【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[材料および方法]
1.抗TGFαモノクローナル抗体の作製方法
(1)免疫原ならびに抗体スクリーニング用抗原の調製
TGFαに対するマウスモノクローナル抗体を取得するための以下の2つの免疫原を調製した。一つ目は、ヒトTGFαのアミノ酸配列24番目から89番目(塩基配列70番から267番目)に相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、得られたPCR産物を動物培養細胞発現ベクターpSecTag2(インビトロジェン社)にクローニングを行い、さらにpSecTag2由来のリーダーシーケンスを含むヒトTGFα(塩基配列70番から267番目)をレトロウイルスベクターのpQCXIP(タカラバイオ社)にサブクローニングした。TGFαのC末側にタグとしてmycとHisが連続して融合されるようにベクターはデザインされている。作製したベクターとenvベクター(pVSVG)と共に、ウイルスパッケージング細胞のGP293細胞にリポフェクトアミン2000を用いて遺伝子導入を行った。次に培養上清から得たウイルス液を用いて293T細胞に感染を行い、TGFα安定産生細胞株を得た。10日間培養後に得られた上清を、TALON樹脂(タカラバイオ社)を充填したカラムに通し、樹脂の10倍量の5mMのイミダゾールを含む結合緩衝液にてカラムを洗浄後、100mMのイミダゾール溶液にて結合物を溶出した。PBSにて一晩透析した後、溶出物の一部についてSDS電気泳動を行い、分子量19-22kDa付近に目的のバンドを確認し(
図1a)、これを免疫原とした(以下、当該免疫原をproTGFα-mHと称す)。二つ目は、ヒトTGFαのアミノ酸配列1番目から89番目(塩基配列1番から267番目)に相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、pCAGGS(大阪大学大学院 医学系研究科 教授 宮崎 純一先生より譲渡して戴いた。Gene (1991) 108(2):193-199)にクローニングした。3’側にマウス免疫グロブリンG2aのFc部の遺伝子が融合するようにベクターをデザインした。遺伝子導入試薬のリポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)を用いてヒト培養細胞293Tに導入し、その培養上清を遠心操作にて回収した。プラスミドDNAの量、細胞数、リポフェクトアミンの量は製品能書に従った。得られた上清についてはProtein Gビーズ(GE社)を充填したカラムに通し、ビーズの10倍量の結合緩衝液にてカラムを洗浄後、pH2.3のグリシン塩酸溶液にてカラム吸着物を溶出させた。pH8.0のTris-HCl緩衝液にて迅速に中和した後、PBSにて一晩透析を行った。抽出物の一部についてSDS電気泳動を行い、分子量40-44 kDa付近に目的のシングルバンドを確認し(
図1b)、これを免疫原とした(以下、当該免疫原をproTGFα-mFcと称す)。
【0066】
また、得られた抗体のTGFαとの反応性を確認するためのスクリーニング用抗原を調製するために、下記の4つの発現ベクターを構築した。一つ目のベクターにおいては、ヒトTGFαのアミノ酸配列40番目から89番目(塩基配列118番から267番目)の成熟型TGFαに相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、得られたPCR産物を動物培養細胞発現ベクターpSecTag2にクローニングを行った後、pSecTag2由来のリーダーシーケンスを含むヒトTGFα(塩基配列118番から267番目)をpcDNA3.1ベクター(インビトロジェン社)にサブクローニングした。TGFαのC末側にヒト免疫グロブリンG1のFc部の遺伝子が融合するようにベクターをデザインした(以下、当該発現ベクターによって調製される抗原をTGFα-hFcと称す)。二つ目のベクターにおいては、ヒトTGFαのアミノ酸配列1番目から89番目(塩基配列1番から267番目)に相当する遺伝子を胎盤cDNAライブラリーからPCR法によって増幅し、得られたPCR産物を動物培養細胞発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。TGFαのC末側にヒト免疫グロブリンG1のFc部が融合するようにベクターをデザインした(以下、当該発現ベクターによって調製される抗原をproTGFα-hFcと称す)。三つ目のベクターとして、ヒト免疫グロブリンG1のFc部に対する抗体の非特異反応を検討するために、ヒトGITRの細胞外領域の部分長遺伝子配列(1-495塩基)をヒト免疫グロブリンG1のFc部遺伝子と融合させたベクターpcDNA-GITR-hFcを構築した(以下、当該発現ベクターによって調製される抗原をGITR-hFcと称す)。各発現ベクターをヒト培養細胞293Tにリポフェクションによって導入し、3-4日後に培養上清を回収した。培養上清中に含まれる抗体スクリーニング用抗原TGFα-hFc、proTGFα-hFcそしてGITR-hFcの回収・精製は、上記の免疫原の調製法に従った(
図1c-e)。四つ目の発現ベクターは、細胞表面に発現する膜型TGFαとの反応性を検討することを目的に構築した。ヒトTGFαのアミノ酸配列1番目から160番目(塩基配列1番から480番目)に相当する遺伝子を動物細胞発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。TGFα遺伝子の3’側にリボソームエントリーサイトのIRESならびに蛍光タンパク質GFP(セルバイオラボス社)の遺伝子が繋がるようにベクターをデザインした(以下、該発現ベクターをpDIG-TGFαと称す)。この発現ベクターの特徴は、293T細胞にリポフェクションによって一過性に導入されると、膜型TGFαを発現している細胞だけ、GFPの蛍光が発するような仕組みを有することである。この細胞に対して一次抗体ならびに、PE標識した二次抗体を反応させた後、フローサイトメトリにて二次元展開を行うと、抗原抗体反応が生じている場合には、GFPの蛍光を発する細胞だけが右上にドットがシフトするデータが得られる(
図1f)(以下、当該発現ベクターを一過性導入された293T細胞をTGFα/293Tと称する)。
【0067】
(2)免疫原の免疫とハイブリドーマの樹立
