(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5788560
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】回転方向反転時に補正処理を行うモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
H02P5/00 W
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-90343(P2014-90343)
(22)【出願日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年5月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 章太郎
(72)【発明者】
【氏名】置田 肇
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−78206(JP,A)
【文献】
特開2003−48136(JP,A)
【文献】
特開2010−271854(JP,A)
【文献】
特開2005−304155(JP,A)
【文献】
特開平7−13631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
G05D 3/12
G05B 19/404
B23Q 15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体を駆動するモータを制御するモータ制御装置であって、
前記被駆動体の移動量を検出する第1の移動量検出部と、
前記モータの移動量を検出する第2の移動量検出部と、
前記被駆動体の移動方向が反転する際に、前記モータに対する速度指令又はトルク指令に補正量を付加する補正部と、
前記被駆動体の移動方向が反転した後における前記被駆動体の移動量が第1の閾値を超えたか否か、及び前記モータの移動方向が反転した後における前記モータの移動量が第2の閾値を超えたか否かを判定する判定部と、
前記被駆動体の移動量が前記第1の閾値を超えたとき、又は前記モータの移動量が前記第2の閾値を超えたときに、前記補正部による速度指令又はトルク指令に対する補正処理を停止する補正停止部と、を備える、モータ制御装置。
【請求項2】
被駆動体を駆動するモータを制御するモータ制御装置であって、
前記被駆動体の移動量を検出する第1の移動量検出部と、
前記モータの移動量を検出する第2の移動量検出部と、
前記被駆動体の移動方向が反転する際に、前記モータに対する速度指令又はトルク指令に補正量を付加する補正部と、
前記被駆動体の移動方向が反転した後における前記被駆動体の移動量が第1の閾値を超えたか否か、及び前記モータの移動方向が反転した後における前記モータの移動量が第3の閾値を超えたか否かを判定する判定部と、
前記被駆動体の移動量が前記第1の閾値を超えたときに、前記補正部による速度指令又はトルク指令に対する補正処理を停止する補正停止部と、を備えており、
前記補正部は、前記モータの移動量が前記第3の閾値を超えたときに、前記補正部により速度指令又はトルク指令に付加される補正量を小さくするように構成される、モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータによって駆動される被駆動体の移動方向を反転させる際に、被駆動体及び伝動装置などにおいて発生する摩擦力に打ち勝つために、モータに対する指令に補正量を付加して反転動作を補助する制御方法が公知である。このような補正処理は、通常の動作時にはかえって被駆動体の所望の動作の実現を妨げるので、被駆動体の移動方向が反転してからある程度移動した後に補正処理を停止する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、モータの回転方向が反転したときに速度指令に対して所定の補正量を付加する補正処理を行う制御装置において、モータの速度フィードバックの積算値(すなわち、モータの移動量)が所定値に達したときに補正処理を停止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−093711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モータの移動量のみを監視することによって補正処理の停止時期を決定する場合、反転後の被駆動体の動作が正確には分からない。すなわち、モータの移動量と被駆動体の移動量との間の正確な対応関係は不明なので、補正処理を最適なタイミングで停止することが困難である。
【0006】
