特許第5787605号(P5787605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787605
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】多層基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20150910BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   H05K1/02 P
   H05K9/00 P
   H05K9/00 R
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-102183(P2011-102183)
(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公開番号】特開2012-234953(P2012-234953A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501398606
【氏名又は名称】富士通コンポーネント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】全 炳勲
(72)【発明者】
【氏名】高内 英規
(72)【発明者】
【氏名】草谷 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】大工原 治
【審査官】 吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−158381(JP,A)
【文献】 特開2007−207949(JP,A)
【文献】 特開平11−330771(JP,A)
【文献】 実開平06−044170(JP,U)
【文献】 特開平04−122086(JP,A)
【文献】 特開2004−259959(JP,A)
【文献】 米国特許第06235981(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0244878(US,A1)
【文献】 特開2001−177287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 1/11
H05K 3/46
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成される接地層と、基板内部に形成される信号層と、該信号層に電気的に接続されるとともに、該接地層に非接触に隣接する位置で該基板表面に開口する導通孔とを具備する多層基板において、
前記導通孔を遮蔽して前記基板表面に設置され、前記信号層及び前記導通孔から絶縁された状態で前記接地層に電気的に接続される遮蔽部材を具備し、
前記遮蔽部材は、前記接地層に固定される金属板を具備し、
前記金属板と前記導通孔の前記基板表面における開口端との間に、前記信号層と前記導通孔とのインピーダンス不整合を解消する寸法の空気層が形成される、多層基板。
【請求項2】
基板表面に形成される接地層と、基板内部に形成される信号層と、該信号層に電気的に接続されるとともに、該接地層に非接触に隣接する位置で該基板表面に開口する導通孔とを具備する多層基板において、
前記導通孔を遮蔽して前記基板表面に設置され、前記信号層及び前記導通孔から絶縁された状態で前記接地層に電気的に接続される遮蔽部材を具備し、
前記遮蔽部材は、前記導通孔を被覆して前記基板表面に固着される絶縁性接着剤と、該絶縁性接着剤の外面に配置されて前記接地層に固着される導電性接着剤とを具備し、
前記絶縁性接着剤が、前記信号層と前記導通孔とのインピーダンス不整合を解消する量を有する、多層基板。
【請求項3】
前記基板表面の反対側の基板裏面に形成される第2の接地層を具備し、前記導通孔が、該第2の接地層に非接触に隣接する位置で該基板裏面に開口する、請求項1又は2に記載の多層基板。
【請求項4】
前記導通孔を遮蔽して前記基板裏面に設置され、前記信号層及び前記導通孔から絶縁された状態で前記第2の接地層に電気的に接続される第2の遮蔽部材を具備し、
前記第2の遮蔽部材は、前記第2の接地層に固定される第2の金属板を具備し、
前記第2の金属板と前記導通孔の前記基板裏面における開口端との間に、前記信号層と前記導通孔とのインピーダンス不整合を解消する寸法の空気層が形成される、請求項に記載の多層基板。
【請求項5】
前記導通孔を遮蔽して前記基板裏面に設置され、前記信号層及び前記導通孔から絶縁された状態で前記第2の接地層に電気的に接続される第2の遮蔽部材を具備し、
前記第2の遮蔽部材は、前記導通孔を被覆して前記基板裏面に固着される第2の絶縁性接着剤と、該第2の絶縁性接着剤の外面に配置されて前記第2の接地層に固着される第2の導電性接着剤とを具備し、
