特許第5788783号(P5788783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5788783N−ビニルラクタム系重合体組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788783
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】N−ビニルラクタム系重合体組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 39/04 20060101AFI20150917BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20150917BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20150917BHJP
   C08F 26/06 20060101ALI20150917BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C08L39/04
   C08K5/09
   C08K3/32
   C08F26/06
   C08F2/44 Z
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-282790(P2011-282790)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-133351(P2013-133351A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 一弘
(72)【発明者】
【氏名】神崎 明彦
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/023862(WO,A1)
【文献】 特開昭51−037981(JP,A)
【文献】 特表平07−503749(JP,A)
【文献】 特開2002−121217(JP,A)
【文献】 特開2007−308662(JP,A)
【文献】 特開2007−119770(JP,A)
【文献】 特開2007−113010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 39/04
C08F 26/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ビニルラクタム系重合体と、モノカルボン酸(塩)と次亜リン酸(塩)とを含む組成物であって、
該N−ビニルラクタム系重合体はK値が10以上、40以下であり、主鎖にリン原子を含んでおり、
該モノカルボン酸(塩)の含有量はN−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分に対して0.05質量%以上、2質量%以下であり、
該次亜リン酸(塩)の含有量はN−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分に対して0.01質量%以上、2.0質量%以下であり、
該組成物は、炭酸グアニジン由来の塩、及び、トリエタノールアミン由来の塩の少なくとも一方を含まない
N−ビニルラクタム系重合体組成物。
【請求項2】
10質量%水溶液としたときのpHが2.0〜6.0である、請求項1に記載のN−ビニルラクタム系重合体組成物。
【請求項3】
窒素雰囲気下260℃で1時間加熱した該ビニルピロリドン系重合体組成物のYI値が20未満であるN−ビニルラクタム系重合体組成物。
【請求項4】
N−ビニルラクタムを含む単量体を次亜リン酸(塩)の存在下で重合する工程と、
該重合工程により得られた、K値が10以上、40以下であり、主鎖にリン原子を含んでいる該N−ビニルラクタム系重合体に、モノカルボン酸(塩)を添加する工程を含み、
炭酸グアニジンを添加する工程、及び、トリエタノールアミンを添加する工程の少なくとも一方を含まない、請求項1または2に記載のN−ビニルラクタム系重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ビニルラクタム系重合体(組成物)に関する。より詳しくは、加熱時に色調の変化の少ないN−ビニルラクタム系重合体(組成物)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
N−ビニルラクタム系重合体、例えばポリビニルピロリドンは、安全な機能性ポリマーとして、幅広い分野で用いられている。例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途や、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造や炭素繊維の分散剤)に用いられている。特に、低K値(低分子量)のポリビニルピロリドンは、上記各種用途に有用である。
【0003】
低K値(低分子量)のポリビニルピロリドンは、一般的に、水媒体中、金属触媒の存在下で、過酸化水素を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合することにより製造される(特許文献1、2、3参照)。特に、各種用途に有用な、K値(分子量)が比較的低いポリビニルピロリドンを、低温・短時間で、安全に製造する方法として、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法が報告されている(特許文献3参照)
しかし、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物を用いる上記製造方法においては、生成するポリビニルピロリドンが重合時や保存時に茶色や黄色に着色するという問題がある。このような着色したポリビニルピロリドンは、用途によっては使用することができないという問題が生じる。このような着色の原因は、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の併用系において、過酸化水素による生成物の酸化反応、アミン化合物の酸化、アンモニアによる生成物の酸化反応の促進が原因であると考えられる。
