(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
オフセット輪転印刷機などの印刷機では、版胴に装着する刷版を適宜交換しながら印刷を行なう。このため、こうした印刷機には、刷版を版胴の外周面に巻き付けてその両端部を固定するための版締め装置が装備されている。版締め装置は、一般に、版胴表面に軸方向に沿って形成された溝内に装備されたテンションバーを備え、このテンションバーにより刷版の後端を引っ張って刷版に張力を付与することで刷版を版胴に締め付け固定する。
【0003】
印刷機の稼働率を向上させるためや、新聞用オフセット輪転機の場合のように刷版の作成から印刷の完了までを速やかに行なえるようにするためには、刷版の交換作業を簡便に且つ速やかに行なえるようにすることが必要である。このため、専用の工具を用いずに版の取り付け(締め付け)及び取り外しを行なえるようにした印刷機の版締め装置が開発されている(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
図15,
図16は特許文献1に開示された版締め装置を示すもので、
図15は版胴の横断面の部分拡大図、
図16は版胴の端部の部分拡大図である。
図15,
図16に示すように、版胴1の円筒状の外周面に刷版2が巻き付けられる。版胴1の外周面には、軸方向に向かって延びる胴溝3が形成され、胴溝3の開口部の周方向の一縁及び他縁には、何れもエッジ部分が鋭角に尖った咥え部1a及び咥え尻部1bが形成される。
【0005】
版胴1の咥え部1aの内側(軸心寄り)に隣接して、軸方向に延びるスリット状の溝1cが形成され、刷版2の前端側に屈曲して形成された咥え側端部2aは、屈曲箇所を咥え部1aに当接され、屈曲箇所よりも先の部分を溝1cに内挿されて係止される。また、刷版2の後端側に屈曲して形成された咥え尻側端部2bは、屈曲箇所を咥え尻部1bに当接され、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5に係止される。
【0006】
テンションバー5は、胴溝3の内部に形成され軸方向に向かって延びる軸装着用穴部4内に回転可能に装備されている。テンションバー5の外周には、版押さえ爪5aが突出して形成され、この版押さえ爪5aにより刷版2の咥え尻側端部2bのカギ型部分が係止される。テンションバー5は、後述のバネ機構120によって、
図15中に矢印で示す所定の回転方向、つまり、版押さえ爪5aが咥え尻側端部2bを引っ張って版胴1の外周面に刷版2を締め付ける回転方向に付勢されている。
【0007】
図16(a),(b)に示すように、版締め装置110は、このような胴溝3,テンションバー5及びバネ機構120と、バネ機構120の弾性力によって咥え尻側端部2bに引張力を作用させ版胴1の外周面に刷版2を締め付ける版締め状態と、バネ機構120の弾性力を解除して咥え尻側端部2bを解放する解放状態とにテンションバー5の回転角度を切り替える切替機構130とを備える。切替機構130により、版締め装置110を版締め状態に設定すれば、テンションバー5が所定の回転方向に付勢され、テンションバー5の版押さえ爪5aが刷版2の咥え尻側端部2bを引っ張って刷版2を版胴1の外周面に締め付ける。一方、版締め装置110を解放状態に設定すれば、咥え尻側端部2bが版押さえ爪5aから離脱可能になって刷版2を版胴1から取り外すことが可能になる。
【0008】
つまり、版胴1の一端には外周を切り欠かれて取付面部6が形成され、この取付面部6に隣接するテンションバー5の一端には、テンションバー5と一体回転するレバー7が固設されている。バネ機構120は、このレバー7の一端と取付面部6との間に圧縮状態で介装されたコイルバネ121を備え、コイルバネ121の伸長方向に働く弾性力によってテンションバー5を所定の回転方向に付勢する。
【0009】
切替機構130は、テンションバー5のレバー7と、レバー7に固設されたアーム部材131と、取付面部6上に固設された支持部材6aに軸132により揺動可能に支持された操作レバー133とを備えている。操作レバー133は、先端部に操作用の取っ手部134を有し、中間部にアーム部材131が貫入する溝部135を有する。溝部135の軸132側の内壁には、操作レバー133の長手方向軸心に対して互いに異なる方向に傾斜した第一当接面136及び第二当接面137が設けられる。また、支持部材6aには、操作レバー133の揺動を規制するストッパ部138,139が設けられる。
【0010】
図16(a)に示すように、操作レバー133を倒すと、アーム部材131が第二当接面137に当接するようになり、軸132と第二当接面137との位置関係から、アーム部材131を介して加えられるバネ機構120の弾性力が、操作レバー133を所定の位置まで回転させる。操作レバー133はこの倒伏状態に保持され、これにより、版締め装置110は、バネ機構120の弾性力により咥え尻側端部2bに引張力を作用させる版締め状態とされる。
【0011】
操作レバー133をこの倒伏状態から、
図16(b)に示すように、バネ機構120の弾性力に抗して起立させると、アーム部材131が操作レバー133の第一当接面136に当接するようになり、軸132と第一当接面136との位置関係から、アーム部材131を介して加えられるバネ機構120の弾性力が、操作レバー133を所定の位置まで回転させる。操作レバー133はこの起立状態に保持され、これにより、版締め装置110は、バネ機構120の弾性力が解除されて咥え尻側端部2bが版押さえ爪5aから離脱可能な解放状態とされる。
【0012】
このような操作レバー133の操作は、作業者が取っ手部134を掴んで手動で行なうことができ、操作レバー133を操作して、版締め装置110を版締め状態及び解放状態に適宜切り替えることにより、専用の工具を用いることなく、版胴への刷版の取り付け(版締め)及び取り外しを行なえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、版締め装置による締め付け力(クランプ力)が不足すると、刷版の咥え側端部や咥え尻側端部の近傍が版胴の外周面から浮き上がり、この浮き上がった部分が印刷により繰り返し押さえられることにより、咥え側端部や咥え尻側端部の曲げ部分から亀裂が入って印刷上の不具合を招くことがある。このため、版締め装置による締め付け力を十分に確保することが必要である。
【0015】
しかし、印刷運転により刷版は徐々に伸びたり変形したりしていくので、これに起因して版締め装置による締め付け力が低下することがある。特に、版胴の周長が印刷物の1頁の縦の長さに設定された単胴は、版胴の周長が2倍の倍胴に比べて版胴の外径が小さいことから変形量が増える上に、刷版に加わる印刷負荷(印圧)も2倍になるので刷版は変形し易い。また、近年、技術開発により印刷速度が一層高められているが、印刷速度を高めればやはり刷版に加わる遠心力も増大するため刷版はさらに変形し易くなる。
【0016】
この課題を解決するには、テンションバーを所定の回転方向に付勢する版締め装置の付勢力(バネ機構の弾性力)を強めればよいが、この付勢力(弾性力)を強めると、作業者が手動操作で版締め装置を切り替え操作するのが困難になる。例えば特許文献1の技術の場合、
図16(a)に示す版締め状態から
