(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に(D)無機充填剤を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し10〜100重量部配合してなる請求項1記載の溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び複合成形品に関するものである。
背景技術
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)に代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、成形流動性等に優れ、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品等、自動車分野、電気・電子分野に幅広く使用されている。これら部品で、ポリエステル樹脂は主に電子部品保護用の外装材料として使用されるため、数種類の部品から出来ており、その接合工法として従来ネジ止めや接着、熱溶着などが用いられてきた。
【0003】
しかし、ネジ止めでは、インサートナット、ネジ、ワッシャー等にかかる費用、締結の手間、重量増が問題となる。また、接着剤は、硬化するまでの時間的ロスや固定治具が必要な場合が多く、それに伴うコストアップの問題があり、また環境保護の点から溶剤の使用が問題となっている。
【0004】
一方、レーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、スピン溶着等に代表される熱溶着は短時間で接合が可能であり、接着剤やネジ等の金属部品を使用しないため、それにかかるコストや重量増、環境汚染等の問題が発生しないことから、この方法による組立が増えてきている。
【0005】
また、電子部品保護用の外装材料として使用される場合、電気信号を伝達するための金属端子などが埋め込まれることが多いが、自動車エンジンルーム等の温度昇降の激しい環境に設置される部品では、金属と樹脂の線膨張差から生じる歪によりクラックが発生しやすく、部品の機能を損なってしまうため、クラック防止の目的でポリブチレンテレフタレートにエラストマー等を含有させ靱性を改良することが多く、種々の組成物が提案されている。
【0006】
例えば、特開平3−285945号公報では、ポリブチレンテレフタレートにエチレンアルキルアクリレート等のエラストマーを添加することにより耐ヒートショック性が向上することが示されている。しかし、無添加のものに比べれば改善効果は認められるものの耐ヒートショック性としては十分でない場合もある。
【0007】
また、特開昭60−210659号公報では、ポリブチレンテレフタレートにエチレンアルキルアクリレート等のエラストマーとエポキシ樹脂又はカルボジイミドを添加することにより、耐熱水性が向上することが示されている。しかし、この組成物では耐熱水性は向上するものの耐ヒートショック性は十分でない。
【0008】
更に、特開2004−315805号公報では、ポリブチレンテレフタレートと特定屈折率のエラストマーを用いることでレーザー溶着性とヒートショック性が改善されることが示されている。しかし、この組成物ではヒートショック性向上のためにエラストマー量を多くした場合、振動溶着などではエラストマーの凝集により、溶着不良の原因や溶着強度そのものが低下するという問題があった。
【0009】
このように、従来から靱性改良のためエラストマーを配合することは周知であるが、靱性改良のため必要な量のエラストマーを配合すると溶着強度が低下するという問題についての解決手法が無かった。
発明の概要
【0010】
本発明は上記従来技術の課題に鑑み案出されたものであり、本発明の目的はポリブチレンテレフタレート樹脂からなる成形品をレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、スピン溶着等に代表される熱溶着加工方法により一体化させる際、高い溶着強度を保持し且つ冷熱サイクル環境下での耐久性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂材料の提供を目的とする。
【0011】
本発明者らは上記目的を達成し得るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得るため鋭意検討を行った結果、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を主体とし、これに特定量のカルボジイミド化合物及び必要により一定量以下のエラストマーを配合した組成物は、耐ヒートショック性に優れ、且つ高い溶着強度を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、
(A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、
(B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.5当量となる量
(C)エラストマー;0〜15重量部
を配合してなる溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品同士を熱溶着により接合した複合成形品、並びに上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品と他の材料からなる成形品を熱溶着により接合した複合成形品である。
【0013】
本発明によれば、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と熱溶着による接合加工性に優れた溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提供される。本発明の溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、各種複合成形品、特に金属等がインサートされた成形品に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1の(a)、(b)は、実施例で行ったレーザー溶着性試験に用いた試験片と試験方法を示す図である。尚、図中の数値の単位はmmである。
【
図2】
図2は、実施例で行った振動溶着性試験に用いた試験片を示す図である。尚、図中の数値の単位はmmである。発明を実施するための形態
【0015】
