(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788557
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】IH調理器用発熱シート及びIH調理器用加熱調理セット
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20150910BHJP
A47J 36/02 20060101ALI20150910BHJP
H05B 6/12 20060101ALI20150910BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
A47J27/00 107
A47J36/02 B
H05B6/12 307
B65D81/34 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-86539(P2014-86539)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-142703(P2015-142703A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2015年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-271247(P2013-271247)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】藤田 萩乃
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 充由
(72)【発明者】
【氏名】浅野 ほたか
(72)【発明者】
【氏名】小倉 あい
【審査官】
礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−284112(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/132284(WO,A1)
【文献】
特開平11−198924(JP,A)
【文献】
特開平08−104324(JP,A)
【文献】
実公平02−035615(JP,Y2)
【文献】
特開2011−189985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
A47J 36/02
A47J 37/00 − 37/07
B65D 81/34
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体層と誘電体層との積層シートからなるIH調理器用発熱シートであって、
前記積層シートは、底部と周状側壁部とを有し、且つ前記導電体層を内面とする容器形状に折り込み可能となっており、
前記積層シートを折り込んで形成される容器の前記周状側壁部に相当する部分の前記導電体層には、該容器の高さ方向に延びる第1のカットラインが、周方向に間隔を置いて複数本形成されており、該カットラインがIH調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断すると共に、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部周縁に相当する部分の前記誘電体層には、誘電体材料により形成された補強リングが固定されており、該補強リングにより、該容器の形態が保持され、
前記補強リングには、前記第1のカットラインと交差する位置であって、且つ前記誘電体層に面する側に、溝が形成されていることを特徴とするIH調理器用発熱シート。
【請求項2】
導電体層と誘電体層との積層シートからなるIH調理器用発熱シートであって、
前記積層シートは、底部と周状側壁部とを有し、且つ前記導電体層を内面とする容器形状に折り込み可能となっており、
前記積層シートを折り込んで形成される容器の前記周状側壁部に相当する部分の前記導電体層には、該容器の高さ方向に延びる第1のカットラインが、周方向に間隔を置いて複数本形成されており、該カットラインがIH調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断すると共に、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部周縁に相当する部分の前記誘電体層には、誘電体材料により形成された補強リングが固定されており、該補強リングにより、該容器の形態が保持され、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部に相当する前記導電体層には、無端状の第2のカットラインが、該底部を中心とする同心形状に複数形成されており、且つ前記第1のカットラインが最大径の第2のカットラインの位置まで形成されており、
これら第1及び第2のカットラインによりIH加熱調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を分断し、
前記複数の第2のカットラインの内、最小径の第2のカットラインで囲まれる領域には、IH加熱調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断する第3のカットラインが、該第2のカットラインの位置まで形成されていることを特徴とするIH調理器用発熱シート。
【請求項3】
