(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚み1.5mm以下であって、Siを0.40質量%以上1.10質量%以下、Mgを0.40質量%以上1.20質量%以下で、かつ、Mgに対するSiの割合Si/Mgを0.65以上1.20以下、Feを0.50質量%以下の範囲で含有し、残部がAl及び各0.10質量%以下の不可避的不純物からなり、引張強さが220MPa以上350MPa以下の材料強度を有し、導電率が45%IACS以上とされ、180°密着曲げ試験において板表面から割れの亀裂先端までの最大長さをLとして、板厚tに対する比率L/tが0.2以下であり、160MPaの応力を150℃で500時間付加するクリープ試験前後の形状変化率が0.2%以下とされ、160MPaの応力を150℃で500時間付加する応力緩和率が50%以上とされることを特徴とする通電部品用アルミニウム合金板。
前記焼き入れ工程後で、前記時効処理工程の前に、10%以上30%以下の圧下率で冷間圧延を施す冷間圧延工程を備えることを特徴とする請求項3記載の通電部品用アルミニウム合金板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
電気・電子用通電部品に使用される材料には、通電に伴うジュール熱の発生を抑制するための良好な通電性が求められる。また、通電部品として使用する材料には、打ち抜き、プレス成形、曲げといった成形や塑性加工が施されるため、また、リレー、スイッチ等の直接作動する箇所に用いられる部品は、作動時における材料への負荷応力に対応するため、高いバネ性と材料強度が求められる。
このため、電気・電子用通電部品には、これらの特徴を兼ね備えた材料として、特許文献1に記載されているように銅合金が広く使用されてきた。
【0003】
しかし、近年では、銅の価格が急激に高騰し、さらに将来予想される資源の枯渇に対応すべく、銅に代わる材料への置換が求められている。ところが、銅合金が有する主な特徴は、高い導電性と高い材料強度であり、他の材料を使用する場合には、銅合金と比較して市場が許容できる価格範囲内であることが重要となる。
そこで、これらの銅合金による要求項目を満足する可能性のある実用金属として、特許文献2から5に記載されているように、アルミニウム合金が検討されており、アルミニウム合金をリレー、スイッチ、コネクタ、リードフレーム、バスバー等の通電部品として使用するための種々の試みがなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、通電用部品を輸送機材用途として用いる場合は、部品の負荷状況に相当する耐クリープ特性や耐応力緩和特性が求められる。これは、応力負荷した金属材料に対して、原子の自己拡散や固溶原子の拡散に伴って転位が移動することにより塑性変形や応力緩和が起こり、永久ひずみを生ずる現象である。例えば、常温では部品にかかる応力が一定の状態に維持されていたとしても、80〜150℃といった比較的高温環境下では時間とともに塑性変形を生じたり、材料強度が低下するため、これを抑制する必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、導電性に優れ、曲げ加工性、耐クリープ特性、耐応力緩和特性にも優れる通電部品用アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、厚み1.5mm以下の通電部品用アルミニウム合金板であって、Siを0.40質量%以上1.10質量%以下、Mgを0.40質量%以上1.20質量%以下で、かつ、Mgに対するSiの割合Si/Mgを0.65以上1.20以下の範囲で含有し、残部がAl及び各0.10質量%以下の不可避的不純物からなり、引張強さが220MPa以上350MPa以下の材料強度を有し、導電率が45%IACS以上とされ、180°密着曲げ試験において板表面から割れの亀裂先端までの最大長さをLとして、板厚tに対する比率L/tが0.2以下であり、160MPaの応力を150℃で500時間付加するクリープ試験前後の形状変化率が0.2%以下とされ、160MPaの応力を150℃で500時間負荷する条件での応力緩和特性試験後の応力緩和率が50%以上であることを特徴とする。