【0004】
上記重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制する方法として、特許文献4には、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、該重合反応中および/または該重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行う方法が開示されている。
【0005】
しかし、例えば低K値(低分子量)のポリビニルピロリドンを中空糸膜の製造に使用する場合や炭素繊維強化樹脂の製造に使用する場合等には、製品の色調が問題となるが、従来の低分子量のポリビニルピロリドンは、高温に過熱した際に黄変してしまうとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−62804号公報
【特許文献2】特開平11−71414号公報
【特許文献3】特開2002−155108号公報
【特許文献4】特開2008−255147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、種々のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法が提案されているものの、高温(例えば溶融温度以上)に加熱した場合に、着色を抑制し、十分に良好な色調を維持することが可能な低K値(低分子量)のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)は知られていない。
本発明は、高温条件下においても、色調の維持が可能な、N−ビニルラクタム系重合体(組成物)を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、主鎖にリン原子を含み、特定のK値(分子量)を有するN−ビニルラクタム系重合体と、特定量のモノカルボン酸(塩)とを含む、N−ビニルラクタム系重合体組成物が、高温状態においても着色を抑制し、色調を維持することが可能であることを見出し、上記本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかるN−ビニルラクタム系重合体組成物は、N−ビニルラクタム系重合体と、モノカルボン酸(塩)とを含み、該N−ビニルラクタム系重合体はK値が10以上、40以下であり、主鎖にリン原子を含んでおり、該モノカルボン酸(塩)の含有量はN−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分に対して0.05質量%以上、2質量%以下である、N−ビニルラクタム系重合体組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱条件下(とりわけ200℃〜270℃付近)において、色調の変化(黄変)の少ないN−ビニルラクタム系重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
[N−ビニルラクタム系重合体]
<単量体>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、特定のN−ビニルラクタム系重合体(本発明のN−ビニルラクタム系重合体とも言う)を必須成分として含む。
本発明において、N−ビニルラクタム系重合体とは、N−ビニルラクタムに由来する構造単位を有する重合体をいう。ここで、N−ビニルラクタムに由来する構造単位とは、N−ビニルラクタムがラジカル重合して形成される構造単位であり、N−ビニルラクタムの重合性炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合になった構造単位である。
【0013】
ビニルラクタムとしては、環状のラクタム環を有する単量体であり、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−4−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−プロピルピロリドン、N−ビニル−4−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−5−プロピルビロリドン、N−ビニル−5−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−プロピルカプロラクタム、N−ビニル−7−ブチルカプロラクタム等が挙げられる。
N−ビニルラクタムの中でも、重合性が良好であり、得られる重合体の高温での色調の安定性が良好であることから、本発明のN−ビニルラクタム系重合体はN−ビニルピロリドン、および/またはN−ビニルカプロラクタムを必須とすることが好ましい。
【0014】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)を製造する方法は、N−ビニルラクタムを必須とする単量体を重合する工程(重合工程とも言う)を必須とすることが好ましいが、上記単量体としては、N−ビニルラクタム以外の単量体(以下、他の単量体との称する)を共重合しても良い。
すなわち、本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、任意成分として他の単量体に由来する構造単位を有していても良い。ここで、他の単量体に由来する構造単位とは、他の単量体がラジカル重合して形成される構造単位をいう。
なお、N−ビニルラクタム系重合体(組成物)とは、N−ビニルラクタム系重合体およびN−ビニルラクタム系重合体組成物をまとめて記載した表現である。
