特許第5788327号(P5788327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5788327-膜分離活性汚泥法に用いる添加剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788327
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】膜分離活性汚泥法に用いる添加剤
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20150910BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20150910BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C02F3/12 S
   C02F3/34 Z
   C02F1/44 F
   C02F3/12 B
   C02F1/44 C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-535357(P2011-535357)
(86)(22)【出願日】2010年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2010066947
(87)【国際公開番号】WO2011043232
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年9月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-231554(P2009-231554)
(32)【優先日】2009年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 大祐
(72)【発明者】
【氏名】堀 克敏
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−075754(JP,A)
【文献】 特開2009−066589(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/097269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 1/44
C02F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水を膜分離活性汚泥法によって処理する際に活性汚泥に添加する添加剤であって、ウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する微生物を含み、
前記微生物が、
ウロン酸ユニット含有多糖類のみを炭素源とする培地に、活性汚泥、土壌、湖沼水及び河川水よりなる群の少なくとも一つを添加して培養し、該ウロン酸ユニット含有多糖類分解能を有するコロニーから微生物を採取する工程、及び
該採取した微生物を培養及び/又は濃縮する工程
を含む方法で得られる微生物である、添加剤。
【請求項2】
前記多糖類が、ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し5〜70%含む多糖類である、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記多糖類が、ポリガラクツロン酸、キサンタンガムおよびヒアルロン酸から選択される1種または複数種の多糖類である、請求項1または2に記載の添加剤。
【請求項4】
微生物を含む活性汚泥を収容した活性汚泥槽に有機性廃水を流入させる流入工程と、
前記活性汚泥槽にて前記有機性廃水を生物処理し、該活性汚泥槽に設置した分離膜装置によって処理液を固液分離する分離工程と、を含む、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理方法であって、
前記活性汚泥にウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する微生物を含む添加剤を添加し、
前記添加剤中の微生物が、
ウロン酸ユニット含有多糖類のみを炭素源とする培地に、活性汚泥、土壌、湖沼水及び河川水よりなる群の少なくとも一つを添加して培養し、該ウロン酸ユニット含有多糖類分解能を有するコロニーから微生物を採取する工程、及び
該採取した微生物を培養及び/又は濃縮する工程
を含む方法で得られる微生物である、有機性廃水の処理方法。
【請求項5】
前記活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定し、該ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lに達したときに、前記添加剤を添加する、請求項4に記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項6】
微生物を含む活性汚泥を収容した、有機性廃水を生物処理する活性汚泥槽と、
該活性汚泥槽中またはその後段に設置した、生物処理水を固液分離する分離膜装置と、
該活性汚泥槽中の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定する濃度測定手段と、
該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、ウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する微生物を含む添加剤を、該活性汚泥中に添加する添加剤添加手段と、
を含む、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理装置であって、
前記添加剤中の微生物が、