導電体層と誘電体層との積層シートからなるIH調理器用発熱シートであって、前記積層シートは、底部と周状側壁部とを有し、且つ前記導電体層を内面とする容器形状に折り込み可能となっており、
前記積層シートを折り込んで形成される容器の前記周状側壁部に相当する部分の前記導電体層には、該容器の高さ方向に延びる第1のカットラインが、周方向に間隔を置いて複数本形成されており、該カットラインがIH調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断すると共に、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部周縁に相当する部分の前記誘電体層には、誘電体材料により形成された補強リングが固定されており、該補強リングにより、該容器の形態が保持されたIH調理器用発熱シートと、
該発熱シートにより形成される容器を保持する誘電体製の保持部材とからなり、
前記保持部材は、環状壁と、該環状壁の下端から内方に突出した周状フランジとを有しており、
前記保持部材の環状壁は、前記フランジが形成されている下端に向かって小径となり、
且つ該環状壁の内面には、内方に突出した周状段差部が形成され、
該環状壁の内部に、前記発熱シートにより形成される容器が収容されて保持され、
前記発熱シートを廃棄することを特徴とするIH調理器用加熱調理セット。
【請求項4】
前記環状壁の上端に把手が形成されている請求項3に記載のIH調理器用加熱調理セット。
【請求項5】
さらに、誘電体製蓋材を有している請求項3または4に記載のIH調理器用加熱調理セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IH調理器による加熱調理に使用され、加熱調理後に廃棄されるIH調理器用発熱シート及び該発熱シートを用いたIH調理器用加熱調理セットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電磁調理器と称される加熱調理器が、ガスコンロなどに代わって広く普及するようになった。この電磁調理器は、IH調理器とも呼ばれ、内部に設けられた電磁誘導加熱コイルにより高周波磁界を発生させ、該調理器の上に置かれた調理用容器に、誘起された渦電流により生じるジュール熱により、調理用容器内に収容された食材或いは水等を加熱するものである。
このような電磁調理器は、炎を使わずに加熱調理できるため、安全性が高く、さらに汚れの払拭が容易であり、清潔性に優れ、さらに経済性の面でも従来の加熱調理器よりも優れている。
【0003】
ところで、電磁調理器は、その原理上、使用できる調理用器具が限られてしまい、鉄に代表される磁性材料からなる専用器具を使用しなければならないという欠点があった。
このため、最近では、非磁性材料以外の材料からなる調理用器具、或いは調理用容器が多く提案され、実用化もされている。例えば、特許文献1や2には、アルミ箔等の金属箔からなる発熱シートをプラスチック製の容器に装着したIH調理器用の加熱調理器が開示されている。
【0004】
前記の加熱調理器は、容器内に水等や各種の食材を入れての煮炊きに好適に適用されるものであるが、発熱シートがヒートシール等により容器の底部に接着固定されているため、この発熱シートを加熱料理毎に交換する使い捨て用途には不適当であるという問題がある。
即ち、容器の底部に形成される発熱シートは、極めて安価であるため、この発熱シートを使い捨てで使用することが望まれるのであるが、これらのシートには、IH調理器を作動させての誘導加熱による過度の発熱を防止し、プラスチック製の容器の破損を防止するためにヒューズ等の機能部が形成されている。また、単に、発熱シートを、プラスチック製容器の底部に載せただけでは、しっかりと固定されず、加熱調理(煮炊き)に際して、発熱シートが動いてしまうなどの不都合を生じるため、容器の底部に接着固定する必要がある。さらに、上述したヒューズ等の機能部の形成、或いは発熱シートを、プラスチック製容器の底部に接着固定する製造工程を必要として安価に製造することが難しい。
従って、前記の加熱調理器は、使い捨て用途の容器として更なるコスト低減が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2009−285184号
【特許文献2】WO2012/132284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、IH調理器用の発熱シートであって、加熱調理後に廃棄される使い捨て用途のIH調理器用発熱シートを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記の発熱シートを用いたIH調理器用の加熱調理セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、導電体層と誘電体層との積層シートからなるIH調理器用発熱シートであって、
前記積層シートは、底部と周状側壁部とを有し、且つ前記導電体層を内面とする容器形状に折り込み可能となっており、
前記積層シートを折り込んで形成される容器の前記周状側壁部に相当する部分の前記導電体層には、該容器の高さ方向に延びる第1のカットラインが、周方向に間隔を置いて複数本形成されており、該カットラインがIH調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断すると共に、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部周縁に相当する部分の前記誘電体層には、誘電体材料により形成された補強リングが固定されており、該補強リングにより、該容器の形態が保持
