特許第5788384号(P5788384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社医学生物学研究所の特許一覧

特許5788384形質転換増殖因子アルファに結合し、Ras遺伝子変異癌に対して増殖抑制活性を有する抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788384
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】形質転換増殖因子アルファに結合し、Ras遺伝子変異癌に対して増殖抑制活性を有する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150910BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20150910BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150910BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150910BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150910BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20150910BHJP
   C07K 14/71 20060101ALN20150910BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K16/24
   C12N5/00 102
   C12P21/08
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   G01N33/574 A
   !C07K14/71
【請求項の数】16
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2012-515898(P2012-515898)
(86)(22)【出願日】2011年5月17日
(86)【国際出願番号】JP2011061347
(87)【国際公開番号】WO2011145629
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-114460(P2010-114460)
(32)【優先日】2010年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11377
(73)【特許権者】
【識別番号】390004097
【氏名又は名称】株式会社医学生物学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶宏
(72)【発明者】
【氏名】早田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】岸 義朗
(72)【発明者】
【氏名】矢原 一郎
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 Gene, (1993), 132, [2], p.291-296
【文献】 Oncogene, (1990), 5, [3], p.377-386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 16/24
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトTGFαに対する抗体であって、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαとの反応性が低く、かつRas遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示す抗体。
【請求項2】
79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαが、G79A置換型のヒトTGFαである、請求項に記載の抗体。
【請求項3】
EGFRのチロシンリン酸化を抑制する活性を有する、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
血管内皮細胞の誘引を抑制する活性を有する、請求項1からのいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
下記(a)から(h)のいずれかに記載の特徴を有する、請求項1に記載の抗体。
(a) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:19から21に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:22から24に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(b) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:25から27に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:28から30に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(c) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:31から33に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:34から36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(d) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:37から39に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:40から42に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(e) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:43から45に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:46から48に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(f) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:49から51に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:52から54に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(g) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:55から57に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:58から60に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(h) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:61から63に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:64から66に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
【請求項6】
下記(a)から(h)のいずれかに記載の特徴を有する、請求項1に記載の抗体。
(a) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(b) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(c) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(d) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(e) 配列番号:11に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(f) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(g) 配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(h) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
【請求項7】
受託番号FERM BP−11377で特定されるハイブリドーマにより産生される抗体。
【請求項8】
請求項またはに記載の抗体のエピトープに結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載の抗体をコードするDNA。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の抗体を産生する、または、請求項に記載のDNAを含む、形質転換された宿主細胞
【請求項11】
請求項1に記載の抗体の製造方法であって、
(a)ヒトTGFαに結合する抗体を調製する工程、
(b)調製した抗体から、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαとの反応性が低い抗体を選抜する工程、を含む方法。
【請求項12】
79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαが、G79A置換型のヒトTGFαである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1からのいずれかに記載の抗体を有効成分とする、抗癌剤。
【請求項14】
癌がRas遺伝子に変異を有する癌である、請求項13に記載の抗癌剤。
【請求項15】
請求項1、2、5から7のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、癌の診断剤。
【請求項16】
癌がRas遺伝子に変異を有する癌である、請求項15に記載の診断剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換増殖因子アルファ(Transforming growth factor alpha、以下、「TGFα」と称する。)に結合し、Rasタンパク質に変異をもつ癌細胞の増殖を生体内にて抑制する効果を有するモノクローナル抗体、および該抗体を含む抗癌剤に関する。
【0002】
【背景技術】
【0003】
TGFαは1980年の初頭にスポーンとロバーツらのグループによって、マウス肉腫ウイルスで形質転換されたマウス3T3細胞の培養上清中から、軟寒天中における正常ラット腎臓繊維芽細胞(NRK細胞)のコロニー形成の誘導に必要な2種類の因子の1つとして、単離、精製された(非特許文献1−6)。
【0004】
TGFαは160アミノ酸から成る前駆体ポリペプチドとして生合成され、細胞内で糖鎖修飾ならびにパルミトイル化された後、I型膜貫通タンパク質として細胞膜表面に発現する(膜型TGFα)(非特許文献7)。その後、細胞外ドメインはTACE/ADAM17などのメタロプロテアーゼによって切断を受け、40番目から89番目の50アミノ酸(約6kDa)から成る単一ポリペプチドが分泌型TGFαとして遊離する(非特許文献8−10)。分泌型TGFαは6個のシステイン残基によって3箇所がジスルフィド結合された特徴的な構造をしている(非特許文献11−13)。この構造は最初に上皮細胞成長因子(epidermal growth factor,EGF)にて見出され、以後EGF様ドメインと呼ばれている。EGF様ドメインを有するタンパク質は、TGFαとEGF以外に、amphiregulin、HB-EGF、β-cellulin、epiregulin、epigen、neuregulin-1、neuregulin-2、neuregulin-3、neuregulin-4、neuregulin-5、そしてneuregulin-6(neuregulin-1から-6を以下neuregulinsと称す)の計13種類存在し、これらはEGFファミリー分子と総称されている(非特許文献10、非特許文献14)。EGFファミリー分子はTGFαと同様、すべてI型膜タンパク質として生合成され、細胞外ドメインがプロテアーゼで分解されることで遊離型となる(非特許文献10)。種間のアミノ酸相同性は高く、EGF様ドメイン構造も保存されている。例えば、ヒトとマウスのTGFαはアミノ酸相同性が92%あり、ヒトTGFαはマウスやラットに作用する(非特許文献15)。
【0005】
EGFファミリー分子は、受容体型チロシンキナーゼEGF受容体(EGFR)ファミリー(別名ErbBファミリー)に直接結合するリガンドとして作用する。EGFRファミリーは構造上の類似性から現在4種類同定されており、それぞれEGFR(ErbB1)、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)、そしてHER4(ErbB4)と呼ばれている(非特許文献14、16)。13種類存在するEGFファミリー分子のうち、EGFRに結合するリガンドとしてはTGFα、EGF、amphiregulin、β-cellulin、epiregulinなどが知られている。HER3にはneuregulinsが結合し、HER4にはneuregulins、β-cellulin,HB-EGFが結合する。HER2はリガンド結合部位を持たない(非特許文献14、16)。
【0006】
EGFファミリー分子が受容体であるEGFRファミリー分子に結合すると、受容体は二量体を形成するとともに、細胞内ドメインに位置するチロシンキナーゼによってチロシン残基のリン酸化が誘導される(非特許文献16)。それに続いて細胞内の様々なタンパク質がカスケード状に活性化される。このようなカスケード経路の代表例としては、Ras/Raf/MAPK経路、PI3K/Akt/mTOR経路、そしてJAK-STAT経路が知られている。Ras/Raf/MAPK経路は主に細胞の増殖と生存に関与し、PI3K/Akt/mTOR経路は細胞成長や抗アポトーシス、細胞浸潤、細胞遊走などに関与している(非特許文献17)。
【0007】
軟寒天中のラット正常繊維芽細胞Rat-1に対して分泌型TGFαを添加すると、Rat-1の細胞形態は形質転換細胞様に変化し、寒天中にてコロニーを形成するようになる(非特許文献15)。また、TGFα遺伝子を導入されたCHO細胞も、形質転換様細胞となり、ヌードマウスに移植すると容易に腫瘍を形成する(非特許文献9)。このときCHO細胞表面上のEGFRは有意にリン酸化されていることから、CHOが分泌したTGFαがオートクライン的に細胞増殖を誘導していると理解されている。TGFαの他の生理機能としては、強力な血管新生誘導因子としての働きが知られている。血管内皮細胞に発現するEGFRにTGFαが作用することによって、血管内皮細胞の遊走と増殖が誘導されると考えられている(非特許文献18−21)。
【0008】
健常人におけるTGFαの成体内分布は、気道上皮や大腸の粘膜上皮など、粘膜上皮細胞における発現を特徴とする(非特許文献22−24)。この発現パターンはEGFRのそれに類似している。一方、癌においては、固形癌を中心にTGFαの過剰発現が広く知られている(非特許文献22、23)。頭頸部癌、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、卵巣癌、メラノーマなど、様々な癌種においてmRNAならびにタンパク質レベルでTGFαの発現亢進が確認されている。受容体のEGFRも種々の癌組織において過剰発現が確認され、特に非小細胞肺癌や頭頸部扁平上皮癌、腎癌においてはTGFαとEGFRの発現量が正に相関していることが報告されている(非特許文献25−29)。固形癌の周辺部位には間質と呼ばれる癌細胞の足場となるストローマ(主には繊維芽細胞)と栄養を運ぶ血管から構成される組織が発達している。抗TGFα抗体を用いた癌組織の免疫組織染色の結果、TGFαは癌部だけでなく、間質にも存在することが明らかとなっている(非特許文献25、29)。このことからTGFαは癌細胞のオートクライン的な増殖を誘導するだけでなく、癌の成長を支える間質の増殖因子として機能することで、癌の悪性化に寄与していると考えられている(非特許文献18−21、30)。
【0009】
上述したように、TGFαを含むEGFファミリー分子やその受容体であるEGFRが癌の増殖に関与していることは間違いない。そこで、当然のことながら、TGFαやEGFRを標的とした癌細胞の増殖制御が期待されている(非特許文献16−17、31)。
【0010】
EGFRを癌治療の標的としたモノクローナル抗体の研究は、1980年台初頭に開始された(非特許文献32−34)。リガンドであるEGFと競合的に結合し、EGFRのチロシンリン酸化、二量体化を阻害する活性を有するモノクローナル抗体としてセツキシマブ(cetuximab:商品名アービタックス(Erbitux))が開発された(非特許文献35、36)。セツキシマブはA431細胞を初めとする培養癌細胞の増殖を抑制し、マウス担癌モデルにおいても抗腫瘍効果を発揮することが確認され、1990年に扁平上皮肺癌患者を対象に臨床試験が開始された。2001-2002年に行われた無作為化比較臨床試験においては大腸癌に対する効果が証明され、2003年に転移性大腸癌に対する治療剤としてスイスで初めて認可を受けた。FDAも2004年にEGFRを発現する転移性大腸癌に対する治療剤として承認し、2006年にはEGFRを発現する頭頸部癌の治療剤として追加承認した。日本では2008年にEGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌の治療剤として厚生労働省の製造販売承認を受けている(非特許文献37)。同じくEGFRと結合して癌の増殖を抑制する抗EGFRモノクローナル抗体としてパニツムマブ(商品名Vectibix アムジェン社)が知られている(非特許文献38)。パニツムマブは欧米でセツキシマブと同様にEGFR陽性の進行・再発の大腸癌の治療剤として使用されている。どちらの抗EGFRブロック抗体も、化学療法が奏功しなかった大腸癌患者の全生存期間と無増悪生存期間を改善し、生活の質が維持されうることから、他のEGFR陽性癌への適応拡大が望まれている(非特許文献31、35、39)。
