特許第5787588号(P5787588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787588
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】化学洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
   G21F9/28 525D
   G21F9/28 521C
   G21F9/28 521D
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-92173(P2011-92173)
(22)【出願日】2011年4月18日
(65)【公開番号】特開2012-225711(P2012-225711A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】金留 正人
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴司
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−099193(JP,A)
【文献】 特開平11−231097(JP,A)
【文献】 特開2005−315641(JP,A)
【文献】 特開2003−194995(JP,A)
【文献】 特開2011−007786(JP,A)
【文献】 特開平11−131290(JP,A)
【文献】 特表2013−529299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 − 9/36
G21D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントを構成する部品の表面に形成された酸化皮膜中の金属を、酸化性の溶液を用いて酸化溶解する酸化工程を実施して、該部品を洗浄する化学洗浄方法において、
前記酸化工程では、前記溶液として、過鉄酸と過ホウ素酸とのうちの少なくとも一の過酸化物を含む水溶液を用いる、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の化学洗浄方法において、
前記酸化工程を実施してから、前記溶液中にジカルボン酸を入れて、前記酸化皮膜中の他の金属を還元溶解し、該ジカルボン酸を含む該溶液を除去する還元工程を実施する、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項3】
請求項2に記載の化学洗浄方法において、
前記還元工程で除去された前記溶液を加熱して、該溶液中の水分を蒸発させる廃液処理工程を実施する、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の化学洗浄方法において、
前記酸化工程と、該酸化工程後の前記還元工程とを1除染工程とし、該除染工程を複数回実施する、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の化学洗浄方法において、
前記還元工程実施後の前記部品の表面に酸化皮膜を形成する皮膜形成工程を実施する、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項6】
請求項5に記載の化学洗浄方法において、
前記皮膜形成工程では、亜鉛イオンと、塩素化合物のうちのオキソ酸塩から選ばれた少なくとも一の化合物とを含む水溶液に、前記還元工程実施後の前記部品を付けて、該部品の表面に亜鉛酸化物皮膜を形成する、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の化学洗浄方法において、
前記酸化工程で用いる前記水溶液中の前記過酸化物の濃度は、200〜300ppmである、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の化学洗浄方法において、
前記酸化工程で用いる前記水溶液の温度は、20℃以上、100℃未満である、
ことを特徴とする化学洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
原子力プラントを構成する部品の表面に形成された酸化皮膜中の金属を化学的に溶解除去することで、この部品を洗浄する化学洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントを構成する配管や各種機器等の部品のうち、炉水と接触する部分には、放射性核種を含む酸化皮膜が次第に形成される。このため、このような部品の周囲では時間経過に伴い放射線量が高まる。そこで、原子力プラントでは、定期点検時等において、このような部品から放射性核種を含む酸化皮膜を除去するために、部品の化学洗浄が実施されている。