また、本発明の通電部品用アルミニウム合金板は、さらにCuが0.40質量%以下添加されていてもよい。
本発明は、
上記の厚み1.5mm以下の通電部品用アルミニウム合金板を製造する方法であって、
上記のいずれかの組成を有するアルミニウム合金鋳魂を、熱間圧延と冷間圧延により圧延板に形成する圧延工程と、該圧延板に溶体化処理を施す溶体化処理工程と、該溶体化処理工程後の圧延板を焼き入れする焼き入れ工程と、該焼き入れ工程後の圧延板に190℃以上270℃以下でピーク時効以上の加熱を行う時効処理工程とを備え、前記溶体化処理工程及び前記焼き入れ工程は、100℃/sec以上で520℃〜550℃まで急昇温させて15sec以上保持した後に100℃/sec以上で急冷却することを特徴とする。
【0008】
Si,Mgは、アルミニウム合金中で安定相β‐Mg
2Si化合物を形成する。そして、その前駆段階に形成される準安定相β’’相は、アルミニウム合金の材料強度を高める作用がある。また、拡散に伴う準安定相や安定相の形成と析出に伴い、格子ひずみが解消されることで導電性の向上を図ることができる。
このような特性を備えるアルミニウム合金を製造するために、溶体化処理工程と焼き入れ工程とにより、アルミニウム合金中にSiとMgの溶質元素を過飽和に固溶させている。また、時効処理工程により、化合物をアルミニウム合金中に均一に析出させることで、その析出物が転位の動きを抑制し、材料強度を高めることができる。また、ピーク時効以上の加熱による時効処理を行うことにより、化合物のサイズや分布密度が粗くなり、アルミニウム合金の硬さや強さは最大値より低くなるが、導電性や曲げ加工性が向上し、かつ、耐クリープ特性と耐応力緩和特性に優れる通電部品用アルミニウム合金板とすることができる。
【0009】
そして、アルミニウム合金中に添加されるSiは、MgとMg
2Si系化合物を形成するための必須元素であるが、Siの添加量が0.40質量%未満では、化合物の形成が少なくなるため、材料強度を十分に高めることができない。また、1.10質量%を超えるとSi相が過剰に分布するので圧延性、曲げ加工性の低下を招く。このため、Siの添加量は0.40質量%以上1.10質量%以下の範囲としている。
また、Mgは、Siと化合物を形成するための必須元素であるが、Mgの添加量が0.40質量%未満では、化合物の形成が少なくなるため、必要な材料強度を達成することができない。一方、1.20質量%を超えると、Siとの組成バランスを考えても不均衡となり固溶Mgが多くなるので、圧延性、導電性を大きく低下させるとともに、Mg
2Siの溶体化処理温度での固容量が減少するので時効硬化性が低下することとなる。したがって、Mgの添加量は0.40質量%以上1.20質量%以下の範囲としている。
【0010】
さらに、本用途で使用するアルミニウム合金では、SiとMgとの組成比が重要である。MgとSiとの組成比Si/Mgを、0.65以上1.20以下の範囲とした場合は、時効処理後にβ’’相が好ましい状態で分布する。また、この組成比の範囲では、鋳造時にSi相が晶出するので、相の周囲が加工によって変形されると溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなり、再結晶組織の微小化に寄与する。その結果、高い材料強度と曲げ加工性とを両立させることが可能となる。
一方、組成比Si/Mgが0.65未満では、Mgが過剰の組成となり、固溶Mgは導電性を大きく低下させる。また、組成比Si/Mgが1.20を超えると、Si相が過剰に分布するため、圧延性、曲げ加工性が著しく低下する。したがって、組成比Si/Mgは、0.65以上1.20以下の範囲としている。
【0011】
また、Feの添加量は0.50質量%以下とする。Feは、アルミニウム合金鋳塊中にAl‐Fe系、Al‐Fe‐Si系晶出物を形成する。特にSiは、時効硬化に寄与するMg
2Si系化合物を構成する溶質元素であるので、Al‐Fe‐Si系晶出物の形成は時効硬化性が低下するので好ましくない。さらに、このAl‐Fe‐Si系晶出物はマトリクスに数μm〜10μm程度のサイズで分布するため、曲げ加工時の割れの経路となり好ましくない。よって、Feの添加量は0.50質量%以下に規制する必要があり、0.30質量%以下とするのがより好ましい。
