(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787805
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】不均一なパルスタイミングを用いた高解像度SAR撮像
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20150910BHJP
G01S 13/22 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
G01S13/90 135
G01S13/22
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-65561(P2012-65561)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2012-215568(P2012-215568A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】13/077,597
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597067574
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100094695
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 憲七
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】ペトロス・ボウフォウノス
(72)【発明者】
【氏名】デホン・リウ
【審査官】
大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−520954(JP,A)
【文献】
特開昭59−058375(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0389111(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/42
G01S 7/52 − 7/64
G01S 13/00 − 15/96
G01N 29/00 − 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一な送信パルスを発生するパルス発生器と、
前記送信パルスの反射エコーを受信するエコー受信機と、
前記エコー受信機で受信された反射エコーのサンプルから、前記送信パルスの撮像対象エリアの散乱係数が前記受信された反射エコーに対して忠実である度合いを示す忠実度判断基準とSAR画像の信号モデルに基づきSAR画像の再構築を行う再構築手段と、
を備え、
前記送信パルス及び前記反射エコーは時間において重なり合い、
前記重なり合ったパルスからの欠落データが時間において異なる相対ロケーションにある、
ことを特徴とする開口レーダー(SAR)システム。
【請求項2】
前記再構築手段は前記忠実度判断基準と前記信号モデルとの間のトレードオフを制御するパラメータを用いることを特徴とする請求項1に記載の開口レーダー(SAR)シ
ステム。
【請求項3】
前記再構築手段は、閾値処理を用いた反復勾配降下法を用いることを特徴とする請求項
1に記載の開口レーダー(SAR)システム。
【請求項4】
不均一な送信パルスを発生するパルス発生器と、
前記送信パルスの反射エコーを受信するエコー受信機と、
前記エコー受信機で受信された反射エコーのサンプルからSAR画像の再構築を行う再
構築手段と、
を備え、
前記送信パルス及び前記反射エコーは時間において重なり合い、
前記重なり合ったパルスからの欠落データが時間において異なる相対ロケーションにあり、
前記送信パルスのタイミングがランダム又は疑似ランダムである、
ことを特徴とする開口レーダー(SAR)システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、包括的には合成開口レーダー(SAR)に関し、より詳細には、レーダーパルスが不均一にタイミング付けされる方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダー(SAR)は、リモートセンシング用途において大きな関心が寄せられている高解像度レーダー撮像技術である。SARは、人工衛星、航空機、車両、船等のレーダープラットフォームの動きを利用して、高解像度で大きなエリアを撮像することができる非常に大きな開口を有する仮想アレイを合成する。
【0003】
従来のSARは、均一のレートでパルス信号を送信する。送信パルスは通常、周波数が増加又は減少する、線形周波数変調(FM)チャープ(それぞれアップチャープ又はダウンチャープ)である。対象領域から反射された対応する受信エコーは、処理され、二次元複素値画像が再構築される(すなわち、所望の情報が、画像の振幅及び位相の双方において伝達される)。プラットフォームの動きに対して垂直な軸(レンジ)上の画像の解像度は、送信パルスの帯域幅によって決まる一方、動きの軸(アジマス)に沿った解像度は、パルスレート又はパルス繰返し周波数(PRF)に依拠する。
【0004】
