【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を含有する発泡性樹脂組成物であって、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度をTs、最大発泡温度をTmax、前記化学発泡剤の分解温度をTcとしたとき、Tsが120℃以上、Tmaxが190℃以上、Ts−Tcが−30℃以上6℃以下であ
り、前記熱膨張性マイクロカプセルが、カルボキシル基含有モノマーを含有する重合性モノマーと、カルボキシル基と反応可能な官能基を有し、分子内にラジカル重合性二重結合を有しない熱硬化性樹脂とを用いて得られるシェルにコア剤として揮発性液体を内包するマイクロカプセルである発泡性樹脂組成物である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
連続気泡の発生を充分に抑制しながら高い発泡倍率を実現するために、熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤とを併用することは、有効な方法である。しかしながら、本発明者らは、化学発泡剤が熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度よりも低い温度で分解する場合には、化学発泡剤の分解により生じたガスが熱膨張性マイクロカプセルの発泡よりも先に発生することから、連続気泡の発生を充分に抑制することはできず、一方、熱膨張性マイクロカプセルが化学発泡剤の分解温度よりも極端に低い温度で発泡する場合には、依然として高発泡倍率で発泡成形を行うことは困難であることを見出した。
【0010】
本発明者らは、熱可塑性樹脂を含有する発泡性樹脂組成物において、熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤とを併用し、かつ、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度、最大発泡温度、及び、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度と化学発泡剤の分解温度との差を所定範囲内とすることにより、高発泡倍率で発泡成形を行うことができると同時に、連続気泡を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の発泡性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を含有する。
本明細書中、発泡性樹脂組成物にはマスターバッチも含む。即ち、本発明の発泡性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を含有するマスターバッチであってもよい。また、本発明の発泡性樹脂組成物において、熱膨張性マイクロカプセルは直接配合されていてもよいし、熱膨張性マイクロカプセルを含有するマスターバッチとして配合されていてもよい。同様に、化学発泡剤も、直接配合されていてもよいし、化学発泡剤を含有するマスターバッチとして配合されていてもよい。
【0012】
本発明の発泡性樹脂組成物においては、上記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度をTsとしたとき、Tsが120℃以上である。上記Tsが120℃未満であると、上記熱膨張性マイクロカプセルが低い温度で発泡することから、発泡性樹脂組成物の製造時に加工温度で既に発泡してしまうこともあり、高発泡倍率で発泡成形を行うことが困難となる。上記Tsは130℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。
なお、本明細書中、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度とは、熱機械分析装置(TMA)で熱膨張性マイクロカプセルを加熱したときに、高さ方向の変位がプラスに転じたときの温度を意味する。
また、上記Tsの上限は特に限定されないが、好ましい上限は250℃、より好ましい上限は220℃である。
【0013】
本発明の発泡性樹脂組成物においては、上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度をTmaxとしたとき、Tmaxが190℃以上である。上記Tmaxが190℃未満であると、発泡性樹脂組成物の製造時の剪断力により上記熱膨張性マイクロカプセルの発泡が生じてしまい、未発泡の発泡性樹脂組成物を安定して製造することが困難となる。また、発泡性樹脂組成物が得られたとしても、高い成形温度では高発泡倍率で発泡成形を行うことは困難である。上記Tmaxは195℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。
なお、本明細書中、熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度とは、熱機械分析装置(TMA)で熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときの温度を意味する。
また、上記Tmaxの上限は特に限定されないが、好ましい上限は300℃、より好ましい上限は280℃である。
【0014】
本発明の発泡性樹脂組成物においては、上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度における発泡倍率の1/2以上の発泡倍率をとる温度幅をΔT1/2としたとき、ΔT1/2が50℃以上であることが好ましい。上記ΔT1/2が50℃未満であると、成形時の温度で上記熱膨張性マイクロカプセルが充分に発泡せず、高発泡倍率で発泡成形を行えないことがある。上記ΔT1/2は60℃以上であることがより好ましい。