され、
前記補強リングには、前記第1のカットラインと交差する位置であって、且つ前記誘電体層に面する側に、溝が形成されていることを特徴とするIH調理器用発熱シートが提供される。
【0008】
本発明によれば、また、
導電体層と誘電体層との積層シートからなるIH調理器用発熱シートであって、
前記積層シートは、底部と周状側壁部とを有し、且つ前記導電体層を内面とする容器形状に折り込み可能となっており、
前記積層シートを折り込んで形成される容器の前記周状側壁部に相当する部分の前記導電体層には、該容器の高さ方向に延びる第1のカットラインが、周方向に間隔を置いて複数本形成されており、該カットラインがIH調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断すると共に、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部周縁に相当する部分の前記誘電体層には、誘電体材料により形成された補強リングが固定されており、該補強リングにより、該容器の形態が保持され、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部に相当する前記導電体層には、無端状の第2のカットラインが、該底部を中心とする同心形状に複数形成されており、且つ前記第1のカットラインが最大径の第2のカットラインの位置まで形成されており、これら第1及び第2のカットラインによりIH加熱調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を分断し、
前記複数の第2のカットラインの内、最小径の第2のカットラインで囲まれる領域には、IH加熱調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断する第3のカットラインが、該第2のカットラインの位置まで形成されていることを特徴とするIH調理器用発熱シートが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
導電体層と誘電体層との積層シートからなるIH調理器用発熱シートであって、前記積層シートは、底部と周状側壁部とを有し、且つ前記導電体層を内面とする容器形状に折り込み可能となっており、
前記積層シートを折り込んで形成される容器の前記周状側壁部に相当する部分の前記導電体層には、該容器の高さ方向に延びる第1のカットラインが、周方向に間隔を置いて複数本形成されており、該カットラインがIH調理器の誘導加熱により生成する渦電流の誘起を低減、或いは遮断すると共に、
前記積層シートの折り込みによって形成される容器の底部周縁に相当する部分の前記誘電体層には、誘電体材料により形成された補強リングが固定されており、該補強リングにより、該容器の形態が保持されたIH調理器用発熱シートと、
該発熱シートにより形成される容器を保持する誘電体製の保持部材とからなり、
前記保持部材は、環状壁と、該環状壁の下端から内方に突出した周状フランジとを有しており、
前記保持部材の環状壁は、前記フランジが形成されている下端に向かって小径となり、
且つ該環状壁の内面には、内方に突出した周状段差部が形成され、
該環状壁の内部に、前記発熱シートにより形成される容器が収容されて保持され、
前記発熱シートを廃棄することを特徴とするIH調理器用加熱調理セットが提供される。
【0010】
前記のIH調理器用加熱調理セットにおいては、
(1)
前記環状壁の上端に把手が形成されていること、
(2)
さらに、誘電体製蓋材を有していること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のIH調理器用発熱シートは、これを容器の形態に折り込んで所定の誘電体製の保持部材と共に使用されるものであるが、特に、過度な加熱を防止するヒューズ等の機能部の形成、或いは、発熱シートを、プラスチック製容器の底部に接着固定する必要が無いため、安価な使い捨て用途の発熱シートとして好適に使用される。また、前記発熱シートと誘電体製の保持部材とからなるIH調理器用加熱調理セットは、該発熱シートを、この保持部材上に載置し、接着固定を不要としている。そして、加熱調理後は、この安価な発熱シートを廃棄し、次の加熱調理に際しては、新たな発熱シートを使用すればよく、極めて安価な発熱シートをまとめて販売、購入することができる。
さらに、加熱調理後は、発熱シートを廃棄し、残った保持部材を洗浄すればよく、しかも、この保持部材は、水等や食材と接触せず、その洗浄もいたって容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の発熱シートの積層構造を示す参考断面図。
【
図4】本発明の発熱シートを載置する保持部材の半斜視図。
【
図5】本発明の発熱シートを保持部材に載置する手順を示す概略断面図。
【
図6】本発明の発熱シートを保持部材に載置した状態を示す半斜視図。
【
図7】本発明の発熱シートを保持部材に載置して加熱調理をする状態を示す斜視図。
【
図8】本発明の発熱シートの好適例の部分拡大図であり、(a)は参考断面図、(b)は部分底面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜
図3に示すように、本発明のIH調理用の発熱シート1は、表面に形成されている導電体層3と裏面に形成された誘電体層5とからなる積層シートから構成されている。
導電体層3は、この発熱シート1をIH調理器の誘導加熱部に置くことにより、高周波磁界による誘起された渦電流によって発熱するものであり、アルミ箔に代表される金属箔により形成されるものである。
【0014】
また、この発熱シート1は、容器の形態に折り込まれ、後述する
図4〜
図6に示されているように、誘電体製の保持部材30上に載置された状態でIH調理器の誘導加熱部に置かれるものである。そして、発熱シート1は、折り込まれて容器の形態を安定的に保持し、且つ発熱シート1の誘電体層5は、導電体層3とIH調理器との直接の接触を防止し、その発熱を適度なものとするために形成されるものである。かかる誘電体層5は、通電しない材質であれば特に制限されず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの樹脂や各種セラミックス、紙材等であってよいが、一般的には、成形性、コスト、軽量性などの観点から各種樹脂、特に熱可塑性樹脂が、発熱シート1を形成する非導電性材料として使用される。
【0015】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、或いはα−オレフィン同志の共重合体や環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフェニレンオキサイド;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;フッ素樹脂;アリル樹脂;ポリウレタン樹脂;セルロース樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ケトン樹脂;アミノ樹脂;等を例示することができ、さらに、これらのブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたものであってもよいし、多層構造を有していてもよい。
特に、前記の中でもPETやPENなどのポリエステル樹脂、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂が好適である。
【0016】
前記のような誘電体層5は、この発熱シート1の大きさ等によっても異なるが、一般に、5〜80μm程度の厚みを有していればよい。
【0017】
そして、発熱シート1の導電体層3には、IH調理器の動作による誘導加熱によって誘起される渦電流を調整する種々の形態のカットライン7,15,17が形成されている。即ち、これらのカットラインは、誘導加熱により生成する渦電流を調整するため、導電体層3における渦電流の誘起を完全に分断し、誘電体層5を残すように線状に形成されるものであり(
図1参照)、レーザー加工等の公知の手段によって形成される。
【0018】
この発熱シート1は、通常、全体として円形であるが、折り込みにより、導電体層3側を内面とし、底部10と周状側壁部13とを有する形態の容器を形成し得るようになっている(
図5及び
図6参照)。即ち、このようにして形成される容器の大きさは、通常、家庭で煮炊きに使用される鍋と同程度である。
【0019】
折り込みにより形成される容器の周状側壁部13となる部分には、底部10の中心Oとなる部分を起点とする放射状に延びている第1のカットライン7が適当な間隔で等間隔に多数形成されている(
図2参照)。この第1のカットライン7により、折り込みによって形成された容器の周状側壁部13を流れる渦電流の誘起を低減、或いは遮断し、周状側壁部13の過度の発熱を防止し、適温で加熱調理(煮炊き)を行うことが可能となるばかりか、周状側壁部13の部分に形成されている誘電体層5や該側壁部13に接触している誘電体製の保持部材30の加熱による損傷を有効に防止することができる。また、発熱シート1の周状側壁部13となる部分を、例えば、ひだ折りして容器を形成することにより、容器の側壁部13と保持部材30との面接触を回避し、保持部材30の加熱による損傷をより効果的に防止し、容器として安定した形態とすることができる(
図6及び
図7参照)。
このような第1のカットライン7は、特に制限されないが、一般に、2本以上、好ましくは3本〜40本で、容器の形状に折り込んで加熱する際に、その容器サイズに応じて誘導加熱により生成する過電流の誘起を低減、或いは遮断できる本数を適宜選択すればよい。また、
図2、
図3の例では、第1のカットライン7は、放射状に延びているが、過電流の誘起を低減或いは遮断できる限りにおいて、曲線状、或いは他の形状に形成されていてもよい。
【0020】
また、
図2に示すように、このように形成される容器の底部10となる領域には、底部中心Oを中心とする同心円形状の無端状の第2のカットライン15を複数本形成することが好適である。即ち、この無端状カットライン15により、折り込みによって形成された容器の底部10に相当する導電体層3に流れる渦電流を各領域ごとに分断し、底部10の過度な発熱を防止し、適温で煮炊き等の加熱調理を行う上で効果的である。このような無端状の第2のカットライン15の数は、特に制限されないが、通常、数本でよい。
また、
図2及び
図3から理解されるように、前述した第1のカットライン7は、この第2のカットライン15の最大径のカットラインの位置まで延びていることが好適である。これにより、底部10に誘起される渦電流の側壁部13への通電を防止することができ、側壁部13の過度な発熱を確実に防止することができる。
