特許第5788775号(P5788775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5788775-エンジン 図000002
  • 特許5788775-エンジン 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788775
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/07 20060101AFI20150917BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20150917BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F02M25/07 550G
   F02M25/07 B
   F02D41/04 330C
   F02D45/00 364A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-258010(P2011-258010)
(22)【出願日】2011年11月25日
(65)【公開番号】特開2013-113152(P2013-113152A)
(43)【公開日】2013年6月10日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 和伸
(72)【発明者】
【氏名】田中 大樹
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−239489(JP,A)
【文献】 特開2005−315140(JP,A)
【文献】 特開2006−17003(JP,A)
【文献】 特開2004−116398(JP,A)
【文献】 特開2001−304023(JP,A)
【文献】 特開平9−32651(JP,A)
【文献】 特開2004−116333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/07
F02D 41/04
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と空気との混合気を圧縮して燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室への吸気量を調整可能なスロットル弁と、
前記混合気の空燃比を調整可能な空燃比調整弁と、
運転を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段が、前記スロットル弁の開度を制御して出力を調整する吸気量出力制御を実行可能に構成され、且つ、前記空燃比調整弁の開度を制御して、前記燃焼室において前記混合気を燃料希薄状態で燃焼させる希薄燃焼モードと、前記燃焼室において前記混合気をストイキ状態で燃焼させるストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替え可能に構成されたエンジンであって、
前記燃焼室へのEGR率を調整可能なEGR調整弁を備え、
前記制御手段が、
低出力域において、前記吸気量出力制御を実行しながら燃焼モードを前記希薄燃焼モードに設定すると共に前記EGR調整弁により前記EGR率を低EGR率に設定する低出力運転を行い、
前記低出力域よりも高い第1高出力域において、前記吸気量出力制御を実行しながら燃焼モードを前記ストイキ燃焼モードに設定すると共に前記EGR調整弁により前記EGR率を前記低EGR率よりも高い高EGR率に設定する第1高出力運転を行い、
前記低出力域が、前記低出力運転時において前記スロットル弁の開度を最小に設定するときの出力から前記スロットル弁の開度を最大に設定するときの出力までの出力域であるエンジン。
【請求項2】
排気路に排出された排ガスを三元触媒方式で処理する三元触媒部を備え、
前記制御手段が、前記EGR調整弁の開度を制御して出力を調整するEGR出力制御を実行可能に構成され、且つ、前記第1高出力域よりも高い第2高出力域において、前記EGR出力制御を実行しながら燃焼モードを前記ストイキ燃焼モードに設定すると共に前記スロットル弁の開度を最大に設定する第2高出力運転を行う請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記第1高出力域が、前記低出力域における最大出力から前記第1高出力運転時において前記スロットル弁の開度を最大に設定する出力までの出力域である請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記燃焼室から排出される排ガス中のNOx濃度を検出するNOx濃度検出手段を備え、