前記第2の絶縁性接着剤が、前記信号層と前記導通孔とのインピーダンス不整合を解消する量を有する、請求項に記載の多層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
信号の高速伝送に用いることができる多層基板において、所望の層の導体に電気的に接続される導通孔(例えばビア(VIA)と称する)を備えたものが知られている。一般に導通孔は、内面に金属被膜を有し、基板の表面に開口する貫通穴として形成される。特に信号の高速伝送用途では、所望層の導体と当該導体に接続される導通孔との間のインピーダンスの不整合に起因した伝送損失を、可及的に抑制することが望まれている。
【0003】
特許文献1は、多層基板の孔に挿入されてインピーダンス不整合を低減する構成要素を開示する。この構成要素は、導電性グランドコアと、導電性グランドコアを包囲する誘電体層と、誘電体層を包囲する信号導体層とを備えている。構成要素のインピーダンスは、誘電体層の材料及び導電性グランドコアと信号導体層との間の距離を選択することにより調整できる。インピーダンスが適宜に調整された構成要素を用いて、任意の層の導体同士を接続することにより、インピーダンスの不整合を低減できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−191018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板の表面に開口する導通孔を有する多層基板では、信号の高速伝送に際し、所望層の導体と導通孔とのインピーダンス不整合に起因して生じる導通孔からの電磁放射が、伝送損失の一因となる場合がある。よって、多層基板における導通孔からの基板外部に向けた電磁放射を抑制することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はその一態様として、基板表面に形成される接地層と、基板内部に形成される信号層と、信号層に電気的に接続されるとともに、接地層に非接触に隣接する位置で基板表面に開口する導通孔とを具備する多層基板において、導通孔を遮蔽して基板表面に設置され、信号層及び導通孔から絶縁された状態で接地層に電気的に接続される遮蔽部材を具備し、遮蔽部材は、接地層に固定される金属板を具備し、金属板と導通孔の基板表面における開口端との間に、信号層と導通孔とのインピーダンス不整合を解消する寸法の空気層が形成される、多層基板を提供する。
【0007】
本発明はまた、基板表面に形成される接地層と、基板内部に形成される信号層と、信号層に電気的に接続されるとともに、接地層に非接触に隣接する位置で基板表面に開口する導通孔とを具備する多層基板において、導通孔を遮蔽して基板表面に設置され、信号層及び導通孔から絶縁された状態で接地層に電気的に接続される遮蔽部材を具備し、遮蔽部材は、導通孔を被覆して基板表面に固着される絶縁性接着剤と、絶縁性接着剤の外面に配置されて接地層に固着される導電性接着剤とを具備し、絶縁性接着剤が、信号層と導通孔とのインピーダンス不整合を解消する量を有する、多層基板を提供する。
【0008】
上記した多層基板は、基板表面の反対側の基板裏面に形成される第2の接地層を具備し、導通孔が、第2の接地層に非接触に隣接する位置で基板裏面に開口する構成とすることもできる。この構成では、導通孔を遮蔽して基板裏面に設置され、信号層及び導通孔から絶縁された状態で第2の接地層に電気的に接続される第2の遮蔽部材を具備することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様による多層基板は、導通孔を遮蔽して基板表面に設置されるとともに接地層に電気的に接続される遮蔽部材を備えているから、遮蔽部材が接地層と同様にシールド機能を発揮して、導通孔から基板外部に向かう電磁放射を抑制するように作用する。その結果、導通孔から基板外部に向かう電磁放射に起因する信号の伝送損失を、未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態による多層基板を示す図で、(a)線I−Iに沿った断面図、及び(b)平面図である。
図2】変形例による多層基板を示す図で、(a)線II−IIに沿った断面図、及び(b)平面図である。
図3】本発明の第2の実施形態による多層基板を示す図で、(a)線III−IIIに沿った断面図、及び(b)平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態による多層基板10を示す。図示の多層基板10は、信号の高速伝送に用いることができる多層(4層)プリント基板の構成を有する。
【0013】
多層基板10は、基板表面10aに形成される接地層12と、基板内部に形成される信号層14、16と、信号層14、16に電気的に接続されるとともに、接地層12に非接触に隣接する位置で基板表面10aに開口する導通孔18とを備える。また多層基板10は、基板表面10aの反対側の基板裏面10bに形成される第2の接地層20を備え、導通孔18が、第2の接地層20に非接触に隣接する位置で基板裏面10bに開口する。なお、基板表面10a及び基板裏面10bという名称は便宜上のものであり、多層基板10の使用形態における表裏を必ずしも意味しない。
