特許第5788829号(P5788829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788829
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/184 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   B62D1/184
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-87976(P2012-87976)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216194(P2013-216194A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】大澤 俊仁
(72)【発明者】
【氏名】関口 暢
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝利
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−069524(JP,A)
【文献】 特開2001−347953(JP,A)
【文献】 特開2002−059849(JP,A)
【文献】 特開2005−319925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18 − 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抱持本体部と該抱持本体部の軸方向に沿って下方側に形成された離間部と該離間部の幅方向両側にて対向するように前記抱持本体部に形成された締付部とからなるハウジングと、該ハウジングを幅方向両側にて挟持する固定側部を有する固定ブラケットと、前記ハウジングの両締付部と前記固定ブラケットの両固定側部を締め付ける締付具と、軸方向に沿って形成されたスリットを軸方向前方側に有するアウターパイプと、該アウターパイプ内周側に挿入されるインナーパイプとからなり、前記アウターパイプのスリットは、上方側にのみ位置させて前記抱持本体部に抱持され、前記アウターパイプの前記スリットの位置と、前記ハウジングの前記離間部との位置は一致しない構成とし、チルト・テレスコ調整において、前記固定ブラケットと共にハウジングは締付具による締め付けにて、前記スリットの幅方方向間隔を狭めて前記アウターパイプの直径を小さくしてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記インナーパイプの軸方向後方端部は、前記ハウジングの抱持本体部内に位置する構成としてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記アウターパイプの軸方向前端部は、前記ハウジングの抱持本体部内に位置する構成としてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
抱持本体部と該抱持本体部の軸方向に沿って下方側に形成された離間部と該離間部の幅方向両側にて対向するように前記抱持本体部に形成された締付部とからなるハウジングと、該ハウジングを幅方向両側にて挟持する固定側部を有する固定ブラケットと、前記ハウジングの両締付部と前記固定ブラケットの両固定側部を締め付ける締付具と、軸方向に沿って形成されたスリットを軸方向前方側に有するアウターパイプと、該アウターパイプ内周側に挿入されるインナーパイプとからなり、前記アウターパイプのスリットは、上方側に位置させて前記抱持本体部に抱持され、前記スリットに対して直径方向下部位置には軸方向に沿ってストッパ部材が装着され、該ストッパ部材は前記離間部に位置してなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
