特許第5788630号(P5788630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788630
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】垂直磁気記録ヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/31 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   G11B5/31 Q
   G11B5/31 D
【請求項の数】23
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2008-142684(P2008-142684)
(22)【出願日】2008年5月30日
(65)【公開番号】特開2008-300027(P2008-300027A)
(43)【公開日】2008年12月11日
【審査請求日】2011年5月19日
【審判番号】不服2014-9369(P2014-9369/J1)
【審判請求日】2014年5月20日
(31)【優先権主張番号】11/809,346
(32)【優先日】2007年5月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500475649
【氏名又は名称】ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109656
【弁理士】
【氏名又は名称】三反崎 泰司
(74)【復代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】韓 承▲埼▼
(72)【発明者】
【氏名】李 民
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 半林
(72)【発明者】
【氏名】▲咲▼ 力劼
【合議体】
【審判長】 酒井 朋広
【審判官】 井上 信一
【審判官】 関谷 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−252753(JP,A)
【文献】 特開2006−309930(JP,A)
【文献】 特開2007−328898(JP,A)
【文献】 特開2008−77723(JP,A)
【文献】 特開2008−262682(JP,A)
【文献】 特開2008−276816(JP,A)
【文献】 特開2007−207419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成され、エアベアリング面と同一面内に位置する前面および傾斜側面を有すると共に記録トラック幅方向に分離配置された一対の下部サイドシールドと、
前記一対の下部サイドシールド上に形成され、前記下部サイドシールドの前面および傾斜側面とそれぞれ同一面内に位置する前面および傾斜側面を有すると共に前記記録トラック幅方向に分離配置された一対の非磁性材料層と、
一方の下部サイドシールドおよび非磁性材料層と他方の下部サイドシールドおよび非磁性材料層との間に、前記エアベアリング面から後方に向かって延在すると共に前記基体から離れるにしたがって次第に幅が広がるように、前記基体の露出面と前記一対の下部サイドシールド層の傾斜側面と前記一対の非磁性材料層の傾斜側面とにより形成された、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝の内部に形成され、前記溝の断面形状に対応する断面形状を有する磁極先端部、を含む磁極と、
少なくとも前記基体の露出面、前記一対の下部サイドシールドの傾斜側面および前記一対の非磁性材料層の傾斜側面と前記磁極先端部との間に形成されたサイドギャップ層と、
少なくとも前記磁極先端部上に形成された記録ギャップ層と、
前記記録ギャップ層上に形成された上部シールドと
を備えたことを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項2】
通電時に前記磁極先端部から垂直磁界を発生させるスパイラル状の電気伝導コイルを備えた
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記一対の下部サイドシールドは、50nm以上200nm以下の厚さを有し、ニッケル鉄合金(NiFe)を含む
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記一対の非磁性材料層は、100nm以上350nm以下の厚さを有し、酸化アルミニウム(Al2 3 )を含む
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記上部シールドは、500nm以上1500nm以下の厚さを有し、ニッケル鉄合金を含む
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記磁極は、300nm以上400nm以下の厚さを有し、コバルト鉄合金(CoFe)を含む
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項7】
前記サイドギャップ層および前記記録ギャップ層は、30nm以上50nm以下の厚さを有し、酸化アルミニウムを含むと共に、原子層堆積法により形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項8】
前記磁極先端部は、0.05μm以上0.15μm以下の長さおよび100nm以上180nm以下の最大幅を有する
ことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項9】
基体上に、下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層をこの順に形成する工程と、
前記下部サイドシールド形成層および前記非磁性材料形成層に、エアベアリング面から後方に向かって延在すると共に前記基体から離れるにしたがって次第に幅が広がるように、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝を形成し、前記下部サイドシールド形成層および前記非磁性材料形成層をそれぞれ記録トラック幅方向において2つに分離することにより、傾斜側面を有する一対の下部サイドシールドおよび傾斜側面を有する一対の非磁性材料層を形成する工程と、