図16(b)に示す解放状態に切り替え操作するには、操作レバー133を倒伏状態からバネ機構120の弾性力に抗して起立させることが必要であり、バネ機構120の弾性力を高めればその分だけ操作レバー133を起立させる操作者の負担(必要操作力)が増加するため、工具を用いない、即ち、工具レスでの切替操作が困難になる。
【0017】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、版締め装置による刷版を版胴に締め付ける締め付け力を高めながらも、版締め装置の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようにした、印刷機の版締め装置及びこれを備えたオフセット輪転印刷機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)本発明の印刷機の版締め装置は、裏面側に屈曲形成された咥え側端部及び咥え尻側端部を有する刷版を版胴に巻き付け固定する印刷機の版締め装置であって、前記版胴の外周に軸方向に向けて形成され前記刷版の前記咥え側端部及び前記咥え尻側端部が挿入される取付け溝と、前記取付け溝内に回転可能に装備され、前記咥え尻側端部を係止する係止爪を有するテンションバーと、前記係止爪に前記咥え尻側端部を係止された前記刷版が前記版胴に巻き締めされる版締め方向に向けて、前記テンションバーに付勢力を与えるバネ機構と、前記テンションバーを、前記刷版を前記版胴に巻き締めする版締め状態と、前記係止爪が前記咥え尻側端部から外れる解放状態とに切り替える切替機構とを備え、
前記切替機構は、前記テンションバーを前記版締め状態とする版締め位置と前記テンションバーを前記解放状態とする解放位置との間で版締め方向及び解放方向に揺動する操作レバーと、前記テンションバーに固定され、前記操作レバーの中間部に位置する溝部に嵌入し、且つ、前記操作レバーに当接して前記バネ機構の付勢力を前記操作レバーに伝達するアーム部材と、を備え、前記操作レバー
を前記版締め位置から前記解放位置へ
揺動させる操作が、前記バネ機構の付勢力に抗して前記操作レバーを揺動させる操作を含む2つの操作により段階的に
行われるように構成されている。
【0019】
(2)前記操作レバーを前記版締め位置から前記解放位置へ操作する際に、前記操作レバーを前記版締め位置と前記解放位置との間の中間位置に保持する保持構造を有することが好ましい。
(3)前記操作レバーは、前記操作レバーを前記解放方向へ操作すると前記アーム部材と当接して前記解放方向へ向けて前記付勢力を加えられる第一当接面と、前記操作レバーを前記版締め方向へ操作すると前記アーム部材と当接して前記版締め方向へ向けて前記付勢力を加えられる第二当接面と、を備えていることが好ましい。
【0020】
(
4)前記バネ機構は、前記テンションバーと前記版胴との間に介装された主バネと、前記テンションバーに、前記操作レバーに前記主バネによる前記付勢力を伝達する前記
アーム部材として固設されて、前記操作レバーが前記版締め位置にあると弾性変形して前記主バネの付勢力をアシストする板バネと、前記操作レバーを前記版締め位置に保持するロック機構と、を備え、前記ロック機構をロック解除操作するロック解除操作部を、前記操作レバーを旋回操作する旋回操作部の近傍に隣接して配置されることが好ましい。
【0021】
(5)前記ロック機構は、前記版胴に設けられた係合面と、前記操作レバーに設けられ
たロック爪とを有し、前記ロック爪が前記係合面と係合することにより前記操作レバーを前記版締め位置に保持するように構成され、前記操作レバーは、前記版胴に固設された支持軸が貫入する長穴を備え、前記支持軸が前記長穴内の一端側に位置した状態で揺動し、前記操作レバーを前記版締め位置に応じた揺動角度として、前記支持軸が前記長穴内の他端側に位置するように前記操作レバーをスライドさせることで、前記ロック爪が前記係合面と係合するように、前記ロック爪及び前記係合面が配置されていることが好ましい。
【0022】
この場合、前記操作レバーの自由端側に、前記操作レバーの揺動操作とスライド操作とを行なうための取っ手部が装備されていることが好ましい。
【0023】
(6)また、前記ロック機構は、前記版胴に設けられたロック部材を有し、前記ロック部材は、前記弾性変形をした前記板バネに係合可能な
係合面を有し、前記
係合面を前記板バネに係合した状態と前記板バネから離脱した状態との間で可動に構成されると共に、前記
係合面を移動操作し前記ロック解除操作部としての機能を有する
係合面操作部を有することも好ましい。
【0024】
この場合、前記操作レバーの自由端側に、前記操作レバーの揺動操作を行なうための取っ手部が装備され、前記ロック爪操作部は、前記版締め位置にあるときの前記操作レバーの前記取っ手部に隣接して配置されていることが好ましい。
【0025】
(
7)前記板バネは、複数の板バネ材が重合して構成されていることが好ましい。
【0026】
(8)また、前記操作レバーは、それぞれ前記版締め位置に応じた第1揺動角度と前記解放位置に応じた第2揺動角度との間で揺動可能な第1操作レバーと第2操作レバーとを有し、前記操作レバーが前記版締め位置となるのは、前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーが何れも前記第1揺動角度にある場合であり、前記操作レバーが前記解放位置となるのは、前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーが何れも前記第2揺動角度にある場合であり、前記第1操作レバー
を前記第2揺動角度
へ揺動させることにともなって、前記テンションバー
が前記版締め状態と前記解放状態との中間の状態
へと操作
されて、前記第1操作レバーが前記アーム部材によってこの状態に保持され、 前記第2操作レバー
を前記第2揺動角度
へ揺動させることにともなって、前記テンションバー
が前記解放状態
へと操作
されて、前記第2操作レバーが前記アーム部材によってこの状態に保持されることも好ましい。
【0027】
(9)前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーは互いに隣接して並列に設置されていることが好ましい。
【0028】
前記テンションバーの端部には、レバー部材が固設され、前記版胴の端部には、前記レバー部材と対向する取付面部が切欠き形成され、前記レバー部材の一端部と前記取付面部との間に、前記バネ機構を構成するバネ部材が介装され、前記レバー部材
に、前
記アーム部材が固設され、前記操作レバーに、前記操作レバーが前記版締め位置にあると前記アーム部材が当接し前記アーム部材から前記版締め方向へ前記付勢力を受ける
前記第一当接面と、前記操作レバーが前記解放位置にあると前記アーム部材が当接し前記アーム部材から前記解放方向へ前記付勢力を受ける
前記第二当接面と、を備えることが好ましい。
【0029】
(
10)前記版胴は、周方向に1枚の刷版を装着可能な単胴であることも好ましい。
【0030】
(
11)本発明のオフセット輪転印刷機は、上記の記載の印刷機の版締め装置を備えて構成される。また、このオフセット輪転印刷機は、新聞用オフセット輪転機であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の印刷機の版締め装置によれば、操作レバー