なお、本明細書中、熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度における発泡倍率の1/2以上の発泡倍率をとる温度幅とは、熱機械分析装置(TMA)で熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながら300℃まで、その径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの最大変位量の1/2以上の変位量をとる温度幅を意味する。ただし、最大変位量を超えた後、300℃までに変位量が最大変位量の1/2以下に低下しない、いわゆる高耐久性の熱膨張性マイクロカプセルの場合、最大変位量の1/2の変位量となる低温側の温度と300℃との差をΔT1/2と定義する。
また、上記ΔT1/2の上限は特に限定されないが、好ましい上限は150℃、より好ましい上限は120℃である。
【0015】
本発明の発泡性樹脂組成物においては、上記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度をTs、上記化学発泡剤の分解温度をTcとしたとき、Ts−Tcの下限が−30℃、上限が6℃である。上記Ts−Tcが上記範囲内であることにより、本発明の発泡性樹脂組成物を用いて高発泡倍率で発泡成形を行うことができ、かつ、連続気泡を低減することができる。これは、上記化学発泡剤が分解してガスを生じるのとほぼ同時に上記熱膨張性マイクロカプセルが発泡し、発生したガスが、膨張した熱膨張性マイクロカプセル内に取り込まれることから、連続気泡が低減され、独立気泡の口径が大きくなるためであると推測される。
より詳細には、本発明の発泡性樹脂組成物を用いて発泡成形を行うと、まず、上記熱膨張性マイクロカプセルが膨張し始める。また、上記化学発泡剤も分解を始め、発生したガスが上記熱膨張性マイクロカプセルのシェルポリマー内部に浸透する。浸透したガスは、更なる加熱により上記熱膨張性マイクロカプセル内部の圧力を高め、上記熱膨張性マイクロカプセルは更に大きく膨張する。その結果、上記熱膨張性マイクロカプセルによる独立気泡の口径は非常に大きくなり、高発泡倍率が得られる一方で、上記化学発泡剤による連続気泡は低減される。これにより、得られる発泡成形体は、高発泡倍率、高強度、優れた外観等の特性を併せもつことができる。また、上記化学発泡剤を単独で用いた場合のように成形体内部に水分等が滲み込んで耐久性が低下する問題も解決することができる。
【0016】
また、上記化学発泡剤の分解により生じたガスは、上記熱膨張性マイクロカプセル内に取り込まれるため、成形中に成形体外部に出ることがなく、金型汚染の問題も解決することができる。
より詳細には、従来は、化学発泡剤の分解により生じたガスが成形中に成形体外部に出てしまい、金型を腐食させ、錆が発生していた。そのため、腐食した金型を使用し続けると、成形体表面が荒れる、白化現象が発生する、金型の寿命が短くなる等の問題が生じていた。本発明の発泡性樹脂組成物を用いて発泡成形を行うことで、このような問題を解決することができ、金型の防錆処理、錆を除去する作業等も不要になる。
【0017】
上記Ts−Tcが−30℃未満であると、高発泡倍率で発泡成形を行うことは困難である。上記Ts−Tcが6℃を超えると、連続気泡の発生を充分に抑制することができない。上記Ts−Tcの好ましい下限は−20℃、好ましい上限は3℃であり、より好ましい下限は−15℃、より好ましい上限は0℃である。
【0018】
上記Tcは特に限定されないが、120℃以上であることが好ましい。上記Tcが120℃未満であると、上記化学発泡剤が低い温度で分解することから、発泡性樹脂組成物の製造時に加工温度で既に分解してしまい、高発泡倍率で発泡成形を行うことが困難となることがある。上記Tcは130℃以上であることがより好ましい。
なお、本明細書中、化学発泡剤の分解温度とは、化学発泡剤を2℃/分で加熱昇温したときに、重量減少が変曲点に到達したときの温度を意味する。
また、上記Tcの上限は特に限定されないが、好ましい上限は280℃、より好ましい上限は250℃である。
【0019】
上記熱可塑性樹脂は特に限定されず、通常の発泡成形に用いられる熱可塑性樹脂を用いることができる。上記熱可塑性樹脂として、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ポリスチレン、熱可塑性エラストマー、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)等が挙げられる。これらのなかでは、融点が低く加工しやすいことから、LDPE、EVA、EMMA等が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
また、上記熱可塑性樹脂は、上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤に比べて極性が低いことが好ましい。上記熱可塑性樹脂の極性が低いことにより、上記化学発泡剤の分解により生じたガスが上記熱膨張性マイクロカプセルの表面に偏在化しやすく、上記シェルポリマー内部に浸透しやすくなり、更に高発泡倍率で発泡成形を行うとともに連続気泡を更に低減することができる。
具体的には、上記熱可塑性樹脂のSP値(Solubility Parameter)が10.5以下であり、上記熱膨張性マイクロカプセルのSP値と、上記化学発泡剤のSP値とがいずれも11以上であることが好ましい。
【0021】
本明細書中、熱膨張性マイクロカプセルとは、重合性モノマーを重合することにより得られるシェルポリマーに、コア剤として揮発性液体を内包するマイクロカプセルを意味する。このような構造を有することにより、上記熱膨張性マイクロカプセルは、成形時の加熱により上記コア剤がガス状になるとともに上記シェルポリマーが軟化して膨張し、発泡剤として働くことができる。
【0022】
上記重合性モノマーは、ニトリル系モノマーを含有することが好ましい。上記重合性モノマーが上記ニトリル系モノマーを含有することで、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及びガスバリア性が向上し、高い成形温度でも高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。
【0023】
