(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787671
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】透明なガラスセラミックス
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
C03C10/04
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-184531(P2011-184531)
(22)【出願日】2011年8月26日
(65)【公開番号】特開2012-51786(P2012-51786A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2011年9月8日
(31)【優先権主張番号】10 2010 036 192.5
(32)【優先日】2010年9月2日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(72)【発明者】
【氏名】ベアント リューディンガー
(72)【発明者】
【氏名】イナ ミトラ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン レッツ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス プファイファー
(72)【発明者】
【氏名】トラルフ ヨハンソン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュミートバウアー
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−289790(JP,A)
【文献】
特開平03−023237(JP,A)
【文献】
特開2006−193398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 − 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックスにおいて、該ガラスセラミックスが、少なくとも以下の組成:
SiO2:65〜72
Al2O3:18〜24
Li2O:2〜5
MgO:0〜4
ZnO:0〜4
ZnO+MgO:2.2未満
ZrO2:1〜5
SnO2:0.5超え4未満
Na2O:0〜1.5
K2O:0〜1.5
BaO:0〜4
Fe2O3:0〜0.1
を酸化物ベースに基づき質量%で有し、Li2Oに対するMgO+ZnOの質量比が、0.4〜0.75の範囲にあり、かつ不可避の痕跡量を除きAs2O3を含まないことを特徴とする、ガラスセラミックス。
【請求項2】
前記ガラスセラミックスが、付加的に以下の組成成分:
CaO:0〜1
SrO:0〜2
F:0〜1
B2O3:0〜1
を質量%で有することを特徴とする、請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
不可避の痕跡量を除きSb2O3、TiO2及び/又はP2O5を含まないことを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
20℃から700℃の温度範囲の熱膨張率CTE4ppm未満を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
光の可視領域中での光透過率を、ガラスセラミックスの試料厚さ4mmの場合に、少なくとも87%有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
三刺激値C*3未満を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
少なくとも0.5質量%のZnO含有率を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
付加的に以下の成分:V2O5、NiO、CuO、Cr2O3、CeO2、MnO2、WO3、MoO3、Nd2O3の1つ以上を含有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なガラスセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
組成範囲Li
2O−Al
2O
3−SiO
2(LAS−ガラスセラミックス)からの低い熱膨張率を有する従来のガラスセラミックスは、TiO
2及びZrO
2を核生成成分として含有する。出発ガラスから、いわゆるセラミックス化(出発ガラスがガラスセラミックスに変換されること)の間に、まずTiO