ウロン酸ユニット含有多糖類のみを炭素源とする培地に、活性汚泥、土壌、湖沼水及び河川水よりなる群の少なくとも一つを添加して培養し、該ウロン酸ユニット含有多糖類分解能を有するコロニーから微生物を採取する工程、及び
該採取した微生物を培養及び/又は濃縮する工程
を含む方法で得られる微生物である、有機性廃水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水を膜分離活性汚泥法によって処理する際に、安定した処理を達成するための添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理方法の一つとして、活性汚泥槽に分離膜装置として膜カートリッジを浸漬し、ろ過により活性汚泥と処理液との固液分離を行う膜分離活性汚泥法がある。この方法は活性汚泥(Mixed Liquor Suspended Solid:MLSS)濃度を5000から20000mg/Lと極めて高くして固液分離を行うことができる。このため、活性汚泥槽の容積を小さくできる、あるいは活性汚泥槽内での反応時間を短縮することができるという利点を有する。また膜によるろ過のため、処理水中に浮遊物質(Suspended Solid:SS)が混入せず最終沈殿槽が不要となり処理施設の敷地面積を減らすことができる。更に、活性汚泥沈降性の良否を問わずろ過ができるため、活性汚泥管理も軽減される。このように多くのメリットを有する膜分離活性汚泥法は、近年急速に普及している。
【0003】
膜カートリッジには平膜や中空糸膜が用いられているが、中空糸膜を用いれば、膜自身の強度が高いため、有機性廃水から混入する夾雑物との接触による膜表面へのダメージが少なく、比較的長期間の使用に耐えることができる。更に、ろ過方向とは逆方向にろ過水等の媒体を噴出させて膜表面の付着物を除去する逆洗を行うことができるという利点も有する。しかしながら、活性汚泥中の微生物が代謝する生物由来ポリマーや活性汚泥が膜面に付着することによって有効な膜面積が減少し、ろ過効率が低下するため、安定にろ過を行なうことができる期間は限られる。
【0004】
このような問題に対して、例えば特開2000−157846号公報(特許文献1)には、膜カートリッジの下部から空気等による曝気を行い、膜の振動効果と上方への気泡の移動による撹拌効果から、中空糸膜表面および中空糸膜間の活性汚泥凝集物や原水から持ち込まれる夾雑物を剥離させ、それらの蓄積を防ぐ方法が開示されている。この方法では、例えば中空糸膜カートリッジの下部に下部リングを設置し、かつ下部リング側接着固定層に複数の貫通穴を設け、カートリッジ下部からの曝気により下部リング内に空気溜まりを形成することで、複数の貫通穴より均等に気泡を発生させ、中空糸膜の外表面に付着した活性汚泥や夾雑物等を剥離させている。
【0005】
一方、特開2005−40747号公報(特許文献2)には、活性汚泥混合液中の生物由来ポリマー量を測定し、生物処理槽(曝気槽)における生物由来ポリマー量を適時に低減して膜面に過剰なポリマーが付着することを防止しようとする方法が開示されている。
【0006】
また、特開2007−260664号公報(特許文献3)には、膜の目詰まりの原因となる原核生物を捕食する微小動物を活性汚泥に添加することにより、膜の目詰まりを防ぐ手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−157846号公報
【特許文献2】特開2005−40747号公報
【特許文献3】特開2007−260664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、有機性廃水中の有機物濃度の変動が激しい場合や、酸化剤、酸性液体および塩基性液体などが活性汚泥槽内に流入した場合、微生物が異常な量の代謝産物(生物由来ポリマーと呼ぶ)を体外に排出することがある。生物由来ポリマーが異常に高濃度になった状態が続くと、もはや曝気では膜外表面に付着した生物由来ポリマーを十分に剥離できず、膜ろ過抵抗が上昇してしまう。また、特許文献2に記載の方法では、生物由来ポリマー量として化学的酸素要求量(COD)値を求め、代用している。CODでは、膜の細孔を素通りできる有機物も検出してしまう問題がある。さらに、特許文献3に記載の方法では、生物由来ポリマーによる目詰まりには対処することができない問題がある。
【0009】
このような背景のもと、本発明は、膜分離活性汚泥法に関し、透水性不良の原因となる生物由来ポリマーの量を減少させ、長期間安定的に膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理を達成できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、活性汚泥に、膜の目詰まりの原因となる多糖類を分解する微生物を含む添加剤を加えることによって、有機性廃水の処理を安定して長期間継続できること、また、かかる添加剤を製造する安価で効率的な方法を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、有機性廃水を膜分離活性汚泥法によって処理する際に活性汚泥に添加する添加剤であって、多糖類を分解する微生物を含む、添加剤に関する。
本発明は、また、前記多糖類が、ウロン酸ユニットを含む多糖類である、前記の添加剤に関する。
本発明は、また、前記多糖類が、ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し5〜70%含む多糖類である、前記の添加剤に関する。
本発明は、また、前記多糖類が、ポリガラクツロン酸、キサンタンガムおよびヒアルロン酸から選択される1種または複数種の多糖類である、前記の添加剤に関する。