【0011】
しかし、その一方で、セツキシマブ抵抗性の大腸癌の頻度は高く、50%以上の患者で大腸癌の増悪が認められている(非特許文献40−41)。このセツキシマブ抵抗性には、K-Rasの遺伝子の変異が関与していることが指摘されている。すなわち、EGFRの下流に位置するK-Rasの遺伝子に変異があると、セツキシマブやパニツムマブによるEGFRに対するブロックの有無に関わりなく、細胞は活性化し、癌は増殖を維持する(非特許文献42)。
【0012】
1960年代にラットのKirusten肉腫ウイルス、Harbey肉腫ウイルスから癌遺伝子として、K-RasならびにH-Rasが分離された。その後、ヒト膀胱癌細胞株から活性型H-Ras、ヒト肺癌細胞株から活性型K-Rasが、神経芽細胞腫から活性型N-Rasが分離された(非特許文献43−44)。これら3種類のRas遺伝子の遺伝子産物の相同性は約85%と高い。正常細胞におけるRas遺伝子産物はGTPase活性を有する低分子Gタンパク質の一種であり、細胞の増殖を進める役割をもっている。このRas遺伝子に点突然変異が起こると、コードするアミノ酸がミスセンス変異を起こし、本来のGTPase活性が低下する場合がある。特にコドン12番目あるいは13番目のグリシン残基の点変異は腫瘍化との関連が示唆され、大腸癌患者の約40%にコドン12あるいは13変異が確認されている(非特許文献40)。この変異型Rasタンパク質はGTPが結合した活性型を維持するため、下流へのシグナルが恒常的に伝わり、異常な細胞増殖や腫瘍化を起こすと考えられている(非特許文献45)。このときTGFαを始めとする各種のEGFファミリー分子が過剰に発現されることから、これが癌細胞の増殖に拍車をかけ、癌の増大が亢進されると考えられている(非特許文献46)。
【0013】
K-Ras遺伝子に変異がある場合、セツキシマブやパニツムマブを使用しても効果が期待できず、副作用のリスクだけを背負うことになる。このため、これら治療薬は、ヨーロッパではK-Ras遺伝子変異のない患者のみに使用を限るという条件付きになっている。日本でもセツキシマブの使用にあたっては、効果の期待されるK-Ras遺伝子が正常な患者を対象とすることが推奨されている。他のEGFRの阻害剤として、細胞内ドメインに存在するチロシンキナーゼの働きを阻害する低分子剤のゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やエルロチニブ(商品名:タルセバ)が知られているが、これらの治療薬もK-Ras変異をもつ患者では成績不良であることが報告されている(非特許文献39、47−48)。
【0014】
一方、EGFRの上流に位置するTGFαを標的としたモノクローナル抗体が、実際の癌患者由来の癌細胞に対してその増殖を阻害したという報告やヒト癌細胞を移植された担癌モデルマウスにおいて腫瘍形成を制御したという報告は、我々の知る限り存在しない。
【0015】
ただし、TGFαに対するモノクローナル抗体を用いて軟寒天中に播種された培養細胞によるコロニー形成を制御した例は存在する。1986年にRosenthalらはヒトTGFαに対するモノクローナル抗体TGF-α1を用いて次の実験を行った。正常ラット繊維芽細胞Rat-1は軟寒天中においてコロニー形成をほとんど行わないが、ヒトTGFαを添加すると、容易にコロニーの形成が誘導される。またヒトTGFα遺伝子を強制的に導入して樹立したRat-1細胞株のクローン16とクローン42もコロニー形成能を獲得する。この培養系に抗TGFα抗体のTGF-α1を添加するとコロニー形成が阻止された。一方、活性型Ras遺伝子を導入されたRat-1もコロニー形成能を獲得する。しかし、この培養系に抗TGFα抗体のTGF-α1を添加してもコロニー形成を阻止することはできなかった(非特許文献15)。
【0016】
同様の実験は、1990年にCiardielloらによって実施されている(非特許文献49)。正常乳腺上皮細胞のMCF10AにTGFα遺伝子を導入し、TGFαを高発現する細胞株MCF10A TGFα Cl3(以下Cl3と称す)ならびにMCF10A TGFα Cl4(以下Cl4と称す)を樹立した。親株のMCF10A細胞は軟寒天中において、ほとんどコロニーの形成を行わないが、Cl3とCl4は高いコロニー形成能を有する。抗TGFαモノクローナル抗体Tab1を培養系に添加すると、Cl3ならびにCl4によるコロニー形成は抗体濃度依存的に抑制された(抗体濃度50μg/mL以上でコロニー形成を約90%阻止)。この実験系において、EGFRのブロック抗体クローン528は、抗体濃度で評価した場合、Tab1に比べて10倍以上強いコロニー形成阻害を達成した(抗体濃度5μg/mL以上でコロニー形成を90%以上阻止)。
【0017】
MCF10Aに活性型Ras遺伝子を導入して樹立した細胞株MCF10A Ha-ras Cl1ならびにMCF10A Ha-ras Cl2はTGFαを高発現するとともに高いコロニー形成能を獲得する。これらの活性型Ras導入細胞は上述のTGFα導入細胞に比べて、EGFRブロック抗体と抗TGFα抗体に強い抵抗性を示す。EGFRのブロック抗体528は抗体濃度5μg/mLでは60-70%程度のコロニー形成阻害しか達成されず、抗TGFα抗体Tab1に至っては、50μg/mLから100μg/mLの抗体濃度でも50%程度のコロニー形成阻害しか達成されなかった。
【0018】
1989年にオンコジーンサイエンス社のSorvilloらは複数の抗TGFαモノクローナル抗体について特許を取得している(特許文献1)。特許明細書には、クローン213-4.4、クローン134A-2B3、そしてクローン137-178のTGFαへの反応特異性に関する記載はあるが、それらの抗体によるTGFαの生理機能の阻害あるいはTGFα発現細胞に対する増殖阻害に関するデータはない。1990年に同じ研究グループが特許明細書に記載のある抗TGFα抗体について論文にて報告している(非特許文献50)。この論文では、クローン189-2130がTGFαのEGFRへの結合を阻害する効果が示されているが、TGFα発現細胞やRas変異癌の増殖に与える影響等には触れられていない。
【0019】
以上のように、これまで、癌細胞の増殖制御に関して、EGFRの上流に存在するTGFαに対する抗体が、EGFRブロック抗体を含むEGFR阻害剤よりも優れた効果を示すことは期待できなかった。さらにRasを含むEGFRの下流が恒常的に活性化した癌細胞においては、上流に位置するEGFRやさらに上流にあるTGFαをブロックしても、癌細胞の増殖を抑制することが、一層困難であることが、これまで常識とされてきた(非特許文献31、46)。
【0020】
Rasの遺伝子変異は、実に広範な腫瘍で報告されている。ヒトの癌全体の平均で17-25%の患者にK-Ras遺伝子変異がある(非特許文献51)。特に大腸癌では35-40%、肺癌では35%、甲状腺癌では55%、そして膵癌では80-90%の患者で遺伝子変異が見出されている(非特許文献52−53)。上述したようにRas遺伝子の活性型変異はセツキシマブやパニツムマブを含む各種のEGFR阻害剤に対する強い耐性を示す原因となっている(非特許文献42,54)。既存薬に対して抵抗性の高いRas変異癌に対する治療薬の開発は人類の生活向上に直接関わる重要課題であり、多くの癌患者そして医師たちからも強く期待されている。しかしながら、現在までに、Ras変異癌の治療のための有効な手段は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第5190858号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1978) 75, 4001-4005
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 3494-3498
【非特許文献3】Nature (1982) 295, 417-419
【非特許文献4】Cancer Res. (1982) 42, 4776-4778
【非特許文献5】Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 4684-4688
【非特許文献6】Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 6264-6268
【非特許文献7】J. Cell Biol. (1994) 125, 903-916
【非特許文献8】Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1991) 88, 1726-1730
【非特許文献9】EMBO J. (2003) 22, 1114-1124
【非特許文献10】Cancer Sci. (2008) 99, 214-220
【非特許文献11】Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1986) 83, 8082-8086
【非特許文献12】Biochem. (1993) 32, 7334-7353
【非特許文献13】Cell (2002) 110, 763-773
【非特許文献14】Exp. Cell Res. (2003) 284, 2-13
【非特許文献15】Cell (1986) 46, 301-309
【非特許文献16】N. Engl. J. Med. (2008), 1160-1174
【非特許文献17】N. Engl. J. Med. (2008), 1367-1380
【非特許文献18】Science (1986) 232, 1250-1253
【非特許文献19】Breast J. (2000) 6, 171-177
【非特許文献20】Int. J Oncol. (2000) 17, 453-60
【非特許文献21】Neoplasia (2006) 8, 470-476
【非特許文献22】Cell Prolif. (1993) 26, 449-60
【非特許文献23】Cancer Res. (1987) 47, 707-712
【非特許文献24】J. Histochem. Cytochem. (1999) 47, 949-957
【非特許文献25】Cancer Res. (1993) 53, 2379-2385
【非特許文献26】Am. J. Pathol. (1993) 142, 1155-1162
【非特許文献27】Clin. Cancer Res. (1997) 3, 515-522
【非特許文献28】Clin. Cancer Res. (2004) 10, 136-143
【非特許文献29】Clin. Cancer Res. (2008) 14, 1303-1309
【非特許文献30】Mol. Cancer Ther. (2007) 6, 2652-2653
【非特許文献31】Nat. Rev. (2006) 7, 505-516
【非特許文献32】Cancer Res. (1994) 54, 505-516
【非特許文献33】J. Blol. Chem. (1994) 269, 27595-27602
【非特許文献34】Clin Cancer Res. (2000) 6, 747-753
【非特許文献35】Japan J Lung Cancer (2006) 46, 267-275
【非特許文献36】CANCER CELL (2005) 7, 301-311
【非特許文献37】アービタックス医薬品インタビューフォーム (2008)
【非特許文献38】Clin Colorectal Cancer (2005) 21-25
【非特許文献39】Oncology (2009) 77, 400-410
【非特許文献40】N. Engl. J. Med. (2008), 1757-1765
【非特許文献41】N. Engl. J. Med. (2009), 833-836
【非特許文献42】J. Clin. Oncol. (2010) 26, 1254-1261
【非特許文献43】Proc. Natl Acad. Sci. USA (1982) 79, 3637-3640
【非特許文献44】Proc. Natl Acad. Sci. USA (1982) 79, 4848-4852
【非特許文献45】Mol Cell Biol (1986) 6, 3291-3294
【非特許文献46】Differentiation (2007) 75, 788-799
【非特許文献47】J. Clin. Oncol. (2005) 23,5900-5909
【非特許文献48】Neoplasia (2009) 11, 1084-1092
【非特許文献49】Cell Growth Differ (1990) 1, 407-420
【非特許文献50】Oncogene (1990) 5, 377-386
【非特許文献51】Biochim. Biophys. Acta. (2005) 1756 81-82
【非特許文献52】Cancer Detect Prev. (2000) 24, 1-12
【非特許文献53】Br. J. Cancer (2005) 92, 131-139
【非特許文献54】J. Clin. Oncol. (2008) 26, 5668-5670
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して優れた増殖抑制効果を有する抗体を提供することにある。さらなる本発明の目的は、このような抗体を有効成分とする抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、天然型TGFαに反応性を示す抗体のうち、G79A置換型TGFαとの反応性が低い抗体が、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して、優れた増殖抑制効果を有することを見出した。さらに、本発明者らは、これら抗体の多くが、EGFRのチロシンリン酸化を阻害する活性および/または血管内皮細胞の誘引抑制活性をも有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明は、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して優れた増殖抑制効果を有する抗TGFα体、並びにその製造方法および用途に関し、より詳しくは、下記の発明を提供するものである。
【0026】
<1> ヒトTGFαに対する抗体であって、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαとの反応性が低く、かつRas遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示す抗体。
【0028】
> 79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαが、G79A置換型のヒトTGFαである、<>に記載の抗体。
【0029】
> EGFRのチロシンリン酸化を抑制する活性を有する、<1>又は<2>に記載の抗体。
【0030】
> 血管内皮細胞の誘引を抑制する活性を有する、<1>から<>のいずれかに記載の抗体。
【0031】
> 下記(a)から(h)のいずれかに記載の特徴を有する、<1>に記載の抗体。
(a) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:19から21に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:22から24に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(b) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:25から27に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:28から30に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(c) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:31から33に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:34から36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(d) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:37から39に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:40から42に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(e) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:43から45に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:46から48に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(f) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:49から51に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:52から54に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(g) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:55から57に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:58から60に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(h) CDR1〜3の配列として、各々配列番号:61から63に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、CDR1〜3の配列として、各々配列番号:64から66に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
