(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吐出ポートは、前記吐出ポート始端線傾斜角度が前記吐出ポート終端線傾斜角度と前記ベーン角度の和より大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
前記吐出ポートは、前記吐出ポート終端線傾斜角度が前記吐出ポート始端線傾斜角度と前記ベーン角度の和より大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
前記ロータに対する前記カムリングの偏心量がゼロとならないように前記カムリングの移動を規制する規制部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の可変容量型ベーンポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
(第1実施の形態)
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプ100について説明する。
【0013】
可変容量型ベーンポンプ(以下、単に「ベーンポンプ」と称する。)100は、車両に搭載される油圧機器(流体圧機器)、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の油圧(流体圧)供給源として用いられるものである。
【0014】
ベーンポンプ100は、駆動軸1にエンジン(図示省略)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。
図1では、ロータ2は矢印で示すように反時計回りに回転する。
【0015】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共に、ロータ2の回転に伴って内周の内周カム面4aにベーン3の先端部が摺動しロータ2の中心に対して偏心可能なカムリング4とを備える。
【0016】
図2に示すように、ロータ2には、外周面に開口部を有するスリット2bが所定間隔をおいて放射状に形成される。ベーン3は、スリット2bに摺動自在に挿入される。スリット2bの基端側には、ポンプ吐出圧力が導かれるベーン背圧室2aが画成される。ベーン3は、ベーン背圧室2aの圧力によってスリット2bから突出する方向に押圧される。
【0017】
駆動軸1は、ポンプボディ(図示せず)に回転自在に支持される。ポンプボディには、カムリング4を収容するポンプ収容凹部が形成される。ポンプ収容凹部の底面には、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接するサイドプレート6が配置される。ポンプ収容凹部の開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー(図示せず)によって封止される。ポンプカバーとサイドプレート6は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置される。ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が画成される。
【0018】
カムリング4は、環状の部材であり、その内側に後述する吸込ポート15に対応して形成されロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容量を拡張する吸込領域41と、後述する吐出ポートに対応して形成されロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容量を収縮する吐出領域42と、ポンプ室7内に作動油(作動流体)を閉じ込める遷移領域43、44と、を有する。ポンプ室7は、吸込領域41にて作動油を吸込み、吐出領域42にて作動油を吐出する。
【0019】
図3に示すように、サイドプレート6には、作動油をポンプ室7内に導く吸込ポート15と、ポンプ室7内の作動油を取り出して油圧機器に導く吐出ポート16と、が形成される。吸込ポート15及び吐出ポート16の具体的な形状については、後で詳細に説明する。
【0020】
図示しないポンプカバーにも、吸込ポート及び吐出ポートが形成される。ポンプカバーの吸込ポート及び吐出ポートは、ポンプ室7を介してサイドプレート6の吸込ポート15及び吐出ポート16にそれぞれ連通している。
【0021】
図1に示すように、吸込領域41のポンプ室7は吸込通路17を介してタンク9に連通され、タンク9の作動油が吸込通路17を通じて吸込ポート15からポンプ室7へと供給される。
【0022】