前記制御手段が、前記低出力運転時において、前記NOx濃度検出手段の検出結果に基づいて前記EGR調整弁の開度を制御するNOx制御を実行する請求項1〜3の何れか一項に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料と空気との混合気を圧縮して燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室への吸気量を調整可能なスロットル弁と、
前記混合気の空燃比を調整可能な空燃比調整弁と、
運転を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段が、前記スロットル弁の開度を制御して出力を調整する吸気量出力制御を実行可能に構成され、且つ、前記空燃比調整弁の開度を制御して、前記燃焼室において前記混合気を燃料希薄状態で燃焼させる希薄燃焼モードと、前記燃焼室において前記混合気をストイキ状態で燃焼させるストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替え可能に構成されたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空燃比調整弁の開度制御により、燃焼室において混合気を燃料希薄状態で燃焼させる希薄燃焼モードと、燃焼室において混合気をストイキ状態で燃焼させるストイキ燃焼モードとの間で、燃焼モードを切り替え可能なエンジンが知られている(例えば特許文献1及び特許文献2参照。)。
この種のエンジンは、高出力域で運転を行う場合には、燃焼モードをストイキ燃焼モードに設定することで、エンジンの小型化を図るべく排気量をできるだけ小さく維持しつつ高出力での運転を実現することができる。一方、低出力域で運転を行う場合には、燃焼モードを希薄燃焼モードに設定することで、高効率及び低エミッションを図るべくスロットル弁の開度をできるだけ大きく維持してポンプ損失を低減しつつ正味平均有効圧の上昇による熱効率向上を実現することができる。
【0003】
上記特許文献1に記載のエンジンは、低出力域における希薄燃焼モード設定時に排気路に排出される排ガスについて、NOxの含有量が少なく三元触媒で処理が困難な高空燃比(即ち、還元性成分に対して酸化性成分が過剰の状態)であるために、排ガスにかかる圧損低減を優先して三元触媒部をバイパスさせて排出することで、効率向上を図るように構成されている。
更に、このエンジンは、燃焼室に吸気される新気に排ガスを還流する所謂EGRを実行可能に構成すると共に、その新気に対する排ガス還流量の割合であるEGR率を調整可能なEGR調整弁を備える。そして、希薄燃焼モード設定時においてEGRを実行し、燃焼室から排出される排ガスの空燃比が理論空燃比(還元性成分と酸化性成分が釣り合った状態)となるようにEGR率を制御することで、その排ガスを三元触媒で処理することも可能とされている。即ち、このEGR調整弁は、排ガスの空燃比が高くなる低出力域での希薄燃焼モード設定時のみ開弁され、排ガスの空燃比が理論空燃比となる高出力域のストイキ燃焼モード設定時には開弁されないものとなる。
【0004】
上記特許文献2に記載のエンジンは、希薄燃焼モードで運転を行う出力域よりも更に低い出力域では、燃焼モードをストイキ燃焼モードに設定して安定した運転を実現している。更に、その低出力域でのストイキ燃焼モード設定時においてEGRを実行し、スロットル弁の開度が過小になってポンプ損失が増加することを防止するように構成されている。即ち、このEGR調整弁は、スロットル弁の開度が小さくなる低出力域でのストイキ燃焼モード設定時のみ開弁され、スロットル弁の開度が比較的大きく保たれる希薄燃焼モード設定時及び高出力域でのストイキ燃焼モード設定時には開弁されないものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−297967号公報
【特許文献2】特開2004−060558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジンにおいて、EGR(排ガス再循環)を適用すれば、スロットル弁の開度を増加させてポンプ損失による効率低下を抑制でき、更には、燃焼室へ吸気される混合気の比熱比が増加し燃焼室における燃焼温度の上昇が抑制されるために、NOx生成の抑制、熱効率の向上、耐久性の向上等を実現することができる。