抱持本体部と該抱持本体部の軸方向に沿って上方側に形成された離間部と該離間部の幅方向両側にて対向するように前記抱持本体部に形成された締付部とからなるハウジングと、該ハウジングを幅方向両側にて挟持する固定側部を有する固定ブラケットと、前記ハウジングの両締付部と前記固定ブラケットの両固定側部を締め付ける締付具と、軸方向に沿って形成されたスリットを軸方向前方側に有するアウターパイプと、該アウターパイプ内周側に挿入されるインナーパイプとからなり、前記アウターパイプのスリットは、下方側にのみ位置させて前記抱持本体部に抱持され、前記アウターパイプの前記スリットの位置と、前記ハウジングの前記離間部との位置は一致しない構成とし、チルト・テレスコ調整において、前記固定ブラケットと共にハウジングは締付具による締め付けにて、前記スリットの幅方方向間隔を狭めて前記アウターパイプの直径を小さくしてなることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルト・テレスコ調整機構を備えたものであって、チルト・テレスコ調整時の締付状態を強固なものとし、装置全体の耐久性に優れた構造のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来チルト・テレスコ機構を具備したステアリング装置が種々開発されている。特に近年では、クランプ部材を介してアウターパイプ及びインナーコラムのチルト・テレスコにおけるロック及びその解除を行う構造としたものが存在している。そして、この種のものとして、特許文献1が存在する。以下に、特許文献1について概略する。なお、以下の説明において、部材に付された符号は、特許文献1に記載されたものをそのまま使用する。
【0003】
特許文献1では、インナーコラム2の車体後方側に中空円筒状のアウターコラム1が軸方向に摺動可能に嵌合している。アウターコラム1は、アッパー側車体取付けブラケット3によって車体6に取付けられている。アウターコラム1の下面には、スリット14が形成されている。該スリット14は、アウターコラム1の車体前方側端面17から形成されている。
【0004】
インナーコラム2の車体前方側には、ロアー側車体取付けブラケット7が車体6に取付けられ、インナーコラム2の車体前方側に固定されたチルト中心軸21が、ロアー側車体取付けブラケット7にチルト可能に軸支されている。アッパー側車体取付けブラケット3の上部には、このアッパー側車体取付けブラケット3を車体6に取付けるための左右一対のフランジ部31A、31Bが形成されている。
【0005】
フランジ部31A、31Bとが一体に形成され、上下方向に延在する左右の側板32A、32Bの内側面321A、321Bには、クランプ部材8が、テレスコ移動及びチルト移動可能に挟持されている。クランプ部材8の内側に形成された円弧状内周面82が、アウターコラム1の外周11を包持している。クランプ部材8は、アウターコラム1のスリット14を両側から挟み込む位置に配置されている。
【0006】
クランプ部材8の下方側には、離間箇所が存在する。クランプ部材8の離間箇所であるスリットは、アウターコラム1のスリット14と同様にクランプ部材8の下面側に揃って形成された構成となっている。クランプ部材8が締付けられると、アウターコラム1が縮径して、インナーコラム2を保持する。
【0007】
クランプ部材8及びアウターコラム1をアッパー側車体取付けブラケット3に対してアンクランプした後、ステアリングホイール5を握ってアウターコラム1及びクランプ部材8をインナーコラム2に対して軸方向に摺動して所望のテレスコ位置に調整すると同時に、チルト中心軸21を中心として所望のチルト位置に調整した後、クランプ部材8を、アッパー側車体取付けブラケット3にクランプする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−69524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、以下に示す問題点が存在する。なお、図10は、特許文献1の内容を説明するための概略図である。また、図10には、特許文献1の符号をそのまま使用するが、本発明と区別するために括弧付で記載する。まず、クランプ部材8のスリットと、アウターコラム1のスリット14とが、下面側に形成されているので、チルト(上下)方向に荷重が加わると、アウターコラム1で一番強度の弱いスリット14の端面である車体前方側端面17が広がり、変形してしまうおそれがある〔図10(B),(C)参照〕。
【0010】
これは、ステアリング装置のチルト・テレスコ調整完了後においてチルト方向に、何らかの外部荷重がステアリングホィール5に作用した場合、アウターコラム1とインナーコラム2とには相互に折れ曲がるように負荷がかかる〔図10(A)参照〕。スリット14の形成箇所にはインナーコラム2が配置されており、前述した負荷がかかると、インナーコラム2がアウターコラム1のスリット14に食い込もうとし、そのために、スリット14を幅方向に押し拡げる押圧力q,q,…が作用する。
【0011】
