【実施例1】
【0015】
NC/NgaTndマウスを用いたコラーゲン摂取の皮膚炎予防効果の確認
【0016】
実験内容
コラーゲンの摂取がアレルギーによる皮膚炎の症状改善に効果を示すかどうかについて動物試験により検討した。すなわち、アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスであるNC/NgaTndマウスを用いて試験を行った。
【0017】
飼料
飼料はコラーゲン混餌飼料及び対照飼料を用いた。コラーゲン混餌飼料は対照飼料に0.20%のコラーゲンペプチドを加えたものである。コラーゲン混餌飼料は一日当たりのコラーゲン摂取量が200mg/Kgとなるよう調整されている。コラーゲン混餌飼料中のコラーゲンはゼライス株式会社の豚コラーゲンペプチドを用いた。豚コラーゲンペプチドは豚の皮を酸またはアルカリ性の液に浸漬後、抽出によりゼラチンを得たものを、さらに酵素分解したものである。なお、本コラーゲンペプチドは、主に豚のI型コラーゲンに由来する。
【0018】
実験項目及び内容
5週齢のNC/NgaTndマウスの雌雄を1群あたり7匹、2群となるよう準備した。これらをそれぞれコラーゲン投与群及び対照飼料投与群とした。共に1週間の予備飼育後、それぞれ、コラーゲン混餌飼料または対照飼料、及び水を6週間、自由摂取させた。いずれのマウスも、飼料の投与開始時には、皮膚炎を発症していなかった。各飼料投与期間中及びその前後において、それぞれの群について、以下の7項目を評価した。各項目の試験実施時期を括弧内に示す。(1)臨床症状スコアの判定(飼料投与期間中2回/週)(2)掻爬回数および持続時間の測定(飼料投与期間の前後)(3)血中の総IgE値測定(飼料投与期間の前後)(4)経表皮水分喪失量(TEWL)測定(飼料投与期間中1回/2週)(5)体重測定(飼料投与期間中1回/2週)、(6)皮膚病変の肉眼観察(飼料投与期間終了時)及び(7)組織学的検査(飼料投与期間終了後)。
【0019】
各評価項目の試験方法
(1)臨床症状スコアの判定
試験食給餌開始前日及び給餌開始日から最終給餌翌日迄の毎週2回、「掻痒症状」、「紅斑/出血」、「浮腫」、「擦傷/びらん」、「落屑/乾燥」の5項目について、「0:なし」、「1:軽度」、「2:中等度」、「3:重度」の4段階に分けて判定し、各項目の合計スコアで示した。なお、判定する者と給餌する者は試験期間を通して違う者が行い、判定者に動物がどの群に属するか分からないようにして行った。
(2)掻爬回数および持続時間の測定
測定環境に馴化させる目的で、試験食給餌開始の3日前より1日1回2日間30分間の掻爬回数測定装置(SCLABA(登録商標)−Real、ノベルテック)内で馴化させた。飼料投与開始前の掻爬回数および持続時間の測定は、給餌開始前日に30分間馴化させた後、30分間の撮影、記録を行った。飼料投与期間終了翌日に、同様の方法で馴化させた後、掻爬回数および持続時間の撮影、記録を30分間行った。なお、撮影は、撮影日と個体番号を記録し、12:00から18:00の間に実施した。
(3)血中の総IgE値測定
飼料投与開始前は尾静脈より、また飼料投与期間終了翌日に、掻爬回数および持続時間の撮影・記録行った後、エーテル麻酔下にヘパリン処理したシリンジを用いて血液約1mLを腹大動脈より採血した。採取した血液は、遠心分離(4℃)により血漿を分離し凍結保存(−20℃)した。保存した血漿を用いて、IgEの濃度を測定した。IgEの測定は、2種類の異なるエピトープを認識する抗マウスIgE抗体(YAMASA,ME−01−DEおよびME−02−B)を用いたサンドイッチELISA法にて実施した。
(4)TEWL測定
飼料投与開始前および飼料投与期間終了後の2回、およびその間の2週間に1回測定を行った。マウスの背部を測定前日に剃毛し、マルチプローブアダプター(CK electronic GmbH社製)を用いて背部のTEWLを測定した。毎回一個体につき3回測定し、その平均値をもってTEWLとした。
(5) 体重測定
飼料投与開始の前日から2週間ごとに実施した。測定には、電子天秤(アーンストンハンセン社、HL−320)を用いた。
(6)皮膚病変の肉眼観察
飼料投与期間終了時の各群のマウスの頭背部および顔部を写真撮影した。
(7)組織学的検査
飼料投与期間終了後、背部の皮膚を採取し10%緩衝ホルマリンにて固定し、パラフィン包埋をしたのち、薄切標本を作成した。組織標本は、コンゴーレッド染色およびトルイジンブルー染色をしたのち、顕微鏡下強拡大(400倍)にてそれぞれ好酸球数(コンゴーレッド染色標本)および肥満細胞数(トルイジンブルー染色標本)を数えた。各標本あたり4視野の平均値をもって個体データとし、群ごとに集計した。
【0020】
実験期間
平成19年1月17日〜平成19年5月25日
【0021】
結果
(1)臨床症状スコアの判定
結果を表1及び
図1に示す。
図1では、各群の臨床症状スコアの平均値±標準誤差をそれぞれ○(対照飼料群)▲(コラーゲン投与群)で示す。
【0022】
【表1】
【0023】