免疫原としてproTGFα-mFc単独、あるいはproTGFα-mFcとproTGFα-mHを用いた。これら溶液にフロイントの完全アジュバント(Complete Freund’s Adjuvant)を等量混ぜた後、BALB/c系統、C57BL/6系統、C3H系統、そしてMRL系統のマウス計60匹に週2回、合計6〜8回の免疫を行った。最終投与後から3日目に免疫マウスから脾臓あるいはリンパ節を摘出し、組織内部からリンパ球を採取した。マウス骨髄腫細胞株P3U1と回収したリンパ球を混ぜ、RPMI培地(シグマ社)にて2回洗浄した後、細胞沈殿に対して、RPMIで50%に希釈したポリエチレングリコール4000溶液(和光純薬社)を等量添加した。細胞懸濁液に1分間のピペッティングを施した後、20倍量のRPMIにて細胞を3回洗浄した。その後、細胞を15%のウシ血清(エキテック社)、2%のHAT(インビトロジェン社)、1/100量のBM培地(ロシュ社)、終濃度5ng/mLのストレプトマイシンとペニシリンを含むRPMI培地で懸濁し、96ウェルプレートに播種して37度のCO
2インキュベーター内で静置培養を行った。播種から5日目に培養液を新しい培地と交換し、さらに5日間の培養を継続した。
【0068】
(3)抗体スクリーニング1:抗原固相ELISA
播種から10日目にハイブリドーマが増えているウェルから培養上清を回収し、スクリーニング用抗原proTGFα-hFcを0.2μg/ウェル量固相化した96ウェルプレートを用いて、酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)を実施した(以下、ELISAと称す)。ELISA発色のOD値(450nm/620nm吸光度)が0.2-0.5以上の上清を一次陽性と判断し、1,007種類のハイブリドーマを選択した。陽性ハイブリドーマは24ウェルプレートに移してさらに3日間培養を行った。
【0069】
(4)抗体スクリーニング2:フローサイトメトリ
TGFαの全長を293T細胞に一過性に発現させたTGFα/293T細胞を用いて、上述した24ウェルプレート上清に対するフローサイトメトリ解析を下記の方法で実施した。ハイブリドーマ上清1サンプル50μLに対し、1x10
5細胞数のTGFα/293Tを4度で60分反応させた。細胞を2mM EDTAと0.5%BSAを含むPBSで洗浄した後、PE標識した抗マウスIgG抗体(MBL社)と4度で30分反応させた。さらに、細胞を400xgで遠心洗浄した後、細胞沈殿を500μLの2mM EDTAと0.5%BSAを含むPBSに懸濁し、フローサイトメトリ(FC500、ベックマンコールター社)にて解析を行った。
【0070】
(5)抗体スクリーニング3:免疫沈澱法
フローサイトメトリにて膜型TGFαとの反応性を示したハイブリドーマ上清について、さらに、proTGFα-mHを抗原に以下の方法で免疫沈澱を実施した。1ハイブリドーマ当たり700μLの培養上清を回収し、15μLのprotein Gセファロース(GE社)を添加した後、4度で攪拌しながら一晩反応させた。PBSでセファロースを4回洗浄して得られたセファロース沈殿に、3μg/mLのproTGFα-mHを1mL添加し、さらに4度で一晩攪拌反応させた。PBS洗浄後に得られたセファロース沈殿に対して、沈殿と等量のSDSサンプルバッファー溶液を添加した後、10分間の煮沸を行い、その上清を得た。15%のSDS電気泳動用ゲルに15μL量ずつアプライした。免疫沈降の陽性対照抗体としては、市販の抗myc抗体(MBL社)ならびに抗TGFαポリクローナル抗体(R&D systems社)を用いた。また、イムノブロットの陽性対照として、proTGFα-mHを同時にアプライした。SDS電気泳動を行い、PVDF膜にタンパク質を転写した後、膜に対して5%のスキムミルクを含むPBSで室温1時間のブロッキング処理を行った。検出用抗体は500倍希釈した抗myc抗体(MBL社)を使い、PVDF膜と1時間室温で反応させた。0.05%のTween20を含むPBS(以下、洗浄液と称す)で膜を洗浄した後、市販の化学発光基質(ミリポア社)を用いて目的バンドの検出を行った(
図4)。
【0071】
抗原固相ELISA、フローサイトメトリならびに免疫沈降の結果から、ハイブリドーマ上清を選抜し、限外希釈法によってハイブリドーマのモノクローン化を行った。精製抗体とTGFαとの反応性を確認するため、
図2にはGITR-hFc、TGFα-hFc、proTGFα-hFc、およびproTGFα-mH(各0.2μg/ウェル量)固相化したELISAプレートを用いた精製抗体(ビオチン標識)との反応性を検討したデータの一部を示す。陰性対照のGITR-hFcとはOD値が0.1以上に反応せず、TGFα-hFc、proTGFα-hFcおよびproTGFα-mHとOD値が0.5以上に反応することを確認した。
図3にはTGFα/293T細胞に対する精製抗体の反応性をフローサイトメトリによって確認した結果を示す。各抗体のアイソタイプはアイソストリップキット(ロシュ社)を用いて決定した。その結果、39種類のハイブリドーマが産生する単一抗体を抗TGFαモノクローナル抗体としてリスト化し、以後の実験に用いた(表1)。
【表1】
【0072】
2.EGFRのチロシンリン酸化を阻害する抗TGFα抗体の選択
(1)抗チロシンリン酸化EGFR抗体を用いたウエスタンブロッティング
EGFRを高発現するヒト扁平上皮癌細胞株A431を用いて、TGFα刺激によるEGFRのチロシンリン酸化を阻害する抗TGFα抗体の探索を下記の方法で実施した。A431細胞は10%ウシ血清を含むDMEM培地で培養を行い、アッセイの2日前に24ウエルプレートに1x10
5細胞ずつ播種した。アッセイの前日に上清を廃棄した後、血清を添加していないDMEMで細胞表面を一度洗浄し、同じ無血清培地を500μLずつ添加した。アッセイ当日、大腸菌生合成による市販の分泌型TGFα(R&D systems社)を20ng/mL含むDMEMを調製した。そこに39種類の抗TGFα抗体あるいは抗EGFR抗体(クローン225:セツキシマブの元抗体、カルビオケム社)を
図5に示した濃度の2倍量を添加し、4度にて1時間攪拌反応させた。その後、500μL量ずつA431細胞の培養ウェルに添加した。30分後に上清を廃棄し、速やかに150μL量のSDSサンプル緩衝液を添加した。ピペッティングで攪拌した後、1.5mLチューブに移し、5分間の煮沸処理を行い、遠心後、その上清を回収した。続いて7.5%のSDS電気泳動用ゲルに各試料を15μLずつ添加し、電気泳動を行った。PVDF膜にタンパク質を転写後、膜を5%BSAを含むPBS(以下、ブロッキング液と称す)にて4度で一晩ブロッキングを行った。洗浄液にて膜を洗浄した後、ブロッキング液で200倍希釈した抗チロシンリン酸化EGFR(P-Tyr1173)抗体(9H2)と室温で1時間反応させた。洗浄液で膜を洗浄後、ブロッキング液で5,000倍希釈したPOD標識抗マウスIgG抗体(MBL社)と室温で1時間反応させた。膜を洗浄液で洗浄後、市販の化学発光基質(ミリポア社)を用いて目的バンドの検出を行い、LAS3000を用いて画像データを記録した。
