(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787957
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】ロケット用噴射器、ロケット用燃焼器及び液体燃料ロケット
(51)【国際特許分類】
F02K 9/52 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
F02K9/52
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-220184(P2013-220184)
(22)【出願日】2013年10月23日
(62)【分割の表示】特願2009-83365(P2009-83365)の分割
【原出願日】2009年3月30日
(65)【公開番号】特開2014-37838(P2014-37838A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2013年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】磯野 充典
(72)【発明者】
【氏名】小河原 彰
【審査官】
齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−115560(JP,A)
【文献】
特開2006−097639(JP,A)
【文献】
実開昭63−045015(JP,U)
【文献】
特開昭60−250934(JP,A)
【文献】
特開平11−280479(JP,A)
【文献】
特開平10−231754(JP,A)
【文献】
米国特許第5456065(US,A)
【文献】
米国特許第4621492(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 1/00−99/00
F02M 35/00−35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤マニホールドと燃料マニホールドとを区画する第1の隔壁に形成されて、当該第1の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に、絞り部を有する一端部が挿入され、前記燃料マニホールドと燃焼室とを区画する第2の隔壁に形成されて、当該第2の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に他端部が挿入されるとともに、燃料および酸化剤を混合して前記燃焼室内に噴射するロケット用噴射器であって、
その中心部に、長手方向に沿って前記酸化剤を流す流路が穿設され、前記一端部が前記第1の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に挿入され、前記他端部が前記第2の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に挿入された際に、前記燃料マニホールド内で、かつ、前記絞り部の下流側に位置する第1の隔壁の近傍に、肉厚方向に貫通する多数本の貫通孔と、その外周面から外側に向かって突出するとともに、前記流路および前記貫通孔の内部空間と連通する空間を形成するライナとが設けられ、
前記他端部は、
前記一端部から延びる内筒と、
前記内筒の外側を取り囲む外筒とを備え、
前記燃料マニホールドに供給された燃料は、前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に形成された隙間に導かれて前記燃焼室に噴射され、
前記多数本の貫通孔は、前記一端部のうちの前記絞り部と前記隙間との間に配置されていることを特徴とするロケット用噴射器。
【請求項2】
請求項1に記載のロケット用噴射器を具備していることを特徴とするロケット用燃焼器。
【請求項3】
請求項2に記載のロケット用燃焼器を具備していることを特徴とする液体燃料ロケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料(例えば、水素ガス)および酸化剤(例えば、液体酸素)を混合して燃焼室内に噴射するロケット用噴射器、ロケット用燃焼器及び液体燃料ロケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料および酸化剤を混合して燃焼室内に噴射するロケット用噴射器としては、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−66851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、燃焼室の内部では、圧力変動を伴う燃焼振動が発生するため、従来、その対策として、バッフル(Baffle)、レゾネータ(Resonator)、ライナ(Liner)等の減衰装置を燃焼室の内部に取り付け、燃焼室に減衰を付加していたが十分にその効果が認められない場合もあった。
