(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
永久磁石同期電動機に対するトルク指令値から求められた電流指令値が、前記永久磁石同期電動機に電力変換器を介して供給される電流に対する電流検出値に一致するように、前記永久磁石同期電動機に供給される電流を制御する制御部を有し、
永久磁石同期電動機のトルク制御を行うモータ制御装置であって、
前記制御部は、上位制御装置から与えられる第1のトルク指令値に前記電力変換器の電力情報から求めたトルク推定値が一致するように、第2のトルク指令値を演算し、
該第2のトルク指令値に従いトルク制御を行うことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のものでは、モータ定数の設定誤差などについては触れられていない。モータ定数の設定誤差があると、その誤差分だけトルク制御の精度が低下することになる。
【0006】
本発明の目的は、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能なモータ制御装置及びそれを用いた作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、永久磁石同期電動機に対するトルク指令値から求められた電流指令値が、前記永久磁石同期電動機に電力変換器を介して供給される電流に対する電流検出値に一致するように、前記永久磁石同期電動機に供給される電流を制御する制御部を有し、永久磁石同期電動機のトルク制御を行うモータ制御装置であって、前記制御部は、上位制御装置から与えられる第1のトルク指令値に前記電力変換器の電力情報から求めたトルク推定値が一致するように、第2のトルク指令値を演算し、該第2のトルク指令値に従いトルク制御を行うようにしたものである。
かかる構成により、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【0008】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記永久磁石同期電動機の磁極位置を検出する位置検出器を備え、前記制御部は、該位置検出器によって検出された磁極位置から算出された速度検出値と、前記第2のトルク指令値から求めたd軸およびq軸の電流指令値と、電流検出値と、モータ定数の設定値とに従い、d軸およびq軸の電圧指令値の演算を行い、前記電力変換器の出力電圧を制御するようにしたものである。
【0009】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記制御部は、前記第2のトルク指令値から求めたd軸およびq軸の電流指令値と、電流検出値と、速度推定値と、モータ定数の設定値とに従い、d軸およびq軸の電圧指令値の演算を行い、電力変換器の出力電圧を制御し、前記速度推定値を積分して求めた回転位相推定値と前記永久磁石同期電動機の回転位相値との偏差である位相誤差が位相誤差の指令値に一致するように前記速度推定値を演算するようにしたものである。
【0010】
(4)上記(2)若しくは(3)において、好ましくは、前記制御部は、前記トルク推定値を算出するトルク推定値演算部を備え、該トルク推定値演算部は、d軸の電圧指令値と電流検出値の乗算値とq軸の電圧指令値と電流検出値の乗算値とを加算した第1の電力信号から、d軸およびq軸の電流検出値をそれぞれ2乗した加算値に前記永久磁石同期電動機の抵抗値を乗じた第2の電力信号を減算し、該減算値を速度推定値で除算した結果に定数を乗じて前記トルク推定値を算出するようにしたものである。
【0011】
(5)上記(2)若しくは(3)において、好ましくは、前記制御部は、前記トルク推定値を算出するトルク推定値演算部を備え、該トルク推定値演算部は、前記電力変換器の直流電圧と直流電流を乗算した結果に定数を乗じた第1の電力信号から、3相の電流検出値を各相毎に2乗した加算値にモータの抵抗値を乗じた第2の電力信号を減算し、該減算値を速度推定値で除算した結果に定数を乗じて前記トルク推定値を算出するようにしたものである。
【0012】
(6)上記(2)若しくは(3)において、好ましくは、前記制御部は、前記トルク推定値を算出するトルク推定値演算部を備え、該トルク推定値演算部は、前記電力変換器の直流電圧と直流電流を乗算した結果に定数を乗じた第1の電力信号から、d軸およびq軸の電流検出値をそれぞれ2乗し、それらを加算した値に、前記永久磁石同期電動機の抵抗値を乗じた第2の電力信号を減算し、該減算値を速度推定値で除算した結果に、定数を乗じて前記トルク推定値を算出するようにしたものである。