本発明は、また、前記微生物が、Penicillium sp.、Phialemonium sp.、Fluviicola sp.、Pedobacter sp.、Paenibacillus sp.、Cohnella sp.、Pseudoxanthomonas sp.、Brevundimonas sp.、Hydrogenophaga sp.、Sphingomonas sp.、Novosphingobium sp.、Sphingopyxis sp.、Microbacterium sp.、Ochrobactrum sp.、Sphingobacterium sp.、Bacteroidetes bacterium、Xanthomonadaceae sp.、Devosia sp.、Prosthecomicrobium sp.、Alpha proteobacterium sp.およびFlexibacteraceae sp.から選択される1種または複数種の微生物である、前記の添加剤に関する。
さらに、本発明は、微生物を含む活性汚泥を収容した活性汚泥槽に有機性廃水を流入させる流入工程と、前記活性汚泥槽にて前記有機性廃水を生物処理し、該活性汚泥槽に設置した分離膜装置によって処理液を固液分離する分離工程と、を含む、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理方法であって、前記活性汚泥にウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する微生物を含む添加剤を添加する、有機性廃水の処理方法に関する。
本発明は、また、前記活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定し、該ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lに達したときに、前記添加剤を添加する、前記の有機性廃水の処理方法に関する。
さらに、本発明は、微生物を含む活性汚泥を収容した、有機性廃水を生物処理する活性汚泥槽と、該活性汚泥槽中またはその後段に設置した、生物処理水を固液分離する分離膜装置と、該活性汚泥槽中の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定する濃度測定手段と、該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、ウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する微生物を含む添加剤を、該活性汚泥中に添加する添加剤添加手段と、を含む、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による添加剤を活性汚泥に添加することにより、膜分離活性汚泥法における膜の目詰まりの原因物質である多糖類を分解して、長期間安定的に膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理を行なうことができる。また、本発明による添加剤は、活性汚泥、土壌、湖沼水、河川水等を用いて、安価かつ簡便な方法で製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】膜分離活性汚泥法を用いる有機性廃水の処理方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、図面における上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
(膜分離活性汚泥法)
まず、本実施の形態に係る添加剤が用いられる膜分離活性汚泥法について説明する。
【0015】
膜分離活性汚泥法は、微生物を含む活性汚泥を収容した活性汚泥槽に有機性廃水を流入させる流入工程、および、この活性汚泥槽で生物的に処理した処理液を、活性汚泥槽に設置した分離膜装置によって固液分離する分離工程を含む。
【0016】
流入工程では、まず、有機性廃水から夾雑物を取り除く前処理設備によって、大きな固形分などをおおまかに除去する。前処理された有機性廃水は、流量調節槽にいったん蓄えられた後、流量を調節しながら活性汚泥槽に送り込まれる。
【0017】
続く分離工程では、まずこの活性汚泥槽において、活性汚泥中の微生物により有機性廃水中の有機物が分解される(生分解可能な該有機物をBOD成分とも呼ぶ)。活性汚泥槽の大きさおよび有機性廃水の活性汚泥槽での滞留時間は、活性汚泥槽における有機性廃水の処理量や、有機性廃水中の有機物濃度に応じて適宜決定することができる。活性汚泥槽中の活性汚泥濃度は一般に5〜20g/L程度が好ましいが、この範囲に限定されない。
【0018】
分離工程では、次に、分離膜装置によって、活性汚泥槽中の活性汚泥と有機性廃水との固液分離を行う。活性汚泥槽に設置された浸漬型分離膜装置は、分離膜と集水部を含む。分離膜装置の集水部は吸引ポンプに配管され、吸引ポンプによって膜の内面と外面に圧力勾配が発生し、固液分離が達成される。
【0019】
分離膜に用いられる膜カートリッジには、平膜、中空糸膜など公知の分離膜を用いることができる。中でも、中空糸膜は膜自身の強度が高く、有機性廃水中の夾雑物との接触から膜表面に受けるダメージが少なく、比較的長期間の使用に耐えることができる。
【0020】
ろ過膜の孔径や素材は、ろ過が好適に実施される限り特に限定されないが、例えば、孔径0.1μm程度で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製のものが好ましく用いられる。
【0021】
ろ過膜の目詰まりを防ぐためには、物理的手法として、分離膜装置にスカートを設置してスカートへブロワーから気体を送り込んで膜を揺動させたり、膜面に水流をあててせん断力を与えたりしてもよい。ろ過方向とは逆方向にろ過水等を噴出させることによって膜表面の付着物を除去する逆洗を行ってもよい。
【0022】
分離膜装置は、活性汚泥槽内に浸漬して設置するだけでなく、活性汚泥槽の後段に接続して設置してもよい。したがって本実施の形態に係る添加剤は、分離膜装置浸漬型の膜分離活性汚泥法だけでなく、分離膜装置を活性汚泥槽とは別の槽へ設ける場合や、加圧型の分離膜装置を用いる場合にも適用できる。これらの方法の場合は、活性汚泥槽と分離膜装置の間で活性汚泥を循環させ、濃縮液を活性汚泥槽へ戻す。