上記他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレートなど)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなど)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレートなど)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレートなど)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテルなどが挙げられる。
【0015】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、全単量体(N−ビニルラクタムと他の単量体)に由来する構造単位100質量%に対して、N−ビニルラクタムに由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下有することが好ましく、80質量%以上100質量%以下有することがより好ましく、90質量%以上100質量%以下有することがさらに好ましく、100質量%有することがもっとも好ましい。上記範囲で有することにより、炭素繊維の分散性が向上する傾向にある。
【0016】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、全単量体(N−ビニルラクタムと他の単量体)に由来する構造単位100質量%に対して、その他の単量体に由来する構造単位を0質量%以上50質量%以下有することが好ましく、0質量%以上20質量%以下有することがより好ましく、0質量%以上10質量%以下有することがさらに好ましく、0質量であることがもっとも好ましい。
【0017】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)を製造する方法において、全単量体(N−ビニルラクタムと他の単量体)に対するN−ビニルラクタムの使用割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%であることがもっとも好ましい。
【0018】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)を製造する方法において、全単量体に対するその他の単量体の使用割合は、0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることがもっとも好ましい。
なお、全単量体に由来する構造単位に対するその他の単量体に由来する構造単位の含有量を計算するときや、全単量体に対するその他の単量体等の使用割合を計算するときには、他の単量体あるいは他の単量体に由来する構造が酸基の塩を有する場合は当該酸基の塩を対応する酸基として(酸換算)、アミノ基の塩を有する場合には当該アミノ基の塩を対応するアミノ基として(アミン換算)、計算するものとする。
【0019】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において、単量体の反応系(重合釜)への添加方法としては、特に限定はされないが、全使用量に対し、重合中に実質的に連続的(逐次的)に添加する量が必要所定量の50質量%以上であることが好ましく、特に好ましくは80質量%以上であり、全量を連続的に添加することが最も好ましい。単量体を連続的に添加する場合、その滴下速度は変えてもよい。
【0020】
<重合開始剤>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)は、アゾ系重合開始剤および/または水溶性有機過酸化物の存在下で、N−ビニルラクタムを含む単量体を重合することにより製造することが好ましい。
【0021】
ここで、アゾ系重合開始剤とは、アゾ結合を有し熱などによりラジカルを発生する化合物を言う。
【0022】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において使用可能なアゾ系重合開始剤としては、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)[2,2’−アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)[2,2’−アゾビスプロパン]二硫酸塩、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノパレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が例示される。
上記アゾ系重合開始剤の中でも、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できることから、また、得られる重合体の高温での色調が良好になることから、10時間半減温度が30℃以上90℃以下であるものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上70℃以下であるものである。
上記上記アゾ系重合開始剤の中でも、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)[2,2’−アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩が、N−ビニルラクタム系重合体(組成物)の高温における色調が良好となることから特に好ましい。
【0023】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において使用可能な水溶性有機過酸化物としては、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ターシャリーヘキシルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド等のアルキルヒドロペルオキシド;ターシャリーブチルペルオキシアセテート、ジスクシノイルペルオキシド、過酢酸等が例示される。上記有機過酸化物の中でも、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できることから、また、得られる重合体の高温での色調が良好になることから、アルキルヒドロペルオキシドであることが好ましく、ターシャリーブチルヒドロペルオキシドであることが特に好ましい。