【0014】
図示構成では、信号層14、16は、基板表面10aに近い側に位置する第1の信号層14と、第1の信号層14とは異なる層として、基板裏面10bに近い側に位置する第2の信号層16とを含む。導通孔18は、内面にめっき層等の金属被膜22を有し、金属被膜22を介して、第1及び第2の信号層14、16が互いに電気的に接続される。なお、第1及び第2の信号層14、16という名称は便宜上のものであり、多層基板10の使用形態における優先順位を必ずしも意味しない(他の構成要素についても同様である。)。また、導通孔18は、第1及び第2の信号層14、16同士を導通させるためのものであり、電子部品実装用のスルーホールの機能は有さない。
【0015】
多層基板10の基板構造は、3つの誘電体層24、26、28を互いに積層して構成される。中央の誘電体層24には、その両面24a、24bに、それぞれ第1及び第2の信号層14、16が所定パターンで形成される。誘電体層24の一方の面(図で上面)24aには、第1の信号層14を挟んで、例えば接着剤(図示せず)により誘電体層26が固着され、誘電体層26の外面(つまり基板表面10a)に、接地層12が所定パターンで形成される。誘電体層24の他方の面(図で下面)24bには、第2の信号層16を挟んで、例えば接着剤(図示せず)により誘電体層28が固着され、誘電体層28の外面(つまり基板裏面10b)に、第2の接地層20が所定パターンで形成される。導通孔18は、誘電体層24、26、28を連続的に貫通するとともに第1及び第2の信号層14、16を貫通する貫通穴の形態を有する。
【0016】
多層基板10では、上記した積層構造体における互いに異なる層として、第1及び第2の信号層14、16が形成されているから、信号ラインを高密度にパターン形成することができる。基板表面10aに形成される接地層12及び基板裏面10bに形成される接地層20は、第1及び第2の信号層14、16の両外側に位置することにより、第1及び第2の信号層14、16に対するシールドとして機能する。このような構成を有する多層基板10は、信号の高速伝送用途に適したものである。
【0017】
図示構成では、接地層12は、基板表面10aに開口する導通孔18を包囲するパターンを有する。詳述すると、基板表面10aには、導通孔18が円形に開口し、その開口端18aが、内面の金属被膜22に一体に接続される環状層として基板表面10aに露出して形成されている。接地層12は、導通孔18の金属被膜22の環状の開口端18aから、一様な距離だけ離れた位置に円形の内縁12aを有して、導通孔18の開口端18aを非接触に包囲する。それにより、導通孔18の開口端18aの周囲に、基板表面10aの環状の露出領域10cが形成される。
【0018】
図示構成では、第2の接地層20は、基板裏面10bに開口する導通孔18を包囲するパターンを有する。詳述すると、基板裏面10bには、導通孔18が円形に開口し、その開口端18bが、内面の金属被膜22に一体に接続される環状層として基板裏面10bに露出して形成されている。接地層20は、導通孔18の金属被膜22の環状の開口端18bから、一様な距離だけ離れた位置に円形の内縁20aを有して、導通孔18の開口端18bを非接触に包囲する。それにより、導通孔18の開口端18bの周囲に、基板裏面10bの環状の露出領域10dが形成される。
【0019】
なお、上記構成は一例であり、多層基板10の製造方法、信号層14、16の層数やパターン、導通孔18の形状や寸法、誘電体層24、26、28の厚み等は、特に限定されない。例えば、導通孔18は、基板表面10aにのみ開口し、基板裏面10bには開口しない形状とすることもできる。また、導通孔18の開口端18a、18bが、基板表裏面10a、10bに形成される環状層を有さず、内面の金属被膜22の厚み相当部分が開口端18a、18bとして直接露出する構成とすることもできる(図2)。
【0020】
多層基板10は、導通孔18を遮蔽して基板表面10aに設置される遮蔽部材30を備える。遮蔽部材30は、信号層14、16及び導通孔18から絶縁された状態で接地層12に電気的に接続される。遮蔽部材30は、接地層12に固定されるドーム状の金属板32から形成される。金属板32は、接地層12に当接される基端部分32aと、基端部分32aから一方向へドーム状に膨出する蓋部分32bとを、互いに一体に有する。図示構成では、遮蔽部材30を形成する金属板32の基端部分32aは、環状フランジの形状を有し、接地層12の内縁12aに近接した位置で、接地層12の外面に半田(例えばリフロー半田付け)により固定される。遮蔽部材30を接地層12に適正に固定した状態で、金属板32の蓋部分32bは、基板表面10aの露出領域10c及び導通孔18の開口端18aから、所定距離だけ離隔して配置され、金属板32の蓋部分32bと導通孔18の開口端18aとの間に、所定寸法の空間(すなわち空気層)34が形成される。