【0013】
(7)上記(1)において、好ましくは、前記上位制御装置から与えられる前記第1のトルク指令値とトルク出力値の偏差は、永久磁石同期電動機の電流値の2乗に比例し、電動機速度に反比例するものである。
【0014】
(8)また、上記目的を達成するために、本発明は、永久磁石同期電動機と、 直流を3相交流に変換し、前記永久磁石同期電動機に供給して、前記永久磁石同期電動機の出力トルクを可変する電力変換器と、前記永久磁石同期電動機に対するトルク指令値から求められた電流指令値が、前記永久磁石同期電動機に前記電力変換器を介して供給される電流に対する電流検出値に一致するように、前記永久磁石同期電動機に供給される電流を制御する制御部を有する作業機械であって、前記制御部は、上位制御装置から与えられる第1のトルク指令値に前記電力変換器の電力情報から求めたトルク推定値が一致するように、第2のトルク指令値を演算し、該第2のトルク指令値に従いトルク制御を行うようにしたものである。
かかる構成により、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【0015】
(9)上記(8)において、好ましくは、前記作業機械は、ホイルローダであり、該ホイルローダは、前記永久磁石同期電動機として、車輪を駆動する走行駆動用モータと、エンジンをアシストするアシストモータとを備え、前記走行駆動用モータを制御するモータ制御装置は、請求項2記載の制御部を備え、前記アシストモータを制御するモータ制御装置は、請求項3記載の制御部を備えるようにしたものである。
【0016】
(10)上記(8)において、好ましくは、前記作業機械は、ホイルローダであり、該ホイルローダは、前記永久磁石同期電動機として、車輪を駆動する走行駆動用モータと、エンジンをアシストするアシストモータとを備え、前記走行駆動用モータを制御するモータ制御装置及び前記アシストモータを制御するモータ制御装置は、請求項2記載の制御部を備えるようにしたものである。
【0017】
(11)上記(8)において、好ましくは、前記作業機械は、油圧ショベルであり、該油圧ショベルは、前記永久磁石同期電動機として、下部走行体に対して上部旋回体を旋回させる旋回モータと、エンジンをアシストするアシストモータとを備え、前記旋回モータを制御するモータ制御装置は、請求項2記載の制御部を備え、前記アシストモータを制御するモータ制御装置は、請求項3記載の制御部を備えるようにしたものである。
【0018】
(12)上記(8)において、好ましくは、前記作業機械は、油圧ショベルであり、該油圧ショベルは、前記永久磁石同期電動機として、下部走行体に対して上部旋回体を旋回させる旋回モータと、エンジンをアシストするアシストモータとを備え、前記旋回モータを制御するモータ制御装置及び前記アシストモータを制御するモータ制御装置は、請求項2記載の制御部を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、
図1〜
図10を用いて、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、
図1を用いて、本実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
本実施形態によるモータ駆動システムは、モータ制御装置100と、電力変換器INVと、永久磁石同期モータ(PMモータ;交流モータ)MOTと、位置検出器PDと、トルク指令設定部TSとから構成されている。
【0022】
永久磁石同期モータ(PMモータ;交流モータ)MOTは、永久磁石及び界磁巻線を備えた回転子と、電機子巻線を備えた固定子とから構成される。永久磁石同期モータMOTは、永久磁石の磁束によるトルク成分と、電機子巻線のインダクタンスによるトルク成分を合成したトルクを出力する。永久磁石同期モータMOTは、
図15を用いて後述するように、作業機械に用いられるモータである。本実施形態のモータ制御装置100は、かかるモータMOTを制御するために用いられる。
【0023】