また、アルミニウム合金にCuを含有する場合、Cuは、アルミニウム合金中に固溶して存在する元素であり、アルミニウム合金板の材料強度を高める効果がある。ところが、0.40質量%を超える場合は、材料強度が高くなり過ぎて圧延性が低下することになるとともに、固溶Cuは、Mgと同様に導電性を大きく低下させるので、Cuの添加量は0.40質量%以下とした。
【0012】
本発明の通電部品用アルミニウム合金板の製造方法において、前記焼き入れ工程後で、前記時効処理工程の前に、10%以上30%以下の圧下率で冷間圧延を施す冷間圧延工程を備えることもできる。
溶体化処理後に冷間圧延加工を施すことで、より高い材料強度を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性に優れ、曲げ加工性、耐クリープ特性および耐応力緩和特性に優れる通電部品用アルミニウム合金板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の通電部品用アルミニウム合金板及びその製造方法について、詳細に説明する。
本発明の通電部品用アルミニウム合金板は、厚み1.5mm以下の比較的薄い金属板であって、Siを0.40質量%以上1.10質量%以下、Mgを0.40質量%以上1.20質量%以下で、かつ、Mgに対するSiの割合Si/Mgを0.65以上1.20以下、Feを0.50質量%以下の範囲で含有し、残部がAl及び各0.10質量%以下の不可避的不純物からなることを特徴とするものである。また、上記通電部品用アルミニウム合金板に、Cuを0.40質量%以下添加する構成とすることもできる。
【0018】
この通電部品用アルミニウム合金板は、以上のような組成を有し、金属組織として、合金中にSiとMgのMg
2Si系化合物が析出されたものである。
Si,Mgは、アルミニウム合金中で安定相β‐Mg
2Si化合物を形成し、その前駆段階に形成される準安定相β’’相は、アルミニウム合金の材料強度を高める作用がある。また、拡散に伴う準安定相や安定相の形成と析出に伴い、格子ひずみが解消されることで導電性の向上を図ることができるのである。
【0019】
このような組成を有する通電部品用アルミニウム合金板の各組成について説明する。
(Si及びMgについて)
Siは、MgとMg
2Si系化合物を形成するための必須元素であるが、Siの添加量が0.40質量%未満では、化合物の形成が少なくなるため、材料強度を十分に高めることができない。また、1.10質量%を超えるとSi相が過剰に分布するので圧延性、曲げ加工性の低下を招く。このため、Siの添加量は0.40質量%以上1.10質量%以下の範囲としている。
また、Mgは、Siと化合物を形成するための必須元素であるが、Mgの添加量が0.40質量%未満では、化合物の形成が少なくなるため、必要な材料強度を達成することができない。一方、1.20質量%を超えると、Siとの組成バランスを考えても不均衡となり固溶Mgが多くなるので、圧延性、導電性を大きく低下させるとともに、Mg
2Siの溶体化処理温度での固容量が減少するので時効硬化性が低下することとなる。したがって、Mgの添加量は0.40質量%以上1.20質量%以下の範囲としている。
【0020】
さらに、本用途で使用するアルミニウム合金(通電部品用アルミニウム合金板)では、SiとMgとの組成比が重要である。MgとSiとの組成比Si/Mgを、0.65以上1.20以下の範囲とした場合は、時効処理後に準安定相β’’相が好ましい状態で分布する。また、この組成比の範囲では、鋳造時にSi相が晶出するので、相の周囲が加工によって変形されると溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなり、再結晶組織の微小化に寄与する。その結果、高い材料強度と曲げ加工性とを両立させることが可能となる。
一方、組成比Si/Mgが0.65未満では、Mgが過剰の組成となり、固溶Mgは導電性を大きく低下させる。また、組成比Si/Mgが1.20を超えると、Si相が過剰に分布するため、圧延性、曲げ加工性が著しく低下する。したがって、組成比Si/Mgは、0.65以上1.20以下の範囲としている。