【0073】
(2)抗EGFR抗体によるリブロッティング
続いて、使用したPVDF膜から抗体を除去するために、膜を0.2%のNaOHを含む蒸留水で室温5分間の処理を行い、その後、迅速に洗浄液にて洗浄を実施した。5%のスキムミルク(雪印)を含むPBS(-)を用いて4度にて一晩ブロッキングを行い、抗EGFR抗体(MBL社)と室温で1時間反応させた。膜を洗浄した後、ブロッキング液で5,000倍に希釈したPOD標識抗マウスIgG抗体(MBL社)と室温で1時間反応させ、洗浄後、市販の化学発光基質(ミリポア社)を用いてEGFR由来のバンドの検出を行った(
図5)。
【0074】
3.抗TGFα抗体MBL259-3を用いた株化癌細胞に対するフローサイトメトリ解析
TGFαを強制発現させた293T細胞を用いたフローサイトメトリ解析において、比較的強い反応性が認められた抗TGFα抗体MBL259-3を用いて、各株化癌細胞に対するフローサイトメトリを下記の通り、実施した。大腸癌由来の細胞株SW620(K-Ras G12Vホモ変異)は10%ウシ血清を含むL15液体培地(インビトロジェン社)を、肺癌由来の細胞株A427(K-Ras G12D ヘテロ変異)は10%ウシ血清を含むMEM培地(インビトロジェン社)を用いて10cmプレート上にて継代培養を行った。細胞密度が70-80%コンフルエントになった段階で、上清を廃棄して、10mLのPBSで細胞表面を洗浄した。その後、プレートから細胞を剥がす目的で5mM EDTA/PBSを3mL添加し、37度のCO
2インキュベーター内で5分間処理した。7mLのPBSを追加添加した後、10mLピペットで細胞をよく懸濁し、得られた細胞懸濁液を70μmセルストレイナー(BDファルコン社)を通しながら、15cc遠心チューブ(BDファルコン社)に移した。400xgの遠心を3分行った後、上清を捨て、5mLのPBSに再懸濁を行った。細胞懸濁液を50-100μL量チューブに分注した後、終濃度が100μg/mLになるようにヒトIgG(MBL社)を添加し、4度で15分間静置した。400xgで2分間の遠心後、上清を捨てた後、終濃度が10μg/mLの抗TGFα抗体MBL259-3あるいはアイソタイプ対照のマウスIgGを添加して、4度で1時間反応を行った。0.5%BSAと2mM EDTAを含むPBSで細胞を2回洗浄した後、洗浄液で200倍希釈したPE蛍光標識抗マウスIgG抗体(MBL社)を4度で1時間反応させた。洗浄液を用いて400xgで2分間による洗浄を3回行った後、細胞を500μLの洗浄液に懸濁し、フローサイトメトリ解析をFC500(ベックマンコールター社)にて行った(
図6)。
【0075】
4.Ras変異癌を移植したマウス担癌モデルにおける抗TGFα抗体の腫瘍抑制効果
移植に用いたSW620(K-Ras遺伝子G12Vホモ変異)およびA427(K-Ras遺伝子G12Dへテロ変異)細胞は上述した培養方法で継代を行い、各種の抗TGFα抗体(3mg/mL)あるいはセツキシマブ(メルク社)を含むPBS(-)で5x10
7個/mLに懸濁した。BALB/cヌードマウス4週齢メス(SLC社)の右背部皮下に、23G針・1mLシリンジ(テルモ社)を用いて100μL/匹で癌細胞を移植した。その後、各抗TGFα抗体ならびにセツキシマブを週2回、300μg/匹(100-200μL/匹)で、26G針・1mLシリンジにて計6あるいは7回、癌組織内に直接投与を行った。陰性対照として、PBS(-)あるいはマウスIgG2aを使用した。腫瘍サイズの計測は、試薬投与前に癌の長径と短径をノギスにて毎回2〜3名の測定者がそれぞれ単独で測定し、『腫瘍体積(mm
3)=長径(mm)×短径(mm)
2×π/6』にて腫瘍体積を算出、各測定者による算出値の平均をグラフにプロットした(
図7と
図8)。
【0076】
5.3次元培養系における各種癌細胞に対する抗TGFα抗体の増殖阻害効果
各種癌細胞の3次元培養は市販の3D Culture BME Cell Proliferation Assay(Trevigen社)を用いて以下の方法で実施した。35μL/ウェルのBME(Basement membrane extract)を96ウェルプレートに分注した後、気泡を完全に消失させるために800xg,4度の遠心操作を10分間行った。BMEがウェル全体に均一になっているのを目視した後、37度、5%CO
2環境下で1時間インキュベートしてBMEをゲル化させた。各種の癌細胞(SW620,A427およびA431)は5mM EDTAを含むPBS(-)で処理することでプレートから剥がし、PBSで2回洗浄後、2%-BMEを含む液体培地で1x10
5個/mLにて懸濁した。100μL/ウェルの細胞懸濁液をゲル化したBMEの上に播種し、37度5% CO
2環境下で培養して細胞をゲル上に定着させた。その後、終濃度が50μg/mLになるように、抗TGFα抗体溶液あるいはセツキシマブを100μL/ウェルで添加した。陰性対照として、アイソタイプのマウスIgG2aを使用した。抗体添加から80時間培養後に3D Culture Cell Proliferation Reagentを15μL/ウェルで添加し、3時間反応させた。その後、450nm/620nmの吸光度をプレートリーダー(Ultramark、バイオラッド社)で測定した(
図9)。
【0077】
6.マウス皮下血管新生評価系における抗TGFα抗体の血管新生阻害効果
マウス皮下における血管新生評価系は、市販のDirected In Vivo Angiogenesis Assay(Trevigen社)を用いて以下の方法で実施した。氷上で解凍したGrowth Factor Reduced BME(GFR-BME)を市販のヒトTGFα(R&D systems社, 20ng/angioreactor)、ヘパリン溶液(1μL/angioreactor)、および抗TGFα抗体(6.25μg/angioreactor)と混合した。このとき添加物の総体積がBMEの10%となるようにPBS(-)で補正した。陰性対照として、PBS(-)を10%添加したBMEを用いた。また、実験系の陽性対照として、血管新生誘導因子のVEGF(12.5ng/angioreactor)とFGF-2(37.5ng/angioreactor)を添加したBMEに、抗VEGF抗体であるベバシズマブ(商品名Avastin:ロシュ社)を2.5μgあるいは12.5μg/angioreactorを加えたものを用いた。上記の混合溶液をシリコン製チューブ(angioreactor)1個あたり20μL注入し、37度5%CO
2下で1時間静置反応させ、BMEをゲル化させた。
【0078】