クランプ部材8の下面側は、前述したように、離間箇所であるスリットが位置しており、インナーコラム2によって押し拡げられようとするスリット14の変形を抑制することはできない。それゆえに、アウターコラム1のスリット14の車体前方側端部は押圧力q,q,…によって、押し拡げられ、アウターコラム1を変形させてしまい〔図10(B),(C)参照〕、アウターコラム1を劣化させることになる。
【0012】
また、特許文献1の第5実施例において、アウターコラム1の下面に形成されたスリット14に加え、上面にスリット状の係合凹部12が形成されている。この実施例においても、チルト方向に荷重が加わると、スリット14の車体前方側端面17が広がり、変形してしまうおそれがある。また、アウターコラム1の周方向2箇所にスリットが形成されるため、アウターコラム1の剛性が低下する。
【0013】
この車体前方側端面17の変形を防止するため、スリット14の車体前方側端部は、アウターコラム1の車体前方側端面17に開放されず、スリット14に対して直角方向に切り込まれた閉鎖端部を形成したものも開示されている。しかし、この構造によれば、製造工程が複雑で、コストがかかる。本発明の目的(解決すべく技術的課題)は、前述したように、アウターパイプ等の剛性の低下を防ぎ、これを極めて簡単な構成にて解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、抱持本体部と該抱持本体部の軸方向に沿って下方側に形成された離間部と該離間部の幅方向両側にて対向するように前記抱持本体部に形成された締付部とからなるハウジングと、該ハウジングを幅方向両側にて挟持する固定側部を有する固定ブラケットと、前記ハウジングの両締付部と前記固定ブラケットの両固定側部を締め付ける締付具と、軸方向に沿って形成されたスリットを軸方向前方側に有するアウターパイプと、該アウターパイプ内周側に挿入されるインナーパイプとからなり、前記アウターパイプのスリットは、上方側にのみ位置させて前記抱持本体部に抱持され、前記アウターパイプの前記スリットの位置と、前記ハウジングの前記離間部との位置は一致しない構成とし、チルト・テレスコ調整において、前記固定ブラケットと共にハウジングは締付具による締め付けにて、前記スリットの幅方方向間隔を狭めて前記アウターパイプの直径を小さくしてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0015】
請求項2の発明を、請求項1において、前記インナーパイプの軸方向後方端部は、前記ハウジングの抱持本体部内に位置する構成としてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記アウターパイプの軸方向前端部は、前記ハウジングの抱持本体部内に位置する構成としてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0016】
請求項4の発明を、抱持本体部と該抱持本体部の軸方向に沿って下方側に形成された離間部と該離間部の幅方向両側にて対向するように前記抱持本体部に形成された締付部とからなるハウジングと、該ハウジングを幅方向両側にて挟持する固定側部を有する固定ブラケットと、前記ハウジングの両締付部と前記固定ブラケットの両固定側部を締め付ける締付具と、軸方向に沿って形成されたスリットを軸方向前方側に有するアウターパイプと、該アウターパイプ内周側に挿入されるインナーパイプとからなり、前記アウターパイプのスリットは、上方側に位置させて前記抱持本体部に抱持され、前記スリットに対して直径方向下部位置には軸方向に沿ってストッパ部材が装着され、該ストッパ部材は前記離間部に位置してなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0017】
請求項5の発明を、抱持本体部と該抱持本体部の軸方向に沿って上方側に形成された離間部と該離間部の幅方向両側にて対向するように前記抱持本体部に形成された締付部とからなるハウジングと、該ハウジングを幅方向両側にて挟持する固定側部を有する固定ブラケットと、前記ハウジングの両締付部と前記固定ブラケットの両固定側部を締め付ける締付具と、軸方向に沿って形成されたスリットを軸方向前方側に有するアウターパイプと、該アウターパイプ内周側に挿入されるインナーパイプとからなり、前記アウターパイプのスリットは、下方側にのみ位置させて前記抱持本体部に抱持され、前記アウターパイプの前記スリットの位置と、前記ハウジングの前記離間部との位置は一致しない構成とし、チルト・テレスコ調整において、前記固定ブラケットと共にハウジングは締付具による締め付けにて、前記スリットの幅方方向間隔を狭めて前記アウターパイプの直径を小さくしてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。

