(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクロール圧縮機構では、一般に、固定スクロールは、外周端部がハウジングに固定して取り付けられ、旋回スクロールは、中心側に近い位置で支持されている。このスクロール圧縮機構に上述の圧力関係が作用すると、熱膨張と圧力変形によって固定スクロールは中心部が旋回スクロール側に位置するように反り、旋回スクロールも同様な形状に反ることとなる。旋回スクロールは支持されている位置では移動しないので、外周側部分は、固定スクロール側に接近するように変形することとなる。したがって、旋回スクロールの支持位置よりも外周側部分では、旋回スクロールと固定スクロールとは互いに接近する方向へ変形、すなわち、圧力変形することになる。
【0005】
ところで、近年、地球環境保全の観点から、自然冷媒の一つである二酸化炭素(CO
2)を冷媒ガスとして用いることが検討されている。たとえば、CO
2のような高圧冷媒を冷媒ガスに用いると、圧縮された際の温度および圧力が通常の冷媒に比べて高くなるので、上述の変形が大きくなり、外周側部分で固定スクロールおよび旋回スクロールの歯先と歯底とが接触し易くなる。
固定スクロールおよび旋回スクロールの歯先と歯底とが接触すると、壁体が損傷する恐れがあるので、信頼性が低下する。
【0006】
この対策としては、固定スクロールおよび旋回スクロールの歯先と歯底との間隔(チップ隙間)を大きくすることが考えられる。しかし、このようにすると、中心部で、間隔が大きくなるので、漏れ隙間が大きくなり、効率が低下するという課題がある。
また、高圧部分の体積を減少させ、作用する圧力の大きさを減少させることも考えられる。しかし、高圧部分の体積を減少させると、吐出脈動が大きくなったり、吐出圧損が大きくなったりして効率が低下する恐れがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、信頼性を確保できるとともに効率を向上させることができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の一態様は、外周側に位置する固定側支持位置で固定して取り付けられた固定側端板の一側面に立設された渦巻き状の固定側壁体を有する固定スクロールと、一側面に該固定側壁体とかみ合う渦巻き状の旋回側壁体が立設され、前記固定側支持位置よりも中心側に位置する旋回側支持位置に公転旋回運動可能に支持される旋回側端板を有する旋回スクロールと、を有するスクロール圧縮機構を備えている圧縮機であって、前記固定側壁体の先端部と前記旋回側端板との間隔および前記旋回側壁体
の先端部と前記固定側端板との間隔の少なくともいずれか一方は、前記旋回側支持位置よりも外側
で前記固定側支持位置よりも中心側の前記間隔が、
前記旋回側支持位置よりも中心側の前記間隔よりも大きくされて
おり、前記間隔の変化は、前記固定側端板または前記旋回側端板の厚さの0.25〜2.0×10−3倍とされている圧縮機である。
【0009】
本態様によれば、固定スクロールの固定側壁体と旋回スクロールの旋回側壁体とが相互にかみ合うように配置されてスクロール圧縮機構が構成されている。
この状態で旋回スクロールが公転旋回運動すると、かみ合った固定側壁体および旋回側壁体間に形成される圧縮室の容積が中央部に移動するに連れて漸次減少させられるので、スクロール圧縮機構の周縁部から圧縮室へ導入される媒体は、徐々に圧縮され、高温・高圧の状態とされ、固定スクロールの固定側端板の中心部分に設けられた吐出孔から外部空間に吐出される。
固定スクロールの固定側端板は、この圧縮された高温・高圧の媒体によって押圧されるので、熱膨張および圧力変形することになる。固定側端板は、外周側に位置する固定側支持位置で固定して取り付けられているので、中心部が旋回スクロール側に位置するように反ることになる。
【0010】
一方、旋回スクロールの旋回側端板には、固定スクロールと挟まれた中央部の圧縮された媒体の高温・高圧が作用する。旋回側端板の固定スクロールに対して反対側の面には、低温・低圧の媒体が存在するので、旋回側端板は、中央部が固定スクロールと離隔するように反ることになる。すなわち、圧縮運転中、固定側端板および旋回側端板はともに中央部が旋回スクロール側に突起するように反ることになる。
このとき、旋回側端板は、固定側支持位置よりも中心側に位置する旋回側支持位置において支持されており、この位置では旋回側端板は移動しないので、旋回側端板の旋回側支持位置よりも外周側部分は、固定スクロール側に接近するように変形することとなる。