1mgのペントバルビタール(シェリング・プラウ社)を腹腔内投与で麻酔した7週齢メスのBALB/cヌードマウスの両側背部皮下に、Angioreactorを片側に2本ずつ、1匹あたり計4本挿入し、皮膚をAUTOCLIP 9mm(BD社)で留めた。15日間飼育後、ヌードマウスをジエチルエーテル吸入によって安楽死させ、埋め込んだAngioreactorを摘出した。Angioreactorの注入口と反対側をメスで切りはずし、中のBMEゲルを滅菌1.5mLチューブへ押し出すように回収した。さらに300μLのCellSperse液でAngeoreactorの中を洗い、洗液を回収した。回収したゲルを37度で3時間インキュベートした後、250xgで5分間の遠心処理を施し、リアクター内に遊走した細胞を沈殿画分として回収した。細胞沈殿は500μLの10%FCS含有DMEMで懸濁し、37度で1時間静置した。その後、室温で250xgの遠心を10分間行い、細胞を洗浄した。キットに添付されたWash Bufferで細胞をさらに2回洗浄した後、沈殿に200μLのFITC-Lectinを加えて懸濁し、4度で一晩反応させた。Wash Bufferで細胞を3回洗浄した後、100μLのWash Bufferに懸濁し、蛍光光度計(Arvo パーキンエルマ社)で蛍光量を測定した(励起:485nm,蛍光:510nm)。データは相対値[(各サンプルの蛍光強度)/(陰性対照の蛍光強度平均値)]で表し、各条件の平均値と標準偏差を算出してスチューデントT検定で統計的解析を行った(
図10)。
【0079】
7.免疫組織染色法
大腸癌由来の細胞株SW620(K-Ras G12Vホモ変異)は10%ウシ血清を含むL15液体培地(インビトロジェン社)を用いて10cmプレート上にて継代培養を行った。細胞密度が70-80%コンフルエントになった段階で、10mLのPBSで細胞表面を一度洗浄した。5mM EDTA/PBSを3mL添加し、37度のCO
2インキュベーター内で5分間処理した後、7mLのPBSを追加添加し、10mLピペットで細胞をよく懸濁した。得られた細胞懸濁液を15cc遠心チューブ(BDファルコン社)に移した。400xgの遠心を3分行った後、上清を捨て、5mLのPBSに細胞を再懸濁した。5mLの8%ホルマリン緩衝溶液を加え、軽く攪拌した後、氷上で1時間静置した。400xgの遠心を3分行い、沈殿細胞塊を一度PBSにて洗浄した後、脱水処理する目的で、70%エタノールに10分間2回、80%エタノールに10分間2回、90%エタノールに10分間1回、95%エタノールに10分間1回、100%エタノールに10分間2回、キシレンに10分間3回、キシレン/パラフィンに10分間2回、そして60度のパラフィンに10分間3回の処理を行った。作製したパラフィンブロックは染色試験までの期間、-30度の冷凍庫にて保管した。SW620の細胞塊パラフィンブロックをミクロトームにて3-5μmの厚さにスライスした後、得られた切片をスライドガラスの上に乗せた。また大腸癌患者由来のパラフィン包埋済みの癌組織切片は中国の上海Outdo社より購入した。SW620細胞塊切片ならびに大腸癌由来組織切片を脱パラフィン処理するために、キシレンに5分間3回、100%エタノールに5分間2回、90%エタノールに5分間1回、80%エタノールに5分間1回、70%エタノールに5分間1回、そしてPBSに5分間3回すべて室温にて処理した。次に抗原賦活化を目的に、切片をpH6.0の0.05%Tween-20を含む10mMクエン酸緩衝液に浸し、125度のオートクレーブで5分間処理を行った。次に、内在性のペルオキシダーゼ活性を消滅させるために、3%過酸化水素水を含むPBSに室温10分間処理を行った後、5%正常ラット血清と0.5%BSAを含むPBS(ブロッキング溶液)で室温30分処理を行った。過剰な溶液を布で拭った後、ブロッキング溶液で10μg/mLに希釈した抗TGFa 抗体MBL259-3ならびにアイソタイプ対照(mouse IgG2a、MBL社)を適量添加し(組織切片が十分に浸る程度)、室温で2時間反応させた。0.05%Tween-20を含むPBSで室温5分間3回洗った後、ENVISIONキット(ダコ社)の二次抗体反応溶液を適量添加し(組織切片が十分に浸る程度)、室温で60分間反応させた。0.05%Tween-20を含むPBSで室温5分間3回洗った後、DAB基質液を10分間反応させた。反応は組織切片を水で洗浄することで止めた。ヘマトキシリンによる染色の後、エタノールとキシレンで脱水処理を行い、標本作製液(松浪硝子社)で標本を作製し、明視野顕微鏡(IX71 オリンパス社)にて検鏡ならびに記録を行った(
図11)。
【0080】
8.抗TGFα抗体の抗原エピトープ解析
(1)TGFαのアミノ酸点置換体を用いたフローサイトメトリ解析による抗原部位の検討
成熟型TGFαのアミノ酸配列40番-89番目のうち、ヒトとマウスとの間でアミノ酸配列が異なる4アミノ酸残基について1つずつマウス型アミノ酸に置換したアミノ酸点置換TGFα(D46K,F54Y,D67EおよびA80V)の発現ベクターを、pDIG-TGFαをベースにAMAP Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(アマルガム社)を用いて構築した。また、44番目、49番目、54番目、64番目、69番目、74番目、79番目、そして84番目のアミノ酸をそれぞれ1残基ずつアラニンに置換をしたアミノ酸点置換TGFα(F44A,D49A,F54A,V64A,P69A,H74A,G79AおよびH84A)も同じキットを用いて作製した。またマウス野生型TGFα発現ベクターを作製するために、マウス野生型TGFα遺伝子(塩基配列1番から477塩基)(オリジーン社)を動物細胞発現ベクターphmAG1(アマルガム社)にクローニングした。マウスTGFα遺伝子の3’側にIRESならびに蛍光タンパク質のアザミグリーンの遺伝子が繋がるようにベクターをデザインした(以下、当該ベクターをpDIA-TGFαと称す)。これらのアミノ酸点置換TGFαの発現ベクターならびに、ヒト野生型TGFα発現ベクター、マウス野生型TGFα発現ベクターの計15種類の発現ベクターをそれぞれリポフェクション(インビトロジェン社)によって293T細胞に一過性で発現させた。該細胞(1試料あたり、1x10
5個)を洗浄バッファー(0.5%BSAと2mM EDTAを含むPBS(-))で2回洗浄した後、各種の抗TGFα抗体(洗浄バッファーで5μg/mLに希釈)を4度で60分間反応させた。洗浄バッファーで細胞を2回洗浄した後、200倍希釈したPE標識抗マウスIgG抗体(MBL社)を4度で60分間反応させた。洗浄バッファーで細胞を2回洗浄後、500μLの洗浄バッファーに懸濁した細胞をFC-500(ベックマンコールター社)でフローサイトメトリ解析し、各TGFα抗体におけるヒト野生型TGFαとアミノ酸点置換TGFαとの反応性を比較検討した(