【0023】
分離膜は必要に応じて複数系列としてもよい。複数系列とすることにより、分離膜の系列毎に分離作業を行ったり分離作業を止めたりすることもできるので、廃水処理スピードの調整や分離膜の管理が可能になる。
【0024】
本実施の形態の添加剤を用いた膜分離活性汚泥法で処理することのできる有機性廃水は、特に限定されないが、例えば、食品工場廃水、製糖工場廃水、洗剤工場廃水、スターチ工場廃水、豆腐工場廃水などが挙げられる。
【0025】
(廃水処理装置)
上記の膜分離活性汚泥法による廃水処理方法に用いる処理に用いる装置としては、例えば、図1に示される装置が挙げられる。
【0026】
まず、有機性廃水1は、前処理設備2で夾雑物を除去した後に流量調整槽3に一旦貯留され、流量調整槽3から一定の流量で活性汚泥槽(曝気槽)4に供給される。
【0027】
活性汚泥槽4では、槽に入れられた活性汚泥中の微生物によって有機性廃水1中の有機物(BOD成分)が分解除去される。活性汚泥槽4における活性汚泥混合液の固液分離は槽内に浸漬された分離膜装置5で行う。分離膜装置5の下部にはスカート6およびブロワー7が設置されており、スカート6へブロワー7から気体が送り込まれる。分離膜装置5で処理されたろ過液9は、吸引ポンプ8で吸引されて、必要に応じて滅菌槽10で消毒後、処理水11として放流される。余剰汚泥は、必要に応じて活性汚泥槽(曝気槽)4から汚泥引き抜きポンプ12により引き抜かれる。
【0028】
(添加剤)
次に、本実施の形態に係る添加剤について説明する。本実施の形態に係る添加剤は、上記の膜分離活性汚泥法の活性汚泥に添加して用いられる。
【0029】
活性汚泥槽において、微生物は有機物を分解するとともに代謝産物を体外に放出する。この微生物の代謝産物は、活性汚泥槽へ有機物が過剰に流入した場合や、流入水中の有機物濃度の変動が激しい場合、酸化剤、酸性液体および塩基性液体などが活性汚泥槽内に流入した場合に、著しく体外に排出され、分離膜の目詰まりを促進させる。本発明者らは、この代謝産物が多糖類、特にウロン酸ユニットを含有する多糖類であることを明らかにした。
【0030】
本実施の形態に係る添加剤は、このような多糖類を分解できる微生物を含むものであり、活性汚泥に添加することによって、活性汚泥中の微生物が代謝する多糖類を分解して分離膜の目詰まりを防ぐことができる。ここで、本実施の形態に係る添加剤に含まれる微生物が分解する多糖類としては、でんぷんなどの中性多糖、キチンなどのアミノ多糖、ポリウロン酸などの酸性多糖、キサンタンガムなどのウロン酸ユニット含有多糖類などが挙げられ、好ましくはウロン酸ユニット含有多糖類である。
【0031】
ウロン酸ユニット含有多糖類としては、単糖を酸化して得られる誘導体のうち、主鎖の末端のヒドロキシメチル基(−CHOH)がカルボキシル基(−COH)に変換されたカルボン酸であるウロン酸を構成単位とする多糖類であれば特に限定されず、例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸等のウロン酸ユニットを含む単糖類を構成単位とする多糖類であるキサンタンガム、ヒアルロン酸、アルギン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸や、ウロン酸ユニットのみからなる高分子であるポリウロン酸であるポリガラクツロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ウロン酸ユニット含有多糖類は、キサンタンガム、ポリガラクツロン酸またはヒアルロン酸であり、より好ましくは、キサンタンガムまたはポリガラクツロン酸であり、特に好ましくはキサンタンガムである。尚、本実施の形態に係る添加剤に含まれる微生物は、これらの多糖類の1種または複数種を分解するものであってもよい。
【0032】
ウロン酸ユニット含有多糖類は、目詰まり物質の分解効率を高めるという観点から、好ましくはウロン酸ユニットと他の糖ユニットとを含有する多糖類である。例えば、好ましくは、ウロン酸ユニット濃度が全糖ユニット濃度の5〜70%であり、更に好ましくは7〜60%であり、特に好ましくは10〜50%である。
ここで全糖ユニット濃度は、以下に示すフェノール硫酸法により測定できる。
1)試験管に試料水溶液または標準単糖水溶液を500μL加える
2)5wt%フェノール水溶液を500μL加え、撹拌する
3)濃硫酸を2.5mL加え、すぐに10秒間激しく撹拌する
4)30℃水浴中に20分以上放置する
5)分光光度計で490nmの吸収を測定し、既知濃度の標準単糖で作製した検量線から濃度を求める
尚、ウロン酸ユニット濃度は、後述の手法を用いて測定することができる。
【0033】
また、本実施の形態の添加剤に含まれる微生物は、上記の多糖類を分解する限り特に限定されず、1種または複数種の混合であることができるが、例えば下記の製造方法により該微生物を含む本実施の形態の添加剤を得ることができる。
【0034】
(添加剤の製造方法)
本実施の形態に係る添加剤を製造する方法としては、例えば、多糖類のみ、好ましくはウロン酸ユニット含有多糖類のみを炭素源とする培地に、活性汚泥、土壌、湖沼水および河川水よりなる群の少なくとも一つを添加して培養し、該ウロン酸含有多糖類分解能を有するコロニーから微生物を採取する第一工程と、前記微生物を含む添加剤を製造する第二工程とを含む方法が挙げられる。
【0035】
第一工程の培地として、例えば、炭素源である多糖類のほかに、窒素、リンなどの栄養塩類、および微量金属塩類を含む寒天培地を用いることができる。その寒天平板表面に活性汚泥、土壌、湖沼、河川などを一様に塗沫接種してスクリーニングする。そこで増殖する微生物は多糖類を分解できるものであるから、当該微生物を採取することで多糖類分解菌を得ることができる。