以下、順次本発明の樹脂材料の構成成分について詳しく説明する。まず本発明の樹脂組成物の基礎樹脂である(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(低級アルコールエステルなど)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4
−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75〜95モル%程度)含有する共重合体であってもよい。
【0016】
本発明では、ポリブチレンテレフタレート樹脂の粉砕試料をベンジルアルコール中215℃で10分間溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、測定した末端カルボキシル基量が30meq/kg以下、好ましくは25meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂が用いられる。
【0017】
末端カルボキシル基量が30meq/kgを超えるポリブチレンテレフタレート樹脂を用いたのでは、耐ヒートショック性の向上効果が低下し、また湿熱環境下で加水分解による強度低下が大きくなる。
【0018】
また、末端カルボキシル基量の下限は特に限定されないが、一般的に5meq/kg未満のものは製造が困難であり、また5meq/kg未満のものではカルボジイミド化合物との反応が十分に進まず、耐ヒートショック性の向上効果が不十分なおそれがある。従って、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は5meq/kg以上が好ましく、特に好ましくは10meq/kg以上である。
【0019】
また、使用する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は0.67〜0.90dL/gであることが望ましい。固有粘度が0.90dL/gを超えるとインサート成形品に必要な成形時の流動性が得られない場合がある。異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、例えば固有粘度1.00dL/gと0.70dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、0.90dL/g以下の固有粘度を実現してもよい。尚、固有粘度は、例えば、o−クロロフェノール中、温度35℃の条件で測定できる。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などの、C
6〜C
12
アリールジカルボン酸など)、脂肪族ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC
4〜C
16
アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのC
5〜C
10 シクロアルキルジカルボン酸など)、またはそれらのエステル形成誘導体などが例示できる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸などのC
6〜C
10アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸成分(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC
6〜C
12アルキルジカルボン酸)が含まれる。
【0022】
1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分〔例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオールなどのC
2〜C
10アルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリオキシC
2〜C
4アルキレングリコールなど)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオールなど〕、芳香族ジオール成分〔ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族アルコール、ビスフェノールAのC
2〜C
4アルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体など)など〕、またはそれらのエステル形成誘導体などが挙げられる。これらのグリコール成分も単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特に、C
2〜C
6アルキレングリコール、ジエチレングリコールなどのポリオキシC
2〜C
3アルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール)が含まれる。
【0024】
前記化合物をモノマー成分とする重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート重合体は、いずれも本発明の(A) 成分として使用できる。ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体との併用も有用である。
【0025】
本発明で用いられる(B)カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物の何れも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
【0026】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等が、脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド等が挙げられる。
【0027】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−p−メトキシフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド化合物が挙げられ、これらは2種以上併用することもできる。これらの中でも特にジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0028】
また、(B)カルボジイミド化合物としては、分子量が2000以上、好ましくは10000以上のものを使用することが好ましい。分子量が2000未満のものでは、溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合など、著しいガスや臭気が発生するおそれがある。
【0029】
(B)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.5当量となる量である。