電力変換器INVは、3相交流の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、直流電源Bから供給される直流電圧を3相交流電圧に変換し、永久磁石同期モータMOTに供給し、永久磁石同期モータMOTの出力トルクを可変する。
【0024】
電流検出器SIは、永久磁石同期モータMOTの3相の交流電流Iu、Iv、Iwを検出する。
【0025】
位相検出器PDは、モータの位置θを検出できるレゾルバやエンコーダであり、位置検出値θdcを出力する
トルク指令設定部TSは、モータ制御装置100に対して、永久磁石同期モータMOTが出力するトルクの指令値であるトルク指令値τ*を出力する。トルク指令値τ*は、「零」を含む「正負極性」の値である。トルク指令設定部TSは、モータ制御装置100に対する上位の制御装置の内部に備えられる。
【0026】
モータ制御装置100は、座標変換部10と、速度演算部15と、トルク推定演算部20と、トルク修正演算部25と、d軸電流指令設定部40と、電流指令変換演算部45と、d軸電流制御演算部50と、q軸電流制御演算部55と、電圧ベクトル演算部60と、座標変換部65と、差演算部DF1,DF2,DF3,DF4とを備えている。
【0027】
座標変換部10は、永久磁石同期モータMOTに供給される3相の交流電流Iu,Iv,Iwの電流検出器SIによる検出値である電流検出値Iuc,Ivc,Iwcと、位相演算部35によって推定された回転位相の推定値θdcとから、d軸およびq軸の電流検出値Idc,Iqcを出力する。
【0028】
速度演算部15は、位置検出器PDによって検出された位置検出値θdcが入力され、PMモータ1の速度検出値ωを出力する。
【0029】
トルク推定演算部20は、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、速度推定演算部30によって推定された速度推定値ω^と、座標変換部10が出力する電流検出値Idc,Iqcとを用いて、出力トルクの推定演算を行い、トルク推定値τ^を出力する。
【0030】
差演算部DF1は、トルク指令設定部TSが出力するトルク指令値τ*と、トルク推定演算部20が算出したトルク推定値τ^との偏差(τ*−τ^)を算出する。
【0031】
トルク修正演算部25は、差演算部DF1の出力である偏差(τ*−τ^)を比例・積分演算し、トルク指令の修正値Δτ*を出力する。
【0032】
加算部AD1は、トルク指令設定部TSが出力するトルク指令値τ*と、トルク修正演算部25が出力するトルク指令の修正値Δτ*を加算する。
【0033】
d軸電流指令設定部40は、「零」あるいは「負極性」の値であるd軸の電流指令値Id*を出力する。
【0034】
電流指令変換演算部45は、トルク指令設定部TSからのトルク指令値τ*と、d軸電流指令設定部40が出力するd軸の電流指令値Id*と、永久磁石同期モータMOTの電気定数(Ld,Lq,Ke)を用いて、q軸の電流指令値Iq*を算出する。ここで、電気定数(Ld,Lq,Ke)は、電流指令変換演算部45の内部に設定値として保持されている。電気定数(Ld,Lq,Ke)の値としては、本実施形態のモータ制御装置100によって駆動制御される永久磁石同期モータMOTの設計値を設定保持している。
【0035】
差演算部DF2は、d軸電流指令設定部40が出力する第1のd軸の電流指令値Id*と、座標変換部10が出力する電流検出値Idcとの偏差(Id*−Idc)を算出する。
【0036】
d軸電流制御演算部50は、差演算部DF2が算出した偏差(Id*−Idc)から、第2のd軸の電流指令値Id**を出力する。
【0037】
差演算部DF3は、電流指令変換演算部45が出力する第1のq軸の電流指令値Iq*と、座標変換部10が出力する電流検出値Iqcとの偏差(Iq*−Iqc)を算出する。
【0038】
q軸電流制御演算部55は、差演算部DF3が算出した偏差(Iq*−Iqc)から、第2のq軸の電流指令値Iq**を出力する。
【0039】
電圧ベクトル演算部60は、d軸電流制御演算部50が出力する第2のd軸の電流指令値Id**と、q軸電流制御演算部55が出力する第2のq軸の電流指令値Iq**と、速度推定値ω^と、予め設定されている永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)とに基づいて、d軸およびq軸の電圧指令値Vdc*,Vqc*をそれぞれ出力する。
【0040】
