(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングの少なくとも一部が骨結合剤を含有し、前記コーティングの同じおよび/または異なる部分が抗菌金属剤を含有し、前記抗菌金属剤が個々の粒子で構成され、抗菌金属剤が銀を含み、さらに、コーティングが骨結合剤に置換された銀をさらに含み、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、さらに、骨結合剤がカルシウム誘導体であるコーティング。
前記カルシウム誘導体が、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである、請求項1から13の何れか1項に記載のコーティング。
抗菌剤を含有する前記コーティングの少なくとも一部が、コーティング部の厚さ全体にわたって分布された薬剤を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載のコーティング。
骨結合剤が、下記の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および/または亜鉛の1種または複数で置換されている、請求項1から20のいずれか一項に記載のコーティング。
少なくとも1つの面が、請求項1から21のいずれか一項に記載のコーティングによって少なくとも部分的にコーティングされている、少なくとも1つの面を含む医療用インプラント。
カルシウム誘導体粉末と銀塩溶液との間のイオン交換反応が、20℃から95℃の温度で24から168時間引き起こされる、請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。
銀含有カルシウム誘導体粉末もまた、以下の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および亜鉛の1種または複数で置換される、請求項24から28のいずれか一項に記載の方法。
カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、または亜鉛前駆体、またはこれらの組合せを、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得る、請求項30から39のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先の考察は、銀およびその化合物を医療用インプラントの生物学的界面に組み込む従来技術の方法の制約を示している。医療用インプラントの抗菌コーティングを実現する、商業的に実現可能な手段が求められている。抗菌特性を有する理想的な医療用インプラントは、その製造が、プラズマ溶射などの現在実施されている製造プロセスから逸脱しないようなものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態では、医療用インプラントに適したコーティングが提供される。そのようなインプラントは、骨結合を促進させかつ/または同時に埋込み部位での感染の危険性を低減させ、または無くすことができるような、有益な効果を発揮することができる。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、前記コーティングの少なくとも一部が骨結合剤を含有し、かつコーティングの同じおよび/または異なる部分が抗菌金属剤を含有する、医療用インプラントのコーティングが提供される。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によれば、医療用インプラントは、宿主生物環境と繋がるコーティングを有する。そのようなコーティングは、好ましくは、カルシウム誘導体などの骨結合または骨伝導を促進させる物質を含む。本明細書で使用される「骨結合剤(osseointegration agent)」という用語は、インプラントと骨との一体化を後押しする能力を有する任意の物質を指す。「骨伝導」という用語は、インプラントが新しい骨芽細胞と骨肝細胞との取着を支持することができ、新しい細胞を移動させ新しい血管を形成することができる構造が提供される状況を指す。
【0016】
この記述の全体を通して使用される「カルシウム誘導体」という用語は、骨結合または骨伝導を促進し得る物質の代表的な用語として使用され、ヒドロキシアパタイト(HA)としばしば呼ばれるが、任意の適切な誘導体であってもよく、その例は当業者が十分承知していることを理解されたい。一例はHAであるが、リン酸カルシウム、オルトリン酸カルシウム、リン酸3カルシウム、セラミックバイオグラスなどのその他の誘導体の全ては本発明の機能を果たすことができ、制約無く本明細書に組み込まれる。インプラントと宿主組織との一体化を高める表面設計製作のその他の形には、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、β型リン酸3カルシウム、ヒドロキシアパタイトおよびβ型リン酸3カルシウムの混合物、吸収性ポリマー、バイオグラス、誘導体化リン酸ベース化合物、オルトホスフェート、リン酸1カルシウム、リン酸8カルシウム、リン酸2カルシウム水和物(ブルシャイト)、リン酸2カルシウム無水物(モネタイト)、無水リン酸3カルシウム、フィトロッカイト、リン酸4カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、非化学量論的アパタイト、カーボネートアパタイト、生物由来のアパタイト、リン酸水素カルシウム、カルシウム水素アパタイト、水不溶性セラミックス、ホスフェート、ポリホスフェート、カーボネート、シリケート、アルミネート、ボレート、ゼオライト、ベントナイト、カオリン、およびこれらの組合せなどの、コーティングであるアパタイトが含まれる。これらの表面設計製作技法は、制約無く本明細書に組み込まれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、カルシウム誘導体は、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、未変性のカルシウム誘導体(例えば、HA)コーティングの抗菌効力は、銀の添加によって改善される。
【0019】
銀は、銀置換カルシウム誘導体(HAなど)および/または個々の金属銀粒子の1つまたは複数として存在し得る。
【0020】
好ましくは、抗菌金属剤は、個々の粒子として前記コーティングの少なくとも一部に存在する。抗菌金属は、銀、銅、および/または亜鉛の1種または複数を含んでいてもよい。個々の粒子(例えば、銀粒子)は、好ましくはコーティングの厚さ全体にわたって分布していてもよい。
【0021】
本発明は、個々の銀化合物(酸化銀など)ではなく、医療用インプラントに組み込まれた金属銀を有することが好ましいことを見出した。
【0022】
銀(または、銅などのその他の抗菌金属種)の使用は、いくつかの方法で設計製作することができる。金属性抗菌剤は、宿主動物(ヒトを含む。)組織で使用されることになるので、その性質は、以下の非限定的な重要な機能を果たすべきである:
(a)抗菌処理された医療用インプラントは、細菌コロニー形成に耐えるべきである。コーティング内に存在する銀の化学形態は、これに影響を及ぼす可能性がある。例えば銀は、リン酸銀、酸化銀、硝酸銀、およびその他の化合物など、化合物としてインプラント表面のコーティング内に存在することができる。銀は、金属銀形態で存在することもできる。さらに、銀化合物および/または金属銀の混合物が存在することができる。まさにその組成は、埋め込んだ後および抗菌コーティングが宿主組織環境で反応する時間と共に、インプラントが微生物コロニー形成に耐える能力に影響を与えることになる。
(b)抗菌処理された医療用インプラントは、その抗菌特性に影響を与えるように、抗菌金属を宿主組織内に放出すべきである。抗菌金属は、銀のイオンとしてまたは金属銀として、または銀化合物(例えば、リン酸銀または酸化銀)として、宿主組織に放出することができる。抗菌剤放出の化学的性質は、コーティングの組成に依存することになる。好ましいタイプの放出(イオン性、金属性、または化合物)は、抗菌コーティングの組成によって制御できることが理解される。
(c)宿主環境内への銀の放出動態は、バースト放出(ボーラス)の形をとってもよく、または長時間にわたって持続させてもよく、またはバーストと持続放出との組合せであってもよい。放出動態および放出持続時間は、上記にて論じたように、コーティング内の銀およびその化合物の化学的性質を選択することによって、設計製作することができる。
(d)上記にて論じた形の銀の放出は、宿主の生体組織、器官、および有機体が十分耐えることのできる用量であるべきである。放出は、インプラントおよびコーティングのその他の生物学的および機械的機能を、目に見える程度まで妨げないものであるべきである。コーティングおよび銀の放出は、生体適合性であるべきであり、宿主環境に細胞傷害的課題を提示しないものであるべきである。これは、上述のように制御することができる。
【0023】
抗菌コーティング中に存在する銀およびその化合物のタイプおよび濃度は、任意の数の手段によって制御することができる。銀は、当技術分野で知られているように、硝酸銀またはその他の銀化合物とのイオン交換反応によって、コーティング微粒子(HAなど)に組み込むことができる。イオン交換反応の後、過剰な銀化合物は、HA粉末から完全に濯ぎ落とすことができ、または部分的にのみ濯ぐことができる。したがってHA粉末は、未反応の銀化合物を含有することがなく、または未反応の過剰な銀化合物の全てを保持することができ、または未反応の銀の部分量を保持することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、個々の金属粒子(例えば、金属銀粒子)が、それ自体では抗菌金属剤とは置換されない骨結合剤を含むコーティング内に存在する。任意選択で、金属粒子は、やはり抗菌金属剤で置換された骨結合剤を含むコーティング内に分布される。好ましくは、金属剤は銀であり、骨結合剤に置換された銀としてコーティング内に存在する。
【0025】
任意選択で、医療用インプラントにコーティングを提供する1つの方法は、「プラズマ溶射」と呼ばれる技法による。医療用インプラントにプラズマ溶射されたコーティングの厚さは、典型的には約1ミクロンからにすることができ、典型的には10または数十から数百ミクロンの範囲である。数千ミクロンを超える(1ミリメートル以上)コーティングの厚さも可能である。カルシウム誘導体コーティングを医療用インプラントに付着させるその他の方法には、ゾルゲル法、電着、溶液沈殿、およびバイオミメティックコーティングが含まれる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、インプラントは、骨結合剤の粉末(例えば、HAなどのカルシウム誘導体)を用いてプラズマ溶射される。好ましくは、骨結合剤は、プラズマ溶射前に、抗菌金属剤(例えば、銀)で少なくとも部分的に置換される。
【0027】
プラズマ溶射コーティングは、大気条件下または還元条件下または真空中で付着させることができる。さらに、プラズマ溶射装置は、制御された環境条件下に置くことができる。例えば環境は、アルゴンまたはその他の不活性ガスを含有していてもよい。または環境は、反応性ガスを含有していてもよい。プラズマ溶射装置を作動させる環境は、HAコーティングに組み込まれる銀(またはその化合物)のタイプを決定することができる。例えば大気中の(制御されていない環境)HAコーティングは、プラズマから出て行くときかつインプラント表面にコーティングされる前に、イオン交換反応を介して、HA粒子中に既に存在する銀(およびその化合物)の酸化をもたらす可能性がある。真空プラズマ溶射は、この酸化反応を回復させることができる。特定の銀化合物が望ましい場合、プラズマ溶射装置の環境は、そのような化合物の生成に影響があるように制御することができる。例えば、HAコーティング中に銀化合物としてフッ化銀を有することが望ましい場合、その環境は、当技術分野で知られている任意の数の手段によって、フッ素を豊富にすることができる。
【0028】
一実施形態では、さらにコーティングを強固にしまたは基材に結合するために、後工程の熱処理を必要としない。
【0029】
プラズマ溶射を本発明で利用する場合、抗菌剤(銀など)を含有するコーティングの少なくとも1つの層の好ましいプラズマ溶射は、還元環境下で実施する。
【0030】
したがって、本発明の一実施形態では、前記コーティングの少なくとも一部が骨結合剤を含有し、かつコーティングの同じおよび/または異なる部分が抗菌剤を含有する、医療用インプラントのプラズマ溶射コーティングが提供される。
【0031】
好ましくは、骨結合剤がカルシウム誘導体である。
【0032】
好ましくは、抗菌剤を含有するコーティングの少なくとも一部は、還元条件下でプラズマ溶射され、好ましくはプラズマ溶射は、真空中で実施される。
【0033】