【0021】
多層基板10はまた、導通孔18を遮蔽して基板裏面10bに設置される第2の遮蔽部材36を備える。第2の遮蔽部材36は、信号層14、16及び導通孔18から絶縁された状態で第2の接地層20に電気的に接続される。第2の遮蔽部材36は、第2の接地層20に固定される第2のドーム状の金属板38から形成される。第2の金属板38は、接地層20に当接される基端部分38aと、基端部分38aから一方向へドーム状に膨出する蓋部分38bとを、互いに一体に有する。図示構成では、第2の遮蔽部材36を形成する金属板38の基端部分38aは、環状フランジの形状を有し、接地層20の内縁20aに近接した位置で、接地層20の外面に半田(例えばリフロー半田付け)により固定される。遮蔽部材36を接地層20に適正に固定した状態で、金属板38の蓋部分38bは、基板裏面10bの露出領域10d及び導通孔18の開口端18bから、所定距離だけ離隔して配置され、金属板38の蓋部分38bと導通孔18の開口端18bとの間に、所定寸法の空間(すなわち空気層)40が形成される。
【0022】
多層基板10においては、信号の高速伝送に際し、第1及び第2の信号層14、16と導通孔18(金属被膜22)とのインピーダンス不整合に起因して、導通孔18の開口端18a、18bから基板外部に向かう電磁放射が生じる傾向がある。これに関し、多層基板10は、導通孔18を遮蔽して基板表面10aに設置されるとともに接地層12に電気的に接続される遮蔽部材30を備えているから、遮蔽部材30が接地層12と同様にシールド機能を発揮して、導通孔18の開口端18aから基板外部に向かう電磁放射を抑制するように作用する。その結果、導通孔18の開口端18aから基板外部に向かう電磁放射に起因する信号の伝送損失を、未然に防止することができる。このとき、遮蔽部材30を構成する金属板32の蓋部分32bと導通孔18の開口端18aとの間の空間(空気層)34の寸法を適宜選択することにより、第1及び第2の信号層14、16と導通孔18(金属被膜22)とのインピーダンス不整合を解消することもできる。
【0023】
また、多層基板10は、導通孔18を遮蔽して基板裏面10bに設置されるとともに第2の接地層20に電気的に接続される第2の遮蔽部材36を備えているから、遮蔽部材36が接地層20と同様にシールド機能を発揮して、導通孔18の開口端18bから基板外部に向かう電磁放射を抑制するように作用する。その結果、導通孔18の開口端18bから基板外部に向かう電磁放射に起因する信号の伝送損失を、未然に防止することができる。このとき、遮蔽部材36を構成する金属板38の蓋部分38bと導通孔18の開口端18bとの間の空間(空気層)40の寸法を適宜選択することにより、第1及び第2の信号層14、16と導通孔18(金属被膜22)とのインピーダンス不整合を解消することもできる。
【0024】
なお、信号の伝送速度によっては、第2の遮蔽部材36を使用しない構成であっても、第1の遮蔽部材30による電磁放射抑制作用により、ある程度の伝送損失防止効果が得られるものであるが、基板両面10a、10bに遮蔽部材30、36を設置することで、伝送損失防止効果が向上する。また、導通孔18が基板裏面10bに開口しない場合は、第2の遮蔽部材36を使用する必要は無い。
【0025】
多層基板10では、遮蔽部材30、36として、ドーム状の外形を有する金属板32、38を用いている。この構成によれば、導通孔18の開口端18a、18bや接地層12、20の内縁12a、20aの寸法(径)、要求される空間(空気層)34、40の寸法等に合わせて、予め最適な形状及び寸法の遮蔽部材30、3を用意できるので、遮蔽部材30、36の設置作業を簡略化しつつ、遮蔽部材30、36による電磁放射抑制作用及び伝送損失防止効果を最適化することができる。
【0026】
また、多層基板10では、遮蔽部材30、36を構成する金属板32、38の基端部分32a、38aを、接地層12、20の外面にリフロー半田付けにより固定できる。この構成によれば、多層基板10の基板表面10aや基板裏面10bへの電子部品の実装工程と同時に遮蔽部材30、36を設置できるので、遮蔽部材30、36の設置作業を一層簡略化できる。
【0027】
なお、遮蔽部材30、36を構成する金属板32、38を接地層12、20に固定する手法は、半田付けに限定されない。例えば図2に変形例として示すように、金属板32、38の基端部分32a、38a、接地層12、20及び誘電体層24、26、28に予め設けた貫通穴42に、一対の固定ピン44をそれぞれ金属板32、38側から圧入することにより、金属板32、38を接地層12、20に固定することができる。或いは、いわゆるDIP部品と同様に、金属板32、38の基端部分32a、38aに予めピン状の脚部(図示せず)を形成し、この脚部を貫通穴42に挿入して半田等により固定することにより、金属板32、38を接地層12、20に固定することができる。