図12)。
【0081】
(2)オーバーラップペプチド(OLP)を用いた抗原部位解析
成熟型TGFα(40-89)の配列を基に、以下の11種類のOLPを人工合成した。
[OLP-1(TGFα40-48):VVSHFNDCP](配列番号:67)
[OLP-2(TGFα40-54):VVSHFNDCPDSHTQF](配列番号:68)
[OLP-3(TGFα48-55):PDSHTQFC](配列番号:69)
[OLP-4(TGFα50-59):SHTQFCFHGT](配列番号:70)
[OLP-5(TGFα56-66):FHGTCRFLVQE](配列番号:71)
[OLP-6(TGFα56-70):FHGTCRFLVQEDKPA](配列番号:72)
[OLP-7(TGFα61-72):RFLVQEDKPACV](配列番号:73)
[OLP-8(TGFα72-81):VCHSGYVGAR](配列番号:74)
[OLP-9(TGFα74-89):HSGYVGARCEHADLLA](配列番号:75)
[OLP-10(TGFα77-89):YVGARCEHADLLA](配列番号:76)
[OLP-11(TGFα80-89):ARCEHADLLA](配列番号:77)
陽性対照抗原としてproTGFα-hFcを利用した。また、陰性対照抗体としては、アイソタイプ対照のマウスIgG2a(MBL社)を使用した。
【0082】
OLPおよび陽性対照抗原を1μg/mL含むPBS(-)を50μLずつ、96ウェルプレート(F96 Maxisorp NUNC-Immuno plate(NUNC社))に添加し、4度で一晩反応させることで抗原をプレートに吸着させた。上清を捨てた後、ブロッキング液(1%BSAと0.1%NaN
3を含むPBS(-))を100μL/ウェルで添加し、4度で一晩静置した。ブロッキング液を完全に除いた後、各抗TGFα抗体を5μg/mL含むPBS(-)を50μLずつウェルに添加して、室温で1時間反応させた。プレートをPBS(-)で5回洗浄した後、POD標識抗マウスIgG(20,000倍希釈,酵素標識抗体希釈液(20mM HEPES,1%ウシ血清アルブミン,0.135M NaCl,0.1%パラヒドロキシフェニル酢酸,0.15%ケーソンCG,0.05%BPB))を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS(-)で5回洗浄した後、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)を50μL/ウェルで添加して室温で30分間インキュベートして発色させた。0.5Nのリン酸溶液を50μL/ウェルで添加して反応を停止させ、450nm/620nmで吸光度を測定した(
図13)。
【0083】
9.抗体配列の決定
PCR法による配列の決定をAntibody Engineering(J.McCAFFERTY,H.R.Hoogenboom,D.J.Chiswell編)に従って実施した。抗TGFα抗体を産生するハイブリドーマを1x10
5細胞収集し、RNeasy mini kit(キアゲン社)にてトータルRNAを精製し回収した。マウスIgGの可変領域は、下記のクローニング用プライマーとDNA合成酵素としてKOD Plus(東洋紡社)を用いたPCR法により、増幅した。
[L鎖に対するセンスプライマー]
MKV1:5’-ATGAAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCTG-3’(配列番号:78)
MKV2:5’-ATGGAGWCAGACACACTCCTGYTATGGGTG-3’(配列番号:79)
MKV3:5’-ATGAGTGTGCTCACTCAGGTCCTGGSGTTG-3’(配列番号:80)
MKV4:5’-atgaggRcccctgctcagWttYttggMWtcttg-3’(配列番号:81)
MKV5:5’-atggatttWcaggtgcagattWtcagcttc-3’(配列番号:82)
MKV6:5’-atgaggtKcYYtgYtSagYtYctgRgg-3’(配列番号:83)
MKV7:5’-atgggcWtcaagatggagtcacaKWYYcWgg-3’(配列番号:84)
MKV8:5’-atgtggggaYctKtttYcMMtttttcaattg-3’(配列番号:85)
MKV9:5’-atggtRtccWcaSctcagttccttg-3’(配列番号:86)
MKV10:5’-atgtatatatgtttgttgtctatttct-3’(配列番号:87)
MKV11:5’-atggaagccccagctcagcttctcttcc-3’(配列番号:88)
[L鎖に対するアンチセンスプライマー]
MKC:5’-ACTGGATGGTGGGAAGATGG-3’(配列番号:89)
[H鎖に対するセンスプライマー]
MHV1:5’-atgaaatgcagctggggcatSttcttc-3’(配列番号:90)
MHV2:5’-atgggatggagctRtatcatSYtctt-3’(配列番号:91)
MHV3:5’-atgaagWtgtggttaaactgggttttt-3’(配列番号:92)
MHV4:5’-atgRactttgggYtcagcttgRttt-3’(配列番号:93)
MHV5:5’-atggactccaggctcaatttagttttcctt-3’(配列番号:94)
MHV6:5’-atggctgtcYtrgSgctRctcttctgc-3’(配列番号:95)
MHV7:5’-atggRatggagcKggRtctttMtctt-3’(配列番号:96)
MHV8:5’-atgagagtgctgattcttttgtg-3’(配列番号:97)
MHV9:5’-atggMttgggtgtggaMcttgctattcctg-3’(配列番号:98)
MHV10:5’-atgggcagacttacattctcattcctg-3’(配列番号:99)
MHV11:5’-atggattttgggctgattttttttattg-3’(配列番号:100)
MHV12:5’-atgatggtgttaagtcttctgtacctg-3’(配列番号:101)
[IgG1に対するアンチセンスプライマー]
MHCG1:5’-CAGTGGATAGACAGATGGGGG-3’(配列番号:102)
[IgG2aに対するアンチセンスプライマー]
MHCG2a:5’-CAGTGGATAGACAGATGGGGC-3’(配列番号:103)