【0003】
原子力プラントを構成する部品を化学的に洗浄する方法としては、例えば、以下の特許文献1に記載の方法がある。
【0004】
この洗浄方法では、まず、部品を過マンガン酸水溶液に付けて、部品の酸化皮膜中に含まれるクロム系酸化物を酸化溶解し、次に、部品の酸化皮膜の主要成分である鉄系酸化物を還元溶解する。そして、各種イオンを含む水溶液を陰イオン交換樹脂や陽イオン交換樹脂に接触させて、この水溶液から放射性核種を含む不純物を取り除いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−10919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の化学洗浄方法によれば、確かに、原子力プラントを構成する部品から放射性核種を含む酸化皮膜を除去することができる。ところで、このような化学洗浄では、放射性核種を含む二次廃棄物の量をできる限り少なくすることが望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、二次廃棄物の量を少なくすることができる化学洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための発明に係る化学洗浄方法は、原子力プラントを構成する部品の表面に形成された酸化皮膜中の金属を、酸化性の溶液を用いて酸化溶解する酸化工程を実施して、該部品を洗浄する化学洗浄方法において、前記酸化工程では、前記溶液として、過鉄酸と過ホウ素酸とのうちの少なくとも一の過酸化物を含む水溶液を用いることを特徴とする。
【0009】
当該化学洗浄方法では、標準酸化還元電位の高い過酸化物を含む水溶液を用いることで、部品の表面に形成された酸化皮膜中のクロム系酸化物を効率的に酸化溶解することができる。このため、当該化学洗浄方法では、水溶液中の薬剤(過酸化物)の量を少なくすることができ、結果として、放射性核種を含む二次廃棄物の量を少なくすることができる。
【0010】
ここで、前記化学洗浄方法において、前記酸化工程を実施してから、前記溶液中にジカルボン酸を入れて、前記酸化皮膜中の他の金属を還元溶解し、該ジカルボン酸を含む該溶液を除去する還元工程を実施してもよい。
【0011】
当該化学洗浄方法では、部品の酸化皮膜中の主要成分である鉄系酸化物をさらに還元溶解することができる。
【0012】
また、前記化学洗浄方法において、前記還元工程で除去された前記溶液を加熱して、該溶液中の水分を蒸発させる廃液処理工程を実施してもよい。
【0013】
当該化学洗浄方法では、イオン交換樹脂を用いて、還元工程で除去された前記溶液を処理するよりも、放射性核種を含む二次廃棄物の量を少なくすることができる。
【0014】
また、前記化学洗浄方法において、前記酸化工程と、該酸化工程後の前記還元工程とを1除染工程とし、該除染工程を複数回実施してもよい。
【0015】
当該化学洗浄方法では、部品の表面に形成された酸化皮膜をより確実に除去することができる。
【0016】
また、前記化学洗浄方法において、前記還元工程実施後の前記部品の表面に酸化皮膜を形成する皮膜形成工程を実施してもよい。この場合、前記皮膜形成工程では、亜鉛イオンと、塩素化合物のうちのオキソ酸塩から選ばれた少なくとも一の化合物とを含む水溶液に、前記還元工程実施後の前記部品を付けて、該部品の表面に亜鉛酸化物皮膜を形成してもよい。
【0017】
当該化学洗浄方法では、部品の表面に酸化皮膜を形成することにより、この酸化皮膜の表面上に放射性核種を含む酸化皮膜が形成され難くすることができる。
【0018】
また、前記化学洗浄方法において、前記酸化工程で用いる前記水溶液中の前記過酸化物の濃度は、200〜300ppmであることが好ましい。さらに、前記酸化工程で用いる前記水溶液の温度は、20℃以上、100℃未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、部品の表面に形成された酸化皮膜中のクロム系酸化物を効率的に酸化溶解することができる。よって、本発明によれば、酸化皮膜中のクロム系酸化物を酸化溶解する際に用いる水溶液中の薬剤の量を少なくすることができ、結果として、放射性核種を含む二次廃棄物の量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る一実施形態における化学洗浄方法を示すフローチャートである。