吐出領域42のポンプ室7は吐出通路18が連通され、吐出ポート16から吐出される作動油が吐出通路18を通じてベーンポンプ100外部の油圧機器(図示せず)へと供給される。
【0023】
吐出通路18はサイドプレート6に形成される背圧通路50(
図3参照)に連通し、吐出ポート16から吐出される作動油がベーン背圧室2aに供給される。ベーン背圧室2aの作動油圧によってベーン3がロータ2からカムリング4に向けて突出する方向に押圧される。
【0024】
ベーンポンプ100の作動時に、ベーン3は、その基端部を押圧するベーン背圧室2aの作動油圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット2bから突出する方向に付勢され、その先端部がカムリング4の内周カム面4aに摺接する。カムリング4の吸込領域41では、内周カム面4aに摺接するベーン3がロータ2から突出してポンプ室7が拡張し、作動油が吸込ポート15からポンプ室7に吸い込まれる。カムリング4の吐出領域42では、内周カム面4aに摺接するベーン3がロータ2に押し込まれてポンプ室7が収縮し、ポンプ室7にて加圧された作動油が吐出ポート16から吐出される。
【0025】
以下、ベーンポンプ100の吐出容量(押しのけ容積)を変化させる構成について説明する。
【0026】
ベーンポンプ100は、カムリング4を取り囲む環状のアダプタリング11を備える。アダプタリング11とカムリング4の間には、支持ピン13が介装される。支持ピン13にはカムリング4が支持され、カムリング4はアダプタリング11の内部で支持ピン13を支点に揺動し、ロータ2の中心Oに対して偏心する。この支持ピン13の中心が、カムリング4の揺動支点Cに該当する。
【0027】
アダプタリング11の溝11aには、カムリング4の揺動時にカムリング4の外周面が摺接するシール材14が介装される。カムリング4の外周面とアダプタリング11の内周面との間には、支持ピン13とシール材14とによって、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが区画される。換言すると、第一流体圧室31及び第二流体圧室32は、カムリング4の揺動支点Cを境にして設けられる。
【0028】
カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32とポンプ室7の圧力バランスによって、揺動支点Cについて揺動する。カムリング4が揺動することによって、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、ポンプ室7の吐出容量が変化する。カムリング4が
図1にて右方向に揺動すると、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなり、ポンプ室7の吐出容量は小さくなる。これに対して、カムリング4が
図1にて左方向に揺動すると、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなり、ポンプ室7の吐出容量は大きくなる。
【0029】
第二流体圧室32内におけるアダプタリング11の内周面には、ロータ2に対する偏心量が小さくなる方向のカムリング4の移動を規制する規制部12が膨出して形成される。規制部12は、ロータ2に対するカムリング4の最小偏心量を規定するものであり、カムリング4の外周面が規制部12に当接した状態において、ロータ2の中心Oとカムリング4の中心とが外れた状態を維持する。
【0030】
規制部12は、ロータ2に対するカムリング4の偏心量がゼロとならないように、ポンプ室7の最小吐出容量を保障するものである。つまり、規制部12は、カムリング4の外周面が当接した状態でも、ロータ2に対するカムリング4の最小偏心量が確保され、ポンプ室7が作動油を吐出可能となるように形成される。
【0031】
なお、規制部12は、アダプタリング11の内周面に形成する代わりに、第二流体圧室32内におけるカムリング4の外周面に形成するようにしてもよい。また、アダプタリング11を設けない場合には、規制部12は、ポンプボディ(図示せず)のカムリング4を収容するポンプ収容凹部の内周面に形成するようにしてもよい。
【0032】
第二流体圧室32には、第二流体圧通路34が接続され、第二流体圧通路34を通じて吸込通路17が連通され、吸込通路17の吸込圧力が常に導かれる。
【0033】
第一流体圧室31には、第一流体圧通路33が接続され、第一流体圧通路33に制御バルブ21が介装される。制御バルブ21は、第一流体圧室31に導かれるカムリング4の駆動圧力を制御する。
【0034】