少なくとも、前記溝における前記基体の露出面、前記一対の下部サイドシールドの傾斜側面および前記一対の非磁性材料層の傾斜面を覆うように、サイドギャップ層を形成する工程と、
前記サイドギャップ層により覆われた前記溝の内部に、その溝の断面形状に対応する断面形状を有する磁極先端部を含むように磁極を形成する工程と、
前記磁極先端部および前記サイドギャップ層を平坦化する工程と、
少なくとも前記平坦化された磁極先端部上に、記録ギャップ層を形成する工程と、
前記記録ギャップ層上に、上部シールドを形成する工程と
を含むことを特徴とする垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記溝を形成する工程は、
前記非磁性材料形成層上にマスク形成層を形成する工程と、
前記マスク形成層をパターニングし、開口部を有するマスク層を形成することにより、その開口部に前記非磁性材料形成層を露出させる工程と、
前記マスク層と共に反応性イオンエッチング法を用いて、前記非磁性材料形成層および前記下部サイドシールド形成層を選択的にエッチングすることにより、前記非磁性材料形成層および前記下部サイドシールド形成層を貫通するように前記溝を形成すると共に、前記一対の下部サイドシールドおよび前記一対の非磁性材料層を形成する工程と
を含むことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記マスク形成層のパターニングは、前記マスク形成層を選択的にマスクしたのち、イオンビームエッチング法を用いて前記マスク形成層をエッチングすることにより行われる
ことを特徴とする請求項10記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記非磁性材料形成層よりも前記マスク層においてエッチング速度が遅くなると共に前記下部サイドシールド形成層よりも前記非磁性材料形成層においてエッチング速度が遅くなるエッチングガスを用いて、前記非磁性材料形成層および前記下部サイドシールド形成層をエッチングする
ことを特徴とする請求項10記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
タンタル(Ta)、ルテニウムおよびタンタル(Ru/Ta)、窒化タンタル(TaN)、またはチタン(Ti)を含むように前記マスク形成層を形成し、
酸化アルミニウムを含むように前記非磁性材料形成層を形成し、
ニッケル鉄合金を含むように前記下部サイドシールド形成層を形成し、
前記エッチングガスとして、前記非磁性材料形成層をエッチングするために塩素(Cl2 )、三塩化ホウ素(BCl3 )、四フッ化炭素(CF4 )またはそれらの混合物を用いると共に、前記下部サイドシールド形成層をエッチングするためにメタノール(CH3 OH)、一酸化炭素(CO)、アンモニア(NH3 )またはそれらの混合物を用いる
ことを特徴とする請求項12記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記エッチングガスとして一酸化炭素およびアンモニアを用いて前記下部サイドシールド形成層をエッチングする際に、圧力を0.8Pa、流量を90×10-53 /h(=15sccm)、基板エネルギーを1000W、バイアスエネルギーを1200Wとする
ことを特徴とする請求項13記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項15】
原子層堆積法を用いて、酸化アルミニウムを含むと共に30nm以上50nm以下の厚さとなるように前記サイドギャップ層を形成する
ことを特徴とする請求項10記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記磁極先端部を形成する工程は、
前記サイドギャップ層上に、化学機械研磨ストップ層を形成する工程と、
前記化学機械研磨ストップ層上に、シード層を形成する工程と、
前記溝およびその周辺における前記シード層上に、前記溝を埋め込むように鍍金膜を形成する工程と、
化学機械研磨法を用いて前記鍍金膜を研磨することにより、その鍍金膜を平坦化する工程と、
前記平坦化された鍍金膜上に、酸化アルミニウムを含むように犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層が消失すると共に前記化学機械研磨ストップ層により研磨速度が低下させられるまで、化学機械研磨法を用いて前記犠牲層および前記鍍金膜を研磨して平坦化することにより、前記溝の内部に、残存する鍍金膜からなる前記磁極先端部を形成する工程と
を含むことを特徴とする請求項10記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項17】
ニッケル鉄合金を含むと共に50nm以上200nm以下の厚さとなるように前記下部サイドシールド形成層を形成する
ことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項18】
酸化アルミニウムを含むと共に100nm以上350nm以下の厚さとなるように前記非磁性材料形成層を形成する
ことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項19】
ニッケル鉄合金を含むと共に500nm以上1500nm以下の厚さとなるように前記上部シールドを形成する
ことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項20】
コバルト鉄合金を含むと共に300nm以上400nm以下の厚さとなるように前記磁極を形成する
ことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項21】
原子層堆積法を用いて、酸化アルミニウムを含むと共に30nm以上50nm以下の厚さとなるように前記サイドギャップ層および前記記録ギャップ層を形成することを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項22】
0.05μm以上0.15μm以下の長さおよび100nm以上180nm以下の最大幅となるように、前記磁極先端部を形成する
ことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項23】
通電時に前記磁極先端部から垂直磁界を発生させるスパイラル状の電気伝導コイルを形成する工程を含む