【0036】
微生物の採取は、寒天培地上で多糖類を分解するコロニーから白金耳で釣菌して行なうことができる。多糖類を含有する懸濁培地が得られた場合、多糖類が微生物によって分解資化されると透明な分解斑の形成を観察することができる。従って多糖類の分解能を有するコロニーを簡単に見分けることが可能となる。例えば、多糖類として、ポリガラクツロン酸の粉末物を用いれば、不透明な懸濁培地が得られるので、ポリガラクツロン酸が分解資化されると透明な分解斑(ハローともいう)の形成を観察することができる。該コロニーには多糖類分解微生物が含まれ、この多糖類分解微生物は、1種であっても複数種の混合であってもよい。
【0037】
こうして得られた1種または複数種の多糖類分解微生物は、次に、第二工程において、活性汚泥への添加が簡易にできるように予め添加剤の形態にする。例えば、第一工程で得られた多糖類分解微生物の培養液を滅菌生理食塩水等で希釈して液状の添加剤とすることや、培養液を重力遠心分離、膜分離、または静置沈降分離などの方法で濃縮処理して添加剤とすることもできる。液状の添加剤はスポンジなどの担体に担持させてもよい。また、培養液を凍結乾燥処理して添加剤とすることもでき、培養液凍結乾燥後に粉末状やペレット状に成形してもよい。
【0038】
多糖類分解微生物は、所望の多糖類分解能、好ましくは、ウロン酸ユニット含有多糖類分解能を有する限り特に限定されず、上記の手法で分解能が確認される微生物の1種または複数種の混合を適宜用いることができる。このような微生物として、例えばPenicillium sp.、Phialemonium sp.、Fluviicola sp.、Pedobacter sp.、Paenibacillus sp.、Cohnella sp.、Pseudoxanthomonas sp.、Brevundimonas sp.、Hydrogenophaga sp.、Sphingomonas sp.、Novosphingobium sp.、Sphingopyxis sp.、Microbacterium sp.、Ochrobactrum sp.、Sphingobacterium sp.、Bacteroidetes bacterium、Xanthomonadaceae sp.、Devosia sp.、Prosthecomicrobium sp.、Alpha proteobacterium sp.およびFlexibacteraceae sp.から選択される、1種または複数種の微生物が挙げられ、ウロン酸ユニット含有多糖類分解能がより優れるという観点から好ましくはFluviicola sp.、Pedobacter sp.、Paenibacillus sp.、Cohnella sp.、Pseudoxanthomonas sp.、Brevundimonas sp.、Hydrogenophaga sp.、Sphingomonas sp.、Novosphingobium sp.、Sphingopyxis sp.、Microbacterium sp.、Ochrobactrum sp.、Sphingobacterium sp.、Bacteroidetes bacterium、Xanthomonadaceae sp.、Devosia sp.、Prosthecomicrobium sp.、Alpha proteobacterium sp.およびFlexibacteraceae sp.から選択される、1種または複数種の微生物が挙げられる。なお、微生物の同定方法は、後述の実施例等を参照し、当業者に公知の手法を用いて実施することができる。
【0039】
添加剤は、含有する多糖類分解微生物の種類、添加剤を添加しようとする活性汚泥の有機性固形物質含有量および他の特性に応じて適宜製剤化することができる。通常、活性汚泥中の菌数が10〜10CFU/mL程度であると速やかにウロン酸ユニット含有多糖を分解できる。従って、例えば、添加剤は、活性汚泥に1%〔V/V〕で移植したときに、汚泥における添加剤中の微生物数が10〜10CFU/mL程度となる濃度で製剤化すると好都合である。
【0040】
(廃水処理方法)
本実施の形態に係る廃水処理方法は、前記活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定し、該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度、例えば30mg/Lに達したときに、前記添加剤を添加することを特徴とする。
【0041】
上述のとおり、膜分離活性汚泥法における分離膜の目詰まりは、活性汚泥中の微生物が代謝する多糖類が一因である。従って、活性汚泥槽に収容された活性汚泥の水相中の糖濃度、好ましくはウロン酸ユニット濃度を測定することにより、ウロン酸ユニット含有多糖類によって分離膜が目詰まりするリスクを適当に評価することが可能となり、これに基づいて添加剤を適時に適量加えて、安定した膜分離を効率よく達成することができる。
【0042】
一般に、活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、好ましくは50mg/L以下であり、より好ましくは30mg/L以下であり、さらに好ましくは20mg/L以下、最も好ましくは10mg/Lである。従って、本実施の形態に係る添加剤は、このウロン酸ユニット濃度をこれらの濃度以下に維持するように添加することが好ましいが、ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lになるまでは膜の目詰まりが特に起こりにくいので、ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lに達したときに添加剤を添加すれば、経済的にも有利である。一方、ウロン酸ユニット濃度が50mg/Lになると膜の目詰まりが起こり始めるため、50mg/Lに達する前、好ましくは40mg/Lに達する前に添加剤を添加することが望ましい。