【0021】
さらに、
図2に示されているように、前記の無端状の第2のカットライン15の最小径のカットライン15で囲まれる領域には、該第2のカットライン15の位置まで延びる第3のカットライン17が形成されている。即ち、この第3の遮断カットライン17は、底部10の中心部分に誘起される渦電流を低減、或いは遮断し、加熱調理(煮炊き)に際して、底部10の中心部分の局部加熱による突沸を有効に防止するものである。
このような第3のカットライン17は、誘起される渦電流を低減、或いは遮断する方向、即ち、無端状の第2のカットライン15の位置まで延びていればよく、例えば、
図2では、弧状に形成されているが、所謂クロスカットのように、直線状に形成されていてもよく、さらに、その本数も制限されない。
【0022】
また、前述した本発明の発熱シート1においては、
図3に示されているように、導電体層3の裏側に形成されている誘電体層5の表面(即ち、発熱シート1の裏面)には、折り込みによって形成される容器の底部10の周縁に相当する部分に、補強リング20が形成されていることが好ましい。このような補強リング20を形成することにより、発熱シートを折り込んで形成した容器の形態を安定的に保持することができる。
【0023】
そして、この補強リング20は、当然、誘電体材料で形成されるが、誘電体層5に強固に接着固定するために、誘電体層5を形成する誘電体材料と同種の材料で形成するのが好適である。特に、誘電体層5がポリプロピレン等のオレフィン系樹脂で形成されている場合には、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂により補強リング20を形成し、ヒートシールにより、誘電体層5の所定の部分に固定することが好ましい。
かかる補強リング20の厚みや幅は、折り込みにより形成される容器が安定的に形態を保持し得るように適宜の範囲に設定すればよい。
【0024】
そして、前述した発熱シート1は、
図4〜
図6に示す形態の保持部材30と組み合わせで使用される。
尚、これらの図において、発熱シート1の折り込みにより形成された容器は、Aで示されている。
【0025】
本発明においては、前記の保持部材30も、前述した誘電体層5や補強リング20と同様、誘電体材料により形成される。特に、成形性等の観点から、熱可塑性樹脂から形成され、特にオレフィン系樹脂から形成され、最も好ましくはポリプロピレンにより形成される。
【0026】
かかる保持部材30は、上端の径が大きく、下方に向かって小径となるテーパー形状を有する環状壁31から形成されており、環状壁31の下端には、内方に突出した周状フランジ33が形成されており、その上端には把手34が形成されている。
【0027】
本発明の発熱シート1から形成される容器Aは、前記のような保持部材30の環状壁31の内部に収容され、安定的に保持された状態でIH調理器による加熱調理に付されるが、この環状壁31は、その内部に容器Aをぴったりと収容し得る大きさに設定される。
【0028】
また、前記の環状壁31の内面には、適宜位置、例えば環状壁31の高さ方向の中央部分、或いは図示しないが中央部分と上端、下端の中間部に、内方に突出した周状段差部35が形成されていることが好適である。
即ち、
図5(a)を参照して、発熱シート1の折り込みにより形成された容器Aは、環状壁31の内部に挿入されるが、空の状態では、前記の周状段差部35で容器Aの底部10の周縁部近傍が引っ掛かり、下方まで落下せずに係止される。従って、この状態では、容器Aを保持している保持部材30がIH調理器の誘導加熱部に置かれた場合にも、発熱シート1から成る容器Aの底部10がIH調理器から遠いため発熱を生じることが無く、所謂空焚きが防止される。
【0029】
次いで、
図5(a)の状態で煮炊き用の水や食材などの被加熱材料50を容器A内に投入すると、その重量により容器Aは段差部35から落下し、その底部10は、保持部材30の内方フランジ33により支持され(
図5(b)及び
図6参照)、この状態でIH加熱調理器による誘導加熱によって被加熱材料50の加熱調理(煮炊き)が行われる。
【0030】
尚、
図5(b)に示されているように、段差部35の下方部分の環状壁31のテーパー角θは、30〜90度、好適には60〜80度程度とすることが、被加熱材料50が投入された容器Aを速やかに落下せしめる上で好適である。また、
図5(a)及び(b)から理解されるように、容器Aの底部10に形成される補強リング20の外径は、周状段差部35の径よりもやや小さく設定されていることが、やはり、被加熱材料50が投入された容器Aを速やかに落下させる上で好適である。
【0031】
かかる加熱調理に際しては、
図7に示すように、適宜、保持部材30と共に、蓋材40が使用される。勿論、この蓋材40も、保持部材30と同様、誘電体材料、特に熱可塑性樹脂から形成される。
そして、この蓋材40は、被加熱材料50の加熱調理時は鍋蓋として使用されるが、加熱調理後は裏返しにして鍋敷きとして使用することができる。このように蓋材40を鍋敷きとして使用することにより、保持部材30の内方フランジ33内に露出する容器Aの底部10(発熱シート1)の加熱調理後の熱さを封鎖することができる。また、その際、保持部材30の内方フランジ33内に、蓋材40が装着可能な構成を適宜採用することにより、加熱調理後の被加熱材料が投入された容器A、保持部材30を安定した状態で載置、或いは蓋材40を持って安定した状態で持ち運ぶことができる。例えば、
図7に示す蓋材40においては、裏返しにして下方に突出する