【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明では、チルト・テレスコ調整後において、アウターパイプのスリット形
成箇所にチルト方向の荷重がかかっても、アウターパイプを抱持するハウジングによって、スリットは幅方向に保持され、チルト方向の荷重によって幅方向に押し拡げられることを防止し、チルト保持力を向上させることができる。
【0019】
上記効果を詳述すると、ハウジングの離間部及び締付部が下方に設けられており、ハウジングに対して、アウターパイプのスリットが直径方向の上方に位置するようにして、抱持本体部に抱持されたものである。つまり、アウターパイプのスリットが位置する上方箇所では、ハウジングの抱持本体部は幅方向に連続した部位であり、アウターパイプのスリットの位置と、ハウジングの離間部との位置が一致しない構成としている。
【0020】
したがって、ハウジングの抱持本体部は、アウターパイプのスリット箇所を幅方向に保持する構成となり、チルト荷重がスリットを押し拡げようとしても、ハウジングの抱持本体部にから生じる反力が抵抗する構造としにし、これによって、スリットが幅方向に押し拡げられず、アウターパイプのスリット付近からの変形による劣化を防止できるものである。
【0021】
また、アウターパイプのスリットはハウジングの下方側の離間部に対して直径方向上方側に位置することから、締付具による締付時、アウターパイプが直径方向で均等に変形することができ、インナーパイプの締付が均等になり、締付剛性が安定し、テレスコ保持力が向上する。
【0022】
請求項2の発明では、インナーパイプの軸方向後方端部は、前記ハウジングの抱持本体部内に位置する構成としたことにより、チルト調整時において、アウターパイプのスリット形成箇所の保護状態をより一層、強化できるものである。つまり、チルト・テレスコ調整後、チルト方向になんらかの外部荷重がステアリングホィールに作用した場合、アウターパイプには、該アウターパイプと挿入接続するインナーパイプの軸方向後方端部の位置に大きな荷重が集中的にかかり易くなる。
【0023】
インナーパイプの軸方向後方側端部は、アウターパイプの内周側に挿入されており、チルト方向の荷重がかかると、インナーパイプとの間に相互に折れ曲がるような荷重が作用する。このような状態に対して、インナーパイプの軸方向後方側端部がハウジングの抱持本体部内に位置しているので、この部分に対応するアウターパイプも同様にハウジングの抱持本体部の上部連続部分にて覆われるようにして抱持された状態となり、より一層強固にアウターパイプが保護され、アウターパイプはスリット箇所から変形することによる劣化を防止できる。
【0024】
請求項3の発明では、アウターパイプの軸方向前端部は、前記ハウジングの抱持本体部内に位置する構成としたことにより、請求項2の場合と同様にチルト調整時において、アウターパイプのスリット形成箇所の保護状態をより一層、強化できるものである。つまり、チルト方向の荷重がかかると、アウターパイプの軸方向前方側端部は、インナーパイプとの間に相互に折れ曲がりの荷重が作用する部位である。
【0025】
したがって、アウターパイプの軸方向前方側端部がハウジングの抱持本体部に抱持されることにより、より一層強固にアウターパイプが保護され、アウターパイプはスリット箇所からの劣化を防止することができる。また、チルト・テレスコ調整位置にかかわらず、アウターパイプとインナーパイプとの間に相互に折れ曲がりの荷重が作用する部位を抱持本体部にて抱持することができ、チルト保持力を向上させることができる。
【0026】
請求項4の発明では、アウターパイプのスリットに対して直径方向下部位置には軸方向に沿ってストッパ部材が装着され、該ストッパ部材は前記離間部に位置する構成としたことにより、アウターパイプがストッパ部材によりスリット形成側と直径方向において、反対の位置が補強されることとなり、より一層、アウターパイプが強化されることになる。
【0027】
