特許第5788834号(P5788834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788834
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ガスセンサ制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   G01N27/46 311J
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-125404(P2012-125404)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-250166(P2013-250166A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2014年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 優
(72)【発明者】
【氏名】照井 智久
(72)【発明者】
【氏名】藤林 和久
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−085351(JP,A)
【文献】 特開昭62−076447(JP,A)
【文献】 特開2010−281732(JP,A)
【文献】 特開平06−265516(JP,A)
【文献】 特開昭61−128153(JP,A)
【文献】 特開昭62−175657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
G01N 27/41
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1固体電解質体及び当該第1固体電解質体上に形成された一対の第1電極を有し、当該一対の第1電極のうちの一方の電極が、被測定ガスが導入される測定室内に配置され、他方の電極が基準酸素濃度雰囲気に晒される検知セルと、
第2固体電解質体及び当該第2固体電解質体上に形成された一対の第2電極を有し、当該一対の第2電極のうちの一方の電極が、上記測定室内に配置されてなり、上記一対の第2電極間に流すポンプ電流に応じて、上記測定室に導入された上記被測定ガスに含まれる酸素の汲み出し又は汲み入れを行うポンプセルと、を有する
センサ部、及び、
上記センサ部を加熱するヒータ、を備える
ガスセンサを制御する
ガスセンサ制御装置であって、
上記一対の第1電極間の電圧が目標電圧となるように、上記一対の第2電極間に流すポンプ電流を制御する電流制御手段、
上記被測定ガスの供給状況が、継続して上記被測定ガス中の酸素濃度が予め定めた規定値となる規定ガス供給状況であるか否かを判断する供給状況判断手段、
上記ヒータを制御するヒータ制御手段であって、
上記センサ部の温度が、上記センサ部が活性化する活性化温度よりも高い第1目標温度になるように、上記ヒータを制御する第1ヒータ制御手段を含む
ヒータ制御手段、
上記目標電圧を設定する電圧設定手段であって、
上記被測定ガス中のH2Oガスが実質的に解離しない第1目標電圧に設定する第1電圧設定手段と、
上記供給状況判断手段により上記被測定ガスが上記規定ガス供給状況であると判定された場合に、上記目標電圧を、上記第1目標電圧よりも高く上記被測定ガス中のH2Oガスが解離する第2目標電圧に設定する第2電圧設定手段とを含む
電圧設定手段、
上記センサ部の温度が、上記活性化温度よりも高く上記第1目標温度以下の規定温度に達したか否かを判断する温度判断手段、
上記温度判断手段により、上記センサ部の温度が上記規定温度に達していないと判断された場合に、上記電圧設定手段が上記目標電圧を上記第2目標電圧に設定するのを不可とする手段、
上記温度判断手段により、上記センサ部の温度が上記規定温度に達したと判断された場合に、上記電圧設定手段が上記目標電圧を上記第2目標電圧に設定するのを許可する許可手段、
上記被測定ガスの供給状況が上記規定ガス供給状況であり、上記一対の第1電極間の電圧が上記第1目標電圧となった状態において、上記一対の第2電極間に流れる第1ポンプ電流を検知する第1電流検知手段、
上記被測定ガスの供給状況が上記規定ガス供給状況であり、上記一対の第1電極間の電圧が上記第2目標電圧となった状態において、上記一対の第2電極間に流れる第2ポンプ電流を検知する第2電流検知手段、及び、
上記第1ポンプ電流と上記第2ポンプ電流とに基づいて、上記被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知するH2Oガス濃度検知手段、を備える