吐出通路18にはオリフィス19が介装され、制御バルブ21はオリフィス19の前後差圧によって作動する。なお、オリフィス19は、ポンプ室7から吐出された作動油の流れに抵抗を付与するものであれば、可変型、固定型のどちらでもよい。
【0035】
制御バルブ21は、バルブ収容穴29に摺動自在に挿入されたスプール22と、スプール22の一端とバルブ収容穴29との間に画成された第一スプール室24と、スプール22の他端とバルブ収容穴29との間に画成された第二スプール室25と、環状溝22cとバルブ収容穴29との間に画成された第三スプール室26と、第二スプール室25内に収装され第二スプール室25の容積を拡張する方向にスプール22を付勢するリターンスプリング28と、リターンスプリング28に抗してスプール22を駆動するソレノイド60と、を備える。
【0036】
ソレノイド60は、コイル61に発生する磁界によって駆動されるプランジャ62と、プランジャ62とスプール22を連結するシャフト63と、シャフト63を軸方向に付勢する補助スプリング64と、を備える。
【0037】
ソレノイド60は、図示しないコントローラによってコイル61の励磁電流が制御され、励磁電流に応じてスプール22を軸方向に移動する。
【0038】
スプール22は、バルブ収容穴29の内周面に沿って摺動する第一ランド部22a及び第二ランド部22bと、第一ランド部22aと第二ランド部22bとの間に形成された環状溝22cと、第二ランド部22bの一端から突出するストッパ部22dと、を備える。スプール22は、ストッパ部22dがバルブ収容穴29の底部に当接することによってその移動範囲が規制される。
【0039】
第一スプール室24には、導圧通路36を通じて吐出通路18が連通され、オリフィス19より上流側のポンプ吐出圧力が導かれる。
【0040】
第二スプール室25には、導圧通路37を通じて吐出通路18が連通され、オリフィス19より下流側のポンプ吐出圧力が導かれる。
【0041】
第三スプール室26には、導圧通路35を通じて吸込通路17に連通され、吸込通路17の吸込圧力が導かれる。
【0042】
スプール22は、両端に画成された第一スプール室24及び第二スプール室25に導かれるオリフィス19の前後差圧による荷重と、リターンスプリング28の付勢力と、ソレノイド60の駆動力と、がバランスした位置に移動して停止する。スプール22の位置によって、第一流体圧通路33が第一ランド部22aによって第一スプール室24(導圧通路36)、第三スプール室26(導圧通路35)に対して開閉され、第一流体圧室31の作動油が給排される。
【0043】
ロータ2の低速回転時では、オリフィス19の前後差圧が予め設定された所定値より低いため、第二スプール室25の圧力による荷重とリターンスプリング28の付勢力との合計荷重が第一スプール室24の圧力による荷重とソレノイド60の駆動力との合計荷重よりも大きくなり、リターンスプリング28が伸長して、スプール22は
図1において左側に移動した状態となる。この状態では、
図1に示すように、第一流体圧通路33は第三スプール室26に連通し、第一流体圧室31には第一流体圧通路33、第三スプール室26及び導圧通路35を通じて吸込通路17の吸込圧力が導かれる。一方、第二流体圧室32には、第二流体圧通路34を通じて吸込通路17の吸込圧力が導かれている。このため、第一流体圧室31と第二流体圧室32の圧力は、互いに等しくなる。
【0044】
このように第一流体圧室31と第二流体圧室32の圧力が互いに等しくなる作動状態では、
図1及び
図2に示すように、後述するようにカムリング4に働く内圧による荷重によってカムリング4が
図1、2にて左側に移動し、カムリング4がロータ2に対して偏心して吐出容量が最大になる。
【0045】
ロータ2の回転速度が高まり、オリフィス19の前後差圧が予め設定された所定値を越えて上昇すると、第一スプール室24の圧力による荷重とソレノイド60の駆動力との合計荷重が第二スプール室25の圧力による荷重とリターンスプリング28の付勢力との合計荷重より大きくなってリターンスプリング28が収縮し、スプール22は
図1において右側に移動する。この状態では、第一流体圧通路33は第一スプール室24に連通し、第一流体圧室31には吐出通路18及び導圧通路36、第一スプール室24及び第一流体圧通路33を通じてオリフィス19より上流側のポンプ吐出圧力がカムリング4を駆動する駆動圧力として導かれる。一方、第二流体圧室32には、第二流体圧通路34を通じて吸込圧力が導かれている。このため、第一流体圧室31と第二流体圧室32の間には、オリフィス19より上流側のポンプ吐出圧力に応じた圧力差が生じる。
【0046】