座標変換部65は、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、位相演算部35が推定した回転位相の推定値θdcとから、3相交流の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ出力する。
【0041】
すなわち、本実施形態では、モータに対するトルク指令値τ*から求められたq軸電流指令値Iq*及び設定されているd軸電流指令値Id*が、モータに電力変換器を介して供給される電流Iu,Iv,Iwに対するd軸及びq軸電流検出値dc,Iqcに一致するように、モータに供給される電流を制御している。以上のフィードバック制御により、モータのトルクがトルク指令値に一致するようにモータに供給される電流が制御される。但し、モータ定数に誤差があると、実際にモータから出力されるトルク値は、トルク指令値とは異なることになる。
【0042】
次に、本実施形態のモータ制御装置100の動作について説明するが、最初に、本実施形態の特徴である「トルク推定演算部20」及び「トルク修正演算部25」を用いない場合の制御方式の基本動作について説明する。
【0043】
電流指令変換演算部45において、トルク指令τ*とd軸の電流指令Id*およびPMモータMOTの電気定数を用いて、式(1)によりトルク指令τ*に見合ったq軸の電流指令Iq*を演算する。
【0045】
d軸の電流制御演算部50には、d軸の電流指令値Id*と電流検出値Idcが入力され、q軸の電流制御演算部55にはd軸の電流指令値Iq*と電流検出値Iqcが入力される。
【0046】
ここでは、d軸の電流制御演算部50及びq軸の電流制御演算部55は、式(2)に従い、電流指令値Id*,q*に、各成分の電流検出値Idc,Iqcが追従するよう、比例・積分演算を行い、第2のd軸およびq軸の電流指令値Id**,q**を出力する。
【0048】
ここで、Kpd:d軸の電流制御の比例ゲイン、Kid:d軸の電流制御の積分ゲイン、Kpq:q軸の電流制御の比例ゲイン、Kiq:q軸の電流制御の積分ゲインである。
【0049】
さらに、電圧ベクトル演算部60において、得られた第2の電流指令値Id**,Iq**とモータ定数(R,Ld,Lq,Ke)および速度検出値ωを用いて、式(3)に示す電圧指令値Vdc**、Vqc**を演算し、3相のPWMインバータの出力を制御する。
【0051】
ここで、モータ定数(R,Ld,Lq,Ke)は、電圧ベクトル演算部60の内部に設定値として保持されている。モータ定数(R,Ld,Lq,Ke)の値としては、本実施形態のモータ制御装置100によって駆動制御される永久磁石同期モータMOTの設計値を設定保持している。なお、実際に用いられる個々の永久磁石同期モータMOTのモータ定数(R,Ld,Lq,Ke)の値は、永久磁石同期モータMOTのモータ定数(R,Ld,Lq,Ke)の設計値とは異なるものであるが、両者の誤差、及び個々の永久磁石同期モータMOTのモータ定数(R,Ld,Lq,Ke)が経時変化することにより生じる設定値との誤差は、後述するトルク推定演算部20及び位相誤差指令演算部25を用いることにより、補償されるものである。
【0052】
一方、レゾルバ,エンコーダ,磁極位置検出器などの位置検出器PDでは、モータの位置θを検出し、位置検出値θdcを得る。
【0053】
座標変換部10,65では、この位置検出値θdcを用いて、式(4)や式(5)に示す座標変換を行っている。
【0056】
以上が、トルク推定演算部20、トルク修正演算部25を用いない場合の、トルク制御の基本動作である。
【0057】
次に、トルク推定演算部20、トルク修正演算部25を設けない場合の、制御特性について説明する。
【0058】
最初に、
図2〜
図5を用いて、「電流指令変換演算部45」と「電圧ベクトル演算部60」に設定するモータ定数の誤差がトルク制御特性におよぼす影響について説明する。
【0059】
図2及び
図4は、モータ定数の設定値に誤差がない場合の出力トルクの変動の説明図である。
図3及び
図5は、モータ定数の設定値に誤差がある場合の出力トルクの変動の説明図である。
【0060】
各図(A)は、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτを示し、各図(B)は交流のモータ電流Iuを示す。
【0061】
[1]Id*=0設定の場合