【0043】
活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度を測定するためには、ろ紙など、分離膜装置の分離膜より大きな孔径を有するろ材によってろ過して汚泥ろ液を得てから、測定することが好ましい。この操作によって、活性汚泥中の浮遊物のみがろ材に捕捉され、糖成分はろ紙を通過する。したがってそのろ液中の全糖ユニット濃度および/またはウロン酸ユニット濃度を測定すれば膜の目詰まり物質となる生物由来多糖類の濃度をより正確に知ることができる。
【0044】
ろ材の孔径は、分離膜装置に備えられた分離膜の孔径の好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上である。また、分離膜装置に備えられた分離膜の約100倍以下を上限とすることが好ましく、孔径の上限は10μmであることがより好ましい。さらに、親水性の素材の方が糖成分の吸着が少ないので好適であり、例えば、セルロースを素材とするろ紙を用いることができる。
【0045】
尚、本実施の形態においてウロン酸ユニット濃度は、ウロン酸ユニット含有多糖類のウロン酸ユニットのみの濃度であり、ウロン酸濃度としてNELLY BLUMENKRANTZ,GUSTAV ASBOE−HANSEN著「New Method for Quantitative Determination of Uronic Acid」ANALYTICAL BIOCHEMISTRY54巻、484〜489貢(1973年発行)に記載された以下の方法に従い、ポリウロン酸の一つであるポリガラクツロン酸を用いて作成した検量線により測定することができる。
1)0.5mLの汚泥ろ液および既知濃度のポリガラクツロン酸水溶液を試験管にとり、各々に3.0mLの0.0125MのNa濃硫酸溶液を加える。
2)各液をよくふって、沸騰湯浴中で5分間温め、その後氷水中で20分間冷やす。
3)各液に50μLの0.15%m−ヒドロキシジフェニルの0.5%NaOH溶液を加える。
4)各液をよく撹拌して、5分たったら3)の各液の520nm吸光度を測定し、既知濃度のポリガラクツロン酸水溶液の値と汚泥ろ液の値とを比較して濃度を求める。
【0046】
本実施の形態は、一態様において、膜分離活性汚泥法による有機性廃水処理装置(既存の装置であってもよい)に、活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定する濃度測定手段および該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、前記添加剤を添加する添加剤添加手段を備えた、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理装置を提供する。該装置によれば、ウロン酸ユニット濃度に応じた添加剤の添加を行うため、連続的な廃水処理を経済的に行うことができる。ウロン酸ユニット濃度の測定は、例えば上記の記載を参照して行うことができる。また、添加剤添加手段は、当業者に公知の手法を用いて行うことができ、該添加剤の添加を自動で行うこともできる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例および比較例を挙げて、本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、微生物の同定は、28Sまたは16S rRNA遺伝子の解析により行った。
[実施例1]
リン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%を含む寒天平板培地を作成した。その後、ポリガラクツロン酸(シグマアルドリッチ社製)を寒天溶液に分散させ、それを前記の培地の上に積層させた。こうしてポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0048】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類のコロニーが発生した。該コロニーには少なくともカビ類であるPenicillium sp.およびPhialemonium sp.が含まれていた。
【0049】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビを白金耳で無菌的に植菌した。
【0050】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後にウロン酸ユニット濃度を測定すると、0.7g/Lの濃度まで減少していた。以下、この培養液を培養液A(添加剤)と呼ぶ。
【0051】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Aを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0052】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、50mg/Lまで減少していることを確認し、その液の分子量分布を以下の条件を用いて測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0053】
条件:分子量分布の測定にはHITACHI製HPLCシステムD7000シリーズを使用し、カラムはサイズ排除カラム(昭和電工製Shodex−OH pack SB−806HQ)を用いた。カラム温度は40℃、移動相には0.05 M KHPO buffer(pH3.0)を1.0mL/minの流量で送液し、200μLのサンプルを注入し、屈折率計により検出した。また、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10および1×10Daの分子量を有するプルランで校正曲線を描き、該校正曲線を用いてサンプルの分子量を決定した。