を版締め位置から解放位置へ
揺動させる操作が、前記バネ機構の付勢力に抗して前記操作レバーを揺動させる操作を含む2つの操作(ツーアクション)により段階的に
行われるように構成されているので、版締め装置による刷版を版胴に締め付ける締め付け力を高めながらも、版締め装置の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
ここでは、印刷機の版締め装置にかかる第1〜第3の3つの実施形態を説明する。
なお、以下に示す各実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0034】
各実施形態にかかる印刷機は、例えば新聞用オフセット輪転機のような、版胴に装着する刷版を適宜交換しながら印刷を行なうオフセット輪転印刷機である。また、版胴には、有効周長が印刷物の1頁の縦の長さに設定された、いわゆる1頁周長の単胴と、有効周長が印刷物の2頁の縦の長さに設定された、いわゆる2頁周長の倍胴とがあり、本発明の印刷機の版締め装置は何れの版胴にも適用できるが、各実施形態では、版胴が単胴であるものとして説明する。
【0035】
〔第1実施形態〕
まず、第1実施形態を説明する。
(版胴の構成)
本実施形態にかかる版胴1は、
図2に示すように、回転可能な円筒状の外周面を有しており、この外周面上には軸方向に向かって延びる胴溝3が形成されている。なお、版胴1は、1頁周長の単胴であり、胴溝3は、軸方向の各刷版装着エリアにおいて周方向には1本ずつ形成されている。版胴1が2頁周長の倍胴の場合は、胴溝3は、軸方向の各刷版装着エリアにおいて周方向に位相をずらして2本形成される。ここでは、版胴1は、軸方向に所定の幅Wの刷版2(
図2参照)を取付け可能な4つの刷版装着エリア1A,1B,1C,1Dを有している。なお、各刷版装着エリア1A〜1Dの胴溝3が周方向の位相をずらした位置に形成される場合もある。
【0036】
(版締め装置の構成)
したがって、胴溝3内には、各刷版装着エリア1A,1B,1C,1D毎に、
図4に示すように、個別に回転可能なテンションバー5A,5B,5C,5D(個々に区別しない場合は符号5で示す)がそれぞれ装備される。そして、各テンションバー5A,5B,5C,5Dをそれぞれ個別に操作するために、
図3に示すように、各テンションバー5毎に版締め装置10A,10B,10C,10D(個々に区別しない場合は符号10で示す)が備えられる。
【0037】
詳細は図示しないが、軸方向端部寄りの刷版装着エリア1A,1Dに装備されるテンションバー5A,5Dは中空軸で構成され、軸方向中央寄りの刷版装着エリア1B,1Cのテンションバー5B,5Cの軸方向端部寄りには、テンションバー5A,5Dの中空内部を貫通して、テンションバー5A,5Dの外端部よりも外方へ突出している。
【0038】
このため、テンションバー5Aの版締め装置10Aは、刷版装着エリア1Aの軸端側に隣接して設けられ、テンションバー5Bの版締め装置10Bは、版締め装置10Aの外方に隣接して設けられる。また、テンションバー5Dの版締め装置10Dは、刷版装着エリア1Dの軸端側に隣接して設けられ、テンションバー5Cの版締め装置10Cは、版締め装置10Dの外方に隣接して設けられる。
【0039】
図4に示すように、背景技術のものと同様に、胴溝3の開口部の周方向の一縁及び他縁には、何れもエッジ部分が鋭角に尖った咥え部1a及び咥え尻部1bが軸方向に沿って延びるように形成される。版胴1の咥え部1aの内側(軸心寄り)には、これに隣接して軸方向に延びる係止面1cが形成され、刷版2の前端側に屈曲して形成された咥え側端部2aは、屈曲箇所を咥え部1aに当接され、屈屈曲箇所よりも先の部分を係止面1cに係止される。また、刷版2の後端側に屈曲して形成された咥え尻側端部2bは、屈曲箇所を咥え尻部1bに当接され、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5に係止される。なお、係止面1cについては、刷版2の咥え側端部2aを係止できる構造であればよく、本構造には限定されない。
【0040】
各テンションバー5は、胴溝3の内部に形成され軸方向に向かって延びる軸装着用穴部4内に回転可能に装備されている。テンションバー5の外周には、版押さえ爪(係止爪)5aが突出するように固設され、この版押さえ爪5aにより刷版2の咥え尻側端部2bのカギ型部分が係止される。テンションバー5は、後述のバネ機構20によって、
図4中に矢印で示す所定の回転方向、つまり、版押さえ爪5aが咥え尻側端部2bを引っ張って版胴1の外周面に刷版2を締め付ける回転方向に付勢されている。
【0041】
以下、版締め装置10について説明するが、版締め装置10A,10Bは互いに左右対称に構成され、版締め装置10D,10Cは版締め装置10A,10Bに対して左右対称に構成され、各版締め装置10A〜10Dは実質的に同様に構成されるので、
図3において最も左寄りの版締め装置10Bに着目して説明する。
【0042】
図1に示すように、版締め装置10は、背景技術のものと同様に、胴溝3,テンションバー5及びバネ機構20と、バネ機構20の弾性力によって咥え尻側端部2bに引張力を作用させ版胴1の外周面に刷版2を締め付ける版締め状態と、バネ機構20の弾性力を解除して咥え尻側端部2bを解放する解放状態とに切り替える切替機構30とを備える。
【0043】
切替機構30により、版締め装置10を版締め状態に設定すれば、テンションバー5が所定の回転方向に付勢され、テンションバー5の版押さえ爪5aが刷版2の咥え尻側端部2bを引っ張って刷版2を版胴1の外周面に締め付ける。一方、版締め装置10を解放状態に設定すれば、咥え尻側端部2bが版押さえ爪5aから離脱可能になって刷版2を版胴1から取り外すことが可能になる。
【0044】
版胴1の一端には外周を切り欠かれて取付面部6が形成され、この取付面部6に隣接するテンションバー5の一端には、テンションバー5と一体回転するレバー7が固設されている。取付面部6にはバネ支持部材22が固設され、レバー7の一端にもバネ支持部材23が装備される。バネ機構20は、このレバー7の一端のバネ支持部材23と取付面部6のバネ支持部材22との間に圧縮状態で介装されたコイルバネ(主バネ)21を備えている。
【0045】
レバー7のバネ支持部材23にはガイド軸21aが枢着されており、取付面部6のバネ支持部材22にはガイド穴22aが穿設されており、ガイド軸21aはその下部をガイド穴22a挿入されて備えられる。コイルバネ21は、ガイド軸21aの外周に装備され、テンションバー5の回転に伴ってガイド穴22a内を進退するガイド軸21aに沿って伸縮する。このコイルバネ21の伸長方向に働く弾性力によって、テンションバー5が
図4に矢印で示すように所定の回転方向(刷版2を版締めする方向)に付勢される。
【0046】
取付面部6上には、操作レバー33を支持する支持部材38が固設され、切替機構30は、テンションバー5のレバー7と、レバー7に固設されたアーム部材31と、支持部材38に支持軸32により揺動可能に支持された操作レバー33とを備えている。操作レバー33は、先端部に操作用の取っ手部34を有し、中間部にアーム部材31が貫入する溝部35を有する。溝部35の支持軸32側の内壁には、操作レバー33の長手方向軸心に対して互いに異なる方向に傾斜した第一当接面35a及び第二当接面35bが設けられる。さらに、溝部35の取っ手部34側の内壁には、第三当接面35cが設けられる。