2及びZrO
2からの種結晶が析出され、該種結晶上では、次いで負熱膨張率を有する結晶相が成長し、例えば高温石英混晶、それにβ−ユークリプタイトが挙げられる。
【0003】
大規模工業的に重要な、従来の原料が使用される場合、出発ガラスの製造のために、Fe
2O
3が出発ガラスひいてはガラスセラミックス中に取り込まれることは避けることができない。さらに、大規模工業的な溶融プラントにおいて通例のカレットサイクル(Scherbenkreislauf)は鉄汚染を必然的に伴う。
【0004】
ガラス中でFe
2O
3とTiO
2との間で、専門文献中ではおよそ大体に"イルメナイト複合体"とも称される近距離秩序における相互作用が生じることは久しい以前から公知である。このFe−Ti複合体により、透明な出発ガラス及び透明なガラスセラミックスにおいて黄色ないし褐色に色が変わる。
【0005】
透明なガラスセラミックスの製造に際しては、この複合体形成を避けることが重要性をもつ。高価な、特別に精製された原料の使用及びカレット返送(Scherbenrueckfuehrung)を省くことによってFe
2O
3の供給を減少ないし回避することができる。核生成成分TiO
2を省くことで、新しい、代替的な核生成剤の酸化物を探し求める必要性が生じる。
【0006】
さらに、ガラスセラミックスの製造に際して、例えばAs
2O
3のような毒性成分が省かれるべきである。そのため、代替的な清澄剤も見出されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このことから出発して、本発明の課題は、上述の欠点を有さない透明なガラスセラミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
該課題は、請求項1に従って、以下の組成(酸化物ベースに基づき質量%で記載)を有する透明なガラスセラミックスを提供することである:
SiO
2:65〜72、殊に65以上72未満
Al
2O
3:18〜24
Li
2O:2〜5
MgO:0〜4
ZnO:0〜4
ZnO+MgO:2.2未満
ZrO
2:1〜5
SnO
2:0.5超え4未満
Na
2O:0〜1.5
K
2O:0〜1.5
BaO:0〜4
Fe
2O
3:0〜0.1。
【0009】
好ましくは、以下の組成成分の少なくとも1つの含有率(酸化物ベースに基づき質量%で記載)は、
SiO
2:66〜72,殊に66以上72未満
MgO:0〜3.5、殊に0〜3
ZnO:0〜3.5、殊に0〜3
ZrO
2:1.6〜5
の範囲にある。
【0010】
さらに、本発明によるガラスセラミックスは、以下の組成成分を質量%で含有してよい:
CaO:0〜1
SrO:0〜2
F:0〜1
B
2O
3:0〜1。
【0011】
意想外にも、計2.2質量%未満のMgO及びZnOの低い含有率を有する透明なガラスセラミックスが、従来技術と比較して特に高い透明性を示すことが見出された。
【0012】
二相材料における高い透明性は、結晶子の大きさ、相含量並びに屈折率の違いに本質的に依存する散乱効果の最小化によって達成される。
【0013】
さらに意想外にも、成分MgO及びZnOの全含有率(酸化物ベースに基づき質量%で記載)のLi
2O含有率(酸化物ベースに基づき質量%で記載)に対する比率が最大1、殊に最大0.75であるガラスセラミックスが、従来技術と比較して特に高い透明性及び低い固有色を示すことが見出された。特に有利には、該比率は0.4〜0.75の範囲にある。
【0014】
好ましくは、本発明によるガラスセラミックスは、少なくとも0.5質量%のZnO、殊に少なくとも1質量%のZnOを含有する。本質的にZnOを含まない組成物の場合、いくらかより悪化した透過率の結果が得られた。
【0015】
好ましくは、本発明によるガラスセラミックスは、避けることのできない痕跡量を除きAs
2O
3、Sb
2O
3、TiO
2及び/又はP
2O
5を含まない。
【0016】
さらに、ガラスセラミックスは、好ましくは、熱膨張率CTE(20〜700℃)4ppm未満、有利には3ppm未満及び特に有利には2ppm未満を有する。
【0017】
好ましくは、光の可視領域中(380〜780nm)での光透過率は、ガラスセラミックスの試料厚さ4mmの場合に、少なくとも87%、有利には少なくとも87.5%及び特に有利には少なくとも88%である。
【0018】
ガラスセラミックスの三刺激値(Farbwert)C
*は、好ましくは3未満である。
【0019】
ガラスセラミックスのさらなる有利な実施形態において、核生成剤の酸化物SnO
2及びZrO
