特許第5788478号(P5788478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788478
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】多床室用空調システム
(51)【国際特許分類】
   A61G 10/00 20060101AFI20150910BHJP
   F24F 7/10 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   A61G10/00 C
   F24F7/10 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-259136(P2013-259136)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-112455(P2015-112455A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2013年12月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月12日、公益社団法人空気調和・衛生工学会発行のDVD「平成25年度 空気調和・衛生工学会大会(長野)」にて発表 平成25年9月25日〜9月27日 開催の「平成25年度空気調和・衛生工学会大会(長野)」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 正一
(72)【発明者】
【氏名】湯 懐鵬
(72)【発明者】
【氏名】堀 賢
(72)【発明者】
【氏名】田辺 新一
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−257908(JP,A)
【文献】 特開2002−106906(JP,A)
【文献】 特開平10−169222(JP,A)
【文献】 特開2007−057174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 10/00
F24F 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一室内に複数のベッドが設置される多床室において感染リスクを低減するための多床室用空調システムであって、
前記多床室には、前記ベッドがそれぞれ一台ずつ設置される個別エリアが複数形成されていると共に、該個別エリアの間に共用エリアが形成されており、
該個別エリアにおいて、前記ベッドの頭部側が前記共用エリアの反対側に向けられ、該ベッドの頭部側及び両側方が全仕切り体によりそれぞれ床から天井まで仕切られ、該ベッドの足元側と前記共用エリアとの間が床上に高さ0.5m以下且つ天井下に高さ0.5m以下の隙間を形成するように部分仕切り体により仕切られており、
前記共用エリアの天井には前記部分仕切り体に沿って前記両側方の全仕切り体の間隔に相当する長さを有するライン型の個別吹出し口が設けられ、前記個別エリアの前記ベッドの頭部側上方の天井には個別吸込み口が設けられており、前記個別吹出し口から前記共用エリアに供給された空気が前記部分仕切り体の下方の前記隙間を通って前記個別吸込み口から排出される気流が形成されることを特徴とする多床室用空調システム。
【請求項2】
前記共用エリアの天井には、前記部分仕切り体から離間した位置に前記個別吹出し口とは別に共用吹出し口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の多床室用空調システム。
【請求項3】
前記共用吹出し口から前記共用エリアに外気が供給されるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の多床室用空調システム。
【請求項4】
前記個別吸込み口から排出された空気中の汚染物質を除去するフィルター設備を備え、該フィルター設備で汚染物質を除去された空気が前記個別吹出し口に送出され、前記多床室内を循環する気流が形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の多床室用空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院や福祉施設などの一室内に複数のベッドが設置される多床室において感染リスクを低減するための多床室用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気感染する虞のある感染症を発症している患者は個室に隔離する必要があるが、入院時に発症していなくても入院中に病気や治療で免疫が低下することで感染症を発症する場合もある。そのような場合には、本来、個室に隔離すべき感染症の患者を多床室に入院させてしまう虞があるため、従来、多床室において感染リスクを低減させるための研究が行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、プッシュプル気流による局所排気システムにおいて、多床室のベッド間に家具等の間仕切りを設けて半個室化とすると共に吹出し口と吸込み口の配置を適切に行うことで、多床室内における病原体の拡散防止と濃度低減に関する検討を行なっている。
【0004】
また、非特許文献2では、放射空調システムにおいて、吹出し口及び吸込み口の配置の工夫やパーテーションを組み合わせることで、4床病室内における空気感染リスクの低減に関する検討を行なっている。
【0005】