理論に拘泥するものではないが、HAなどの粉末が未反応の銀化合物を含有する場合、これらの化合物は、プラズマの高度還元環境(水素および不活性ガスの混合物)下で金属(元素)銀に解離すると考えられる。したがって、プラズマ溶射が真空条件下で実施される場合、還元金属銀は、HAおよび銀含有HAと共に個々の金属粒子として医療用インプラントにコーティングされることになる。一方、プラズマ溶射プロセスを大気条件下で実施した場合、プラズマの還元雰囲気中で形成された金属銀は、酸素と反応して酸化物を形成することになる。次いでこれらの酸化物を、HAおよび銀含有HAと共に医療用インプラントにコーティングする。先の考察から、医療用インプラント上に存在する銀のタイプは、コーティングを医療用インプラントに付着させるプロセスによって制御できることを、理解することができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、前記コーティングの少なくとも一部が、抗菌金属の個々の粒子を含有する。いくつかの実施形態では、前記抗菌金属は、金属である銀、銅、および/または亜鉛の1種または複数を含む。
【0035】
好ましくは、抗菌金属には、金属である銀が含まれる。いくつかの実施形態では、金属銀粒子は、その形状が球または不規則である。さらに、金属銀粒子の直径は、そのサイズが約15nmから約10μmに及ぶ。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、銀濃度は、約0.1から約10重量%の濃度を有するなど、抗菌効果を発揮するのに十分である。
【0037】
いくつかの実施形態では、カルシウム誘導体を含有する前記コーティングの少なくとも一部に含有される前記カルシウム誘導体は、銀置換されており、好ましくは銀置換カルシウム誘導体は、コーティングの厚さ全体を通して均質に分布される銀濃度を有する。銀置換カルシウム誘導体は、銀を約0.1から約10重量%、好ましくは銀を約0.5から約3.0重量%含有していてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、抗菌剤を含有する前記コーティングの少なくとも一部は、コーティングのその部分の全厚にわたり分布された薬剤を有する。
【0039】
次いで製造プロセスの慎重な制御により、HAコーティング中に下記のタイプの銀のいずれか1種または2種以上の組合せを含有する、プラズマ溶射HAコーティング医療用インプラントを生成することが可能になる。
(1)銀は、HAコーティングの外面から固定深さまで存在させることができ、またはHAコーティングの全厚に存在させることができる。
(2)銀は、HAと完全に反応しHAコーティングの全体にわたり均質に分布する銀化合物(例えば、リン酸銀、酸化銀)の形をとることができる。あるいは、銀化合物は、HAコーティングのマトリックス中に離散的に分布させることができる。
(3)銀は、銀変性HAとして未変性のHA結晶構造に完全に組み込むことができ、HAコーティングの全体にわたり均質に分布することができる。
(4)銀は、プラズマの還元雰囲気中で形成される、金属である銀の形をとることができる。そのような銀は、HAコーティングのマトリックス中に銀の個々の粒子として分布される。金属である銀は、HAコーティングの外面から固定深さまで存在することができ、またはHAコーティングの全厚に存在することができる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、コーティングは、その厚さが好ましくは約1μmより大きく、好ましくは約10μmから約200μmであり、最も好ましくは約30μmから約100μmである。前記コーティングは、好ましくは基材材料(例えば、Ti
6Al
4V、cp−Ti、CoCrMo、Ta、およびその他の生物医学的材料)に十分接着され、例えば少なくとも15MPaの引張り接着強さを有する。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態によれば、未変性カルシウム誘導体(例えば、HA)コーティングの骨結合は、銀の添加によって損なわれない。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、コーティングは、1つまたは複数の骨伝導、骨促進、および/または抗菌特性を有する。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によれば、コーティングは、銀を含有するカルシウム誘導体(例えば、HA)粉末の均質な配合物から形成される。いくつかの実施形態では、銀含有カルシウム誘導体粉末とその他の銀含有粉末とのブレンドは、銀をコーティングに組み込むのに必要とされない。例えば、一実施形態では、HA粉末とその他の粉末(例えば、酸化銀粉末)とのブレンドは、銀をHAコーティングに組み込むのに必要ではない。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によれば、骨結合剤(例えば、HA)粉末は、表面に吸着される少なくとも部分的に過剰な銀反応体を含有する。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態によれば、HA粉末は、銀置換および過剰な銀反応体の両方を含有する。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態によれば、骨結合剤(例えば、HA)粉末において置換するための銀反応体は、硝酸銀(AgNO
3)および/またはフッ化銀(AgF)など、銀塩の1種または複数である。あるいは、またはさらに、銀反応体を、ヨウ化銀などの銀ハロゲン化物の1種または複数にすることができる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、銀の他にカルシウム誘導体も、下記の物質、即ちカーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および/または亜鉛の1種または複数で置換される。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態によれば、銀含有カルシウム誘導体(例えば、HA)粉末は、最初に従来のHA粉末を、硝酸銀含有および/またはフッ化銀含有水性または有機溶液に、ある期間にわたり浸漬することによって形成される。いくつかの実施形態では、水性または有機溶液は、フッ化銀および硝酸銀の両方を含んでいてもよい。
【0049】
カルシウム誘導体(例えば、HA)粉末は、HA粉末とAg塩溶液との十分なイオン交換反応を行うのに適切な時間、溶液に浸漬し撹拌することが好ましい。そのような時間は、約1日から3日間など、数時間(例えば10時間)から1週間に及んでよい。反応は、より好ましくは約2日間である。最良の結果のためには、混合物を光に過剰に曝露することを避ける必要があることがある。
【0050】
骨結合剤(例えば、HA)粉末は、室温で浸漬させてもよいが、わずかに高い温度が、HAへの溶液の溶解度を増大させるには好ましい。温度は、組成物が分解するほど高く上昇させるべきではない。
【0051】
一般に、水性または有機溶液中でHA粉末をAg塩と反応させる間、溶液の適正なpHレベルを維持することも重要である。pHは一般に、最小限に抑えられたHA溶解があるが、同時に硝酸銀がOHと反応し沈殿して水酸化銀を形成し最終的には酸化銀になる可能性が低下するレベルで維持すべきである。pHレベルは、6.5〜8.5の範囲に維持してもよいが、HAが溶解するのを防ぐには、好ましくは6.7よりも高い。より好ましくは、混合物のpHレベルは6.8〜7.2の範囲にあるが、その他のレベルも許容可能である。
【0052】
イオン交換反応後、混合物を空気乾燥したままにしてもよく、または脱イオン水および蒸留水(DDH
2O)で濯ぎかつ/または洗浄し、次いで空気乾燥してもよい。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態では、銀含有カルシウム誘導体粉末をイオン交換またはゾルゲル法により生成し、その後、基材材料にプラズマ溶射を行う、抗菌コーティングを調製するための方法が提供される。
【0054】
いくつかの実施形態では、銀含有カルシウム誘導体粉末は:
a.カルシウム誘導体粉末を、カルシウムイオンを銀イオンに交換するのに十分な時間および温度で、銀塩溶液中に懸濁するステップ、および
b.前記イオン交換され洗浄したカルシウム誘導体を乾燥するステップ
によって生成される。
【0055】
いくつかの実施形態では、前記イオン交換されたカルシウム誘導体粉末を洗浄する追加のステップを、ステップ(a)と(b)との間で行う。
【0056】
いくつかの実施形態では、カルシウム誘導体粉末と銀塩溶液との間のイオン交換反応は、約20℃から95℃の温度で約24から168時間行われる。いくつかの実施形態では、銀塩溶液が10
−2〜10
−4Mの濃度を有する硝酸銀またはフッ化銀であり、硝酸銀とHA粉末との質量比は0.01〜0.1の範囲内にある。
【0057】
さらに、いくつかの実施形態では、銀含有カルシウム誘導体粉末は:
(a)カルシウム、銀、および/またはリン前駆体の組合せを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、
(b)ゾルゲル溶液を、20〜95℃の温度で適切な時間にわたりエイジングさせるステップ、
(c)ゾルゲル溶液を、室温を超える温度で適切な時間、乾燥し焼成するステップ、
(d)焼成した粉末を、後で行われるプラズマ溶射プロセスに合わせて所望の粒度分布に加工するステップ
によるゾルゲル法によって生成される。
【0058】
いくつかの実施形態では、カルシウム前駆体が硝酸カルシウムである。いくつかの実施形態では、銀前駆体が硝酸銀である。いくつかの実施形態では、リン前駆体がリン酸2水素アンモニウムである。いくつかの実施形態では、銀前駆体の濃度範囲は約0.1重量%から10重量%であり、好ましくは0.5重量%から3.0重量%である。
【0059】
ある実施形態では、フッ素およびカーボネート前駆体を、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得る。いくつかの実施形態では、フッ素前駆体がフッ化アンモニウムである。いくつかの実施形態では、カーボネート前駆体が炭酸アンモニウムである。いくつかの実施形態では、Fおよび/またはカーボネート前駆体の濃度が約10
−2〜10
−3Mである。
【0060】
ある実施形態では、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、または亜鉛前駆体、またはこれらの組合せを、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得る。
【0061】
残りの固体混合物は、内部に銀および/またはフッ化物を有する均質なHA粉末配合物を含む。均質なHA粉末配合物は、摩砕してもしなくてもよく、次いで従来のプラズマ溶射プロセスに使用して、通常のHA粉末のように生物医学的インプラントまたは医療用機器をコーティングしてもよい。本発明の浸漬および摩砕プロセスは、一般に、HA粉末の平均粒度を取るに足らない程度にしか増大させず、それによって、従来の装置に依存する可能性のある後続のプラズマ溶射プロセスを妨げない。
【0062】
いくつかの実施形態では、溶射前の銀含有カルシウム誘導体粉末配合物のサイズ分布は、未変性の純粋なカルシウム誘導体粉末と実質的に均等である。
【0063】
濯ぐことなく前述の空気乾燥プロセスを使用する、1つの可能性のある利点は、濯ぎをしないことによって、水性/有機溶液が蒸発した後に、均質なHA/銀粉末配合物の他に少量の過剰な硝酸銀またはフッ化銀が存在し得ることである。これは、極めて高い温度がプラズマ溶射プロセス中に示された後、均質なHA粉末中の銀の一部が気化した場合であっても、いくらかの残留する(即ち、「余分な」)銀がコーティング内に存在することを確実にする可能性がある。最終的なプラズマ溶射コーティング中の銀の含量および分解プロファイルは、種々の濃度の銀塩を使用して調整することができる。
【0064】
本発明の一実施形態では、外科的インプラントが必要な患者を処置する方法であって、前記患者を手術するステップ、前記手術部位に請求項1から20のいずれかに記載のコーティングを含む医療用インプラントを挿入するステップ、および手術後にそのままインプラントを残すステップを含み、そのインプラントがインプラント部位の術後感染の危険性を低減させまたは無くす方法が提供される。
【0065】
本明細書で使用される「銀」という用語は、実質的に純粋な銀、銀ベースの成分を有する組成物、銀ベースの成分を有する前駆体、銀化合物、または銀を有する合金を含んでいてもよい。先の考察から、銀および/または銀化合物を、表面が同時に抗菌機能を果たすような手法で、医療用インプラントの生物学的界面(HAコーティングなど)に組み込むことが可能である。
【0066】
その他の金属種も、同様の抗菌効果を有することが知られている。これらの種には、銅、亜鉛、水銀、鉛、およびその他の金属が含まれるが、これらに限定するものではない。これらの金属種は、送達される用量に応じて広範にわたる有効性を発揮する。さらに、これら金属種のいくつかは、やはり使用される用量および金属種が付着される組織部位に応じて、宿主組織に対して毒性を有する可能性がある。本発明は、好ましい抗菌金属種としての銀に関するが、銀のみに限定するものではない。種々の金属種の混合物も使用することができる。
【0067】
本発明の適用可能性に関するその他の領域は、以下に示される詳細な記述から明らかにされよう。詳細な記述および特定の実施例は、本発明の特定の実施形態を示すが、単なる例示を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【0068】