【0047】
アーム部材31はレバー7と共にコイルバネ21によって所定の回転方向に付勢されているため、アーム部材31の一面(版締めする回転方向側の面)が第一当接面35a又は第二当接面35bに当接するとコイルバネ21による付勢力を第一当接面35a又は第二当接面35bに付与する。このときのアーム部材31の操作レバー33(即ち、第一当接面35a又は第二当接面35b)との接触点における接触面の方向(操作レバー33に付勢力を付与する方向)と、操作レバー33の回転中心(支持軸32の軸心)との位置関係から、操作レバー33が版締め側に傾斜してアーム部材31が第二当接面35bに当接すると、アーム部材31の作用力により操作レバー33に傾斜方向(刷版2を版締めする方向)への回転モーメントが発生する。一方、操作レバー33が版解放側へ起立してアーム部材31が第一当接面35aに当接すると、アーム部材31の作用力により操作レバー33に起立方向(刷版2を解放する方向)への回転モーメントが発生する。
【0048】
また、本実施形態の特徴的な点の一つであるが、操作レバー33は、支持軸32が貫入する長穴36を備えており、通常は、支持軸32が長穴36内の一端側に位置した状態で揺動する。操作レバー33は、
図1に示す倒伏状態においてテンションバー5を版締め状態とするが、操作レバー33をこの倒伏状態から矢印A1で示す方向(解放方向)に揺動させ起立させていくと、テンションバー5の版押さえ爪5aが刷版2の咥え尻側端部2bのカギ型部分から離脱させることが可能な解放状態となる。
【0049】
操作レバー33及び支持部材38には、ロック爪37a及び係合面37bからなるロック機構37が設けられる。つまり、操作レバー33の倒伏方向の側部にはロック爪37aが形成され、支持部材38にはロック爪37aが係合可能な係合面37bが形成されている。
図1に示すように、操作レバー33を、テンションバー5を版締め状態とする版締め位置に応じた揺動角度の倒伏状態にして、操作レバー33を、支持軸32が長穴36内の他端側に位置するようにスライドさせることにより、ロック爪37aが係合面37bと係合するように、ロック爪37a及び係合面37bが配置されている。
【0050】
なお、操作レバー33を旋回操作する際には、取っ手部34に力を加えて行なうので、取っ手部34は旋回操作部として機能する。また、ロック機構37の作動(ロック爪37aの係合面37bへの係合)及び解除(ロック爪37aの係合面37bからの離脱)にかかるスライド操作も、取っ手部34に力を加えて行なうので、取っ手部34はロック作動操作部及びロック解除操作部としても機能する。より狭義に規定すれば、取っ手部34の4面のうち旋回方向の2面は旋回操作部として機能し、支持軸32側の面はロック作動操作部として機能し、支持軸32側の面と反対側の面はロック解除操作部として機能する。
【0051】
また、本実施形態の特徴的な点の一つであるが、アーム部材31が板バネによって構成されている。この板バネの弾性力は、バネ機構20のコイルバネ21の弾性力をアシストするように作用し、本実施形態では、コイルバネ21と板バネ製のアーム部材31とからバネ機構20が構成されている。
【0052】
このように、バネ機構20をコイルバネ21と板バネ製のアーム部材31とから構成することにより、操作レバー33を版締め位置から解放位置へ操作する際に、アーム部材31の弾性力を解放してその復元力によって操作レバー33を版締め位置から解放位置の側(中間位置)に僅かに移動させる操作と、コイルバネ21の弾性力に抗して操作レバー33を中間位置から解放位置まで移動させる操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作するように構成されている。
【0053】
板バネ製のアーム部材31は、基端部をボルト31aの締結によりレバー7に固定され、先端部を操作レバー33の溝部35内に挿入されている。板バネ31は、先端部が溝部35の内壁(板バネ31の揺動方向の内壁)に当接すると弾性変形する。特に、操作レバー33が版締め位置の手前から
図1に矢印A2で示す方向(版締め方向)に揺動させていくと、溝部35の取っ手部34側の第三当接面35cが板バネ31を押圧し、
図1に二点鎖線で示す直線状態から実線で示す湾曲状態へと弾性変形する。
【0054】
操作レバー33によってアーム部材31をこのように弾性変形させた状態でスライドさせ、ロック爪37aを係合面37bと係合させることで、操作レバー33は版締め位置に固定される。この状態では、アーム部材31が弾性変形することにより、アーム部材31の基部が、コイルバネ21の付勢力をアシストするように働く。したがって、コイルバネ21自体の剛性を向上させなくても、板バネ製のアーム部材31の弾性変形による付勢力の分だけ、版締め装置10による刷版2の締め付け力(クランプ力)が増強する。
【0055】
特に、本実施形態の板バネ製のアーム部材31は、比較的薄く剛性の低い板バネ材を複数枚重合した構成になっている。これらの板バネ材で構成されるアーム部材31はボルト31aの締結によりレバー7に固定されるので着脱可能であり、板バネ材の枚数の増減により板バネ31の剛性をきめ細かく調整できる。このため、刷版2の締め付け力の増強要求に応じた枚数の板バネ材を用いることでアーム部材31の剛性を適正に設定することができる。また、アーム部材31が弾性変形する際には複数の板バネ材が互いにズレを伴いなが個々にら変形できるのでアーム部材31を適切に弾性変形させることができる。
【0056】
なお、操作レバー33を起立状態から
図1に示す倒伏状態へと旋回操作していくと、アーム部材31が操作レバー33の第二当接面35bに当接するようになり、軸32と第二当接面35bとの位置関係から、アーム部材31を介して加えられるバネ機構20の弾性力が、操作レバー33を倒伏側に旋回するように押圧する。この操作レバー33の旋回は操作レバー33が支持部材38のストッパ面38bに当接することで規制される。ただし、刷版2を版胴1に締め付けている場合には、版締め装置10による締め付け力に対する刷版2の反力が働くため、通常は、操作レバー33がストッパ面38bに当接する前に操作レバー33の旋回は停止する。
【0057】
ロック機構37により操作レバー33が版締め位置に固定された状態で、ロック機構37を解除すると、アーム部材(板バネ)31の復元力によって操作レバー33は版締め位置からやや解放位置側に戻って、この旋回角度状態に保持される。つまり、操作レバー33を版締め位置から解放位置へ操作する際には、操作レバー33から手を放しても、構造上の設定から、操作レバー33は、版締め位置から解放位置側に僅かに移動した位置(版締め位置と解放位置との間の中間位置)に保持される。
【0058】
このように、版締め装置10による締め付け力(バネ機構20の付勢力)とこれに対する刷版2の反力とがバランスするテンションバー5及びレバー7の回転角度において、ロック機構37を解除され自然の状態になった時のアーム部材(板バネ)31の位置が、操作レバー33を中間位置に保持するように配置されており、かかる配置構成が、操作レバー33を中間位置に保持する保持構造となっている。