さらに、非特許文献3では、全外気方式またはHEPAフィルターを使用した病室空調システムにおいて、気流挙動に関するシミュレーションを行なっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森本正一らによる「医療・福祉施設における感染制御に関する研究(第11報)多床室の病原体濃度低減の検討」、空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集(2012)、1455〜1458頁
【非特許文献2】町田晃一らによる「4床病室における放射空調をベースとした感染リスク低減に関する研究」、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)(2013)、747〜750頁
【非特許文献3】「結核を想定した感染症指定医療機関の施設基準に関する研究」、我が国における一類感染症の患者発生時の臨床的対応に関する研究分担研究報告書、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した非特許文献1の局所排気システムでは、多床室内の必要な換気回数が隔離病室の最低風量基準である12回/hより多いため、エネルギーの消費量が多くなり、エネルギー効率の向上が図り難いという問題がある。また、間仕切りによって多床室内の病原体濃度を低下させることはできるが、感染リスクの低減効果が小さいという問題がある。さらに、プッシュプル気流で局所排気することによって多床室内の病原体濃度を90%以上低減することはできるが、プッシュプル気流の範囲が狭いため、患者がベッドに寝ている時にしか効果がないという問題や、陽圧に維持された共用エリアがないため、漏洩した汚染物質が各ベッドに拡散してしまうという問題がある。さらにまた、ベッド脇にプッシュプル装置を設置する必要があるため、その騒音や気流感及び圧迫感により患者の療養環境を損なう虞があるという問題もある。
【0008】
また、上記した非特許文献2の放射空調システムでは、多床室内における空気の流れによる汚染物質の拡散を抑制するため、従来の一般的な対流式空調システムより多床室内の換気風量を削減しているが、換気風量が削減されるほど換気による汚染物質の希釈が行われないため、室内の汚染物質濃度が低下しにくくなるという問題がある。また、陽圧に維持された共用エリアがないため、汚染物質の拡散が起こり、時間経過と共に病原体が多床室内全体に拡散する虞があるという問題がある。さらに、仮に多床室内の換気風量を増加させたとしても、空気の拡散が増え、放射空調システムの特徴がなくなり、パーテーションのみの効果となるため、多床室内の汚染物質濃度を低減させる効果が小さいという問題や、陽圧に維持された共用エリアがないため、多床室内全体へ汚染物質が拡散し易くなるという問題がある。
【0009】
また、上記した非特許文献3の病室空調システムでは、全外気方式を基本としているため、病室内に導入する外気量が多くなり、外気の温度を調整するエネルギーも多く必要となる。そのため、エネルギー効率を高めることが難しいという問題がある。また、病室から排出される空気の再循環を行なう場合には、HEPAフィルターの使用が推奨されているため、空気の搬送エネルギーが多くなり、エネルギー効率の向上が図り難いという問題がある。
【0010】
本発明は、上記した各種課題を解決すべくなされたものであり、エネルギー効率の向上を図ると共に、多床室内の病原体濃度を低減し、感染リスクの低減を図ることのできる多床室用空調システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明は、一室内に複数のベッドが設置される多床室において感染リスクを低減するための多床室用空調システムであって、前記多床室には、前記ベッドがそれぞれ一台ずつ設置される個別エリアが複数形成されていると共に、該個別エリアの間に共用エリアが形成されており、該個別エリアにおいて、前記ベッドの頭部側が前記共用エリアの反対側に向けられ、該ベッドの頭部側及び両側方が全仕切り体によりそれぞれ床から天井まで仕切られ、該ベッドの足元側と前記共用エリアとの間が部分仕切り体により少なくとも床上に隙間を形成するように仕切られており、前記共用エリアの天井には前記部分仕切り体に沿って個別吹出し口が設けられ、前記個別エリアの前記ベッドの頭部側上方の天井には個別吸込み口が設けられており、前記個別吹出し口から前記共用エリアに供給された空気が前記部分仕切り体の下方の前記隙間を通って前記個別吸込み口から排出される気流が形成されることを特徴とする。
【0012】
このように部分仕切り体と個別吹出し口を設置することにより、多床室内の病原体等の汚染物質濃度を大幅に低減することができるため、感染リスクの低減効果を増大させることができる。また、共用エリアに個別吹出し口を設置することにより、共用エリアを陽圧に維持することができるため、共用エリアから各個別エリアへの気流が形成され、各ベッド上で発生した病原体等の汚染物質が拡散し難い。
【0013】
また、本発明に係る多床室用空調システムにおいて、前記共用エリアの天井には、前記部分仕切り体から離間した位置に共用吹出し口が設けられていてもよい。
【0014】
このように共用エリアに共用吹出し口を設置することにより、共用吹出し口による共用エリアの淀み防止効果と、個別吹出し口による拡散防止効果と、を程良くバランスさせることができ、多床室内における汚染物質の低減効果をより高めることができる。
【0015】
本発明に係る多床室用空調システムは、前記共用吹出し口から前記共用エリアに外気が供給されるように構成されていてもよい。