本明細書に組み込まれかつ本明細書の一部を形成する添付図面は、本発明の実施形態を例示し、かつ記述された説明と共に、本発明の原理、特性、および特徴を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】HA(a)、Ag−HA−L(b)、Ag−HA−M(c)、およびAg−HA−H(d)でコーティングされたTi
6Al
4Vディスクを示す走査電子顕微鏡写真である。
【
図2】HA(左)およびAg−HA−H(右)でコーティングされたTi
6Al
4Vディスクの断面図を示す走査電子顕微鏡写真である。銀濃度は、「x」のマーカーによって示されるように、Ag−HA−Hサンプルのコーティング全体にわたり異なる部位で測定した。
【
図3】種々のコーティングクーポンの引張り接着強さを示す図である。
【
図4】HAがコーティングされた、およびAg−HA−Hがコーティングされたサンプルの、破断面を示す図である。
【
図5】サンプルのPBSにおける銀放出プロファイルを示す図である。
【
図6】
図6a(HA)6b(Ag−HA1)および6c(Ag−HA2)は、低倍率での種々のサンプルそれぞれの2次電子画像を示す図であり、各サンプルタイプの概観を示している。
【
図7】
図7a(HA)、7b(Ag−HA1)、および7c(Ag−HA2)は、
図6のサンプルの表面形態の、より高い倍率での2次電子画像を示す図である。
【
図8】
図8a(HA)、8b(Ag−HA1)、および8c(Ag−HA2)は、低倍率での種々のサンプルの後方散乱電子画像を示す図であり、各サンプルタイプの概観を示している。
【
図9】
図9a(HA)、9b(Ag−HA1)、および9c(Ag−HA2)は、
図8のサンプルのそれぞれから示される、より高い倍率での後方散乱画像を示す図である。
【
図10】
図10a(Ag−HA1)および10b(Ag−HA2)は、
図8および9のサンプルの、より高い倍率での検査を示す図である。
【
図11】
図11a(Ag−HA1)および11b(Ag−HA2)は、
図8および9のサンプルの、より高い倍率での検査を示す図である。
【
図12】本発明のサンプルの後方散乱EMを示す図である。
【
図13】
図13aは、EDX微量分析によって得られた元素ドットマップを示すのに対し、
図13bには、サンプルAg−HA2の対応領域の後方散乱画像が示されている。
【
図14】
図14a(Ag−HA1)および14b(Ag−HA2)は、Ag−HA1サンプルおよびAg−HA2サンプルからのEDSスペクトルを示す図である。
【
図15】HA2サンプル上の個々の明るい粒子(画像中、「x」が付されたスポット)のEDXスペクトルを示す図である。
【
図16】
図16a〜cは、HA2サンプル上のEDXAも介して評価された、個々の明るい粒子から離れたコーティング領域の画像を示す。
【
図17】エラー!基準線源が見られない。3つのサンプルHA、Ag−HA1、およびAg−HA2のX線回折パターンを示す図である。
【
図18】3つの異なるサンプルの引張り接着強さを示す図である。
【
図19】本発明のコーティングの実施形態の概略を示す図である。
【
図20】銀変性β−TCPおよびブピバカインを含有する上部PLGAコーティングを低倍率で示す図である。
【
図21】銀変性β−TCPおよびブピバカインを含有する上部PLGAコーティングを高倍率で示す図である。
【
図22】本発明の別の実施形態の概略を示す図である。
【
図23】PLGAコーティング上のPLGAビーズの上面図を、低倍率で示す図である。
【
図24】PLGAコーティング上のPLGAビーズの上面図を、高倍率で示す図である。
【
図25】PLGAコーティングを高倍率で示す図である。
【
図26】
図26(a)および(b)は、9日で引き外したインプラント: Rabbit#1Aからの低Ag変性リン酸カルシウムコーティングインプラントから得たSEM画像である。
【
図27】
図27(a)および(b)は、9日で引き外したインプラント: Rabbit#1Aからの非リン酸カルシウムコーティングインプラントから得たSEM画像である。
【
図28】
図28(a)および(b)は、9日で引き外したインプラント: Rabbit#1Bからの高Ag変性リン酸カルシウムコーティングインプラントから得たSEM画像である。
【
図29】
図29(a)および(b)は、9日で引き外したインプラント: Rabbit#1Bからの非リン酸カルシウムコーティングインプラントから得たSEM画像である。
【
図30】「低」S−CP、9日の後方散乱SEMを示す図である(サンプル4A 右)。多孔質コート領域内の、鉱質化組織(骨)(矢印)の小領域。破線は、部位穿孔後の宿主骨の位置を示す。
【
図31】「高」S−CP、9日の後方散乱SEMを示す図である(サンプル5B 左)。多孔質コート領域内の、鉱質化組織(骨)(矢印)の小領域。破線は、部位穿孔後の宿主骨の位置を示す。
【
図32】「対照」(CP無し)、9日の後方散乱SEMを示す図である(サンプル5B 右)。多孔質コート領域内の、鉱質化組織(骨)(矢印)の小領域。
【
図33】「低」S−CP、16日の後方散乱SEMを示す図である(サンプル9C 右)。全多孔質コート深さの全体を通した、広範な骨内殖。破線は、初期穿孔骨境界を示す。
【
図34】「高」S−CP、16日の後方散乱SEMを示す図である(サンプル8D 右)。全多孔質コート深さの全体を通した、広範な骨内殖。破線は、可能性のある初期穿孔骨境界を示す。
【
図35】「対象」(CP無し)、16日の後方散乱SEMを示す図である(サンプル2C 左)。多孔質コーティングの深さ全体を通した骨内殖。初期穿孔骨境界の特定は困難である。
【
図36】
図36(a)および(b)は、9日間焼結した多孔質コーティングTi
6Al
4V「対照」インプラントを示す−(a)および(b)サンプル5B右−青緑色に染色した領域は骨である(古い、および新たに形成された。)。断面の厚さにより、一部の骨は染色効果を示さず、灰色に見える。少量の繊維状組織が、一部の領域の界面付近に存在する(矢印)。
【
図37】
図37(a)および(b)は、「低」S−CPオーバー層を有する、9日間焼結した多孔質コーティングTi
6Al
4Vインプラントを示す−(a)サンプル8A左、(b)サンプル4A右−(b)では、穿孔による当初の骨損失の程度(おそらくは、いくらかの骨ダイバック)は、切断された小柱によって明らかである。
【
図38】
図38(a)および(b)は、「高」S−CPオーバー層を有する、9日間焼結した多孔質コーティングTi
6Al
4Vインプラントを示す−(a)および(b)サンプル8B左−高および低倍率の両方の画像は、部位処置(穿孔)による骨損失の程度、およびおそらくはその後の骨ダイバックを示す((b)の点線)。それにも関わらず、適切な圧入が実現され、界面ゾーン内でのおよび多孔質コート内への早期の骨形成が可能になる(矢印)。
【
図39】
図39(a)および(b)は、16日間焼結した多孔質コーティングTi
6Al
4Vインプラント「対照」インプラントを示す−(a)および(b)サンプル2C左−多孔質コート全体を通した広範な新たな骨形成および内殖(青緑色の染色領域)。
【
図40】
図40(a)および(b)は、「低」S−CPオーバー層を有する、16日間焼結した多孔質コーティングTi
6Al
4Vインプラントを示す−(a)および(b)サンプル9C右−広範な新たな骨形成および内殖[サンプルを埋め込んだアーチファクト(気泡)が(a)に見られる。]。
【
図41】
図41(a)および(b)は、「高」S−CPオーバー層を有する、16日間焼結した多孔質コーティングTi
6Al
4Vインプラントを示す−(a)および(b)サンプル8D右−インプラントの長さに沿った良好な骨内殖。
【
図42】微生物学的活性の超音波カウントの結果を示す図である。
【
図43】微生物学的活性の超音波カウントの結果を示す図である。
【
図44】微生物学的活性の懸濁液カウントの結果を示す図である。
【
図45】微生物学的活性の懸濁液カウントの結果を示す図である。
【
図46】Ag/HA培地で培養したMC3T3細胞の、A450nm〜A655nmでの平均吸光度を示す図である。誤差棒は、データの標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0070】
示される実施形態に関する以下の記述は、実際には単なる例示であり、本発明、その適用、または使用をいかなる方法によっても限定するものではない。
【0071】
抗菌HA粉末配合物は、まず、従来のヒドロキシアパタイト(HA)粉末(約45から約125ミクロンの平均粒度を有する市販されているHA粉末など)を、硝酸銀含有および/またはフッ化銀含有水性または有機溶液にある時間浸漬することによって形成される。いくつかの実施形態では、水性または有機溶液は、フッ化銀および硝酸銀の両方を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、β型リン酸3カルシウムを使用してもよく、またはHAをβ型リン酸3カルシウムと組み合わせてもよい。リン酸カルシウム混合物は、銀を約0.1重量%から約10重量%、約0.1重量%から約7重量%、または約0.1重量%から約5重量%含む。ある特定の実施形態では、リン酸カルシウム混合物は、銀を約0.5重量%から約3重量%、または約0.5重量%から約2重量%含む。
【0072】
「重量%」または「重量パーセント」という用語は、コーティングまたはコーティング内の層の重量の%を指し、インプラントそのものの重量は含まない。
【0073】
いくつかの実施形態では、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および亜鉛の1種または複数を、リン酸カルシウム混合物に添加してもよい。
【0074】
HA粉末を、溶液中に約1日から約7日間浸漬し、撹拌する。HA粉末は、HA粉末とAg塩溶液との間で十分なイオン交換反応が可能になるように、約1日から約3日間にわたり溶液に浸漬し撹拌することが好ましい。反応は、より好ましくは約2日間である。さらに、最良の結果を得るには、光に対する混合物の過剰な曝露を避ける必要があることがある。
【0075】
HA粉末は、室温で浸漬してもよいが、HAへの溶液の溶解度を増大させるには、わずかに温かい温度が好ましい。温度は、組成物を分解するほど上昇させるべきではない。いくつかの実施形態では、約20℃から約95℃の温度範囲を使用してもよい。その他の実施形態では、約60℃から約80℃の温度範囲を使用してもよい。
【0076】
一般に、HA粉末が水性または有機溶液中でAg塩と反応させる間、溶液の適正なpHレベルを維持することが重要である。pHは一般に、HA溶解が最小限に抑えられるように、しかし同時に、硝酸銀がOHと反応し沈殿して水酸化銀を形成し最終的には酸化銀になる可能性が低下するようなレベルで維持すべきである。pHレベルは、HAが溶解しないように、6.5〜8.5の範囲に維持してもよいが、好ましくは6.7よりも高い。より好ましくは、混合物のpHレベルは6.8〜7.2の範囲であるが、その他のレベルも許容可能である。
【0077】
イオン交換反応後、混合物をそのまま空気乾燥してもよく、または脱イオン水および蒸留水(DDH
2O)で濯ぎかつ/または洗浄し、次いで空気乾燥してもよい。
【0078】
残りの固体混合物は、銀および/またはフッ化物を内部に有する均質なHA粉末配合物を含む。均質なHA粉末配合物は、摩砕し、次いで従来のプラズマ溶射プロセスで使用して、通常のHA粉末のように生物医学的インプラントまたは医療機器をコーティングしてもよい。本発明の浸漬プロセスは、一般に、HA粉末の平均粒度を取るに足らない程度にしか増大させず、それによって、従来の装置に依存し得る後続のプラズマ溶射プロセスを妨げない。
【0079】
第1の方法では、HA粉末をAgF溶液と組み合わせる。混合物を浸漬し、1から3日間撹拌する。混合物を乾燥する。得られた配合物を、医療用インプラントにプラズマ溶射してもよい。例として、フッ化銀は、約1×10
−2から約1×10
−4Mの濃度を有していてもよい。例として、フッ化銀とHA粉末との質量比は、約0.01から約0.1の範囲内にある。一実施形態では、混合物を約1日から約3日間、約50℃から約95℃の間の温度で空気乾燥する。さらに別の実施形態では、銀溶液は、1×10
−3から約1×10
−4Mの範囲の濃度を有する。
【0080】
第2の方法では、HA粉末をAgNO
3溶液と組み合わせる。混合物を浸漬し1から3日間撹拌する。混合物を乾燥する。得られた配合物を、医療用インプラントにプラズマ溶射する。例として、硝酸銀は、約1×10
−2から約1×10
−4Mの濃度を有していてもよい。例として、硝酸銀とHA粉末との質量比は、約0.01から約0.1の範囲内である。一実施形態では、混合物を約1日から約3日間、約50℃から約95℃の間の温度で空気乾燥する。
【0081】
第3の方法では、HA粉末をAgFおよびAgNO
3溶液と組み合わせる。混合物を浸漬し、1から3日間撹拌する。混合物を乾燥する。得られた配合物は、医療用インプラントにプラズマ溶射してもよい。
【0082】
第4の方法では、HA粉末をAgF溶液と組み合わせる。混合物を浸漬し、1から3日間撹拌する。混合物を濯ぐ。次いで混合物を乾燥する。得られた配合物を、医療用インプラントにプラズマ溶射してもよい。
【0083】
第5の方法では、HA粉末をAgNO