図1の制御装置において、d軸の電流指令Id*=0設定で、トルク指令τ*を100%ステップ変化させる動作を行う。
【0062】
モータ定数の設定値に誤差がない場合は、
図2に示すように、誤差がない理想の状態では、
図2(B)に示すように、100%のu相の交流電流Iuを発生させているため、
図2(B)に示すように、トルク指令τ*通り100%の出力トルクτを得ることができている。
【0063】
モータ定数の設定値に誤差がある場合は、ここでは、Lq*>Lq、Ke*>Keの関係で誤差を与えている。
【0064】
図3(A)に示すように、トルク指令τ*を100%与えているが、出力トルクτは83%になっている。これは「電流指令変換演算部45」において、式(6)を演算する際、q軸の電流指令値Iq*が減少しているためである。その結果、
図3(B)に示すように、u相の交流電流Iuが83%になっている。
【0066】
これは、式(6)の分母成分にKe*が含まれているため、Ke*に設定誤差が存在するとトルクに見合った電流を流すことができなくなる。
【0067】
[2]最大トルク制御Id*<0設定の場合
次に、
図1の制御装置において、d軸の電流指令Id*<0設定で、トルク指令τ*を100%ステップ変化させる動作を行う。
【0068】
PMモータMOTの出力トルクτは式(7)である。
【0070】
この式(7)を展開すると、式(8)を得る。
【0072】
右辺の第1項は「磁石トルク成分」、第2項が「リラクタンストルク成分」である。d軸の電流指令Id*を数式(9)により発生させることで、リラクタンストルク成分を活用し、同一トルクにおいてモータ電流の最小化を行うことができる。
【0074】
モータ定数の設定値に誤差がない場合は、
図4(A)に示すように、誤差がない理想の状態では、トルク指令τ*通り100%の出力トルクτを得ることができており、
図4(B)に示すように、u相の交流電流Iuは88%になっている。すなわち、
図2より少ない電流で同一トルクを出力することができている。
【0075】
モータ定数の設定値に誤差がある場合は、Lq*>Lq、Ke*>Keの関係で誤差を与えている。この場合、
図5(A)に示すように、トルク指令τ*を100%与えているが、出力トルクτは81%になっており、
図3に比べて2%トルクが減少している。
図5(B)に示すように、u相の交流電流Iuも74%に減少している。
【0076】
これは「電流指令変換演算部45」において、式(1)と式(9)を演算する際、分母成分にKe*とLq*が含まれているため、その設定誤差によりトルク指令τ*に見合ったd軸およびq軸の電流指令値を発生させることができていないためである。
【0077】
そこで本発明では、「トルク推定演算部20」、「トルク修正演算部25」を導入することで、トルク指令τ*通りの出力トルクτが得られる高精度なトルク制御を実現する。
【0078】
次に、
図6及び
図7を用いて、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置において、「トルク推定演算部20」、「トルク修正演算部25」を用いた場合の、動作原理について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の動作説明図である。
図7は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク修正演算部の動作説明図である。
【0079】
モータの磁束軸から観た有効電力Pは式(10)となる。
【0081】
また、制御の基準軸(dc−qc)上で演算する推定値P^は式(10)となる。
【0083】
図6に示す「トルク推定演算部20」では、この有効電力の推定値P^を用いて、 出力トルクτの推定演算を行う。
【0084】
ここで、「モータの磁束軸から観測する有効電力P」と「基準軸(dc−qc)上で演算する推定値P^」は一致することを利用して、トルク推定演算部20は、式(11)から、PMモータMOTの銅損成分であるR×(Idc2+Iqc2)を減算し、その演算値を速度検出値ωで除算した後、定数((3/2)×Pm)を乗じる式(12)の演算を行うことで、式(7)の出力トルクτを高精度に推定することができる。
【0086】
また、