しかしながら、上述したように出力に応じて希薄燃焼モードとストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードの切り替えを行う従来のエンジンでは、全出力域においてEGRを実行するものではなかったため、その効果を十分に享受し得るものではなかった。
【0007】
例えば、上記特許文献1のエンジンでは、希薄燃焼モード設定時の排ガスの空燃比を理論空燃比に調整してその排ガスの三元触媒による処理を可能とする目的で、高空燃比の排ガスが排出される低出力域での希薄燃焼モード設定時のみEGRが実行されるため、その低出力域では希薄燃焼とEGRとの相乗効果によりスロットル弁の開度が非常に大きく設定されることになる。よって、スロットル弁の開度が全開状態となる低出力域の最大出力が比較的低いものに制限されることになるので、EGR更には希薄燃焼の効果は非常に狭い低出力域のみでしか享受できないという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献2のエンジンでは、スロットル弁の開度が過小になることを回避してポンプ損失増加を防止する目的で、低出力域でのストイキ燃焼運転モード設定時のみEGRが実行されスロットル弁の開度が確保されるため、それよりも出力が高くスロットル弁の開度が比較的大きくなる希薄燃焼運転モード設定時及び高出力域でのストイキ燃焼モード設定時では、EGRの効果を享受できないという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、出力に応じて希薄燃焼モードとストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替えるにあたりEGRの効果更には燃焼モードの切り替えによる効果を十分に享受することができるエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するための本発明に係るエンジンは、
燃料と空気との混合気を圧縮して燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室への吸気量を調整可能なスロットル弁と、
前記混合気の空燃比を調整可能な空燃比調整弁と、
運転を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段が、前記スロットル弁の開度を制御して出力を調整する吸気量出力制御を実行可能に構成され、且つ、前記空燃比調整弁の開度を制御して、前記燃焼室において前記混合気を燃料希薄状態で燃焼させる希薄燃焼モードと、前記燃焼室において前記混合気をストイキ状態で燃焼させるストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替え可能に構成されたエンジンであって、
その第1特徴構成は、
前記燃焼室へのEGR率を調整可能なEGR調整弁を備え、
前記制御手段が、
低出力域において、前記吸気量出力制御を実行しながら燃焼モードを前記希薄燃焼モードに設定すると共に前記EGR調整弁により前記EGR率を低EGR率に設定する低出力運転を行い、
前記低出力域よりも高い第1高出力域において、前記吸気量出力制御を実行しながら燃
焼モードを前記ストイキ燃焼モードに設定すると共に前記EGR調整弁により前記EGR率を前記低EGR率よりも高い高EGR率に設定する第1高出力運転を行い、
前記低出力域が、前記低出力運転時において前記スロットル弁の開度を最小に設定するときの出力から前記スロットル弁の開度を最大に設定するときの出力までの出力域である点にある。
【0011】
本発明に係るエンジンの上記第1特徴構成によれば、制御手段は、低出力域で希薄燃焼モードに設定する低出力運転時には、EGR調整弁の開度を制御して、EGR率を比較的低い低EGR率に設定する。一方、制御手段は、その低出力域よりも高い第1高出力域でストイキ燃焼モードに設定する第1高出力運転時には、EGR調整弁の開度を制御して、EGR率を低EGR率よりも高い高EGR率に設定する。これにより、EGRの効果更には燃焼モードの切り替えによる効果を広い出力域において十分に享受することができる。
【0012】
即ち、低出力運転時には、燃焼室における混合気の空燃比が比較的高め(燃料希薄側)に設定される希薄燃焼モードで運転を行うため、吸気量出力制御により制御されるスロットル弁の開度は比較的大きいものとなる。そこで、この低出力運転時には、EGR率が比較的小さい低EGR率に設定されるので、スロットル弁の開度増加が抑制される。よって、その低出力運転を行う低出力域の最大出力はできるだけ高いものとなるので、希薄燃焼の効果、即ち高効率及び低エミッションが比較的低い低出力域において十分に実現されることになる。