請求項5の発明では、請求項1と同様にチルト・テレスコ調整後において、アウターパイプのスリット形成箇所にチルト方向の荷重がかかっても、アウターパイプを抱持するハウジングによって、スリットは幅方向に保持され、チルト方向荷重によって幅方向に押し拡げられることを防止し、チルト保持力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】(A)は本発明の一部切除した平面図、(B)は(A)のY1−Y1矢視を上下方向に置き換えた断面図、(C)は(B)の(ア)部拡大図である。
図2】(A)は本発明において固定ブラケットとハウジングとアウターパイプとインナーパイプとステアリングシャフトとを組付けた状態の一部断面とした側面図、(B)は(A)の(イ)部拡大図である。
図3】ハウジングとアウターパイプとインナーパイプとの分離した状態の斜視図である。
図4】ハウジングとアウターパイプとインナーパイプにおけるチルト方向の荷重のかかり方を示す縦断側面図である。
図5】本発明にパワーユニット及びロアブラケットを装着した状態の側面図。
図6】(A)は本発明において、チルト調整時にスリットが保護される構造を示す軸方向後方側より見た一部構成を省略した断面図、(B)(A)のX1−X1矢視を水平方向に置き換えた断面図である。
図7】(A)はチルト方向の荷重が作用した場合のアウターパイプとインナーパイプとが相互に折り曲がる状態を強調した略示図、(B)はスリットがインナーパイプによって押し拡げられることを防止する状態を示す略示図、(C)は(A)の上方より見た図である。
図8】本発明において、抱持本体部の離間部を上方側とし、アウターパイプのスリットを下方側とした実施形態の略示断面図である。
図9】(A)は本発明における作用を示す略示断面図、(B)は従来技術における作用を示す略示断面図である。
図10】(A)は従来技術におけるアウターコラムとインナーコラムとが相互に折り曲がる状態を強調した略示図、(B)はスリットがインナーコラムによって押し拡げられた略示断面図、(C)は(A)の下方より見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明では、以下の説明において前後方向が設定されており、本発明のステアリング装置を自動車に装着した状態で、自動車の前後方向を基準とし、自動車の前方に対応する側を「前方側」とし、自動車の後方に対応する側を「後方側」とする。また、前方側と後方側とを結ぶ方向を「軸方向」と称する。さらに「幅方向」とは、自動車の左右方向を表すものである。軸方向,前方側,後方側及び幅方向を示す矢印は、図面に記載されている。
【0030】
本発明の主要な構成は、図1に示すように、固定ブラケット1と、ハウジング2と、締付具6と、アウターパイプ3と、インナーパイプ4とから構成される。まず、固定ブラケット1は、幅方向両側に形成された固定側部11,11と取付部12とから構成されている。両固定側部11,11には、略上下方向又は縦方向に長孔としたチルト調整用長孔がそれぞれ形成されている。前記取付部12には、カプセル部材14が装着され、該カプセル部材14を介して固定ブラケット1が車体の所定位置に装着される。
【0031】
ハウジング2は主にアルミ合金からなり、抱持本体部21と、2つの締付部23,23とから構成されている〔図1(B),図3図6等参照〕。さらに前記抱持本体部21は、略円筒状に形成され、その内部は中空形状に形成された内周側面部21aが形成されている。抱持本体部21はアウターパイプ3を抱持する役目をなす〔図1(B)参照〕。
【0032】
前記抱持本体部21の直径方向下部側には、離間部22が形成されている(図3参照)。該離間部22は、前記抱持本体部21の軸方向後方側から前方側に沿って全体に亘って形成されたり、前方側の一部を残して形成されることもある。また、離間部22は、前記内周側面部21の直径方向下部における開口として形成された部分である(図3参照)。
【0033】
前記抱持本体部21の直径方向下部で、且つ前記離間部22の幅方向両側箇所には、2つの締付部23,23が形成されている。両締付部23,23は、共に同一形状で、略厚板状に形成されたものであり、前記抱持本体部21の下部より略垂下状で且つハウジング2の軸方向に沿って形成されている。また、両締付部23,23は、離間部22の幅方向において左右対称且つ平行(略平行も含む)に配置され、抱持本体部21と一体的に形成されている。
【0034】
両締付部23,23の軸方向後方側における幅方向両側の外側面には、抱持本体部21の水平方向の両側よりも僅かに突出した平坦外面部23a,23aとなっている(図3参照)。該平坦外面部23a,23aは、抱持本体部21の軸方向後方側で且つ上下方向の略中間箇所よりも下方で一体的に形成されている。