他方、反転後の被駆動体の移動量のみを監視することによって補正処理の停止時期を決定する場合、モータと被駆動体との間の伝動装置にバネ要素などの弾性体が介在していると、補正処理を適切なタイミングで停止できないことがある。すなわち、この場合、被駆動体の移動方向が反転する際に弾性エネルギが弾性体に蓄積される。そのため、被駆動体の移動量が所定値に達してから補正処理を停止したとしても、反転後に解放される弾性エネルギに起因して被駆動体が遅れて移動することがあり、結果的に補正処理の停止時期が遅れてしまう虞がある。
【0007】
したがって、反転時の補正処理を適切なタイミングで停止できるモータ制御装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の1番目の態様によれば、被駆動体を駆動するモータを制御するモータ制御装置であって、前記被駆動体の移動量を検出する第1の移動量検出部と、前記モータの移動量を検出する第2の移動量検出部と、前記被駆動体の移動方向が反転する際に、前記モータに対する速度指令又はトルク指令に補正量を付加する補正部と、前記被駆動体の移動方向が反転した後における前記被駆動体の移動量が第1の閾値を超えたか否か、及び前記モータの移動方向が反転した後における前記モータの移動量が第2の閾値を超えたか否かを判定する判定部と、前記被駆動体の移動量が前記第1の閾値を超えたとき、又は前記モータの移動量が前記第2の閾値を超えたときに、前記補正部による速度指令又はトルク指令に対する補正処理を停止する補正停止部と、を備える、モータ制御装置が提供される。
本願の2番目の態様によれば、被駆動体を駆動するモータを制御するモータ制御装置であって、前記被駆動体の移動量を検出する第1の移動量検出部と、前記モータの移動量を検出する第2の移動量検出部と、前記被駆動体の移動方向が反転する際に、前記モータに対する速度指令又はトルク指令に補正量を付加する補正部と、前記被駆動体の移動方向が反転した後における前記被駆動体の移動量が第1の閾値を超えたか否か、及び前記モータの移動方向が反転した後における前記モータの移動量が第3の閾値を超えたか否かを判定する判定部と、前記被駆動体の移動量が前記第1の閾値を超えたときに、前記補正部による速度指令又はトルク指令に対する補正処理を停止する補正停止部と、を備えており、前記補正部は、前記モータの移動量が前記第3の閾値を超えたときに、前記補正部により速度指令又はトルク指令に付加される補正量を小さくするように構成される、モータ制御装置が提供される。
【0009】
これら及び他の本発明の目的、特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の例示的な実施形態に係る詳細な説明を参照することによって、より明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を備えたモータ制御装置によれば、モータの移動量及び被駆動体の移動量の両方が監視される。そして、モータの回転方向が反転した後におけるモータの移動量及び被駆動体の移動方向が反転した後における被駆動体の移動量を、それぞれ対応する閾値と比較することによって、補正処理を停止するタイミングを決定する。それにより、被駆動体及びモータと被駆動体との間の伝動装置などの機械構成に拘わらず、反転時の補正処理を適切なタイミングで停止できるようになる。
また、回転方向反転後のモータの移動量が所定の閾値を超えたときに補正量を小さくするように構成すれば、反転時に弾性体に蓄積される弾性エネルギが低下するので、弾性エネルギに起因して補正処理を停止するタイミングが遅れるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るモータ制御装置の機能を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係るモータ制御装置における補正処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】第2の実施形態に係るモータ制御装置における補正処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図示される実施形態の構成要素は、本発明の理解を助けるために縮尺が適宜変更されている。また、同一又は対応する構成要素には、同一の参照符号が複数の実施形態にわたって使用される。
【0013】
図1は、一実施形態に係るモータ制御装置10の機能を示すブロック図である。モータ制御装置10は、被駆動体、例えばテーブル30を駆動するモータ40を制御する。モータ40の出力軸42は、動力伝達部50を介してテーブル30の回転軸32に連結されており、テーブル30は、モータ40に連動して回転するようになっている。動力伝達部50は、例えばベルト又は歯車などの公知の伝動装置である。或いは、テーブル30は、モータ40の回転運動に応じて直線状に移動する直線移動式のテーブルであってもよい。この場合、動力伝達部50には、モータ40の回転運動を直線運動に変換する変換機構部、例えばボールねじが設けられる。
【0014】