図7に示す「トルク指令修正部25」においては、トルク指令τ*に出力トルク推定値τ^が追従するように、τ*とτ^の偏差に積分ゲインAを乗じて積分演算(あるいは比例+積分演算でも良い)を行い、トルク指令の修正値Δτ*を作成する。
【0087】
この修正値Δτ*を上位から与えられる第1のトルク指令値τ*に加算して、新しい第2のトルク指令値τ**を演算し、電流指令変換演算部45において、式(1)によりq軸の電流指令値Iq*の演算を行う。
【0088】
このようなフィードバック・ループを組むことで、高精度なトルク制御を実現することができる。
【0089】
ここで、
図8及び
図9を用いて、本実施形態における出力トルクの変動について説明する。
図8及び
図9は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムにおける出力トルクの変動の説明図である。
【0090】
各図(A)は、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτを示し、各図(B)は交流のモータ電流Iuを示す。
【0091】
本発明を用いた場合のトルク制御特性について説明する。
【0092】
図1の制御装置において、「電流指令変換演算部45」と「電圧ベクトル演算部60」に設定するモータ定数の設定値(Lq*,Ke*)に、Lq*>Lq、Ke*>Keの関係で誤差を与えている(
図2、
図3と同条件)。
【0093】
[1]Id*=0設定の場合
図8には、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτとu相の交流電流Iuの関係を示す。時刻t1において、トルク指令修正の制御動作を実行している。
図2の場合と同様に、
図8(A)に示すように、τ*を100%与えている。時刻t1から「破線」で示す第2のトルク指令値τ**は定常的に120%発生しており、トルク指令値の大きさを修正することで、トルク指令τ*通りの出力トルク100%を実現できている。
【0094】
[2]最大トルク制御Id*<0設定の場合
図9には、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτとu相の交流電流Iuの関係を示す。
【0095】
図5の場合と同様に、τ*を100%与えている。時刻t1から「破線」で示す第2のトルク指令値τ**は定常的に123%発生しており、トルク指令値の大きさを修正することで、トルク指令τ*通りの出力トルク100%を実現できている。
【0096】
つまり、PMモータMOTのモータ定数の設定誤差に対してロバスト化することができている。
【0097】
次に、
図10を用いて、本実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の他の構成について説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の他の構成の説明図である。
【0098】
図6に示したでは、トルク推定演算部20は、d軸およびq軸の電圧指令値と電流検出値を用いて推定演算を行ったが、その代わりに、
図10に示す構成にしてもよいものである。すなわち、トルク推定演算部20aでは、3相の電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)と3相の電流検出値(Iuc,Ivc,Iwc)を用いて、出力トルクτの推定演算を行う。
【0099】
式(13)の演算を行うことでも式(12)と同等に出力トルクτを高精度に推定することができる。
【0101】
以上説明したように、本実施形態によれば、有効電力値から演算したトルク推定値が、上位から与えられるトルク指令値に一致するように、新しい第2のトルク指令値を演算することで、オンライン的に補償を行いトルク指令値通りの出力トルクを実現できるものとなる。このように、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【0102】
次に、
図11及び
図12を用いて、本発明の第2の実施形態によるモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
図12は、本発明の第2の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の動作説明図である。
【0103】
本実施形態のモータ制御装置100aが、