PCRによる増幅産物をクローニングベクター(pBluescriptII、東洋紡社)に組み込み、遺伝子配列の解析を行った(ABI3130、ライフテクノロジーズ社)。IgBLASTを利用して、得られた抗体配列のフレームワークとCDRの特定を行った。
【0084】
次に、得られた可変領域がTGFαを認識すること検証するために、H鎖とL鎖の可変領域遺伝子を用いてヒト型キメラ抗体を下記の方法で作製した。ヒト定常領域としては、Kabatらが非特許文献(Sequence of proteins of Immunological interest(NIH Publication No.91-3242, 1991))において示したHuman IgG1定常領域を利用した。
【0085】
[H鎖定常領域に対するセンスプライマー]: 5’-AAGCTTCGTACGCCCGCTCTTCGCCTCCACCAAGGGCCCATC-3’(配列番号:104),[アンチセンスプライマー]: 5’-CGCCTGACGCGTCCCTCATTTACCCGGAGACAGGGAGAGACTCTTCTGCGTGTAG-3’(配列番号:105),[L鎖定常領域に対するセンスプライマー]: 5’-AAGCTTCGTACGCCCGCTCTTCACTGTGGCTCACCATCTGT-3’(配列番号:106),[アンチセンスプライマー]: 5’-CGCCTGACGCGTCCCCTAACACTCTCCCCTGTTGA-3’(配列番号:107)を用いて遺伝子の増幅を行い、得られたH鎖定常領域遺伝子配列断片ならびにL鎖定常領域遺伝子配列断片を、制限酵素SmaIで消化したpEHX1.1、pELX2.1(東洋紡社)に、In-Fusion PCRクローニングキット(タカラバイオ社)を用いて導入した(以下、当該発現ベクターを、それぞれ「hHC-pEHX」、「hLC-pELX」と称する)。
【0086】
次に、以下に示すヒト型キメラ抗体作製用のプライマーで増幅させて得た各抗TGFα抗体のH鎖およびL鎖のDNA断片を、制限酵素SapIで消化したhHC-pEHX、hLC-pELXにそれぞれIn-Fusion法にて導入した。
【0087】
<MBL009-15>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAGAGTGCTGATTCTTTTGT-3'(配列番号:108)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGT-3'(配列番号:109)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGGTGTCCTCAGCTCAGTTCCTTG-3'(配列番号:110)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:111)
<MBL016‐8>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATG-3'(配列番号:112)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGT-3'(配列番号:113)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAGGTTCTCTGTTGAGTTC-3'(配列番号:114)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTTATTTCCAGCTTGGTCCC-3'(配列番号:115)
<MBL018-1>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGGAATGTAACTGGATACTT-3'(配列番号:116)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACGGTGACTGAGGT-3'(配列番号:117)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGGGCATCAAGATGGAGTCA-3'(配列番号:118)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTCTGATTTCCAGTTTGGTGCC-3'(配列番号:119)
<MBL144-1>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGATGGTGTTAAGTCTTCTG-3'(配列番号:120)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:121)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGGTATCCTCAGCTCAGTTC-3'(配列番号:122)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:123)
<MBL184-6>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATC-3'(配列番号:124)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:125)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAAGTTTCCTTTTCAACTT-3'(配列番号:126)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGTTTGGTGCC-3'(配列番号:127)
<MBL259-3>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATG-3'(配列番号:128)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGT-3'(配列番号:129)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAGTGTGCTCACTCAGGTC-3'(配列番号:130)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTTATTTCCAGTTTGGTCCC-3'(配列番号:131)
<MBL292-1>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATC-3'(配列番号:132)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:133)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAAGTTTCCTTTTCAACTT-3'(配列番号:134)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:135)