【0021】
(Feについて)
Feの添加量は0.50質量%以下としている。Feは、アルミニウム合金鋳塊中にAl‐Fe系、Al‐Fe‐Si系晶出物を形成する。特にSiは、時効硬化に寄与するMg
2Si系化合物を構成する溶質元素であるので、Al‐Fe‐Si系晶出物の形成は時効硬化性が低下するので好ましくない。さらに、このAl‐Fe‐Si系晶出物はマトリクスに数μm〜10μm程度のサイズで分布するため、曲げ加工時の割れの経路となり好ましくない。よって、Feの添加量は0.50質量%以下に規制する必要があり、0.30質量%以下とするのがより好ましい。
【0022】
(Cuについて)
Cuは、アルミニウム合金中に固溶することで、通電部品用アルミニウム合金板の材料強度を高める効果がある。ところが、0.40質量%を超える場合は、材料強度が高くなり過ぎて圧延性が低下することになるとともに、固溶Cuは、Mgと同様に導電性を大きく低下させるので、Cuの添加量は0.40質量%以下としている。
【0023】
(不可避的不純物について)
不可避的不純物は、主にアルミニウム合金を鋳造する際に混入する不純物であり、各0.10質量%以下であれば、本発明の通電部品用アルミニウム合金板の特性に対して影響はない。
【0024】
このような組成の通電部品用アルミニウム合金板を製造する方法について説明する。
(鋳造工程)
まず、Siを0.40質量%以上1.10質量%以下、Mgを0.40質量%以上1.20質量%以下で、かつ、Mgに対するSiの組成比Si/Mgを0.65以上1.20以下、Feを0.50質量%以下の範囲で含有し、残部がAl及び各0.10質量%以下の不可避的不純物からなる組成に調整したアルミニウム溶湯から、適宜の鋳造法により鋳造して、アルミニウム合金鋳魂を形成する。
【0025】
(均質化処理工程)
次に、アルミニウム合金鋳魂の組織を均一化させる目的で均質化処理を行う。例えば、アルミニウム合金鋳魂を500〜560℃で加熱して4〜10時間保持することにより均質化処理を施す。そして、均質化処理後に一度、アルミニウム合金鋳魂を冷却する。
【0026】
(圧延工程)
均質化処理工程後のアルミニウム合金鋳魂を500〜540℃に再加熱し、熱間圧延で4mm程度の熱延板を作製した後、続いて冷間圧延で圧延板を作製する。
【0027】
(溶体化処理工程及び焼き入れ工程)
この圧延板に対して、溶体化処理及び焼き入れ処理を施す。具体的には、100℃/sec以上で520℃〜550℃まで急昇温させて15sec以上保持した後、100℃/sec以上で急冷却する。
溶体化処理と焼き入れ処理とにより、アルミニウム合金中にSiとMgの溶質元素を過飽和に固溶させることができる。
【0028】
(調質の選択)
次に、得ようとする通電部品用アルミニウム合金板ごとにT6,T7,T8調質のいずれかを選択し、対応する処理を施すことにより、その特性を調整する。
なお、T6調質は、溶体化処理、焼き入れ処理後に、人工時効硬化処理をしたことを示し、T7調質は、溶体化処理、焼き入れ処理後に長時間の時効処理(安定化処理)をしたことを示す。また、T8調質は、溶体化処理、焼き入れ処理後に冷間圧延加工を行い、その加工後に人工時効硬化処理をしたことを示す。
このため、T6,T7調質が選択された場合は、上記焼き入れ工程後に、冷間圧延を行わずに、そのまま時効処理が施される。一方、T8調質が選択された場合は、上記焼き入れ工程後に、冷間圧延加工が施され、その加工後に時効処理が施されることとなる。
時効処理は、焼き入れ工程後の圧延板に、190℃以上270℃以下で4時間以上20時間以下の範囲内で条件を選択し、ピーク時効以上の加熱を実施する。これにより、アルミニウム合金中にSiとMgとの化合物を均一に析出させることができる。
以下、調質ごとの工程を説明する。
【0029】
(T6調質)
T6調質では、焼き入れ工程後の圧延板に、190℃以上270℃以下で4時間以上8時間以下のピーク時効以上の加熱を行う時効処理を施し(時効処理工程)、通電部品用アルミニウム合金板を製造する。
(T7調質)