図1に示したモータ制御装置100と相違する点は、
図1のモータ制御装置100におけるトルク推定演算部20に代えて、トルク推定演算部20bを備えるようにした点である。
【0104】
直流電源Bは、電力変換器INVに直流電圧を供給し、直流電圧EDCと直流電流IDCをトルク推定演算部20bに出力する。
【0105】
トルク推定演算部20bは、電力変換器の情報(EDC,IDC)と、d軸およびq軸の電流検出値(Idc,Iqc)と、速度推定値τ^を用いて、出力トルクτ^の推定演算を行う。
【0106】
式(14)の演算を行うことで、式(12)と同等に式(7)の出力トルクτを高精度に推定することができる。
【0108】
本実施形態によっても、高精度なトルク制御が可能となる。
【0109】
次に、
図13〜
図14を用いて、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
図13は、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
図14は、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置の動作説明図である。
【0110】
本実施形態のモータ制御装置100bが、
図1に示したモータ制御装置100と相違する点は、
図1のモータ制御装置100における位置検出器PDを用いないセンサレス方式であり、
図1のモータ制御装置100における位置検出器PD,速度演算部15に代えて、位相誤差推定演算部17,速度推定演算部30,位相演算部35を備えるようにした点である。
【0111】
位相誤差推定演算部17は、電圧指令値Vdc*、Vqc*と電流検出値Idc、Iqcと速度検出値ωおよびモータ定数に基づいて、位置推定値θdc^とPMモータMOTの位置θの偏差である位相誤差Δθ(=θdc^−θ)の推定演算を行う。
【0112】
電圧指令値Vdc*、Vqc*と電流検出値Idc、Iqcと速度検出値ωおよびモータ定数に基づいて、位置推定値とモータの位置の偏差である位相誤差Δθcを式(15)により演算する。
【0114】
速度推定演算部30は、位相誤差の推定値Δθcを「ゼロ」にするように、速度推定値ω^の推定演算を行う。
【0115】
位相演算35は、速度推定値ω^を積分し、位置推定値θdc^の推定演算を行う。このような位置センサレス制御方式でも前記実施例と同様に動作する。
【0116】
図1の制御装置において、「電流指令変換演算部45」と「電圧ベクトル演算部60」に設定するモータ定数の設定値(Lq*、Ke*)に、Lq*>Lq、Ke*>Keの関係で誤差を与えている(
図9と同条件)。
【0117】
図14は、最大トルク制御(Id*< 0設定)において、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτとu相の交流電流Iuの関係を示している。
【0118】
時刻t1から「破線」で示す第2のトルク指令値τ**は定常的に125%発生しており、トルク指令値の大きさを修正することで、位置センサレス制御時でもトルク指令τ*通りの出力トルク100%を達成することができている。
【0119】
以上説明したように、センサレスの場合には、本実施形態によっても、高精度なトルク制御が可能となる。
【0120】
なお、以上の各実施形態では、第1のトルク指令τ*とトルク指令の修正値Δτ*を加算して第2のトルク指令τ**を作成したが、第1のトルク指令τ*を加算せずトルク指令の修正値Δτ*を直接第2のトルク指令τ**としても良い。
【0121】
また、各実施形態では、第1の電流指令値Id*、Iq*と電流検出値Idc、Iqcから第2の電流指令値Id**、Iq**を作成して、この電流指令値を用いてベクトル制御演算を行った。
【0122】
それに対して、第1の電流指令値Id*、Iq*と電流検出値Idc、Iqcの偏差を比例+積分演算して、電圧補正値ΔVd*、ΔVq*を作成し、この電圧補正値ΔVd*、ΔVq*と、第1の電流指令値Id*、Iq*、速度検出値ω、PMモータMOTのモータ定数を用いて、式(16)に従い電圧指令値Vdc*、Vqc*を演算するベクトル制御演算方式を適用することもできる。
【0124】
また、第1のd軸の電流指令Id*=0およびq軸の電流検出値Iqcの一次遅れ信号Iqctdおよび速度指令値ω*、モータMOTのモータ定数を用いて、式(17)に従い電圧指令値Vdc*、Vqc*を演算するベクトル制御演算方式にも適用することはできる。