【0013】
一方、第1高出力運転時には、燃焼室における混合気の空燃比が比較的低めの理論空燃比に設定されるストイキ燃焼モードで運転を行うため、吸気量出力制御により制御されるスロットル弁の開度は、上述した希薄燃焼モード設定時よりも縮小される傾向となり、増加側に余裕ができる。そこで、この第1高出力運転時には、スロットル弁の開度の増加を伴うが、EGR率が上記低EGR率よりも高い高EGR率(例えばEGR調整弁を略全開としたときのEGR率)に増加されるので、EGRの実行による効果、即ち、熱効率の向上、耐久性の向上等が比較的高い第1高出力域においても十分に実現されることになる。尚、第1高出力運転時には、ストイキ燃焼モードで運転を行うので、排気路には酸素濃度が略ゼロで酸化性成分と還元性成分とが釣り合った状態の理論空燃比の排ガスが排出されるので、この排ガスを三元触媒部に通過させれば、排ガスに含まれるNOx、CO、及びHCの排出物を同時除去することができる。
更に、本発明に係るエンジンによれば、希薄燃焼モードにて低出力運転を行う低出力域の最大出力を、上記のごとく低出力運転時においてスロットル弁の開度を最大に設定した際の出力とすることで、できるだけ広い出力域で希薄燃焼モードを維持することができ、高効率及び低エミッション等の希薄燃焼による効果を十分に享受することができる。
従って、出力に応じて希薄燃焼モードとストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替えるにあたりEGRの効果更には燃焼モードの切り替えによる効果を十分に享受することができるエンジンを提供することができた。
【0014】
本発明に係るエンジンの第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、
排気路に排出された排ガスを三元触媒方式で処理する三元触媒部を備え、
前記制御手段が、前記EGR調整弁の開度を制御して出力を調整するEGR出力制御を実行可能に構成され、且つ、前記第1高出力域よりも高い第2高出力域において、前記EGR出力制御を実行しながら燃焼モードを前記ストイキ燃焼モードに設定すると共に前記スロットル弁の開度を最大に設定する第2高出力運転を行う点にある。
【0015】
本発明に係るエンジンの上記第2特徴構成によれば、制御手段は、EGR率を減少させることに伴って燃焼室へ供給される混合気の量が増加し出力が増加することを利用して、EGR調整弁の開度を制御して出力を調整するEGR出力制御を実行することができる。
そして、第1高出力域よりも高い出力を要求された場合には、当該第1高出力運転に代えて第2高出力運転を行って、上述した吸気量出力制御に代えてEGR出力制御を実行する。すると、スロットル弁の開度が最大に維持されながら、予め第1高出力運転において略全開に設定されていたEGR調整弁の開度が徐々に縮小されて、燃焼室への混合気の供給量が増加するので、運転を維持したまま出力が一層上昇される。また、この第2高出力運転時には、スロットル弁の開度が最大に維持されるため、ポンプ損失を極めて小さくでき高効率を維持することができる。
更に、この第2高出力運転時において、排気路に三元触媒部を設けることで、そのNOxの除去処理を行うことができる。
【0018】
本発明に係るエンジンの第特徴構成は、上記第1又は2の特徴構成に加えて、
前記第1高出力域が、前記低出力域における最大出力から前記第1高出力運転時において前記スロットル弁の開度を最大に設定する出力までの出力域である点にある。
【0019】
本発明に係るエンジンの上記第特徴構成によれば、EGR率を比較的高い高EGR率に設定する第1高出力運転を行う第1高出力域の最大出力を、上記のごとく第1高出力運転時においてスロットル弁の開度を最大に設定した際の出力とすることで、できるだけ広い出力域で高EGR率を維持することができ、ポンプ損失による効率低下の抑制、熱効率の向上、耐久性の向上等のEGRによる効果を十分に享受することができる。
【0020】
本発明に係るエンジンの第特徴構成は、上記第1乃至第の何れかの特徴構成に加えて、
前記燃焼室から排出される排ガス中のNOx濃度を検出するNOx濃度検出手段を備え、
前記制御手段が、前記低出力運転時において、前記NOx濃度検出手段の検出結果に基づいて前記EGR調整弁の開度を制御するNOx制御を実行する点にある。
【0021】
希薄燃焼モードにおいてEGR率が高い場合には、燃料希薄な混合気に対する点火ミスにより失火が発生する場合がある。一方、希薄燃焼モードにおいては、燃焼温度が比較的低いため基本的にはNOxの生成量は少ないが、規格等で規定されている許容値を確実に下回る必要がある。