3溶液と組み合わせる。混合物を浸漬し、1から3日間撹拌する。混合物を濯ぐ。次いで混合物を乾燥する。得られた配合物を、医療用インプラントにプラズマ溶射してもよい。
【0084】
第6の方法では、HA粉末をAgFおよびAgNO
3溶液と組み合わせる。混合物を浸漬し、1から3日間撹拌する。混合物を濯ぐ。次いで混合物を乾燥する。得られた配合物を、医療用インプラントにプラズマ溶射してもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、銀含有HA粉末は、(a)カルシウム、銀、および/またはリン前駆体を混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、(b)ゾルゲル溶液を、約20℃から約95℃の温度で約7から約9日間、エイジングさせるステップ、(c)ゾルゲル溶液を、約500から約800℃に及ぶ高温で約2から約4時間乾燥し焼成するステップ、および(d)焼成した粉末を、後で行われるプラズマ溶射プロセスに合わせて所望の粒度分布に摩砕し篩にかけるステップによるゾルゲル法によって、生成される。いくつかの実施形態では、平均粒度が約45から約150ミクロンである。例として、カルシウム前駆体は硝酸カルシウムであってもよく、銀前駆体は硝酸銀であってもよく、リン前駆体はリン酸2水素アンモニウムであってもよい。銀前駆体の濃度は、約0.1重量%から約10重量%、約0.1重量%から約7重量%、または約0.1重量%から約5重量%、より好ましくは約0.5重量%から約3重量%、または約0.5重量%から約2重量%の範囲であってもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、リン酸カルシウムコーティングを付着する前に、基材にベース層またはプライマー層を付着させてもよい。ベース層は、基材とコーティングとの間の反応を回避しまたは減じるのに使用してもよい。あるいはベース層は、コーティング−基材の界面で、引張り接着強さを改善することができる。ベース層は、真空プラズマ溶射プロセスを使用して、付着させてもよい。あるいはベース層は、大気プラズマ溶射、イオンスパッタリング、ゾルゲルディップコーティング法、溶液沈殿、バイオミメティック法、または電着を使用して付着させてもよい。ベース層は、任意の数の化合物であってもよい。例としてベース層は、金属コーティング、セラミックコーティング、または生分解性バイオセラミックコーティングであってもよい。特にベース層は、リン酸カルシウム、バイオグラス、ポリリン酸カルシウム、リン酸4カルシウム(TTCP)、β型リン酸3カルシウム(TCP)、β型ピロリン酸カルシウム(CPP)、β型メタリン酸カルシウム(CMP)、または実質的に純粋なHAを含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、ベース層の厚さは約1から約50ミクロンであり、より好ましくは約10から約20ミクロンである。ある特定の実施形態では、ベース層および抗菌コーティングの全厚は、約30から約300ミクロンであり、より好ましくは約50から約100ミクロンである。
【0087】
いくつかの実施形態では、フッ素およびカーボネート前駆体を、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得ることができる。例として、フッ素前駆体はフッ化アンモニウムであってもよく、カーボネート前駆体は炭酸アンモニウムであってもよい。フッ素前駆体の濃度は、約10
−2から約10
−3Mの範囲であってもよい。カーボネート前駆体の濃度は、約0.1から約10
−3Mの範囲であってもよい。
【0088】
いくつかの実施形態では、骨刺激材料を、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得ることができる。例として、塩、鉱物、金属、金属酸化物、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、または亜鉛前駆体、またはこれらの組合せを、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得ることができる。
【0089】
当業者なら、溶液中の硝酸銀および/またはフッ化銀の正確な量または濃度を変えてよいことを、容易に理解することができる。ごく少量の硝酸銀および/またはフッ化銀しかHA粉末に吸収されず、したがって溶液の濃度は、硝酸銀またはフッ化銀の廃棄物を削減するために最適化することができる。あるいは余分なフッ化銀および/または硝酸銀を溶液に添加して、プラズマ溶射中の銀および/またはフッ素のいくらかの蒸発/気化を補償することができる。
【0090】
さらに、ストロンチウムおよび/またはバナジウムを単独で、または本発明の銀および/またはフッ化物、ならびに銅や亜鉛などのその他の金属と組み合わせて使用してもよい。
【0091】
少量の銀および/またはフッ化物を従来のHA粉末に添加することにより、本発明は、改善された抗菌/抗感染/骨結合特性を生物医学的インプラントにもたらす。さらに、従来技術は、本発明で行われるようにプラズマ溶射することが可能な均質な配合物であるHA粉末を、もたらすことができない。本発明の均質なHA/銀粉末配合物は、銀およびHAが別々の不均質な付着よりも、プラズマ溶射後にさらになお均一で分解が制御されたコーティングを提供することができる。
【0092】
上述の例には、ヒドロキシアパタイトが含まれるが、当業者なら、リン酸カルシウムのその他の形態を使用してよいことが理解されよう。例として、アパタイト、即ち非化学量論的アパタイト、リン酸カルシウム、オルトホスフェート、リン酸1カルシウム、リン酸2カルシウム、リン酸3カルシウム、フィトロッカイト、リン酸4カルシウム、非晶質リン酸カルシウムを、HAの代わりに用いてもよい。
【0093】
本発明は、好ましくは本明細書に記述される方法および技法のいずれかを使用してコーティングされた、様々な医療用インプラントも提供する。医療用インプラントのコーティングは、1つまたは複数の層を含むことができ、各層は、別の層と同じまたは異なる組成を含んでいてもよい。各層は、好ましくは還元環境下(例えば、真空中)でプラズマ溶射される。
【0094】
任意選択で、医療用インプラントは、いくつかの層を含むコーティングを有し、その抗菌剤の濃度は、少なくとも2つのコーティング層で異なるものである。
【0095】
本発明のインプラントは、好ましくは、宿主環境に首尾よく一体化する機会を高めるように製造され、一方それと同時に、感染の危険性を低減させまたは防止する抗菌環境を提供する。
【0096】
本発明の範囲から逸脱することなく、対応する図を参照しながら、上述のように様々な修正を例示的な実施形態に行うことができるので、前述の記述に含まれ添付図面に図示される全ての内容は、限定ではなく例示として解釈すべきとする。したがって、本発明の外延および範囲は、上述の例示的な実施形態をいかようにも限定すべきではなく、本明細書に添付された以下の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ定義すべきである。
【0097】
(実施例)
(実施例1)
方法
3つの異なる濃度の硝酸銀溶液を、硝酸銀溶液とHA粉末との間のイオン交換反応のために、蒸留および脱イオン水(DDH
2O)で調製した。硝酸銀溶液からのいくらかのAgイオンを、HA構造からのCaイオンの代わりに用いることになり、一方、いくらかの銀化合物は、HA表面に物理的に吸着されることになる。HA粉末中の目標とされる銀含量は、それぞれ0.3重量%、1重量%、および3重量であった。硝酸銀およびHA粉末の質量を、Table 1(表1)に列挙した。
【0099】
硝酸銀(BDH、カタログ#BDH0276−125G)を、まず、3リットルのガラスビーカー中のDDH
2Oに溶解し、次いでHA粉末(MEDIPURE(登録商標)、MEDICOAT AG、粒度: −125μm+45μm)を、Table 1(表1)に従って、調製した硝酸銀溶液に添加した。HAおよび硝酸銀溶液を、室温のオービタルシェーカ内で、180RPMで3日間撹拌することにより、均質なイオン交換反応を可能にした。
【0100】
イオン交換反応後、溶液を、炉内で80℃で乾燥したままにして、水を蒸発させた。次いで乾燥し変性させたHA粉末を、乳棒および乳鉢を使用して手作業で軽く摩砕して、乾燥プロセス中に形成された凝集塊を破砕した。次いで摩砕し変性したHA粉末を、100〜325メッシュシーブ(W.S.Tyler,Inc.、USA)に通して篩にかけた。150μmよりも大きくまたは45μmよりも小さい全てのHA粉末を廃棄した。少なくとも98%のHA粉末を、100〜325メッシュシーブの間で収集した。
【0101】
銀変性HA粉末を、レーザ回折粒度分析器(Model LS13 320、Beckman Coulter、USA)を使用してさらに特徴付けた。全ての測定値を、Table 2(表2)に列挙した。平均粒度は、HA粉末中の銀含量の増加と共にわずかに増大した。低および中度の銀HA粉末の粒度分布は、対照の純粋なHA粉末に類似していた。
【0103】
X線回折(XRD)を利用して、粉末の構造、相組成、および粒度を特徴付けた(事前噴霧)。この分析は、H&M Analytical Services,Inc.(Allentown、NJ、USA)で行った。コーティングされたサンプルを、標準サンプルホルダに配置し、40kV/30mAのCu放射線を使用してPhilips PW3020回折装置に入れた。スキャンを、10°から70°の範囲にわたりステップサイズ0.02°で、それぞれカウント時間8時間で実行した。エネルギー分散型X線分析を備えた走査電子顕微鏡(JEOL JSM−6460LV、日本)を使用して、表面形態、Ca/P比、コーティングのAg含量、およびコーティングの厚さを検査した。
【0104】
銀変性粉末を、10%硝酸溶液にこの粉末(事前噴霧)を完全に溶解することによって、組成に関してさらに分析した。一定分量を硝酸溶液から引き出し、誘導結合プラズマ(ICP)質量分析を使用して銀イオン濃度分析を行った。
【0105】
次いでこれらの銀変性HA粉末を、銀含有HAコーティングに関して、Medicoat(Magenwil、スイス)の従来の真空プラズマ溶射プロセスで使用した。粉末が溶射された全ての基材は、ミルアニールされたTi
6Al
4V合金から作製された。平らな表面のディスクサンプルは、直径12.6mmおよび厚さ3.1mmであった。これらのクーポンをグリットブラストにかけて、清浄化し、その後、プラズマ溶射した。溶射パラメータの全ては、純粋なHA粉末と銀変性HA粉末とで共に同じであった。Φ12.6mmホールのステンレス鋼板を使用して、Ti
6Al
4Vクーポンを取り付けた。コーティングプロセス後、溶射したままのコーティングをイソプロパノールで濯いだ。
【0106】
X線回折(XRD)を利用して、粉末に関して使用したものと同じ手法で、コーティングの構造、相組成、および粒度を特徴付けた。
【0107】
4つの群のそれぞれから得た、3つの直径1インチのTi
6Al
4Vクーポンを、基材として使用して、HAまたはAgドープ済みHAコーティングを堆積し、それによって、ASTM Fl147に記述されたものと同様の手法でコーティングの引張り接着強さを評価した。
【0108】
各クーポンの裏面および試験スタブの端部を、80グリッド紙で全て軽く挟んで、エポキシ接着強さを高めた。クーポンの裏面(即ち、コーティングされていない面)をアセトンで清浄化し、2〜3分間空気乾燥させた。
【0109】
引張り試験スタブを、1層のFM1000接着剤を裏面にかつ1層をコーティング面に使用して、各クーポンの対向面に貼り付けた。これは、硬化フィクスチャで構造をアセンブルし、このフィクスチャを338°F(170℃)の温度の対流式炉内に130分間(または、2個のフィクスチャが同時に炉内に置かれる場合は135分間)、死荷重2.3lbf(10N)の下に置いて、接着剤を熱硬化することによって行った。フィクスチャを炉から除去し、室温まで冷却した後、死荷重を取り除き、構造体をフィクスチャから取り出した。
【0110】
各構造体を、破損するまで0.10インチ/分(2.5mm/分)の変位速度で引張り荷重の下に置き、試験をした。各構造体のピーク荷重および破断モードを記録した。引張り接着強さは、ピーク荷重をクーポンの断面積で割ることによって、決定した。試験後、各クーポンについて、無効な試験であることを示し得る基材への接着剤の浸透が無いことを確実するために、検査をした。
【0111】
1つのサンプルを、コーティングからの銀放出を評価するために各条件で使用した。コーティングされたディスクサンプルを、37℃のPBS(pH=7.4)2mLに24、72、および168時間浸漬した。各時点で、1mL溶液を引き出し、4℃の冷蔵庫でエッペンドルフ管内に保存し、その後、Environmental Testing & Consulting,Inc. Menphis、TNで誘導結合プラズマ(ICP)銀分析を行った。濃硝酸15μLをこの管に添加して、溶液から銀が堆積しないようにした。
【0112】
結果