【0126】
また、各実施形態では、高価な電流検出器PDで検出した3相の交流電流Iu〜Iwを検出する方式であったが、電力変換器INVの過電流検出用に取り付けているワンシャント抵抗に流れる直流電流IDCから、3相のモータ電流Iu^、Iv^、Iw^を再現し、この再現電流値を用いる「低コストな電動車輌システム」にも対応することができる。
【0127】
次に、
図15及び
図16を用いて、本発明の各実施形態によるモータ制御装置を適用する作業機械の構成について説明する。
図15及び
図16は、本発明の各実施形態によるモータ制御装置を適用する作業機械の構成図である。
【0128】
図15は、作業機械の一例として、ホイルローダの構成を示している。
【0129】
本例のホイールローダ201は、車両の中心あたりで中折れしてステアリングをきるアーティキュレートタイプの車両であり、プロペラシャフトの中折れする部分にセンタージョイント(CJ)15が組み込まれていると共に、このセンタージョイント15より前側のフロントフレーム50と後側のリアフレーム60とを有している(
図13参照)。そして、センタージョイント(CJ)15を挟んで前後のプロペラシャフトのそれぞれに、走行用電動機として第1の電動機(M1)と、第2の電動機(M2)が配置されている。走行用電動機が回転すると、その動力はプロペラシャフトへと伝達され、ディファレンシャルギヤ(Dif)およびギヤ(G)を介して車輪13が回転駆動するのである。
【0130】
また、エンジンを駆動すると油圧ポンプが作動し、この油圧ポンプから圧油が油圧作業装置(作業装置)5へと供給される。油圧作業装置5に供給された圧油は、制御弁C/Vを介してバケット、リフト、ステアリングへと供給されており、図示しない運転室からオペレータが操作レバー等を操作することにより、バケット、リフト、ステアリングは所定の動作を行うことができるようになっている。
【0131】
モータ制御装置により制御される永久磁石同期モータMOTは、車輪を駆動する走行駆動用モータと、エンジンをアシストするアシストモータである。走行駆動用モータは、レゾルバ等の位置検出器PDを用いている。そのため、走行駆動用モータを制御するモータ制御装置としては、
図1に示したモータ制御装置100や
図11に示したモータ制御装置100aが用いられる。アシストモータは、位置検出器PDを用いていないものである。そのため、アシストモータを制御するモータ制御装置としては、
図13に示したモータ制御装置100bが用いられる。
【0132】
また、別の例として、走行駆動用モータを制御するモータ制御装置や、アシストモータを制御するモータ制御装置としては、それぞれ、
図1に示したモータ制御装置100や
図11に示したモータ制御装置100aを用いることもできる。
【0133】
図16は、作業機械の他の例として、油圧ショベル301の構成を示している。
【0134】
建設機械としてのクローラ式の油圧ショベル301は、自走可能な下部走行体302と、該下部走行体302上に旋回可能に搭載され、該下部走行体302と共に車体を構成する上部旋回体303と、該上部旋回体303の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行なう作業装置304とにより大略構成されている。上部旋回体303の旋回フレーム305は、支持構造体からなる車体フレームとして構成されている。
【0135】
モータ制御装置により制御される永久磁石同期モータMOTは、下部走行体302に対して上部旋回体303を旋回させるための旋回モータと、エンジンをアシストするアシストモータである。旋回モータは、レゾルバ等の位置検出器PDを用いている。そのため、旋回モータを制御するモータ制御装置としては、
図1に示したモータ制御装置100や
図11に示したモータ制御装置100aが用いられる。アシストモータは、位置検出器PDを用いていないものである。そのため、アシストモータを制御するモータ制御装置としては、
図13に示したモータ制御装置100bが用いられる。
【0136】
また、別の例として、旋回モータを制御するモータ制御装置や、アシストモータを制御するモータ制御装置としては、それぞれ、
図1に示したモータ制御装置100や
図11に示したモータ制御装置100aを用いることができる。