そこで、本発明に係るエンジンの上記第特徴構成によれば、希薄燃焼モードにて低出力運転を行う際には、上記NOx制御を行うことで、EGR率を、失火を防止し得る範囲内でNOx濃度を常に許容値以下とすることができる適切なものに維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態におけるエンジンの概略構成図
図2】第1実施形態におけるエンジンの運転状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示すエンジン100は、混合気Mを圧縮して燃焼させる燃焼室1と、燃焼室1への吸気量を調整可能なスロットル弁6と、混合気Mの空燃比を調整可能な空燃比調整弁13と、運転を制御するコンピュータからなるエンジンコントロールユニット(以下、ECUと呼ぶ。)30(制御手段の一例)とを備える。
また、ECU30は、スロットル弁6の開度を制御して出力を調整する吸気量出力制御を実行可能に構成され、更に、空燃比調整弁13の開度を制御して、燃焼室1において混合気Mを燃料希薄状態で燃焼させる希薄燃焼モードと、燃焼室1において混合気Mをストイキ状態で燃焼させるストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替え可能に構成されている。
以下、エンジン100の詳細構成について説明する。
【0024】
エンジン100は、ピストン8をシリンダ9内で往復運動させると共に、吸気弁2及び排気弁4を開閉動作させて、燃焼室1において吸気、圧縮、燃焼・膨張、排気の諸行程を行い、ピストン8の往復動を連結棒によってクランク軸10の回転運動として出力するように構成されており、かかる構成は通常の4ストロークエンジンと変わりはない。また、このクランク軸10の回転動力は圧縮式ヒートポンプ40の駆動力として利用される。即ち、この実施形態のエンジン100は、ガスヒートポンプの駆動源として設置されている。
【0025】
クランク軸10の回転数、即ちエンジン回転数を検出する回転数センサ31が設けられており、この回転数センサ31で検出されたエンジン回転数がECU30に入力される。ECU30は、この回転数センサ31で検出されたエンジン回転数が、圧縮式ヒートポンプ40側の負荷に基づいて要求される設定回転数になるように、エンジン100の出力(以下単に「出力」と呼ぶ)を制御するように構成されている。
【0026】
燃焼室1に吸気弁2を介して接続された吸気路3には、スロットル弁6が設けられており、このスロットル弁6の開度調整により、後述するミキサ12で形成された混合気Mが燃焼室1へ吸気される量、即ち吸気量を調整することができる。
そして、ECU30は、スロットル弁6の開度を制御して、回転数センサ31で検出されたエンジン回転数が設定回転数になるように出力を調整する吸気量出力制御を実行可能に構成されている。
【0027】
吸気路3におけるスロットル弁6の上流側には、当該吸気路3を縮径させたベンチュリ構造を有するミキサ12が設けられている。
このミキサ12は、吸気路3を流通する空気Aが上記ベンチュリ構造を高速で通過することで圧力低下を発生させ、この圧力低下を利用して、気体燃料である都市ガス(13A)である燃料Gを、吸気路3を流通する空気Aに供給して、吸気路3に混合気Mを形成するように構成されている。
更に、このミキサ12に通じる燃料供給路14には、ミキサ12への燃料供給量を調整してミキサ12で形成される混合気Mの空燃比を調整可能な空燃比調整弁13が設けられている。
【0028】
そして、ECU30は、空燃比調整弁13の開度を制御して、希薄燃焼モードとストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替え可能に構成されている。
尚、希薄燃焼モードは、燃焼室1に吸気される混合気Mの全体的な空燃比を理論空燃比よりも高い燃料希薄側に設定して、当該燃焼室1において混合気Mを燃焼希薄状態で燃焼させる燃焼モードである。
一方、ストイキ燃焼モードは、燃焼室1に吸気される混合気Mの全体的な空燃比を理論空燃比に設定して、当該燃焼室1において混合気Mをストイキ状態で燃焼させる燃焼モードである。
【0029】
即ち、ECU30は、希薄燃焼モードに燃焼モードを設定するに、吸気行程において、空燃比調整弁13の開度を制御して、燃料Gが希薄な高空燃比の混合気Mを燃焼室1に吸気させる。
そして、燃焼室1において高空燃比の混合気Mを圧縮し、当該混合気Mを点火プラグ15により火花点火燃焼させ、その燃焼により周囲の混合気Mを燃焼させるという形態で、希薄燃焼が行われる。
【0030】