ガスセンサ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記規定温度が、前記活性化温度から前記第1目標温度までの温度範囲のうち、中央の温度以上の温度に設定されてなる
ガスセンサ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記ヒータ制御手段は、
前記規定ガス供給状況であり、上記第1電流検知手段により上記第1ポンプ電流が検知された後に、上記センサ部の温度が上記第1目標温度よりも高い第2目標温度となるように前記ヒータを制御する第2ヒータ制御手段を含み、
前記第2電流検知手段は、
上記第2ヒータ制御手段による上記ヒータの制御下で、上記センサ部の温度が上記第2目標温度となった状態において、前記一対の第2電極間に流れる前記第2ポンプ電流を検知する
ガスセンサ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記第2電圧設定手段は、
前記第2ヒータ制御手段による前記ヒータの制御によって、前記センサ部の温度が前記第2目標温度に達した後に、前記目標電圧を前記第2目標電圧に設定する
ガスセンサ制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記第2電流検知手段は、
前記第2ヒータ制御手段による前記ヒータの制御によって前記センサ部の温度が前記第2目標温度に安定した状態で、前記第2ポンプ電流を検知する
ガスセンサ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサを制御するガスセンサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスセンサの一つとして、自動車エンジンなどの内燃機関の排気通路に取り付けられ、排気ガス中の酸素濃度を検知するガスセンサが知られている。このガスセンサは、センサ素子(固体電解質体)を流れる電流の大きさが排気ガス中の酸素濃度に応じて変化することを利用して、酸素濃度の検知、ひいては排気ガスの空燃比を検知するものである。
【0003】
特許文献1には、このようなガスセンサとして、第1固体電解質体を有する検知セルと、第2固体電解質体を有するポンプセルと、これらを加熱するヒータとを備えたガスセンサが記載されている。また、この特許文献1には、ガスセンサを制御するガスセンサ制御装置により、被測定ガスが大気である場合に、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知す
る技術が記載されている。
【0004】
具体的には、特許文献1に記載されている装置は、被検出ガスが大気であると判別されているときに検出された第1電流(検知セルの第1電極間の電圧を第1電圧とした状態でポンプセルの第2電極間に流れる電流)と、第2電流(第1電極間の電圧を第1電圧よりも大きい第2電圧とした状態で第2電極間に流れる電流)とに基づいて、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知する。なお、第1電圧は、第1電極上で被測定ガス中のH2Oガスが実質的に解離しない電圧である。一方、第2電圧は、第1電極上で被測定ガス中のH2Oガスが解離する電圧である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−281732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、検知セルの第1電極間の電圧を高める(第2電圧にする)と、ポンプセルの第2固体電解質体(例えば、ジルコニア)においてブラックニングが生じやすくなる。ここで、ブラックニングとは、固体電解質体において、固体電解質体に含まれる金属酸化物が還元され、金属が生成される現象である(例えば、ZrO2→Zr+O2)。第2固体電解質体にブラックニングが生じることで、第2固体電解質体の特性(イオン伝導性)が劣化し、その結果、被測定ガス中のH2Oガス濃度を適切に検知することができな
くなる虞があった。
【0007】
ところで、ガスセンサ(これを搭載した車両等)の起動段階では、当初、検知セルとポンプセルとからなるセンサ部は低温となっており、第1固体電解質体及び第2固体電解質体が酸素イオン伝導性を示さないことが多い。そこで、第1固体電解質体及び第2固体電解質体が適切な酸素イオン伝導性を示すようにするために、センサ部の温度が目標温度(例えば830℃)となるようにセンサ部をヒータで加熱する一方、早期に酸素濃度検知を可能とすべく、センサ部の温度が活性化温度(例えば620℃)に達した段階で、検知セルに第1電圧を印加し、ガスセンサによる酸素濃度の検知を開始するようにしている。