中央部41を、保持部材30の内方フランジ33内に装着して鍋敷きとして使用される。
尚、
図6及び
図7では、容器A内に投入された被加熱材料50は省略されている。
【0032】
前記の説明から理解されるように、保持部材30を形成する環状壁31の下端は底壁によって閉じられておらず、容器Aの底部10の周縁部分を支えるための内方フランジ33が形成されているに過ぎない。従って、IH加熱調理器による誘導加熱により生成する渦電流の誘起によって、発熱する容器Aの底部10の大部分は、保持部材30には接触しておらず、さらには、容器Aの周状側壁部1は、第1のカットライン7を形成することにより、渦電流の誘起を低減、或いは遮断して発熱が抑えられており、保持部材30の側壁部分が高温になることはない。従って、この容器A(発熱シート1)の発熱による保持部材30の熱変形等は有効に回避されている。
また、上述した容器Aの底部10の周縁部には、補強リング20が形成されているため、煮炊き用の水等の被加熱材料50を容器A内に投入したとき、被加熱材料50の重量によって容器Aが窄んでしまうなどの不都合は有効に回避され、容器Aの形態が安定的に保持される。
【0033】
尚、上述した本発明において、容器Aの底部10が保持部材30の内方フランジ33によって保持されている状態において、補強リング20の厚み及び内方フランジ33の厚みが極端に厚いと、底部10の導電体層3とIH調理器の誘導加熱部との間隔が大きくなり過ぎて、渦電流が効果的に誘起されず、十分な発熱が困難となってしまう。従って、これらの厚みは、容器Aの底部10とIH調理器の誘導加熱部との間隔が、発熱のための渦電流を効果的に誘起し得る範囲内に設定される。
【0034】
以上、本発明の発熱シート1の形状は円形を例にとって説明したが、容器の形態に折り込むことが可能である限りにおいて、この形状は矩形状であってもよいし、底部10に形成される無端状の第2のカットライン15の形状も矩形状であってよく、さらに、保持部材30の環状壁31の平面形状も矩形状であってよい。
また、発熱シート1の保持部材30への折り込みによる容器Aの形成に変えて、発熱シート1に折り込み線を形成して容器Aを形成し、この容器Aを保持部材30の環状壁31の内部に収容してもよく、この場合、折り込み線を形成した発熱シート1、或いは折り込まれた容器Aの形態で多数枚毎を、コンパクトに積み重ねた状態で販売、購入される。
【0035】
さらに、本発明の発熱シート1においては、補強リング20に、第1のカットライン15と交差する位置であって、且つ誘電体層5に面する側に溝60を形成することが好適である。
即ち、前記のような発熱シート1を、アルミ箔等の導電体シートにオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレン)等からなる誘電体層を積層し、レーザー加工等により前述した各種のカットライン7,15,17を導電体層3に形成した後、真空成形、射出成形した補強リング20を積層体の誘電体層5にヒートシールすると、前記した第1のカットライン7を形成した部位に残存する積層体の誘電体層5が損傷する。
このため、積層体の誘電体層に補強リング20をヒートシールした後、レーザー加工等により各種のカットライン7,15,17を導電体層3に形成することが考えられる。しかしながら、この場合、前述したように、側壁部13に形成される第1のカットライン7は、底部10となる部分に形成する無端状の第2のカットライン15の最大径のカットラインの位置まで延びて形成されるため(
図2及び
図3参照)、補強リング20に導電体層3を形成する導体(例えばAl)が蒸着することがある。そして、このような蒸着物はカビのような外観を呈し、この発熱シート1の商品価値を損ねてしまう。
【0036】
本発明の加熱シートでは、前述した溝60を補強リング20に形成することにより、このような蒸着物の生成を有効に回避することができる。即ち、前記した蒸着物は、カットライン7をレーザー加工により形成する際に発生するAl等の導体の蒸気が誘電体層5を透過し、透過した蒸気が補強リング20によって堰き止められる結果、蒸着物として補強リング20に付着して発生するものである。従って、補強リング20に、カットライン7と交差する位置であって、誘電体層5に面する側に溝60を形成することにより、カットライン7の形成に際して発生した導体蒸気は、補強リング20により堰き止められず、速やかに流れて排出され、この結果、補強リング20における蒸着物の生成を有効に回避することができる。
【0037】
前述した本発明において、発熱シート1から形成される容器Aは、保持部材30上に置かれるだけであり、ヒートシール等により接着固定されるものではない。従って、この発熱シート1は、加熱調理後は廃棄され、次の加熱調理に際しては、新しい発熱シート1を用いて容器Aが形成されることとなる。即ち、この発熱シート1は、前述した保持部材30や蓋材40などとのセットで、IH調理器で煮炊きするIH調理器用加熱調理セットとして販売されるが、発熱シート1自体は加熱調理後に廃棄され、調理毎に新しいものと交換される。また、この発熱シート1は、多数枚毎にコンパクトに積み重ねて販売、購入され、簡易販売に適している。
【符号の説明】
【0038】
1:発熱シート
3:導電体層
5:誘電体層
7:放射状カットライン
10:底部
13:側壁部
15:無端状カットライン
17:遮断カットライン
20:補強リング
30:保持部材
31:環状壁
33:内方フランジ
35:周状段差部
A:容器