【0016】
これにより、所定の温湿度に調整した外気を多床室内に供給することができる。
【0017】
本発明に係る多床室用空調システムは、前記個別吸込み口から排出された空気中の汚染物質を除去するフィルター設備を備え、該フィルター設備で汚染物質を除去された空気が前記個別吹出し口に送出され、前記多床室内を循環する気流が形成されてもよい。
【0018】
このように多床室内を循環する気流を形成することにより、外気の導入量を減らすことができ、外気の温湿度等を調整するためのエネルギーを削減することができる。また、多くの種類のフィルターから適切なフィルターを選定することで、病原体の除去効果と空気の搬送エネルギーのバランスを良好に保持することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エネルギー効率の向上を図ると共に、多床室内の汚染物質濃度を低減し、感染リスクの低減を図ることができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムを示す平面図である。
図2図1のA−A矢視図である。
図3】本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムを示す平面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムを示す立面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムについて説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムを示す平面図、図2図1のA−A矢視図、図3は本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムを示す平面図、図4は本発明の実施の形態に係る多床室用空調システムを示す立面図である。
【0022】
この多床室用空調システム10は、一室内に複数(本実施の形態では4床)のベッド11a,11b,11c,11dが設置される多床室12用の空調システムである。
【0023】
図1に示されているように、多床室12は、平面視矩形状を成し、周囲を四つの第1〜第4固定壁13a,13b,13c,13dにより囲まれている。第1〜第4固定壁13a,13b,13c,13dは床14から少なくとも天井15まで形成された全仕切り体であり、第1固定壁13aと第3固定壁13c及び第2固定壁13bと第4固定壁13dとはそれぞれ互いに平行を成している。多床室12には、ベッド11がそれぞれ一台ずつ設置される第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16dと、第1〜第4各個別エリア16a,16b,16c,16dへの出入り時に通行する1箇所の共用エリア17と、が形成されている。
【0024】
第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16dは、多床室12の四隅においてそれぞれ矩形平面形状に形成されている。第1個別エリア16aは第1固定壁13aと第2固定壁13bとにより形成される入隅部分に形成され、第2個別エリア16bは第2固定壁13bと第3固定壁13cとにより形成される入隅部分に形成され、第3個別エリア16cは第3固定壁13cと第4固定壁13dとにより形成される入隅部分に形成され、第4個別エリア16dは第1固定壁13aと第4固定壁13dとにより形成される入隅部分に形成されている。
【0025】
共用エリア17は、第1個別エリア16aと第4個別エリア16dとの間及び第2個別エリア16bと第3個別エリア16cとの間を通って直線状に形成されている。共用エリア17のいずれか一方の端部には多床室12への出入り口18が形成されている。
【0026】
第1個別エリア16aには、ほぼ中央に第1ベッド11aが第1固定壁13aに平行を成すように配置されている。第1ベッド11aは、その頭部側が共用エリア17の反対側に向けられ、第2固定壁13bに接するように配置されている。第1ベッド11aの頭部側上方の天井15には矩形状の第1個別吸込み口18aが設けられている。
【0027】
第1ベッド11aの側方であって第1固定壁13aの反対側には家具等の第1全仕切り体19が配置されており、第1個別エリア16aと第2個別エリア16bの間はこの第1全仕切り体19によって床14から天井15まで仕切られている。
【0028】
第1ベッド11aの足元側と共用エリア17との間は第1部分仕切り体20aによって仕切られている。図2に良く示されているように、第1部分仕切り体20aは、天井15から垂下される、例えばカーテンやロールスクリーン等により構成されており、少なくとも床上に所定高さの隙間21を形成するように設けられている。
【0029】
第2個別エリア16bには、ほぼ中央に第2ベッド11bが第3固定壁13cに平行を成すように配置されている。第2ベッド11bは、その頭部側が共用エリア17の反対側に向けられ、第2固定壁13bに接するように配置されている。第2ベッド11bの頭部側上方の天井15には矩形状の第2個別吸込み口18bが設けられている。
【0030】
第2ベッド11bの側方であって第3固定壁13cの反対側には前記第1全仕切り体19が配置されている。第2ベッド11bの足元側と共用エリア17との間は第2部分仕切り体20bによって仕切られている。図2に良く示されているように、第2部分仕切り体20bは、天井15から垂下される、例えばカーテンやロールスクリーン等により構成されており、少なくとも床上に所定高さの隙間21を形成するように設けられている。