上記有機過酸化物は、10時間半減温度が30℃以上180℃以下であるものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上170℃以下であるものである。
【0024】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において使用する重合開始剤は、上記アゾ系重合開始剤、上記水溶性有機過酸化物から選択される1種または2種以上を使用することが好ましいが、これらに代えて、またはこれらと併用してその他の重合開始剤を使用しても構わない。そのような開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が例示される。
【0025】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において使用する重合開始剤の使用量(複数種使用する場合はその総量)は、特に言及する場合を除き、全単量体成分1モルに対して、15g以下、より好ましくは0.1〜12gであることが好ましい。
【0026】
上記重合開始剤の中でも、低K値(低分子量)のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造でき、かつ、得られる重合体の高温での色調が良好になることから、アゾ系重合開始剤を使用する場合には全単量体1モルに対して、1.9g以下とすることが好ましく、1.6g以下とすることが更に好ましく、1.2g以下とすることが特に好ましく、1.1g以下とすることが更に特に好ましい。アゾ系重合開始剤を使用する場合の使用量の下限は、全単量体1モルに対して、0.1g以上が好ましく、0.2g以上が更に好ましい。
一方、水溶性有機過酸化物を使用する場合には全単量体1モルに対して、1.9g以下とすることが好ましく、1.6g以下とすることが更に好ましく、1.2g以下とすることが特に好ましく、1.1g以下とすることが更に特に好ましい。
【0027】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において、重合開始剤の反応系(重合釜)への添加方法としては、特に限定はされないが、全使用量に対し、重合中に実質的に連続的に添加する量が必要所定量の50質量%以上であることが好ましく、特に好ましくは80質量%以上であり、全量を連続的に添加することが最も好ましい。重合開始剤を連続的に添加する場合、その滴下速度は変えてもよい。
なお、本発明において「重合中」とは、重合開始時点以降、重合終了時点以前を表す。本発明において、「重合開始時点」とは重合装置に単量体の少なくとも一部および開始剤の少なくとも一部の両方が添加された時点を指す。本発明において、「重合終了時点」とは、単量体を連続的(逐次的)に添加する重合方法においては、単量体の全量の重合装置への添加が終了した時点を指し、単量体を全量一括添加する場重合方法の場合には、実質的に重合反応が完了した(重合率が一定になった)時点を指す。。
重合開始剤は、水などの溶媒に溶解せずにそのまま添加しても良いが、水などの溶媒に溶解して反応系(重合釜)へ添加することが好ましい。
【0028】
<連鎖移動剤>
本発明の製造方法は、連鎖移動剤の存在下で、N−ビニルラクタムを含む単量体を重合することが好ましい。連鎖移動剤の存在下で重合することにより、低K値(低分子量)のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できる。
また、本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、重合体の主鎖にリン原子を含むことを特徴としているが、次亜リン酸、亜リン酸、次亜リン酸塩、亜リン酸塩、及びこれらの水和物(リン含有の還元剤ともいう)の存在下で単量体(N−ビニルラクタム、および必要に応じて他の単量体)を重合する工程を含むことにより、N−ビニルラクタム系重合体の主鎖にリン原子を導入することができる。
【0029】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法において、上記リン含有の還元剤は、所望に応じて他の連鎖移動剤と併用して使用しても構わないが、その場合に使用可能な連鎖移動剤として、具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩等の重亜硫酸塩(水に溶解して重亜硫酸塩を発生する化合物を含む)等の、低級酸化物およびその塩などが挙げられる。
上記連鎖移動剤の添加量は、特に言及する場合を除き、全単量体成分1モルに対して、0.05〜10gであることが好ましく、より好ましくは0.1〜5gである。0.05g未満であると、分子量が高くなる傾向にあり、逆に、10gを超えると、連鎖移動剤が残留し、重合体純分が低下するおそれがある。
【0030】
上記の通り、連鎖移動剤としては、得られるN−ビニルラクタム系重合体の高温における色調が特に良好になることから、上記リン含有の還元剤を使用することが好ましい。すなわち、本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法は、N−ビニルラクタムを重合する工程において、次亜リン酸、亜リン酸、次亜リン酸塩、亜リン酸塩、及びこれらの水和物から選択される1以上の化合物の存在下で重合を行うことが好ましい。得られるN−ビニルラクタム系重合体の高温における色調が顕著に向上することから、上記リン含有の還元剤を使用する場合は、その使用量を全単量体1モルに対して、4.0g以下とすることが好ましく、3.5g以下とすることが更に好ましく、3.0g以下とすることが特に好ましく、使用量の下限は、全単量体1モルに対して、0.3g以上が好ましく、0.5g以上が更に好ましい。
