取り付けられている。
【0026】
図3に示すように、駆動ローラ38は、外周部がウレタンゴム等の弾性リング部40を有している。また、駆動ローラ38は、駆動軸36に形成された環状溝37に嵌め込まれた保持部材としてのCリング42によって、駆動軸36の端部から抜け出ないように保持されている。
【0027】
なお、本実施形態では、駆動ローラ38の保持部材としてCリング42を用いているが、この保持部材は他の形状のリング部材であってもよいし、回転可能になっている限りにおいてボルトやナット等の締結部材であってもよい。これらのCリング、ボルト、ナット等は、通常、磁性材料である例えば鉄等の金属により形成されている。
【0028】
追従ローラ34および駆動ローラ38は、それぞれ個別のガイドレール(図示せず)と接触しつつガイドされて、ステップ26の移動に伴って回転しながら移動する。ただし、駆動ローラ用ガイドレールは、ステップチェーン28が駆動スプロケット22に至る手前辺りで途切れている。そのため、上部トラス部12a内において駆動ローラ38は、駆動スプロケット22の外周にほぼ沿った円弧状の軌跡で通過する移動経路に沿って露出した状態で移動することになる。このことは、下部トラス部12b内においても同様である。
【0029】
図4は、ランディングプレート13を取り外した状態で上部トラス部12aを上方から見た様子を示す。エスカレータ10の保守点検等の作業を行うエスカレータ管理会社の作業者Mは、上部トラス部12a内に入り込んで作業を行うことになる。この場合、上述したように駆動ローラ38は、ステップ26の側面から大きく突出した駆動軸36の端部に取り付けられているために、駆動ローラ38と上部トラス部12aの側壁面12dとの間の隙間dは例えば約15cm程度しかなく、作業者Mは駆動ローラ38を保持するCリング42を直視できない状態にある。また、このように狭い隙間dは、上部トラス部12aが設置されている上階の天井照明が上階の床18や駆動スプロケット22で遮られて影になるために薄暗いことが多い。
【0030】
駆動ローラ38のウレタンゴム製の弾性リング部40は、エスカレータ10の長時間作動によってガイドレールとの接触により磨耗したり、あるいは、経時的劣化等に起因して破断または切断したりする消耗品であるため、作業者Mによる駆動ローラ38の取替作業が必要になってくる。このことは同じく弾性リング部を外周部に有する追従ローラ34についても同様である。
【0031】
上部トラス12a内でローラ取替作業を行おうとする作業者Mは、上部トラス部12aの側壁面12dが邪魔になってローラ保持用Cリング42を直視しにくいため、Cリング42両端の2つの穴にCリングプライヤPの2本の先端を手探りや勘を頼りに挿入しなければならず、ローラ取替作業に熟練や時間を要する原因になっていた。特に、数十段あるステップ26に4つずつある全てのローラ34,38を総取替えするような場合には、多大な時間および労力を要することになる。
【0032】
また、取り外したCリング42は、ローラ交換後に再装着することになるため、それまで一時的に保管しておく必要があるが、その保管場所が作業位置から離れているとCリング42をそこに置いたりそこから取り上げたりする度に作業者Mが姿勢を変えなければならず、作業効率が低下することとなる。あるいは、一旦取り外したCリング42を作業者Mが手で握って保持しておくことも考えられるが、不意に落下して紛失したり或いは周囲の可動要部材間に落ち込んで取れなくなったりするおそれがある。
【0033】
そこで、このようなローラ取替作業において本実施形態のマグネットトレイ50を上部トラス部12aの側壁部12d上に付けて使用することで、作業効率を大幅に向上させることを意図している。次に、マグネットトレイ50の構成について説明する。
【0034】
図5は、マグネットトレイ50の正面図である。
図6は、
図5中のA−A線断面図である。
図5に示すように、マグネットトレイ50は、トレイ部52と電源部54とを一体に又は着脱可能に備える。トレイ部52は、例えば長方形状の底板部56と、この底板部56の四方縁部に連なって立設される側壁部58とを有する。底板部56と側壁部58とは一体に形成されており、例えばアルミ板等の金属板を絞り加工して形成されてもよいし、あるいは、樹脂成形によって形成されてもよい。
【0035】
マグネットトレイ50の底板部56の表面は、例えば金属めっき等の仕上げ処理を施すか又は鏡面を有する金属箔等を貼り付ける等によって鏡面に形成されている。これにより、マグネットトレイ50を上部トラス部12aの側壁面12d上に付けた状態で、作業者Mは底板部56の表面を介してCリング42を間接的に視認することが可能になる。また、底板部56の裏面には薄いマグネットシート60が貼着されており、これにより底板部56が磁力を有するように構成されている。したがって、上部トラス部12aの側壁面12dが例えば鉄板等の磁性材によって形成される場合、別の取り付け部材を必要とせずに、マグネットトレイ50の底板部56を磁力によって側壁面12d上に簡単に付けておくことができる。
【0036】
なお、本実施形態ではマグネットシートを貼着して底板部に磁力を付与するように構成したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の磁石片を分布状に貼着してもよいし、あるいは、マグネットトレイの底板部を強磁性材料で形成してそれ自体を永久磁石として着磁してもよい。
【0037】
図5および
図6に示すように、マグネットトレイ50の側壁部58は、底板部56と一体をなす側壁基部58aと、側壁基部58aの内側面上に配置された光拡散板59によって構成される。そして、長方形枠状をなす側壁部58の対向する2つのコーナー部には例えばLED等の光源62が埋設されている。これらの光源62は、電源部54からの電力供給によって発光し、この光が光拡散板59によって拡散されて平面状に光ることによって照明機能を果たすようになっている。