【0031】
第3個別エリア16cには、ほぼ中央に第3ベッド11cが第3固定壁13cに平行を成すように配置されている。第3ベッド11cは、その頭部側が共用エリア17の反対側に向けられ、第4固定壁13dに接するように配置されている。第3ベッド11cの頭部側上方の天井15には矩形状の第2個別吸込み口18cが設けられている。
【0032】
第3ベッド11cの側方であって第3固定壁13cの反対側には第2全仕切り体22が配置されており、第3個別エリア16cと第4個別エリア16dの間はこの第2全仕切り体22によって床14から天井15まで仕切られている。
【0033】
第3ベッド11cの足元側と共用エリア17との間は第3部分仕切り体20cによって仕切られている。図2に良く示されているように、第3部分仕切り体20cは、天井15から垂下される、例えばカーテンやロールスクリーン等により構成されており、少なくとも床上に所定高さの隙間21を形成するように設けられている。
【0034】
第4個別エリア16dには、ほぼ中央に第4ベッド11dが第1固定壁13aに平行を成すように配置されている。第4ベッド11dは、その頭部側が共用エリア17の反対側に向けられ、第4固定壁13dに接するように配置されている。
【0035】
第4ベッド11dの頭部側上方の天井15には矩形状の第4個別吸込み口18dが設けられている。第4ベッド11dの側方であって第1固定壁13aの反対側には前記第2全仕切り体22が配置されている。第4ベッド11dの足元側と共用エリア17との間は第4部分仕切り体20dによって仕切られている。図2に良く示されているように、第4部分仕切り体20dは、天井15から垂下される、例えばカーテンやロールスクリーン等により構成されており、少なくとも床上に所定高さの隙間21を形成するように設けられている。
【0036】
共用エリア17の天井15には、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dに沿ってそれぞれ第1〜第4個別吹出し口23a,23b,2e3c,23dが配置されている。第1〜第4個別吹出し口23a,23b,2e3c,23dは、ライン型吹出し口であり、第1及び第3固定壁13a,13cから第1及び第2全仕切り体19,22までの間隔とほぼ同じ長さを有している。
【0037】
また、共用エリア17の天井15には、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dから離間した中央位置の1箇所に共用吹出し口24が配置されており、この共用吹出し口24は、矩形状のアネモ型吹出し口により構成されている。
【0038】
図3及び図4に示されているように、多床室12の天井裏スペース30には、共用エリア17の天井15上方にフィルター設備31と外調機32とが設置されている。
【0039】
フィルター設備31は、フィルター及びファン(いずれも図示省略)を備えている。前記フィルターは、除去する汚染物質の種類に応じて任意に交換可能に設けられ、例えば、該汚染物質が細菌やカビの場合には中性フィルター以上の捕集性能を有するフィルターが装着され、該汚染物質がウィルスの場合にはHEPAフィルター以上の捕集性能を有するフィルターが装着される。
【0040】
フィルター設備31の吸込み側及び吹出し側にはそれぞれダクト33,34が接続されている。吸込側ダクト33は、天井裏スペース30を通って第1〜第4個別吸込み口18a,18b,18c,18dにそれぞれ接続されており、フィルター設備31の近接位置の吸込み側ダクト33から排気ダクト35が分岐接続されている。排気ダクト35の途中には排気フィルター(図示省略)が設置されており、排気ダクト35の末端は外部に開放されている。また、吹出し側ダクト34は、天井裏スペース30を通って第1〜第4個別吹出し口23a,23b,2e3c,23dにそれぞれ接続されている。
【0041】
外調機32の吸込み側及び吹出し側にはそれぞれダクト36,37が接続されている。吸込側ダクト36は、天井裏スペース30を通って外気取り入れ口(図示省略)に接続されており、吹出し側ダクト37は、天井裏スペース30を通って共用吹出し口24に接続されている。
【0042】
次に、図1図4を参照しつつ、上記した構成を備えた多床室用空調システム10の作用について説明する。
【0043】
第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16d内の患者から病原体が発生した場合、この病原体を含む汚染空気はそれぞれの個別エリア16a,16b,16c,16d内において第1〜第4個別吸込み口18a,18b,18c,18dによって吸い込まれる。この時、患者は、通常、第1〜第4ベッド11a,11b,11c,11dに横たわっており、また、第1〜第4個別吸込み口18a,18b,18c,18dが第1〜第4ベッド11a,11b,11c,11dの頭部側上方の天井15に設置されているため、患者の口Pから発生した病原体を含む汚染空気は、個別エリア16a,16b,16c,16dの内外に拡散することなく、患者の体温による上昇気流に乗ってそれぞれ確実に第1〜第4個別吸込み口18a,18b,18c,18dに吸い込まれる。
【0044】
このように第1〜第4個別吸込み口18a,18b,18c,18dに吸込まれた汚染空気は、吸込み側ダクト33を通ってフィルター設備31に吸い込まれ、前記排気フィルターにおいて汚染空気中の病原体が除去された後、一部の空気は排気ダクト35を通り、外部に排出される。