> 下記(a)から(h)のいずれかに記載の特徴を有する、<1に記載の抗体。
(a) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(b) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(c) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(d) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(e) 配列番号:11に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(f) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(g) 配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
(h) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<7受託番号FERM BP−11377で特定されるハイブリドーマにより産生される抗体。
> <>または<>に記載の抗体のエピトープに結合する、<1>に記載の抗体。
> <1>から<>のいずれかに記載の抗体をコードするDNA。
10> <1>から<>のいずれかに記載の抗体を産生する、または、<>に記載のDNAを含む、ハイブリドーマ。
11> <1>に記載の抗体の製造方法であって、
(a)ヒトTGFαに結合する抗体を調製する工程、
(b)調製した抗体から、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαとの反応性が低い抗体を選抜する工程、を含む方法。
12> 79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαが、G79A置換型のヒトTGFαである、<11>に記載の方法。
13> <1>から<>のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、抗癌剤。
14> 癌がRas遺伝子に変異を有する癌である、<13>に記載の抗癌剤。
15<1>、<2>、<5>から<7>のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、癌の診断剤。
16> 癌がRas遺伝子に変異を有する癌である、<15>に記載の診断剤。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して、優れた増殖抑制効果を有する抗TGFα抗体が提供された。特に、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαとの反応性が低い抗TGFα抗体は、共通して、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対する優れた増殖抑制活性を有していた。本発明の抗体を用いれば、癌の治療が可能となる。本発明の抗体は、既存薬に対して抵抗性の高いRas変異癌の治療に対しても効果的である。また、本発明の抗体は、癌の診断への応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】抗TGFαモノクローナル抗体の取得に使用した免疫原と抗体スクリーニング用抗原を示す図。免疫原proTGFα-mH(a)およびproTGFα-mFc(b)、並びに、抗体スクリーニング用抗TGFα-hFc(c)、proTGFα-hFc(d)、およびGITR-hFc(e)のそれぞれについてSDS電気泳動をおこなってゲル上で展開し、CBB染色した。mFcはマウスIgG2aのFc部、hFcはヒトIgG1のFc部を意味する。またmHはmycとHisのタグが連続して融合していることを示す。(f)は、膜型TGFαを一過性発現させた293T細胞と抗TGFα抗体(R&D systems社)(右)または陰性対照としてPBS(-)(左)との反応性を示す。TGFαの発現量に応じて、蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP、セルバイオラボス社))による蛍光が発せられる仕組みになっている。二次抗体には、フィコエリスリン(PE)標識された抗IgG抗体を用いた。抗体反応細胞のフローサイトメトリによる2次元展開において、TGFαに抗体が反応した場合、蛍光のドットが右上に展開される(図1f右)。
図2】免疫原およびスクリーニング用抗原を用いた固相ELISAにおける各抗TGFα抗体候補(精製ビオチン標識)の反応性の例を示すグラフである。各抗TGFα抗体(精製ビオチン標識)に対する、4つの抗原の反応性をELISAにより検出した結果を示す。450nm/620nmの吸光度(縦軸OD値)を、左からGITR-hFc、TGFα-hFc、proTGFα-hFc、proTGFα-mHの順に並べてグラフ化した。
図3】膜型TGFαを強制発現させた293T細胞に対する各抗TGFα抗体候補(精製抗体)の反応性をフローサイトメトリにより解析した結果の例を示す図である。X軸にGFPによる蛍光を展開し、Y軸に抗TGFα抗体とPE標識抗マウスIgG抗体による蛍光を展開した。抗体が膜型TGFαに反応すると陰性対照に比べてドットが右上にシフトする。
図4】proTGFα-mH抗原に対する各抗TGFα抗体候補(ハイブリドーマ上清)の反応性を免疫沈降法により検出した結果を示す写真である。免疫沈降された抗原の検出には、抗mycタグ抗体を用いた。検出されたバンドがproTGFα-mHであることを確認するために、ゲルの右端のレーンにproTGFα-mHを展開している。
図5a】EGFR高発現癌細胞A431細胞におけるEGFRのチロシンリン酸化に対する各抗TGFα抗体の阻害効果を示す写真である。実験対照として、TGFα中和抗体クローン189-2130(非特許文献50)およびセツキシマブの親抗体225を使用した。p-EGFRは抗リン酸化チロシンEGFR抗体によるウエスタンブロットの結果を示し、EGFRは同じ試験膜を抗EGFR抗体にてリブロットした結果を示す。
図5b】EGFR高発現癌細胞A431細胞におけるEGFRのチロシンリン酸化に対する各抗TGFα抗体の阻害効果を示すグラフである。実験対照として、TGFα中和抗体クローン189-2130(非特許文献50)およびセツキシマブの親抗体225を使用した。TGFα未添加時におけるEGFRのリン酸化レベルを0%、TGFα添加時のEGFRのリン酸化レベルを100%としたときの、各実験条件におけるEGFRのリン酸化レベルの相対値をグラフ化した。
図6】各種固形癌細胞株に対する抗TGFα抗体MBL259-3の反応性をフローサイトメトリで解析した結果を示す図である。癌細胞としては、大腸癌由来のK-Ras遺伝子ホモ変異細胞株であるSW620と肺癌由来のK-Rasヘテロ変異細胞株であるA427を用いた。上段にマウスアイソタイプ対照抗体としてマウスIgGとの反応性を、下段に抗TGFα抗体であるMBL259-3との反応性を、それぞれ検出した結果を示した。
図7a】肺癌細胞株A427を移植したマウス担癌モデルにおける各抗TGFα抗体による抗腫瘍活性を検出した結果を示すグラフである。対照としてEGFRブロック抗体であるセツキシマブを使用した。X軸に抗体投与からの日数を示し、Y軸に腫瘍体積mm3を示した。5匹のマウスを用いて実験を行い、すべてのマウスについてその腫瘍サイズの変化をグラフにプロットした。図の灰色の線は、アイソタイプ対照を投与した場合の結果を示し、黒色の線は各抗TGFα抗体およびセツキシマブを投与した場合の結果を示している。
図7b】肺癌細胞株A427を移植したマウス担癌モデルにおける各抗TGFα抗体による抗腫瘍活性を検出した結果を示すグラフである。対照としてEGFRブロック抗体であるセツキシマブを使用した。X軸に抗体投与からの日数を示し、Y軸に腫瘍体積mm3を示した。抗体投与から23日目における腫瘍サイズの平均値(5匹の平均)をグラフに示した。
図8a】大腸癌細胞株SW620を移植したマウス担癌モデルにおける各抗TGFα抗体による抗腫瘍活性を示す。対照としてEGFRブロック抗体のセツキシマブを使用した。X軸は投与からの日数を示し、Y軸は腫瘍体積mm3を示す。4匹のマウスを用いて実験を行い、すべてのマウスについてその腫瘍サイズの変化をグラフにプロットした。図の灰色の線は、PBS(-)を投与した場合の結果を示し、黒色の線は各抗TGFα抗体およびセツキシマブを投与した場合の結果を示している。
図8b】大腸癌細胞株SW620を移植したマウス担癌モデルにおける各抗TGFα抗体による抗腫瘍活性を示す。対照としてEGFRブロック抗体のセツキシマブを使用した。X軸は投与からの日数を示し、Y軸は腫瘍体積mm3を示す。抗体投与から22日目における腫瘍サイズの平均値(4匹の平均)をグラフに示した。
図9】3次元細胞培養系における癌細胞に対する各抗TGFα抗体の増殖阻害効果を示すグラフである。癌細胞としては、in vivo試験で本発明の抗体による腫瘍抑制効果が確認されたA427とSW620とを用いた。また、セツキシマブの効果を確認するための陽性対照としてEGFR高発現細胞株A431を用いた。
図10】マウス皮下を利用した血管新生評価系における各抗TGFα抗体の阻害効果を示すグラフである。(a)血管新生誘導因子の陽性対照としてVEGFとFGF-2との混合溶液を、また血管新生の阻害抗体の陽性対照としてVEGFブロック抗体のベバシズマブを用いた。血管内皮細胞の浸潤を示す蛍光強度(左)とPBS添加時の蛍光強度を1としたときの相対値(右)を示した。(b)TGFα存在下における各種抗体の血管新生阻害能を検討した。血管内皮細胞の浸潤を示す蛍光強度(左)とPBS添加時の蛍光強度を1としたときの相対値(右)を示した。
図11】抗TGFa 抗体MBL259-3を用いた大腸癌細胞株SW620ならびに大腸癌組織切片に対する免疫組織染色の写真である。アイソタイプ対照のmouse IgG2a(a)と抗TGFα抗体MBL259-3(b)を用いたK-Ras遺伝子ホモ変異大腸癌細胞株SW620(パラフィン包埋)に対する免疫組織染色像を示す。(c)MBL259-3を用いた大腸癌(腺癌)患者由来の癌組織切片(パラフィン包埋)に対する免疫組織染色像を示す。
図12a】アミノ酸点置換TGFαに対する各抗TGFα抗体の反応性をフローサイトメトリ(ドットプロット表示)で解析した結果を示すグラフである。(a)抗体の反応性が低下した場合のデータを、四角の枠で囲った。3次元培養系または担癌マウスモデルで癌細胞に対する増殖抑制効果を示したMBL009-15からMBL352-34までの9抗体については、共通してG79A置換により反応性を失った。一方、癌に対する増殖抑制効果が確認されなかったTGFα中和抗体189-2130においては、G79A置換により反応性に変化はなく、H74A置換によって反応性を消失した。
図12b】アミノ酸点置換TGFαに対する189-2130の反応性をフローサイトメトリ(ヒストグラム表示)で解析した結果を示すグラフである。G79A置換で反応性を保持し、H74A置換で反応性が消失した。
図13】TGFαのポリペプチド断片を固相化したプレートに対する各抗TGFα抗体の反応性を示すグラフである。各ポリペプチドはオーバーラップしている部分がある。抗原抗体反応の陽性対照としてproTGFα-hFcを用いた。
図14】膜型TGFα/293Tに対する各ヒト型キメラ抗TGFα抗体の反応性をフローサイトメトリで解析した結果を示す図である。
図15】MBL009-15の可変領域の一次構造を示す図である。
図16】MBL016-8の可変領域の一次構造を示す図である。
図17】MBL018-1の可変領域の一次構造を示す図である。
図18】MBL144-1の可変領域の一次構造を示す図である。
図19】MBL184-6の可変領域の一次構造を示す図である。
図20】MBL259-3の可変領域の一次構造を示す図である。
図21】MBL292-1の可変領域の一次構造を示す図である。
図22】MBL352-34の可変領域の一次構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、ヒトTGFαに対する抗体であって、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示す抗体を提供する。
【0035】
本発明において「Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示す」とは、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示すこと意味する。本発明の抗体は、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を有する限り、さらに、Ras遺伝子に変異を有しない癌細胞に対して増殖抑制活性を有していてもよい。in vitroにおける活性は、例えば、ゲル化させた培地で細胞を培養する3次元細胞培養系を用いて、Ras遺伝子(例えば、K-Ras遺伝子)に変異を有する癌細胞(例えば、A427やSW620)を増殖させ、その培養系に、被検抗体を添加し、その後、これら癌細胞の増殖を検出することにより評価することができる(実施例5参照のこと)。また、in vivoにおける活性は、例えば、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞(例えば、A427やSW620)を皮下移植したヌードマウスに、被検抗体を皮下投与し、その後の腫瘍サイズを計測することにより評価することができる(実施例4参照のこと)。当該活性を有する抗体としては、本実施例に記載のMBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL144-1、MBL184-6、MBL259-3、MBL292-1、およびMBL352-34が挙げられる。
【0036】
本発明の抗体が結合する「ヒトTGFα」の典型的なアミノ酸配列(天然型のアミノ酸配列)を配列番号:2に、そのコードする遺伝子の典型的な塩基配列を配列番号:1に示す。本発明の抗体の好ましい態様は、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)との反応性が低い抗体である。本発明の抗体のより好ましい態様は、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)との反応性が消失した抗体である。本実施例においてRas遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示した上記MBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL144-1、MBL184-6、MBL259-3、MBL292-1、およびMBL352-34は、共通に、G79A置換型のヒトTGFαとの反応性が著しく低かった。従って、抗体における、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)との反応性の低さと、抗体の、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対する増殖抑制活性とは、高い相関関係を有する。
【0037】
本発明の抗体の他の好ましい態様は、EGFRのチロシンリン酸化を抑制する活性を有する抗体である。抗体によるEGFRのチロシンリン酸化の抑制は、例えば、次のように評価することができる。無血清培地で培養したEGFR高発現細胞(例えば、A431)に対して、TGFαを添加するとEGFRのチロシンリン酸化(P-Tyr1173)レベルが一過的に上昇する。被検抗体がEGFRのチロシンリン酸化を抑制する活性を有する場合、予めTGFα溶液を被検抗体と反応させてから当該EGFR高発現細胞を処理した場合、EGFRのリン酸化レベルが陰性対照(例えば、PBS)に比べて低い値を示す。このように、陰性対照を用いた場合と比較した、被検抗体を用いた場合のEGFRのリン酸化レベルを測定することにより、被検抗体のEGFRのチロシンリン酸化を抑制する活性を評価することができる(実施例2参照のこと)。本発明の抗体は、好ましくは、抗体添加濃度10μg/mLにおいて、EGFRのチロシンリン酸化(P-Tyr1173)を50%以上抑制する抗体であり、より好ましくは70%以上(例えば、80%以上、90%以上、100%以上)抑制する抗体である。当該活性を有する抗体としては、本実施例に記載のMBL352-34、MBL292-1、MBL184-6、MBL016-8、MBL144-1、MBL023-1、およびMBL018-1が挙げられる。
【0038】
本発明の抗体の他の好ましい態様は、血管内皮細胞の誘引を抑制する活性を有する抗体である。当該活性の評価には、例えば、マウス皮下における血管新生評価系を利用することができる。例えば、当該活性は、市販のDirected In Vivo Angiogenesis Assay(Trevigen社)を用い、ヒトTGFαによるアンジオリアクター内への血管内皮細胞の遊走を被検抗体が抑制する活性として評価することができる(実施例6参照のこと)。当該活性を有する抗体としては、本実施例に記載のMBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL292-1、およびMBL352-34が挙げられる。
【0039】
本発明の抗体は、上記の活性を複数併せ持つ抗体であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の抗体の他の好ましい態様は、本実施例に記載の抗体の軽鎖CDR1〜CDR3を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3を含む重鎖可変領域を保持する抗体あるいはそれらのアミノ酸配列変異体である。具体的には、下記(a)から(h)のいずれかに記載の特徴を有する抗体である。