【0059】
また、ロック機構37を解除した後、操作レバー33を
図1に示す倒伏状態から起立状態へと旋回操作していくと、アーム部材31が操作レバー33の第一当接面35aに当接するようになり、軸32と第一当接面35aとの位置関係から、アーム部材31を介して加えられるバネ機構20の弾性力が、操作レバー33を起立側に旋回するように押圧する。この操作レバー33の旋回は操作レバー33がレバー7のストッパ面39に当接することで規制される。
【0060】
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態の版締め装置は、上述のように構成されるので、
図5(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の装着及び締め付け操作を行なうことができ、
図6(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の締め付け解除及び解放操作を行なうことができる。
【0061】
まず、刷版2の装着及び締め付け操作を説明すると、
図5(a)に示すように、操作レバー33を起立状態とする。この状態では、アーム部材31が操作レバー33の第一当接面35aに当接し、支持軸32と第一当接面35aとの位置関係から、アーム部材31を介して加えられるバネ機構20の弾性力が、操作レバー33を起立側に旋回するように押圧するため、操作レバー33は起立状態に保持される。この状態で、刷版2の咥え側端部2aの屈曲箇所を咥え部1aに当接させ、屈曲箇所よりも先の部分を係止面1cに係止させる。また、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所を咥え尻部1bに当接させ、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5の版押さえ爪5aに係止可能な位置に配置する。
【0062】
そして、
図5(b)に示すように、操作レバー33を倒伏させていくと、操作レバー33の第三当接面35cを通じてアーム部材31が揺動し、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所よりも先のカギ型部分がテンションバー5の版押さえ爪5aに係止される。
図5(c)に示すように、さらに、操作レバー33を倒伏させていくと、版押さえ爪5aから咥え尻側端部2bに引張力が加えられ、刷版2が版胴1に締め付けられ始める。
【0063】
なお、
図5(b)に示すように、アーム部材31が操作レバー33の第一当接面35aから離脱すると、アーム部材31を介して加えられるバネ機構20の弾性力は、操作レバー33を倒伏側に旋回するように作用するので、このときの操作レバー33の操作負担は僅かなものであり、操作レバー33の操作力を加えなくても、バネ機構20の弾性力により、
図5(c)に示す倒伏状態が達成される。
【0064】
そして、操作レバー33を
図5(d)に示す状態までさらに倒伏側に旋回操作してアーム部材31を弾性変形させる。この旋回操作は、アーム部材31を弾性変形させるだけの操作力が必要になるが、アーム部材31の弾性力は、コイルバネ21の弾性量をアシストするものであり、過剰に設定する必要はないので、アーム部材31の弾性力を操作負担が大きくならないように設定することができ、操作性を確保することができる。
【0065】
このようにして、操作レバー33は、テンションバー5を版締め状態とする版締め位置に応じた揺動角度の倒伏状態となる。この後、操作レバー33を、支持軸32が長穴36内の他端側に位置するようにスライドさせることにより、ロック爪37aが係合面37bと係合して、操作レバー33が版締め位置に保持される。
【0066】
次に、刷版2の締め付け解除及び解放操作を説明すると、
図6(a)に示すように、版締め位置にある操作レバー33を、支持軸32が長穴36内の一端側に位置するようにスライドさせることにより、ロック爪37aが係合面37bから離脱して、
図6(b)に示すように、弾性変形していたアーム部材31が復元しながら、操作レバー33を微小量だけ起立側に旋回させる。
【0067】
そして、操作レバー33を、
図6(c)に示すように起立側に旋回操作して、
図6(d)に示すように起立状態とする。この起立状態では、アーム部材31が操作レバー33の第一当接面35aに当接するので、軸32と第一当接面35aとの位置関係から、アーム部材31を介して加えられるバネ機構20の弾性力が、操作レバー33を起立側に保持する付勢力として機能する。これにより、操作レバー33は起立状態に保持される。
【0068】
このように、本版締め装置10は、バネ機構20をコイルバネ(主バネ)21と板バネ製のアーム部材31とから構成しているので、板バネ製のアーム部材31の弾性力のアシストによって、コイルバネ21の剛性を上げることなく版締め装置10による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めることができる。
【0069】
しかも、操作レバー33の版締め位置から解放位置への解除操作にあたっては、
図6(a)〜
図6(b)に示すように、版締め位置にある操作レバー33を支持軸32が長穴36内の他端側から一端側に移動するようにスライドさせる操作と、
図6(b)〜
図6(d)に示すように、操作レバー33を起立させる操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する構造(操作負担軽減構造)を有することにより、作業者の操作負担が軽減される。
【0070】
つまり、締め付け力(クランプ力)を上昇させた板バネ製のアーム部材31の弾性力は、スライド操作の抵抗にはなるものの操作負担は僅かであり、操作レバー33を起立させる操作はコイルバネ21に抗して行なうので操作負担となるものの、コイルバネ21自体は過剰な操作負担にならない程度に抑えられるので、作業者の操作負担が軽減される。
【0071】
したがって、版締め装置10による刷版2の締め付け力を高めながらも、版締め装置10の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。
【0072】
また、締め付け力の向上について操作レバー33を解放位置から版締め位置へ版締め操作する場合を例にさらに説明すると、本版締め装置10では、操作レバー33を版締め位置に操作する際に、まず第1アクションで、
図5(a)に示す解放位置から、テンションバー5が版尻を保持する
図5(c)に示す位置(中間位置)まで操作する。続く第2アクションで、操作レバー33を
図5(c)に示す中間位置から
図5(d)に示す版締め位置までスライド操作する。これにより加わる板バネ製のアーム部材31の弾性力の分だけ、刷版2の締め付け力(クランプ力)が高められる。
【0073】
操作レバー33が中間位置にある状態では、前述のように、版締め装置10による締め付け力(バネ機構20のコイルバネ21による付勢力)とこれに対する刷版2の反力とがバランスする状態となり、刷版2に伸び等の変形があればこの分だけテンションバー5が版締め方向に回転した状態でバランスする。しかし、刷版2の伸び等の変形が大きくなると、コイルバネ21の付勢力が十分に発揮されなくなり、版締め装置10による締め付け力が低下するが、板バネ製のアーム部材31の弾性力が加わる分だけ、刷版2の締め付け力が高められるので、刷版2の締め付け力の不足が回避される。