銀変性HA粉末のXRDおよびICPの結果を、以下のTable 3(表3)に列挙する。全Ag(XRD)は、粉末XRD相組成分析の結果である。XRDの結果は、銀が、金属の銀、硝酸銀(即ち、銀を含有する当初の銀イオン交換反応媒体)、または酸化銀として存在することを実証した。XRDは、金属銀または銀化合物の結晶質層を決定するだけであることに留意すべきである。HA結晶に中間された銀は検出されない。ICPは、銀変性HA粉末中のAgの総量を決定するのに使用した。ICP分析は、存在する全ての銀−HA結晶中に置換されたものとして存在する銀およびHA結晶から分離された個々の化合物として存在する銀(例えば、硝酸銀、酸化銀、および金属銀)を測定する。HA結晶中に含有される銀の量は、ICPの結果からXRDの結果を差し引くことによって決定することができる。例えば、1重量%のAg−HA粉末の場合、XRDの結果は、銀変性HA粉末中に銀が0.45重量%あることを示し;しかし同じ粉末のICPの結果は、この変性粉末中の全Ag含量が0.98重量%であることを示したが、これは設計された全銀濃度に近いものであった。したがって、これは、約54%の銀がHA構造内に組み込まれたことを示す。硝酸銀イオン交換溶液からの過剰な銀は、VPSプロセス後にXRDによって特定されたようにその他のAg相に変換された。
【0114】
図1は、コーティングの表面外観を示す、純粋なHA(a)、Ag−HA−L(b)、Ag−HA−M(c)、およびAg−HA−H(d)でコーティングされたTi
6Al
4Vディスクサンプルの走査電子顕微鏡写真を示す。概して、全てのコーティングは均一に見え、かつTi
6Al
4V基材を覆っていた。銀含有HAコーティングと純粋なHAコーティングとの間に、明らかな相違は無かった。HAおよびAg−HA−Hのサンプルの断面は、コーティングの厚さが約80μmであることを示す(
図2)。銀濃度を、「x」のマーカーによって示されるように、Ag−HA−Hサンプルのコーティング全体にわたり異なる部位で測定した。
【0115】
定量的エネルギー分散型X線分析(EDXA)は、Table 4(表4)において、コーティングのCa/P比およびAg含量を示す。少なくとも10〜15のランダムに選択された領域を、サンプルごとに使用して、この定量分析用にスペクトルを収集した。Ca/P比は、銀含量の増加と共に低下したが、これは、コーティング中のAgが増加すると共にHA格子中のAgの置換が増加することを示している。さらに、Agを、Agドープコーティングの厚さを通して特定した(
図2; Table 5(表5))。
【0116】
ドープ済みHAコーティングのAg含量は、ICPにより測定された値よりも高く(Table 3(表3))、これはEDXA分析に関連した表面粗さのアーチファクトに起因するようである。
【0119】
XRDの結果をTable 6(表6)に示す。定量分析を、Rietveld精製を使用して行った。HA相の他に、Ca
3(PO
4)
2CaO(リン酸4カルシウム、TTCP)の不純物相を、全てのコーティングサンプルで特定した。対照の純粋なHAコーティングサンプル中に、Agは検出されなかった。ドープ済みHAコーティング中のAg含量は、Table 1(表1)に示される設計されたAg含量に近いものであった。VPSプロセス中のAgの損失および蒸発は、最小限に抑えられた。さらに、HAコーティングへのAgの添加は、Ag−HA−LおよびAg−HA−Mでコーティングされたサンプルの相組成を著しく変化させず、しかし、多量のAgドープ型HAコーティング(即ち、Ag−HA−H)は、対照の純粋はHAコーティングサンプルよりも、わずかに増大したHA相および減少したTTCP相を示した。
【0121】
さらに、HA相およびAg相の格子パラメータおよび粒度を、Scherrerの式を使用して計算した。これらの結果をTable 7(表7)に示す。半値全幅(FWHM)データをScherrerの式と共に使用して、平均HAおよびAg粒度を決定した。Scherrerの式は、
【0123】
によって与えられ、但しλはX線波長であり、βはFWHMであり、θはブラッグの回折角である。
【0125】
全てのコーティングサンプル(Agドープ済みHAコーティングを含む。)が、化学量論的に標準的なHAに比べて著しく高いc/a比を有したことは、何の価値も無い(Table 7(表7))。これは、HAおよびAg−HAコーティングサンプルが、Table 4(表4)に示されるCa/P比によって明らかにされたように、非化学量論的であることを示している。
【0126】
Scherrerの式を使用すると、VPSコーティング中の平均HA粒度は40.8nmから57.0nmに及んだ。コーティング中の粒度とAgの含量との間には、相関が無かった。コーティングの平均Ag粒度もナノスケール上にあり、37.6nmから56.4nmに及んだ。VPSプロセス後、Agまたは銀化合物をナノ結晶質金属Agに変換した。このナノ結晶質HA相および金属Ag相は、溶融または部分溶融HAまたはAg−HA粉末をプラズマに通しかつ基材上に素早く堆積した後の、高速冷却から得られた。したがって、粒の成長が引き起こされる時間は無かった。
【0127】
引張り接着強さの結果を、
図3に報告する。Ag−HA−Hコーティングサンプルに関する引張り接着強さは、試験サンプルの全ての中で最も低く、最小でも15MPaの接着強さを必要とするISOの要件を満たさなかった。1重量%以下のAgの添加(即ち、Ag−HA−LおよびAg−HA−M)は、コーティングの引張り接着強さに著しい影響を及ぼさなかった。欠陥の全ては、コーティング内に生じた。銀含有HAコーティングと純粋なHAコーティングとの破断面の外観に、明らかな相違は無かった(純粋なHAおよびAg−HA−Hは
図4に示される。)。
【0128】
PBSの銀放出プロファイルを、
図5に示す。全てのコーティングサンプルは、24時間ほどの早い時間で37℃のPBS中にAgを放出したことを示す。PBS中に放出されたAg濃度は、7日まで、経時的に徐々に増大した。PBS中に放出されたAgの量は、Ag用量に依存的である。Ag−HA−Hコーティングサンプルは、最大量のAgをPBSに放出し、Ag−HA−Lコーティングサンプルは、最少量のAgを放出した。
【0129】
(実施例2)
硝酸銀溶液を使用したヒドロキシアパタイト粉末変性
2つの異なる濃度の硝酸銀溶液を、硝酸銀溶液とHA粉末との間のイオン交換反応用に蒸留水および脱イオン水(DDH
2O)で調製した。理論的には、硝酸銀溶液からのいくらかのAgイオンが、HA構造からのCaイオンと置換されることになり、一方、いくらかのAgイオンは、HA表面に物理的に吸着されることになる。HA粉末中の目標とする銀含量は、それぞれ1重量%および2重量%であった。硝酸銀およびHA粉末の質量を、Table 8(表8)に列挙した。
【0131】
硝酸銀(BDH、カタログ# BDH0276−125G)を、まず、3リットルのガラスビーカー中のDDH
2Oに溶解し、次いでHA粉末(MEDIPURE(登録商標)、MEDICOAT AG、粒度: −130μm+45μm)を、Table 8(表8)により調製された硝酸銀溶液に添加した。HAおよび硝酸銀溶液を、室温のオービタルシェーカ内で、180RPMで3日間撹拌することにより、均質なイオン交換反応を可能にした。
【0132】
イオン交換反応後、溶液を、炉内で80℃で乾燥したままにして、水を蒸発させた。次いで乾燥し変性させたHA粉末を、自動化された乳棒および乳鉢を使用して軽く摩砕して(Retsch、Mortar Grinder RM200、Newtown、PA)、乾燥プロセス中に形成された凝集塊を破砕した。次いで摩砕した変性HA粉末を、100〜325メッシュシーブ(W.S.Tyler,Inc.、USA)に通して篩にかけた。150μmよりも大きくまたは45μmよりも小さい全てのHA粉末を廃棄した。少なくとも98%のHA粉末を、100〜325メッシュシーブの間で収集した。
【0133】
銀変性HA粉末を、レーザ回折粒度分析器(Model LS13 320、Beckman Coulter、USA)を使用してさらに特徴付けた。全ての測定値を、Table 9(表9)に列挙した。平均粒度は、HA粉末中の銀含量の増加と共にわずかに増大した。低および中度の銀HA粉末の粒度分布は、対照の純粋なHA粉末に類似していた。
【0135】
次いでこれらの銀変性HA粉末を、銀含有HAコーティングに対してMedicoat(Magenwil、スイス)で従来の真空プラズマ溶射プロセスで使用した。
【0136】
基材の調製
全ての基材を、ミルアニールされたTi
6Al
4V合金から作製した。平らな表面のディスクサンプルは、直径12.6mmおよび厚さ3.1mmであった。これらのクーポンを、S&N、Aarau、スイスでグリットブラストにかけて清浄化した。
【0137】
コーティングの堆積
コーティングを、Medicoat、Magenwil、スイスで従来の真空プラズマ溶射システムを使用して付着させた。全ての溶射パラメータは、純粋なHA粉末および銀変性HA粉末の両方に関して同じであった。Φ12.6mmの穴を有するステンレス鋼板を、Ti
6Al
4Vクーポンを取り付けるのに使用した。コーティングプロセス後、溶射したままのコーティングをイソプロパノールで濯いだ。
【0138】
コーティングの特徴付け技法
電界放射型走査電子顕微鏡法
サンプルを、2重後方散乱検出器(Dual BSD)とSOP/MS/131によるEDAX Genesis 4000エネルギー分散型X線微量分析(EDX)システムとを備えたFEI Nova NanoSEM 200走査電子顕微鏡(SEM)を使用して検査した。各サンプルクーポンの3つの例全てを、自己接着カーボンリッチディスクを用いて、25mmの直径のアルミニウムピンスタブに取り付けた。サンプルを、表面電荷が最小限に抑えられかつ表面情報が最大限になるように(最小限に抑えられた電子ビーム透過)、コーティングしないまま(スパッタコーティング無し)中加速電圧10KVの低真空条件下(0.6〜1.0Torr、水蒸気)で検査した。
【0139】
EDXデータを得るのに使用した分析条件は、10KV加速電圧、スポットサイズ5.5、および位置3での最終アパーチャ、X線カウント速度は、20%から39%の検出システム不感時間で秒当たり約1500から4000カウントの間であった(ほぼ最適な条件)。EDX微量分析は、この研究において問題とされる化学元素からx線を励起するのに必要な最小限に抑えられた電子ビームエネルギーを提供し、一方、材料表面を通過するサンプルの浸透を最小限に抑えようとするという理由で、10KV加速電圧で実施した。高分解能撮像は、2次電子に関しては低真空検出器(LVD)で、また後方散乱電子に関しては気状分析検出器(GAD)実現した。代表的な領域のデジタル画像を、非圧縮TIFFフォーマットで記録した。Image Pro Plusソフトウェアを使用して、サンプルHA1−Ag/HA(TO035B)およびHA2−Ag/HA(TO035C)中の銀に富む材料のサイズを評価し、このとき空間較正を行うためにSEM画像スケールバーを使用した。
【0140】
X線回折
X線回折(XRD)を利用して、構造および相組成を特徴付けた。この分析は、スイスのSwiss Federal Laboratories for Materials Testing and Researchで行った。XRDパターンを、20°から60°の間で、0.02°のステップサイズで、銅x線源を用いて測定した。シグナルを、各ステップで3秒間測定し、その強度を秒当たりのカウント数(cps)で示す。以下のスリットおよびフィルタを、以下の順序で、即ち1mm、0.5mm、Niフィルタ、および0.2mmで使用した。XRDは、表面から廃棄された粉末ではなく(ISO 13779−3に記述されるように)溶射したままのコーティング上で測定した。ヒドロキシアパタイトコーティングのXRDパターンを、ASTM F 2024−00およびISO 13779−3規格の修正版で分析した。両方の標準的な試験法の直接の適用は、銀の存在によって結果が不明瞭になったので、可能ではなかった。コーティングの分析に使用された規格および方法を修正する理由は、結果のセクションで論じた。参照材料は、ヒドロキシアパタイト(HAref76/800/7h)、Al
2O
3(Alpha Aesar 99.99%)、および銀板(99.95%)であった。
【0141】
Ti
6Al
4V基材に対するコーティングの引張り接着強さ
3つのグループそれぞれから得た、5つの直径1インチのTi
6Al
4Vクーポンを、基材として使用して、HAまたはAgドープ済みHAコーティングを堆積し、これらコーティングの引張り接着強さを、ASTM F1147で記述されたものと同様の手法で評価した。
【0142】
各クーポンの裏面および試験スタブの端部を、80グリット紙で全て軽く挟んで、エポキシ接着強さを高めた。クーポンの裏面(即ち、コーティングされていない面)をアセトンで清浄化し、2〜3分間空気乾燥させた。
【0143】
引張り試験スタブを、1層のFM1000接着剤を裏面に使用しかつ1層をコーティング面に使用して、各クーポンの対向面に貼り付けた。これは、構造体を硬化フィクスチャにアセンブルし、このフィクスチャを変換炉内に130分間(または、2個のフィクスチャが同時に炉内に置かれる場合は135分間)、338°F(170℃)の温度で、死荷重2.3lbf(10N)の下に置いて、接着剤を熱硬化することによって行った。炉からフィクスチャを取り出し、室温に冷却した後、死荷重を取り除き、構造体をフィクスチャから取り外した。
【0144】
各構造体を、破損するまで0.10インチ/分(2.5mm/分)の変位速度で引張り荷重の下に置くことにより、試験をした。各構造体のピーク荷重および破断モードを記録した。引張り接着強さは、ピーク荷重をクーポンの断面積で割ることによって、決定した。試験後、各クーポンについて、無効な試験であることを示し得る基材への接着剤の浸透が無いことを確実するために、検査をした。