<MBL352-34>
H鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCGCCTATGAAATGCAGCTGGGGCATG-3'(配列番号:136)
アンチセンス 5'-GGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT-3'(配列番号:137)
L鎖
センス 5'-GCCCGCTCTTCACTGATGAAGTTTCCTTTTCAACTT-3'(配列番号:138)
アンチセンス 5'-ATGGTGCAGCCACAGTTTTGATTTCCAGCTTGGTGCC-3'(配列番号:139)
作製したヒト型キメラ抗体発現ベクターを293T細胞に共トランスフェクトした。その培養上清について、膜型TGFαを発現させた293T細胞への反応性を、前述と同様のフローサイトメトリ解析によって確認した。
【0088】
上述のPCR法で配列が決定されなかった抗体遺伝子については、5’-RACE法で抗体遺伝子のクローニングを行った。5’-RACE法はGene Racerキット(インビトロジェン社)を用いて以下の方法で実施した。RNeasy mini kit(キアゲン社)にて回収したトータルRNAを、ウシ腸由来ホスファターゼで処理した。エタノール沈殿で回収した5’-脱リン酸化RNAを、タバコ酸ピロホスファターゼで処理し、5’-キャップ構造を除去した。エタノール沈殿で回収した5’-脱キャップ化RNAに、Gene Racer RNA oligoをT4 RNAリガーゼを用いて付加した。この付加RNAをエタノール沈殿で回収し、Super Script III RTで逆転写反応を行った。合成されたcDNAを鋳型に、GeneRacer 5’primer、L鎖とH鎖それぞれに特異的なアンチセンスプライマー(H鎖:5’-GATGGGGGTGTCGTTTTGGC-3’(配列番号:140),L鎖:GTTGGTGCAGCATCAGCCCG-3’(配列番号:141))、およびKOD plusを用いて、抗体遺伝子を増幅した。増幅したDNAをpCR-Blunt II-TOPOベクターに導入し、遺伝子配列を決定した(ABI3130)。ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築ならびに得られたヒト型キメラ抗体の活性の確認は上述の方法に従った。
【0089】
[実施例1] 抗TGFαモノクローナル抗体の取得
免疫原にはproTGFα-mFc単独、あるいはproTGFα-mFcとproTGFα-mHを用いた。この溶液を、フロインドの完全アジュバントとともに、各種系統のマウス計60匹に免疫した(
図1aとb)。免疫マウスのリンパ球とミエローマを融合したハイブリドーマの上清を用いて、免疫原またはスクリーニング用抗原との反応性を抗原固相ELISAにて評価した。次に、TGFαの全長を293T細胞に一過性に発現させたTGFα/293T細胞を用いて、フローサイトメトリ解析を行い、膜型TGFαと反応性を示すハイブリドーマ上清、さらには分泌型抗原のproTGFα-mHを免疫沈降できるハイブリドーマ上清(
図4)を選択した。限外希釈法によってハイブリドーマをモノクローン化した後、再度、免疫原固相ELISAと免疫沈降を実施し、合計39種類の抗TGFαモノクローナル抗体を選抜した(表1)。精製抗体によるTGFαへの反応性を確認するため、各種TGFαならびに陰性対照を固相したELISA(
図2)、ならびにTGFα/293T細胞を用いたフローサイトメトリによる反応性の確認を行った(
図3)。
【0090】
[実施例2] TGFαとEGFRの結合を阻害するTGFα中和抗体の選択
得られた抗TGFα抗体から、TGFαとEGFRの結合を阻害する活性を有する抗体(中和抗体)を選択する目的で、EGFR高発現癌細胞A431を用いて次の実験を行った。無血清培地で培養したA431に対して、TGFαを添加するとEGFRのチロシンリン酸化レベルが一過的に上昇する。予めTGFα溶液を各抗TGFα抗体と反応させてからA431に処理した場合において、EGFRのリン酸化レベルを、PBS対照に比べて上昇させない抗体を検索した。その結果、抗体添加濃度10μg/mLにおいて、MBL352-34、MBL292-1、MBL184-6、MBL016-8、MBL144-1、MBL023-1、およびMBL018-1がEGFRのチロシンリン酸化(P-Tyr1173)を70%-100%以上阻害することが判明した(
図5aとb)。一方、対照に用いたTGFα中和抗体189-2130(非特許文献50)およびEGFRのブロック抗体225は、EGFRリン酸化をそれぞれ20%と40%程度しか阻害しなかった。
【0091】
[実施例3] 癌細胞における膜型TGFαあるいは膜結合型TGFαの検討
次に、K-Ras遺伝子変異を持つ癌細胞の細胞表面におけるTGFαの存在を検証するために、TGFα/293T細胞に対する反応性が比較的良好であったMBL259-3を用いてフローサイトメトリ解析を行った。その結果、K-Ras遺伝子G12Vホモ変異癌細胞である大腸癌由来のSW620と肺癌由来のK-Ras遺伝子G12Dヘテロ変異細胞株であるA427がMBL259-3と反応した(
図6)。
【0092】
[実施例4] K-Ras遺伝子変異癌を移植した担癌マウスモデルにおける抗TGFα抗体の腫瘍抑制効果
図6で抗TGFα抗体との反応性が認められたK-Ras遺伝子変異癌細胞A427とSW620をそれぞれヌードマウスに皮下移植し、同時に各種の抗TGFα抗体を皮下に投与した。その後、抗体を週2回の割合で6あるいは7回投与し、腫瘍サイズを計測した。その結果、A427担癌マウスでは、EGFRブロック抗体のセツキシマブ投与群に一定の癌の増殖抑制が認められたが、本発明者らが取得した抗TGFα抗体のうち、MBL023-1、MBL259-3、およびMBL292-1投与群は、セツキシマブよりも顕著な癌の抑制が認められた(
図7aとb)。また、SW620担癌マウスでは、セツキシマブ投与群では抗腫瘍効果が認められなかったのに対し、抗TGFα抗体のMBL144-1、MBL259-3、およびMBL292-1投与群では顕著な癌の増殖抑制が認められた(
図8aとb)。
【0093】
[実施例5] 3次元細胞培養系における抗TGFα抗体の増殖抑制効果