従来のSARは、撮像されるアジマスの解像度と撮像されるレンジの長さとの間の基本的なトレードオフを示す。これは、パルス送信をエコー受信から分離する必要性に起因する。ほとんどの従来のSARシステムは、パルスの送信と受信エコーの受信に同じアンテナを用いる。このため、パルスが送信されている間、レーダーは別のパルスの反射エコーを受信することができない。アンテナが別々である場合であっても、それらが近接していることによって、送信アンテナのパルス送信中に受信アンテナにおける大きな干渉が生じる。このため、受信信号は、反射エコーからの情報を含むとしても、最小限の情報しか含まない。
【0005】
PRFが非常に高い場合、送信パルスは受信エコーの受信と干渉し、欠落データが生じる。換言すれば、2つの送信パルス間の時間間隔は、次のパルスが送信される前に反射エコーを完全に取得することができるように十分長くなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
合成開口レーダー(SAR)は、リモートセンシング用途において大きな影響を有する基本的な技術である。SARはレーダープラットフォームの動きに依存して大きな開口を合成し、大きなエリアの高解像度の撮像を達成する。しかしながら、均一のパルス出力に依存する従来のSARシステムは、アジマス解像度とレンジカバレッジ長との間の基本的なトレードオフの難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る開口レーダー(SAR)システムは、不均一な送信パルスを発生するパルス発生器と、前記送信パルスの反射エコーを受信するエコー受信機と、前記エコー受信機で受信された反射エコーのサンプルから
、前記送信パルスの撮像対象エリアの散乱係数が前記受信された反射エコーに対して忠実である度合いを示す忠実度判断基準とSAR画像の信号モデルに基づきSAR画像の再構築を行う再構築手段と、を備え、前記送信パルス及び前記反射エコーは時間において重なり合い、前記重なり合ったパルスからの欠落データが時間において異なる相対ロケーションに
ある、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る開口レーダー(SAR)システムは、従来のSAR取得の基本的なアジマス解像度制限を克服し、従来よりも高解像度の撮像を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】従来技術の均一なパルス及び反射エコーのタイミング図である。
【
図1B】PRFが高く、受信エコーが互いに、かつ送信パルスと干渉するときの、従来技術の均一なパルス及び反射エコーのタイミング図である。
【
図2A】PRFが高く、受信エコーが互いに、かつ送信パルスと干渉するときの、従来技術の均一なパルス及び反射エコーのタイミング図である。
【
図2B】この発明の実施の形態によるランダムパルスのタイミング図である。
【
図3A】グランドトルースSAR画像と、従来技術のSAR画像と、この発明の実施の形態によるSAR画像とを比較する図である。
【
図3B】グランドトルースSAR画像と、従来技術のSAR画像と、この発明の実施の形態によるSAR画像とを比較する図である。
【
図3C】グランドトルースSAR画像と、従来技術のSAR画像と、この発明の実施の形態によるSAR画像とを比較する図である。
【
図4】この発明の実施の形態によるSARシステム及び方法のブロック図である。
【
図5A】高パルス繰返し周波数(PRF)の場合の従来技術の均一に離間されたパルスタイミングの地上カバレッジ(ground coverage)の概略図である。
【
図5B】高平均PRFの場合の不均一に離間されたパルスタイミングの地上カバレッジの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
2つの重なり合うパルスの干渉を回避するために、この発明の実施の形態は非コヒーレントなパルス出力を用いることができる。特に、近接するパルスが直交するか又は非常に非コヒーレントであること、例えばアップチャープの後にダウンチャープが続くことが保証される。このとき、反復的な再構築方法によって、画像を再構築しながら、重なり合った応答を切り離すことができる。非コヒーレントなパルス出力を用いることは、解像度を改善するが、この発明の実施の形態に必須ではない。
【0011】
この発明によるSARパルス出力方式によって、レンジ長とアジマス解像度との間のトレードオフが大きく改善され、従来のパルス出力の基本的な制限が克服される。この発明の実施の形態は、以下の新規な特徴を組み合わせる。
1)パルスタイミングは、高いアジマス解像度を達成し、パルス送信に起因する欠落データを全ての利用可能なレンジに均等に分散させるために、比較的高い平均PRF及びパルス間の小さな最小間隔を有するランダム化されたパルスタイミングである。
2)パルスは、互いに直交するか又は非コヒーレントであり、重なり合った受信パルスの分離の改善を可能にすることができる。
3)反復再構築手順が欠落データ及び重なり合ったパルスに対処し、画像モデルを組み込む。
【0012】
この発明の一部分は、圧縮センシング(CS)における近年の成果によって動機付けられている。CSは基本的に信号取得を再検討し(revisit)、サンプリング、及びナイキストレートよりも大幅に少ない数のサンプルを用いた保証された信号再構築を可能にする。信号処理において、ナイキストレートは、帯域制限された信号の帯域幅の2倍、又はエイリアシングを回避するのに必要な最小サンプリングレートである。このサンプリングレート低減は、ランダム化されたサンプリング、改善した信号モデル及び計算再構築手順によって達成される。