上記リン含有の還元剤の使用量が全単量体1モルに対して、上記上限を超えると、連鎖移動に寄与しない上記リン含有の還元剤(重合体に取り込まれない上記リン含有の還元剤)が必要以上に増加し、無機陰イオン量が増加することに起因して、例えば中空糸膜の製造に使用した場合に性能が低下する傾向にある。連鎖移動効率が良いことから、次亜リン酸(塩)が特に好ましい。なお、次亜リン酸(塩)とは、次亜リン酸または次亜リン酸塩であり、その水和物も含む。次亜リン酸塩としては、次亜リン酸の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩である。さらに好ましくは次亜リン酸の金属塩(その水和物も含む)である。
【0031】
連鎖移動剤は、重合開始前に反応容器(重合釜)に添加しても良いが(初期仕込みという)、全部またはその一部を重合中に反応容器(重合釜)に添加しても良い。なお、本発明において「重合開始前」とは、上記重合開始時点より前を表し、「重合終了後」とは、上記重合終了時点より後を表す。
連鎖移動剤を連続的に添加する場合は、その滴下速度は変えてもよい。
【0032】
重合開始剤の分解触媒等として作用する還元性化合物として、重金属イオン(あるいは重金属塩)を使用しても良い。本発明で重金属とは、比重が4g/cm以上の金属を意味する。重金属の中でも鉄が好ましく、上記還元性化合物として、モール塩(Fe(NH(SO・6HO)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸銅(I)および/またはその水和物、硫酸銅(II)および/またはその水和物、塩化銅(II)および/またはその水和物等の重金属塩等を用いることが好ましい。
上記重金属イオンを使用する場合、その使用量は、重合反応完結時における重合反応液の全質量に対して好ましくは0.1〜10ppmであることが好ましい。重金属イオンの含有量が0.1ppm未満であると、重金属イオンによる効果が十分に発現しないおそれがある。一方、重金属イオンの含有量が10ppmを超えると、得られる重合体の色調の悪化を来たすおそれがある。
【0033】
<重合体主鎖中のリン原子>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、主鎖にリン原子を含んでいる。本発明において主鎖にリン原子を含むとは、具体的には、主鎖末端に亜リン酸(塩)基(ホスホン酸(塩)基)が導入されている形態、主鎖末端および/または主鎖の末端以外の場所に次亜リン酸(塩)基(ホスフィン酸(塩)基)が導入されている形態をいう。なお。亜リン酸(塩)基とは、亜リン酸基および亜リン酸塩基を言い、次亜リン酸(塩)基とは、次亜リン酸基及び次亜リン酸塩基をいう。ここで、塩とは金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を言う。
例えば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であれば、−P(=O)(OH)で表され、次亜リン酸ナトリウム基(ホスフィン酸ナトリウム基)であれば、−PH(=O)(ONa)、−P(=O)(ONa)−、で表される。
【0034】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、N−ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%に対して、亜リン酸(塩)基および/または次亜リン酸(塩)基を0.05〜3.0質量%含有することが好ましい。上記範囲で亜リン酸(塩)基および/または次亜リン酸(塩)基を有することにより、N−ビニルラクタム系重合体組成物の高温における色調が良好となる(着色を抑制する効果が向上する)傾向にある。
【0035】
<その他の添加剤>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法は、重合工程において、重合反応の促進やN−ビニルラクタムの加水分解の防止等を目的として、無機塩基を用い得る。無機塩基は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記無機塩基は、重合反応の反応系において、塩基性pH調節剤としても機能し得る。
上記無機塩基の添加は、任意の適切な方法で行うことができ、例えば、重合初期より反応容器内に仕込んでおいてもよいし、重合中に反応容器中に逐次添加してもよい。
上記無機塩基としては、任意の適切な無機塩基を採用し得る。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;等が例示される。上記無機塩基は、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記無機塩基を使用する場合の合計量は、N−ビニルラクタムに対して、0.02質量%以上であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましい。上記範囲であれば、反応中のpHの低下に伴うN−ビニルラクタムの加水分解や着色を抑制する効果が得られる。
【0036】
<重合溶媒>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法は、重合工程において溶媒を使用することが好ましく、水性溶媒を使用することが特に好ましい。本発明において水性溶媒とは、水または水を含む混合溶媒を表す。水を含む混合溶媒としては、全溶媒に対して50質量%以上が水である混合溶媒または水であることが好ましく、80質量%以上が水であることが更に好ましい。水のみを使用することが特に好ましい。水のみを使用する場合には、有機溶剤の残存が回避できる点で好適である。
ここで重合の際、水とともに使用できる溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法における重合工程は、好ましくは、重合終了後の固形分濃度(溶液の内、不揮発分の濃度であり、後述する測定方法で測定される)が、重合溶液100質量%に対して10〜70質量%となるように行うことが好ましく、15〜60質量%が更に好ましく、20〜55質量%が特に好ましい。
【0038】
<その他の重合条件>