【0045】
フィルター設備31では、前記フィルターによって汚染空気中の病原体が除去され、清浄空気となる。その後、この清浄空気は、吹出し側ダクト34を通り、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23dから共用エリア17内に吹出される。
【0046】
さらに、共用エリア17内では、吸込み側ダクト36を介して取り入れられた外気が外調機32で温湿度調整等された後、吹出し側ダクト37を通り、共用吹出し口24から共用エリア17内に吹出される。
【0047】
このように共用エリア17に吹出された清浄空気と外気は、共用エリア17内において混合される。この混合空気は、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dの下方の各隙間21を通り、第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16d内に流入する。
【0048】
以降、既に上記したように、第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16d内の患者の口Pから発生した病原体を含む汚染空気は、それぞれ第1〜第4個別吸込み口18a,18b,18c,18dによって吸い込まれ、これにより、多床室12内を循環する気流が形成される。
【実施例1】
【0049】
上記した本発明の実施の形態に係る多床室用空調システム10において、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,2e3c,23dをライン型吹出し口とすることによる病原体濃度低減効果と、第1個別エリア16aと第2個別エリア16bの間及び第3個別エリア16cと第4個別エリア16dとの間にそれぞれ第1及び第2全仕切り体19,22を設置することによる病原体濃度低減効果と、について検証するため、第1のシミュレーションを行なった。
【0050】
この第1のシミュレーションでは、第1個別エリア16a内の患者の口の位置P(図1及び図2参照)から1,000個/minで333,333個/mの病原体を発生させ、発生時の患者の体温を37℃、多床室12内の換気量を1,080m/h(多床室12内の天井高さを2.5m、換気回数を12回/hと設定)、多床室12内の設定温度を26℃とした。但し、この第1のシミュレーションでは、第1部分仕切り体20aのみを設置し、第2〜第4部分仕切り体20b,20c,20dを設置していない。
【0051】
表1は、以上の条件で第1のシミュレーションを行なった結果を示している。この表1によれば、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,2e3c,23dをライン型吹出し口とし、第1個別エリア16aと第2個別エリア16bの間及び第3個別エリア16cと第4個別エリア16dとの間にそれぞれ第1及び第2全仕切り体19,22を設置することによって、特に、第2及び第3個別エリア16b,16cと、第2個別エリア16bと第3個別エリア16cとの間の共用エリア17において、病原体の濃度を著しく低減できることが分かる(表1の最下段のデータ参照)。
【0052】
これに対して、第4個別エリア16dと、第1個別エリア16aと第4個別エリア16dとの間の共用エリア17では、病原体の濃度があまり低減していないが、これは、第4個別エリア16dと、第1個別エリア16aと第4個別エリア16dとの間の共用エリア17が、病原体発生場所である第1個別エリア16aと近接しているにも拘らず、第4部分仕切り体20dを設置しない条件でシミュレーションを行なったためであると考えられる。
【0053】
【表1】
【0054】
第1のシミュレーションに引き続き、上記した本発明の実施の形態に係る多床室用空調システム10において、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dを設置することによる病原体濃度低減効果について検証するため、第2のシミュレーションを行なった。
【0055】
この第2のシミュレーションの条件は、第1のシミュレーション時に設置した第1の部分仕切り体20aに加えて第2〜第4部分仕切り体20b,20c,20dを設置すること以外、上記した第1のシミュレーションと同一とした。
【0056】
表2は、以上の条件で第2のシミュレーションを行なった結果を示している。ここで、表2の左側1列目の部分仕切り体の高さとは、多床室12の天井高さを2.5mと設定した時の高さを示しており、例えば、0.5〜2.5mとは、部分仕切り体下方の床14との間に0.5mの高さの隙間21を有し、部分仕切り体上方に天井15との間には隙間を有していないことを意味する。
【0057】
この表2によれば、さらに第2〜第4部分仕切り体20b,20c,20dを設置することによって、病原体濃度をさらに低減できることが分かる。特に、部分仕切り体下方の床14との間の隙間21を0.5m以下とし、部分仕切り体上方の天井15との間の隙間を0.1m以下とした場合には、第2〜第4個別エリア16b,16c,16dにおける病原体濃度の低減効果が顕著であることが分かる。
【0058】
【表2】
【実施例2】
【0059】
上記した本発明の実施の形態に係る多床室用空調システム10において、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,2e3c,23dと共用吹出し口24との風量バランスの違いによる病原体濃度低減効果の違いについて検証するため、実験を行なった。