この希薄燃焼モード設定時においては、燃焼室1において酸化性成分が還元性成分に対して過多の高空燃比の混合気Mが燃焼するので、排気行程において燃焼室1から排気路5には同じく酸化性成分が還元性成分に対して過多の酸素濃度が比較的高い高空燃比の排ガスEが排出されることになる。
【0031】
また、排気路5には、燃焼室1から排出された排ガスEの酸素濃度を検出する酸素センサ23が設けられている。
一方、ECU30は、ストイキ燃焼モードに燃焼モードを設定するに、ミキサ12において常に理論空燃比の混合気Mが形成され、酸素センサ23で検出される排ガスEの酸素濃度が略ゼロの低酸素濃度となるように、酸素センサ24の検出結果に基づいて空燃比調整弁13及びスロットル弁6の開度を制御する。
すると、圧縮行程において、燃焼室1全体に理論空燃比の混合気Mが存在することになる。
そして、燃焼室1においてこの理論空燃比の混合気Mを圧縮し、点火プラグ15により火花点火燃焼させる形態で、ストイキ燃焼が行われる。
尚、上記酸素センサ23に代えて、公知の空燃比センサを設け、その検出結果に基づき空燃比調整弁13及びスロットル弁6の開度制御を行っても構わない。
【0032】
このストイキ燃焼モード設定時においては、燃焼室1において酸化性成分と還元性成分とが釣り合った状態の理論空燃比の混合気Mが燃焼するので、排気行程において燃焼室1から排気路5には、酸素濃度が略ゼロで酸化性成分と還元性成分とが釣り合った状態の理論空燃比の排ガスEが排出されることになる。
【0033】
燃焼室1に排気弁4を介して接続された排気路5の酸素センサ23の下流側には、燃焼室1から排出された排ガスEを三元触媒法で処理する三元触媒部22が設けられている。この三元触媒部22は、上記ストイキ燃焼モード設定時に排出される理論空燃比の排ガスE、即ち含有する酸化性成分と還元性成分とが釣り合った状態の排ガスEを、三元触媒に流通させて、その排ガスEに含まれるNOx、CO、及びHCの排出物を同時除去するように構成されており、上記三元触媒としては白金やロジウムなどを含む触媒などの公知の三元触媒が利用されている。
【0034】
更に、エンジン100には、排気路5の排気弁4と三元触媒部22との間の空間と、吸気路3のミキサ12と吸気弁2との間の空間とを連通するEGR路20が設けられており、排気路5に排出された排ガスEの一部を、このEGR路20及び吸気路3を通じて燃焼室1に還流供給する所謂EGRを行うことができる。このEGR路20にはEGR調整弁21が設けられており、このEGR調整弁21の開度調整により、燃焼室1への吸気量に対する排ガスEの還流量の割合、即ちEGR率が調整される。
【0035】
また、排気路5の三元触媒部22の下流側には、燃焼室1から排出された排ガスEのNOx濃度を検出するNOxセンサ23(NOx濃度検出手段の一例)が設けられており、このNOxセンサ23で検出されたNOx濃度がECU30に入力される。
【0036】
以上のように構成されたエンジン100は、出力に応じて希薄燃焼モードとストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替えることで、EGRの効果更には燃焼モードの切り替えによる効果を十分に享受するための構成を採用している。
即ち、ECU30は、出力が低い側の出力範囲である低出力域では低出力運転を行い、その低出力域よりも出力が大きい側の出力範囲である第1高出力域では第2高出力運転を行い、更に、その第1高出力域よりも出力が大きい側の出力範囲である第2高出力域では第2高出力運転を行うという形態で、区画した複数の出力域の夫々において燃焼モードや各種制御方法を変更した夫々の運転を行うように構成されている。
以下、その夫々の運転パターンの詳細について、図2も参照して以下に説明する。
【0037】
〔低出力運転〕
低出力域において、ECU30は、上述したスロットル弁6の開度制御による吸気量出力制御を実行しながら、燃焼モードを希薄燃焼モードに設定すると共に、EGR調整弁21の開度制御により、EGR率を例えば5%程度の低EGR率に設定する低出力運転を行う。
即ち、この低出力運転時には、燃焼モードが希薄燃焼モードに設定されることで、燃焼室1における混合気Mの空燃比が比較的高め(燃料希薄側)に設定されるため、吸気量出力制御により制御されるスロットル弁6の開度は比較的大きいものに設定される。
そこで、低出力運転時には、EGR調整弁21により調整されるEGR率は低EGR率に設定されることで、スロットル弁6の開度増加が抑制されているので、その低出力運転を行う低出力域の最大出力はできるだけ高いものになっている。よって、この低出力運転はできるだけ広い出力域で実行されることになるので、希薄燃焼による効果、即ち、高効率及び低エミッション等が十分に実現されることになる。