ことを特徴とする請求項9記載の垂直磁気記録ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極用のシールドを備えた垂直磁気記録ヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最大500ギガビット/インチ2 に至る高い面記録密度を実現するためには、長手磁気記録(LMR:longitudinal magnetic recording )ヘッドに代えて、垂直磁気記録(PMR:perpendicular magnetic recording)ヘッドを用いる必要がある。
【0003】
LMRヘッドでは、2つの磁極間に生じる漏れ磁界により、記録メディア(ハードディスク)の表面に小さな磁区が形成される。この場合には、面記録密度が大きくなるにしたがって、磁区のサイズが小さくなる。そして、磁区構造を安定化する磁気的な相互作用を脅かす程度まで磁区のサイズが小さくなると、その磁区構造が熱の影響を受けやすくなる。この現象は、いわゆる超磁性限界と呼ばれている。
【0004】
一方、PMRヘッドと一緒に用いられる垂直磁気記録用の記録メディアは、軟磁性下地層(SUL:soft magnetic underlayer)上に磁性層を有している。この記録メディアでは、メディア表面に対して垂直な方向の磁区(垂直磁区)が磁性層中に形成され、SULは磁性層中の磁区構造を安定化する機能を果たす。PMRヘッドでは、記録用の磁界(垂直磁界)により記録メディアの表面に極めて小さな垂直磁区が形成されるため、LMRヘッドよりも面記録密度が高くなる。この場合において、Yoda等は、薄膜内に形成された開口部を通じて主磁極の先端を突出させている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】米国特許第6912769号明細書
【0005】
現在用いられているPMRヘッドの磁極構造に関する大きな問題は、垂直磁界が記録トラック幅方向に大きく広がりやすいため、意図しないサイド記録(いわゆる隣接トラック消去)が生じることである。この問題は、垂直磁界の広がり成分を取り込むために磁極の側方(記録トラック幅方向における側)にサイドシールドを設けても十分に解決することが困難であるため、PMRヘッドがLMRヘッドよりも不利になる技術的な懸念点の1つである。
【0006】
そこで、PMRヘッドの利点を活かしつつ、上記した隣接トラック消去などのPMRヘッドの問題点を改善するために、いくつかの技術が提案されている。
【0007】
具体的には、Hsu 等は、磁極の上方(トレーリング側)および側方にそれぞれトレーリングシールドおよびサイドシールドを設け、強磁性を有する固定用部品を用いてサイドシールドをトレーリングシールドに接続させている(例えば、特許文献2参照。)。この固定用部品は、PMRヘッドの後側(エアベアリング面から遠い側)に配置されているため、その固定用部品への環流磁束は、記録メディアに影響を与えない。
【特許文献2】米国出願公開2005/0068678
【0008】
また、Yazawa等は、磁極の上方および側方に、それから等間隔を隔てて一体型のシールドを設けている(例えば、特許文献3参照。)。このシールドの物理的サイズは十分に大きくなるため、そのシールド層に環流磁束が十分に取り込まれる。
【特許文献3】米国出願公開2005/0057852
【0009】
また、Batra 等は、環流磁極が主磁極を囲むように記録磁極を構成している(例えば、特許文献4参照。)。これにより、意図せずに生じる不要な磁界の大部分が排除される。この場合には、不要な磁界をより減少させるために、記録磁極にサイドシールドを併設してもよい。
【特許文献4】米国出願公開2002/0071208
【0010】
さらに、Kimura等は、イオンミリング法を用いて主磁極のトラック幅制限部分を形成している(例えば、特許文献5参照。)。ただし、主磁極にシールドを併設することについては、何ら言及していない。
【特許文献5】米国出願公開2005/0162778
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、高記録密度および狭トラック幅が益々進行する状況下において、高性能なPMRヘッドを実現するためには、隣接トラック消去を抑制するために、不要な磁界をより減少させる必要がある。この場合には、特に、PMRヘッドの利点を活かすために、不要な磁界を減少させる一方で、垂直磁界の強度および記録トラック幅の解像度を維持することが重要である。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、最大500ギガビット/インチ2 に至る高い面記録密度を実現することが可能な垂直磁気記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、不要な磁界を減少させると共に、高い垂直磁界の強度および記録トラック幅の解像度を維持することが可能な垂直磁気記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の第3の目的は、隣接トラック消去を抑制すると共に、十分な記録トラック幅の解像度を得ることが可能な垂直磁気記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明の第4の目的は、磁極の上方および両側方の3方向にシールドを設けることが可能な垂直磁気記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の第5の目的は、シールドの物理的なサイズを大きくすることにより、シールド効果を高めることが可能な垂直磁気記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の第6の目的は、サイドシールドの形成工程において生じる構造を利用して磁極を形成することが可能な垂直磁気記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【0018】