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記ニトリル系モノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体に占める好ましい下限が50重量%、好ましい上限が99重量%である。上記ニトリル系モノマーの含有量が50重量%未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性が低下することがある。上記ニトリル系モノマーの含有量が99重量%を超えると、上記重合性モノマー全体に占める後述するカルボキシル基含有モノマーの含有量が相対的に低下して、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が低下し、高い成形温度では高発泡倍率で発泡成形を行えないことがある。
【0025】
上記重合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーを含有することが好ましい。上記重合性モノマーが上記カルボキシル基含有モノマーを含有することにより、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が向上し、高い成形温度でも高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。また、上記シェルポリマーの極性が高くなるため、上記化学発泡剤の分解により生じたガスが上記シェルポリマー内部に浸透しやすくなり、更に高発泡倍率で発泡成形を行うとともに連続気泡を更に低減することができる。
【0026】
上記カルボキシル基含有モノマーは特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性がより向上することから、メタクリル酸が特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記カルボキシル基含有モノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体に占める好ましい下限が1重量%、好ましい上限が50重量%である。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量が1重量%未満であると、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が低下し、高い成形温度では高発泡倍率で発泡成形を行えないことがある。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量が50重量%を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性を確保することができず、熱膨張しなくなることがある。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量は、上記重合性モノマー全体に占めるより好ましい下限が3重量%、より好ましい上限が30重量%である。
【0028】
上記重合性モノマーは、上記ニトリル系モノマー、上記カルボキシル基含有モノマー等と共重合することのできる他のモノマー(以下、単に、他のモノマーともいう)を含有してもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができるが、なかでも、上記シェルポリマーが、架橋しているか、及び/又は、熱硬化性であるように上記他のモノマーを選択することが好ましい。上記シェルポリマーが架橋しているか、及び/又は、熱硬化性であることにより、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐久性が向上し、更に高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。
【0029】
架橋しているシェルポリマーを得る方法として、例えば、上記他のモノマーとして、架橋性モノマーを用いる方法が挙げられる。
上記架橋性モノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、反応性が高く、強くしなやかな構造を有するために良好な耐久性が得られることから、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレートが好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
熱硬化性のシェルポリマーを得る方法として、例えば、上記カルボキシル基含有モノマーを用い、かつ、上記他のモノマーとして、カルボキシル基と反応可能な官能基を有するモノマーを用いる方法が挙げられる。このような熱膨張性マイクロカプセルにおいては、成形時の加熱によりカルボキシル基と、カルボキシル基と反応可能な官能基とが反応し、これにより、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐久性が向上する。
なお、上記カルボキシル基含有モノマーとしてのアクリル酸と、上記ニトリル系モノマーとしてのアクリロニトリルとを併用する場合、及び、上記カルボキシル基含有モノマーとしてのメタクリル酸と、上記ニトリル系モノマーとしてのメタクリロニトリルとを併用する場合、上記ニトリル系モノマーは、上記カルボキシル基と反応可能な官能基を有するモノマーに含まれる。上記カルボキシル基含有モノマーと上記ニトリル系モノマーとを併用した場合、得られる熱膨張性マイクロカプセルにおいては、成形時の加熱によりカルボキシル基とニトリル基とが反応し、これにより、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐久性が向上する。
【0031】
上記カルボキシル基と反応可能な官能基を有するモノマーとして、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、マグネシウムモノアクリレート、ジンクモノアクリレート等も挙げられる。これらのなかでは、グリシジル(メタ)アクリレート、ジンクモノアクリレートが好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