【0035】
平坦外面部23a,23aは、前記固定ブラケット1の両固定側部11,11にて挟持され、該固定側部11と、平坦外面部23aとは面接触(略面接触も含まれる)となる〔図1(B)参照〕。前記両締付部23,23には、前記ハウジング2の前後方向に直交する方向で且つ抱持本体部21の幅方向に沿って締付孔24,24が形成されている。両締付孔24,24には、後述する締付具6のボルト軸61が挿通される。
【0036】
アウターパイプ3は、中空円筒形状に形成され、ハウジング2の抱持本体部21に装着される(図3参照)。アウターパイプ3には、車体前方側端面から軸方向に沿ってスリット31が形成されている。該スリット31は、アウターパイプ3の軸方向略中間箇所付近まで形成されている。
【0037】
また、スリット31の軸方向終端部は円形貫通孔とした円形端部31aが形成されている。該円形端部31aの直径は、スリット31の溝幅よりも大きく形成され、スリット31の拡縮が行われ易いようになっている。アウターパイプ3は、前記ハウジング2の抱持本体部21により抱持されるものであり、このとき、アウターパイプ3は、前記スリット31が常時上方に位置するようにハウジング2に装着される。
【0038】
前記スリット31は、チルト・テレスコ調整において、前記固定ブラケット1と共にハウジング2を締付具6によって締め付けたときに、前記スリット31の幅を狭くしてアウターパイプ3の直径を小さくする役目をなす。これによって、アウターパイプ3は、軸方向に接続するインナーパイプ4を締め付けるようにして相互にロックすることができる。
【0039】
インナーパイプ4は、中空円筒形状に形成され、電動パワーステアリングのパワーユニット9のモータハウジング及びチルト用のロアブラケット8に連結されている。該ロアブラケット8は、インナーパイプ4とパワーユニット9と共にチルト調整のための揺動中心Pが存在し、ステアリングホィール52は、チルト調整時において前記揺動中心Pを中心として上下方向に移動する(図5参照)。またインナーパイプ4は、前記ハウジング2と共に、軸方向における位置の変動は無く、相互に常時一定の位置を維持するものである。
【0040】
また、インナーパイプ4の軸方向後方端部の位置は、ハウジング2の抱持本体部21における内周側面部21aの軸方向の範囲内に収まるように設定される〔図2(A),図4参照〕。つまり、インナーパイプ4の軸方向後方端部は、前記ハウジング2の抱持本体部21の軸方向後方端部から突出しないようになっている。
【0041】
このような構成において、アウターパイプ3の軸方向前方側より、インナーパイプ4の軸方向後方側が挿入される〔図2(A)参照〕。アウターパイプ3は、インナーパイプ4に対して軸方向に摺動可能となる構造である。つまり、ハウジング2及びインナーパイプ4に対して、アウターパイプ3のみが軸方向に移動する構造となっている。
【0042】
インナーパイプ4は、前述したように、電動パワーステアリング等のパワーユニット9のモータハウジングと連結した構成としているが、特にパワーユニット9は電動パワーステアリングに限定されるものではなく、油圧タイプのパワーユニット9と組み合わせられてもかまわない。また、インナーパイプ4は、パワーユニット9を介さずに直接チルト用のロアブラケット8に連結される構成としてもかまわない。
【0043】
締付具6は、ボルト軸61と操作レバー部62と締付カム63と締付ナット64とから構成されている。ボルト軸61は、固定ブラケット1の固定側部11,11のチルト調整用長孔13,13と、ハウジング2の両締付孔24,24に貫通され、固定ブラケット1の幅方向の一方側には、操作レバー部62,締付カム63が配置され、他方側には締付ナット64が装着される〔図1(B)参照〕。
【0044】
締付具6の操作レバー部62の締付操作により、ハウジング2の両締付部23,23と共に離間部22の幅方向の間隔が狭くなり、抱持本体部21の内周側面部21aの直径が小さくなる。そして、抱持本体部21の内周側面部21aに収納装着されたアウターパイプ3が締め付けられて、締付固定(ロック)される。さらに、アウターパイプ3は、スリット31の幅方向の間隔が狭められ、アウターパイプ3に軸方向に挿入されたインナーパイプ4がアウターパイプ3により締め付けられて相互にロックされる。
【0045】