T7調質では、焼き入れ工程後の圧延板に、190℃以上270℃以下で、T6調質よりも長時間で20時間以下の加熱を行うピーク時効以上の時効処理を施し(時効処理工程)、通電部品用アルミニウム合金板を製造する。
(T8調質)
T8調質では、焼き入れ工程後の圧延板に、再び冷間圧延を施した後で(冷間圧延加工)、時効処理を行う(時効処理工程)。
この場合、冷間圧延工程の圧下率は、圧延材の板厚に応じて10%以上30%以下とすることが好ましい。圧下率が10%未満とする圧延は製造上困難であり、30%を超える場合は180°密着曲げ試験を満足することができない。
溶体化処理後の圧延板に冷間圧延加工を施すことで、加工硬化により材料強度を増すことができる。
そして、冷間圧延加工後の圧延板に190℃以上270℃以下で4時間以上8時間以下のピーク時効以上の加熱を行う時効処理を施し、通電部品用アルミニウム合金板を製造する。
なお、本実施形態においてピーク時効以上の加熱を行う時効処理とは、過時効処理を示しており、ピーク時効以上の過時効処理であっても8時間以内の処理を行う場合をT6調質とし、20時間程度の意図的な長時間熱処理を行う場合をT7調質と区別して定義した。
【0030】
このように、時効処理工程を経ることで、アルミニウム合金中に化合物を均一に析出させることができる。そして、この析出物が塑性変形に伴う転位の動きを抑制するので、材料強度を高めることができる。また、ピーク時効以上の加熱による時効処理を行うことにより、化合物の析出を粗くすることができ、アルミニウム合金の硬さや強さは最大値より低くなるが、格子ひずみが解消されることで導電性が向上し、塑性変形時の局部伸びの増加に伴い曲げ加工性を向上させることができる。
また、通常、MgとSiとを含有するアルミニウム合金においては、150〜180℃で2〜8時間程度の熱処理を施すことが一般的であるが、本発明においては、190℃以上270℃以下の範囲で熱処理を施すことにより、T6,T7,T8のあらゆる調質の条件でも、導電性に優れ、耐応力緩和特性に優れる通電部品用アルミニウム合金板とすることができる。
【0031】
このように製造された本発明に係る通電部品用アルミニウム合金板においては、引張強さが220MPa以上350MPa以下の材料強度を有し、導電率が45%以上とされ、高い材料強度と耐クリープ特性、導電性等の通電部品に必要とされる特性を兼ね備えることができる。
上記製造方法においては、溶体化処理工程と焼き入れ工程とにより、アルミニウム合金中にSiとMgのMg
2Si系化合物を均一に分布させ、時効処理工程により、化合物をアルミニウム合金中に均一に析出させることとしており、その析出物が塑性変形に伴う転位の動きを抑制し、材料強度を高めることができる。また、ピーク時効以上の加熱による時効処理を行うことにより、化合物の析出が粗くなり、アルミニウム合金の硬さや強さは最大値より低くなるが、導電性や曲げ加工性は向上するため、耐クリープ特性、耐応力緩和特性にも優れる通電部品用アルミニウム合金板とすることができる。
そして、時効処理工程のみを行うT6,T7調質の処理ではもちろん、冷間圧延工程と時効処理工程とを組み合わせたT8調質の処理を行う場合でも、各種要求特性を満足する通電部品用アルミニウム合金板を製造することができる。特に、板厚0.3mm程度の極めて薄い熱処理型合金板を作製する場合は、単位重量当たりの溶体化処理時間を短くする目的で、T8調質の処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の通電用アルミニウム合金板の効果を確認するために実験を行った。
表1に示すようにSi,Mg,Fe,Cuの各成分を調整したアルミニウム溶湯からアルミニウム合金鋳魂を半連続鋳造して作製した。なお、残部はAl及び各0.10質量%以下の不可避的不純物からなる。
そして、このアルミニウム合金鋳魂に500〜560℃で4〜10時間保持する均質化処理を行い、一旦冷却した後、500〜540℃に再加熱した後に熱間圧延で4mmの圧延板を作製した。次いで、0.3,0.8,1.5mmの板厚まで冷間圧延した圧延板を作製した。これらの板材に対して、100℃/sec以上で急昇温、520℃〜550℃の範囲で15sec以上保持し、100℃/sec以上で急冷却する溶体化処理を行った。
【0033】