2の合計は少なくとも3質量%である。
【0020】
TiO
2の代替物として、好ましくはSnO
2が核生成剤の酸化物としてZrO
2に加えて使用される。その際、SnO
2は清澄剤としても作用する。
【0021】
SnO
2に加えて、核生成作用を示すさらに別の成分、例えばTa
2O
3、Nb
2O
3も使用することができ、その際、これらの成分はたいてい相対的に高価である。
【0022】
たいてい高められたFe
2O
3含有率を有する、より低コストの原料も使用することができる方法は、経済的に好ましい。
【0023】
本発明によるガラスセラミックスは、コーティング又は装飾されることができる。
【0024】
本発明によるガラスセラミックスを目的に合わせて着色するために、着色成分、例えばV
2O
5、NiO、CuO、Cr
2O
3、CeO
2、MnO
2、WO
3、MoO
3及び/又はNd
2O
3を溶融ガラスに出発ガラスの製造のために付け加えてよい。
【0025】
さらに、成分、例えばLa
2O
3、Y
2O
3、GeO
2及び/又はGd
2O
3を溶融ガラスに添加してよく、これらは結果生じるガラスセラミック中の残りのガラス相の屈折率を上げる。
【0026】
溶融ガラスは、公知の清澄剤により、殊にCeO
2、硫黄化合物及び/又は塩化物により精製されることができる。有利な実施形態において、ガラスセラミックスの製造のために環境にとって有害な成分は使用されない。
【0027】
透明なガラスセラミックスは、セラミックス化中の滞留時間の延長及び/又は温度の上昇によって半透明のガラスセラミックスに、そして熱処理をさらに行った場合には不透明のガラスセラミックスに変えられることができる。
【0028】
本発明によるガラスセミラックスは、様々な適用分野からの製品、例えば、調理面、暖炉覗き窓(Kaminsichtsscheiben)及びオーブン覗き窓(Backofensichtsscheiben)用に、例えば、熱分解炉床(Pyrolyseherden)、建築ガラス窓及び安全ガラス窓においても、例えば、高動的、機械的な負荷に対する防護ガラスといった防火のためにも使用されることができる。さらに、本発明によるガラスセラミックスは、衝撃、弾丸、破片又は衝風の影響から保護するための装置の一部として、防火ガラス窓の一部として、暖炉覗き窓として、調理領域用のガラスとして、半導体材料又は磁気ディスク(Magnetspeicherplatte)用の基板として使用されることができる。
【実施例】
【0029】
第1表は、本発明によるガラスセラミックの例1〜22を示す(酸化物ベースに基づく質量%記載の組成)。
【0030】
第2表は、本発明によらないガラスセラミックスの比較例23〜32を示す(酸化物ベースに基づく質量%記載の組成)。
【0031】
実施例及び比較例の製造:
出発ガラスを、市販の原料から、殊に酸化物、炭酸塩及び/又は硝酸塩から、セラミックスるつぼ材料中で約1640℃にて溶融した。溶融した材料を、精製し、均質化し、その後に注ぎ出し、場合により高温成形(例えばローラー法、フロート法、引き抜き法)し、かつ冷却した。
【0032】
ガラスセラミックスの製造のために、核生成温度T(KB)での核生成のための約1時間継続する第一の段階と、より高い温度T(MAX)での約15分の結晶成長期の第二の段階とから成る、出発ガラスのセラミックス化の2段階のプロセスを適用した。
【0033】
100mmの長さのガラスセラミックスバーの20℃から700℃の熱膨張係数(CTE)の測定を、膨張計を使って行った。
【0034】
透過率の測定のために、ガラスセラミックスを4mmの厚さに切り取り、かつ研磨した。測定は光源C/2゜で行った。光透過率τ
Vis及び三刺激値C
*の表示は、DIN 5033もしくはDIN EN 410に従って行った。C
*は、その際、彩度(Farbsaettigung)(クロマ、彩色性)を表示する:
【0035】
CIELAB色空間内の係数は、色印象に相当する:
a
*は、緑−赤軸の色座標の位置を表示し、その際、負の値は緑色の色調に相当し、かつ正の値は赤色の色調に相当する。
b
*は、青−黄軸の色座標の位置を表示し、その際、負の値は青色の色調に相当し、かつ正の値は黄色の色調に相当する。
【0036】
ガラスセラミックスの結晶相、結晶相含有率(Kr.ph.)[体積%]及びガラスセラミックスの平均結晶子サイズd
50を、公知技術のX線回折分析(XRD、デバイ・シェラー法(Debeye-Scherrer Verfahren))によって調べた。
【0037】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0038】
【表2-1】
【表2-2】