また、燃焼振動による圧力変動が、ロケット用噴射器の中心部に長手方向に沿って穿設された流路を介して供給される酸化剤に伝播し、燃焼室内に噴射される酸化剤の流量および圧力が変動して、燃焼室内における燃焼振動がさらに助長されるといった問題点があった。
また、燃焼室内における燃焼振動が著しくなると、振動による亀裂等の損傷がロケット用燃焼器に発生してしまうといった問題点もあった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、燃焼振動による酸化剤の流量変動および圧力変動を低減させ、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動を低減させることができるロケット用噴射器、ロケット用燃焼器及び液体燃料ロケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係るロケット用噴射器は、酸化剤マニホールドと燃料マニホールドとを区画する第1の隔壁に形成されて、当該第1の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に、絞り部を有する一端部が挿入され、前記燃料マニホールドと燃焼室とを区画する第2の隔壁に形成されて、当該第2の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に他端部が挿入されるとともに、燃料および酸化剤を混合して前記燃焼室内に噴射するロケット用噴射器であって、その中心部に、長手方向に沿って前記酸化剤を流す流路が穿設され、前記一端部が前記第1の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内
に挿入され、前記他端部が前記第2の隔壁を板厚方向に貫通する貫通穴内に挿入された際に、前記燃料マニホールド内で、かつ、前記絞り部の下流側に位置する第1の隔壁の近傍に、肉厚方向に貫通する多数本の貫通孔と、その外周面から外側に向かって突出するとともに、前記流路および前記貫通孔の内部空間と連通する空間を形成するライナとが設けられている。
前記他端部は、前記一端部から延びる内筒と、前記内筒の外側を取り囲む外筒とを備えている。前記燃料マニホールドに供給された燃料は、前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に形成された隙間に導かれて前記燃焼室に噴射される。前記多数本の貫通孔は、前記一端部のうちの前記絞り部と前記隙間との間に配置されている。
【0007】
本発明に係るロケット用噴射器によれば、燃焼室の内部に発生した燃焼振動が流路を通過する酸化剤に伝播しても、その燃焼振動に合わせて流路を通過する酸化剤の一部が流路から貫通孔の内部空間に流入したり、貫通孔の内部空間に流入した酸化剤が貫通孔の内部空間から流路内に流出したりする。その際、貫通孔内を行き来する(流動する)酸化剤と、貫通孔の内周面との間に生じる抵抗により、酸化剤の流量変動および圧力変動が低減することになる。
これにより、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動を抑制することができる。
【0008】
本発明に係るロケット用燃焼器は、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動を抑制することができるロケット用噴射器を具備している。
【0009】
本発明に係るロケット用燃焼器によれば、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動の発生が抑制されることになるので、燃焼室の内部に発生する燃焼振動を低減させることができ、振動による亀裂等の損傷を防止することができる。
さらに、本発明に係るロケット用燃焼器によれば、振動による亀裂等の損傷が防止されることになるので、ロケット用燃焼器の信頼性を向上させることができる。
【0010】
本発明の参考例に係るロケット用燃焼器は、燃料および酸化剤を混合して燃焼室内に噴射するロケット用噴射器と、前記燃料が貯溜される燃料マニホールドと前記酸化剤が貯溜される酸化剤マニホールドとを区画するとともに、前記ロケット用噴射器の一端部が挿入される隔壁とを備えたロケット用燃焼器であって、前記ロケット用噴射器の中心部には、長手方向に沿って前記酸化剤を流す流路が穿設され、前記ロケット用噴射器の一端部には、肉厚方向に貫通する多数の貫通孔が設けられているとともに、前記隔壁には、前記ロケット用噴射器の一端部が挿入される貫通穴が設けられており、この貫通穴を形成する内周面には、前記流路および前記貫通孔の内部空間と連通する空間を形成する凹所が設けられている。
【0011】