図2】本発明に係る一実施形態における化学洗浄方法を実施するための洗浄設備の系統図である。
図3】原子力発電プラントの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る化学洗浄方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態の化学洗浄方法の適用対象について説明する。
【0023】
本実施形態の化学洗浄方法の適用対象は、原子力プラントを構成する配管、容器、各種機器等の部品であって、炉水が接触する部品である。
【0024】
原子力プラントとしては、例えば、図3に示すように、加圧水型原子炉50を備えている原子力発電プラントPがある。
【0025】
この原子力発電プラントPは、燃料棒51等が収納される加圧水型原子炉50と、加圧水型原子炉50内の一次冷却水(軽水)の沸騰を抑えるために一次冷却水を加圧する加圧器52と、一次冷却水の熱により二次冷却水を蒸気にする蒸気発生器53と、蒸気発生器53からの一次冷却水を加圧水型原子炉50に戻す冷却材ポンプ54と、蒸気発生器53で発生した蒸気で駆動する蒸気タービン56と、この蒸気タービン56の駆動で発電する発電機57と、蒸気タービン56からの蒸気を水に戻す復水器58と、復水器58からの水を蒸気発生器53に戻す給水ポンプ59と、を備えている。
【0026】
加圧水型原子炉50と蒸気発生器53とは、一次冷却水配管55a,55bで接続されている。また、蒸気発生器53と蒸気タービン56とは蒸気配管61で接続され、復水器58と蒸気タービン56とは給水配管62で接続されている。
【0027】
この原子力発電プラントPで、炉水、つまり一次冷却水に接する部品は、一次冷却系の部品である。一次冷却系の部品としては、加圧水型原子炉50、加圧器52、蒸気発生器53、冷却材ポンプ54、これらを接続する一次冷却水配管55a,55b、この一次冷却水配管55a,55b等に設けられている各種弁等がある。これら一次冷却系の部品は、Feを主成分としてCrやNiを含むステンレス鋼や、Ni基合金、Co基合金等で形成されている。
【0028】
これら部品を形成する金属元素は、僅かに炉水に溶け込み、一部が加圧水型原子炉50内の燃料棒51表面に付着する。燃料棒51表面に付着した金属元素は、燃料から中性子線が照射させることにより、原子核反応を起こして、クロム、ニッケル、コバルト等の放射性核種となる。これら放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒51表面に付着したままであるが、一部が炉水中に溶出したり、不溶性固体として放出される。炉水中に溶出又は放出された放射性核種は、部品の炉水接触面に付着し、この炉水接触面にFeを主成分とする酸化皮膜を形成する。このため、部品近傍で作業する作業員は、部品に形成された酸化皮膜中の放射性核種からの放射線に晒されることになる。
【0029】
本実施形態では、以上で説明した部品を化学洗浄して、部品の炉水接触面に付着している酸化皮膜を除去する方法を提示する。
【0030】
次に、図2を用いて、本実施形態の化学洗浄方法を実施するための洗浄設備について説明する。
【0031】
本実施形態の洗浄設備Eは、部品1の表面から酸化皮膜を除去するための除染設備10と、酸化皮膜の除去で発生した廃液を処理する廃液処理設備20、酸化皮膜が除去された部品1を水洗いするための水洗設備30と、部品1の表面に新たな皮膜を形成する皮膜形成設備40と、を備えている。
【0032】
除染設備10は、放射能核種を含む酸化皮膜が形成されている部品1が投入される除染槽11と、ペルオキソ二硫酸水溶液が蓄えられる酸化性液槽14と、シュウ酸水溶液が蓄えられる還元性液槽17と、除染槽11内の液を循環させるための循環ライン12と、この循環ライン12中に設けられている循環ポンプ13と、循環ライン12中に酸化性液槽14内のペルオキソ二硫酸を供給するための酸化性液ライン15と、この酸化性液ライン15に設けられている酸化性液供給ポンプ16と、循環ライン12中に還元性液槽17内のシュウ酸を供給するための還元性液ライン18と、この還元性液ライン18中に設けられている還元性液供給ポンプ19と、を備えている。
【0033】
廃液処理設備20は、除染設備10での処理で生じた廃液を中和する中和槽21と、中和槽21内で中和された廃液中の水分を蒸発させて廃液を濃縮する蒸発装置24と、中和槽21内の液を蒸発装置24へ送るための中和廃液ライン22と、中和廃液ライン22中に設けられている廃液ポンプ23と、を備えている。
【0034】
廃液処理設備20の中和槽21と除染設備10の循環ライン12とは、廃液ライン28で接続されている。廃液処理設備20の蒸発装置24は、廃液蒸発槽25と、この廃液蒸発槽25内の廃液を加熱するヒータ26と、を有している。