【0074】
しかも、本版締め装置10では、板バネの板厚や枚数を増やすことで任意の(最適な)締め付け力を付与できるので、継時的な刷版2の伸び等の変形に長期にわたって対応することが可能になる。また、刷版2やその他の構成部品の形状精度に起因した版締め力の低下や、使用状態の違い(版胴1とテンションバー5との間へのインキミストや溶剤、紙粉などの異物混入等の有無)による版締め力の低下や、再利用の刷版2を装着する場合の版締め力の低下に対しても、適正な締付け力となるように調整することが可能となる。
【0075】
また、操作レバー33をスライド操作し旋回操作することによりテンションバー5を版締め状態の回転角度から開放状態の回転角度へと操作することができ、操作レバー33を旋回操作しスライド操作することによりテンションバー5を開放状態の回転角度から版締め状態の回転角度へと操作することができ、1つの操作レバー33のみを操作するだけで切替操作を実施することができる。また、1つの操作レバー33のみを操作するため、例えば、スライド操作と旋回操作とを連動させることで、ツーアクションでありながら速やかに操作することができ、操作性の面でも優れている。
【0076】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態を説明する。
本実施形態も、版胴の構成は第1実施形態と同様であり、また、本実施形態の版締め装置40は、操作レバー43等の切替機構30Bの一部及びロック機構の構成が第1実施形態と異なるが、他の部分は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、
図8に版胴1の一端部を示すように、本実施形態も、版締め装置40が各テンションバー5毎に備えられる。各版締め装置40A〜40D(ただし、版締め装置40C,40Dは図示略)は、実質的に同様に構成されるので、
図8において最も左寄りの版締め装置40Bに着目して説明する。
【0077】
(版締め装置の構成)
図7,
図8は本実施形態の版締め装置40を示すもので、
図7,
図8において
図1と同符号は同様のものを示し、その説明を省略する。
図7,
図8に示すように、この版締め装置40では、ロック爪37a及び係合面37bに替えて、ロック機構としての板バネ製のロック部材47を有している。また、操作レバー43は第1実施形態の長穴36ではなく丸穴(図示略)が設けられ、丸穴内に支持軸32が貫入し、操作レバー43はスライドすることなくシンプルに揺動する。なお、第1実施形態と同様に、操作レバー43は、取っ手部44,アーム部材41が貫入する溝部45,第一当接面45a,第二当接面45b,第三当接面45cが備えられる。
【0078】
なお、操作レバー43の取っ手部44,溝部45,第一当接面45a,第二当接面45b,第三当接面45cについて、第1実施形態のものと符号を変えて記載しているが、操作レバー43は、支持軸32が貫入する丸穴(図示略)のみが相違し、これらの各部44,45,45a,45b,45cは、第1実施形態のものと全く同様に構成され同様に機能する。
【0079】
板バネ製のロック部材47は、基端部を支持部材38に係止され、先端部を版締め状態近傍のアーム部材41に対して離接する方向に弾性変形し、その先端部には、アーム部材41に係合する係合面47aがアーム部材41の側に突出するように屈曲形成され、係合面47aよりもさらに先端側には、先端がアーム部材41から離隔するように傾斜したガイド面47bが形成されている。なお、ロック部材47は、ガイド面47bは、版締め位置にある時の操作レバー43の取っ手44に隣接するように配置され、ロック部材47のロックを解除操作する際には、このガイド面47bを押圧操作する。
【0080】
操作レバー43と共にアーム部材41が版締め状態に旋回しようとすると、アーム部材41がガイド面47bに当接し、ロック部材47を排除するように移動させながら版締め状態に達する。版締め状態では、アーム部材41がガイド面47bを乗り越えて係合面47aと係合し、ロック状態が達成される。逆に、ロック状態を解除するには、ロック部材47の先端部がアーム部材41から離隔する方向にガイド面47bを押圧操作してロック部材47を弾性変形させて、アーム部材41を係合面47aから離脱させればよい。
【0081】
また、本実施形態では、アーム部材41は一枚の板バネで形成され、板バネ製のアーム部材41に沿って変形規制部材42が装備されている。もちろん、アーム部材41を第1実施形態と同様に複数の板バネ材を重合して構成してもよい。変形規制部材42は板バネ製のアーム部材41よりも十分に剛性が高い板状であり、アーム部材41の版締め側への弾性変形は許容するが、これと逆側への弾性変形は許容しないようになっている。
【0082】
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態の版締め装置は、上述のように構成されるので、
図9(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の装着及び締め付け操作を行なうことができ、
図10(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の締め付け解除及び解放操作を行なうことができる。
【0083】
まず、刷版2の装着及び締め付け操作を説明すると、
図9(a)に示すように、操作レバー43を起立状態とする。この状態では、アーム部材41が操作レバー43の第一当接面45aに当接し、軸32と第一当接面45aとの位置関係から、アーム部材41を介して加えられるバネ機構20の弾性力が、操作レバー43を起立側に旋回するように押圧するため、操作レバー43は起立状態に保持される。この状態で、刷版2の咥え側端部2aの屈曲箇所を咥え部1aに当接させ、屈曲箇所よりも先の部分を係止面1cに係止させる。また、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所を咥え尻部1bに当接させ、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5の版押さえ爪5aに係止可能な位置に配置する。
【0084】
そして、
図9(b)に示すように、操作レバー43を倒伏させていくと、操作レバー43の第三当接面45cを通じてアーム部材41が揺動し、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所よりも先のカギ型部分がテンションバー5の版押さえ爪5aに係止される。
図9(c)に示すように、さらに、操作レバー43を倒伏させていくと、版押さえ爪5aから咥え尻側端部2bに引き張り力が加えられ、刷版2が版胴1に締め付けられ始める。
【0085】
なお、
図9(b)に示すように、アーム部材41が操作レバー43の第一当接面45aから離脱すると、アーム部材41を介して加えられるバネ機構20の弾性力は、操作レバー43を倒伏側に旋回させる付勢力として作用するので、このときの操作レバー43の操作負担は僅かなものであり、操作レバー43の操作力を加えなくても、バネ機構20の弾性力により、