【0028】
図3は、本発明の第2の実施形態による多層基板50を示す。多層基板50は、遮蔽部材の構成以外は、第1の実施形態による多層基板10と同様の構成を有する。したがって、対応する構成要素には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0029】
多層基板50は、導通孔18を遮蔽して基板表面10aに設置される遮蔽部材52を備える。遮蔽部材52は、信号層14、16及び導通孔18から絶縁された状態で接地層12に電気的に接続される。遮蔽部材52は、導通孔18の開口端18aを被覆して基板表面10aの露出領域10cに固着される絶縁性接着剤54と、絶縁性接着剤54の外面54aに配置されて接地層12に固着される導電性接着剤56とから形成される。遮蔽部材52を接地層12に適正に固定した状態で、導電性接着剤56は、基板表面10aの露出領域10c及び導通孔18の開口端18aから、絶縁性接着剤54の量によって決まる距離だけ離隔して配置される。なお、絶縁性接着剤54及び導電性接着剤56は、ポッティング等の塗布工程により作製できるが、作製方法は特に限定されない。
【0030】
多層基板50はまた、導通孔18を遮蔽して基板裏面10bに設置される第2の遮蔽部材58を備える。第2の遮蔽部材58は、信号層14、16及び導通孔18から絶縁された状態で第2の接地層20に電気的に接続される。第2の遮蔽部材58は、導通孔18の開口端18bを被覆して基板裏面10bの露出領域10dに固着される第2の絶縁性接着剤60と、第2の絶縁性接着剤60の外面60aに配置されて第2の接地層20に固着される第2の導電性接着剤62とから形成される。遮蔽部材58を接地層20に適正に固定した状態で、第2の導電性接着剤62は、基板裏面10bの露出領域10d及び導通孔18の開口端18bから、第2の絶縁性接着剤60の量によって決まる距離だけ離隔して配置される。なお、絶縁性接着剤60及び導電性接着剤62は、ポッティング等の塗布工程により作製できるが、作製方法は特に限定されない。
【0031】
多層基板50は、導通孔18を遮蔽して基板表面10aに設置されるとともに接地層12に電気的に接続される遮蔽部材52(特に導電性接着剤56)を備えているから、遮蔽部材52(特に導電性接着剤56)が接地層12と同様にシールド機能を発揮して、導通孔18の開口端18aから基板外部に向かう電磁放射を抑制するように作用する。その結果、導通孔18の開口端18aから基板外部に向かう電磁放射に起因する信号の伝送損失を、未然に防止することができる。このとき、遮蔽部材52を構成する絶縁性接着剤54の量を適宜選択することにより、第1及び第2の信号層14、16と導通孔18(金属被膜22)とのインピーダンス不整合を解消することもできる。
【0032】
また、多層基板50は、導通孔18を遮蔽して基板裏面10bに設置されるとともに第2の接地層20に電気的に接続される第2の遮蔽部材58(特に第2の導電性接着剤62)を備えているから、第2の遮蔽部材58(特に第2の導電性接着剤62)が接地層20と同様にシールド機能を発揮して、導通孔18の開口端18bから基板外部に向かう電磁放射を抑制するように作用する。その結果、導通孔18の開口端18bから基板外部に向かう電磁放射に起因する信号の伝送損失を、未然に防止することができる。このとき、遮蔽部材58を構成する第2の絶縁性接着剤60の量を適宜選択することにより、第1及び第2の信号層14、16と導通孔18(金属被膜22)とのインピーダンス不整合を解消することもできる。
【0033】
なお、信号の伝送速度によっては、第2の遮蔽部材58を使用しない構成であっても、第1の遮蔽部材52による電磁放射抑制作用により、ある程度の伝送損失防止効果が得られるものであるが、基板両面10a、10bに遮蔽部材52、58を設置することで、伝送損失防止効果が向上する。また、導通孔18が基板裏面10bに開口しない場合は、第2の遮蔽部材58を使用する必要は無い。
【0034】
多層基板50では、遮蔽部材52、58として、絶縁性接着剤54、60と導電性接着剤56、62との積層体を用いている。この構成によれば、導通孔18の開口端18a、18bや接地層12、20の内縁12a、20aの寸法(径)が異なる多層基板50に対し、絶縁性接着剤54、60の量を調整することにより最適な形状及び寸法の導電性接着剤56、62を適宜に作製できるので、遮蔽部材52、58の設置作業を簡略化しつつ、遮蔽部材52、58による電磁放射抑制作用及び伝送損失防止効果を最適化することができる。
【符号の説明】
【0035】
10、50 多層基板
12 接地層
14 第1の信号層
16 第2の信号層
18 導通孔
20 第2の接地層
30、52 遮蔽部材
32 金属板
36、58 第2の遮蔽部材
38 第2の金属板
44 固定ピン
54 絶縁性接着剤
56 導電性接着剤
60 第2の絶縁性接着剤
62 第2の導電性接着剤
図1
図2
図3