【0035】
水洗設備30は、酸化皮膜が除去された部品1が投入される水洗槽31と、この水洗槽31内で部品1に接した水から不純物を取り除くイオン交換樹脂34,35と、水洗槽31内の水をイオン交換樹脂34,35へ送る水浄化ライン32と、この水浄化ライン32中に設けられている水ポンプ33と、を備えている。イオン交換樹脂34,35としては、陰イオン交換樹脂34と陽イオン交換樹脂35とがある。
【0036】
皮膜形成設備40は、3極式電解装置である。この3極式電解装置は、電解液で満たされる電解槽41と、電解液中に入れられる作用極としての部品1に対する対極42と、KCl飽和溶液で満たされるKCl槽43と、このKCl槽43に入れられる参照電極44と、作用極としての部品1と参照電極44との距離を近づけるためのルギン管45と、各電極に流れる電流を制御するポテンショスタット46と、を備えている。
【0037】
次に、以上で説明した洗浄設備Eを利用した部品1の化学洗浄方法について、図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0038】
まず、部品1の酸化皮膜中に含まれているクロム系酸化物をペルオキソ二硫酸水溶液で酸化溶解する酸化工程(S1)を実施する。
【0039】
この酸化工程(S1)では、まず、除染設備10の酸化性液槽14内にペルオキソ二硫酸水溶液を溜める。ペルオキソ二硫酸水溶液の濃度は、200〜300ppmが好ましく、ここでは300ppmである。また、このペルオキソ二硫酸水溶液の温度は常温(20℃)〜100℃未満(水溶液が沸騰しない温度限界)が好ましく、ここでは90℃である。
【0040】
次に、除染設備10の除染槽11内に、放射能核種を含む酸化皮膜が形成されている部品1を投入する。続いて、酸化性液ライン15及び循環ライン12を介して、酸化性液槽14内のペルオキソ二硫酸水溶液を除染槽11内に供給する。そして、循環ポンプ13を駆動し、除染槽11及び循環ライン12内でペルオキソ二硫酸水溶液を循環させる。循環するペルオキソ二硫酸水溶液中に部品1をつけて置く時間は、5時間〜10時間程度である。この時間は、ペルオキソ二硫酸水溶液の濃度や温度に依存し、濃度や温度が高ければ時間を短くすることができる。このため、ペルオキソ二硫酸水溶液の温度は、このペルオキソ二硫酸水溶液の加熱等の手間を省くために、部品1をつけて置く時間が長くなるものの、常温であってもよいし、逆に、部品1をつけて置く時間を短くするために、本実施形態のように100℃近い温度であってもよい。
【0041】
この酸化工程(S1)では、酸化皮膜中にCrやFeCr等として存在するCr3+が、Cr6+となって水溶液中に溶出する。つまり、酸化皮膜中のCrは酸化溶解する。
【0042】
次に、ペルオキソ二硫酸水溶液中にシュウ酸を入れて、このシュウ酸水溶液で部品1の酸化皮膜の主成分である鉄系酸化物を還元溶解する還元工程(S2)を実施する。
【0043】
この還元工程(S2)では、まず、除染設備10の還元性液槽17内にシュウ酸水溶液を溜める。シュウ酸水溶液の濃度は、酸化工程(S1)後のペルオキソ二硫酸水溶液中にシュウ酸水溶液を混入した後の水溶液中のシュウ酸濃度が2000ppmになる濃度である。また、このシュウ酸水溶液の温度は常温(20℃)〜100℃未満(水溶液が沸騰しない温度限界)が好ましく、ここでは90℃である。
【0044】
次に、還元性液ライン18及び循環ライン12を介して、還元性液槽17内のシュウ酸水溶液を除染槽11内に供給して、除染槽11及び循環ライン12内の水溶液中のシュウ酸濃度が前述したように2000ppmになるよう調整する。そして、循環ポンプ13を駆動し、除染槽11及び循環ライン12内でシュウ酸水溶液(ペルオキソ二硫酸を含む)を循環させる。循環するシュウ酸水溶液中に部品1をつけて置く時間も、5時間〜10時間程度である。この時間も、シュウ酸水溶液の濃度や温度に依存し、濃度や温度が高ければ時間を短くすることができる。
【0045】
部品1をシュウ酸水溶液につけてから予定時間経過すると、除染槽11及び循環ライン12内の水溶液を廃液として、除染設備10の循環ライン12と廃液処理設備20の廃液ライン28を介して、廃液処理設備20の中和槽21内に送る。
【0046】
なお、以上では、酸化性液槽14内のペルオキソ二硫酸水溶液及び還元性液槽17内のシュウ酸水溶液は、いずれも90℃であるが、これらの水溶液の取扱い性を高めるために、各槽14,17内の水溶液の温度を常温とし、これらの水溶液を除染槽11及び循環ライン12内で循環させる過程で、これらの水溶液を循環ライン12等に設けたヒータで加熱し、酸化反応時間や還元反応時間を短くしてもよい。