【0030】
(B)成分が少なすぎると本発明の目的とする耐ヒートショック性改良効果が得られない。また多すぎると流動性の低下や、コンパウンド時や成形加工時にゲル成分、炭化物の生成が起こりやすく、引張り強度や曲げ強さ等の機械特性が低下したり、湿熱下で急激な強度低下が起きる。これはポリブチレンテレフタレート樹脂と無機充填剤との密着性が(B)成分により阻害されるためである。好ましい配合量は、カルボジイミド官能基量が0.5〜1.5当量となる量、更に好ましくは0.8〜1.2当量となる量である。
【0031】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、(C)エラストマーを配合することができる。エラストマーとしては、熱可塑性エラストマーやコアシェルエラストマーが望ましい。熱可塑性エラストマーとしては、グラフト化されたオレフィン系、スチレン系、ポリエステル系のエラストマーが挙げられる。
【0032】
(C)エラストマーの添加量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し15重量部以下であり、好ましくは1〜10重量部、特に好ましくは5〜10重量部である。1重量部より少ない耐ヒートショック性改善効果が少なく、15重量部より多いと溶着性が劣るものとなる。
【0033】
グラフト化されたオレフィン系エラストマーとして好ましいものは、エチレン及び/又はプロピレンを主成分とする共重合体であり、(a-1)エチレン−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体又は(a-2)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルから成るオレフィン系共重合体と、(b)主として下記一般式(1)で示される繰返し単位で構成された重合体又は共重合体の一種又は二種以上が分岐又は架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体が好適に利用ができる。
【0034】
【化1】
【0035】
(但し、Rは水素又は低級アルキル基、Xは-COOCH
3、-COOC
2H
5、-COOC
4H
9、-COOCH
2CH(C
2H
5)C
4H
9、-C
6H
5、-CNから選ばれた一種又は二種以上の基を示す)
かかるグラフト共重合体は、特に耐ヒートショック性の改善に効果がある。
【0036】
(a-1)エチレン−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体の具体例としては、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エチル共重合体等のランダム共重合体が挙げられ、更にこれらの共重合体を混合しても使用できる。又、(a-2)のオレフィン系共重合体を構成する一方のモノマーであるα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1等が挙げられるが、エチレンが好ましく用いられる。又、(a-2)成分を構成する他のモノマーであるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、下記一般式(2)で示される化合物であり、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられるが、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましく用いられる。
【0037】
【化2】
【0038】
(但し、R
1は水素原子又は低級アルキル基を示す)
α−オレフィン(例えばエチレン)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルから成るオレフィン系共重合体は、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合させることによって得ることができる。α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの比率は、α−オレフィン70〜99重量%、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル1〜30重量%が好適である。
【0039】
次に、このオレフィン系共重合体(a-1)又は(a-2)とグラフト重合させる重合体又は共重合体(b)とは、前記一般式(1)で示される繰返し単位一種で構成された単独重合体又は二種以上で構成される共重合体であり、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体等が挙げられるが、特に好ましくはアクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体である。これらの重合体又は共重合体(b)も対応するビニル系モノマーのラジカル重合によって調製される。
【0040】
本発明で好ましく使用されるグラフト共重合体は、前記(a-1)又は(a-2)のオレフィン系共重合体又は(b)の(共)重合体が単独で用いられるのではなく、(a-1)又は(a-2)の共重合体と(b)の(共)重合体が少なくとも一点で化学結合した分岐又は架橋構造を有するグラフト共重合物である点にその特徴を有し、かかるグラフト構造を有することによって(a-1)、(a-2)又は(b)の単独配合にては得られない顕著な効果を得るのである。ここで、グラフト共重合体を構成するための(a-1)又は(a-2)と(b)の割合は95:5〜5:95(重量比)、好ましくは80:20〜20:80が適当である。
【0041】
次に、スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックで構成されたブロック共重合体等が好ましい。具体的には、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。
【0042】