【0008】
固体電解質体のブラックニングは、活性化温度以上の温度範囲においては、温度が低いほど生じやすい。
このため、センサ部の温度が活性化温度に達した段階で、H2Oガス濃度を検知すべく、検知セルの第1電極間の電圧を、第1電圧よりも高い第2電圧になるように制御すると、特にブラックニングが生じやすくなる。
【0009】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、H2Oガス濃度の検知に起因する第2固体電解質体におけるブラックニング発生の可能性を低減することができるガスセンサ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、第1固体電解質体及び当該第1固体電解質体上に形成された一対の第1電極を有し、当該一対の第1電極のうちの一方の電極が、被測定ガスが導入される測定室内に配置され、他方の電極が基準酸素濃度雰囲気に晒される検知セルと、第2固体電解質体及び当該第2固体電解質体上に形成された一対の第2電極を有し、当該一対の第2電極のうちの一方の電極が、上記測定室内に配置されてなり、上記一対の第2電極間に流すポンプ電流に応じて、上記測定室に導入された上記被測定ガスに含まれる酸素の汲み出し又は汲み入れを行うポンプセルと、を有するセンサ部、及び、上記センサ部を加熱するヒータ、を備えるガスセンサを制御するガスセンサ制御装置であって、上記一対の第1電極間の電圧が目標電圧となるように、上記一対の第2電極間に流すポンプ電流を制御する電流制御手段、上記被測定ガスの供給状況が、継続して上記被測定ガス中の酸素濃度が予め定めた規定値となる規定ガス供給状況であるか否かを判断する供給状況判断手段、上記ヒータを制御するヒータ制御手段であって、上記センサ部の温度が、上記センサ部が活性化する活性化温度よりも高い第1目標温度になるように、上記ヒータを制御する第1ヒータ制御手段を含むヒータ制御手段、上記目標電圧を設定する電圧設定手段であって、上記被測定ガス中のH2Oガスが実質的に解離しない第1目標電圧に設定する第1電圧設定手段と、上記供給状況判断手段により上記被測定ガスが上記規定ガス供給状況であると判定された場合に、上記目標電圧を、上記第1目標電圧よりも高く上記被測定ガス中のH2Oガスが解離する第2目標電圧に設定する第2電圧設定手段とを含む電圧設定手段、上記センサ部の温度が、上記活性化温度よりも高く上記第1目標温度以下の規定温度に達したか否かを判断する温度判断手段、上記温度判断手段により、上記センサ部の温度が上記規定温度に達していないと判断された場合に、上記電圧設定手段が上記目標電圧を上記第2目標電圧に設定するのを不可とする手段、上記温度判断手段により、上記センサ部の温度が上記規定温度に達したと判断された場合に、上記電圧設定手段が上記目標電圧を上記第2目標電圧に設定するのを許可する許可手段、上記被測定ガスの供給状況が上記規定ガス供給状況であり、上記一対の第1電極間の電圧が上記第1目標電圧となった状態において、上記一対の第2電極間に流れる第1ポンプ電流を検知する第1電流検知手段、上記被測定ガスの供給状況が上記規定ガス供給状況であり、上記一対の第1電極間の電圧が上記第2目標電圧となった状態において、上記一対の第2電極間に流れる第2ポンプ電流を検知する第2電流検知手段、及び、上記第1ポンプ電流と上記第2ポンプ電流とに基づいて、上記被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知するH2Oガス濃度検知手段、を備えるガスセンサ制御装置である。
【0011】
上述のガスセンサ制御装置では、被測定ガスの供給状況が規定ガス供給状況であるときに検知された第1ポンプ電流と第2ポンプ電流とに基づいて、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知する。具体的には、例えば、第2ポンプ電流の値から第1ポンプ電流の値を差し引いた差分値に基づいて、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知する。
【0012】
ここで、第1ポンプ電流は、検知セルの第1電極間の電圧を第1目標電圧(被測定ガス中のH2Oガスが実質的に解離しない電圧)とした状態において検知された、ポンプセルの第2電極間を流れる電流である。一方、第2ポンプ電流は、第1電極間の電圧を第2目標電圧(被測定ガス中のH2Oガスが解離する電圧)とした状態において検知された、第2電極間を流れる電流である。