TGFαは癌細胞の増殖に直接作用するだけでなく、癌組織に栄養を運ぶ血管を誘引し、また足場となるストローマの増殖を促進することで、総合的に癌組織の増大を助けている。そこで、担癌マウスモデルで腫瘍抑制効果が認められた抗TGFα抗体が、癌の増殖を直接抑制しているのか、血管新生を抑制しているのか、あるいは両方を抑制しているのかを調査した。始めに、ゲル化させた培地で細胞を培養する3次元細胞培養系を用いて、A427ならびにSW620を増殖させ、その培養系に各種の抗TGFα抗体を添加することで、癌細胞の増殖に対する影響を調査した(
図9)。その結果、抗TGFα抗体のMBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL144-1、MBL184-6、MBL292-1、およびMBL352-34が濃度依存的にA427とSW620の増殖を抑制した。一方で、TGFα中和抗体189-2130(非特許文献50)やEGFRブロック抗体のセツキシマブには増殖抑制効果がほとんど確認できなかった。また、実験に使用したセツキシマブが失活していないことを確認するために、A431に対して増殖阻害試験を実施したところ、セツキシマブに強い増殖抑制活性が確認された。なお、この実験系においても本発明者らが取得した抗TGFα抗体は強い増殖抑制効果を示した。
【0094】
[実施例6] 血管新生に対する抗TGFα抗体の阻害効果
次に、マウス皮下に血管新生を誘導する血管新生実験系を用いて、抗TGFα抗体による血管新生阻害効果を評価した。陽性対照実験として、VEGF/FGF-2によるアンジオリアクター内への血管内皮細胞の遊走を抗VEGF抗体のベバシズマブで濃度依存的に抑制することを確認した(
図10a)。アンジオリアクターにTGFαを加えると、PBSのみ添加した場合と比較して、血管内皮細胞の遊走は亢進した。この系に、各抗TGFα抗体(MBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL292-1、MBL352-34)を添加すると血管内皮細胞の誘引抑制が確認された。特にMBL292-1はPBSのみ添加の場合と同程度にまで遊走が抑制された(
図10b)。
【0095】
以上の結果から、癌細胞に対する増殖抑制効果を示した抗TGFα抗体の多くは、TGFαのEGFRへの結合に拮抗する活性を有し、さらに血管新生の誘導も抑制する活性を示すことが判明した。
【0096】
[実施例7] 免疫組織染色によるK-ras遺伝子変異大腸癌細胞SW620ならびに大腸癌患者由来検体に対する抗TGFα抗体の反応性
パラフィン包埋したK-Ras遺伝子変異癌SW620の薄切切片に対して、抗TGFα抗体MBL259-3を用いた免疫組織染色を実施したところ、アイソタイプ対照抗体に比べて明らかな染色が確認された(
図11aと
図11b)。さらに大腸癌患者由来のパラフィン包埋癌組織切片に対してもMBL259-3は癌組織を強く染色した。またこのとき癌部周辺に発達した間質の一部にも染色が確認された。
【0097】
[実施例8] 癌細胞に対して増殖抑制効果を示す抗TGFα抗体の抗原エピトープ解析
癌細胞に対して増殖抑制を示した抗TGFα抗体の共通の特徴を探るため、TGFαのアミノ酸を1アミノ酸ずつ改変させたアミノ酸点置換TGFαを作製し、各抗TGFα抗体との反応性を検討した。
【0098】
実験に用いるアミノ酸点置換型TGFαとして、ヒトTGFαからマウスTGFαへアミノ酸を点置換させたD46K置換型、F54Y置換型、D67E置換型、およびA80V置換型を作製した。また、44番目、49番目、54番目、64番目、60番目、74番目、79番目、および84番目のアミノ酸をそれぞれ1残基ずつアラニンに置換をしたF44A置換型、D49A置換型、F54A置換型、V64A置換型、P69A置換型、H74A置換型、G79A置換型、そしてH84A置換型TGFαを準備した。これらをそれぞれ293T細胞の細胞表面に発現させ、各抗TGFα抗体との反応性をフローサイトメトリによって検討した。その結果、
in vivoあるいは
in vitroにおいてK-Ras遺伝子変異癌に対する増殖抑制効果が認められた抗TGFα抗体9クローン(MBL009-15、MBL016-8、MBL018-1、MBL023-1、MBL144-1、MBL184-6、MBL259-3、MBL292-1、およびMBL352-34)の全てにおいて、共通して、G79A置換体に対する反応性が著しく低下した(
図12)。一方、中和活性はあるが癌の増殖抑制効果の認められなかった抗体189-2130(非特許文献50)においては、G79A置換体に対する反応性の低下は確認されなかった。189-2130はH74A置換体で反応性が低下したが、本発明者ら取得した抗TGFα抗体はいずれもH74A置換体に対してヒト野生型と同程度に強く反応した。また、本発明者らの開発した抗TGFα抗体のうち、SW620に対して増殖抑制効果のなかったMBL046-21、MBL092-3、MBL159-1、MBL210-20、MBL287-12、MBL305-3、およびMBL324-5(表1)は、G79A置換体に対する反応性はヒト野生型TGFαに対する反応性と変わらず、強く反応した。一方で、TGFαのオーバーラップペプチド(OLP)を人工合成し、上記の抗TGFα抗体9クローンとの反応性をELISAにて検討した。その結果、これら9クローンは、陽性対照抗原として用いたproTGFα-hFcと反応したが、11種類のOLPに対してはいずれの抗体も陽性対照抗原と比べてその反応性が著しく低かった(OD
450値:0.06未満)。また、OLPをproTGFα-hFc溶液に添加することで抗原抗体反応を競合させたが、いずれの抗体もproTGFα-hFcに対する反応性の低下は確認されなかった。したがって、TGFαのポリペプチド断片を利用して抗体の反応性を分析しても、抗腫瘍効果を有する抗TGFα抗体は選択できないことが判明した。
【0099】
以上の結果から、G79A置換TGFαとの反応性を指標に抗TGFα抗体を選抜することで、癌(Ras遺伝子変異型を含む)に対する増殖抑制効果を発揮する抗TGFα抗体の取得が可能となることが判明した。
【0100】
[実施例9] Ras遺伝子変異癌に対して増殖抑制効果を発揮した抗TGFα抗体の配列解析
各抗体産生細胞から抗体遺伝子をPCR法あるいは5’-RACE法によって回収し、H鎖とL鎖の遺伝子配列を決定した。H鎖とL鎖の組み合わせが正しいことを確認するために、H鎖、L鎖の抗体遺伝子を表11のプライマーを利用して増幅させた後、動物発現ベクターに導入し、それらを293T細胞に共発現させた。培養上清に得られたリコンビナント抗体がTGFαに反応することを確認するために、実施例1と同様に、膜型TGFα/293Tと培養上清とを反応させ、フローサイトメトリ解析を行った。その結果、リコンビナント抗体は、すべて膜型TGFαと反応することを確認した(
図14)。