【0041】
<MBL009-15>
(a) 配列番号:19から21に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:22から24に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL016-8>
(b) 配列番号:25から27に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:28から30に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL018-1>
(c) 配列番号:31から33に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:34から36に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL144-1>
(d) 配列番号:37から39に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:40から42に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL184-6>
(e) 配列番号:43から45に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:46から48に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL259-3>
(f) 配列番号:49から51に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:52から54に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL292-1>
(g) 配列番号:55から57に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:58から60に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL352-34>
(h) 配列番号:61から63に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:64から66に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
本発明の抗体の他の好ましい態様は、本実施例に記載の抗体の軽鎖可変領域と、重鎖可変領域を保持する抗体あるいはそのアミノ酸配列変異体である。具体的には、下記(a)から(h)のいずれかに記載の特徴を有する抗体である。
【0042】
<MBL009-15>
(a) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL016-8>
(b) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL018-1>
(c) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL144-1>
(d) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL184-6>
(e) 配列番号:11に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL259-3>
(f) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL292-1>
(g) 配列番号:15に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
<MBL352-34>
(h) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:18に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する
本発明の抗体の他の好ましい態様は、本実施例に記載のMBL023-1抗体である。当該抗体を産生するハイブリドーマは、2011年4月20日より、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305-8566))に寄託されており、受領番号FERM ABP-11377が付与されている。従って、MBL023-1抗体は、具体的には、受領番号FERM ABP-11377で特定されるハイブリドーマにより産生される抗体である。
【0043】
一旦、上記抗体(例えば、本実施例の抗体)が得られた場合、当業者であれば、その抗体が認識するエピトープを認識する種々の抗体を作製することができる。
【0044】
本発明における「抗体」は、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスを含む。「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が含まれ、また、抗体の機能的断片の形態も含む意である。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、自然環境の成分から分離され、および/または回収された(即ち、単離された)抗体である。
【0045】
本発明の抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および、これら抗体の機能的断片が含まれる。本発明の抗体を医薬としてヒトに投与する場合は、副作用低減の観点から、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいはヒト抗体が望ましい。
【0046】
本発明において「キメラ抗体」とは、ある種の抗体の可変領域とそれとは異種の抗体の定常領域とを連結した抗体である。キメラ抗体は、例えば、抗原をマウスに免役し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する抗体可変部(可変領域)を切り出して、ヒト骨髄由来の抗体定常部(定常領域)遺伝子と結合し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入して産生させることにより取得することができる(例えば、特開平7-194384号公報、特許3238049号公報、米国特許第4816397号公報、米国特許第4816567号公報、米国特許第5807715号公報)。また、本発明において「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体の抗原結合部位(CDR)の遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体であり、その作製方法は、公知である(例えば、特許2912618号、特許2828340号公報、特許3068507号公報、欧州特許239400号公報、欧州特許125023号公報、国際公開90/07861号公報、国際公開96/02576号公報参照)。本発明において、「ヒト抗体」とは、すべての領域がヒト由来の抗体である。ヒト抗体の作製においては、免疫することで、ヒト抗体のレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を利用することが可能である。ヒト抗体の作製手法は、公知である(例えば、Nature, 362:255-258(1992)、Intern. Rev. Immunol, 13:65-93(1995)、J. Mol. Biol, 222:581-597(1991)、Nature Genetics, 15:146-156(1997)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:722-727(2000)、特開平10-146194号公報、特開平10-155492号公報、特許2938569号公報、特開平11-206387号公報、特表平8-509612号公報、特表平11-505107号公報)。
【0047】
本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、ヒトTGFαを特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0048】
ここで「Fab」とは、1つの軽鎖および重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合断片を意味する。抗体のパパイン消化によって、また、組換え方法によって得ることができる。「Fab'」は、抗体のヒンジ領域の1つまたはそれより多いシステインを含めて、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのわずかの残基の付加によって、Fabとは異なる。「F(ab’)2」とは、両方の軽鎖と両方の重鎖の部分からなる免疫グロブリンの二価の抗原結合断片を意味する。
【0049】
「可変領域断片(Fv)」は、完全な抗原認識および結合部位を有する最少の抗体断片である。Fvは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである。「一本鎖Fv(sFv)」は、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖に存在する。「sc(Fv)2」は、2つの重鎖可変領域および2つの軽鎖可変領域をリンカー等で結合して一本鎖にしたものである。「ダイアボディー」とは、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片であり、この断片は、同一ポリペプチド鎖の中に軽鎖可変領域に結合した重鎖可変領域を含み、各領域は別の鎖の相補的領域とペアを形成している。「多特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。例えば、二つの重鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現により調製することができる。
【0050】
本発明の抗体には、望ましい活性(例えば、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対する増殖抑制活性、天然型のヒトTGFαやG79A置換型のヒトTGFαとの反応性、EGFRのチロシンリン酸化を抑制する活性、または血管内皮細胞の誘引を抑制する活性)を減少させることなく、そのアミノ酸配列が修飾された抗体が含まれる。本発明の抗体のアミノ酸配列変異体は、本発明の抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。そのような修飾には、例えば、本発明の抗体のアミノ酸配列内の残基の置換、欠失、付加および/または挿入を含む。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域およびCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との結合親和性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS, 102:8466-8471(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J. Biol. Chem., 280:24880-24887(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:345-351(2008))。
【0051】
CDR以外のアミノ酸の改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。
【0052】
また、本発明の抗体の改変は、例えば、グリコシル化部位の数、位置、種類を変化させるなどの抗体の翻訳後プロセスの改変であってもよい。これにより、例えば、抗体のADCC活性を向上させることができる。抗体のグリコシル化とは、典型的には、N-結合またはO-結合である。抗体のグリコシル化は、抗体を発現するために用いる宿主細胞に大きく依存する。グリコシル化パターンの改変は、糖生産に関わる特定の酵素の導入または欠失などの公知の方法で行うことができる(特開2008-113663号公報、特許4368530号公報、特許4290423号公報、米国特許第5047335号公報、米国特許第5510261号公報、米国特許第5278299号公報、国際公開第99/54342号公報)。
【0053】
さらに、本発明においては、抗体の安定性を増加させる等の目的で脱アミド化されるアミノ酸若しくは脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより脱アミド化を抑制してもよい。また、グルタミン酸を他のアミノ酸へ置換して、抗体の安定性を増加させることもできる。本発明は、こうして安定化された抗体をも提供するものである。
【0054】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(TGFα、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0055】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(ヒトTGFα、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、ヒトTGFαに特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。ヒトTGFαに対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0056】
組換えDNA法は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves, Antibody Production: Essential Techniques, 1997 WILEY、P.Shepherd and C. Dean Monoclonal Antibodies, 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M. et al., Eur. J. Biochem. 192:767-775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(国際公開94/11523号公報参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0057】
本発明は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNA、該DNAを含むベクター、該DNAを保持する宿主細胞、および該宿主細胞を培養し、抗体を回収することを含む抗体の生産方法をも提供するものである。
【0058】
上記の通り、本発明において、抗ヒトTGFα抗体における、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)との反応性の低さと、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対する増殖抑制活性とは、高い相関関係を有することが見出された。かかる知見に基づき、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)との反応性が低い抗体を選抜することにより、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示す抗ヒトTGFα抗体を製造することが可能である。従って、本発明は、(a)ヒトTGFαに結合する抗体を調製する工程、および(b)調製した抗体から、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFαとの反応性が低い抗体を選抜する工程、を含む、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を示す抗ヒトTGFα抗体の製造方法をも提供するものである。天然型のヒトTGFαまたは79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)と抗体との反応性は、例えば、各TGFαを表面に発現させた293T細胞を調製し、当該細胞と被検抗体との反応性をフローサイトメトリにより解析することで評価することが可能である(実施例7参照のこと)。さらに、本発明は、このような抗ヒトTGFα抗体の製造方法において有用な、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)をも提供するものである。
【0059】
本発明の抗体は、Ras遺伝子に変異を有する癌細胞に対して増殖抑制活性を有することから、抗癌剤として利用することができる。従って、本発明は、本発明の抗体を有効成分とする抗癌剤、および、本発明の抗体を、治療上の有効量、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、癌の治療の方法をも提供するものである。本発明の治療の方法は、ヒト以外にも、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含む各種哺乳動物に応用することが可能である。本発明の抗体は、既存薬に対して抵抗性の高いRas変異癌の治療においても効果的である。
【0060】
本発明の抗体を有効成分とする抗癌剤は、本発明の抗体と任意の成分、例えば生理食塩水、葡萄糖水溶液または燐酸塩緩衝液などを含有する組成物の形態で使用することができる。本発明の抗癌剤は、必要に応じて液体または凍結乾燥した形態で製形化しても良く、任意に薬学的に許容される担体もしくは媒体、例えば、安定化剤、防腐剤、等張化剤などを含有させることもできる。
【0061】