さらに、本発明の第7の目的は、磁極の上方および両側方の3方向にシールドが設けられた垂直磁気記録ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の垂直磁気記録ヘッドは、基体と、基体上に形成され、エアベアリング面と同一面内に位置する前面および傾斜側面を有すると共に記録トラック幅方向に分離配置された一対の下部サイドシールドと、一対の下部サイドシールド上に形成され、下部サイドシールドの前面および傾斜側面とそれぞれ同一面内に位置する前面および傾斜側面を有すると共に記録トラック幅方向に分離配置された一対の非磁性材料層と、一方の下部サイドシールドおよび非磁性材料層と他方の下部サイドシールドおよび非磁性材料層との間に、エアベアリング面から後方に向かって延在すると共に基体から離れるにしたがって次第に幅が広がるように、基体の露出面と一対の下部サイドシールド層の傾斜側面と一対の非磁性材料層の傾斜側面とにより形成された、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝の内部に形成され、溝の断面形状に対応する断面形状を有する磁極先端部、を含む磁極と、少なくとも基体の露出面、一対の下部サイドシールドの傾斜側面および一対の非磁性材料層の傾斜側面と磁極先端部との間に形成されたサイドギャップ層と、少なくとも磁極先端部上に形成された記録ギャップ層と、記録ギャップ層上に形成された上部シールドとを備えたものである。
【0020】
本発明の垂直磁気記録ヘッドの製造方法は、基体上に、下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層をこの順に形成する工程と、下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層に、エアベアリング面から後方に向かって延在すると共に基体から離れるにしたがって次第に幅が広がるように、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝を形成し、下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層をそれぞれ記録トラック幅方向において2つに分離することにより、傾斜側面を有する一対の下部サイドシールドおよび傾斜側面を有する一対の非磁性材料層を形成する工程と、少なくとも、溝における基体の露出面、一対の下部サイドシールドの傾斜側面および一対の非磁性材料層の傾斜面を覆うように、サイドギャップ層を形成する工程と、サイドギャップ層により覆われた溝の内部に、その溝の断面形状に対応する断面形状を有する磁極先端部を含むように磁極を形成する工程と、磁極先端部およびサイドギャップ層を平坦化する工程と、少なくとも平坦化された磁極先端部上に、記録ギャップ層を形成する工程と、記録ギャップ層上に、上部シールドを形成する工程とを含むようにしたものである。
【0021】
本発明の垂直磁気記録ヘッドの製造方法では、まず、基体上に下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層がこの順に形成される。続いて、下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層に先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝が形成され、下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層がそれぞれ記録トラック幅方向において2つに分離されることにより、一対の下部サイドシールドおよび一対の非磁性材料層が形成される。続いて、少なくとも溝における基体の露出面、一対の下部サイドシールドの傾斜側面および一対の非磁性材料層の傾斜面を覆うように、サイドギャップ層が形成される。続いて、サイドギャップ層により覆われた溝の内部に、その溝の断面形状に対応する断面形状を有する磁極先端部を含むように磁極が形成される。続いて、磁極先端部およびサイドギャップ層が平坦化される。続いて、少なくとも平坦化された磁極先端部上に記録ギャップ層が形成される。最後に、記録ギャップ層上に上部シールドが形成される。これにより、本発明の垂直磁気記録ヘッドでは、一対の下部サイドシールドおよび上部シールドにより、磁極先端部が両側方下部および上方の3方向からシールドされる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の垂直磁気記録ヘッドまたはその製造方法によれば、(1)下部サイドシールド形成層および非磁性材料形成層に、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝を形成することにより、一対の下部サイドシールドおよび一対の非磁性材料層を形成し、(2)溝の内部に、サイドギャップ層を介して一対の下部サイドシールドから離間されるように、磁極の磁極先端部を形成し、(3)磁極先端部の上方に、記録ギャップ層を介して磁極から離間されるように上部シールドを形成しているので、一対の下部サイドシールドおよび上部シールドにより、磁極先端部が両側方下部および上方の3方向からシールドされる。これにより、磁極の物理的サイズを大きくしても、高い垂直磁界の強度および記録トラック幅の解像度が維持されたまま、記録トラック幅方向およびそれに直交する方向における垂直磁界の広がりが抑制される。したがって、最大500ギガビット/インチ2 に至る高い面記録密度を実現することができる。この場合には、高い垂直磁界の強度および記録トラック幅の解像度を維持したまま、不要な磁界を減少させることができると共に、十分な記録トラック幅の解像度を維持したまま、隣接トラック消去を抑制することもできる。
【0023】
特に、一対の下部サイドシールドの形成工程において生じる溝の断面形状により磁極先端部の断面形状が決定されるため、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する磁極先端部を容易に形成することができる。
【0024】
また、一対の下部サイドシールドおよび上部シールドの物理的サイズが大きくなるため、シールド効果(垂直磁界の広がりを抑制する効果)をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
まず、本発明の一実施の形態に係る垂直磁気記録(PMR)ヘッドの構成について説明する。図1は、PMRヘッドのエアベアリング面に沿った断面構成を示している。
【0027】
なお、以下では、説明を簡略化するために、必要に応じて、エアベアリング面に近い側を「前」、エアベアリング面から遠い側を「後」と呼ぶと共に、トレーリング側を「上」、リーディング側を「下」と呼ぶ。
【0028】