【0060】
この実験では、第1個別エリア16a内の患者の口の位置P(図1及び図2参照)からベビーパウダーを発生させ、多床室12内の換気量を1,080m/h(多床室12内の天井高さを2.5m、換気回数を12回/hと設定)、多床室12内の設定温度を25℃とし、第1及び第2全仕切り体19,22を設置している。
【0061】
表3は、以上の条件の下、第1部分仕切り体20aのみを設置し、第2〜第4部分仕切り体20b,20c,20dを設置しない状態で実験を行なった結果を示している。この場合、第1部分仕切り体20aと第1固定壁13a及び第1全仕切り体19との間にはそれぞれ側方に0.35mの隙間を設け、第1部分仕切り体20aの下方には床14との間に0.6mの隙間21を設け、第1部分仕切り体20aの上方には隙間を設けていない。また、表4は、以上の条件の下、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dをすべて設置しない状態で実験を行なった結果を示している。
【0062】
なお、表3及び表4の最下段のデータは、病院設備設計ガイドライン(空調設備編)(HEAS−02−2013)による一般病室の基準に基づき、多床室12内の換気回数を6回/hに設定し、換気量を上記条件の1/2の540m/hとした場合のデータである。
【0063】
表3によれば、全体として、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)からの吹出し風量の比率を上げる程、第2〜第4個別エリア16b,16c,16dの病原体濃度が低減する傾向にあることが分かる。特に、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)からの吹出し風量の比率を全体風量の75%(202.5m/h×4=810m/h)とした場合には病原体濃度の低減効果が高くなることが分かる。また、共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)からの吹出し風量をゼロにすると、180m/h(全体風量の約17%)とした場合と比べて、第2及び第3個別エリア16b,16cでは、病原体濃度が僅かであるが却って増加している。これは、共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)からの吹出し風量をゼロにした場合、個別エリアから共用エリアへの漏洩を防止する効果は大きくなるが、共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)による共用エリア17の淀み防止効果が得られなくなり共用エリアに漏洩した汚染物質が拡散しやすくなるためと考えられる。
【0064】
すなわち、表3によれば、総吹出し風量の75〜100%を第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)の吹出し風量とし、残りの0〜25%を共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)の吹出し風量とするのが好ましいことが分かる。さらに、共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)による共用エリア17の淀み防止効果と、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)による拡散防止効果と、をより程良くバランスさせるためには、総吹出し風量の約83%を第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)の吹出し風量とし、残りの約17%を共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)の吹出し風量とするのが最も好ましいことも分かる。このように、本発明の実施の形態に係る多床室用空調システム10によれば、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)から吹き出された空気が床14まで到達し、ベッド11a,11b,11c,11dの足元から頭部への気流、及び天井15から床14への気流がそれぞれ淀みなく形成されるため、病原体を効果的に排出させることができる。
【0065】
また、表3及び表4の最下段のデータと比較して風量を2倍に設定しているため、病原体濃度は1/2に低減されることが期待されるが、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)と第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dとを設置すると共に、第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)の吹出し風量と共用吹出し口24(アネモ型吹出し口)との比率を適切に調整することで、第2〜第4個別エリア16b,16c,16d及び共有エリア17において病原体濃度を1/10以下に低減させることができる。
【0066】