【0013】
従って、第1ポンプ電流は、被測定ガス中のH2Oガスが第1電極の一方の電極上で解離しない状況下で検知された電流である。一方、第2ポンプ電流は、被測定ガス中のH2Oガスが第1電極の一方の電極上で解離する状況下(H2Oガス由来の酸素イオンが発生する状況下)で検知された電流である。つまり、第2ポンプ電流の値は、第1ポンプ電流の値に比べて、被測定ガス中のH2Oガス由来の電流分だけ大きい。従って、第1ポンプ電流と第2ポンプ電流とに基づいて、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知することができる。
【0014】
また、上述のガスセンサ制御装置では、温度判断手段により、第1固体電解質体及び第2固体電解質体を含むセンサ部の温度が、活性化温度よりも高く且つ第1目標温度以下の規定温度に達したと判断された場合に、電圧設定手段によって目標電圧を第2目標電圧に設定することを許可する。つまり、本制御装置では、センサ部の温度が活性化温度よりも高い規定温度以上になった場合に、第1電極間の電圧を、第1目標電圧から第2目標電圧に上昇させることが可能となる。
【0015】
かくして、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知するべく、第1電極間の電圧を第1目標電圧から第2目標電圧に上昇させても、第2固体電解質体においてブラックニングが発生する可能性を低減することができる。特に、ガスセンサの起動から間もない場合など、センサ部の温度が低い段階(第1目標温度よりも低い段階)において、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知するべく、第1電極間の電圧を第1目標電圧から第2目標電圧に上昇させる場合においても、第2固体電解質体においてブラックニングが発生する可能性を低減することができる。
【0016】
なお、「被測定ガスの供給状況が、継続して被測定ガス中の酸素濃度が予め定めた規定値となる規定ガス供給状況」に該当する場合としては、例えば、車両に搭載された内燃機関が、当該車両の停車中等において、安定したアイドリング状態とされ、被測定ガスである排気ガスが、継続して規定のA/F値(例えば、理論空燃比)の排気ガスとなって、ガスセンサに供給される状況を挙げることができる。この場合、この排気ガスが、被測定ガス中の酸素濃度が予め定めた規定値となる被測定ガスに相当する。
また、内燃機関のフューエルカットにより、被測定ガスである排気ガスが継続して大気となり、この大気が継続してガスセンサに供給される状況も挙げることができる。この場合、大気が、被測定ガス中の酸素濃度が予め定めた規定値となる被測定ガスに相当する。
【0017】
また、活性化温度とは、センサ部が活性化する温度をいう。さらに、活性化とは、センサ部に含まれる第1固体電解質体及び第2固体電解質体において酸素イオン伝導性が生じて、ガスセンサ用の素子として、酸素濃度の検知に使用可能な状態になることをいう。
【0018】
さらに、上記のガスセンサ制御装置であって、前記規定温度が、前記活性化温度から前記第1目標温度までの温度範囲のうち、中央の温度以上の温度に設定されてなるガスセンサ制御装置とすると良い。
【0019】
上述のガスセンサ制御装置では、規定温度(目標電圧を第2目標電圧に変更することを許可する温度)を、活性化温度よりも第1目標温度に近い温度に設定する。これにより、規定温度を活性化温度に近い温度とした場合に比べて、目標電圧を第2目標電圧に変更した場合でも、ブラックニングが発生する可能性を低減することができる。
【0020】
例えば、活性化温度が620℃で、第1目標温度が830℃である場合、活性化温度から第1目標温度までの温度範囲のうち中央の温度は、725℃(=620+(830−620)/2)である。この場合、本制御装置は、規定温度(活性化温度よりも高く且つ第1目標温度以下の温度)は、725〜830℃の範囲内の温度に設定される。
【0021】
さらに、上記いずれかのガスセンサ制御装置であって、前記ヒータ制御手段は、前記規定ガス供給状況であり、上記第1電流検知手段により上記第1ポンプ電流が検知された後に、上記センサ部の温度が上記第1目標温度よりも高い第2目標温度となるように前記ヒータを制御する第2ヒータ制御手段を含み、前記第2電流検知手段は、上記第2ヒータ制御手段による上記ヒータの制御下で、上記センサ部の温度が上記第2目標温度となった状態において、前記一対の第2電極間に流れる前記第2ポンプ電流を検知するガスセンサ制御装置とすると良い。