【0013】
ランダム化によって、線形サンプルが非コヒーレントであり、パルスを完全に取得することが保証される。このため、サンプルは、モデルを用いた非線形再構築プロセスによって反転し、取得されたパルスを回復し、SAR画像を再構築することができる。
【0014】
図1Aは、従来技術において用いられるタイミングを用いた均一なパルス101及び反射エコー102を示している。送信パルスのタイミングは、反射エコー全体が送信パルス間に含まれるようになっている。
【0015】
図1Bは、従来技術において用いられるような均一なタイミングを用い、かつ高PRF(すなわち送信パルス間の小さなタイミング間隔)を用いた均一なパルス101及び反射エコー102を示している。図は、受信エコーが互いに、かつ送信パルスと重なり合い、それによって干渉110及び欠落データ120が生じることを具体的に示している。従来技術のアルゴリズムはそのような問題に対処することができない。
【0016】
図2Aは、従来技術において用いられるような均一なパルス201及び反射エコー202を示しているが、非コヒーレントなパルス(例えばアップチャープ及びダウンチャープ)が送信において交互になっている。間隔の短いパルス出力の場合、2つ以上の反射が重なり合う場合があり、反射をより良好に分離することを可能にするには、3つ以上の異なるパルスが必要である。パルスが分離している場合であっても、送信パルスからの干渉によって、応答において欠落データ210が生じる。パルスタイミングが規則的である場合、欠落データ210は常に反射パルスの同じレンジロケーションに位置する。
【0017】
通常、反復方法が欠落データに対処することができる。しかしながら、最良の手法であっても、同じレンジロケーションが常に欠落している場合に依然として問題を有する。結果の画像は回復不可能な領域550を有し、すなわち、中心ストリップがそのレンジロケーション間隔で欠落している。
【0018】
図2Bに示すように、この発明の実施の形態において、パルス203のタイミングを不均一にすることによってこの問題を回避する。これは、例えば、1つの実施の形態ではパルスタイミングをランダム化又は疑似ランダム化することによって、又は別の実施の形態では周期的な不均一なシーケンスを用いることによって達成することができる。次に、不均一にタイミング付けされた反射204によって、反射パルスからの欠落データが時間において異なるロケーションにあることが保証される。応答がアジマスにおいて大きく重なり合うので、これは、欠落データがSAR画像において均等に分散され、対象エリアのカバレッジが実質的に均一になることも保証する。このカバレッジの例が
図5Bに示されている。
【0019】
画像再構築
SAR取得プロセス全体を、線形演算
【0021】
として記載することができ、ここで、yは受信エコーを表し、xは撮像されたエリアの散乱係数であり、Φはレーダーパラメーターに依拠するSAR取得関数をモデル化し、nは雑音である。
【0022】
画像再構築プロセスは、反射y及び取得関数Φを所与として逆問題を解くことによって対象の信号xを求める。取得関数Φが可逆である場合、xを求めるのにΦの逆関数又は疑似逆関数を用いることが明白な選択である。
【0023】
従来のSARでは、これは、レンジドップラーアルゴリズム(RDA)、又はチャープスケーリングアルゴリズム(CSA)等の十分に確立されたアルゴリズムのうちの1つを用いて達成される。
【0024】
この発明による再構築は、欠落データに起因して、より複雑であり、場合によっては劣決定である。このため、逆関数
【0026】
を検討する。ここで、第1項はデータ忠実度を制御し、第2項のg(x)はSAR画像の信号モデルを組み込む正則化項(regularizer)である。ラグランジュパラメーターλは2つの項間のトレードオフを制御する。
【0027】
この発明の場合、圧縮センシング手法と同様に、
【0029】
を用いる。ここで、B(・)は、ウェーブレット基底等の或る基底変換である。
【0030】
この問題を解くために、固定点連続(FPC)アルゴリズムに類似した軟閾値処理を用いた反復勾配降下法を用いる。反復勾配降下法は、取得演算Φ及びその随伴関数Φ
Hを用い、CSAを用いて効率的に求めることができる。
【0031】
図3は画像再構築を比較している。
図3Aはグランドトルースの場合である。
図3Bは完全に均一なパルスを用いた従来のCSA撮像の場合である。明らかに、
図3Cの画像は
図3Aのグランドトルースの画像にはるかにより類似している。この発明によるランダムチャープタイミング方式によってアジマス解像度が向上することが観察される。
【0032】
図4はこの発明の実施の形態によるSARシステム及び方法400を示している。システムは、移動している(451)プラットフォーム450上に配置された、ランダムパルス発生器410と、エコー受信機420と、コントローラー430とを備える。コントロ−ラーは、パルスのパルス繰返し周波数(PRF)を求め、送信パルス及び受信エコーのタイミングを調整する。
【0033】
不均一にタイミング付けされたパルス401がSARアンテナ440によって送信され、ターゲット403によって反射され、後にパルス受信機によって取得される。
【0034】
固定点連続(FPC)及びチャープスケーリングアルゴリズム(CSA)を用いた圧縮センシング460を反射パルスに適用し、スパースなサンプル461を取得する。スパースなサンプルからSAR画像404が再構築される(470)。