薬学的に許容される担体としては、凍結乾燥した製剤の場合、マンニトール、ラクトース、サッカロース、ヒトアルブミンなどを例として挙げることができ、液状製剤の場合には、生理食塩水、注射用水、燐酸塩緩衝液、水酸化アルミニウムなどを例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明の抗癌剤の投与方法は、投与対象の年齢、体重、性別、健康状態などにより異なるが、経口投与、非経口投与(例えば、静脈投与、動脈投与、局所投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。好ましい投与方法は、非経口投与である。本発明の抗癌剤の投与量は、患者の年齢、体重、性別、健康状態、癌の進行の程度および投与する抗癌剤の成分により変動しうるが、一般的に、静脈内投与の場合、成人には体重1kg当たり1日0.1〜1000mg、好ましくは1〜100mgである。
【0063】
本発明の抗体は、癌の治療のみならず、癌の診断への応用も考えられる。本発明者らにより見出された、天然型のヒトTGFαと比較して、79位のグリシンに変異を有するヒトTGFα(例えば、G79A置換型のヒトTGFα)との反応性が低い抗体は、特に、Ras遺伝子に変異を有する癌の診断にも有用である。本発明の抗体を癌の診断に用いる場合あるいは癌の検出に用いる場合、本発明の抗体は、標識したものであってもよい。標識としては、例えば、放射性物質、蛍光色素、化学発光物質、酵素、補酵素を用いることが可能であり、具体的には、ラジオアイソトープ、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、リゾチーム、ビオチン/アビジンなどが挙げられる。本発明の抗体を診断剤として調剤するには、合目的な任意の手段を採用して任意の剤型でこれを得ることができる。例えば、精製した抗体についてその抗体価を測定し、適当にPBS(生理食塩を含むリン酸緩衝液)等で希釈した後、0.1%アジ化ナトリウム等を防腐剤として加えることができる。また、例えば、ラテックス等に本発明の抗体を吸着させたものについて抗体価を求め、適当に希釈し、防腐剤を添加して用いることもできる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[材料および方法]
1.抗TGFαモノクローナル抗体の作製方法
(1)免疫原ならびに抗体スクリーニング用抗原の調製
TGFαに対するマウスモノクローナル抗体を取得するための以下の2つの免疫原を調製した。一つ目は、ヒトTGFαのアミノ酸配列24番目から89番目(塩基配列70番から267番目)に相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、得られたPCR産物を動物培養細胞発現ベクターpSecTag2(インビトロジェン社)にクローニングを行い、さらにpSecTag2由来のリーダーシーケンスを含むヒトTGFα(塩基配列70番から267番目)をレトロウイルスベクターのpQCXIP(タカラバイオ社)にサブクローニングした。TGFαのC末側にタグとしてmycとHisが連続して融合されるようにベクターはデザインされている。作製したベクターとenvベクター(pVSVG)と共に、ウイルスパッケージング細胞のGP293細胞にリポフェクトアミン2000を用いて遺伝子導入を行った。次に培養上清から得たウイルス液を用いて293T細胞に感染を行い、TGFα安定産生細胞株を得た。10日間培養後に得られた上清を、TALON樹脂(タカラバイオ社)を充填したカラムに通し、樹脂の10倍量の5mMのイミダゾールを含む結合緩衝液にてカラムを洗浄後、100mMのイミダゾール溶液にて結合物を溶出した。PBSにて一晩透析した後、溶出物の一部についてSDS電気泳動を行い、分子量19-22kDa付近に目的のバンドを確認し(図1a)、これを免疫原とした(以下、当該免疫原をproTGFα-mHと称す)。二つ目は、ヒトTGFαのアミノ酸配列1番目から89番目(塩基配列1番から267番目)に相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、pCAGGS(大阪大学大学院 医学系研究科 教授 宮崎 純一先生より譲渡して戴いた。Gene (1991) 108(2):193-199)にクローニングした。3’側にマウス免疫グロブリンG2aのFc部の遺伝子が融合するようにベクターをデザインした。遺伝子導入試薬のリポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)を用いてヒト培養細胞293Tに導入し、その培養上清を遠心操作にて回収した。プラスミドDNAの量、細胞数、リポフェクトアミンの量は製品能書に従った。得られた上清についてはProtein Gビーズ(GE社)を充填したカラムに通し、ビーズの10倍量の結合緩衝液にてカラムを洗浄後、pH2.3のグリシン塩酸溶液にてカラム吸着物を溶出させた。pH8.0のTris-HCl緩衝液にて迅速に中和した後、PBSにて一晩透析を行った。抽出物の一部についてSDS電気泳動を行い、分子量40-44 kDa付近に目的のシングルバンドを確認し(図1b)、これを免疫原とした(以下、当該免疫原をproTGFα-mFcと称す)。
【0066】
また、得られた抗体のTGFαとの反応性を確認するためのスクリーニング用抗原を調製するために、下記の4つの発現ベクターを構築した。一つ目のベクターにおいては、ヒトTGFαのアミノ酸配列40番目から89番目(塩基配列118番から267番目)の成熟型TGFαに相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、得られたPCR産物を動物培養細胞発現ベクターpSecTag2にクローニングを行った後、pSecTag2由来のリーダーシーケンスを含むヒトTGFα(塩基配列118番から267番目)をpcDNA3.1ベクター(インビトロジェン社)にサブクローニングした。TGFαのC末側にヒト免疫グロブリンG1のFc部の遺伝子が融合するようにベクターをデザインした(以下、当該発現ベクターによって調製される抗原をTGFα-hFcと称す)。二つ目のベクターにおいては、ヒトTGFαのアミノ酸配列1番目から89番目(塩基配列1番から267番目)に相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、得られたPCR産物を動物培養細胞発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。TGFαのC末側にヒト免疫グロブリンG1のFc部が融合するようにベクターをデザインした(以下、当該発現ベクターによって調製される抗原をproTGFα-hFcと称す)。三つ目のベクターとして、ヒト免疫グロブリンG1のFc部に対する抗体の非特異反応を検討するために、ヒトGITRの細胞外領域の部分長遺伝子配列(1-495塩基)をヒト免疫グロブリンG1のFc部遺伝子と融合させたベクターpcDNA-GITR-hFcを構築した(以下、当該発現ベクターによって調製される抗原をGITR-hFcと称す)。各発現ベクターをヒト培養細胞293Tにリポフェクションによって導入し、3-4日後に培養上清を回収した。培養上清中に含まれる抗体スクリーニング用抗原TGFα-hFc、proTGFα-hFcそしてGITR-hFcの回収・精製は、上記の免疫原の調製法に従った(図1c-e)。四つ目の発現ベクターは、細胞表面に発現する膜型TGFαとの反応性を検討することを目的に構築した。ヒトTGFαのアミノ酸配列1番目から160番目(塩基配列1番から480番目)に相当する遺伝子を動物細胞発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。TGFα遺伝子の3’側にリボソームエントリーサイトのIRESならびに蛍光タンパク質GFP(セルバイオラボス社)の遺伝子が繋がるようにベクターをデザインした(以下、該発現ベクターをpDIG-TGFαと称す)。この発現ベクターの特徴は、293T細胞にリポフェクションによって一過性に導入されると、膜型TGFαを発現している細胞だけ、GFPの蛍光が発するような仕組みを有することである。この細胞に対して一次抗体ならびに、PE標識した二次抗体を反応させた後、フローサイトメトリにて二次元展開を行うと、抗原抗体反応が生じている場合には、GFPの蛍光を発する細胞だけが右上にドットがシフトするデータが得られる(図1f)(以下、当該発現ベクターを一過性導入された293T細胞をTGFα/293Tと称する)。
【0067】
(2)免疫原の免疫とハイブリドーマの樹立
免疫原としてproTGFα-mFc単独、あるいはproTGFα-mFcとproTGFα-mHを用いた。これら溶液にフロイントの完全アジュバント(Complete Freund’s Adjuvant)を等量混ぜた後、BALB/c系統、C57BL/6系統、C3H系統、そしてMRL系統のマウス計60匹に週2回、合計6〜8回の免疫を行った。最終投与後から3日目に免疫マウスから脾臓あるいはリンパ節を摘出し、組織内部からリンパ球を採取した。マウス骨髄腫細胞株P3U1と回収したリンパ球を混ぜ、RPMI培地(シグマ社)にて2回洗浄した後、細胞沈殿に対して、RPMIで50%に希釈したポリエチレングリコール4000溶液(和光純薬社)を等量添加した。細胞懸濁液に1分間のピペッティングを施した後、20倍量のRPMIにて細胞を3回洗浄した。その後、細胞を15%のウシ血清(エキテック社)、2%のHAT(インビトロジェン社)、1/100量のBM培地(ロシュ社)、終濃度5ng/mLのストレプトマイシンとペニシリンを含むRPMI培地で懸濁し、96ウェルプレートに播種して37度のCO2インキュベーター内で静置培養を行った。播種から5日目に培養液を新しい培地と交換し、さらに5日間の培養を継続した。
【0068】
(3)抗体スクリーニング1:抗原固相ELISA
播種から10日目にハイブリドーマが増えているウェルから培養上清を回収し、スクリーニング用抗原proTGFα-hFcを0.2μg/ウェル量固相化した96ウェルプレートを用いて、酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)を実施した(以下、ELISAと称す)。ELISA発色のOD値(450nm/620nm吸光度)が0.2-0.5以上の上清を一次陽性と判断し、1,007種類のハイブリドーマを選択した。陽性ハイブリドーマは24ウェルプレートに移してさらに3日間培養を行った。
【0069】
(4)抗体スクリーニング2:フローサイトメトリ
TGFαの全長を293T細胞に一過性に発現させたTGFα/293T細胞を用いて、上述した24ウェルプレート上清に対するフローサイトメトリ解析を下記の方法で実施した。ハイブリドーマ上清1サンプル50μLに対し、1x105細胞数のTGFα/293Tを4度で60分反応させた。細胞を2mM EDTAと0.5%BSAを含むPBSで洗浄した後、PE標識した抗マウスIgG抗体(MBL社)と4度で30分反応させた。さらに、細胞を400xgで遠心洗浄した後、細胞沈殿を500μLの2mM EDTAと0.5%BSAを含むPBSに懸濁し、フローサイトメトリ(FC500、ベックマンコールター社)にて解析を行った。
【0070】
(5)抗体スクリーニング3:免疫沈澱法
フローサイトメトリにて膜型TGFαとの反応性を示したハイブリドーマ上清について、さらに、proTGFα-mHを抗原に以下の方法で免疫沈澱を実施した。1ハイブリドーマ当たり700μLの培養上清を回収し、15μLのprotein Gセファロース(GE社)を添加した後、4度で攪拌しながら一晩反応させた。PBSでセファロースを4回洗浄して得られたセファロース沈殿に、3μg/mLのproTGFα-mHを1mL添加し、さらに4度で一晩攪拌反応させた。PBS洗浄後に得られたセファロース沈殿に対して、沈殿と等量のSDSサンプルバッファー溶液を添加した後、10分間の煮沸を行い、その上清を得た。15%のSDS電気泳動用ゲルに15μL量ずつアプライした。免疫沈降の陽性対照抗体としては、市販の抗myc抗体(MBL社)ならびに抗TGFαポリクローナル抗体(R&D systems社)を用いた。また、イムノブロットの陽性対照として、proTGFα-mHを同時にアプライした。SDS電気泳動を行い、PVDF膜にタンパク質を転写した後、膜に対して5%のスキムミルクを含むPBSで室温1時間のブロッキング処理を行った。検出用抗体は500倍希釈した抗myc抗体(MBL社)を使い、PVDF膜と1時間室温で反応させた。0.05%のTween20を含むPBS(以下、洗浄液と称す)で膜を洗浄した後、市販の化学発光基質(ミリポア社)を用いて目的バンドの検出を行った(図4)。
【0071】
抗原固相ELISA、フローサイトメトリならびに免疫沈降の結果から、ハイブリドーマ上清を選抜し、限外希釈法によってハイブリドーマのモノクローン化を行った。精製抗体とTGFαとの反応性を確認するため、図2にはGITR-hFc、TGFα-hFc、proTGFα-hFc、およびproTGFα-mH(各0.2μg/ウェル量)固相化したELISAプレートを用いた精製抗体(ビオチン標識)との反応性を検討したデータの一部を示す。陰性対照のGITR-hFcとはOD値が0.1以上に反応せず、TGFα-hFc、proTGFα-hFcおよびproTGFα-mHとOD値が0.5以上に反応することを確認した。図3にはTGFα/293T細胞に対する精製抗体の反応性をフローサイトメトリによって確認した結果を示す。各抗体のアイソタイプはアイソストリップキット(ロシュ社)を用いて決定した。その結果、39種類のハイブリドーマが産生する単一抗体を抗TGFαモノクローナル抗体としてリスト化し、以後の実験に用いた(表1)。

【表1】
【0072】
2.EGFRのチロシンリン酸化を阻害する抗TGFα抗体の選択
(1)抗チロシンリン酸化EGFR抗体を用いたウエスタンブロッティング
EGFRを高発現するヒト扁平上皮癌細胞株A431を用いて、TGFα刺激によるEGFRのチロシンリン酸化を阻害する抗TGFα抗体の探索を下記の方法で実施した。A431細胞は10%ウシ血清を含むDMEM培地で培養を行い、アッセイの2日前に24ウエルプレートに1x105細胞ずつ播種した。アッセイの前日に上清を廃棄した後、血清を添加していないDMEMで細胞表面を一度洗浄し、同じ無血清培地を500μLずつ添加した。アッセイ当日、大腸菌生合成による市販の分泌型TGFα(R&D systems社)を20ng/mL含むDMEMを調製した。そこに39種類の抗TGFα抗体あるいは抗EGFR抗体(クローン225:セツキシマブの元抗体、カルビオケム社)を図5に示した濃度の2倍量を添加し、4度にて1時間攪拌反応させた。その後、500μL量ずつA431細胞の培養ウェルに添加した。30分後に上清を廃棄し、速やかに150μL量のSDSサンプル緩衝液を添加した。ピペッティングで攪拌した後、1.5mLチューブに移し、5分間の煮沸処理を行い、遠心後、その上清を回収した。続いて7.5%のSDS電気泳動用ゲルに各試料を15μLずつ添加し、電気泳動を行った。PVDF膜にタンパク質を転写後、膜を5%BSAを含むPBS(以下、ブロッキング液と称す)にて4度で一晩ブロッキングを行った。洗浄液にて膜を洗浄した後、ブロッキング液で200倍希釈した抗チロシンリン酸化EGFR(P-Tyr1173)抗体(9H2)と室温で1時間反応させた。洗浄液で膜を洗浄後、ブロッキング液で5,000倍希釈したPOD標識抗マウスIgG抗体(MBL社)と室温で1時間反応させた。膜を洗浄液で洗浄後、市販の化学発光基質(ミリポア社)を用いて目的バンドの検出を行い、LAS3000を用いて画像データを記録した。
【0073】
(2)抗EGFR抗体によるリブロッティング
続いて、使用したPVDF膜から抗体を除去するために、膜を0.2%のNaOHを含む蒸留水で室温5分間の処理を行い、その後、迅速に洗浄液にて洗浄を実施した。5%のスキムミルク(雪印)を含むPBS(-)を用いて4度にて一晩ブロッキングを行い、抗EGFR抗体(MBL社)と室温で1時間反応させた。膜を洗浄した後、ブロッキング液で5,000倍に希釈したPOD標識抗マウスIgG抗体(MBL社)と室温で1時間反応させ、洗浄後、市販の化学発光基質(ミリポア社)を用いてEGFR由来のバンドの検出を行った(図5)。
【0074】
3.抗TGFα抗体MBL259-3を用いた株化癌細胞に対するフローサイトメトリ解析
TGFαを強制発現させた293T細胞を用いたフローサイトメトリ解析において、比較的強い反応性が認められた抗TGFα抗体MBL259-3を用いて、各株化癌細胞に対するフローサイトメトリを下記の通り、実施した。大腸癌由来の細胞株SW620(K-Ras G12Vホモ変異)は10%ウシ血清を含むL15液体培地(インビトロジェン社)を、肺癌由来の細胞株A427(K-Ras G12D ヘテロ変異)は10%ウシ血清を含むMEM培地(インビトロジェン社)を用いて10cmプレート上にて継代培養を行った。細胞密度が70-80%コンフルエントになった段階で、上清を廃棄して、10mLのPBSで細胞表面を洗浄した。その後、プレートから細胞を剥がす目的で5mM EDTA/PBSを3mL添加し、37度のCO2インキュベーター内で5分間処理した。7mLのPBSを追加添加した後、10mLピペットで細胞をよく懸濁し、得られた細胞懸濁液を70μmセルストレイナー(BDファルコン社)を通しながら、15cc遠心チューブ(BDファルコン社)に移した。400xgの遠心を3分行った後、上清を捨て、5mLのPBSに再懸濁を行った。細胞懸濁液を50-100μL量チューブに分注した後、終濃度が100μg/mLになるようにヒトIgG(MBL社)を添加し、4度で15分間静置した。400xgで2分間の遠心後、上清を捨てた後、終濃度が10μg/mLの抗TGFα抗体MBL259-3あるいはアイソタイプ対照のマウスIgGを添加して、4度で1時間反応を行った。0.5%BSAと2mM EDTAを含むPBSで細胞を2回洗浄した後、洗浄液で200倍希釈したPE蛍光標識抗マウスIgG抗体(MBL社)を4度で1時間反応させた。洗浄液を用いて400xgで2分間による洗浄を3回行った後、細胞を500μLの洗浄液に懸濁し、フローサイトメトリ解析をFC500(ベックマンコールター社)にて行った(図6)。
【0075】
4.Ras変異癌を移植したマウス担癌モデルにおける抗TGFα抗体の腫瘍抑制効果