【0047】
この還元工程(S2)では、酸化皮膜中にFe等として存在するFe2+が、Fe3+となって水溶液中に溶出する。つまり、酸化皮膜中のFeは還元溶解する。
【0048】
還元工程(S2)が終了すると、部品1表面に形成されていた酸化皮膜が十分に除去されたか否かを判断する(S3)。酸化皮膜が十分に除去されていない場合には、酸化工程(S1)と、酸化工程(S1)後の還元工程(S2)とを1除染工程として、この除染工程を複数回実施する。
【0049】
酸化皮膜が十分に除去された場合には、除染工程(酸化工程+還元工程)で生じた廃液を処理する廃液処理工程(S4)を実施する。
【0050】
この廃液処理工程(S4)では、まず、廃液処理設備20の中和槽21に送られてきた酸性の廃液を水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液で中和する。この中和では、中和槽21に廃液が送られてくる前にアルカリ性水溶液を予め中和槽21内に入れておいてもよいが、廃液が中和槽21内に入った後に中和槽21にアルカリ性水溶液を入れてもよい。
【0051】
次に、中和槽21内で中和された廃液を廃液蒸発槽25内に送って、この廃液蒸発槽25内の廃液をヒータ26で加熱して、廃液中の水分等を蒸発させ、廃液を例えば20倍程度まで濃縮する。この濃縮された廃液は、例えば、コンクリートピット処分等の処理が成される。
【0052】
なお、ここでは、部品1表面に形成された酸化皮膜が十分に除去されたと判断された後に、廃液処理工程(S4)を実施しているが、還元工程(S2)が終了する毎に、この廃液処理工程(S4)を実施してもよい。
【0053】
また、酸化皮膜が十分に除去された場合には、廃液処理工程(S4)と並行して、又は廃液処理工程(S4)の前に、又は廃液処理工程(S4)の後に、除染槽11内の部品1を水洗いする部品水洗工程(S5)を実施する。
【0054】
この部品水洗工程(S5)では、除染槽11内の部品1を取り出して、この部品1を水洗設備30の水洗槽31に入れて、水洗する。水洗後の水は、イオン交換樹脂34,35に通され、この水中の不純物が除去される。水洗後の水を複数回処理したイオン交換樹脂34,35は、別途処理される。
【0055】
次に、部品水洗工程(S5)で水洗された部品1の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程(S6)を実施する。この皮膜形成工程(S6)では、部品1の表面に亜鉛酸化物皮膜を形成する。
【0056】
皮膜形成設備40の電解槽41に入れる電解液は、亜鉛イオンと、塩素化合物のうちのオキソ酸塩から選ばれた少なくとも一種の化合物とを含む水溶液である。亜鉛イオンを含む水溶液は、例えば、過塩素酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛金属、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等を酸性またはアルカリ性溶液中で溶解させることで得ることができる。また、塩素化合物のうちのオキソ酸塩から選ばれた少なくとも一種の化合物としては、例えば、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、亜塩素酸、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等がある。
【0057】
ここでは、電解液として、例えば、1重量%のアンモニア水溶液中に、塩化亜鉛、亜塩素酸ナトリウムをそれぞれ0.05mol/Lの割合で入れて、pH5に調整したものを用いる。なお、電解液のpHは、1〜7程度が適当で、5〜6が特に好ましい。また、電解液の温度は、常温(20℃)〜100℃未満(水溶液が沸騰しない温度限界)が好ましく、特に50〜90℃が好ましく、ここでは80℃である。
【0058】
作用極は、部品水洗工程(S5)で水洗された部品1である。また、対極42は、白金製の電極であり、参照電極44は、KCl飽和溶液中の白金製の電極である。
【0059】
皮膜形成工程(S6)では、前述したように、部品水洗工程(S5)で水洗された部品1を作用極とし、これを電解槽41内の電解液中に入れる。そして、作用電極電位を、Ag/AgCl電極基準で、−0.1〜−2.0V程度、好ましくは、−0.7〜−1.3Vにする。この部品1の表面に、目的の厚みの亜鉛酸化物皮膜が形成されると、この部品1を電解液から引き上げて、皮膜形成工程(S6)を終了する。
【0060】