【0145】
結果および考察
SEM/EDX
図6aから
図6cは、低倍率での異なるサンプルそれぞれの2次電子画像を示し、各サンプルタイプの外観を示している。各サンプルタイプの表面外観に、定性的な相違は見られない。表面は、丸味の付いた非晶質形態と、凝集した角度の付いた微粒子のいくらかの領域との混合物を有しており、コーティングプロセスで使用された粉末ストックの溶融が不完全であることを示唆していた。これは、金属クーポンをコーティングするための、真空プラズマ溶射などの溶融噴霧堆積プロセスの使用と矛盾しないものである。
【0146】
図7aから
図7cは、各サンプルの表面形態の、より高い倍率の2次電子画像を示す。形態の混合物は、各サンプルで見られず、非晶質上の材料といくらかの微細な角度の付いた微粒子との両方が存在している。微視的な亀裂がHA層の表面に存在した(
図7cで明らかである。)。同様の微粒子材料が、サンプルの全てで観察され、サンプルタイプまたは倍率に関係無くそれらの表面外観に明らかな定性的相違は無かったが、2次および後方検出画像の両方の後方電子シグナルは、サンプルAg−HA1およびAg−HA2中にミクロおよびナノスケールの銀粒子がさらに存在することを明らかにした。
【0147】
図8aから
図8cは、低倍率での異なるサンプルそれぞれの後方散乱電子画像を示し、各サンプルタイプの外観を示している。いくつかの明るい斑点/粒子が、銀含有サンプル上に見られる。多くの電子が、より高い平均原子数(Z)からなる材料から後方散乱され、後方散乱画像上に明るい領域を生成している。
図8bおよび8cでのより明るい、また非常に明るい領域は、銀に富む材料の部位に対応する(銀化合物は、後方散乱電子画像においてより暗い領域として現されるカルシウムHAよりも、高い平均Zを有している。)。より高い倍率の後方散乱画像が、
図9aから9cの各サンプルから示され、銀含有サンプル中の銀に富む材料の空間分布に細かな詳細が明らかにされている。
【0148】
HA対照サンプルの組成は、後方散乱電子によって視覚化されるように均質である(
図9a)。銀を含有するサンプルAg−HA1およびAg−HA2は、
図9bおよび9cにおいて組成が均質であることが示される。銀に富む材料の異なるサイズの範囲がわかるが、より多くの銀に富む材料は、サンプルAg−HA2に示される。銀に富む材料のサイズに関する画像分析評価は、銀含有サンプルに関して約15nmから10μmに及んでいた。より高い倍率の検査は、
図10aおよび10と
図11aおよび11bで、銀ベースの微粒子の異なる形状を強調している。各サンプルに関する薄い灰色領域(
図9cのオレンジの円および
図12の明らかに見える部分など)は、高倍率で見たときに、カルシウムHAの表面にまたは表面下に分散した多くのナノスケールの銀微粒子からなることが示されている。
【0149】
図13aは、EDX微量分析によって得られた元素ドットマップを示し、一方、サンプルAg−HA2の対応する領域の後方散乱画像を、
図13bに示す。ドットマップは、銀ドープ済みサンプルの後方散乱画像に示される明るいフィーチャおよび薄い灰色のフィーチャが、銀に富む材料に対応する(EDXマップの青い領域)という確認を行う。
【0150】
図14a〜bは、Ag−HA1サンプルおよびAg−HA2サンプルからのEDSスペクトル示す。矢印は、銀のピークエネルギーを示す。Ag−HA2は、コーティング中により高いAg含量を有することを示した。
【0151】
図15は、HA2サンプル上の個々の明るい粒子のスペクトルを示す(画像中、「x」がマークされたスポット)。これらの領域の銀濃度は、以下の画像に示されるように、個々の明るい粒子が無い領域の場合よりも非常に高かった。これらの明るい領域および付随するEDXAスペクトルは、XRD分析を介して先に発見された金属粒子の存在を、確かなものにしている。
【0152】
個々の明るい粒子から離れたコーティング領域も、
図16a〜cに示されるように、HA2サンプルに関するEDXAを介して評価した。これらの領域は、明るい個々の粒子に欠けているが、非常に低い濃度であっても銀の存在を示していた。これは、XRDおよびICP分析によって先に実証されたように、HAマトリックス内の銀置換の存在があることを確かなものにしている。
【0153】
X線回折
定性分析
3つのサンプルのXRDパターンを、
図17に示す(Error! Reference source not found)。サンプルHAは、ヒドロキシアパタイトに関する全ての予測されるピークを示す。Ag−HA1およびAg−HA2サンプルは、同じHAピークを示すが、金属銀に一致する38.15°にピークが付加されている(
図17のピークを示す矢印(Error! Reference source not found))。広いピークが31.1°に観察される。このピークは、非晶質相またはα型リン酸3カルシウム(α−TCP)またはβ型リン酸3カルシウム(β−TCP)に起因する可能性がある。38.15°のピークは、銀(Ag)からの回折であり、挿入図は、このピークの画像を拡大したものを示す。
【0154】
3.3.2 結晶化度分析
結晶化度を、ASTM F 2024−00およびISO 13779−3の両方の規格により測定した。両方の方法の結果を、Table 10(表10)に示す。ASTM F 2024−00は、外部標準(α−Al
2O
3)と比較した、38.5°から59°の間のピークの相対強度を測定する。これらのピークは、ヒドロキシアパタイトに見られる一般的な不純物に乱されていないが、これらのピークの相対強度は主ピークよりも低く、したがってこの方法はそれほど感度がよくない。ISO 13779−3規格は、100%ヒドロキシアパタイト参照物と比較した、10個の最も強いピークの相対強度を測定する。これらの測定は、表面から擦り取った粉末とは対照的に(ISO 13779−3に指定されるように)、「溶射したままの」サンプルに関して実施した。
【0155】
3.3.3 銀分析
2つのサンプルAg−HA1およびAg−HA2の銀含量を、純粋な銀サンプルと比較した相対強度によって測定した。銀含量の結果を、Table 10(表10)に示す。Ag−HA1サンプルは、2.0±0.5%の銀含量を有し、Ag−HA2サンプルは、2.5±0.5%の銀顔料を有する。
【0157】
3.5 Ti
6Al
4V基材に対するコーティングの引張り接着強さ
引張り接着強さの結果を、
図18に報告する。Ag−HA1コーティングサンプルに関する引張り接着強さは、全ての試験サンプルの中で最も低くかったが、この群の最低値であっても、最小の接着強さが15MPaであることを必要とするISO要件を依然として満たしていた。全ての欠陥は、コーティング内に生じた。銀含有HAコーティングと純粋なHAコーティングとの破断面の外観に、明らか相違は無かった。
【0158】
(実施例3)
生物医学的適用例に関する勾配コーティング
図19は、下記の方法によって調製された本発明の実施形態の一例を示す(VPS HA(1512)およびVPS AgHA(1514)を含有する勾配コーティングと、β−TCP、Ag、およびブピバカインを含有するPLGAコーティングの上層(1516)とを備えたインプラント基材(1510)[例えば、Ti
6Al
4V])。
【0159】
1. HA/Ag−HAコーティングの調製:
Ag−HA粉末(45〜125μm)を、イオン交換反応を使用して変性させた。コーティングプロセスのパラメータは、医療用インプラント用の本発明者らの製造設備で生成された、標準的な真空プラズマ溶射HAコーティングと同じであった。VPS HAコーティングを最初に付着させ、次いでVPS Ag−HAコーティングを付着させた。コーティングしたサンプルは、PLGAコーティングに供する準備ができた。
【0160】
2. 銀変性β−TCP粉末の調製:
1). 0.5gのβ−TCP粉末(D
50 約3μm)および145.8mgの硝酸銀を、55mLの脱イオン水および蒸留水に溶解し、60℃で1時間撹拌した。
2). 水を、60℃で一晩蒸発させた。
3). 次いで乾燥粉末を摩砕した。あるいは、銀変性β−TCPを凍結乾燥して水を除去することもでき、摩砕ステップを必要としない。
4). 銀変性粉末を、引き続き400℃で2時間焼結した。
【0161】
3. PLGA溶液の調製:
1). 0.75gのPLGAペレット(85:15)を、ジクロロメタン15mL中に溶解し、一晩撹拌した。
2). 0.25gの銀変性β−TCPおよび100mgのブピバカイン粉末を、PLGA溶液中に溶解し、一晩撹拌した。Asdasd
【0162】
4. PLGAコーティングの付着:
VPS HA/VPS Ag−HAコーティングしたTi
6Al
4V基材を、PLGA溶液に浸漬し、垂直に引き出し、次いで一晩空気乾燥した。
【0163】
結果:
上部PLGA層の表面形態を、
図20および21に示す。EDXAスペクトルから得られた定量分析を、Table 11(表11)に示す。
【0165】
(実施例4)
図22は、本発明の別の実施形態を示す(VPS HA(1812)およびVPS AgHA(1814)を含有する勾配コーティングと、β−TCP、Ag、およびブピバカインを含有するPLGAコーティングの層(1816)と、β−TCP、Ag、およびブピバカインを含有するPLGAビーズ層(1818)とを備えたインプラント基材(1810)[例えば、Ti
6Al
4V])。
【0166】
これは、Agおよびブピバカインの量および放出所要時間を、PLGAコーティングの上面へのPLGAビーズの添加を通して全コーティング表面積を増大させることにより、制御できることを実証する一例である。ブピバカインは、身体環境で死素早い放出プロファイルを有することが知られていた。連続した長期にわたる放出をもたらすために、ブピバカインをPLGAビーズに組み込んで、身体環境におけるその分解速度を遅くした。
【0167】
方法
1. PLGAビーズの調製:
1) 銀変性β−TCP粉末を、実施例3の場合と同じ方法で調製した。
2) 0.25gの銀変性β−TCPおよび100mgのブピバカイン粉末を、PLGA溶液(0.75gのPLGAを15mLのジクロロメタンに溶かしたもの)に溶解し、一晩撹拌した。
3) 5gのドデシル硫酸ナトリウムを500mLの脱イオン水および蒸留水に溶解した。
4) 銀変性β−TCPおよびブピバカイン粉末を含有するPLGA溶液を、激しく撹拌しながらSDS溶液に1滴ずつ添加した。水中油中水2重乳化から形成されたビーズを洗浄し、24時間撹拌した後に1%SDS中に収集した。
5) 収集したPLGAビーズを、やはり銀変性β−TCPおよびブピバカインを含有する上部PLGAコーティングに付着させた。
6) PLGAビーズをまとめてかつPLGAコーティングに、70℃で12時間焼結した。
【0168】
結果:
表面形態を、
図23、24、および25に示す。表面組成を、EDXAを使用して分析し、その結果をTable 12(表12)に示した。
【0170】
(実施例5)
放出プロファイル
調製されたコーティングからの、Ag、Ca、およびブピバカインの放出を、ICP分析およびUV分光分析によってそれぞれ確認した。
【0171】
コーティングサンプルを3mLのPBSに、37℃で24および48時間浸漬した。各時点で、ブピバカインの放出を、265nmで分光測光法により測定した(Nanodrop、Thermo)。ブピバカイン標準物質は、適切な量の薬物をPBS中に溶解することによって調製した。PBSは、ブランクとして使用した。ブピバカイン濃度を、Table 13(表13)に示す。
【0173】
24および48時間でのPBS中のAg、Ca、およびPの濃度を、Table 14(表14)に示した。
【0175】
分解に関する研究は、コーティングが、鎮痛作用としてブピバカインを、抗菌作用としてAgイオンを、また骨伝導作用としてCaを放出できることを確認した。
【0176】
(実施例6)
合成および特徴付けの方法の例
合成
1). VPS勾配コーティング: Ti
6Al
4V基材+純粋なVPS HA層+3%VPS AgHA層
2). PLGA(85:15)ペレットをジクロロメタンに溶解し、一晩撹拌する。
3). β−TCPを硝酸銀溶液に2時間浸漬し撹拌して、イオン交換反応を行う。
3). ブピバカインを上記TCP+硝酸銀溶液に添加する。
4). ブピバカイン+TCP+硝酸銀溶液を一晩乾燥する。
5). ブピバカイン+TCP+硝酸銀の乾燥粉末を、溶解したPLGA溶液に添加し、一晩撹拌する。
6). 上記PLGA溶液をブピバカイン+TCP+硝酸銀と共に使用して、VPS勾配コーティングを浸漬コーティングする。
【0177】
特徴付け
1). SEM上面図および断面図
2). EDAX−上層および断面の元素組成(Ca、P、Ag)
3). XRD−上層の相組成(主にブピバカインを検出するため)
4). XRDの代替例: 上層をPBSに溶解し(3日)、その後、ブピバカインを分光分析する。
【0178】
(実施例7)
合成および特徴付けの方法のその他の例
合成
1). ゾルゲル浸漬コーティングプロセスを行って、Ag勾配コーティング、即ちTi
6Al
4V基材+純粋なCa−P層+2%Ag−Ca−P層を作製する。
2). PLGA(85:15)ペレットをクロロホルムに溶解する。
3). 鎮痛剤(例えば、店頭のTylenol)およびAg−CaP(2重量%Ag)粉末をPLGAに添加する。