【0022】
上述のガスセンサ制御装置では、第2ポンプ電流を検知するにあたり、センサ部の温度を、第1目標温度よりも高い第2目標温度にすることで、目標温度を変化させない場合(但し、第1電極間の電圧は同じ第2目標電圧とする)に比べて、被測定ガス中のH2
ガスの解離を促進させることができる。さらには、検知する第2ポンプ電流を安定させる
(第2目標電圧に制御される第1電極間の電圧の変動に伴う第2ポンプ電流の変動幅を小さくする)こともできる。これにより、センサ部の目標温度を第1目標温度としたままで第2ポンプ電流を検知する場合(センサ部の目標温度を上昇させない場合)に比べて、被測定ガス中のH2Oガス濃度の検知精度を高めることができる。
【0023】
また、上述のガスセンサ制御装置では、センサ部の温度を高くする(第2目標温度とする)ことで、第1目標温度で第2ポンプ電流を検知する場合に比べて、第2ポンプ電流が安定する第1電極間の電圧を低くすることができる。従って、上述のガスセンサ制御装置では、第1目標温度で第2ポンプ電流を検知する場合と同等の検知精度とするならば、第1目標温度で第2ポンプ電流を検知する場合に比べて、目標電圧である第2目標電圧を低く設定することもできる。このようにすれば、第2固体電解質体におけるブラックニング発生の可能性をより低減することができる。
【0024】
さらに、上記のガスセンサ制御装置であって、前記第2電圧設定手段は、前記第2ヒータ制御手段による前記ヒータの制御によって、前記センサ部の温度が前記第2目標温度に達した後に、前記目標電圧を前記第2目標電圧に設定するガスセンサ制御装置とすると良い。
【0025】
固体電解質体のブラックニングは、活性化温度以上の温度範囲においては、温度が高いほど生じにくくなる。
これに対し、上述のガスセンサ制御装置では、センサ部の温度が第2目標温度に達した後に、目標電圧を第2目標電圧に設定する。これにより、センサ部の温度が第2目標温度に達した後に、第1電極間の電圧が、第1目標電圧から第2目標電圧に向けて上昇することになる。従って、センサ部の温度が第2目標温度に達する前に目標電圧を第2目標電圧に設定する場合に比べて、第2固体電解質体におけるブラックニング発生の可能性を低減することができる。
【0026】
さらに、上記いずれかのガスセンサ制御装置であって、前記第2電流検知手段は、前記第2ヒータ制御手段による前記ヒータの制御によって前記センサ部の温度が前記第2目標温度に安定した状態で、前記第2ポンプ電流を検知するガスセンサ制御装置とすると良い。
【0027】
第2ヒータ制御手段によるヒータの制御によって、センサ部の温度を第2目標温度まで上昇させると、ハンチング(オーバーシュート)が生じて、センサ部の温度が第2目標温度に安定して制御されるまでに時間を要する場合がある。このため、センサ部の温度を第2目標温度まで上昇させた後、第2ポンプ電流が安定するまでに時間を要することがある。
【0028】
これに対し、上述のガスセンサ制御装置では、センサ部の温度が第2目標温度に安定した状態で、第2ポンプ電流を検知する。すなわち、第2ヒータ制御手段によるヒータの制御によって、センサ部の温度を第2目標温度まで上昇させた後、センサ部の温度が第2目標温度に安定するのを待って、第2ポンプ電流を検知する。これにより、安定した第2ポンプ電流に基づいて、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知することができるので、検知精度をより一層高めることができる。
【0029】
なお、「センサ部の温度が第2目標温度に安定した状態」とは、センサ部の温度変動が、第2目標温度±10(deg)の温度範囲内に収まった状態をいう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態1,2にかかる内燃機関の概略図である。
図2】実施形態1,2にかかるガスセンサユニットの構成図である。
図3】実施形態1,2にかかるガスセンサ制御の流れを示すフローチャートである。
図4】実施形態1にかかるH2Oガス濃度検知のフローチャートである。
図5】実施形態2にかかるH2Oガス濃度検知のフローチャートである。
図6】第1電極間電圧とポンプ電流との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態1にかかる内燃機関100の概略図である。内燃機関100は自動車を駆動するためのエンジン101を有する。エンジン101には、エンジン101から排出される排気ガスEG(被測定ガスに相当する)を車外に放出するための排気管102が接続されている。この排気管102には、全領域空燃比センサ1(ガスセンサに相当する)が配設されている。エンジン101から排出される排気ガスEGは、全領域空燃比センサ1に供給される。