【0038】
更に、この低出力域は、低出力運転時においてスロットル弁6の開度を最小の略全閉(開度0%)にするときの出力から、同スロットル弁6の開度を最大の略全開(開度100%)とするときの出力までの出力域として設定されている。
これにより、低出力域が可能な範囲で最大幅の出力域として設定されることになり、希薄燃焼による効果がより一層広い出力域にて享受できるものとなる。
尚、本実施形態では、この低出力域は、エンジン100の最高出力に対して、0%〜60%の範囲内の出力域として設定されることになる。
【0039】
また、この低出力運転時において、ECU30は、NOxセンサ23の検出結果に基づいてEGR調整弁21の開度を制御するNOx制御を実行するように構成されている。
即ち、希薄燃焼モードにて低出力運転を行う際の排ガスEの空燃比は、上述したように、酸化性成分が還元性成分に対して過多の酸素濃度が比較的高い状態となっており、この高空燃比の排ガスEは、三元触媒部22を通過させてもNOxの除去処理はできない。
そこで、上記のように、ECU30は、希薄燃焼モードにて低出力運転を行う際に、NOxセンサ23で検出されるNOx濃度が許容値を超える恐れがある増加傾向にある場合には、EGR率を増加させてNOx低減を図る形態で、上記NOx制御を実行することで、排ガスEのNOx濃度が常に許容値(100ppm)以下に維持されている。
【0040】
〔第1高出力運転〕
上記低出力域よりも高い出力範囲の第1高出力域において、ECU30は、上述したスロットル弁6の開度制御による吸気量出力制御を実行しながら、燃焼モードをストイキ燃焼モードに設定すると共に、EGR調整弁21の開度制御により、EGR率を例えばEGR調整弁21を全開としたときのEGR率に相当する15%程度の高EGR率に設定する第1高出力運転を行う。
即ち、この第1高出力運転時には、燃焼モードがストイキ燃焼モードに設定されることで、燃焼室1における混合気Mの空燃比が比較的低めの理論空燃比に設定されるため、吸気量出力制御により制御されるスロットル弁6の開度は上述した希薄燃焼モード設定時よりも減少傾向となり、スロットル弁6の開度について増加側に余裕ができる。
そこで、この第1高出力運転時には、ストイキ燃焼によるスロットル弁6の開度の縮小により得られた増加側の余裕の一部をEGR率の増加で利用する形態で、EGR率が希薄燃焼モード設定時の低EGR率よりも高EGR率に設定されることで、EGRによる効果、即ち、ポンプ損失による効率低下の抑制、NOx生成の抑制、熱効率の向上、耐久性の向上等が比較的高い第1高出力域において十分に実現されることになる。
【0041】
この第1高出力域は、上述した低出力域における最大出力から第1高出力運転時においてスロットル弁6の開度を最大の略全開(開度100%)にするときの出力までの出力域として設定されている。
これにより、第1高出力域ができるだけ広い出力域として設定されることになり、その広い第1高出力域で高EGRを維持することができるので、EGRによる効果をより広い出力域にて享受できるものとなる。
この第1高出力域の最低出力時のスロットル弁6の開度は、低出力運転時の最大出力時において第1高出力運転に切り替えてEGR率を高EGR率(例えば15%)に設定したときに縮小した場合のスロットル弁の開度に相当し、例えば本実施形態では50%程度に設定されている。
尚、本実施形態では、この第1高出力域は、エンジン100の最高出力(定格出力)に対して、60%〜90%の範囲内の出力域として設定されることになる。
【0042】
〔第2高出力運転〕
ECU30は、上述したスロットル弁6の開度制御による吸気量出力制御に代えて、EGR調整弁21の開度を制御して出力を調整するEGR出力制御を実行可能に構成されている。
即ち、このEGR出力制御では、EGR率の減少に伴うスロットル弁6の開度の増加による出力増加を利用して、EGR調整弁21の開度が制御され、回転数センサ31で検出されたエンジン回転数が設定回転数になるように出力が調整される。
【0043】
そして、上記第1高出力域よりも高い出力範囲の第2高出力域において、ECU30は、吸気量出力制御に代えて上記EGR出力制御を実行しながら、燃焼モードをストイキ燃焼モードに設定すると共に、スロットル弁6の開度を最大の全開状態に設定する第2高出力運転を行うように構成されている。
即ち、この第2高出力運転時には、スロットル弁6の開度が全開状態に維持されながら、予め略全開となっていたEGR調整弁21の開度が徐々に縮小されることで、燃焼室1への混合気Mの供給量が増加し、出力が一層増加される。