【0054】
[実施例2]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびキサンタンガム(シグマアルドリッチ社製)を1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてキサンタンガムを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0055】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。該コロニーには少なくともMicrobacterium sp.、Ochrobactrum sp.、Pseudoxanthomonas sp.、Fluviicola sp.、Pedobacter sp.、Paenibacillus sp.、Cohnella sp.、Brevundimonas sp.、Hydrogenophaga sp.、Sphingomonas sp.、Novosphingobium sp.、Sphingopyxis sp.、Sphingobacterium sp.、Bacteroidetes bacterium、Xanthomonadaceae sp.、Devosia sp.、Prosthecomicrobium sp.、Alpha proteobacterium sp.およびFlexibacteraceae sp.が含まれていた。
【0056】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのキサンタンガムを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0057】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後にウロン酸ユニット濃度を測定すると、0.6g/Lの濃度まで減少していた。以下、この培養液を培養液B(添加剤)と呼ぶ。
【0058】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Bを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0059】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、40mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0060】
[実施例3]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびヒアルロン酸1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてヒアルロン酸(シグマアルドリッチ社製)を唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0061】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。該コロニーには少なくともFluviicola sp.、Pedobacter sp.、Paenibacillus sp.、Cohnella sp.、Brevundimonas sp.、Hydrogenophaga sp.、Sphingomonas sp.、Microbacterium sp.およびOchrobactrum sp.が含まれていた。
【0062】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのヒアルロン酸を唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0063】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後にウロン酸ユニット濃度を測定すると、0.6g/Lの濃度まで減少していた。以下、この培養液を培養液C(添加剤)と呼ぶ。
【0064】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Cを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0065】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、49mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0066】
[実施例4]
図1の系を用い、BODが750mg/Lの製糖工場の廃水を膜分離活性汚泥法により処理した。この廃水中のウロン酸ユニット濃度は0mg/Lであった。
【0067】
分離膜装置5として、孔径0.1μmの精密ろ過中空糸膜をモジュール化した分離膜装置(旭化成ケミカルズ社製、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製、膜面積0.015m、有効膜長さ15cm、内径/外径:0.6/1.2mm)を、有効容積10Lの活性汚泥槽4に浸漬し、吸引ろ過をした。
【0068】
活性汚泥槽中のMLSS濃度は10g/Lで一定とし、活性汚泥槽における廃水の滞留時間は18時間とした。処理開始時のろ過圧力は4kPaであった。活性汚泥の液量は常に一定とし、ろ過Fluxは0.6m/Dに設定してろ液は全量活性汚泥槽外に排出した。膜への曝気は、空気を膜モジュールの下部から200L/hの流量で送気した。こうした装置を装置A、B、CおよびDの4つ用意し、同条件で運転を開始した。
【0069】
ウロン酸ユニット濃度は上述したのと同様の手順で、ポリガラクツロン酸の検量線により求めた。1日に1回、活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度を測定した。
【0070】