【0032】
全領域空燃比センサ1(以下、単にセンサ1ともいう)は、排気管102の排気通路を流通する排気ガスEG中の特定成分(本実施形態1では酸素)のガス濃度を検知するガスセンサである。このセンサ1は、ハーネス(信号線)91を通じて、自身から離れた位置に配設されたガスセンサ制御装置3と電気的に接続されている。
【0033】
ガスセンサ制御装置3は、センサ1を通電制御することで、酸素濃度を検知する。具体的には、ガスセンサ制御装置3は、バッテリ80から電力の供給を受けて駆動し、センサ1を用いて検知した酸素濃度の検知信号を、ECU(エンジン制御装置)5に出力する。
【0034】
ECU5は、自動車のエンジン101の駆動等を電子的に制御するための装置である。ECU5には、公知の構成の図示しないCPU、ROM、RAM等を搭載したマイクロコンピュータが用いられる。このECU5は、制御プログラムの実行にしたがって、燃料の噴射タイミングや点火時期の制御を行う。かかる制御を行うための情報として、ECU5には、ガスセンサ制御装置3から出力された排気ガスEG中の酸素濃度に応じた検知信号が入力される。また、ECU5には、その他の情報として、その他のセンサからの信号(例えば、エンジン101のピストン位置や回転数を検知できるクランク角、冷却水の水温、燃焼圧などの情報)も入力される。
【0035】
このようなECU5は、センサ1の出力に基づき、エンジン101の空燃比フィードバック制御を行う。また、ECU5は、エンジン101からセンサ1への排気ガスEGの供給状況が、規定ガス供給状況であるか否かを判断する。ECU5は、規定ガス供給状況であると判断すると、「規定ガス供給状況」であることを示す信号を、制御装置3内のマイクロコンピュータ9(図2参照)に送信する。マイクロコンピュータ9は、この信号に基づいて、規定ガス供給状況であるか否かを判断する。
【0036】
ここで、「規定ガス供給状況」とは、エンジン101からセンサ1へ排気ガスEGの供給状況が、継続して排気ガスEG中の酸素濃度が予め定めた規定値となる状況をいう。本実施形態1では、内燃機関100を搭載した自動車の停車中において、エンジン101が安定したアイドリング状態とされ、排気ガスEGである排気ガスEGが、継続して規定のA/F値(例えば、理論空燃比)の排気ガスEGとなって、センサ1に供給される状況を、「規定ガス供給状況」としている。ECU5は、入力した情報に基づいて、排気ガスEGの供給状況が、上記のような「規定ガス供給状況」であるか否かを判断する。
【0037】
次に、図2を参照して、センサ1及びガスセンサ制御装置3について、詳細に説明する。なお、図2は、本実施形態1にかかるガスセンサユニット4の構成図である。ガスセンサユニット4は、センサ1とガスセンサ制御装置3とにより構成されている。
【0038】
センサ1は、細長板状をなすセンサ素子10が、図示しないハウジング内に保持された構造を有する。
センサ素子10は、ジルコニアを主体とする第1固体電解質体13及び第2固体電解質体11と、アルミナを主体とする絶縁基体12,17,18,24とを有している。これらは、絶縁基体18、絶縁基体17、第1固体電解質体13、絶縁基体12、第2固体電解質体11、絶縁基体24の順に積層されている。
【0039】
第2固体電解質体11の両面には、白金を主体とする一対の第2電極19,20が形成されている。また、第1固体電解質体13の両面にも、白金を主体とする一対の第1電極21,22が形成されている。第1電極22は、第1固体電解質体13と絶縁基体17との間に埋設されている。第1固体電解質体13、第2固体電解質体11、及び絶縁基体12,17,18,24は、いずれも細長い板状に形成されており、図2では、これらの長手方向と直交する断面を示している。
【0040】
絶縁基体12の長手方向(図2において紙面に直交する方向)の一端側には、第1固体電解質体13と第2固体電解質体11とをそれぞれ一壁面として、排気ガスEGを導入可能な中空の測定室23が形成されている。測定室23の幅方向(図2において左右方向)の両端には、それぞれ、測定室23内に排気ガスEGを導入する際の流入量を規制するための多孔質状の拡散律速部15が設けられている。なお、第2固体電解質体11上の第2電極20と、第1固体電解質体13上の第1電極21とは、測定室23内にそれぞれ露出して配置されていると共に、互いに導通している。
【0041】