また、上記他のモノマーとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記重合性モノマーが上記他のモノマーを含有する場合、上記他のモノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体に占める好ましい上限が50重量%である。上記他のモノマーの含有量が50重量%を超えると、上記重合性モノマー全体に占める上記カルボキシル基含有モノマー、上記ニトリル系モノマー等の含有量が相対的に低下して、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性、ガスバリア性等が低下し、高い成形温度では高発泡倍率で発泡成形を行えないことがある。
【0034】
上記重合性モノマーには、金属カチオン塩を添加してもよい。
上記重合性モノマーに上記金属カチオン塩を添加することで、上記カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と、上記金属カチオン塩を形成する金属カチオンとがイオン架橋を形成することができ、上記シェルポリマーの架橋効率が上がって耐熱性が向上し、高い成形温度でも高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。また、上記イオン架橋の形成により、上記シェルポリマーの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形方法を用いた発泡成形においても上記熱膨張性マイクロカプセルの破裂又は収縮が生じにくく、高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。
【0035】
上記金属カチオン塩を形成する金属カチオンは、上記カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基とイオン架橋を形成することのできる金属カチオンであれば特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、Znのイオンが特に好ましい。また、上記金属カチオン塩は、上記金属カチオンの水酸化物であることが好ましい。これらの金属カチオン塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記金属カチオン塩を2種以上併用する場合、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンからなる塩と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンからなる塩とを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンは、カルボキシル基等の官能基を活性化して、該カルボキシル基等の官能基と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとのイオン架橋の形成を促進することができる。
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられる。これらのなかでは、塩基性の強いNa、K等が好ましい。
【0037】
上記重合性モノマーに上記金属カチオン塩を添加する場合、上記金属カチオン塩の添加量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が5.0重量部である。上記金属カチオン塩の添加量が0.1重量部未満であると、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記金属カチオン塩の添加量が5.0重量部を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルが高発泡倍率で発泡できないことがある。
【0038】
上記重合性モノマーが上記カルボキシル基含有モノマーを含有する場合、上記重合性モノマーには、カルボキシル基と反応可能な官能基を有する熱硬化性樹脂(以下、単に、熱硬化性樹脂ともいう)を添加してもよい。
このような熱膨張性マイクロカプセルにおいては、成形時の加熱によりカルボキシル基と、カルボキシル基と反応可能な官能基とが反応し、これにより、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐久性が向上し、更に高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。
【0039】
また、このようなカルボキシル基と、カルボキシル基と反応可能な官能基との反応は、上記重合性モノマーの重合時ではなく、発泡性樹脂組成物の成形時の加熱により開始される。即ち、上記熱硬化性樹脂は、上記重合性モノマーを重合して熱膨張性マイクロカプセルを得る際には重合反応に組み込まれず、得られるシェルポリマーの主鎖とは直接結合していないため、上記熱膨張性マイクロカプセルの柔軟性を損なったり膨張を阻害したりすることなく、耐久性を向上させることができる。
上記熱硬化性樹脂が上記重合性モノマーを重合して熱膨張性マイクロカプセルを得る際に重合反応に組み込まれないためには、上記熱硬化性樹脂は、分子内にラジカル重合性二重結合をもたないことが好ましい。分子内にラジカル重合性二重結合をもたない熱硬化性樹脂は、シェルポリマーの主鎖とは直接結合せず、上記熱膨張性マイクロカプセルの柔軟性を損なったり膨張を阻害したりすることがない。
【0040】
上記熱硬化性樹脂は、カルボキシル基と反応可能な官能基を有していれば特に限定されないが、カルボキシル基と反応可能な官能基を分子中に2つ以上有することが好ましい。上記熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0041】