したがって、旋回スクロールの旋回側支持位置よりも外周側部分では、旋回スクロールと固定スクロールとは互いに接近する方向へ変形することになる。
【0011】
本態様では、固定側壁体の先端部と旋回側端板との間隔および旋回側壁体と固定側端板との間隔の少なくともいずれか一方は、旋回側支持位置よりも外側の間隔が、中心側の間隔よりも大きくされているので、旋回スクロールと固定スクロールとが互いに接近する方向へ変形してもそれらが接触することを回避することができる。このように、旋回スクロールと固定スクロールとが接触することを抑制できるので、接触により固定側壁体あるいは旋回側壁体が損傷することを抑制でき、信頼性を確保することができる。
また、中心部分における固定側壁体の先端部と旋回側端板との間隔および旋回側壁体と固定側端板との間隔は、大きくされることがないので、漏れ隙間が大きくなることはなく、効率の低下を防止することができる。衝突防止のために全体の隙間を大きくすることに比べて効率を向上させることができる。
なお、固定側壁体の先端部と旋回側端板との間隔および旋回側壁体と固定側端板との間隔は、より小さい方の間隔を拡げるようにするのが望ましいし、両方の間隔を拡げるようにしてもよい。
【0012】
本態様では、前記間隔の変化は、前記固定側壁体または前記旋回側壁体の高さを調節して行われてもよい。
固定側壁体または旋回側壁体の高さは、固定側端板または旋回側端板の面を削るよりも容易に加工することができるので、容易に製造することができる。
この場合、間隔の変化は、前記固定側端板または前記旋回側端板の厚さの0.25〜2.0×10
−3倍とされるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、固定側壁体の先端部と旋回側端板との間隔および旋回側壁体と固定側端板との間隔の少なくともいずれか一方は、旋回側支持位置よりも外側の間隔が、中心側の間隔よりも大きくされているので、接触により固定側壁体あるいは旋回側壁体が損傷することを抑制でき、信頼性を確保することができる。また、効率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、
図1ないし
図3を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる圧縮機の縦断面図である。
図2は、
図1のスクロール圧縮機構を示す断面相当図である。
図3は、
図1のスクロール圧縮機構の部分を示す部分断面図である。
【0016】
圧縮機1には、円筒形状の密閉ハウジング3と、密閉ハウジング3内の下部に設置された低段側のロータリ圧縮機構5と、高段側のスクロール圧縮機構7と、ロータリ圧縮機構5およびスクロール圧縮機構7の間に設置され、ロータリ圧縮機構5およびスクロール圧縮機構7を駆動する電動モータ9と、が備えられている。
密閉ハウジング3は、筒部11の上下に底部13および蓋部15が溶接されて閉塞された中空円筒形状とされている。
電動モータ9には、密閉ハウジング3の軸線方向に延在するように配置された駆動軸17と、駆動軸17の周囲に固定された回転子19と、回転子19の周囲を覆うように密閉ハウジング3に固定された固定子21と、が備えられている。
【0017】
ロータリ圧縮機構5には、駆動軸17の下方部に設けられる偏心部23と、偏心部23に回転可能に嵌合されたロータ25と、ロータ25の外周面と1箇所で直線状に摺接する断面円形のシリンダ室27を構成する空間部を有し、この空間部にロータ25を配置した状態で密閉ハウジング3に、たとえば、溶接により結合固定されるシリンダ部材29と、シリンダ部材29の上端面に固定されてロータ25の上方で駆動軸17を回転自在に支持する上部軸受31と、シリンダ部材29の下端面に固定されてロータ25の下方で駆動軸17を回転自在に支持する下部軸受33と、シリンダ室27内を吸入側と吐出側とに仕切る図示省略のブレードおよびブレード押えバネ等と、が備えられている。
ロータリ圧縮機構5は、この構成に限定されず、公知の構造のものが用いられてよい。
【0018】
低段側ロータリ圧縮機構5は、アキュームレータ35および吸入管37を経てシリンダ室27内に低圧の冷媒ガス(媒体)を吸入し、この冷媒ガスをロータ25の回動により中間圧まで圧縮した後、吐出チャンバ39を介して密閉ハウジング3内に吐き出すように構成されている。密閉ハウジング3内に吐き出された中間圧冷媒ガスは、電動モータ9の回転子19に設けられているガス通路等を介して電動モータ9の上部空間に流動され、そこから高段側のスクロール圧縮機構7へと吸入されて2段圧縮されるように構成されている。
【0019】
スクロール圧縮機構7には、固定スクロール41と、旋回スクロール43とが備えられている。