このように第一流体圧室31と第二流体圧室32の圧力差が生じた作動状態では、第一流体圧室31と第二流体圧室32の圧力差による荷重と後述するようにカムリング4に働く内圧による荷重とが釣り合う位置にカムリング4が移動する。これにより、ポンプ吐出圧力が高まるのに応じて、カムリング4が偏心し、吐出容量が次第に小さくなる。
【0047】
以上のように、制御バルブ21は、オリフィス19の前後差圧に応じて第一流体圧室31の圧力を調節して、カムリング4の偏心位置を変える。そして、図示しないコントローラがソレノイド60の励磁電流を制御することにより、カムリング4の偏心位置を変えられ、吐出容量が制御される。
【0048】
カムリング4の内周カム面4aは、ポンプ室7の圧力(カムリング4の内圧)を受けてカムリング4を吐出容量が増加する方向に揺動させる付勢力をカムリング4に与える付勢手段を構成する。ポンプ室7の圧力によってカムリング4の内周カム面4aに働く荷重が、ロータ2の回転位置によらず常に揺動支点Cに対して第一流体圧室31側に偏るように、吐出ポート16及び吸込ポート15がカムリング4を揺動支点Cに対して配置される。これにより、ベーンポンプ100は、従来装置のように、カムリング4を付勢するスプリングを持たない構成とする。
【0049】
以下、
図3〜5を参照して、本発明の実施の形態に係る吐出ポート16及び吸込ポート15について説明する。
【0050】
まず、吐出ポート16及び吸込ポート15の形状について説明する。
【0051】
図3に示すように、吸込ポート15及び吐出ポート16は、それぞれ内周カム面4aの形状に対応する円弧状に形成される。吸込ポート15及び吐出ポート16は、カムリング4の中心とロータ2の中心Oが一致する状態、即ちカムリング4の偏心量が零の状態において、内周カム面4aに沿った円弧状に形成される。
【0052】
吸込ポート15は、その両端に始端15bと終端15cを有する。ロータ2の回転に伴って、ポンプ室7が始端15bに対峙することによってポンプ室7と吸込ポート15の連通状態が始まり、ポンプ室7が終端15cに対峙する位置を過ぎることによってポンプ室7と吸込ポート15の連通状態が終了する。
【0053】
吐出ポート16は、その両端に始端16bと終端16cを有する。ロータ2の回転に伴って、ポンプ室7が始端16bに対峙することによってポンプ室7と吐出ポート16の連通状態が始まり、ポンプ室7が終端16cに対峙する位置を過ぎることによってポンプ室7と吐出ポート16の連通状態が終了する。
【0054】
吐出ポート16の一端にはノッチ16dが形成され、このノッチ16dの先端が吐出ポート16の始端16bになる。ノッチ16dは、その断面積が次第に縮小する溝である。なお、吐出ポート16は、上述した構成に限らず、ノッチ16dを有さない構成としてもよい。
【0055】
ここで、ベーンポンプ100の各部を以下のように称する。
・カムリング4の揺動支点Cとロータ2の回転中心Oとを結ぶ仮想線(直線)を揺動中心線Yとする。
・ロータ2の回転中心Oと吐出ポート16の始端16bとを結ぶ仮想線(直線)を吐出ポート始端線Pbとする。
・揺動中心線Yに対して吐出ポート始端線Pbが傾斜する角度を吐出ポート始端線傾斜角度θbとする。
・ロータ2の回転中心Oと吐出ポート16の終端16cとを結ぶ仮想線(直線)を吐出ポート終端線Pcとする。
・揺動中心線Yに対して吐出ポート終端線Pcが傾斜する角度を吐出ポート終端線傾斜角度θcとする。
・隣り合うベーン3の中心線どうしが交差する角度をベーン角度θdとする。
【0056】
そして、吐出ポート終端線傾斜角度θcが吐出ポート始端線傾斜角度θbに比べて小さく形成され、かつ両者の差θb−θcがベーン角度θdより大きい、θb−θc>θdの関係になるように形成される。即ち、吐出ポート16は、吐出ポート始端線傾斜角度θbが吐出ポート終端線傾斜角度θcとベーン角度θdの和より大きくなるように形成される。これにより、ポンプ室7の圧力によってカムリング4に働く荷重が常に揺動支点Cに対して第一流体圧室31側(
図2では左側)に偏る。
【0057】
カムリング4の揺動中心線Yと直交しかつロータ2の回転中心Oと交差する仮想線(直線)を平衡線Xとし、平衡線Xに対して吐出ポート始端線Pbが傾斜する角度θaとすると、平衡線Xに対して吐出ポート終端線Pcが傾斜する角度θeがベーン角度θdと角度θaの和より大きくなるように形成される。
【0058】
図2に示すように、吐出領域42における内周カム面4aは、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向にカムリング4を偏心させる圧力が作用する第一受圧部45と、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向にカムリング4を偏心させる圧力が作用する第二受圧部46とを有する。