本発明の参考例に係るロケット用燃焼器によれば、燃焼室の内部に発生した燃焼振動が流路を通過する酸化剤に伝播しても、その燃焼振動に合わせて流路を通過する酸化剤の一部が流路から貫通孔の内部空間に流入したり、貫通孔の内部空間に流入した酸化剤が貫通孔の内部空間から流路内に流出したりする。その際、貫通孔内を行き来する(流動する)酸化剤と、貫通孔の内周面との間に生じる抵抗により、酸化剤の流量変動および圧力変動が低減することになる。
これにより、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動の発生を抑制することができ、燃焼室の内部に発生する燃焼振動を低減させることができて、振動による亀裂等の損傷を防止することができる。
また、振動による亀裂等の損傷が防止されることになるので、ロケット用燃焼器の信頼性を向上させることができる。
【0012】
本発明に係る液体燃料ロケットは、燃焼室の内部に発生する燃焼振動を低減させることができ、振動による亀裂等の損傷を防止することができるロケット用燃焼器を具備している。
【0013】
本発明に係る液体燃料ロケットによれば、燃焼室の内部に発生する燃焼振動が低減されることになるので、振動による亀裂等の損傷を防止することができる。
また、本発明に係る液体燃料ロケットによれば、振動による亀裂等の損傷が防止されることになるので、液体燃料ロケットの信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るロケット用噴射器によれば、燃焼振動による酸化剤の流量変動および圧力変動を低減させ、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動を低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るロケット用噴射器を具備したロケット用燃焼器の概略構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るロケット用噴射器がロケット用燃焼室の噴射面規定位置に配置された概略構成図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るロケット用噴射器の断面図である。
【
図4】本発明の第1参考例に係るロケット用噴射器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態に係るロケット用噴射器について、
図1から
図3を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係るロケット用噴射器を具備したロケット用燃焼器の概略構成図、
図2は本実施形態に係るロケット用噴射器がロケット用燃焼室の噴射面規定位置に配置された概略構成図、
図3は本実施形態に係るロケット用噴射器の断面図である。
【0017】
図1または
図2に示すように、ロケット用燃焼器10は、多数本のロケット用噴射器20と、ロケット用噴射器20の下流側に配置された燃焼室(Combustion Chamber)40と、燃焼室40の下流側に配置されたノズル50とを備えている。
【0018】
ロケット用噴射器20は、燃料(例えば、水素ガス)および酸化剤(例えば、液体酸素)を混合して燃焼室40内に噴射するものである。
図2および
図3に示すように、ロケット用噴射器20の一端部(
図2および
図3において上側に位置する端部)は、酸化剤マニホールド11と燃料マニホールド12とを区画する(仕切る)第1の隔壁13に形成されて、第1の隔壁13を板厚方向に貫通する貫通穴13a内に挿入されている(取り付けられている)。一方、ロケット用噴射器20の他端部(
図2および
図3において下側に位置する端部)は、燃料マニホールド12と燃焼室40とを区画する(仕切る)第2の隔壁14に形成されて、第2の隔壁14を板厚方向に貫通する貫通穴14a内に挿入されている(取り付けられている)。
【0019】
図3に示すように、ロケット用噴射器20の他端部は、ロケット用噴射器20の一端部から延びる内筒21と、この内筒21の外側(半径方向外側)を囲繞する(取り囲む)ように形成された外筒22とを備えている。
外筒22の長手方向における中央部には、周方向に沿って肉厚方向(径方向)に貫通する貫通穴23が複数形成されており、燃料マニホールド12内に供給された燃料は、これら貫通穴23を介して内筒21の外周面と外筒22の内周面との間に形成された流路(隙間)24内に導かれた後、燃料出口25から燃焼室40に向かって噴射される。
【0020】
なお、貫通穴23の平面視形状は、円形状、楕円形状、矩形状、長穴形状等、いかなる形状であっても良い。
また、外筒22の一端面(
図3において上側に位置する端面)22aは、ロケット用噴射器20の長手方向における中央部において段部を形成する端面26と密接しており、外筒22の他端部外周面22bは、貫通穴14aを形成する内周面と密接している。