上記エポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。上記フェノール樹脂は特に限定されず、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ベンジリックエーテル型フェノール樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0042】
上記重合性モノマーに上記熱硬化性樹脂を添加する場合、上記熱硬化性樹脂の添加量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が30重量部である。上記熱硬化性樹脂の添加量が0.01重量部未満であると、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐久性を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記熱硬化性樹脂の添加量が30重量部を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性を確保することができず、熱膨張しなくなることがある。より好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0043】
上記重合性モノマーには、更に、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を添加してもよい。
【0044】
上記重合性モノマーを重合するために用いられる重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化ジアルキルは特に限定されず、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0045】
上記過酸化ジアシルは特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0046】
上記パーオキシエステルは特に限定されず、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0047】
上記パーオキシジカーボネートは特に限定されず、例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0048】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0049】
上記揮発性液体は特に限定されないが、低沸点有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、イソオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CCl
3F、CCl
2F
2、CClF
3、CClF
2−CClF
2等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらのなかでは、得られる熱膨張性マイクロカプセルが速やかに発泡を開始でき、また、高発泡倍率で発泡できることから、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテルが好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、上記揮発性液体として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0050】
上記熱膨張性マイクロカプセル中の上記揮発性液体の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は25重量%である。上記揮発性液体の含有量が10重量%未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルが厚くなりすぎ、発泡性能が低下することがある。上記揮発性液体の含有量が25重量%を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が低下し、高温において、破裂及び収縮を生じやすく、高発泡倍率で発泡できないことがある。
【0051】
上記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が10μm、好ましい上限が50μmである。上記体積平均粒子径が10μm未満であると、得られる発泡性樹脂組成物を用いると、発泡成形体の気泡が小さすぎ、軽量化が不充分となることがある。上記体積平均粒子径が50μmを超えると、得られる発泡性樹脂組成物を用いると、発泡成形体の気泡が大きくなりすぎ、強度等の面で問題となることがある。上記体積平均粒子径は、より好ましい下限が15μm、より好ましい上限が40μmである。
【0052】
上記化学発泡剤は、上述のようなTs−Tcの範囲を満たすことができれば特に限定されず、通常の発泡成形に用いられる化学発泡剤を用いることができるが、上記化学発泡剤の分解物が、窒素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス又は水を含有することが好ましい。上記化学発泡剤の分解物が窒素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス又は水を含有することにより、上記化学発泡剤の分解により生じたガスが上記シェルポリマー内部に浸透しやすくなり、更に高発泡倍率で発泡成形を行うとともに連続気泡を更に低減することができる。
上記化学発泡剤の主剤として、具体的には、例えば、炭酸水素ナトリウム等の無機系発泡剤、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(OBSH)等の有機系発泡剤等が挙げられる。これらのなかでは、分解温度を発泡助剤により制御しやすいことから、ADCA、炭酸水素ナトリウムが好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
本明細書中、化学発泡剤は、上述した主剤のみからなるものであってもよいし、主剤に発泡助剤を添加して得られる混合物であってもよい。上記発泡助剤を添加することにより、上記化学発泡剤の分解温度Tcを所望とする温度に調整することができる。