このPMRヘッドは、基体5と、その基体5上に、いずれも溝800を挟んで分離されるように形成された一対の下部サイドシールド20および一対の非磁性材料層30と、その一対の非磁性材料層30上に形成されたマスク層40と、溝800の内部およびその周辺を覆うように形成されたサイドギャップ層50と、そのサイドギャップ層50により覆われた溝800の内部を覆うように形成された化学機械研磨(CMP:chemical mechanical polishing )ストップ層53と、サイドギャップ層50およびCMPストップ層53により覆われた溝800の内部を埋め込むように形成された磁極先端部10を含む磁極100と、その磁極先端部10およびその周辺を覆うように形成された記録ギャップ層70と、その記録ギャップ層70上に形成された上部シールド80とを備えている。
【0029】
基体5は、酸化アルミニウム(いわゆるアルミナ)などの非磁性絶縁性材料を含んでいる。この基体5は、その上に形成される一対の下部サイドシールド20等を支持することが可能であれば、いかなる機能を果たすものであってもよい。
【0030】
一対の下部サイドシールド20は、磁極先端部10を記録トラック幅方向からシールドするものであり、各下部サイドシールド20は、磁極先端部10の記録トラック幅方向における両側方下部に配置されている。この下部サイドシールド20は、エアベアリング面と同一面内に位置する前面と、溝800の側壁25の一部である傾斜側面とを有している。また、下部サイドシールド20は、例えば、50nm〜200nmの厚さを有していると共に、ニッケル鉄合金などの磁性材料を含んでいる。
【0031】
一対の非磁性材料層30は、一対の下部サイドシールド20上に形成されており、各非磁性材料層30は、磁極先端部10の記録トラック幅方向における両側方上部に配置されている。この非磁性材料層30は、下部サイドシールド20の前面および傾斜側面とそれぞれ同一面内に位置する前面および傾斜側面を有している。また、非磁性材料層30は、例えば、100nm〜350nmの厚さを有していると共に、酸化アルミニウムなどの非磁性絶縁性材料を含んでいる。
【0032】
溝800は、一方の下部サイドシールド20および非磁性材料層30と他方の下部サイドシールド20および非磁性材料層30との間に設けられており、エアベアリング面から後方に向かって延在している。溝800の幅は、基体5から離れるにしたがって次第に広がっており、その溝800は、先端部が切り取られたくさび状(いわゆる逆台形状)の断面形状を有している。この溝800の断面形状は、底面23(溝800における基体5の露出面)と、一対の側壁25(下部サイドシールド20の傾斜側面および非磁性材料層30の傾斜側面)とにより形作られている。
【0033】
マスク層40は、PMRヘッドの製造工程において溝800を形成するためのマスクとして用いられ、完成後のPMRヘッド中に残存したものである。このマスク層40は、後述するように、マスク層40を用いて溝800を形成することが可能なエッチング選択性を実現するものであれば、どのような材料を含んでいてもよい。
【0034】
サイドギャップ層50は、磁極先端部10を下部サイドシールド20から離間させるものであり、例えば、溝800の内部(底面23および側壁25)およびその周辺(マスク層40)を覆っている。ただし、サイドギャップ層50は、溝800の内部を覆っていれば、その周辺まで覆っていなくてもよい。このサイドギャップ層50は、例えば、30nm〜50nmの厚さを有していると共に、酸化アルミニウムなどの非磁性絶縁性材料を含んでいる。特に、サイドギャップ層50は、全体に渡って均一な厚さを有しており、例えば、膜厚分布の制御に優れた原子層堆積(ALD:atomic layer deposition )法により形成されている。
【0035】
CMPストップ層53は、PMRヘッドの製造工程においてCMP法を用いた研磨処理の進行度を制御するために用いられ、完成後のPMRヘッド中に残存したものである。このCMPストップ層53は、サイドギャップ層50により覆われた溝800の内部を覆っており、CMP法による研磨速度を十分に低下させることが可能なものであれば、どのような材料を含んでいてもよい。
【0036】
磁極100は、垂直磁界を発生させるものである。この磁極100は、例えば、300nm〜400nmの厚さを有していると共に、コバルト鉄合金などの磁性材料を含んでいる。なお、磁極100は、例えば、鍍金法により形成されており、図1では示していないが、シード層と、その上に成長した鍍金膜とを含んでいる。
【0037】
磁極先端部10は、エアベアリング面から後方に向かって延在しており、溝800の断面形状に対応する断面形状を有している。この「溝800の断面形状に対応する断面形状」とは、溝800の断面形状と相似な関係にある逆台形状の断面形状という意味である。この磁極先端部10は、0.05μm〜0.15μmの長さを有していると共に、100nm〜180nmの最大幅を有している。この長さとは、磁極先端部10の延在方向の寸法である。また、最大幅とは、磁極先端部10が逆台形状の断面形状を有していることから、その上端の幅である。図1から明らかなように、磁極先端部10は、一対の下部サイドシールド20および上部シールド80により、記録トラック幅方向における両側方下部および上方の3方向からシールドされている。
【0038】
記録ギャップ層70は、磁極先端部10を上部シールド80から離間させるものであり、例えば、磁極先端部10およびその周辺(サイドギャップ層50およびCMPストップ層53)を覆っている。ただし、記録ギャップ層70は、磁極先端部10を覆っていれば、その周辺まで覆っていなくてもよい。この記録ギャップ層70は、例えば、30nm〜50nmの厚さを有していると共に、酸化アルミニウムなどの非磁性絶縁性材料を含んでいる。特に、記録ギャップ層70は、全体に渡って均一な厚さを有しており、例えば、サイドギャップ層50と同様にALD法により形成されている。
【0039】
上部シールド80は、磁極100を上方からシールドするものである。この上部シールド80は、例えば、500nm〜1500nm、好ましくは500nm〜1000nmの厚さを有していると共に、ニッケル鉄合金などの磁性材料を含んでいる。
【0040】
図2は、図1に示したPMRヘッドの主要部(一対の下部サイドシールド20および磁極100)の平面構成を表している。
【0041】
磁極100は、エアベアリング面150から後方に向かって順に、一定幅を有する磁極先端部10と、それよりも大きな幅を有する磁極後端部27とを含んでいる。この磁極先端部10の「一定幅」とは、上記したように、磁極先端部10が逆台形状の断面形状を有していることから、その上端の幅である。磁極後端部27は、例えば、磁極先端部10に近い側から順に、磁極先端部10の幅に等しい幅からそれよりも大きな幅まで次第に広がる幅を有する拡幅部と、その拡幅部の最大幅よりも大きな一定幅を有する一定幅部とを含んでいる。