重合の際の温度は好ましくは70℃以上であり、より好ましくは75〜110℃であり、さらに好ましくは80〜105℃である。重合時の温度が上記範囲であれば、残存単量体成分が少なくなり、重合体の分散性が向上する傾向にある。なお、重合時の温度は、重合反応の進行中において、常に一定に保持する必要はなく、例えば、室温から重合を開始し、適当な昇温時間または昇温速度で設定温度まで昇温し、その後、設定温度を保持するようにしてもよいし、単量体成分や開始剤等の滴下方法に応じて、重合反応の進行中に経時的に重合温度を変動(昇温または降温)させてもよい。
【0039】
重合時のpHとしては、不純物あるいは副生成物を抑制の観点から、4以上が好ましく、6以上が好ましく、11以下が好ましい。特に好ましくは、重合開始時点から重合終了時点の間の重合液のpHを7以上、9以下に維持することである。
【0040】
重合時間(上記重合開始時点から重合終了時点の間)は、30分以上、5時間以下であることが好ましい。重合時間が長くなると、重合液の着色が大きくなる傾向にある。
上記重合終了時点後、重合液に残存する単量体を低減する目的等で、熟成工程(重合後、加温・保温条件下で保持する工程をいう)を設けても良い。熟成時間は通常、1分以上、4時間以内である。残存する単量体を低減する目的で、熟成時間中に、更に重合開始剤を添加しても良い。
重合において、単量体の添加終了時間より、開始剤の滴下終了時間を遅らすことが、重合液に残存する単量体を低減することができることから好ましい。より好ましくは1〜120分遅らせることであり、5〜60分遅らせることが更に好ましい。
【0041】
反応系内の圧力としては、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよいが、得られる重合体の分子量の点では、常圧下、または、反応系内を密閉し、加圧下で行うことが好ましい。また、加圧装置や減圧装置、耐圧性の反応容器や配管等の設備の点では、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。反応系内の雰囲気としては、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのが好ましく、例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0042】
<N−ビニルラクタム系重合体のK値>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、フィケンチャー法によるK値が10以上、40以下であることが好ましい。より好ましくは、10〜35である。上記範囲であることにより、例えば炭素繊維の分散性が向上する傾向にある。
フィケンチャー法によるK値は、以下の測定方法によって求めることができる。K値が20未満である場合には5%(g/100ml)溶液の粘度を測定し、K値が20以上の場合は1%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。試料濃度は乾燥物換算する。K値が20以上の場合、試料は1.0gを精密に計りとり、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分放置後、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。溶液が2つの印線の間を流れる時間を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を測定するために、蒸留水についても同様に測定する。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ−キュッテ(Hagenbach−Couette)の補正に基づいて補正する。
【0043】
【数1】
【0044】

上記式中、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)、Cは濃度(%:g/100ml)である。
相対粘度ηrelは次式により得られる。
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)。
【0045】
[N−ビニルラクタム系重合体組成物]
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、上記N−ビニルラクタム系重合体と、モノカルボン酸(塩)とを含んでいる。
【0046】
<モノカルボン酸(塩)>
上記モノカルボン酸(塩)としては、分子内にカルボン酸(塩)基を1つ有する化合物である。N−ビニルラクタム系重合体組成物がモノカルボン酸(塩)を所定量含むことにより、N−ビニルラクタム系重合体組成物の高温における色調が顕著に良好となる(着色が抑制される)傾向にある。
上記モノカルボン酸(塩)としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、及びこれらの塩等が例示される。高温における色調の向上効果が高いことから、飽和脂肪酸が好ましく、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、及びこれらの塩等がさらに好ましく、蟻酸、酢酸が特に好ましい。
【0047】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、上記モノカルボン酸(塩)をN−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分に対して0.05質量%以上、3.0質量%以下含むことが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上、2.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上、1.0質量%以下である。
なお、上記のモノカルボン酸(塩)の含有量の算出において、N−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分は、後述の固形分の測定方法により測定し、モノカルボン酸(塩)は酸型として含有量を計算する。