【0038】
なお、本実施形態では、側壁部58が四方周囲にあるものとして説明するが、これに限定されるものではなく、照明機能を有する側壁部が底板部の少なくとも一方の縁部に連設されていればよく、例えば電源部に沿って位置する側壁部が省略されてもよい。また、光源には種々の発光体を用いることができ、例えば有機EL層を電極層で挟んで構成される面状発光体を光源として用いてもよく、この場合には光拡散板に代えて透明または半透明の保護板を設けるのが好ましい。
【0039】
マグネットトレイ50の厚みに相当する側壁部58の高さは、例えば数cm〜約十数cmであることが好ましい。このような寸法に形成することで、エスカレータ10のローラ取替作業において上記隙間dに配置して使用することができる。ただし、マグネットトレイ50の厚みおよび大きさは、部品交換等の作業が行われる環境に応じて適宜に設計され得るものである。
【0040】
電源部54には、バッテリ64が内蔵されている。バッテリ64には、上記光源62に電力供給するための導線66が接続されている。導線66は、側壁基部58aと光拡散板59との間を配線されて光源62に接続されている。また、図示されていないが、導線66は、側壁部58の三方周囲に配線されて2つの光源62間を直列に電気接続されてもよい。
【0041】
さらに、導線66には、光源62の電力供給をオン・オフするためのスイッチ68が設けられている。このスイッチ68は、作業者Mが押し操作またはスライド操作等することによって光源62が点灯または消灯するようになっている。
【0042】
バッテリ64には、充放電可能な二次電池が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、例えば使い捨て型の乾電池が用いられてもよい。また、バッテリ64の充電が尽きた場合に外部電源に接続して光源62を点灯させるための給電インレットが電源部54に設けられてもよい。
【0043】
電源部54の外側面(マグネットトレイの外側面)には、フック70が配置されている。フック70は、下端部が回動可能に軸支されており、
図5中の点線72で示すように電源部54の側面の凹部内へ折り畳み可能になっている。このフック70を立ち上げて引っ掛けることによって、マグネットトレイ50を吊り下げて用いることもできるようになっている。
【0044】
続いて、
図4および7を参照して、上記構成からなるマグネットトレイ50の使用例について説明する。
図7は、マグネットトレイ50の使用状態を示す図である。
【0045】
駆動ローラ38の取替作業を行う際、上部トラス部12a内に入った作業者は、まず、スイッチ68をオン操作して光源62を点灯させたマグネットトレイ50を側壁部12d上に取り付ける(
図4参照)。このとき、底板部56が有する磁力によってマグネットとレイ50を例えば鉄板からなる側壁部12dに簡単に付けて配置することができる。また、作業位置に応じて適宜にマグネットトレイ50の取付位置を側壁面12d上で変更することができる。
【0046】
マグネットトレイ50を作業位置近傍の適所に取り付けた後、作業者Mは、マグネットトレイ50の底板部56の表面に映る像を視認しながらCリングプライヤPの2つの先端をCリング42の穴に挿入してローラ取り外し作業を行う。このとき、マグネットトレイ50の側壁部58が有する照明機能によって明るく照らされているので、マグネットトレイ50でCリング42の取り外し(および取り付け)作業を迅速かつ容易に行うことができる。
【0047】
また、一旦取り外したCリング42は、駆動ローラ38を新品に交換した後に再装着されるまで、マグネットトレイ56の底板部56上に磁力により付けて一時保管することができる(
図5参照)。このことは、ローラを回転可能に保持する保持部材が磁性材料からなる他の保持部材(例えば、
図5,6に示すナット43)でも同様である。したがって、作業者Mは、作業位置近傍にあるマグネットトレイ50上にCリング42等の保持部材または締結部材を迅速かつ確実に一時保管することが可能になる。
【0048】
上記のようにエスカレータ10の駆動ローラ取替作業において本実施形態のマグネットトレイ50を用いることによって、駆動ローラ38の取替作業の大幅に向上させることができる。このことは、直接に視認しながらCリングの取り付けおよび取り外しを行える追従ローラ34の取替作業においても、上記のような照明機能および一時保管機能によって作業効率の大幅な向上を図れる。
【0049】
なお、本発明に係るマグネットトレイは、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更および改良が可能である。
【0050】
例えば、
図8に示すように、照明機能を有する側壁部58が底板部56に対して鈍角θをなして外側へ広がるように形成されてもよい。このようにすれば、側壁部58による照明で作業位置をより直接的に照らして手元を明るくするのに有効である。
【0051】
また、上記ではマグネットトレイ50がエスカレータ10のローラ取替作業に好適に用いられる例について説明したが、本発明に係るマグネットトレイ50は、エスカレータのローラ以外の他の部品の交換、組付け作業に用いられてもよいし、あるいは、エスカレータ以外のどのような機械、装置、設備等における部品の交換、組付け等の作業において用いられてもよい。この場合、マグネットトレイは、底板部が有する磁力の作用によって、フレーム、ビーム、カバー、ケース等の壁以外の磁性部材に取り付けて使用されてもよい。