アウターパイプ3には、ストッパ部材7が装着される〔図1(B),図3参照〕。具体的には、該ストッパ部材7は、2個のストッパ板71,71から構成され、該ストッパ板71,71がアウターパイプ3の軸方向前方側で且つ直径方向下面側にそれぞれの取付片72,72を介して固着される。該取付片72は、前記ストッパ板71に対してその上端に直角に折曲形成された板片である。前記ストッパ部材7は、アウターパイプ3と共に移動するものである。ストッパ板71,71はハウジング2の離間部22内に配置される。これにより、ハウジング2に対してアウターパイプ3の周方向における回り止め構造が構成される。
【0046】
また、固定ブラケット1,ハウジング2,アウターパイプ3及びインナーパイプ4が締付具6によって組付けられた状態では、軸方向に沿って対向する両ストッパ板71,71間には、締付具6のボルト軸61が配置された状態となる〔図2(A)参照〕。そして、ストッパ板71,71の間隔の大小によってテレスコ動作時におけるアウターパイプ3の前後方向の移動量が決定される。
【0047】
ストッパ部材7の別の実施形態としては、前記ストッパ板71と、細長い板形状として形成された取付片72とから構成される。そして、該取付片72は、その長手方向の両端にストッパ板71,71が一体形成されている。取付片72は、ハウジング2の離間部22内に配置される〔図6(A)参照〕。
【0048】
アウターパイプ3及びインナーパイプ4には、ステアリングシャフト51が内装されている。また、該ステアリングシャフト51の軸方向後方側端部には、ステアリングホィール52が装着されている〔図1(A),図5参照〕。ステアリングシャフト51は、軸方向に沿って伸縮する構造となっている。
【0049】
アウターパイプ3の直径方向上部に形成されたスリット31は、ハウジング2における抱持本体部21の内周側面部21aの直径方向上方箇所に位置するように配置される。すなわち、アウターパイプ3のスリット31は、ハウジング2の抱持本体部21の上部の連続する部分にて覆われた構造である〔図1(B),(C),図2及び図6(A),図7
照〕。
【0050】
したがって、アウターパイプ3のスリット31は、抱持本体部21の内周側面部21aの上部の連続部分によって保護されることになり、チルト操作時にインナーパイプ4によって幅方向に拡げようとする外力に対して、抱持本体部21の締付力により、スリット31の拡がりを防止するものである。
【0051】
ステアリングホィール52にチルト方向の荷重がかかると、アウターパイプ3にも、チルト方向の荷重がかかる。特に、大きな荷重がかかる箇所は、2箇所であり、その第1の箇所は、アウターパイプ3に挿入されたインナーパイプ4の軸方向後方端部で且つ直径方向上部と接する箇所であり、この位置をチルト荷重F1がかかる第1荷重点L1と称する(図4参照)。また、大きな荷重のかかる第2の箇所は、アウターパイプ3の軸方向前方端部で且つ直径方向下部の位置の車体前方端部箇所であり、この位置をチルト荷重F2がかかる第2荷重点L2と称する(図4参照)。
【0052】
インナーパイプ4の軸方向後方端部及びアウターパイプ3の軸方向前方端部がハウジング2の抱持本体部21内に位置している。よって、第1荷重点Ll及び第2荷重点L2も、抱持本体部21内に位置する。さらに、第1荷重点L1は、スリット31の軸方向の範囲
内に位置している。チルト方向の荷重がかかると、インナーパイプ4に対してアウターパイプ3が折れ曲がるような荷重が作用し、この荷重が、スリット31を変形させるように作用する。
【0053】
しかし、第1荷重点L1は、テレスコ調整において最伸状態、中立状態、最縮状態のい
ずれであっても、抱持本体部21内に位置しており,内周側面部21aによって覆われる
ように保護され、スリット31の変形が防止される(図7参照)。また、第1荷重点L1
はスリット31が閉じられた軸方向後方側に位置しており、スリット31が開放された軸方向前方側と比べて強度が強いため、さらにスリット31の変形が防止される。
【0054】
スリット31の幅方向両側には、チルト調整時においてインナーパイプ4からスリット31を押し拡げようとするチルト荷重F1に対して、ハウジング2の抱持本体部21の内
周側面部21aから反力としてスリット31の周辺に押圧力f,f,…が作用する(図6図7参照)。これによって、スリット31がインナーパイプ4によって過剰に押し拡げられることを防止することができ、スリット31側からアウターパイプ3が劣化してしまうことを防止できる。
【0055】
本発明では、アウターパイプ3のスリット31が上方に位置し、且つハウジング2の抱持本体部21によってスリット31が保護される構成であるため、チルト調整時のステアリングホィール52の下方への移動時に発生するアウターパイプ3への荷重の負担に対して、該アウターパイプ3は十分な耐久性を有するものにできる。