【0042】
一対の下部サイドシールド20は、少なくとも磁極先端部10の記録トラック幅方向における両側方に位置している。ここでは、例えば、一対の下部サイドシールド20は、磁極先端部10の両側方だけでなく、その磁極先端部10の両側方から磁極後端部27の一部(拡幅部分)の両側方まで拡張されており、各下部サイドシールド20の内側側面は、磁極先端部10および磁極後端部27の側面に沿って延在している(磁極先端部10および磁極後端部27の側面から所定の距離を隔てて位置している)。
【0043】
次に、図1および図2に示したPMRヘッドの製造方法について説明する。図3図12は、PMRヘッドの製造工程を表しており、図1に対応する断面構成を示している。
【0044】
PMRヘッドを製造する場合には、まず、図3に示したように、基体5を準備したのち、例えば、基体5上に、鍍金成長用のシード層(図示せず)を形成する。続いて、例えば、シード層を用いて鍍金膜を成長させることにより、下部サイドシールド形成層200を形成する。この下部サイドシールド形成層200を形成する場合には、例えば、ニッケル鉄合金(例えば、Ni85Fe15)などの磁性材料を用いると共に、厚さを50nm〜200nmとする。なお、下部サイドシールド形成層200の形成方法としては、鍍金法以外の方法を用いてもよい。
【0045】
続いて、図4に示したように、例えばプラズマ蒸着(PVD:plasma vapor deposition )法などを用いて、下部サイドシールド形成層200上に非磁性材料形成層300を形成する。この非磁性材料形成層300を形成する場合には、酸化アルミニウムまたは二酸化ケイ素などの非磁性材料を用いると共に、厚さを100nm〜350nmとする。
【0046】
続いて、非磁性材料形成層300上に、マスク形成層400を形成する。このマスク形成層400を形成する場合には、タンタル、ルテニウム、ルテニウムおよびタンタル、窒化タンタル、チタン、またはニッケルクロム合金などの金属材料を用いると共に、厚さを80nm〜100nmとする。この「ルテニウムおよびタンタル」とは、ルテニウム層とタンタル層とを積層させるという意味である。この場合には、特に、後工程において、イオンビームエッチング(IBE:ion beam etching)を用いてマスク形成層400をエッチングしてマスク層40を形成すると共に、反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etching)法を用いて非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200をエッチングして溝800を形成することが可能となるように、エッチング選択性を設定する。このエッチング選択性とは、マスク形成層400のエッチング速度が非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200のエッチング速度よりも遅くなるような耐エッチング特性である。この場合には、マスク形成層400のエッチング速度が非磁性材料形成層300のエッチング速度よりも遅くなると共に、非磁性材料形成層300のエッチング速度が下部サイドシールド形成層200のエッチング速度よりも遅くなるようにするのが好ましい。
【0047】
続いて、マスク形成層400上に、開口部120を有するフォトレジストパターン450を形成したのち、そのフォトレジストパターン450をマスクとしてマスク形成層400を選択的にエッチングすることにより、図5に示したように、開口部120に対応する箇所に開口部121を有するマスク層40を形成する。これにより、マスク層40の開口部121に非磁性材料形成層300の表面140が露出する。フォトレジストパターン450を形成する場合には、マスク形成層400の表面にフォトレジストを塗布してフォトレジスト膜(図示せず)を形成したのち、フォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト膜をパターニング(露光および現像)する。また、マスク層40を形成する場合には、例えば、IBE法を用いる。
【0048】
続いて、使用済みのフォトレジストパターン450を除去したのち、マスク層40を用いて非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200を選択的にエッチングすることにより、図6に示したように、溝800を形成すると共に、その溝800により分離された一対の非磁性材料層30および一対の下部サイドシールド20を形成する。この場合には、例えば、一対の下部サイドシールド20が図2に示した平面形状を有するようにする。これにより、溝800の内部に、その底面23となる基体5の表面が露出すると共に、その側壁25となる非磁性材料層30および下部サイドシールド20の傾斜側面が形成される。
【0049】
この溝800を形成する場合には、例えば、RIE法を用いる。この場合には、非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200を貫通するようにエッチングするために、エッチングガスとして、非磁性材料形成層300を完全にエッチングすることが可能なガスと、下部サイドシールド形成層200を完全にエッチングすることが可能なガスとを混合したものを用いる。非磁性材料形成層300をエッチングするためのエッチングガスとしては、例えば、非磁性材料形成層300の形成材料として酸化アルミニウムを用いる場合には、塩素(Cl2 )、三塩化ホウ素(BCl3 )、四フッ化炭素(CF4 )、またはそれらの2種以上の混合物が挙げられる。一方、下部サイドシールド形成層200をエッチングするためのエッチングガスとしては、例えば、下部サイドシールド形成層200の形成材料としてニッケル鉄合金を用いる場合には、メタノール(CH3 OH)、一酸化炭素(CO)、アンモニア(NH3 )、またはそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0050】