移植に用いたSW620(K-Ras遺伝子G12Vホモ変異)およびA427(K-Ras遺伝子G12Dへテロ変異)細胞は上述した培養方法で継代を行い、各種の抗TGFα抗体(3mg/mL)あるいはセツキシマブ(メルク社)を含むPBS(-)で5x107個/mLに懸濁した。BALB/cヌードマウス4週齢メス(SLC社)の右背部皮下に、23G針・1mLシリンジ(テルモ社)を用いて100μL/匹で癌細胞を移植した。その後、各抗TGFα抗体ならびにセツキシマブを週2回、300μg/匹(100-200μL/匹)で、26G針・1mLシリンジにて計6あるいは7回、癌組織内に直接投与を行った。陰性対照として、PBS(-)あるいはマウスIgG2aを使用した。腫瘍サイズの計測は、試薬投与前に癌の長径と短径をノギスにて毎回2〜3名の測定者がそれぞれ単独で測定し、『腫瘍体積(mm3)=長径(mm)×短径(mm)2×π/6』にて腫瘍体積を算出、各測定者による算出値の平均をグラフにプロットした(図7図8)。
【0076】
5.3次元培養系における各種癌細胞に対する抗TGFα抗体の増殖阻害効果
各種癌細胞の3次元培養は市販の3D Culture BME Cell Proliferation Assay(Trevigen社)を用いて以下の方法で実施した。35μL/ウェルのBME(Basement membrane extract)を96ウェルプレートに分注した後、気泡を完全に消失させるために800xg,4度の遠心操作を10分間行った。BMEがウェル全体に均一になっているのを目視した後、37度、5%CO2環境下で1時間インキュベートしてBMEをゲル化させた。各種の癌細胞(SW620,A427およびA431)は5mM EDTAを含むPBS(-)で処理することでプレートから剥がし、PBSで2回洗浄後、2%-BMEを含む液体培地で1x105個/mLにて懸濁した。100μL/ウェルの細胞懸濁液をゲル化したBMEの上に播種し、37度5% CO2環境下で培養して細胞をゲル上に定着させた。その後、終濃度が50μg/mLになるように、抗TGFα抗体溶液あるいはセツキシマブを100μL/ウェルで添加した。陰性対照として、アイソタイプのマウスIgG2aを使用した。抗体添加から80時間培養後に3D Culture Cell Proliferation Reagentを15μL/ウェルで添加し、3時間反応させた。その後、450nm/620nmの吸光度をプレートリーダー(Ultramark、バイオラッド社)で測定した(図9)。
【0077】
6.マウス皮下血管新生評価系における抗TGFα抗体の血管新生阻害効果
マウス皮下における血管新生評価系は、市販のDirected In Vivo Angiogenesis Assay(Trevigen社)を用いて以下の方法で実施した。氷上で解凍したGrowth Factor Reduced BME(GFR-BME)を市販のヒトTGFα(R&D systems社, 20ng/angioreactor)、ヘパリン溶液(1μL/angioreactor)、および抗TGFα抗体(6.25μg/angioreactor)と混合した。このとき添加物の総体積がBMEの10%となるようにPBS(-)で補正した。陰性対照として、PBS(-)を10%添加したBMEを用いた。また、実験系の陽性対照として、血管新生誘導因子のVEGF(12.5ng/angioreactor)とFGF-2(37.5ng/angioreactor)を添加したBMEに、抗VEGF抗体であるベバシズマブ(商品名Avastin:ロシュ社)を2.5μgあるいは12.5μg/angioreactorを加えたものを用いた。上記の混合溶液をシリコン製チューブ(angioreactor)1個あたり20μL注入し、37度5%CO2下で1時間静置反応させ、BMEをゲル化させた。
【0078】
1mgのペントバルビタール(シェリング・プラウ社)を腹腔内投与で麻酔した7週齢メスのBALB/cヌードマウスの両側背部皮下に、Angioreactorを片側に2本ずつ、1匹あたり計4本挿入し、皮膚をAUTOCLIP 9mm(BD社)で留めた。15日間飼育後、ヌードマウスをジエチルエーテル吸入によって安楽死させ、埋め込んだAngioreactorを摘出した。Angioreactorの注入口と反対側をメスで切りはずし、中のBMEゲルを滅菌1.5mLチューブへ押し出すように回収した。さらに300μLのCellSperse液でAngeoreactorの中を洗い、洗液を回収した。回収したゲルを37度で3時間インキュベートした後、250xgで5分間の遠心処理を施し、リアクター内に遊走した細胞を沈殿画分として回収した。細胞沈殿は500μLの10%FCS含有DMEMで懸濁し、37度で1時間静置した。その後、室温で250xgの遠心を10分間行い、細胞を洗浄した。キットに添付されたWash Bufferで細胞をさらに2回洗浄した後、沈殿に200μLのFITC-Lectinを加えて懸濁し、4度で一晩反応させた。Wash Bufferで細胞を3回洗浄した後、100μLのWash Bufferに懸濁し、蛍光光度計(Arvo パーキンエルマ社)で蛍光量を測定した(励起:485nm,蛍光:510nm)。データは相対値[(各サンプルの蛍光強度)/(陰性対照の蛍光強度平均値)]で表し、各条件の平均値と標準偏差を算出してスチューデントT検定で統計的解析を行った(図10)。
【0079】
7.免疫組織染色法
大腸癌由来の細胞株SW620(K-Ras G12Vホモ変異)は10%ウシ血清を含むL15液体培地(インビトロジェン社)を用いて10cmプレート上にて継代培養を行った。細胞密度が70-80%コンフルエントになった段階で、10mLのPBSで細胞表面を一度洗浄した。5mM EDTA/PBSを3mL添加し、37度のCO2インキュベーター内で5分間処理した後、7mLのPBSを追加添加し、10mLピペットで細胞をよく懸濁した。得られた細胞懸濁液を15cc遠心チューブ(BDファルコン社)に移した。400xgの遠心を3分行った後、上清を捨て、5mLのPBSに細胞を再懸濁した。5mLの8%ホルマリン緩衝溶液を加え、軽く攪拌した後、氷上で1時間静置した。400xgの遠心を3分行い、沈殿細胞塊を一度PBSにて洗浄した後、脱水処理する目的で、70%エタノールに10分間2回、80%エタノールに10分間2回、90%エタノールに10分間1回、95%エタノールに10分間1回、100%エタノールに10分間2回、キシレンに10分間3回、キシレン/パラフィンに10分間2回、そして60度のパラフィンに10分間3回の処理を行った。作製したパラフィンブロックは染色試験までの期間、-30度の冷凍庫にて保管した。SW620の細胞塊パラフィンブロックをミクロトームにて3-5μmの厚さにスライスした後、得られた切片をスライドガラスの上に乗せた。また大腸癌患者由来のパラフィン包埋済みの癌組織切片は中国の上海Outdo社より購入した。SW620細胞塊切片ならびに大腸癌由来組織切片を脱パラフィン処理するために、キシレンに5分間3回、100%エタノールに5分間2回、90%エタノールに5分間1回、80%エタノールに5分間1回、70%エタノールに5分間1回、そしてPBSに5分間3回すべて室温にて処理した。次に抗原賦活化を目的に、切片をpH6.0の0.05%Tween-20を含む10mMクエン酸緩衝液に浸し、125度のオートクレーブで5分間処理を行った。次に、内在性のペルオキシダーゼ活性を消滅させるために、3%過酸化水素水を含むPBSに室温10分間処理を行った後、5%正常ラット血清と0.5%BSAを含むPBS(ブロッキング溶液)で室温30分処理を行った。過剰な溶液を布で拭った後、ブロッキング溶液で10μg/mLに希釈した抗TGFa 抗体MBL259-3ならびにアイソタイプ対照(mouse IgG2a、MBL社)を適量添加し(組織切片が十分に浸る程度)、室温で2時間反応させた。0.05%Tween-20を含むPBSで室温5分間3回洗った後、ENVISIONキット(ダコ社)の二次抗体反応溶液を適量添加し(組織切片が十分に浸る程度)、室温で60分間反応させた。0.05%Tween-20を含むPBSで室温5分間3回洗った後、DAB基質液を10分間反応させた。反応は組織切片を水で洗浄することで止めた。ヘマトキシリンによる染色の後、エタノールとキシレンで脱水処理を行い、標本作製液(松浪硝子社)で標本を作製し、明視野顕微鏡(IX71 オリンパス社)にて検鏡ならびに記録を行った(図11)。
【0080】
8.抗TGFα抗体の抗原エピトープ解析
(1)TGFαのアミノ酸点置換体を用いたフローサイトメトリ解析による抗原部位の検討
成熟型TGFαのアミノ酸配列40番-89番目のうち、ヒトとマウスとの間でアミノ酸配列が異なる4アミノ酸残基について1つずつマウス型アミノ酸に置換したアミノ酸点置換TGFα(D46K,F54Y,D67EおよびA80V)の発現ベクターを、pDIG-TGFαをベースにAMAP Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(アマルガム社)を用いて構築した。また、44番目、49番目、54番目、64番目、69番目、74番目、79番目、そして84番目のアミノ酸をそれぞれ1残基ずつアラニンに置換をしたアミノ酸点置換TGFα(F44A,D49A,F54A,V64A,P69A,H74A,G79AおよびH84A)も同じキットを用いて作製した。またマウス野生型TGFα発現ベクターを作製するために、マウス野生型TGFα遺伝子(塩基配列1番から477塩基)(オリジーン社)を動物細胞発現ベクターphmAG1(アマルガム社)にクローニングした。マウスTGFα遺伝子の3’側にIRESならびに蛍光タンパク質のアザミグリーンの遺伝子が繋がるようにベクターをデザインした(以下、当該ベクターをpDIA-TGFαと称す)。これらのアミノ酸点置換TGFαの発現ベクターならびに、ヒト野生型TGFα発現ベクター、マウス野生型TGFα発現ベクターの計15種類の発現ベクターをそれぞれリポフェクション(インビトロジェン社)によって293T細胞に一過性で発現させた。該細胞(1試料あたり、1x105個)を洗浄バッファー(0.5%BSAと2mM EDTAを含むPBS(-))で2回洗浄した後、各種の抗TGFα抗体(洗浄バッファーで5μg/mLに希釈)を4度で60分間反応させた。洗浄バッファーで細胞を2回洗浄した後、200倍希釈したPE標識抗マウスIgG抗体(MBL社)を4度で60分間反応させた。洗浄バッファーで細胞を2回洗浄後、500μLの洗浄バッファーに懸濁した細胞をFC-500(ベックマンコールター社)でフローサイトメトリ解析し、各TGFα抗体におけるヒト野生型TGFαとアミノ酸点置換TGFαとの反応性を比較検討した(図12)。
【0081】
(2)オーバーラップペプチド(OLP)を用いた抗原部位解析
成熟型TGFα(40-89)の配列を基に、以下の11種類のOLPを人工合成した。
[OLP-1(TGFα40-48):VVSHFNDCP](配列番号:67)
[OLP-2(TGFα40-54):VVSHFNDCPDSHTQF](配列番号:68)
[OLP-3(TGFα48-55):PDSHTQFC](配列番号:69)
[OLP-4(TGFα50-59):SHTQFCFHGT](配列番号:70)
[OLP-5(TGFα56-66):FHGTCRFLVQE](配列番号:71)
[OLP-6(TGFα56-70):FHGTCRFLVQEDKPA](配列番号:72)
[OLP-7(TGFα61-72):RFLVQEDKPACV](配列番号:73)
[OLP-8(TGFα72-81):VCHSGYVGAR](配列番号:74)
[OLP-9(TGFα74-89):HSGYVGARCEHADLLA](配列番号:75)
[OLP-10(TGFα77-89):YVGARCEHADLLA](配列番号:76)
[OLP-11(TGFα80-89):ARCEHADLLA](配列番号:77)
陽性対照抗原としてproTGFα-hFcを利用した。また、陰性対照抗体としては、アイソタイプ対照のマウスIgG2a(MBL社)を使用した。
【0082】
OLPおよび陽性対照抗原を1μg/mL含むPBS(-)を50μLずつ、96ウェルプレート(F96 Maxisorp NUNC-Immuno plate(NUNC社))に添加し、4度で一晩反応させることで抗原をプレートに吸着させた。上清を捨てた後、ブロッキング液(1%BSAと0.1%NaN3を含むPBS(-))を100μL/ウェルで添加し、4度で一晩静置した。ブロッキング液を完全に除いた後、各抗TGFα抗体を5μg/mL含むPBS(-)を50μLずつウェルに添加して、室温で1時間反応させた。プレートをPBS(-)で5回洗浄した後、POD標識抗マウスIgG(20,000倍希釈,酵素標識抗体希釈液(20mM HEPES,1%ウシ血清アルブミン,0.135M NaCl,0.1%パラヒドロキシフェニル酢酸,0.15%ケーソンCG,0.05%BPB))を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS(-)で5回洗浄した後、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)を50μL/ウェルで添加して室温で30分間インキュベートして発色させた。0.5Nのリン酸溶液を50μL/ウェルで添加して反応を停止させ、450nm/620nmで吸光度を測定した(図13)。
【0083】
9.抗体配列の決定
PCR法による配列の決定をAntibody Engineering(J.McCAFFERTY,H.R.Hoogenboom,D.J.Chiswell編)に従って実施した。抗TGFα抗体を産生するハイブリドーマを1x105細胞収集し、RNeasy mini kit(キアゲン社)にてトータルRNAを精製し回収した。マウスIgGの可変領域は、下記のクローニング用プライマーとDNA合成酵素としてKOD Plus(東洋紡社)を用いたPCR法により、増幅した。
[L鎖に対するセンスプライマー]
MKV1:5’-ATGAAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCTG-3’(配列番号:78)
MKV2:5’-ATGGAGWCAGACACACTCCTGYTATGGGTG-3’(配列番号:79)
MKV3:5’-ATGAGTGTGCTCACTCAGGTCCTGGSGTTG-3’(配列番号:80)
MKV4:5’-atgaggRcccctgctcagWttYttggMWtcttg-3’(配列番号:81)
MKV5:5’-atggatttWcaggtgcagattWtcagcttc-3’(配列番号:82)
MKV6:5’-atgaggtKcYYtgYtSagYtYctgRgg-3’(配列番号:83)
MKV7:5’-atgggcWtcaagatggagtcacaKWYYcWgg-3’(配列番号:84)
MKV8:5’-atgtggggaYctKtttYcMMtttttcaattg-3’(配列番号:85)
MKV9:5’-atggtRtccWcaSctcagttccttg-3’(配列番号:86)
MKV10:5’-atgtatatatgtttgttgtctatttct-3’(配列番号:87)
MKV11:5’-atggaagccccagctcagcttctcttcc-3’(配列番号:88)
[L鎖に対するアンチセンスプライマー]
MKC:5’-ACTGGATGGTGGGAAGATGG-3’(配列番号:89)
[H鎖に対するセンスプライマー]
MHV1:5’-atgaaatgcagctggggcatSttcttc-3’(配列番号:90)
MHV2:5’-atgggatggagctRtatcatSYtctt-3’(配列番号:91)
MHV3:5’-atgaagWtgtggttaaactgggttttt-3’(配列番号:92)
MHV4:5’-atgRactttgggYtcagcttgRttt-3’(配列番号:93)
MHV5:5’-atggactccaggctcaatttagttttcctt-3’(配列番号:94)
MHV6:5’-atggctgtcYtrgSgctRctcttctgc-3’(配列番号:95)
MHV7:5’-atggRatggagcKggRtctttMtctt-3’(配列番号:96)
MHV8:5’-atgagagtgctgattcttttgtg-3’(配列番号:97)
MHV9:5’-atggMttgggtgtggaMcttgctattcctg-3’(配列番号:98)
MHV10:5’-atgggcagacttacattctcattcctg-3’(配列番号:99)
MHV11:5’-atggattttgggctgattttttttattg-3’(配列番号:100)
MHV12:5’-atgatggtgttaagtcttctgtacctg-3’(配列番号:101)
[IgG1に対するアンチセンスプライマー]
MHCG1:5’-CAGTGGATAGACAGATGGGGG-3’(配列番号:102)
[IgG2aに対するアンチセンスプライマー]
MHCG2a:5’-CAGTGGATAGACAGATGGGGC-3’(配列番号:103)
PCRによる増幅産物をクローニングベクター(pBluescriptII、東洋紡社)に組み込み、遺伝子配列の解析を行った(ABI3130、ライフテクノロジーズ社)。IgBLASTを利用して、得られた抗体配列のフレームワークとCDRの特定を行った。
【0084】
次に、得られた可変領域がTGFαを認識すること検証するために、H鎖とL鎖の可変領域遺伝子を用いてヒト型キメラ抗体を下記の方法で作製した。ヒト定常領域としては、Kabatらが非特許文献(Sequence of proteins of Immunological interest(NIH Publication No.91-3242, 1991))において示したHuman IgG1定常領域を利用した。
【0085】
[H鎖定常領域に対するセンスプライマー]: 5’-AAGCTTCGTACGCCCGCTCTTCGCCTCCACCAAGGGCCCATC-3’(配列番号:104),[アンチセンスプライマー]: 5’-CGCCTGACGCGTCCCTCATTTACCCGGAGACAGGGAGAGACTCTTCTGCGTGTAG-3’(配列番号:105),[L鎖定常領域に対するセンスプライマー]: 5’-AAGCTTCGTACGCCCGCTCTTCACTGTGGCTCACCATCTGT-3’(配列番号:106),[アンチセンスプライマー]: 5’-CGCCTGACGCGTCCCCTAACACTCTCCCCTGTTGA-3’(配列番号:107)を用いて遺伝子の増幅を行い、得られたH鎖定常領域遺伝子配列断片ならびにL鎖定常領域遺伝子配列断片を、制限酵素SmaIで消化したpEHX1.1、pELX2.1(東洋紡社)に、In-Fusion PCRクローニングキット(タカラバイオ社)を用いて導入した(以下、当該発現ベクターを、それぞれ「hHC-pEHX」、「hLC-pELX」と称する)。