【0059】
第一受圧部45は、ポンプ室7に臨んでカムリング4の内周において、支持ピン13に対して第一流体圧室31側(
図2では左側)に設けられる。カムリング4には、第一受圧部45に作用するポンプ室7内の圧力によって、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向(
図2では左側)に揺動する力が作用する。
【0060】
第二受圧部46は、ポンプ室7に臨んでカムリング4の内周において、支持ピン13に対して第二流体圧室32側(
図2では右側)に設けられる。第二受圧部46は、内周カム面4aにおける支持ピン13に対応する位置を境として、第一受圧部45と連続して形成される。カムリング4には、第二受圧部46に作用するポンプ室7内の圧力によって、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向(
図2では右側)に揺動する力が作用する。
【0061】
よって、カムリング4には、第一受圧部45に作用する圧力と第一受圧部45の受圧面積との積によって一方に揺動する力が作用し、第二受圧部46に作用する圧力と第二受圧部46の受圧面積の積によって他方に揺動する力が作用することとなる。
【0062】
ここで、吐出領域42におけるポンプ室7は吐出ポート16を介して連通するため、吐出領域42におけるポンプ室7内の圧力は略一定である。よって、カムリング4は、第一受圧部45と第二受圧部46との受圧面積の差がある場合には、受圧面積の大きな方に作用する力が、受圧面積の小さな方に作用する力と比較して大きくなる。したがって、カムリング4は、第一受圧部45と第二受圧部46とのうち受圧面積が大きい方に支持ピン13を中心として揺動することとなる。
【0063】
第一受圧部45と第二受圧部46の受圧面積はロータ2の回転位置(ポンプ室7の位置)に応じて変わるが、第一受圧部45の受圧面積の最小値を第二受圧部46の受圧面積の最大値より大きくして、ポンプ室7の圧力によってカムリング4に働く荷重が常に揺動支点Cに対して第一流体圧室31側に偏るようにする。
【0064】
図4には、第一受圧部45の受圧面積が最小になるロータ2の回転位置が示されている。このロータ2の回転位置では、吸込ポート15の終端15cと吐出ポート16の始端16bの間に位置するポンプ室7がカムリング4の遷移領域43にあり、このポンプ室7に吐出ポート16の吐出圧が導かれない。したがって、この状態で吐出ポート16に連通するポンプ室7が位置する第一受圧部45の角度範囲が、第一受圧部45の最小角度範囲θ1minとなる。この第一受圧部45の最小角度範囲θ1minは、ロータ2の回転中心Oと吐出ポート16の始端16bとを結ぶ吐出ポート始端線Pbと、揺動中心線Yとの間の角度であり、前述した吐出ポート始端線傾斜角度θbと一致する。
【0065】
図5には、第二受圧部46の受圧面積が最大になるロータ2の回転位置が示されている。このロータ2の回転位置では、吐出ポート16の終端16cと吸込ポート15の始端15bの間に位置するポンプ室7がカムリング4の遷移領域44にあり、このポンプ室7に吐出ポート16の吐出圧が閉じ込められている。したがって、この状態における第二受圧部46の角度範囲が、第二受圧部46の最大角度範囲θ2maxとなる。この第二受圧部46の最大角度範囲θ2maxは、前述した吐出ポート終端線傾斜角度θcとベーン角度θdの和と一致する。
【0066】
したがって、第一受圧部45の最小角度範囲θ1minを第二受圧部46の最大角度範囲θ2maxより大きく設定するためには、前述した吐出ポート始端線傾斜角度θbを吐出ポート終端線傾斜角度θcとベーン角度θdの和より大きく設定すればよい。即ち、θb>θc+θdの関係に設定することにより、第一受圧部45の受圧面積の最小値が第二受圧部46の受圧面積の最大値より大きくなり、ロータ2の回転位置によらず、ポンプ室7の圧力によってカムリング4に働く荷重が常に揺動支点Cに対して第一流体圧室31側に偏るようにすることができる。
【0067】
以下、主に
図2を参照して、上記のように形成される吐出ポート16の作用について説明する。
【0068】
ベーンポンプ100の起動時において、規制部12によってロータ2に対するカムリング4の偏心量がゼロとならないようにカムリング4の移動が規制されているため、ロータ2が回転するのに伴ってベーン3が往復動し、高まるポンプ室7の圧力によってカムリング4を第一流体圧室31側(
図2では左側)に向けて押圧する力が生じる。
【0069】
制御バルブ21(