【0048】
<次亜リン酸(塩)>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、さらに高温における色調が向上する傾向にあることから、上記次亜リン酸(塩)をN−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分に対して0.01質量%以上、2.0質量%以下含むことが好ましい。より好ましくは0.03質量%以上、1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上、0.5質量%以下である。
なお、上記の次亜リン酸(塩)の含有量の算出において、N−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分は、後述の固形分の測定方法により測定し、次亜リン酸(塩)は酸型として含有量を計算する。
【0049】
<その他の成分>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、N−ビニルラクタム系重合体を、必須成分としているが、N−ビニルラクタム系重合体組成物の固形分に対して1質量%以上、99質量%以下含むことが好ましい。
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、溶媒を含んでいてもよく、溶媒の含有量は例えば0質量%以上、99質量%以下であることが好ましい。
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物を中空糸膜の製造や炭素繊維強化樹脂用炭素繊維分散剤として使用する場合、該N−ビニルラクタム系重合体組成物中の水含有率は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、上記の他、残存原料や重合開始剤や還元剤等の残渣、副生成物を含んでいても良い。
【0050】
<N−ビニルラクタム系重合体組成物のpH>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、高温における色調が顕著に良好となる(着色が抑制される)傾向にあることから、10質量%水溶液としたときのpHが2.0〜6.0であることが好ましい。さらに好ましくはpHが2.5〜5.5であり、特に好ましくはpHが3.0〜5.0である。
【0051】
<N−ビニルラクタム系重合体組成物の製造方法>
N−ビニルラクタム系重合体を重合する工程については上記の通りである。
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物の製造方法は、重合中および/または重合後に、N−ビニルラクタム系重合体にモノカルボン酸(塩)を添加する工程(モノカルボン酸(塩)添加工程とも言う)を必須とすることが好ましい。但し、重合開始前にいずれかの原料にモノカルボン酸(塩)を予め添加しておくことによりN−ビニルラクタム系重合体組成物を製造する方法、重合中および/または重合後にモノカルボン酸(塩)を発生させることによりN−ビニルラクタム系重合体組成物を製造する方法を用いても構わない。
モノカルボン酸(塩)の添加は、重合終了後に行うことが特に好ましい。
【0052】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物の製造方法は、連鎖移動剤として使用する次亜リン酸(塩)とは別に、重合後に、N−ビニルラクタム系重合体に次亜リン酸(塩)を添加する工程(次亜リン酸(塩)添加工程とも言う)を含んでいても良い。
【0053】
<重合工程以外の工程>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体(組成物)の製造方法は、上記の重合工程、モノカルボン酸(塩)添加工程、の他、必要に応じて、精製工程、脱塩工程、濃縮工程、希釈工程、乾燥工程等を含んでいても良い。
【0054】
乾燥工程は、粉体化などを行なう工程であり、一般的方法で行えばよく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、ベルト式乾燥などにより、粉末に移行させることができる。
【0055】
また、反応液(重合液)を陽イオン交換樹脂で処理することにより、得られるN−ビニルラクタム溶液の色調を改善することができる。陽イオン交換樹脂で処理する工程は、重合中(重合工程と並行して)または重合後に行うことができる。
上記重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、上記単量体成分の重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加することにより行うことができる。具体的には、例えば、重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加して微細に懸濁させ、その後に濾過する形態が挙げられる。
上記陽イオン交換樹脂による処理の時間は、任意の適切な時間を採用し得る。好ましくは1分〜24時間であり、より好ましくは3分〜12時間であり、さらに好ましくは5分〜2時間である。処理時間が短すぎると本発明の効果が十分に発現できないおそれがある。処理時間が長すぎると生産性が悪くなるおそれがある。
【0056】
<N−ビニルラクタム系重合体組成物の耐熱性>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、高温過熱時の着色を低く抑えることが可能である。具体的には、窒素雰囲気下260℃で1時間加熱した該ビニルピロリドン系重合体組成物のYI値が20未満であることが好ましい。
【0057】