非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200のエッチング時には、上記したように、マスクとして用いられるマスク層40が非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200を優先的にエッチングすることが可能なエッチング選択性を有しているため、基体5に近づくにしたがってエッチング幅が次第に狭まるように非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200が掘り下げられる。これにより、底面23(基体5の露出面)と側壁25(一対の非磁性材料層30の傾斜側面および一対の下部サイドシールド20の傾斜側面)とにより形作られると共に、先端部が切り取られたくさび状の断面形状を有するように、溝800が形成される。この溝800の側壁25の傾斜角度は、後工程において磁極先端部10の断面形状(いわゆるベベル角)を決定することとなる。溝800の最小幅、すなわち一対の下部サイドシールド20間の最小距離は、例えば、300nm〜350nmである。
【0051】
具体的なエッチング条件は、例えば、以下の通りである。エッチングガスとして一酸化炭素およびアンモニアの混合ガスを用いる場合には、圧力=0.8Pa、流量=90×10-53 /h(=15sccm)、基板エネルギー=1000W、バイアスエネルギー=1200Wとするのが好ましい。この条件では、マスク層40のエッチング速度が2nm/分となり、下部サイドシールド形成層200のエッチング速度が34nm/分となる。
【0052】
なお、ここではRIE法を用いて非磁性材料形成層300および下部サイドシールド形成層200の双方をエッチングするようにしたが、必ずしもこれに限られない。例えば、RIE法を用いて非磁性材料形成層300をエッチングしたのち、IBE法を用いて下部サイドシールド形成層200をエッチングしてもよい。このIBE法を用いたエッチング工程では、例えば、アルゴンイオン(Ar+ )のビームを用いると共に、電圧および電流をそれぞれ650Vおよび1200mAとする。
【0053】
続いて、図7に示したように、例えば、溝800の内部(底面23および側壁25)およびその周辺(マスク層40)を覆うように、サイドギャップ層50を形成する。このサイドギャップ層50を形成する場合には、例えば、酸化アルミニウムを用いると共に、厚さを30nm〜50nmとする。また、PVD法またはALD法を用いることにより、サイドギャップ層50の厚さが全体に渡って均一になるようにする。中でも、サイドギャップ層50の厚さをより均一にするためには、ALD法を用いるのが好ましい。ALD法を用いれば、150nm以下の範囲において均一な厚さとなるように薄膜が容易に形成されるからである。
【0054】
続いて、図8に示したように、サイドギャップ層50上にCMPストップ層530を形成したのち、例えば、CMPストップ層530上にシード層55を形成する。なお、図8では、図示内容を簡略化するために、シード層55を「層(厚さを有し、ハッチングが付された構成要素)」としては示していない。このシード層55を形成する場合には、例えば、タンタル、ルテニウムまたはコバルトニッケル鉄合金などの導電性材料を用いると共に、厚さを50nm〜100nmとする。
【0055】
続いて、図9に示したように、CMPストップ層530上に形成されたシード層55上に、溝800を埋め込むように鍍金膜を成長させることにより、磁極形成層500を形成する。この磁極形成層500を形成する場合には、ニッケル鉄合金または鉄ニッケル合金などの低保持力の磁性材料を用いる。なお、磁極形成層500の形成方法としては、鍍金法以外の方法を用いてもよい。
【0056】
続いて、図10A図10Bおよび図11に示したように、3つのステップの作業を行うことにより、サイドギャップ層50およびCMPストップ層530により覆われた溝800の内部に、磁極先端部10を含むように磁極100を形成する。
【0057】
第1のステップでは、図10Aに示したように、例えば、CMP法を用いて磁極形成層500を途中まで研磨することにより、そのうちの溝800よりも上方にある大部分を除去する。これにより、磁極形成層500の一部(部分550)が残存すると共に、その磁極形成層500の表面が平坦になる。
【0058】
第2のステップでは、図10Bに示したように、平坦な磁極形成層500上に、犠牲層700を形成する。この犠牲層700を形成する場合には、例えば、酸化アルミニウムを用いると共に、厚さを400nm〜500nmとする。
【0059】
第3のステップでは、例えば、CMP法を用いて、CMPストップ層530により研磨速度が十分に低下させられるまで磁極形成層500を研磨することにより、図2および図11に示したように、溝800の断面形状に対応する断面形状を有する磁極先端部10を含むように、磁極100を形成する。この磁極層100を形成する場合には、犠牲層700および磁極形成層500のうちの部分550と一緒に、CMPストップ層53のうちの溝800の外側に位置する部分が消失するまで研磨処理を過剰に進行させることにより、サイドギャップ層50を露出させると共に、磁極100およびその周辺(サイドギャップ層50およびCMPストップ層53)を平坦にする。また、磁極先端部10を形成する場合には、例えば、長さを0.05μm〜0.15μmとし、最大幅を100nm〜180nmとする。
【0060】
なお、第3のステップののち、必要に応じて、磁極先端部10の最大幅(上端の幅)を所望の値となるように調整するために、IBE法を用いて磁極100およびその周辺をエッチングしてもよい。
【0061】
続いて、図12に示したように、例えば、PVD法またはALD法を用いて、平坦な磁極100およびその周辺(サイドギャップ層50およびCMPストップ層53)上に、記録ギャップ層70を形成する。この記録ギャップ層70を形成する場合には、例えば、酸化アルミニウムを用いると共に、厚さを30nm〜50nmとする。
【0062】
最後に、図1に示したように、例えば、記録ギャップ層70上にシード層(図示せず)を形成したのち、そのシード層を用いて鍍金膜を成長させることにより、上部シールド80を形成する。この上部シールド80を形成する場合には、下部サイドシールド形成層200と同様の磁性材料を用いると共に、厚さを500nm〜1500nmとする。なお、上部シールド80の形成方法としては、鍍金法以外の方法を用いてもよい。
【0063】
これにより、一対の下部サイドシールド20および上部シールド80により、磁極先端部10が両側方下部および上方の3方向からシールドされるため、図1および図2に示したPMRヘッドが完成する。
【0064】
このPMRヘッドは、上記した一対の下部サイドシールド20、上部シールド80および磁極100などの一連の構成要素を備えていれば、全体としてはどのような構造を有していてもよい。この場合において、PMRヘッドは、上記した一連の構成要素以外の他の構成要素を有していてもよい。
【0065】