図1参照)によって第一流体圧室31に導かれる駆動圧力が高められると、カムリング4は、その外周面に作用する第一流体圧室31及び第二流体圧室32の圧力差による荷重によって、第一受圧部45及び第二受圧部46に作用するポンプ室7の圧力による荷重に抗して、吐出容量が小さくなる方向(
図2の右方向)に揺動し、吐出容量を小さくする。
【0070】
逆に、制御バルブ21によって第一流体圧室31に導かれる駆動圧力が低下すると、カムリング4は、第一受圧部45及び第二受圧部46に作用するポンプ室7の圧力による荷重によって、その外周面に作用する第一流体圧室31及び第二流体圧室32の圧力差による荷重に抗して、吐出容量が大きくなる方向(
図2の左方向)に揺動し、吐出容量を大きくする。
【0071】
吐出ポート16は、第一受圧部45の受圧面積の最小値が第二受圧部46の受圧面積の最大値より大きくなるように形成されているため、ポンプ室7の圧力によってカムリング4を押圧する力がロータ2の回転位置によらず第一流体圧室31側に作用する。これにより、ポンプ室7の圧力によってカムリング4を第一流体圧室31の方向に付勢する力がロータ2の回転位置によらず常に得られ、カムリング4を付勢するスプリングを廃止できる。
【0072】
以上より、ベーンポンプ100は、第一流体圧室31及び第二流体圧室32に導かれる圧力差と、第一受圧部45及び第二受圧部46に作用するポンプ室7内の圧力とによってカムリング4の位置が制御され、カムリング4を付勢するスプリングを持たない構成とすることができる。
【0073】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0074】
〔1〕吐出ポート16は吐出ポート始端線傾斜角度θbと吐出ポート終端線傾斜角度θcとの差の絶対値|θb−θc|がベーン角度θdより大きくなるように形成されるため、カムリング4の揺動支点Cに対してポンプ室7の圧力によってカムリング4を揺動させる力が作用する側がロータ2の回転位置によって変わらず、カムリング4を一方に付勢する力が安定して得られる。これにより、カムリングを付勢するスプリングを廃止できるため、ポンプボディにスプリングを組み付ける穴等を設ける必要がなく、ベーンポンプ100の構造が簡便となり製造コストを抑えられる。
【0075】
〔2〕吐出ポート16は、吐出ポート始端線傾斜角度θbが吐出ポート終端線傾斜角度θcとベーン角度θdの和θc+θdより大きくなるように形成されるため、第一受圧部45の受圧面積の最小値が第二受圧部46の受圧面積の最大値より大きくなり、ポンプ室7の圧力によってカムリング4を第一流体圧室31の方向に付勢する力が安定して得られる。
【0076】
〔3〕第二流体圧室32にポンプ室7に吸い込まれる作動流体の吸込圧力が常に導かれ、第一流体圧室31にカムリング4を吐出容量が減少する方向に揺動させる駆動圧力がポンプ室7から導かれるため、第二流体圧室32に吸込圧力が導かれることにより、第二流体圧室32にポンプ吐出圧力が導かれる構成に比べて、作動流体の内部洩れ量が減り、ポンプ効率を高められる。
【0077】
〔4〕ロータ2に対するカムリング4の偏心量がゼロとならないようにカムリング4の移動を規制する規制部12を備えたため、ポンプ室7の圧力によってカムリング4を第一、第二流体圧室31、32の一方に付勢する力が得られ、カムリング4を付勢するスプリングを廃止できる。
【0078】
(第2実施形態)
次に
図6〜8に示す本発明の第2実施形態を説明する。
図6は可変容量型ベーンポンプにおけるサイドプレート106の正面図である。この構成は第1実施形態と基本的に同じであるため、以下では、第1実施形態と相違する点のみについて説明する。なお、第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付す。
【0079】
図6に示すように、吸込ポート115及び吐出ポート116は、それぞれ内周カム面4aの形状に対応する円弧状に形成される。吸込ポート115及び吐出ポート116は、カムリング4の中心とロータ2の中心Oが一致する状態、即ちカムリング4の偏心量が零の状態において、内周カム面4aに沿った円弧状に形成される。
【0080】
吸込ポート115は、その両端に始端115bと終端115cを有する。ロータ2の回転に伴って、ポンプ室7が始端115bに対峙することによってポンプ室7と吸込ポート115の連通状態が始まり、ポンプ室7が終端115cに対峙する位置を過ぎることによってポンプ室7と吸込ポート115の連通状態が終了する。
【0081】
吐出ポート116は、その両端に始端116bと終端116cを有する。ロータ2の回転に伴って、ポンプ室7が始端116bに対峙することによってポンプ室7と吐出ポート116の連通状態が始まり、ポンプ室7が終端116cに対峙する位置を過ぎることによってポンプ室7と吐出ポート116の連通状態が終了する。