そして、この第2高出力運転時には、スロットル弁6の開度が略全開(100%)に維持されるため、ポンプ損失が極めて小さくなり高効率が維持される。
尚、本実施形態では、この第2高出力域は、エンジン100の最高出力(定格出力)に対して、90%〜100%の範囲内の出力域として設定されることになる。
【0044】
また、この第2高出力運転時において、このNOxは排気路5に設けられた三元触媒部22により好適に除去処理されることになる。
【0045】
〔別実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、夫々単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記実施形態では、最も高い第2高出力域において第2高出力運転を実行するように構成したが、この第2高出力運転を省略し、低出力運転と第1高出力運転とで全出力域をカバーするように構成しても構わない。
【0046】
(2)上記実施形態では、排気路5に排ガスE中のNOxを除去処理するための三元触媒部22を設けたが、別に、他の方法等でNOxを除去するように構成しても構わず、また、燃焼室1から排出される排ガスのNOx濃度が希薄燃焼やEGRによるNOx低減効果により許容値以下に保たれる場合には、かかるNOx除去処理用の構成を省略しても構わない。
【0047】
(3)上記実施形態では、第1高出力域、及び、第2高出力域の夫々の出力範囲について、スロットル弁6が全開状態となる出力等を基準にしたものとして例示したが、別に、夫々の出力範囲について適宜変更しても構わない。
【0048】
(4)上記実施形態では、低出力運転時においてNOxセンサ23の検出結果に基づいてEGR調整弁21の開度を制御するNOx制御を実行するように構成したが、別に、低出力運転時において希薄燃焼を行うことで、排ガス中のNOx濃度が十分に低い場合には、このNOx制御を省略しても構わない。
【0049】
(5)上記実施形態では、希薄燃焼モードにおいて、燃料Gが希薄な高空燃比の混合気Mを燃焼室1に吸気させて、その混合気を火花点火燃焼させる形態で、希薄燃焼を行うように構成したが、別に、燃焼室1において混合気Mを成層化した状態で火花点火燃焼させる形態で、希薄燃焼を行うように構成しても構わない。
即ち、ECU30は、希薄燃焼モードに燃焼モードを設定するに、吸気行程において、初期には燃料Gが希薄な高空燃比の混合気Mを燃焼室1に吸気させ、後期には略理論空燃比の混合気Mを燃焼室1に吸気させるように、空燃比調整弁13の開度を制御してミキサ12において形成される混合気Mの空燃比を変動させる。
すると、吸気行程後の圧縮行程において、燃焼室1の上部の点火プラグ15近傍には理論空燃比の混合気Mが存在し、その周囲に高空燃比の混合気Mが存在する状態、即ち成層化された状態となる。
そして、燃焼室1においてこの成層化された状態の混合気Mを圧縮し、点火プラグ15近傍の理論空燃比の混合気Mを点火プラグ15により火花点火燃焼させ、その燃焼により周囲の高空燃比の混合気Mを燃焼させるという形態で、成層燃焼が行われる。尚、この成層燃焼は、燃焼室1全体での混合気Mの空燃比が高空燃比であることから、希薄燃焼であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、
燃料と空気との混合気を圧縮して燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室への吸気量を調整可能なスロットル弁と、
前記混合気の空燃比を調整可能な空燃比調整弁と、
運転を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段が、前記スロットル弁の開度を制御して出力を調整する吸気量出力制御を実行可能に構成され、且つ、前記空燃比調整弁の開度を制御して、前記燃焼室において前記混合気を燃料希薄状態で燃焼させる希薄燃焼モードと、前記燃焼室において前記混合気をストイキ状態で燃焼させるストイキ燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替え可能に構成されたエンジンとして適応可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 :燃焼室
6 :スロットル弁
13 :空燃比調整弁
21 :EGR調整弁
22 :三元触媒部
23 :NOxセンサ(NOx濃度検出手段)
30 :ECU(制御手段)
100 :エンジン
A :空気
E :排ガス
G :燃料
M :混合気
図1
図2