モータ制御装置10は、指令作成部12と、制御部14と、第1の移動量検出部16と、第2の移動量検出部18と、判定部20と、補正部22と、補正停止部24と、を備えている。図示されないものの、モータ制御装置10は、種々の演算処理を実行するCPUと、制御プログラム及びパラメータなどを記憶するROMと、CPUの演算結果及びセンサの検出値などを一時的に記憶するRAMと、などから構成されるハードウェア構成を有している。
【0015】
指令作成部12は、例えば所定の制御プログラムに従ってモータ40を制御する指令を作成する。指令には、例えば速度指令及びトルク指令が含まれる。
【0016】
制御部14は、指令作成部12から出力される指令に従って所定の電流をモータ40に供給することによって、モータ40の動作を制御する。具体的には、制御部14は、速度指令又はトルク指令と、制御部14にフィードバックされるモータ40の速度又はトルクの検出値と、の間の偏差量に応じて、モータ40に供給されるべき電流値を制御する。
【0017】
第1の移動量検出部16は、公知のセンサによってテーブル30の移動量を検出する。例えば、テーブル30の移動量は、テーブル30の回転軸32の回転角度を検出することによって取得される。直線状に移動するテーブル30の場合、例えば変位センサによってテーブル30の移動量を検出してもよい。また、第1の移動量検出部16は、テーブル30の移動方向が反転したことを検出する反転検出部としても作用する。すなわち、第1の移動量検出部16は、テーブル30の移動量を継続して監視することによって、テーブル30の移動方向が反転したことを検出できるようになっている。
【0018】
第2の移動量検出部18は、公知のセンサによってモータ40の移動量を検出する。モータ40の移動量は、例えばロータリエンコーダによって取得される。磁気式、光学式その他任意の構成のロータリエンコーダが使用されうる。また、第2の移動量検出部18は、モータ40の回転方向が反転したことを検出する反転検出部としても作用する。すなわち、第2の移動量検出部18は、モータ40の移動量を継続して監視することによって、モータ40の移動方向が反転したことを検出できるようになっている。
【0019】
判定部20は、テーブル30の移動方向が反転した後におけるテーブル30の移動量と、第1の閾値とを比較して、テーブル30の移動量が第1の閾値を超えたか否かを判定する。テーブル30の移動方向の反転、及び反転後のテーブル30の移動量は、第1の移動量検出部16によってそれぞれ検出される。第1の閾値は、補正処理を停止して通常の制御に移行するのに十分であるとみなされるテーブル30の移動量に応じて適宜決定される。
【0020】
また、判定部20は、モータ40の回転方向が反転した後におけるモータ40の移動量と、第2の閾値とを比較して、モータ40の移動量が第2の閾値を超えたか否かを判定する。モータ40の回転方向の反転、及び反転後のモータ40の移動量は、第2の移動量検出部18によってそれぞれ検出される。第2の閾値は、補正処理を停止して通常の制御に移行するのに十分であるとみなされるモータ40の移動量に応じて適宜決定される。第1の閾値及び第2の閾値は、それぞれ例えば実験を通じて決定される。
【0021】
補正部22は、テーブル30の移動方向が反転する際にテーブル30の動作を円滑化することを目的として、指令作成部12から出力される指令に対して、所定の補正量を付加する。補正部22から出力される補正量は、加算器26によって、モータ40に対する指令に加算される。補正部22によるこのような補正処理は、モータ40の回転方向を反転させる指令が作成されるのに同期して開始される。この補正処理は、後述する補正停止部24によって停止させられるまで継続する。
【0022】
補正停止部24は、判定部20によって、テーブル30の移動量が第1の閾値を超えたと判定された場合、又はモータ40の移動量が第2の閾値を超えたと判定された場合に、補正部22による補正処理を停止させる。
【0023】
図2は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10における補正処理の流れを示すフローチャートである。補正部22を介して実行される補正処理は、例えばモータ40に対する速度指令又はトルク指令の正負が逆転したときに開始される。
【0024】
補正処理が開始された後、ステップS201において、判定部20によって、テーブル30の移動量が第1の閾値を超えたか否かを判定する。具体的には、比較対象になるテーブル30の移動量は、テーブル30の移動方向が反転した後の移動量であり、第1の移動量検出部16によって検出される。ステップS201においてテーブル30の移動量が第1の閾値を超えたと判定された場合、ステップS203に進み、補正停止部24によって補正処理を停止する。
【0025】