次に、ポリエステル系エラストマーは、ポリエーテル型とポリエステル型に分類できるが、その曲げ弾性率が1000MPa以下、好ましくは700MPa以下であれば、何れも用いることができる。曲げ弾性率が1000MPaを越えては、充分な柔軟性が得られなくなる。ポリエーテル型とは、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、オキシアルキレングリコールの重合体とジカルボン酸からなるポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルエラストマーである。ハードセグメント中の芳香族ポリエステル単位とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれら三成分化合物の重縮合物である。例えばポリブチレンテレフタレート等がハードセグメントとして用いられる。ソフトセグメントとしては、ポリアルキレンエーテルとジカルボン酸の重縮合による化合物が用いられる。例えば、テトラヒドロフランから誘導されるポリオキシテトラメチレングリコールのエステル化合物が用いられる。上記したポリエーテルエラストマーは、例えば東洋紡績(株)製ペルプレンP-30B、P-70B、P-90B、P-280B、東レデュポン(株)製ハイトレル4057、4767、6347、7247、チコナ(株)製ライトフレックス655などとしても市販されている。
【0043】
ポリエステル型とは、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、非晶性ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルエラストマーである。ハードセグメント中の芳香族ポリエステル単位は、上記ポリエーテル型と同様である。ソフトセグメントは、ラクトンの開環重合体、即ちポリラクトンか、又は脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールより誘導される脂肪族ポリエステルである。ポリエステル型エラストマーとしては、例えば東洋紡績(株)製ペルプレンS-1002、S-2002などとしても市販されている。
【0044】
次に、コアシェル系エラストマーは、コア層(コア部)と、このコア層(コア層の表面)の一部又は全部を被覆するシェル層とで構成された多層構造を有するポリマーである。コアシェル系エラストマーは、コア層がゴム成分(軟質成分)で構成され、特にアクリル系ゴムであることが好ましい。ゴム成分のガラス転移温度は、例えば、0℃未満(例えば、−10℃以下)、好ましくは−20℃以下(例えば、−180〜−25℃程度)、更に好ましくは−30℃以下(例えば、−150〜−40℃程度)であってもよい。
【0045】
ゴム成分としてのアクリル系ゴムは、アクリル系モノマー〔特に、アルキルアクリレート(ブチルアクリレート等のアクリル酸C
1〜C
12アルキルエステル、好ましくはアクリル酸C
1〜C
8アルキルエステル、更に好ましくはアクリル酸C
2〜C
6アルキルエステル)等のアクリル酸エステル〕を主成分とするポリマーである。アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独又は共重合体(アクリル系モノマー同士の共重合体、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体等)であってもよく、アクリル系モノマー(および他の不飽和結合含有モノマー)と架橋製モノマーとの共重合体であってもよい。
【0046】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、更に(D)無機充填剤を配合することができる。(D)無機充填剤としては、繊維状充填剤と非繊維状充填剤とがあるが繊維状充填剤が好ましい。板状や粒状の非繊維状無機充填剤、例えばガラスビーズ、ガラスフレーク、シリカ、カオリン、タルク、クレー、ウォラストナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等では、単独で使用した場合に十分な強度が得られないため、繊維状充填剤と併用することが好ましい。
【0047】
本発明で用いられる繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられるが、ガラス繊維が好ましい。
【0048】
ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明では、ガラスの種類にも限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0049】
また、本発明では、繊維状充填剤と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された繊維状充填剤が特に好ましく用いられ、加熱減量値で示される有機処理剤量が1重量%以上であるガラス繊維が特に好ましく用いられる。かかる繊維状充填剤に用いられるアミノシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができ、本発明で繊維状充填剤の表面処理に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0050】
(D)無機充填剤は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し10〜100重量部が用いられる。かかる範囲より少ないと冷熱サイクルに伴う線膨張変化が大きく、耐ヒートショック性上好ましくない。かかる範囲を超えて配合されると、材料の許容歪量が低下し、耐ヒートショック性上好ましくない。好ましくは20〜80重量部、特に好ましくは30〜60重量部である。
【0051】
本発明組成物には更にその目的に応じ所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤や耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤、エポキシ化合物等を配合してもよい。
【0052】
本発明で用いる樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0053】
また、(B)カルボジイミド化合物は、樹脂をマトリックスとするマスターバッチとして配合することも可能であり、マスターバッチを使用することが実際の取り扱いの面から容易なことも多い。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチが好適に用いられるが、他の樹脂によりマスターバッチとして調製されたものを使用してもかまわない。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチの場合、所定の配合量の範囲内になるように調整すればよい。マスターバッチは溶融混練時に予め投入し、均一ペレットとしてもよい。また、カルボジイミド化合物以外の成分を予め溶融混練等により均一ペレットとしておき、カルボジイミド化合物のマスターバッチペレットを成形時にドライブレンドしたペレットブレンド品を成形に用いてもよい。