【0086】
次に、以下に示すヒト型キメラ抗体作製用のプライマーで増幅させて得た各抗TGFα抗体のH鎖およびL鎖のDNA断片を、制限酵素SapIで消化したhHC-pEHX、hLC-pELXにそれぞれIn-Fusion法にて導入した。
【0087】
<MBL009-15>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAGAGTGCTGATTCTTTTGT-3'(配列番号:108)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGT-3'(配列番号:109)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGGTGTCCTCAGCTCAGTTCCTTG-3'(配列番号:110)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:111)
<MBL016‐8>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATG-3'(配列番号:112)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGT-3'(配列番号:113)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAGGTTCTCTGTTGAGTTC-3'(配列番号:114)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTTATTTCCAGCTTGGTCCC-3'(配列番号:115)
<MBL018-1>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGGAATGTAACTGGATACTT-3'(配列番号:116)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACGGTGACTGAGGT-3'(配列番号:117)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGGGCATCAAGATGGAGTCA-3'(配列番号:118)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTCTGATTTCCAGTTTGGTGCC-3'(配列番号:119)
<MBL144-1>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGATGGTGTTAAGTCTTCTG-3'(配列番号:120)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:121)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGGTATCCTCAGCTCAGTTC-3'(配列番号:122)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:123)
<MBL184-6>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATC-3'(配列番号:124)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:125)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAAGTTTCCTTTTCAACTT-3'(配列番号:126)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGTTTGGTGCC-3'(配列番号:127)
<MBL259-3>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATG-3'(配列番号:128)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGT-3'(配列番号:129)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAGTGTGCTCACTCAGGTC-3'(配列番号:130)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTTATTTCCAGTTTGGTCCC-3'(配列番号:131)
<MBL292-1>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATC-3'(配列番号:132)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:133)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAAGTTTCCTTTTCAACTT-3'(配列番号:134)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:135)
<MBL352-34>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATG-3'(配列番号:136)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:137)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAAGTTTCCTTTTCAACTT-3'(配列番号:138)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:139)
作製したヒト型キメラ抗体発現ベクターを293T細胞に共トランスフェクトした。その培養上清について、膜型TGFαを発現させた293T細胞への反応性を、前述と同様のフローサイトメトリ解析によって確認した。
【0088】
上述のPCR法で配列が決定されなかった抗体遺伝子については、5’-RACE法で抗体遺伝子のクローニングを行った。5’-RACE法はGene Racerキット(インビトロジェン社)を用いて以下の方法で実施した。RNeasy mini kit(キアゲン社)にて回収したトータルRNAを、ウシ腸由来ホスファターゼで処理した。エタノール沈殿で回収した5’-脱リン酸化RNAを、タバコ酸ピロホスファターゼで処理し、5’-キャップ構造を除去した。エタノール沈殿で回収した5’-脱キャップ化RNAに、Gene Racer RNA oligoをT4 RNAリガーゼを用いて付加した。この付加RNAをエタノール沈殿で回収し、Super Script III RTで逆転写反応を行った。合成されたcDNAを鋳型に、GeneRacer 5’primer、L鎖とH鎖それぞれに特異的なアンチセンスプライマー(H鎖:5’-GATGGGGGTGTCGTTTTGGC-3’(配列番号:140),L鎖:GTTGGTGCAGCATCAGCCCG-3’(配列番号:141))、およびKOD plusを用いて、抗体遺伝子を増幅した。増幅したDNAをpCR-Blunt II-TOPOベクターに導入し、遺伝子配列を決定した(ABI3130)。ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築ならびに得られたヒト型キメラ抗体の活性の確認は上述の方法に従った。
【0089】
[実施例1] 抗TGFαモノクローナル抗体の取得
免疫原にはproTGFα-mFc単独、あるいはproTGFα-mFcとproTGFα-mHを用いた。この溶液を、フロインドの完全アジュバントとともに、各種系統のマウス計60匹に免疫した(図1aとb)。免疫マウスのリンパ球とミエローマを融合したハイブリドーマの上清を用いて、免疫原またはスクリーニング用抗原との反応性を抗原固相ELISAにて評価した。次に、TGFαの全長を293T細胞に一過性に発現させたTGFα/293T細胞を用いて、フローサイトメトリ解析を行い、膜型TGFαと反応性を示すハイブリドーマ上清、さらには分泌型抗原のproTGFα-mHを免疫沈降できるハイブリドーマ上清(図4)を選択した。限外希釈法によってハイブリドーマをモノクローン化した後、再度、免疫原固相ELISAと免疫沈降を実施し、合計39種類の抗TGFαモノクローナル抗体を選抜した(表1)。精製抗体によるTGFαへの反応性を確認するため、各種TGFαならびに陰性対照を固相したELISA(図2)、ならびにTGFα/293T細胞を用いたフローサイトメトリによる反応性の確認を行った(図3)。
【0090】
[実施例2] TGFαとEGFRの結合を阻害するTGFα中和抗体の選択
得られた抗TGFα抗体から、TGFαとEGFRの結合を阻害する活性を有する抗体(中和抗体)を選択する目的で、EGFR高発現癌細胞A431を用いて次の実験を行った。無血清培地で培養したA431に対して、TGFαを添加するとEGFRのチロシンリン酸化レベルが一過的に上昇する。予めTGFα溶液を各抗TGFα抗体と反応させてからA431に処理した場合において、EGFRのリン酸化レベルを、PBS対照に比べて上昇させない抗体を検索した。その結果、抗体添加濃度10μg/mLにおいて、MBL352-34、MBL292-1、MBL184-6、MBL016-8、MBL144-1、MBL023-1、およびMBL018-1がEGFRのチロシンリン酸化(P-Tyr1173)を70%-100%以上阻害することが判明した(図5aとb)。一方、対照に用いたTGFα中和抗体189-2130(非特許文献50)およびEGFRのブロック抗体225は、EGFRリン酸化をそれぞれ20%と40%程度しか阻害しなかった。
【0091】
[実施例3] 癌細胞における膜型TGFαあるいは膜結合型TGFαの検討
次に、K-Ras遺伝子変異を持つ癌細胞の細胞表面におけるTGFαの存在を検証するために、TGFα/293T細胞に対する反応性が比較的良好であったMBL259-3を用いてフローサイトメトリ解析を行った。その結果、K-Ras遺伝子G12Vホモ変異癌細胞である大腸癌由来のSW620と肺癌由来のK-Ras遺伝子G12Dヘテロ変異細胞株であるA427がMBL259-3と反応した(図6)。
【0092】
[実施例4] K-Ras遺伝子変異癌を移植した担癌マウスモデルにおける抗TGFα抗体の腫瘍抑制効果
図6で抗TGFα抗体との反応性が認められたK-Ras遺伝子変異癌細胞A427とSW620をそれぞれヌードマウスに皮下移植し、同時に各種の抗TGFα抗体を皮下に投与した。その後、抗体を週2回の割合で6あるいは7回投与し、腫瘍サイズを計測した。その結果、A427担癌マウスでは、EGFRブロック抗体のセツキシマブ投与群に一定の癌の増殖抑制が認められたが、本発明者らが取得した抗TGFα抗体のうち、MBL023-1、MBL259-3、およびMBL292-1投与群は、セツキシマブよりも顕著な癌の抑制が認められた(図7aとb)。また、SW620担癌マウスでは、セツキシマブ投与群では抗腫瘍効果が認められなかったのに対し、抗TGFα抗体のMBL144-1、MBL259-3、およびMBL292-1投与群では顕著な癌の増殖抑制が認められた(図8aとb)。
【0093】
[実施例5] 3次元細胞培養系における抗TGFα抗体の増殖抑制効果
TGFαは癌細胞の増殖に直接作用するだけでなく、癌組織に栄養を運ぶ血管を誘引し、また足場となるストローマの増殖を促進することで、総合的に癌組織の増大を助けている。そこで、担癌マウスモデルで腫瘍抑制効果が認められた抗TGFα抗体が、癌の増殖を直接抑制しているのか、血管新生を抑制しているのか、あるいは両方を抑制しているのかを調査した。始めに、ゲル化させた培地で細胞を培養する3次元細胞培養系を用いて、A427ならびにSW620を増殖させ、その培養系に各種の抗TGFα抗体を添加することで、癌細胞の増殖に対する影響を調査した(図9)。その結果、抗TGFα抗体のMBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL144-1、MBL184-6、MBL292-1、およびMBL352-34が濃度依存的にA427とSW620の増殖を抑制した。一方で、TGFα中和抗体189-2130(非特許文献50)やEGFRブロック抗体のセツキシマブには増殖抑制効果がほとんど確認できなかった。また、実験に使用したセツキシマブが失活していないことを確認するために、A431に対して増殖阻害試験を実施したところ、セツキシマブに強い増殖抑制活性が確認された。なお、この実験系においても本発明者らが取得した抗TGFα抗体は強い増殖抑制効果を示した。
【0094】
[実施例6] 血管新生に対する抗TGFα抗体の阻害効果
次に、マウス皮下に血管新生を誘導する血管新生実験系を用いて、抗TGFα抗体による血管新生阻害効果を評価した。陽性対照実験として、VEGF/FGF-2によるアンジオリアクター内への血管内皮細胞の遊走を抗VEGF抗体のベバシズマブで濃度依存的に抑制することを確認した(図10a)。アンジオリアクターにTGFαを加えると、PBSのみ添加した場合と比較して、血管内皮細胞の遊走は亢進した。この系に、各抗TGFα抗体(MBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL292-1、MBL352-34)を添加すると血管内皮細胞の誘引抑制が確認された。特にMBL292-1はPBSのみ添加の場合と同程度にまで遊走が抑制された(図10b)。
【0095】
以上の結果から、癌細胞に対する増殖抑制効果を示した抗TGFα抗体の多くは、TGFαのEGFRへの結合に拮抗する活性を有し、さらに血管新生の誘導も抑制する活性を示すことが判明した。
【0096】
[実施例7] 免疫組織染色によるK-ras遺伝子変異大腸癌細胞SW620ならびに大腸癌患者由来検体に対する抗TGFα抗体の反応性
パラフィン包埋したK-Ras遺伝子変異癌SW620の薄切切片に対して、抗TGFα抗体MBL259-3を用いた免疫組織染色を実施したところ、アイソタイプ対照抗体に比べて明らかな染色が確認された(図11a図11b)。さらに大腸癌患者由来のパラフィン包埋癌組織切片に対してもMBL259-3は癌組織を強く染色した。またこのとき癌部周辺に発達した間質の一部にも染色が確認された。
【0097】
[実施例8] 癌細胞に対して増殖抑制効果を示す抗TGFα抗体の抗原エピトープ解析
癌細胞に対して増殖抑制を示した抗TGFα抗体の共通の特徴を探るため、TGFαのアミノ酸を1アミノ酸ずつ改変させたアミノ酸点置換TGFαを作製し、各抗TGFα抗体との反応性を検討した。
【0098】
実験に用いるアミノ酸点置換型TGFαとして、ヒトTGFαからマウスTGFαへアミノ酸を点置換させたD46K置換型、F54Y置換型、D67E置換型、およびA80V置換型を作製した。また、44番目、49番目、54番目、64番目、60番目、74番目、79番目、および84番目のアミノ酸をそれぞれ1残基ずつアラニンに置換をしたF44A置換型、D49A置換型、F54A置換型、V64A置換型、P69A置換型、H74A置換型、G79A置換型、そしてH84A置換型TGFαを準備した。これらをそれぞれ293T細胞の細胞表面に発現させ、各抗TGFα抗体との反応性をフローサイトメトリによって検討した。その結果、in vivoあるいはin vitroにおいてK-Ras遺伝子変異癌に対する増殖抑制効果が認められた抗TGFα抗体9クローン(MBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL144-1、MBL184-6、MBL259-3、MBL292-1、およびMBL352-34)の全てにおいて、共通して、G79A置換体に対する反応性が著しく低下した(図12)。一方、中和活性はあるが癌の増殖抑制効果の認められなかった抗体189-2130(非特許文献50)においては、G79A置換体に対する反応性の低下は確認されなかった。189-2130はH74A置換体で反応性が低下したが、本発明者ら取得した抗TGFα抗体はいずれもH74A置換体に対してヒト野生型と同程度に強く反応した。また、本発明者らの開発した抗TGFα抗体のうち、SW620に対して増殖抑制効果のなかったMBL046-21、MBL092-3、MBL159-1、MBL210-20、MBL287-12、MBL305-3、およびMBL324-5(表1)は、G79A置換体に対する反応性はヒト野生型TGFαに対する反応性と変わらず、強く反応した。一方で、TGFαのオーバーラップペプチド(OLP)を人工合成し、上記の抗TGFα抗体9クローンとの反応性をELISAにて検討した。その結果、これら9クローンは、陽性対照抗原として用いたproTGFα-hFcと反応したが、11種類のOLPに対してはいずれの抗体も陽性対照抗原と比べてその反応性が著しく低かった(OD450値:0.06未満)。また、OLPをproTGFα-hFc溶液に添加することで抗原抗体反応を競合させたが、いずれの抗体もproTGFα-hFcに対する反応性の低下は確認されなかった。したがって、TGFαのポリペプチド断片を利用して抗体の反応性を分析しても、抗腫瘍効果を有する抗TGFα抗体は選択できないことが判明した。
【0099】
以上の結果から、G79A置換TGFαとの反応性を指標に抗TGFα抗体を選抜することで、癌(Ras遺伝子変異型を含む)に対する増殖抑制効果を発揮する抗TGFα抗体の取得が可能となることが判明した。
【0100】
[実施例9] Ras遺伝子変異癌に対して増殖抑制効果を発揮した抗TGFα抗体の配列解析