さらに、貫通穴14aを形成する内周面には、段部が形成されており、外筒22が単独で第2の隔壁14に取り付けられた場合でも、外筒22が燃料マニホールド12内に抜け落ちないようになっている。
【0021】
ロケット用噴射器20の中心部には、酸化剤マニホールド11内に供給された酸化剤を燃焼室40に導く流路27が、長手方向(
図3において上下方向)に沿って形成されており、流路27を通過した酸化剤は、噴射面60と同一の平面上に形成された酸化剤出口27aから燃焼室40に向かって噴射される。
【0022】
酸化剤出口27aから燃焼室40に向かって噴射された酸化剤と、燃料出口25から燃焼室40に向かって噴射された燃料とは、酸化剤出口27aおよび燃料出口25の下流で混合され、酸化剤と燃料との混合物が、燃焼室40内に噴出される。燃焼室40内に注入された酸化剤と燃料との混合物との混合物は、点火器ポート15に取り付けられた点火器(図示せず)により着火された後、燃焼室40の内部で燃焼される。燃焼室40の内部における燃焼で発生した燃焼ガスは、ノズル50により絞られて燃焼ガス排出方向へ排出されて推力が生じる。
なお、ロケット用噴射器20は、ロケットエンジンの推力にもよるが、通常数百本が燃焼室40の噴射面60の背面側(
図2において上側)に、ロケット用燃焼器10の推力方向の中心軸に対して概ね円周方向に均一になるように配設されている。
【0023】
図3に示すように、ロケット用噴射器20の一端部には、肉厚方向(径方向)に貫通する多数の貫通孔(振動減衰孔)28と、外周面から外側(半径方向外側)に向かって突出するとともに、これら貫通孔28の内部空間と連通する(共鳴)空間Sを形成(囲繞)するライナ(張出部)29とが設けられている。貫通孔28の内部空間およびライナ29の内部(すなわち、空間S)は酸化剤で満たされており、燃焼室40の内部で圧力変動を伴う燃焼振動が発生すると、その燃焼振動に合わせて流路27を通過する酸化剤の一部が流路27から貫通孔28の内部空間に流入したり、貫通孔28の内部空間に流入した酸化剤が貫通孔28の内部空間から流路27内に流出したりする。
【0024】
本実施形態に係るロケット用噴射器20によれば、燃焼室40の内部に発生した燃焼振動が流路27を通過する酸化剤に伝播しても、その燃焼振動に合わせて流路27を通過する酸化剤の一部が流路27から貫通孔28の内部空間に流入したり、貫通孔28の内部空間に流入した酸化剤が貫通孔28の内部空間から流路27内に流出したりする。その際、貫通孔28内を行き来する(流動する)酸化剤と、貫通孔28の内周面との間に生じる抵抗により、酸化剤の流量変動および圧力変動が低減することになる。
これにより、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動を抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態に係るロケット用燃焼器10によれば、酸化剤の流量変動および圧力変動による燃焼振動の発生が抑制されることになるので、燃焼室40の内部に発生する燃焼振動を低減させることができ、振動による亀裂等の損傷を防止することができる。
さらに、本実施形態に係るロケット用燃焼器10によれば、振動による亀裂等の損傷が防止されることになるので、ロケット用燃焼器10の信頼性を向上させることができる。
【0026】
また、本実施形態に係るロケット用燃焼器10を具備した液体燃料ロケットによれば、燃焼室40の内部に発生する燃焼振動が低減されることになるので、振動による亀裂等の損傷を防止することができる。
さらに、本実施形態に係るロケット用燃焼器10を具備した液体燃料ロケットによれば、振動による亀裂等の損傷が防止されることになるので、液体燃料ロケットの信頼性を向上させることができる。
【0027】
本発明の第1参考例に係るロケット用噴射器について、
図4を参照しながら説明する。
図4は本参考例に係るロケット用噴射器の断面図である。
図4に示すように、本参考例に係るロケット用噴射器35は、貫通穴13aを形成する内周面に、空間Sを形成する凹所36を周方向に沿って設け、ライナ29を取り除いてなくした(省略した)という点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0028】
本参考例に係るロケット用噴射器35によれば、ライナ29を省略して、部品点数を減少させることができるので、製造コストを低減させることができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0029】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 ロケット用燃焼器
11 酸化剤マニホールド
12 燃料マニホールド
13 第1の隔壁
13a 貫通穴
20 ロケット用噴射器
27 流路
28 貫通孔
29 ライナ
35 ロケット用噴射器
36 凹所
40 燃焼室
S 空間