固定スクロール41には、固定端板(固定側端板)45とその下面に立設された渦巻き状をした固定渦巻体(固定側壁体)47とが備えられている。
固定端板45は、筒部11の内側に円環状に設けられた台座に載置され、複数箇所をボルトによって接合されることによって密閉ハウジング3に固定して取り付けられている。すなわち、固定端板45は、ボルトが位置する外周側の固定側支持位置F(
図2参照)で固定して取り付けられている。
固定端板45の略中央部には、圧縮された冷媒ガスの吐出ポート49が貫通するように形成されている。
【0020】
旋回スクロール43には、旋回端板(旋回側端板)51とその上面に立設された渦巻き状をした旋回渦巻体(旋回側壁体)53とが備えられている。
旋回スクロール43は、旋回渦巻体53が固定渦巻体47と噛合うように設置されている。固定スクロール41と旋回スクロール43とは、互いに所定の距離だけ偏心した状態で、かつ、180度の位相差をもって噛み合わされることにより、固定渦巻体47と旋回渦巻体53の中心に対して点対称の位置関係となる複数個所に密閉空間となる圧縮室Pが形成される。
【0021】
旋回端板51の下面中央には、中空円筒状の旋回ボス55が下方に突出するように設けられている。
駆動軸17を支持する軸受部57を備えた軸受部材59が、密閉ハウジング3に固定設置されている。旋回スクロール43は、軸受部材59によって旋回ボス55の外周側の旋回側支持位置C(
図2参照)で支持されている。旋回側支持位置Cは、旋回端板51の外周端よりも軸線中心に近い内側位置とされている。したがって、旋回側支持位置Cは、固定端板45の外周側に位置する固定側支持位置Fよりも軸線中心に近い位置とされている。
【0022】
旋回側支持位置Cよりも外周側に位置する固定渦巻体47の高さ(歯丈)H1は、旋回側支持位置Cよりも内周側に位置する固定渦巻体47の高さH2よりも小さくされている。したがって、旋回側支持位置Cよりも外周側における固定渦巻体47の先端(歯先)と旋回端板51との間隔S1は、旋回側支持位置Cよりも内周側における固定渦巻体47の先端と旋回端板51との間隔S2よりも大きくされている。
高さH2と高さH1との差、言い換えれば、間隔S2と間隔S1との差は、種々の条件によって決定されるが、たとえば、旋回側端板51の厚さの0.25〜2.0×10
−3倍とされるのが好ましい。
【0023】
本実施形態では、固定渦巻体47の高さを前記のように間隔を調節しているが、これは構造的に固定端板45の方が変形しやすく、かつ、固定渦巻体47の先端と旋回端板51との間隔が、旋回渦巻体53の先端と固定端板45との間隔よりも小さくされているからである。
たとえば、旋回渦巻体53の先端と固定端板45との間隔が、固定渦巻体47の先端と旋回端板51との間隔よりも小さくされている場合には、旋回渦巻体53の高さを調節してもよい。また、固定渦巻体47の高さおよび旋回渦巻体53の高さの両方を調節するようにしてもよい。
さらに、固定渦巻体47の高さおよび旋回渦巻体53の高さを調節するのではなく、固定端板45および/または旋回端板51の表面を削ることによって間隔を調節してもよい。
【0024】
旋回スクロール43と軸受部材59との間には、旋回スクロール43をその自転を阻止しつつ公転旋回させる自転阻止機構61が設けられている。
旋回ボス55の中空部内に位置する駆動軸17の先端部には、軸線中心が偏心した偏心ピン63が設けられている。偏心ピン63の外周には、旋回ボス55と係合する旋回軸受65が設けられている。駆動軸17の回転が、偏心ピン63および旋回軸受65を介して旋回ボス55に伝えられることによって、旋回スクロール43は公転旋回駆動される。
【0025】
固定端板45の上面には、吐出ポート49を開閉する吐出弁67と、固定端板45との間で吐出チャンバ69を形成する吐出カバー71と、が固定して取り付けられている。
吐出カバー71には、密閉ハウジング3の蓋部15を貫通して外部、すなわち冷凍サイクルと接続されている吐出管73の端部が貫通して取り付けられている。
【0026】
スクロール圧縮機構7は、ロータリ圧縮機構5により圧縮されて密閉ハウジング3に吐き出された中間圧の冷媒ガスを圧縮室P内に吸入し、該中間圧冷媒ガスを旋回スクロール43の公転旋回駆動により高温高圧状態に圧縮した後、吐出弁67を経て吐出チャンバ69に吐き出すように構成されている。この高温高圧の冷媒ガスは、吐出チャンバ69から吐出管73を経て圧縮機1の外部、すなわち冷凍サイクル側に送出されるようになっている。
【0027】