図9(c)に示す倒伏状態が達成される。
【0086】
そして、操作レバー43を
図9(d)に示す状態までさらに倒伏側に旋回操作してアーム部材41を弾性変形させる。この旋回操作は、アーム部材41を弾性変形させるだけの操作力が必要になるが、アーム部材41の弾性力は、コイルバネ21の弾性量をアシストするものであり、過剰に設定する必要はないので、アーム部材41の弾性力を操作負担が大きくならないように設定すれば、操作性を確保することができる。
【0087】
このようにして、操作レバー43は、テンションバー5を版締め状態とする版締め位置の倒伏状態となるが、この途上で、アーム部材41がロック部材47の係合面47bを乗り越えて係合面47aと係合し、ロック状態が達成される。これにより、操作レバー43が版締め位置に保持される。
【0088】
次に、刷版2の締め付け解除及び解放操作を説明すると、
図10(a)に示すように、ロック部材47のロック状態から、
図10(b)に示すように、ロック部材47の先端部がアーム部材41から離隔する方向にガイド面47bを通じてロック部材47を弾性変形させて、アーム部材41を係合面47aから離脱させてロック状態を解除する。これにより、弾性変形していたアーム部材41が復元しながら、操作レバー43を微小量だけ起立側に旋回させる。
【0089】
そして、操作レバー43を、
図10(c)に示すように起立側に旋回操作して、
図10(d)に示すように起立状態とする。この起立状態では、アーム部材41が操作レバー43の第一当接面45aに当接するので、軸32と第一当接面45aとの位置関係から、アーム部材41を介して加えられるバネ機構20の弾性力が、操作レバー43を起立側に旋回するように押圧する。これにより、操作レバー43は起立状態に保持される。
【0090】
このように、本実施形態でも、第1実施形態と同様に、バネ機構20をコイルバネ(主バネ)21と板バネ製のアーム部材41とから構成しているので、板バネ製のアーム部材41の弾性力のアシストによってコイルバネ21の剛性を上げることなく版締め装置10による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めることができる。
【0091】
操作レバー43の版締め位置から解放位置への解除操作にあたっては、
図10(a)〜
図10(b)に示すように、アーム部材41を係合面47aから離脱させてロック状態を解除する操作と、
図10(b)〜
図10(d)に示すように、操作レバー43を起立させる操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する構造(操作負担軽減構造)により、作業者の操作負担が軽減される。
【0092】
つまり、締め付け力(クランプ力)を上昇させた板バネ製のアーム部材41の弾性力は、スライド操作の抵抗にはなるものの操作負担は僅かであり、操作レバー43を起立させる操作はコイルバネ21に抗して行なうので操作負担となるものの、コイルバネ21自体は過剰な操作負担にならない程度に抑えられるので、作業者の操作負担が軽減される。
【0093】
したがって、版締め装置10による刷版2の締め付け力を高めながらも、版締め装置10の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。
【0094】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態を説明する。
本実施形態も、版胴の構成は第1実施形態と同様であり、また、本実施形態の版締め装置50は、操作レバー53等の切替機構30Cの構成が第1実施形態と異なり、他の部分は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、
図12に版胴1の一端部を示すように、本実施形態も、版締め装置50が各テンションバー5毎に備えられる。各版締め装置50A〜50D(ただし、版締め装置50C,50Dは図示略)は、実質的に同様に構成されるので、
図12において最も左寄りの版締め装置50Bに着目して説明する。
【0095】
(版締め装置の構成)
図11,
図12は本実施形態の版締め装置50を示すもので、
図11,
図12において
図1と同符号は同様のものを示し、その説明を省略する。
図11,
図12に示すように、この版締め装置50では、アーム部材51は板バネでなく剛性の高い部材が適用されている。したがって、バネ機構20Cはコイルバネ21のみから構成される。
【0096】
切替機構30Cは、テンションバー5のレバー7と、レバー7に固設されたアーム部材51とを備え、操作レバー53として、取付面部6上に固設された支持部材38に軸52により揺動可能に支持された第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bの2つを備えている。第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bは互いに隣接して並列に設置されている。両操作レバー53A,53Bは、それぞれ版締め位置に応じた第1揺動角度と解放位置に応じた第2揺動角度との間で揺動可能となっている。
【0097】
各操作レバー53A,53Bは、いずれも先端部に操作用の取っ手部54A,54Bを有し、中間部にアーム部材51が貫入する溝部55A,55Bを有している。溝部55A,55Bの支持軸52側の内壁には、操作レバー53の長手方向軸心に対して互いに異なる方向に傾斜した第一当接面56A,56B及び第二当接面57A,57Bが設けられる。また、支持部材38には、操作レバー133の揺動を規制するストッパ部38C,39Cが設けられる。
【0098】
第一当接面56A,56B及び第二当接面57A,57Bについては第1実施形態の第一当接面35a及び第二当接面35bと形状は違うが同様に機能する。
そして、第1操作レバー53Aの第一当接面56A及び第二当接面57Aは低く(つまり、支持軸52に近い位置)に形成され、第2操作レバー53Bの第一当接面56B及び第二当接面57Bは高く(つまり、支持軸52から遠い位置)に形成されている。
【0099】
したがって、第1操作レバー53Aを倒伏状態(版締め位置に応じた第1揺動角度)から起立させていくと、第二当接面57Aがアーム部材51を解放側に押圧してレバー7を旋回させてテンションバー5を回転させるが、第1操作レバー53Aの第二当接面57Aは低いので、第1操作レバー53Aを解放位置に応じた第2揺動角度まで起立させても、テンションバー5は版締め状態と解放状態との中間の状態までしか回転しない。かかる配置構成が、操作レバー53を版締め位置と解放位置との間の中間位置に保持する保持構造となっている。
【0100】
第1操作レバー53Aを第2揺動角度まで起立させると、アーム部材51が第1操作レバー53Aの第一当接面56Aに当接するようになり、支持軸52と第一当接面56Aとの位置関係から、アーム部材51を介して加えられるバネ機構20Cの弾性力が、第1操作レバー53Aをストッパ部39Cに当接させるように押圧する。第1操作レバー53Aはこの起立状態に保持される。
【0101】