<N−ビニルラクタム系重合体(組成物)の用途>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体、本発明の製造方法によって得られるN−ビニルラクタム系重合体は、任意の適切な用途に用いることができる。その用途の一例を挙げれば、各種無機物や有機物の分散剤、凝集剤、増粘剤、粘着剤、接着剤、表面コーティング剤、架橋性組成物等であり、より具体的には、炭素繊維分散剤、泥土分散剤、セメント材料分散剤、セメント材料用増粘剤、洗剤用ビルダー、洗剤用色移り防止剤、重金属補足剤、金属表面処理剤、染色助剤、染料定着剤、泡安定剤、乳化安定剤、インク染料分散剤、水性インク安定剤、塗料用顔料分散剤、塗料用シックナー、感圧接着剤、紙用接着剤、スティック糊、医療用接着剤、貼付剤用粘着剤、化粧パック用粘着剤、樹脂用フィラー分散剤、記録紙用コーティング剤、インクジェット紙用表面処理剤、感光性樹脂用分散剤、帯電防止剤、保湿剤、肥料用バインダー、高分子架橋剤、樹脂相溶化剤、写真薬添加剤、化粧用調剤添加剤、整髪料助剤、ヘアスプレー添加剤、サンスクリーン組成物用添加剤、あるいは、種々の工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
また、本発明の重合体の重量平均分子量、数平均分子量、未反応の単量体の定量、重合体組成物、重合体水溶液の固形分量は、下記の方法に従って測定した。
【0059】
<重合体水溶液、重合体組成物の固形分測定方法>
窒素雰囲気下、150℃に加熱したオーブンで重合体組成物2.0gを1時間放置して乾燥処理した。乾燥前後の質量変化から、固形分(%)と、揮発成分(%)を算出した。
【0060】
<単量体の分析>
単量体の分析は、以下の条件で、液体クロマトグラフィーを用いて分析した。
装置:資生堂「NANOSPACESI−2」
カラム:資生堂「CAPCELLPAK C18 UG120」、20℃
溶離液:LC用メタノール(和光純薬工業株式会社製)/超純水=1/24(質量比)、1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム0.4質量%添加
流速:100μL/min。
【0061】
<重合体の分子量の測定>
上記のK値の測定法により測定した。
【0062】
<重合体中の含リン還元剤に由来する構造単位の分析>
重合体中の含リン還元剤に由来する構造単位の定量は、31P−NMRの測定により行なった。
31P−NMRの測定条件:
測定する重合体を室温で減圧乾燥し、得られた固形分を重水(アルドリッチ社製)に10質量%となるように溶解し、Varian社製UnityPlus−400(400MHz、パルスシーケンス:s2pu1、測定間隔:10.000秒、パルス:45.0度、捕捉時間:0.800秒、積算回数:128回)にて測定した。
【0063】
[実施例1]
マックスブレンド(住友重機械工業株式会社の登録商標)型の攪拌翼、ガラス製の蓋を備えたSUS製反応容器に、イオン交換水430.0質量部、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下、「48%NaOH」と称する)0.16質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物(以下、「SHP」と称する)4.25質量部を仕込み、90℃に昇温した。N−ビニルピロリドン(以下、「NVP」と称する)500質量部、イオン交換水55.6質量部からなる単量体水溶液を180分かけて、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩(以下、「V−50」と称する)1.5質量部、イオン交換水8.5質量部からなる重合開始剤水溶液を210分かけて、反応容器に添加した。重合開始から240分後、酢酸3.5質量部を添加し、更に90分間90℃を維持して、重合体(1)を含む重合体組成物(1)を得た。
【0064】
[実施例2]
実施例1の酢酸3.5質量部の代わりに88%ぎ酸水溶液3.05質量部を用いた以外は実施例1と同様に重合を行い、重合体(2)を含む重合体組成物(2)を得た。
[実施例3]
表1に示した条件で、実施例1と同様に重合体(3)を含む重合体組成物(3)を得た。
【0065】
[比較例1]
反応容器に水93.8部と0.1%硫酸銅(II)水溶液0.0046部とを仕込み、これを60℃まで昇温した。
次いで、60℃を維持しながら、N−ビニルピロリドン100部と25%アンモニア水0.6部とを混合した単量体水溶液、及び、35%過酸化水素水溶液3.4部を、夫々別々に180分間かけて滴下した。
滴下終了後、25%アンモニア水0.2部を添加した。反応開始から4時間後、80℃に昇温し、35%過酸化水素水0.5部を添加した。次いで、反応開始から5.5時間後、35%過酸化水素水0.5部を添加し、更に80℃で1時間保持して50%のポリビニルピロリドンを含有する比較重合体(1)を含む比較重合体組成物(1)を得た。
【0066】
[比較例2]
表1に示した条件で、実施例1と同様に比較重合体(2)を含む比較重合体組成物(2)を得た。
【0067】
表1中、「V−50」とは、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩を表わし、「0.1%CuSO」とは、0.1%硫酸銅(II)水溶液を表す。
【0068】
【表1】
【0069】
[実施例6]
以下の手順で高温条件下での色調の評価を行った。
上記実施例、比較例で得られた重合体組成物(1)〜(4)、比較重合体組成物(1)〜(2)を、ドラムドライヤーで乾燥した(蒸気圧3.0kgf/cm、ドラム回転数1.5rpm)。
乾燥後の各組成物を、窒素雰囲気下260℃で60分間加熱後、空気中にて放冷した。
デシケーター中で空冷し、室温に戻ったサンプルを、以下の条件で色差計を用い、YI値を測定した。なお、YI値が低いほど、黄色が小さいことを示す。
装置:日本電色工業株式会社「色差計SE−2000」
方法:加熱前後のサンプルを石英セルに敷き、遮光下「反射モード」にて測定する。
評価結果を表2に示した。表2の結果から、本発明のN−ビニルラクタム系重合体組成物は、従来のN−ビニルラクタム系重合体組成物と比較して高温条件下における耐着色性(良好な色調)を示すことが明らかとなった。
【0070】
【表2】