また、駆動軸17の下端部とロータリ圧縮機構5の下部軸受33との間には、公知の容積形給油ポンプ75が組み込まれている。給油ポンプ75は、密閉ハウジング3の底部に形成されている油溜まり77に充填されている潤滑油を汲み上げ、駆動軸17内に設けられている給油孔79を介して低段側のロータリ圧縮機構5および高段側のスクロール圧縮機構7の軸受部等の所要潤滑部位に潤滑油13を強制給油できるように構成されている。
【0028】
以上のように構成された本実施形態にかかる圧縮機1の動作について説明する。
電動モータ9を作動させると、駆動軸17が回転されて圧縮機1の作動が開始される。
吸入管37を介して低段側のロータリ圧縮機構5のシリンダ室27に吸入された低温低圧の冷媒ガスは、ロータ25の回動により中間圧まで圧縮された後、吐出チャンバ39に吐き出される。この中間圧冷媒ガスは、吐出チャンバ39から電動モータ9の下部空間内に吐き出された後、電動モータ9の回転子19に設けられているガス通路等を流通して電動モータ9の上部空間側に流動される。
【0029】
高段側のスクロール圧縮機構7では、旋回スクロール43が駆動軸17の回転に伴う偏心ピン63の動作によって固定スクロール41に対して公転旋回駆動されている。
電動モータ9の上部空間側に流動された中間圧冷媒ガスは、高段側のスクロール圧縮機構7を構成する軸受部材31と密閉ハウジング3との間の隙間等を通り固定スクロール41に設けられているスクロール圧縮機構7の吸入口に導かれ、圧縮室P内に吸入される。
圧縮室Pは、中心側に移動するに連れて容積が漸次減少させられるので、吸入された中間圧冷媒ガスは、徐々に圧縮され、高温・高圧の状態とされる。
このようにスクロール圧縮機構7により高温高圧状態に2段圧縮された冷媒ガスは、吐出ポート49を通って吐出弁67を押し上げて吐出チャンバ69内に吐き出される。吐出チャンバ69の高温高圧の冷媒ガスは、吐出管73を介して圧縮機1の外部、すなわち冷凍サイクル側に送出される。
【0030】
スクロール圧縮機構7では、吐出チャンバ69内に高温・高圧の冷媒ガス81が、固定端板45および旋回端板51で挟まれた空間の中央部に高温・高圧の冷媒ガス83が存在することになる。
固定スクロール41の固定端板45は、この冷媒ガス81によって押圧されるので、熱膨張および圧力変形することになる。固定側端板45は、外周側に位置する固定側支持位置Fで固定して取り付けられているので、
図3に示されるように中心部が旋回スクロール43側に位置するように反ることになる。
【0031】
旋回スクロール43の旋回端板51には、冷媒ガス83の高温・高圧が作用するので、旋回端板51は、
図3に示されるように中央部が固定スクロール41と離隔するように反ることになる。すなわち、圧縮運転中、固定端板45および旋回端板51はともに中央部が下方に突起するように反ることになる。
旋回端板51は、旋回側支持位置Cにおいて支持されており、この位置では旋回端板は上下方向に移動しないので、旋回端板51の旋回側支持位置Cよりも外周側部分は、固定スクロール41側に接近するように変形することとなる。
したがって、旋回側支持位置Fよりも外周側部分では、旋回スクロール41と固定スクロール43とは互いに接近する方向へ変形することになる。
【0032】
本実施形態では、旋回側支持位置Cよりも外周側における固定渦巻体47の先端と旋回端板51との間隔S1は、旋回側支持位置Cよりも内周側における固定渦巻体47の先端と旋回端板51との間隔S2よりも大きくされているので、前記のように旋回側支持位置Cよりも外周側部分で固定スクロール41と旋回スクロール43とが互いに接近する方向へ変形してもそれらが接触することを回避することができる。
このように、固定スクロール41と旋回スクロール43とが接触することを抑制できるので、接触により固定渦巻体47あるいは旋回渦巻体53が損傷することを抑制でき、信頼性を確保することができる。
【0033】
また、旋回側支持位置Cよりも中心部分における固定渦巻体47の先端部と旋回端板51との間隔および旋回渦巻体53と固定端板45との間隔は、大きくされることがないので、漏れ隙間が大きくなることはなく、効率の低下を防止することができる。したがって、衝突防止のために全体の隙間を大きくすることに比べて効率を向上させることができる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
たとえば、上記実施形態では、低段側圧縮機構をロータリ圧縮機構5、高段側の圧縮機構をスクロール圧縮機構7とした密閉型2段圧縮機の例について説明したが、圧縮機は、2段圧縮機に限らず、スクロール圧縮機構のみを備えた単段の圧縮機(スクロール圧縮機)であってもよいことはもちろんである。