上記発泡助剤は特に限定されず、例えば、ステアリン酸亜鉛、尿素、ステアリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。これらのなかでは、化学発泡剤の分解温度を発泡成形の加工温度帯に調整しやすいことから、ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛が好ましい。また、上記発泡助剤の添加量は特に限定されないが、上記化学発泡剤100重量部に占める好ましい下限が1重量部、好ましい上限が40重量部である。
【0054】
上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量は特に限定されないが、上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量の合計は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が10重量部、好ましい上限が90重量部である。上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量の合計が10重量部未満であると、高発泡倍率で発泡成形を行うことができないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量の合計が90重量部を超えると、得られる発泡性樹脂組成物がマスターバッチである場合、該マスターバッチが脆くなり、形状を保つことができないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量の合計は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対するより好ましい下限が20重量部、より好ましい上限が80重量部である。
【0055】
また、上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量の合計に占める、上記熱膨張性マイクロカプセルの比率は、好ましい下限が10重量%、好ましい上限が95重量%である。上記熱膨張性マイクロカプセルの比率が10重量%未満であると、連続気泡の発生を抑制できないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセルの比率が95重量%を超えると、高発泡倍率で発泡成形を行うことができないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤の配合量の合計に占める、上記熱膨張性マイクロカプセルの比率は、より好ましい下限が30重量%、より好ましい上限が90重量%である。
【0056】
本発明の発泡性樹脂組成物は、更に、タルク又はシリカを含有することが好ましい。タルク又はシリカを含有する発泡性樹脂組成物においては、タルク又はシリカを核剤として上記化学発泡剤の分解が促進されるため、発泡条件の制御が容易になる。
【0057】
なかでも、上記熱膨張性マイクロカプセルが、表面にタルク又はシリカを有することが好ましい。上記熱膨張性マイクロカプセルが表面にタルク又はシリカを有することにより、上記化学発泡剤の分解と、分解により生じたガスの上記シェルポリマー内部への浸透とが良好に行われ、更に高発泡倍率で発泡成形を行うとともに連続気泡を更に低減することができる。
上記熱膨張性マイクロカプセルの表面にタルク又はシリカを存在させる方法として、例えば、上記重合性モノマーを重合して熱膨張性マイクロカプセルを得る際、上記重合性モノマー等の油性物質を懸濁させる水性分散媒体に、分散安定剤としてタルク又はシリカを添加する方法が挙げられる。
【0058】
本発明の発泡性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、本発明の発泡性樹脂組成物がマスターバッチである場合、例えば、以下の方法等が挙げられる。
まず、上記熱可塑性樹脂等のベースレジン、及び、必要に応じて各種添加剤等を、同方向2軸押出機等を用いて予め混合し、次いで、所定温度まで加熱し、上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤を添加した後、更に混練することにより混練物を得る。この混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット状にして、マスターバッチを得る。
【0059】
また、本発明の発泡性樹脂組成物がマスターバッチである場合、本発明の発泡性樹脂組成物を製造する方法として、例えば、上記熱可塑性樹脂等のベースレジン、上記熱膨張性マイクロカプセル及び上記化学発泡剤等をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒する方法、押出機とペレタイザーとによりペレット状のマスターバッチを製造する方法等も挙げられる。
上記混練機は、上記熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0060】
本発明の発泡性樹脂組成物を用いることにより、高発泡倍率で発泡成形を行うことができ、かつ、連続気泡を低減することができる。一方、発泡性樹脂組成物が製造完了時点で微発泡している場合には、発泡成形に用いられる際に所望の発泡倍率で発泡することが困難となり、バラツキも大きくなる。
【0061】
本発明の発泡性樹脂組成物の用途は特に限定されず、例えば、本発明の発泡性樹脂組成物を、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により発泡させることにより発泡成形体を製造することができる。本発明の発泡性樹脂組成物を発泡成形することにより得られる発泡成形体もまた、本発明の1つである。
本発明の発泡成形体は、高発泡倍率であり、独立気泡が均一に形成されており、更に、外観も良好であることから、軽量性、断熱性、耐衝撃性、剛性等に優れ、住宅用建材、自動車用部材、靴底、制振板等の用途に好適に用いられる。