運転開始から約1週間を経過すると活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度が急激に上昇し、11日目の装置A、B、CおよびDの活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、それぞれ50mg/L、55mg/L、53mg/Lおよび50mg/Lとなった。そこで、実施例1〜3で得られた培養液A、BおよびCを、毎日10mLずつ装置A,BおよびCにそれぞれ加えた。運転開始から20日目の装置A、BおよびCの活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、それぞれ20mg/L、15mg/Lおよび19mg/Lまで減少し、いずれの装置においても膜間差圧は急上昇することなく安定に運転することができた。
【0071】
一方、装置Dでは、処理開始後20日を経過すると、ウロン酸ユニット濃度が60mg/Lになったがそのまま処理を続けた。するとその5日後には、ろ過圧力が25kPaを超え、分離膜の洗浄が必要となった。
【0072】
[比較例1]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびグルコース1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてグルコースを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0073】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。該コロニーには少なくともNiabella sp.、Terrimonas sp.、E scherichia sp.、Corynebacterium sp.、Flavobacterium sp.およびOpitutus sp.が含まれていた。
【0074】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのグルコースを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0075】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に全糖濃度を測定すると、0.6g/Lの濃度まで減少していた。以下、この培養液を培養液D(添加剤)と呼ぶ。
【0076】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Dを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0077】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、100mg/Lとほとんど変化しておらず、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークも全く変化しておらず、多糖類の分解は確認されなかった。
【0078】
[比較例2]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%および炭素源としてペプトン(シグマアルドリッチ社製)およびポリガラクツロン酸(シグマアルドリッチ社製)をともに0.5g/Lを含む寒天平板培地を作成した。
【0079】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。該コロニーには少なくともNocardia sp .、Castellaniella sp.、Pseudomonas sp.およびHumicoccus sp.が含まれていた。
【0080】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、ペプトンおよびポリガラクツロン酸を両方とも濃度0.5g/L含む、液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0081】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。以下、この培養液を培養液E(添加剤)と呼ぶ。
【0082】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Eを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0083】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、100mg/Lとほとんど変化しておらず、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークも全く変化しておらず、多糖類の分解は確認されなかった。
【0084】
本出願は、2009年10月5日出願の日本国特許出願(特願2009−231554)に基づくものであり、その内容の全体は参照によりここに取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明による添加剤を活性汚泥に添加することにより、膜分離活性汚泥法における膜の目詰まりの原因物質である多糖類を分解して、長期間安定的に膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理を行なうことができるという産業上の利用可能性を有する。また、本発明による添加剤は、活性汚泥、土壌、湖沼水、河川水等を用いて、安価かつ簡便な方法で製造することができるものである。
【符号の説明】
【0086】
1…有機性廃水、2…前処理設備、3…流量調整槽、4…活性汚泥槽(曝気槽)、5…分離膜装置、6…スカート、7…ブロワー、8…吸引ポンプ、9…ろ過液、10…滅菌槽、11…処理水、12…汚泥引き抜きポンプ
図1