図13は、上記したPMRヘッドの全体構造の一例を表しており、エアベアリング面に垂直な断面構成を示している。
【0066】
このPMRヘッドの全体構造は、下部シールド90と、非磁性絶縁層26,27,35により周辺から絶縁された1層目の電気伝導コイル45と、上記したPMRヘッドとがこの順に積層された構造を有している。
【0067】
PMRヘッドの上部シールド80は、エアベアリング面に露出し、記録ギャップ層70により磁極100(磁極先端部10)から離間された前端部81と、それから間隔を隔てて後方に位置し、記録ギャップ層70に設けられた開口部を通じて磁極100に接続された後端部82と、前端部81および後端部82の上方に、それらを接続するように設けられた接続部83とを含んでいる。
【0068】
前端部81と後端部82との間には、磁極100から上部シールド80へ磁束が漏れることを抑制するために、非磁性絶縁性の孤立ギャップ65が設けられている。上部シールド80(前端部81、後端部82および接続部83)と孤立ギャップ65とにより囲まれた空間には、非磁性絶縁層75により埋設されるように2層目の電気導電コイル460が設けられている。
【0069】
電気伝導コイル45,460は、通電時に磁極先端部10から垂直磁界を発生させるものであり、いずれもスパイラル状の構造を有している。なお、図13には、スパイラル状の構造を有する電気伝導コイル45,460の一部のみが示されている。
【0070】
本実施の形態に係るPMRヘッドおよびその製造方法では、(1)下部サイドシールド形成層200および非磁性材料形成層300に、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する溝800を形成することにより、一対の下部サイドシールド20および一対の非磁性材料層30を形成し、(2)溝800の内部に、サイドギャップ層50を介して一対の下部サイドシールド20から離間されるように、磁極100の磁極先端部10を形成し、(3)磁極先端部10の上方に、記録ギャップ層70を介して磁極先端部10から離間されるように上部シールド80を形成しているので、一対の下部サイドシールド20および上部シールド80により、磁極先端部10が両側方下部および上方の3方向からシールドされる。これにより、磁極100の物理的サイズを大きくしても、高い垂直磁界の強度および記録トラック幅の解像度が維持されたまま、記録トラック幅方向およびそれに直交する方向における垂直磁界の広がりが抑制される。したがって、最大500ギガビット/インチ2 に至る高い面記録密度を実現することができる。この場合には、高い垂直磁界の強度および記録トラック幅の解像度を維持したまま、垂直磁界の広がりを減少させることができると共に、十分な記録トラック幅の解像度を維持したまま、隣接トラック消去を抑制することもできる。
【0071】
特に、本実施の形態では、一対の下部サイドシールド20の形成工程において生じる溝800の断面形状により磁極先端部10の断面形状が決定されるため、先端が切り取られたくさび状の断面形状を有する磁極先端部10を容易に形成することができる。
【0072】
また、本実施の形態では、一対の下部サイドシールド20および上部シールド80の物理的サイズが大きくなるため、シールド効果(垂直磁界の広がりを抑制する効果)をより高めることができる。
【0073】
ここで、本発明の技術的意義について説明しておく。磁極先端部が十分にシールドされていないと、その磁極先端部から放出された磁束が広がりやすくなる。この場合には、記録メディアが広範囲に渡って磁化されるため、記録トラック幅の解像度が低下すると共に、隣接トラック消去が生じやすくなる。本願の関連出願(HT05−039)では、磁極先端部の記録トラック幅方向における両側方に、その磁極先端部の側面全体と対向する(磁極先端部と同様の厚さを有する)ようにサイドシールドを設けているため、隣接トラック消去は生じにくくなるが、垂直磁界の強度が低下してしまう。これに対して、本発明では、磁極先端部の両側方に、その磁極先端部の一部側面(下部側面)と対向する(磁極先端部よりも小さい厚さを有する)ようにサイドシールドを設けているため、隣接トラック消去が生じにくくなると共に、垂直磁界の強度も確保される。これらのことから、本発明の技術的意義は、磁極先端部の両側方下部に(磁極先端部よりも厚さが小さい)サイドシールドを設けることにより、垂直磁界の強度を確保しつつ、隣接トラック消去を生じにくくすることにある。
【0074】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明のPMRヘッドに関する上記以外の構成(形状、寸法、形成材料および形成方法など)は、任意に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】本発明のPMRヘッドの構成を表す断面図である。
図2図1に示したPMRヘッドの主要部の構成を表す平面図である。
図3図1に示したPMRヘッドの製造工程における一工程を説明するための断面図である。
図4図3に続く工程を説明するための断面図である。
図5図4に続く工程を説明するための断面図である。
図6図5に続く工程を説明するための断面図である。
図7図6に続く工程を説明するための断面図である。
図8図7に続く工程を説明するための断面図である。
図9図8に続く工程を説明するための断面図である。
図10A図9に続く工程を説明するための断面図である。
図10B図10Aに続く工程を説明するための断面図である。
図11図10Bに続く工程を説明するための断面図である。
図12図11に続く工程を説明するための断面図である。
図13】本発明のPMRヘッドの全体構造の一例を表す断面図である。
【符号の説明】
【0076】
10…磁極先端部、20…下部サイドシールド、23…底面、25…側壁、26,27,35,75…非磁性絶縁層、27…磁極後端部、30…非磁性材料層、40…マスク層、45,460…電気伝導コイル、50…サイドギャップ層、53…CMPストップ層、55…シード層、65…孤立ギャップ、70…記録ギャップ層、80…上部シールド、81…前端部、82…後端部、83…接続部、90…下部シールド、100…磁極、120,121…開口部、140…表面、150…エアベアリング面、200…下部サイドシールド形成層、300…非磁性材料形成層、400…マスク形成層、450…フォトレジストパターン、500…磁極形成層、550…部分、700…犠牲層、800…溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13