【0054】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品は、レーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、スピン溶着等に代表される熱溶着加工方法により接合可能であり、高い溶着強度を保持し且つ冷熱サイクル環境下での耐久性に優れており、自動車分野、電気・電子分野等に幅広く利用することができる。
【0055】
本発明では、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品(A)と他の成形品(B)を上記のような熱溶着により接合して複合成形品とすることができる。この場合、他の成形品(B)としては上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品(A)と同じ材料でもよく、他の材料からなるものであってもよい。
【0056】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品がインサート成形品である場合、特に本発明の効果が顕著である。
【0057】
レーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、スピン溶着等の熱溶着加工方法としては従来周知の方法をそのまま適用できる。レーザー溶着の場合、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品は、透過側にも吸収側の何れに用いてもよく、もちろん両方に用いてもよい。
【0058】
成形品(A)と他の成形品(B)を熱溶着により接合する際、本発明の効果を損なわない範囲で、成形品(A)と他の成形品(B)の接合面にパッキン、防水透湿シート、フィルム、プラスチックレンズ等の機能部品を挟み込んでもよい。
実施例
【0059】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
実施例1〜7、比較例1〜6
表1に示す成分を秤量後ドライブレンドし、30mmφ2軸押出機((株)日本製鋼所製TEX-30)を用いて溶融混練しペレットを作成した(シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュー回転数150rpm)。次いで、このペレットから各試験片を作成し、各種物性を測定した。結果をあわせて表1に示す。
【0061】
また、使用した成分の詳細、物性評価の測定法は以下の通りである。
(A) ポリブチレンテレフタレート樹脂
・(A-1) ポリブチレンテレフタレート樹脂;ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度0.69、末端カルボキシル基量24meq/kg
・(A-2) ジメチルイソフタル酸(DMI)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂;テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの反応において、テレフタル酸の一部(12.5mol%)に代えて共重合成分としてDMI12.5mol%を用い、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂を調製した。固有粘度0.76、末端カルボキシル基量25meq/kg
・(A-3) ポリブチレンテレフタレート樹脂;ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度0.70、末端カルボキシル基量45meq/kg
(B) カルボジイミド化合物
・(B-1) 芳香族カルボジイミド化合物;ラインケミージャパン(株)製、スタバックゾールP、分子量3000
・(B-2) 芳香族カルボジイミド化合物;ラインケミージャパン(株)製、スタバックゾールP400、分子量20000
(C) エラストマー
・(C-1) 日油(株)製、モディパーA5300(エチレンエチルアクリレート−グラフト−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート)
・(C-2) (株)クラレ製、セプトン4055(ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック・ポリスチレン共重合体)
(D) ガラス繊維
・(D-1) 日本電気硝子(株)製、ECS03-T127
[レーザー溶着性]
図1(a)に示す試験片を用い、厚さ1.5mmt円板状試験片に、
図1(b)に示すように、940nm、照射径φ1.5、出力30Wのレーザー光を照射し、両試験片を接合し、破壊強度を測定した。
底面を切断後、オリエンテック社製 万能試験機UTA-50KNを用い、試験速度5mm/mm、42.2mmφの治具にて押し抜き破壊強度を測定した。
【0062】
尚、上記試験片として、厚さ1.5mmt円状試験片(X;透過側)は上記ペレットから成形し、吸収側試験片(Y)は、上記ペレットに黒着色用カーボンブラック(ウィンテックポリマー(株)製、商品名2020B)を3重量%配合したものにより成形した。吸収側試験片(Y)は、レーザー光による発熱体として作用する。
[振動溶着性]
図2に示す2種の円筒状試験片を、ブランソン社製ORBITAL WELDER MODEL-100を用いて発振振幅0.8mm、加圧力3bar、溶着量0.9mmで溶着し、破壊強度を測定した。
底面を切断後、オリエンテック社製 万能試験機UTA-50KNを用い、試験速度5mm/mm、36.6mmφの治具にて押し抜き破壊強度を測定した。
【0063】
尚、上記円筒状試験片は、何れも上記ペレットから成形したものである。
[耐ヒートショック性]
ペレットを用いて、樹脂温度260℃、金型温度65℃、射出時間25秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦22mm、横22mm、高さ51mmの角柱内部に縦18mm、横18mm、高さ30mmの鉄芯をインサートする金型)に、一部の樹脂部の最小肉厚が1mmとなるようにインサート射出成形し、インサート成形品を製造した。得られたインサート成形品について、冷熱衝撃試験機を用いて140℃にて1時間30分加熱後、−40℃に降温して1時間30分冷却後、さらに140℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、成形品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
【0064】
【表1】