【0056】
第2荷重点L2には、第1荷重点L1にかかる荷重F1の反力としてチルト方向とは逆方向の荷重F2がかかる(図4参照)。第2荷重点L2には、スリット31が存在しないので、該スリット31には第2荷重点L2における荷重F2の影響は受けることなく変形を防止できる。さらにアウターパイプ3におけるストッパ部材7が装着されている箇所であるため、アウターパイプ3が補強され、変形が防止される。
【0057】
また、ロック時では、締付具6を介して、抱持本体部21の内周側面部21aは、スリット31の幅方向を狭めるように押圧している。そのために、スリット31は第1荷重点L1のチルト荷重F1に対して十分な抵抗力を有し、スリット31の変形を防止することができ、強固な保持剛性を有することができるものである。
【0058】
従来技術では、クランプ部材(8)の離間部(80)とアウターコラム(1)のスリット(14)とが、共に直径方向下方に位置している〔図9(B)及び図10参照〕。したがって、締付けロッド(34)による締付時において、クランプ部材(8)に作用する前記締付けロッド(34)の締付によって生じる軸力は、離間部(80)が位置する直径方向下方では大きく、直径方向上方側では小さくなる。
【0059】
これにより、従来技術では、クランプ部材(8)は、下方側で、離間部(80)と、アウターコラム(1)のスリット(14)の間隔が近接するように変形し、直径方向上方側はほとんど変形しない。つまり、クランプ部材(8)の上方側と、アウターコラム(1)の上方側では、共に連続した領域であり、クランプ部材(8)の下方側と、アウターコラム(1)の下方側とは、共に離間部(80)とスリット(14)とが位置することになり、下方側の方が上方側よりも幅方向に収縮し易い構造となっている。
【0060】
これに伴って、従来技術においては、アウターコラム(1)の変形量は、スリット(14)が形成されている下方では大きく、上部では小さくなる。よって、従来技術では、アウターコラム(1)において、その直径方向の下方側と上方側とでは、変形量が大きく異なることになり、インナーコラム(2)を締め付ける力が不均等になる〔図9(B)参照〕。そしてその締付力が不均等になると、締付剛性が不安定になり、チルト・テレスコ保持力が不安定になる。なお、括弧付き符号は従来技術における符号である。
【0061】
これに対して、本発明では、ハウジング2の離間部22とアウターパイプ3のスリット31とが、直径方向において反対に位置している〔図7及び図9(A)参照〕。これにより、締付具6による締付時、ボルト軸61の軸力が小さいハウジング2の直径方向上方側においても、アウターパイプ3はスリット31によって変形し易くなり、アウターパイプ3の変形量を直径方向の上方側と下方側とで均等にすることができる。これにより、アウターパイプ3によるインナーパイプ4を締め付ける力が均等となり、締付剛性が安定し、チルト・テレスコ保持力が向上する。
【0062】
また、アウターパイプ3とインナーパイプ4との接続部分をハウジング2と締付具6とで締め付けることにより、アウターパイプ3とインナーパイプ4との間と、アウターパイプ3とハウジング2との間での摩擦抵抗が生じることとなり、簡易な構造で容易に接触面積を増やすことでき、強固なテレスコ保持力を得ることができる。
【0063】
テレスコ操作時には、アウターパイプ3のみが軸方向に摺動する構造であり、ハウジング2及びインナーパイプ4は軸方向移動しない構成である。したがって、ハウジング2には、従来のように、テレスコ用長孔を形成する必要がなく、ハウジング2の剛性を低下させることを防止できる。
【0064】
また、図8は、ハウジング2の抱持本体部21の上方側に離間部22が形成され、前記アウターパイプ3のスリット31は、下方側に位置させた実施形態である。つまり、本発明において、前記抱持本体部21の離間部22の位置と、前記アウターパイプ3のスリット31との位置関係を上下反対にしたものである。
【符号の説明】
【0065】
1…固定ブラケット、11…固定側部、2…ハウジング、21…抱持本体部、
21a…包持内周部、22…離間部、23…締付部、3…アウターパイプ、
31…スリット、4…インナーパイプ、6…締付具、61…ボルト軸、
7…ストッパ部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10