【0082】
吐出ポート116の一端にはノッチ116dが形成され、このノッチ116dの先端が吐出ポート116の始端116bになる。なお、吐出ポート116は、上述した構成に限らず、ノッチ116dを有さない構成としてもよい。
【0083】
ここで、ベーンポンプの各部を以下のように称する。
・ロータ2の回転中心Oと吐出ポート116の始端116bとを結ぶ仮想線(直線)を吐出ポート始端線Pbとする。
・揺動中心線Yに対して吐出ポート始端線Pbが傾斜する角度を吐出ポート始端線傾斜角度θbとする。
・ロータ2の回転中心Oと吐出ポート116の終端116cとを結ぶ仮想線(直線)を吐出ポート終端線Pcとする。
・揺動中心線Yに対して吐出ポート終端線Pcが傾斜する角度を吐出ポート終端線傾斜角度θcとする。
【0084】
そして、吐出ポート始端線傾斜角度θbが吐出ポート終端線傾斜角度θcに比べて小さく形成され、かつ両者の差θc−θbがベーン角度θdより大きい、θc−θb>θdの関係になるように形成される。即ち、吐出ポート116は、吐出ポート終端線傾斜角度θcが吐出ポート始端線傾斜角度θbとベーン角度θdの和より大きくなるように形成される。これにより、ポンプ室7の圧力によってカムリング4に働く荷重が常に揺動支点Cに対して第二流体圧室32側(
図6では右側)に偏る。
【0085】
カムリング4の揺動中心線Yと直交しかつロータ2の回転中心Oと交差する仮想線を平衡線Xとし、平衡線Xに対して吐出ポート終端線Pcが傾斜する角度θaとすると、平衡線Xに対して吐出ポート始端線Pbが傾斜する角度θfがベーン角度θdと角度θaの和より大きくなるように形成される。
【0086】
図7には、第二受圧部46の受圧面積が最小になるロータ2の回転位置が示されている。このロータ2の回転位置では、吐出ポート116の終端116cと吸込ポート115の始端115bの間に位置するポンプ室7がカムリング4の遷移領域44を過ぎて、このポンプ室7に閉じ込められていた吐出圧が吸込ポート115に導かれる。したがって、この状態における第二受圧部46の角度範囲が、第二受圧部46の最小角度範囲θ2minとなる。この第二受圧部46の最小角度範囲θ2minは、前述した吐出ポート終端線傾斜角度θcと一致する。
【0087】
図8には、第一受圧部45の受圧面積が最大になるロータ2の回転位置が示されている。このロータ2の回転位置では、吸込ポート115の終端115cと吐出ポート116の始端116bの間に位置するポンプ室7がカムリング4の遷移領域43を過ぎて、このポンプ室7に吐出ポート116の吐出圧が導かれる。したがって、この状態で吐出ポート116に連通するポンプ室7が位置する第一受圧部45の角度範囲が、第一受圧部45の最大角度範囲θ1maxとなる。この第一受圧部45の最大角度範囲θ1maxは、前述した吐出ポート始端線傾斜角度θbとベーン角度θdの和と一致する。
【0088】
したがって、第二受圧部46の最小角度範囲θ2minを第一受圧部45の最大角度範囲θ1maxより大きく設定するためには、前述した吐出ポート終端線傾斜角度θcを吐出ポート始端線傾斜角度θbとベーン角度θdの和より大きく設定すればよい。即ち、θc>θb+θdの関係に設定することにより、第二受圧部46の受圧面積の最小値が第一受圧部45の受圧面積の最大値より大きくなり、ロータ2の回転位置によらず、ポンプ室7の圧力によってカムリング4に働く荷重が常に揺動支点Cに対して第二流体圧室32側に偏るようにすることができる。
【0089】
なお、カムリング4を吐出容量が増加する方向に揺動させるためには、ポンプ室7から第二流体圧室32に駆動圧力が導かれる構成とすればよい。
【0090】
以上の第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に前記〔1〕〜〔3〕の作用効果を奏するとともに、以下に示す作用効果を奏する。
【0091】
〔5〕
吐出ポート116は、吐出ポート終端線傾斜角度θcが吐出ポート始端線傾斜角度θbとベーン角度θdの和θb+θdより大きくなるように形成されるため、第二受圧部46の受圧面積の最小値が第一受圧部45の受圧面積の最大値より大きくなり、ポンプ室7の圧力によってカムリング4を第二流体圧室32の方向に付勢する力が安定して得られる。これにより、カムリング4を第二流体圧室32の方向に付勢するスプリングを廃止できるため、ポンプボディにスプリングを組み付ける穴等を設ける必要がなく、ベーンポンプの構造が簡便となり製造コストを抑えられる。
【0092】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。