このように、部品1の表面に亜鉛酸化皮膜が形成されると、この亜鉛酸化皮膜の表面上に放射性核種を含む酸化皮膜が形成され難くなる。このため、部品1の表面に亜鉛酸化皮膜を形成することにより、部品1の化学洗浄周期を長くすることができる。
【0061】
以上で、部品1の化学洗浄の全工程が終了する。
【0062】
以上、本実施形態の酸化工程(S1)では、従来用いている過マンガン酸水溶液に代えて、ペルオキソ二硫酸水溶液を用いている。ここで、過マンガン酸の標準酸化還元電位は1.695Vであり、ペルオキソ二硫酸の標準酸化還元電位は2.01Vである。このため、酸化工程(S1)で、過マンガン酸水溶液を用いるよりも、ペルオキソ二硫酸水溶液を用いた方が効率的に、部品1の酸化皮膜中に含まれているクロム系酸化物を酸化溶解することができる。言い換えると、本実施形態では、酸化性水溶液中の溶質(ペルオキソ二硫酸)の量を少なくしても、過マンガン酸水溶液を用いる場合と同等以上の効果を得ることができる。
【0063】
また、本実施形態では、除染工程(酸化工程+還元工程)で生じた廃液の処理に、イオン交換樹脂を用いず、廃液中の水分を蒸発させて、この廃液を濃縮しているので、大量のイオン交換樹脂の処分が不要になる。
【0064】
以上のように、本実施形態では、酸化工程(S1)で使用する薬剤(ペルオキソ二硫酸)の量を少なくすることができる共に、廃液処理工程(S4)でイオン交換樹脂を用いずに廃液を処理しているため、放射性核種を含む二次廃棄物の量を少なくすることができる。
【0065】
次に、以上で説明した実施形態の変形例について説明する。
【0066】
以上の実施形態の酸化工程(S1)では、ペルオキソ二硫酸の水溶液を用いているが、このペルオキソ二硫酸に代えて、過硫酸、過鉄酸、過ホウ素酸の水溶液を用いてもよい。また、ペルオキソ二硫酸と過硫酸と過鉄酸と過ホウ素酸とのうちの二以上の過酸化物を含む水溶液を用いてもよい。これらの過酸化物の標準酸化還元電位は、いずれも、過マンガン酸の標準酸化還元電位よりも高く、例えば、過鉄酸の標準酸化還元電位は2.20Vである。よって、過マンガン酸水溶液を用いるよりも、これらの水溶液を用いた方が、ペルオキソ二硫酸水溶液を用いる場合と同様、効率的に、部品1の酸化皮膜中に含まれているクロム系酸化物を酸化溶解することができる。
【0067】
また、以上の実施形態の還元工程(S2)では、ジカルボン酸の一種であるシュウ酸を用いているが、このシュウ酸にさらにクエン酸を加えてもよい。また、シュウ酸の代わりに、他のジカルボン酸を用いてもよく、例えば、メソシュウ酸、マロン酸、ジドロキシフマル酸、ジヒドロキシ酒石酸等を用いてもよい。
【0068】
また、以上の実施形態の廃液処理工程(S4)では、廃液中の水分を蒸発させて、この廃液を濃縮処理しているが、この廃液をイオン交換樹脂に通して処理してもよい。但し、この場合、前述したように、廃液処理後に生じた大量のイオン交換樹脂を別途処理する必要がある。
【0069】
また、以上の実施形態の部品水洗工程(S5)では、イオン交換樹脂34,35を用いて、水洗後の水を処理しているが、この水洗後の水を廃液蒸発槽25内に送って、この廃液蒸発槽25内で廃液と共に加熱して、蒸発させてもよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、原子力発電プラントPから一次冷却水に接する部品1を取り外して、これを除染槽11に入れて、除染工程を行っているが、原子力発電プラントPから部品を取り外さずに、一次冷却水が通るライン中で、以上で説明した酸化性液や還元性液を循環させることで、除染工程を実施してもよい。この場合、加圧水型原子炉50と蒸気発生器53とを接続する一次冷却水配管55bに、酸化性液や還元性液を供給するための薬液供給配管を接続すると共に、薬液排出配管を接続するとよい。
【0071】
また、以上の実施形態は、加圧水型原子炉50を備えている原子力発電プラントPを例にしたものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、原子炉の燃料に水が接触するプラントであれば、如何なる原子力プラントに適用してもよく、例えば、沸騰水型原子炉を備えた原子力プラントに適用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…除染設備、11…除染槽、12…循環ライン、14…酸化性液槽、17…還元性液槽、20…廃液処理設備、21…中和槽、24…蒸発装置、30…水洗設備、31…水洗槽、40…皮膜形成設備、41…電解槽、50…加圧水型原子炉、51…燃料棒、52…加圧器、53…蒸気発生器、54…冷却材ポンプ、55a,55b…一次冷却水配管、56…蒸気タービン、57…発電機、58…復水器
図1
図2
図3