4). 調製したPLGAポリマー溶液を使用して、ゾルゲルAg−Ca−Pサンプルを浸漬コーティングする。
【0179】
特徴付け
1). PBSおよびSBFでの分解前後のSEM上面図
2). 深さ情報を得るためのToF−SIMS
3). XRD−相組成
4). SBFでの(3日)in vitro生物活性評価
5). PBSに溶解して(24時間、48時間、72時間)、Ag濃度を測定する。
【0180】
(実施例8)
変性抗菌リン酸カルシウムコーティングによる多孔質表面インプラントの骨結合
ゾルゲル形成されたAg変性リン酸カルシウム薄膜オーバー層(厚さ約1ミクロン)を用いてまたは用いないで調製された、Ti
6Al
4V合金多孔質表面インプラントの機械的引出し試験の結果を、本明細書に報告する。簡単にまとめると、この研究は、内大腿顆に横方向に埋め込まれた多孔質表面インプラント(Innova−Sybron Dental Productsから獲得したEndopore(登録商標)歯科インプラント)を有する、1グループ10匹のウサギの4グループを使用した(多孔質領域は、海綿骨質に面している。)。インプラントの位置決めおよび埋込み手順は、参照によりその全てが本明細書に組み込まれているTacheら(2004)、Int J Oral Maxillofac Implants、19: 19〜29、Ganら(2004)、Part II: Short−term in vivo studies、Biomaterials、25: 5313〜5321、Simmmonsら(1999)、J Biomed Mater Res.、47: 127〜138に記載されているものと同様であった。「試験」インプラント(動物当たり1つ、右足または左足−ランダムに位置決め)は、Ti合金インプラントの焼結多孔質面上に重なるAg変性リン酸カルシウムコーティングで調製した。Ti
6Al
4V合金粉末(44から150ミクロンの粒度)約3層からなる多孔質表面領域を焼結して、厚さ約300ミクロンであり多孔率35体積%(近似値)でありかつ平均粒度が75から100ミクロン範囲の多孔質層が形成されるようにした。相互接続した独立開口構造は、阻害されない骨内殖によってインプラント固定を実現するのに適切であった。この粒子および孔径は、整形外科用インプラントに従来使用されてきたものよりいくらか小さいが、許容されることが証明され、実際に寸法上の制約が生じる歯科用インプラントの適用例に好ましいことは、注目に値する。
【0181】
ゾルゲル形成リン酸カルシウムオーバー層については、先に研究がなされており(しかし、Ag+変性を差し引く。)、未変性形態では、より速い骨内殖を促進させることが観察された(即ち、骨結合が高められた。)。これら初期の研究に基づいて、Ag変性リン酸カルシウムコーティングが、多孔質表面インプラントへの骨内殖を増大させると共に初期の埋込み後の期間中のインプラント部位での感染の可能性を低下させる、抗菌および骨伝導コーティングとして、Smith & Nephewにより提案され開発された。極めて重大な初期の埋込み後の治癒期間中の、この増大した感染抵抗力は、局所感染および炎症応答をもたらす微生物の進入が骨内殖を阻害しかつインプラントの不全をもたらす可能性があるので、望ましい。したがって、この初期期間中の細菌感染の可能性を低下させることは、骨内殖を通した固定に合わせて設計された整形外科用インプラントの信頼性を改善するのに、極めて有益と考えられる。
【0182】
材料および方法
2つの異なるAg+含有リン酸カルシウム配合物について、調査した。これらの配合物は、この報告において、「低」および「高」Agレベルと示される(以下に示される結果では、LC=低Ag+(0.9重量%)リン酸カルシウムおよびHC=高Ag+(2.5重量%)リン酸カルシウムコーティング)。動物研究は、LCインプラントが20匹のウサギの大腿顆に、また「対照」インプラント(即ち、リン酸カルシムが無い(NC)ゾルゲルコーティング)がその他の大腿骨に配置されるように、一方、HCインプラントは残りの20匹のウサギに、「対照」インプラントと同様に配置されるように設計された。各グループからの10匹のウサギを、インプラントの配置後9日間そのままにし、次いで安楽死させ、一方、別の10匹のウサギは、16日間そのままにした後、犠牲にした。これは、10個のNCの9日間インプラントと比較するための、9日間の埋込み後の10個のLCインプラントと、16日間のNCインプラントと比較するための、同様の数のLCインプラントを提供した。同様に、2つのグループの10個のHCインプラントについて、9および16日間のインプラント滞留期間後に研究を行い、NCインプラントと比較した。
【0183】
確実なインプラントの固定をもたらすための、効果的な骨内殖に関するインプラントの性能を、機械的引出し試験(上記にて論じた、先に報告された研究のように)、ならびに動物を犠牲にした後のインプラント−組織サンプルの一部の組織学的検査および評価によって、評価した。さらに、引き出されたインプラントのいくつかを、走査電子顕微鏡での2次電子撮像によって検査して、インプラント−組織界面領域を特徴付け、存在し得る任意の骨状または繊維組織フィーチャを特定した。機械的引出し試験の利点は、この試験によって、顕微鏡検査を通して観察される選択領域ではなく完全な界面に関する情報が得られることである。機械的試験用の全ての試験片は、動物を安楽死させ大腿顆領域を切開した後に、生理食塩液中に保存し、犠牲後2時間以内に試験をした。
【0184】
上述のグループ当たり10個のサンプルのうち8個を、機械的試験を行い、残りの2個のサンプルを、組織サンプル調製物に使用した。引出し試験では、インプラントの適正な位置合わせを確実にするオーダーメードのフィクスチャに骨インプラントサンプルを取り付け、1mm/分の速度の変位制御下で引出し力を加える。多孔質表面インプラントのテーパ付き形状および慎重なサンプルの位置合わせによって、測定された引出し力および界面剛性に寄与し得る骨インプラント接合部で作用する摩擦力が、確実に回避された。最大引出し力および荷重変位曲線の最大正接勾配を使用して、引出し抵抗および界面ゾーン剛性を決定した。
【0185】
上述のグループ当たり10個のサンプルのうち2個を、ウサギを犠牲にした後に収集し、10%緩衝ホルマリンに固定し、メタクリル酸メチル中に包埋するよう処理した。得られたブロックを、ダイヤモンドウエハ形成ブレードを使用して切断し、その中央平面でインプラントの長軸に沿って、厚さ約200マイクロメートルの切片を生成した。次いでこれらのサンプルをスライドガラスに載せ、慎重に摩砕し、研磨して、厚さ約30から40ミクロンの、石灰質除去がなされていない切片を得た。「薄い」切片を、0.3%トルイジンブルーと2%ホウ酸ナトリウムとの1:1混合物で、50℃で15分間染色し、次いで0.3%のライトグリーンを2%酢酸に溶かした溶液で、室温で3分間染色した。切片を、光学顕微鏡により検査し、下記のように外観を記録した。
【0186】
種々の対のインプラントに関し、リン酸カルシウムでコーティングされた「試験」インプラント対コーティングされていない「対照」インプラントの、最大引出し力および測定された界面ゾーン剛性値の、統計分析(1つの変数パラメータとしての、インプラント設計による分散分析)を行った。したがって、9日間のLCインプラントを、反対側のウサギ大腿顆に配置された対応する9日間のNCインプラントと比較し、9日間のHCインプラントを、対応する9日間のNCインプラントと比較し、16日間の対になったインプラントを同じ方法で比較した。さらに、9日間のNCインプラントを、16日間のNCインプラントと比較し、9日間のHCインプラントおよび16日間のHCインプラントを同様に比較した。
【0187】
結果および考察
本発明の研究から得た機械的試験結果を、Table 15(表15)に示す。
【0189】
統計的試験は、サンプルの全ての対に関し、「試験」インプラントと「対照」インプラントとの間で最大引出し力と界面剛性の両方に有意差が無いことを示した(有意差はp<0.05に対応する。)。しかし、LCインプラントおよびHCインプラントの両方に関しては、9日間のサンプルに比べて16日間のインプラントの引出し力に、非常に有意な増大があった(p<0.001)。界面ゾーン剛性は、9日間から16日間までで増大も示し、この増大は有意であったが(p=0.048)、その差は、引出し抵抗で観察された値ほど大きくなかった。この興味ある結果は、9から16日でより広範な組織および骨内殖が生じるので(即ち、「より強靭な」界面ゾーンが生じる。)、亀裂の伝播および破断に対して界面ゾーンがより強い抵抗をもたらすことを示唆している。9から16日間の埋込み期間の増大は、このウサギ大腿顆埋込みモデルで先に報告された結果と一致している。
【0190】
興味深いことに、Ag+変性リン酸カルシウムオーバー層は、16日間の埋込み期間後に界面剛性値をもたらし、これは9日間のインプラントでの値よりも平均して高いが、著しく異なるものではなかった。焼結したままのもの、リン酸カルシウムでコーティングされていないもの、およびAg+変性リン酸カルシウムコーティング(低および高Ag+)の9日間によるインプラント除去に対する抵抗力は、組織(骨)内殖がコーティングインプラントで生じたことを示した。
【0191】
引出しインプラントのSEM検査
機械的試験を行った9日間のインプラントのいくつかを、2次電子放出走査顕微鏡によって検査した。
【0192】
図26から29までは、収集された画像の8つを示す。
図26aおよびbは、9日間埋め込んだウサギ#1Aから得られた、リン酸カルシウムでコーティングされた低Ag+インプラント(CL−9)の画像を示す。このインプラントは、より低い界面剛性および引出し力を示したが、それにも関わらず2次電子画像は、鉱質化組織の特徴を示す領域で広範な組織接着および内殖を示す。
図27aおよびbは、同じ動物の他方の膝から得られた、コーティングされていない「対照」インプラント(NCL−9)の画像である。このインプラントは、反対側の足からのコーティングされたインプラント(CL)に比べ、より高い剛性および引出し値を示し、9日間の埋込み期間によって、予測された広範な組織接着および鉱質化組織の内殖を示した。
図28aおよびbと29aおよびbは、抽出された高Ag+含有リン酸カルシウムコーティングインプラント(
図28aおよびb)と、対応するコーティングされていない「対照」インプラント(
図29aおよびb)との画像である;(ウサギ#1B、即ち、それぞれインプラントCH−9およびNCH−9を含有する。)。
【0193】
非機械的試験インプラントのBS−SEM検査
BS−SEMを使用して、組織−インプラント界面ゾーンの画像を収集し、定量的画像分析を、検査セクションで行った。定量的評価(Quantimet Image Analysisプログラム)では、その多孔質コーティング領域の長さに沿ったインプラント基材からの、幅約220マイクロメートルのエンベロープを選択した(即ち、インプラントの長さに沿った多孔質コーティングの末端に到達するが、より周辺領域は除外される、エンベロープの幅;インプラントの端部も除外した。)。この領域を、Quantimate画像分析ソフトウェアを使用して分析した。孔内の骨の領域%を決定した(即ち、%[骨面積/孔面積])。プログラムは、名目的には35から40体積%と設計される、多孔質コーティングの多孔率%の決定も可能にした。
【0194】
図30から35は、全てのサンプルタイプの典型的なBS−SEM画像を示す。BS−SEM画像は、「対照」インプラントと同様に、CPオーバー層を有するインプラントでは2つの期間で、鉱質化組織(骨)内殖(薄い灰色領域)を明らかに示す。利用可能な多孔度内での骨%に関する定量的画像分析の結果を、Table 16(表16)に示す。分析したセクションでは、インプラントの長さを4つのセクションに分割して分析に供し、それによって、分析用により高い倍率の画像が得られる。次いで4つの測定値を平均して、各インプラントごとの骨内殖%(および多孔率%)を得た。全てのセクションからのデータがTable 16(表16)に含まれ、インプラントの長さに沿って観察されたばらつきが示されている。これは、インプラントが配置される海綿骨質の構造から見ると、意外なことではない。各インプラントごとに、平均および標準偏差を決定した。1元配置ANOVAを行って、それぞれのウサギごとに、相対する足のインプラント同士で統計的な差があるかどうか決定した。統計的有意性を、p<0.05と見なした。異なる領域(骨、Ti合金粒子、および充填されていない孔、または骨で少なくとも充填されていないもの)は、Quantimate撮像ソフトウェアによって容易に区別され、利用可能な孔内に骨充填%の目標決定が可能になった。動物内での比較のみを行った(即ち、各動物での左足および右足)。これは、全ての異なる条件(低S−CP、高S−CP、対照、9日および16日で)を含め比較用に7組を提供し、2匹の動物については各条件を評価し、1つを例外とした。残念なことに、1つの失われたインプラント(ウサギ2C)は、含めることができなかった。
【0196】
分析されたサンプルが少数にも関わらず、定量的画像分析は、いくつかの興味深い追加の知見を示唆している。
【0197】
9日間のデータは、2匹のウサギ(8Aおよび8B)において、骨内殖%がS−CP変性インプラント(8A、低S−CPおよび8B高S−CP)の場合にそれぞれの「対照」インプラント(CPオーバー層無し)よりも著しく高かったことを示す。分析を行ったその他2匹の9日間のウサギは、著しい相違を示さなかった。