そして、表1に示す調質をT6,T7とする試料に対しては、溶体化処理、焼き入れ処理後に、そのまま時効処理を施した。また、調質をT8とする試料に対しては、溶体化処理、焼き入れ処理後に、板厚に応じて10〜30%の圧下に相当する冷間圧延処理をし、その後、時効処理を施した。各試料の時効処理の条件は、表1に示すように、170℃以上270℃以下で2時間以上20時間以下の範囲内でそれぞれ実施した。
なお、T6調質は、溶体化処理、焼き入れ処理後に、人工時効硬化処理をしたことを示す。また、T7調質は、溶体化処理、焼き入れ処理後に長時間の時効処理(安定化処理)をしたことを示す。さらに、T8調質は、溶体化処理、焼き入れ処理後に冷間圧延加工を行い、その加工後に人工時効硬化処理をしたことを示す。
【0034】
このようにして作製した各試料を用いて、以下の引張試験、180°密着曲げ試験、導電率測定、クリープ特性試験、応力緩和特性試験を行った。
(引張試験)
JIS Z2241に準じて5号試験片を作製し、各試料の試験片について室温で引張試験を行った。引張強さが220MPa以上、0.2%耐力が200MPa以上、伸びが5%以上のものを合格とした。なお、引張強さが220MPa未満では、バスバー用途等に使用するとネジ止めの際に座屈することや、銅合金と比較して十分なバネ性を確保することができないことから、通電部品用アルミニウム合金板としては不適切である。また、伸びが5%以下では、塑性変形を伴う成形の際に、破断する等の問題が生じ、不適切である。
【0035】
(180°密着曲げ試験)
180°密着曲げ試験は、JIS Z2248準拠の方法で行い、側面を機械加工により仕上げた3号試験片を使用して、押曲げ法で曲げ角度160°程度まで曲げた後に、さらに両端を押曲げて180°の密着曲げとした。密着曲げ後の試料の湾曲部外側を10倍のルーペで目視確認して、割れが無かったものは「○」、一部割れがあったものの、板表面から割れの亀裂先端までの最大長さをLとして、板厚tに対する比率L/tが0.2以下であり、使用上問題の無いものは「△」、割れが多く比率L/tが0.2を超える使用不可であるものは「×」として評価した。
【0036】
(導電率測定)
導電率測定は、JIS C2525のダブルブリッジ法を用いて電気抵抗率を測定し、17.241nΩmを100%IACSとする換算式を用いて導電率を算出した。銅合金との材料置換を考えた場合の比重差を考慮して、40%IACS程度の導電率があれば十分であるが、それよりも高い基準の45%IACS以上の材料を合格とした。
【0037】
(クリープ特性試験)
クリープ特性試験は、JIS Z2271に準じて公称幅5mm、原標点距離25mmの長方形断面試験片を機械加工で作製し、160MPa(160MPaは、本発明で合格となる0.2%耐力の8割に相当)の初期応力を付加して150℃で500時間まで保持することにより行い、そのクリープ試験前後の形状変形量を測定した。クリープ試験後の形状変形率(ひずみ)が0.2%以下のものは「○」、0.2%を超えるものを「×」とした。
【0038】
(応力緩和特性試験)
応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準(JCBA)T309に準じて行い、上方たわみ式の片持ち変位負荷用ジグを使用し、160MPa(160MPaは、本発明で合格となる0.2%耐力の8割に相当)の初期応力を付加して150℃で500時間まで保持することにより行い、初期たわみ変位δ
0と応力除荷後に生じる永久たわみ変位δ
tから応力緩和率(δ
t/δ
0)×100(%)を求めた。そして、応力緩和率50%以上を「○」、50%未満を「×」として評価した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表2から明らかなように、本発明に係る実施例1〜22の試料においては、いずれも通電部品用の金属板としての特性を満足することができた。また、時効処理工程のみを行うT6,T7調質の処理ではもちろん、冷間圧延工程と時効処理工程とを組み合わせたT8調質の処理を行う場合でも、各種特性を満足することができた。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。