さらに、表3と表4の結果を比較すると、第1部分仕切り体20aの両側にそれぞれ0.35mの隙間があった場合でも、第1部分仕切り体20aの設置によりほとんどすべてのエリアで病原体濃度を低減させることができることが分かる。したがって、第2〜第4部分仕切り体20b,20c,20dをさらに設置した場合には、第1〜〜第4個別エリア16a,16b,16c,16dに対する共用エリア17からの圧力が高まり、病原体の発生場所である第1個別エリア16aから共用エリア17への病原体の漏洩が抑制されるため、第2〜第4個別エリア16b,16c,16d内の病原体濃度もさらに低減させることができる。また、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dの両側の隙間をより狭くすることにより、第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16dと共用エリア17間での病原体の漏洩をさらに低減させることができる。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
上記したように本発明の実施の形態に係る多床室用空調システム10によれば、第1〜第4部分仕切り体20a,20b,20c,20dと第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)を設置することで、多床室12内の病原体濃度を大幅に低減することができるため、感染リスクの低減効果を高めることができる。
【0070】
また、第1〜第4部分仕切り体20,20b,20c,20dと第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)等により、ベッド11a,11b,11c,11dを含む第1〜第4個別エリア16a,16b,16c,16dを囲んでいるため、患者がベッド11a,11b,11c,11d上で、起き上がる等、日常の動作を行ったとしても、感染リスクの低減効果を維持することができる。
【0071】
さらに、共用エリア17に第1〜第4個別吹出し口23a,23b,23c,23d(ライン型吹出し口)が設置されているため、共用エリア17が陽圧に維持される。そのため、共用エリア17から各個別エリア16a,16b,16c,16dへの気流が形成され、各ベッド11a,11b,11c,11d上で発生した病原体の拡散を防止することができる。
【0072】
さらにまた、ベッド11a,11b,11c,11dの近くに、プッシュプル装置等の空気や音を発生したりする装置がなく、各個別エリア16a,16b,16c,16d内で形成される前記気流も静穏なため、患者の療養環境の向上を図ることができる。
【0073】
また、多床室12内の換気風量(換気回数を12回/hと設定))が、病院設備設計ガイドライン(空調設備編)(HEAS−02−2013)による隔離病室の基準の最低風量と一致しているため、エネルギー効率を高めることができる。
【0074】
さらに、ベッド11a,11b,11c,11d周辺の気流分布を改善することができ、淀みがなくなり、従来よりも換気効率が高くなるため、希釈による病原体濃度の低減効果を高めることができる。
【0075】
さらにまた、病原体を除去して空気を循環させることで、外気の導入量を減らすことができ、外気の温湿度等を調整するためのエネルギーを削減することができる。
【0076】
また、多くの種類のフィルターから適切なフィルターを選定することで、病原体の除去効果と空気の搬送エネルギーのバランスを良好に保持することができる。
【0077】
なお、上記した実施の形態に係る多床室用空調システム10では、フィルター設備31を有する室内循環系統と外調機32を有する外気処理系統とを別々に設けた場合について説明したが、本発明に係る多床室用空調システムは必ずしもこの形態に限定されるものではなく、各種変更が可能である。
【0078】
例えば、図5に示すように、1台の空調機39にフィルター設備31と外調機32の機能を持たせて、前記室内循環系統と前記外気処理系統とを一系統とした空調システム40を採用することもできる。この空調システム40によれば、多床室12内における機器発熱等の熱負荷によって冬期でも冷房運転が必要となる可能性がある場合にも対応することができる。
【0079】
また、上記した実施の形態では、本発明に係る空調システムを4床室に適用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、本発明は2床室や6床室等、4床室以外の多床室全般に適用可能であることは言う迄もない。
【0080】
さらに、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係る多床室用空調システムにおける好適な実施の形態を説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。すなわち、上記した本発明の実施の形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能であり、上記した本発明の実施の形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0081】
10 多床室用空調システム
11a,11b,11c,11d 第1〜第4ベッド
12 多床室
13a,13b,13c,13d 第1〜第4固定壁(全仕切り体)
14 床
15 天井
16a,16b,16c,16d 第1〜第4個別エリア
17 共用エリア
18a,18b,18c,18d 第1〜第4個別吸込み口
19 第1全仕切り体
20a,20b,20c,20d 第1〜第4部分仕切り体
21 隙間
22 第2全仕切り体
23a,23b,23c,23d 第1〜第4個別吹出し口
24 共用吹出し口
31 フィルター設備
図1
図2
図3
図4
図5