【0198】
16日間のCP変性インプラントと「対照」インプラントとの骨内殖に、著しい相違は無かった。
【0199】
前述のように、これらの知見は、S−CPオーバー層が骨内殖を阻害しないことを示す。事実、BS−SEM画像および定量的画像分析は、S−CPオーバー層の付加によって骨内殖のより速い速度が促進され得ることを示唆している。
【0200】
定量的画像分析は、インプラントの多孔率%を確認するのにも使用した。分析された17個の切片の、Quantimetソフトウェアを使用して決定された多孔率%は、43.1±2.7%に等しかった。
【0201】
ウサギ用インプラントの組織学的評価
検査した切片は、40匹のウサギから選択された8匹のウサギから回収された、16個の組織−インプラントブロックから調製し、これらを研究に使用した。組織切片調製物用のこれら16個のサンプルの中で、インプラントは1個のブロックに存在しなかった。そのインプラント(サンプル2C、16日間「低」Ag+)は、おそらく骨結合がなされておらず、配置後にインプラント部位から移動していると考えられる。残りの64個のインプラントを機械的試験(引出し試験)にかけて、上記にて論じたようにインプラント−骨界面ゾーンの剪断強度および界面剛性を決定した。
【0202】
高量または低量で処理されたインプラントと対照のインプラント(処理されていない)との間に、明らかな相違は無かった。経時的な骨内殖の成熟は、全ての動物で同じであった。処理されたインプラントに反応は観察されず、周囲を取り囲む骨に明らかな細胞死は無かった。
図36から41は、全てのインプラントに関する骨内殖の領域を示す、各条件の代表的な顕微鏡写真を示す。この知見は、上記にて報告された機械的引出し試験結果に一致している。
【0203】
まとめおよび結論
1. 引出し試験結果および引出しインプラントのSEM画像は、確実なインプラント固定をもたらす組織内殖が、Ag+変性リン酸カルシウムゾルゲル形成コーティングのオーバー層を備えた多孔質表面インプラントの場合に9日間で生じることを裏付けている。
【0204】
2. 引出し試験は、より低いまたはより高いAg+添加を行った変性コーティングが、同様に機能することを示唆している。
【0205】
3. 予測されるように、インプラント除去のための引出し力は、埋込み期間の増大と共に増大し、9日間のサンプルに比べて16日間の埋込みサンプルのほうが著しく高い引出し力を記録した。しかし、界面ゾーン剛性値は、9日間と16日間の埋込みサンプルに関して著しく異なっていなかったが、平均値は、16日間のインプラントのほうが高かった。
【0206】
4. 本発明の研究から得た、変性リン酸カルシウムコーティングインプラントに関して記録された引出し力は、先の研究(Tacheら)で報告されたものと著しく異なっておらず、著しく高い界面ゾーン剛性値が観察された。より高い界面剛性は、先の研究で使用されたより長いインプラント(9mm対7mmの長さ)に起因していたと考えられる。
【0207】
5. 多孔質コーティングTi
6Al
4Vインプラント上に堆積されたゾルゲルリン酸カルシウム被膜へのAg+の添加は、骨内殖を阻害しない。試験をした銀の2つの濃度は、同様の結果をもたらすように見えた。
【0208】
(実施例9)
HA−Agコーティングの抗菌活性
方法
実施例2から得たコーティングを、その抗菌活性について評価した。さらに、負の対照(コーティングされていないTi
6Al
4V基材)および正の対照(Acticoat 7(Smith and Nephew)−抗菌特性を有することが知られているナノ結晶質銀含有創傷包帯)も評価した。
【0209】
サンプル培養法
約10
4cfu/mlを含有する試験生物の懸濁液を、一晩勾配培養物を回収することによって調製した。試験クーポンを、ASTM規格E2149−01(動的接触条件下で固定化抗菌剤の抗菌活性を決定するための標準試験法)に基づく方法で試験した。
【0210】
サンプルを、低蒸発性の蓋を備えた24ウェル滅菌組織培養プレートの平底に入れ、各サンプルタイプごとに4種類を、試験がなされる各時点ごとに調製した。さらに、Acticoat 7の正の対照サンプルおよび負の培養対照を、設定した(時点当たりそれぞれ3複製物)。各サンプルに、試験生物懸濁液2mlを接種し、プレートをパラフィンで密封して、培養物の蒸発を最小限に抑えた。サンプルを、37℃で、150rpmで撹拌しながら適切な時間インキュベートし、超音波カウントを24、48、および72時間で行った。超音波カウントは、正および負の方法の対照サンプルに適切ではなかった。時間0のサンプルは、コロニー化が引き起こされる時間が無く、関連ある情報を全くもたらさないので、超音波カウントで採取しなかった。
【0211】
表面から離れて示される任意の活性を示す、追加の支持情報では、0、24、48、および72時間で試験接種材料からカウントを得て、懸濁液中のカウントのlog減少を計算した。3つの複製物を、全ての時点でサンプル採取したが、それはいつでも制約があり得るからである。
【0212】
超音波カウント
洗浄溶液中の超音波処理は、金属表面から接着細胞を除去してその数を評価する、認められている方法である。本明細書では、その処理を、種々のレベルの細菌増殖が銀含有HAコーティングおよび非銀含有HA対照のサンプルで見られるか否か決定するのに使用した。
【0213】
クーポンをPBSで洗浄し、次いで過剰な量を吸引除去し、このプロセスをさらに5回繰り返して、全体で6回の洗浄を行った。クーポンを、9mlのSTS(0.85%塩および1%Tween 20および0.4%チオグリコール酸ナトリウム)を15mlのFalcon管に入れたものの中に置き、ポリスチレンフロートを使用して超音波処理水浴中に浮かべた。次いでサンプルを、60Hzで10分間超音波処理した。
【0214】
得られた超音波処理物を、Maximum Recovery Diluent(MRD)で10
−5まで希釈し、全ての希釈溶液を、重複Aerobic Count Petrifilm(3M)にプレートアウトした。次いで得られた被膜を少なくとも48時間、32℃でインキュベートし、その後、ペトリフィルム読取器を使用して数えあげた。
【0215】
超音波処理カウント結果
図42および43は、超音波処理カウントの結果を示す。表面カウントのより大きな減少は、eMRSA 15(表皮MRSA 15、UK病院分離株)ではなく表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)で見られたが、グローバックが72時間の時点で、初期接種および均等な対照に等しいレベルまで見られた。
【0216】
懸濁液からのカウント
適切な期間の後、接種材料1mlを、複製物1から3よりサンプル処理した(全てのサンプルの中で、STS 9mlに添加)。次いでこの1mlを2重に播き、1mlを連続希釈して、MRDにおいて、負の対照に関しては時間0で10
−4に、24時間で10
−5に、その後10
−6にし、コーティングサンプルおよび正の対照に関しては、全ての時点で10
−5にした。
【0217】
コーティングされていないサンプルおよび培養対照の場合、0および24時間では、それぞれ10
−2以下および10
−3以下の希釈溶液を、重複Aerobic Count Petrifilm(3M)にプレートアウトした。コーティングサンプルの場合、全ての希釈溶液を、Aerobic Count Petrifilm(3M)に2重に置いた。得られたプレートを、32℃で少なくとも48時間インキュベートし、その後カウントした。
【0218】
懸濁液カウント結果
図44および45は、懸濁液カウントの結果を示す。懸濁液からのカウントは、時間0からのカウントの減少を、したがってlog減少を計算するのに使用することができる。eMRSA 15に対し、より低い用量の銀は、死滅をほとんど示さなかったが、懸濁液中の数を固定的に保持した。より高い銀用量は、検出限界まで死滅させ、そこでの数を維持した。両方の用量の銀HAは、最初に表皮ブドウ球菌を低レベルにまで死滅させるが、72時間で初期生物に匹敵するレベルにまで、生物のグローバックがあった。
【0219】
(実施例10)
VPS Ag/HAサンプルの細胞傷害性試験
実施例2からのコーティングを、細胞傷害性に関して評価した。さらに、コーティングされていないTi
6Al
4Vクーポン(非細胞傷害性であることが知られている負の対照)も評価した。
【0220】
方法
材料
コーティングされていないTi
6Al
4Vクーポン
VPS−ヒドロキシアパタイト(HA)クーポン−バッチTO035A
低用量銀(1%)を有するVPS−HA(HA1)−バッチTO035B
中用量銀(2%)を有するVPS−HA(HA2)−バッチTO035C
ポリ塩化ビニルディスク−バッチTO024−90−02−01
高密度ポリエチレンディスク−バッチTO024−90−02−02
α−最小必須培地イーグル(α−MEM)および10%ウシ胎児血清−#9696、#9662、#9707
トリプシン−EDTA−Lot 058K2373
トリパンブルー−Sigma T8154 Lot 088k2379およびLot 047k2349
DAPIを有する蛍光用Vectashield封入剤−Vector H−1200 Lot UO403
WST−1試薬−Roche 11644807001 Lot 14473200
【0221】
条件培地の調製
ISO 10993指針を使用して、表面積と体積との比を、全ての試験および対照サンプルに関して計算して、サンプルの液体抽出物を生成するのにサンプル当たり必要とされる培地の体積を決定した(条件培地と呼ぶ。)。HA、HA1、HA2、およびチタンクーポンの場合、必要とされる培地の体積は、1.23ml/クーポンであり、4つのクーポンが、6ウェルプレートの1つのウェルに置かれ(n=4)、合計体積は4.92mlであった。PVCおよびHDPEディスクに必要とされる培地の体積は、1.33ml/ディスクであり、4つのディスクが6ウェルプレートの1つのウェルに置かれ(n=4)、合計体積は5.32mlであった。6ウェルプレート内のこれらグループのレイアウトは、プレートのレイアウトの効果を減じるのを助けるために、ランダムにした。これらのプレートと平行に、6ウェルプレートは、添加される培地を5.32ml/ウェル有し、このグループがアッセイ対照として使用されるだけのときに組織培養プラスチック群(TCP)として作用し、したがって、必ずしもランダム化に含める必要は無い。試験材料と共にインキュベートされた培地は、α−MEMであり、これら5つのプレートを、37℃で、5%のCO
2中7日間インキュベートした。
【0222】
細胞播種
MC3T3−E1細胞を、SOP/CB/006に従いカウントするために継代した。細胞は、5×10
4/cm
2で播くのに必要とされた。この密度で、2×96ウェルプレート上の168ウェルに播き、細胞は、P13であった。細胞を、48時間、37℃の5%CO
2中で培養した。
【0223】
条件培地の適用
培地を、96ウェルプレートから取り出し、適切な条件培地100μlに置き換えたが、これは、n=6/サンプル群/処理/対照群であった。2×96ウェルプレートを、37℃で、5%CO
2中で24時間インキュベートした。
【0224】
WST−1アッセイ
WST−1試薬を使用して、条件培地に曝された細胞の代謝活性を定量した。WST−1試薬10μl/ウェルを、96ウェルプレートのそれぞれに添加した。プレートを、37℃で1時間、5%CO
2中でインキュベートし、1分間振盪させ、次いでMultiskanプレートリーダー(asset番号00005247)で、それぞれ試験波長および参照波長の450nmおよび650nmで読み取った。参照波長を、各ウェルごとに試験波長から差し引き、各群ごとの平均を計算し、プロットすることによって、細胞の代謝活性を実証した(
図46)。
【0225】
結果および考察
マイコプラズマ試験
DAPI染色によるマイコプラズマ試験を、SOP/CB/069に従い実施した。この実験で使用した細胞は、マイコプラズマ陰性と見なした。
【0226】
WST−1アッセイ
刺激を与えたHA1およびHA2の群は、正の細胞傷害性対照群PCVおよび負の対照群HDPEに比べ、この実験でMC3T3−E1細胞の代謝活性を増大させた。しかし、HAのみに曝された細胞の代謝活性は、2つのAg含有群のどちらよりも高かった。Ti
6Al
4V群に曝された細胞の代謝活性は、全てのHA含有群および負の対照HDPEの場合よりも低かった。しかしTi
6Al
4Vは、正の対照の2倍のレベルまで、細胞の鉱質化を刺激した。TCP群は、細胞対照群として使用し、この群の細胞は、負の対照HDPEと同様のレベルで代謝した。チタン群の細胞の代謝活性は、2つの負の対照よりも低かったが、誤差棒で示されるように、このデータ集合から得たデータは大きな広がりがあったことに留意されたい。
【0227】
結論
銀が1および2%のVPS Ag/HAサンプルは、MC3T3−E1細胞の代謝活性を、正および負の対照よりも高いレベルまで増大させた。しかし、これらの群から得た細胞の代謝活性は、HAだけの群の細胞よりも低かった。
【0228】
当業者なら、本発明の広がりおよび範囲は、上述の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきでなく、本明細書に添付される任意の特許請求の範囲およびそれらの均等物によってのみ定義されるべきことが理解されよう。