この状態では、第2操作レバー53Bは倒伏状態(版締め位置に応じた第1揺動角度)であり、第2操作レバー53Bを倒伏状態から起立させていくと、第二当接面57Bがアーム部材51を解放側に押圧してレバー7を旋回させてテンションバー5を回転させる。第2操作レバー53Bの第二当接面57Bは高いので、第2操作レバー53Bを解放位置に応じた第2揺動角度まで起立させると、テンションバー5は解放状態まで回転する。
【0102】
その後、アーム部材51が第2操作レバー53Bの第一当接面56Bに当接するようになり、軸32と第一当接面56Bとの位置関係から、アーム部材51を介して加えられるバネ機構20Cの弾性力が、第2操作レバー53Bをストッパ部39Cに当接させるように押圧する。第2操作レバー53Bはこの起立状態に保持される。
【0103】
このように、本実施形態では、各操作レバー53A,53Bを何れもの第1揺動角度とする操作レバー53の版締め位置から、各操作レバー53A,53Bを何れもの第2揺動角度とする操作レバー53の解放位置への解除操作にあたっては、第1操作レバー53Aの旋回操作と、第2操作レバー53Bの旋回操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作するので、作業者の操作負担が軽減されるようになっている。
【0104】
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態の版締め装置は、上述のように構成されるので、
図13(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の締め付け解除及び解放操作を行なうことができる。
【0105】
図13(a)に示すように、まず、第1操作レバー53Aを倒伏状態から起立させていき、
図13(b)に示す起立状態とする。これにより、テンションバー5は版締め状態と解放状態との中間の状態まで回転する。
【0106】
次に、
図13(c)に示すように、第2操作レバー53bを倒伏状態から起立させていき、
図13(d)に示す起立状態とする。これにより、テンションバー5は中間状態から解放状態まで回転する。これにより、刷版2を版胴1から取り外すことが可能になる。
【0107】
このようにして、本実施形態では、テンションバー5を版締め状態から解放状態へと操作するにあたっては、第1操作レバー53Aの旋回操作と、第2操作レバー53Bの旋回操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する操作負担軽減構造により、作業者の操作負担が軽減されるので、コイルスプリング21の弾性力を強めて版締め装置10による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めても、かかる操作負担が過剰にならないようにすることができる。
【0108】
なお、本実施形態の版締め装置において、刷版2の装着及び締め付け操作を行なう場合には、上述の締め付け解除及び解放操作を行なう場合と逆の操作を行なえばよい。
つまり、
図13(d)に示すように、第1操作レバー53a及び第2操作レバー53bが何れも起立した状態から、
図13(c)及び
図13(b)に示すように、第2操作レバー53bを起立状態から倒伏状態へと操作し、次に、
図13(a)に示すように、第1操作レバー53aを起立状態から倒伏状態へと操作していく。
【0109】
第1操作レバー53a及び第2操作レバー53bが何れも倒伏した状態になると、アーム部材51は第1操作レバー53a及び第2操作レバー53bによる規制から解除され、版締め装置10による締め付け力(バネ機構20のコイルバネ21による付勢力)がとこれに対する刷版2の反力とがバランスする状態となる。コイルスプリング21の弾性力(バネ定数)を強めて版締め装置10による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めておくことにより、刷版2に伸び等の変形があっても刷版2の締め付け力を確保することができる。
【0110】
図14は、テンションバー5を版締め状態から開放状態へと操作レバーを旋回操作する際の、テンションバー5の回転角度と必要な操作力(コマ押上げ力)との関係を示す図である。コマ押上げ力とは第1操作レバー53A,第2操作レバー53Bを動かすための手に加わる力である。
図14において、実線は本実施形態のものを示し、破線は従来技術(
図16)のものを示す。もちろん、両者のバネ機構の弾性力(バネ定数)は等しく設定されている。
【0111】
図14に示すように、本実施形態の場合、版締め操作によるコマ押上げ量を2段階に分けることで、第1操作レバー53Aのコマ押上げ力と第2操作レバー53Bのコマ押上げ力は4〜6割程度に小さくなり、従来技術(
図16)のものに比べてコマ押上げ力が軽減されていることがわかる。
【0112】
つまり、
図13(a)に示すように、第1操作レバー53Aの第二当接面57Aは第2操作レバー53Bの第二当接面57bに比べて支持軸52(支点)に近く、コマ押上げ量が少なく、コイルバネ21の収縮変化量が少ない為、コマ押上げ力を小さくすることができる。また、
図13(c)に示すように、第2操作レバー53Bの第二当接面57Bは第1操作レバー53Aの第一当接面56Aよりも大きい半径を有しており、その分だけ第2操作レバー53Bがアーム部材51の回転中心、即ち、テンションバーの回転中心5より離れた位置で大きなレバー長でアーム部材51に力を加えて押上げ、しかも、押上げ量に対する第2操作レバー53Bの揺動角度が大きいので、コマを押上げるための必要操作力が抑えられて、コマを効率良く押上げることができる。
したがって、コイルスプリング21の弾性力を強めて版締め装置10による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めても、操作負担が過剰にならないようにすることができる。
【0113】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、第1実施形態のアーム部材31に第2実施形態の変形規制部材42を適用しても良い。
【0114】
また、第3実施形態の2つの操作レバー53A,53Bを有するものにおいて、各操作レバー53A,53Bに、第1,2実施形態の板バネ製のアーム部材31,41やロック機構を適用しても良い。
また、本発明の版締め装置は、新聞用オフセット輪転機に好適であるが、他のオフセット輪転印刷機など、刷版を版胴に締付固定する印刷機に広く適用しうるものである。
【課題】版締め装置による刷版を版胴に締め付ける締め付け力を高めながらも、版締め装置のと開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようにする。
【解決手段】テンションバー5を版締め状態から解放状態に切り替える切替機構30に、版締め位置と解放位置との間で版締め方向及び解放方向に揺動する操作レバー33と、操作レバー33に当接し、版締め位置にある操作レバー33には版締め方向へ、解放位置にある操作レバー33には解放方向へ、それぞれ付勢力を伝達する当接部材31と、を備え、操作レバー33を、バネ機構の付勢力に抗して版締め位置から解放位置へ操作する際に2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する。