ステップS201においてテーブル30の移動量が第1の閾値以下であると判定された場合、ステップS202に進む。ステップS202では、判定部20によって、モータ40の移動量が第2の閾値を超えたか否かを判定する。ここでのモータ40の移動量は、モータ40の回転方向が反転した後の移動量であり、第2の移動量検出部18によって検出される。ステップS202においてモータ40の移動量が第2の閾値を超えたと判定された場合、ステップS203に進み、補正停止部24によって補正処理を停止する。
【0026】
ステップS202においてモータ40の移動量が第2の閾値以下であると判定された場合、ステップS201に戻る。そして、ステップS203において補正処理が停止されるまで、ステップS201〜S202の処理は、所定の制御サイクルで繰り返し実行される。
【0027】
本実施形態によれば、モータ40の移動量及びテーブル30の移動量の両方を監視し、それらのうちのいずれか一方が対応する閾値を超えたときに、補正部22による補正処理を停止する。それにより、テーブル30及び動力伝達部50の機械構成に応じて適切なタイミングで補正処理を停止できる。例えば、バネ要素などの弾性体がテーブル30とモータ40との間に介在する構成であったとしても、テーブル30のみならずモータ40の移動量が監視されるので、モータ40の移動量に応じて補正量が適切に停止される。それにより、補正処理を停止するのが遅れて弾性体に過度の弾性エネルギが蓄積されるのを防止できる。
【0028】
図3は、第2の実施形態に係るモータ制御装置10における補正処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態においては、モータ40の移動量が所定の閾値(以下、「第3の閾値」と称する。)を超えたときに、補正部22によってモータ40に対する指令に付加される補正量を低下させる点において第1の実施形態とは相違する。特に限定されないものの、第3の閾値は実験を通じて決定され、例えば前述した第2の閾値よりも小さい値であってもよい。
【0029】
ステップS301において、モータ40の移動量が第3の閾値を超えたか否かを判定する。判定部20によってモータ40の移動量が第3の閾値を超えたと判定された場合、ステップS302に進み、補正部22から加算器26に入力される補正量を低下させる。なお、前述した実施形態と同様に、モータ40の移動量はモータ40の回転方向が反転した後における移動量であり、第2の移動量検出部18によって検出される。
【0030】
他方、判定部20によってモータ40の移動量が第3の閾値以下であると判定された場合、ステップS303に進む。ステップS303では、
図2のステップ202と同様に、判定部20によってテーブル30の移動量が第1の閾値を超えたか否かを判定する。テーブル30の移動量が第1の閾値を超えたと判定された場合、ステップS304に進み、補正停止部24によって補正部22による補正処理を停止させる。
【0031】
他方、テーブル30の移動量が第1の閾値以下であると判定された場合、ステップS301に戻る。ステップS301〜S303の処理は、ステップS304において補正処理が停止されるまで、所定の制御サイクルで繰り返し実行される。
【0032】
本実施形態によれば、回転方向反転後におけるモータの移動量が所定値に達した後は、速度指令又はトルク指令に付加される補正量が小さくなる。したがって、モータ40とテーブル30との間の動力伝達部50に弾性体が含まれる場合であっても、反転時に弾性体に蓄積される弾性エネルギが低下する。それにより、弾性エネルギに起因してテーブル30が過度に移動するのを防止でき、結果的に補正処理の停止が遅れるのを防止できる。
【0033】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、当業者であれば、他の実施形態によっても本発明の意図する作用効果を実現できることを認識するであろう。特に、本発明の範囲を逸脱することなく、前述した実施形態の構成要素を削除又は置換することができるし、公知の手段をさらに付加することができる。また、本明細書において明示的又は暗示的に開示される複数の実施形態の特徴を任意に組合せることによっても本発明を実施できることは当業者に自明である。
【符号の説明】
【0034】
10 モータ制御装置
12 指令作成部
14 制御部
16 第1の移動量検出部
18 第2の移動量検出部
20 判定部
22 補正部
24 補正停止部
26 加算器
30 テーブル(被駆動体)
32 回転軸
40 モータ
42 出力軸
50 動力伝達部
【要約】
【課題】反転時の補正処理を適切なタイミングで停止できるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、被駆動体の移動方向が反転した後における被駆動体の移動量が所定の閾値を超えたか否か、及びモータの移動方向が反転した後におけるモータの移動量が別の所定の閾値を超えたか否かを判定する。そして、被駆動体の移動量が閾値を超えたとき、又はモータの移動量が第2の閾値を超えたときに、モータへの指令に対する補正処理を停止する。
【選択図】
図1