両群において、飼料投与開始時の臨床症状スコアは0(未発症)であった。対照飼料投与群では、飼料投与開始3日後より経時的な臨床症状スコアの上昇が認められ、飼料投与期間終了時の臨床症状スコアは5.9±1.7であった。コラーゲン投与群では、飼料投与開始後25日目までは対照飼料投与群とほぼ同様に皮膚炎スコアが増加していったが、飼料投与開始25日後以降皮膚炎症状は顕著な悪化を示すことなく、飼料投与期間終了後(43日目)の臨床症状スコアは、3.6±0.8と軽度な状態を保っていた。コラーゲン投与群では、飼料投与開始25日目以降飼料投与期間終了まで、統計学的有意差は認められないものの、対照飼料群に比べ低い臨床症状スコアを示す傾向にあった。
【0024】
(2)掻爬回数および持続時間の測定
図2に各群における飼料投与期間前後の引っ掻き行動回数(30分間)を示す。飼料投与開始前(0日目)および飼料投与期間終了後(43日目)のデータは、平均値±標準誤差(各群7匹)で標記した。
【0025】
図3に各群における飼料投与期間前後の引っ掻き行動時間(秒/30分間)を示す。飼料投与開始前(0日目)および飼料投与期間終了後(43日目)のデータは、平均値±標準誤差(各群7匹)で標記した。
【0026】
両群において、飼料投与開始前(試験0日目)の引っ掻き行動回数(Scratching Frequency)および引っ掻き行動時間(Scratching Duration)(秒)は、30分間の撮影時間あたりそれぞれ10回および10秒程度であった。両群とも、飼料投与開始前に比べて飼料投与期間終了後(43日目)には引っ掻き行動回数および引っ掻き行動時間が増加する傾向を示し、有意差は認められないものの、引っ掻き行動回数および引っ掻き行動時間ともコラーゲン投与群では、対照飼料投与群と比較して、その値が低かった。
【0027】
(3)血中の総IgE値測定
図4に各群における飼料投与期間前後の血中の総IgE値を示す。飼料投与開始前(0日目)および飼料投与期間終了後(43日目)のデータは、平均値±標準誤差(各群7匹)で標記した。
【0028】
飼料投与開始前(0日目)の血中の総IgE値(ng/ml)は、500ng/ml前後で、群間に統計学的有意差は認められなかった。試験終了後(43日目)には共に血中の総IgE値は増加したが、コラーゲン投与群では、統計学的な有意差は認められないものの、血中総IgE値は対照飼料群と比較して低かった。
【0029】
(4)TEWL測定について
図5に各群におけるTEWLの推移を示す。飼料投与開始前(0日目)、15日目、29日目、および飼料投与期間終了後(43日目)のデータを、平均値±標準誤差(各群7匹)で標記した。
【0030】
両群において、飼料投与開始時のTEWLは5g/hr/m
2以下で、正常範囲内であった。飼料投与開始15日目以降、TEWLは上昇する傾向を示し、特に対照飼料投与群では経時的に上昇、飼料投与期間終了時(43日目)には25.97±3.85g/hr/m
2と高値を示した。コラーゲン投与群でも上昇したが、飼料投与期間終了時には23.72±9.38g/hr/m
2と、有意差は認められないものの、値はやや低かった。
【0031】
(5)体重測定
図6に各群における体重の推移を示す。飼料投与開始前(0日目)、15日目、29日目、および飼料投与期間終了後(43日目)のデータを、平均値±標準誤差(各群7匹)で標記した。
【0032】
飼料投与開始時の体重は、18.7〜20.8gであった。その後、両群ともに経時的に増加し、増加率に群間の差はなかった。
【0033】
(6)皮膚病変の肉眼観察
図7に各群における肉眼的所見を示す。これらのマクロ写真は、飼料投与期間終了後の各群のマウスについて(7)の組織学検査の試料採取の前に撮影したものである。
B;コラーゲン、D;対照飼料 試験終了時の各群のマウスの頭背部および顔部の肉眼的所見を比較すると、対照飼料投与群では、各部位の皮膚炎が進行していることが観察された。しかしながらコラーゲン投与群では、皮膚炎は発症しているものの軽度であった。
【0034】
(7)組織学的検査
図8に各群における頭背部皮膚組織の好酸球数と肥満細胞数を示す。これらは飼料投与期間終了後(43日目)に採取した皮膚組織に関して数えた結果を、平均値±標準誤差(各群7匹)で標記した。コラーゲン投与群では、対照飼料群と比較し、有意差は認められないものの好酸球数、肥満細胞数共に、細胞数は少なかった。
【0035】
実施例1のまとめ
両群とも、飼料投与開始時には、いずれの試験においても皮膚炎は認められなかった。
いずれの群においても、その後皮膚炎を発症するが、コラーゲン混餌飼料を投与されたNC/NgaTndマウスにおいては、臨床症状スコア、掻爬回数および持続時間、血中の総IgE値、TEWL、病変の肉眼観察、及び組織学的検査において、対照群と比較して、値の低下が認められた。以上より、発症以前より、コラーゲンを投与することにより、アトピー性皮膚炎を予防する効果があることが示された。
【0036】
一方、コラーゲン投与群においても、体重増加は対象飼料投与群と変わらず、コラーゲン投与の安全性が確かめられた。
【0037】
以下の処方により、飲料、散剤、錠剤、チューイングガム、キャンディ、錠菓を製造した。