各抗体産生細胞から抗体遺伝子をPCR法あるいは5’-RACE法によって回収し、H鎖とL鎖の遺伝子配列を決定した。H鎖とL鎖の組み合わせが正しいことを確認するために、H鎖、L鎖の抗体遺伝子を表11のプライマーを利用して増幅させた後、動物発現ベクターに導入し、それらを293T細胞に共発現させた。培養上清に得られたリコンビナント抗体がTGFαに反応することを確認するために、実施例1と同様に、膜型TGFα/293Tと培養上清とを反応させ、フローサイトメトリ解析を行った。その結果、リコンビナント抗体は、すべて膜型TGFαと反応することを確認した(図14)。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の抗体は、優れた癌細胞の増殖抑制活性を有するため、癌の治療に用いることができる。本発明の抗体は、既存薬に対して抵抗性の高いRas変異癌に対しても、強い増殖抑制効果を示すことから、医療上極めて有用である。また、本発明の抗体は、TGFαを表面に発現する癌細胞を認識することができるため、癌の診断や癌細胞の検出・選別などへの応用も可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号3
<223>
MBL009-15 VL
配列番号4
<223>
MBL009-15 VH
配列番号5
<223> MBL016-8
VL
配列番号6
<223> MBL016-8
VH
配列番号7
<223> MBL018-1
VL
配列番号8
<223> MBL018-1
VH
配列番号9
<223> MBL144-1
VL
配列番号10
<223> 144-1 VH
配列番号11
<223> MBL184-6
VL
配列番号12
<223> MBL184-6
VH
配列番号13
<223> MBL259-3
VL
配列番号14
<223> MBL259-3
VH
配列番号15
<223> MBL292-1
VL
配列番号16
<223> MBL292-1
VH
配列番号17
<223>
MBL352-34 VL
配列番号18
<223>
MBL352-34 VH
配列番号19
<223>
MBL009-15 VL CDR1
配列番号20
<223>
MBL009-15 VL CDR2
配列番号21
<223>
MBL009-15 VL CDR3
配列番号22
<223>
MBL009-15 VH CDR1
配列番号23
<223>
MBL009-15 VH CDR2
配列番号24
<223>
MBL009-15 VH CDR3
配列番号25
<223> MBL016-8
VL CDR1
配列番号26
<223> MBL016-8
VL CDR2
配列番号27
<223> MBL016-8
VL CDR3
配列番号28
<223> MBL016-8
VH CDR1
配列番号29
<223> MBL016-8
VH CDR2
配列番号30
<223> MBL016-8
VH CDR3
配列番号31
<223> MBL018-1
VL CDR1
配列番号32
<223> MBL018-1
VL CDR2
配列番号33
<223> MBL018-1
VL CDR3
配列番号34
<223> MBL018-1
VH CDR1
配列番号35
<223> MBL018-1
VH CDR2
配列番号36
<223> MBL018-1
VH CDR3
配列番号37
<223> MBL144-
VL CDR1
配列番号38
<223> MBL144-
VL CDR2
配列番号39
<223> MBL144-
VL CDR3
配列番号40
<223> MBL144-1
VH CDR1
配列番号41
<223> MBL144-1
VH CDR2
配列番号42
<223> MBL144-1
VH CDR3
配列番号43
<223> MBL184-6
VL CDR1
配列番号44
<223> MBL184-6
VL CDR2
配列番号45
<223> MBL184-6
VL CDR3
配列番号46
<223> MBL184-6
VH CDR1
配列番号47
<223> MBL184-6
VH CDR2
配列番号48
<223> MBL184-6
VH CDR3
配列番号49
<223> MBL259-3
VL CDR1
配列番号50
<223> MBL259-3
VL CDR2
配列番号51
<223> MBL259-3
VL CDR3
配列番号52
<223> MBL259-3
VH CDR1
配列番号53
<223> MBL259-3
VH CDR2
配列番号54
<223> MBL259-3
VH CDR3
配列番号55
<223> MBL292-1
VL CDR1
配列番号56
<223> MBL292-1
VL CDR2
配列番号57
<223> MBL292-1
VL CDR3
配列番号58
<223> MBL292-1
VH CDR1
配列番号59
<223> MBL292-1
VH CDR2
配列番号60
<223> MBL292-1
VH CDR3
配列番号61
<223>
MBL352-34 VL CDR1
配列番号62
<223> MBL352-34
VL CDR2
配列番号63
<223>
MBL352-34 VL CDR3
配列番号64
<223>
MBL352-34 VH CDR1
配列番号65
<223>
MBL352-34 VH CDR2
配列番号66
<223>
MBL352-34 VH CDR3
配列番号67
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-1
配列番号68
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-2
配列番号69
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-3
配列番号70
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-4
配列番号71
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-5
配列番号72
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-6
配列番号73
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-7
配列番号74
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-8
配列番号75
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-9
配列番号76
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-10
配列番号77
<223> 人工的に合成されたペプチド配列; OLP-11
配列番号78
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV1
配列番号79
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV2
配列番号80
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV3
配列番号81
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV4
配列番号82
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV5
配列番号83
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV6
配列番号84
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV7
配列番号85
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV8
配列番号86
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV9
配列番号87
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV10
配列番号88
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKV11
配列番号89
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MKC
配列番号90
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV1
配列番号91
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV2
配列番号92
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV3
配列番号93
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV4
配列番号94
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV5
配列番号95
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV6
配列番号96
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV7
配列番号97
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV8
配列番号98
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV9
配列番号99
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV10
配列番号100
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV11
配列番号101
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHV12
配列番号102
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHCG1
配列番号103
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MHCG2a
配列番号104
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; ヒトIgG1 CHセンスプライマー
配列番号105
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; ヒトIgG1 CHアンチセンスプライマー
配列番号106
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; ヒトIgG1 CLセンスプライマー
配列番号107
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; ヒトIgG1 CLアンチセンスプライマー
配列番号108
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL009-15 Hセンスプライマー
配列番号109
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL009-15 Hアンチセンスプライマー
配列番号110
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL009-15 Lセンスプライマー
配列番号111
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL009-15 Lアンチセンスプライマー
配列番号112
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL016‐8 Hセンスプライマー
配列番号113
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL016‐8 Hアンチセンスプライマー
配列番号114
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL016‐8 Lセンスプライマー
配列番号115
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL016‐8 Lアンチセンスプライマー
配列番号116
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL018-1 Hセンスプライマー
配列番号117
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL018-1 Hアンチセンスプライマー
配列番号118
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL018-1 Lセンスプライマー
配列番号119
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL018-1 Lアンチセンスプライマー
配列番号120
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL144-1 Hセンスプライマー
配列番号121
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL144-1 Hアンチセンスプライマー
配列番号122
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL144-1 Lセンスプライマー
配列番号123
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL144-1 Lアンチセンスプライマー
配列番号124
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL184-6 Hセンスプライマー
配列番号125
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL184-6 Hアンチセンスプライマー
配列番号126
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL184-6 Lセンスプライマー
配列番号127
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL184-6 Lアンチセンスプライマー
配列番号128
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL259-3 Hセンスプライマー
配列番号129
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL259-3 Hアンチセンスプライマー
配列番号130
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL259-3 Lセンスプライマー
配列番号131
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL259-3 Lアンチセンスプライマー
配列番号132
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL292-1 Hセンスプライマー
配列番号133
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL292-1アンチセンスプライマー
配列番号134
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL292-1 Lセンスプライマー
配列番号135
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL292-1 Lアンチセンスプライマー
配列番号136
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL352-34 Hセンスプライマー
配列番号137
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL352-34 Hアンチセンスプライマー
配列番号138
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL352-34 Lセンスプライマー
配列番号139
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; MBL352-34 Lアンチセンスプライマー
配列番号140
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; 5'-RACE Hアンチセンスプライマー
配列番号141
<223> 人工的に合成されたプライマー配列; 5'-RACE Lアンチセンスプライマー
配列番号142
<223>
MBL009-15 VL cDNA
配列番号143
<223>
MBL009-15 VH cDNA
配列番号144
<223> MBL016-8
VL cDNA
配列番号145
<223> MBL016-8
VH cDNA
配列番号146
<223> MBL018-1
VL cDNA
配列番号147
<223> MBL018-1
VH cDNA
配列番号148
<223> MBL144-1
VL cDNA
配列番号149
<223> MBL144-1
VH cDNA
配列番号150
<223> MBL184-6
VL cDNA
配列番号151
<223> MBL184-6
VH cDNA
配列番号152
<223> MBL259-3
VL cDNA
配列番号153
<223> MBL259-3
VH cDNA
配列番号154
<223> MBL292-1
VL cDNA
配列番号155
<223> MBL292-1
VH cDNA
配列番号156
<223>
MBL352-34 VL cDNA
配列番号157
<223>
MBL352-34 VH cDNA
図5b
図7b
図8b
図9
図10
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図1
図2
図3
図4
図5a
図6
図7a
図8a
図11
図12a
図12b
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]