第2固体電解質体11上の第2電極19は、セラミックス(例えば、アルミナ)からなる多孔質性の保護層25で覆われている。つまり、排気ガスEGに含まれるシリコン等の被毒成分によって劣化しないように、第2電極19が、保護層25によって保護されている。なお、第2固体電解質体11上に積層された絶縁基体24には、第2電極19を覆わないように開口が設けられており、保護層25は、その開口内に配設されている。
【0042】
第2固体電解質体11及びその両面に設けられた一対の第2電極19,20は、第2電極19,20間に流すポンプ電流Ipに応じて、外部から測定室23内に酸素を汲み入れ、あるいは、測定室23内に導入された排気ガスEG(排気ガスEG)に含まれる酸素を外部へ汲み出す「ポンプセル10c」を構成する。
【0043】
また、第1固体電解質体13及びその両面に設けられた一対の第1電極21,22は、「検知セル10b」を構成する。このうち、第1電極22は、測定室23内の酸素濃度を検知するための基準となる酸素濃度を維持する酸素基準電極として機能する。この第1電極22は、基準酸素濃度雰囲気に晒される。このため、検知セル10bの第1電極21,22間には、第1電極21上に生じる酸素イオン濃度と第1電極22上に生じる酸素イオン濃度との差異に起因して、電圧が発生する。
また、ポンプセル10cと検知セル10bとは、「センサ部10f」を構成する。
【0044】
また、絶縁基体17,18の間には、白金を主体とする発熱抵抗体26が埋設されている。絶縁基体17,18及び発熱抵抗体26は、センサ部10fを加熱して活性化させるための「ヒータ10d」を構成する。
【0045】
次に、センサ1(センサ素子10)を制御するガスセンサ制御装置3について、詳細に説明する。
ガスセンサ制御装置3は、マイクロコンピュータ9及び電気回路部30を構成主体としている。マイクロコンピュータ9は、公知の構成のCPU6、ROM7、RAM8等を搭載したマイコンチップである。なお、ROM7には、CPU6に各処理を実行させるための制御プログラムなどが記憶されている。一方、電気回路部30は、ヒータ制御回路31、ポンプ電流制御回路32、電圧検知回路33、微小電流供給回路34、比較PID回路35、ポンプ電流検知回路36、及び内部抵抗検知回路37から構成される。
【0046】
このうち、ヒータ制御回路31は、発熱抵抗体26の両端に供給される電圧VhをPWM制御することで発熱抵抗体26を発熱させ、センサ部10f(第2固体電解質体11を含むポンプセル10c及び第1固体電解質体13を含む検知セル10b)の加熱制御を行う。詳細には、ヒータ制御回路31は、センサ部10fの温度Tが目標温度Tjとなるように、ヒータ10d(発熱抵抗体26)への通電を制御する。
【0047】
なお、第1目標温度Tj1は、センサ部10fが活性化する活性化温度Ta(本実施形態1では、620℃)よりも高い温度である。本実施形態1では、第1目標温度Tj1=830℃としている。
また、センサ部10fの「活性化」とは、センサ部10fを構成する第1固体電解質体13及び第2固体電解質体11において酸素イオン伝導性が生じて、センサ1用の素子として酸素濃度の検知に使用可能な状態になることをいう。
【0048】
なお、本実施形態では、センサ部10fに含まれる第1固体電解質体13の内部抵抗Rsを制御することで、センサ部10fの温度Tを制御する。具体的には、第1固体電解質体13は、自身の温度に応じて内部抵抗Rsが変動する特性を有しており、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsは、自身の温度と相関関係を有している。そこで、内部抵抗検知回路37によって第1固体電解質体13の内部抵抗Rsを検知し、これに基づいて(第1固体電解質体13の温度をセンサ部10fの温度Tとみなして)、センサ部10fの温度Tを制御する。
【0049】
なお、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsは、以下のようにして検知する。まず、内部抵抗検知回路37を構成する定電流源回路によって、検知セル10bの第1電極21,22間に定電流Iを一定時間流し、それに応答して変化する第1電極21,22間の電圧Vを内部抵抗検知回路37により測定する。そして、定電流Iを付与した際の電圧Vの変化量と定電流Iとに基づいて、マイクロコンピュータ9のCPU6において、内部抵抗Rsの値を演算する。より詳細には、内部抵抗検知回路37に含まれる定電流源回路によって定電流Iを検知セル10bに流す前の第1電極21,22間の電圧と、上記定電流源回路から定電流Iを検知セル10bに流してから一定時間経過後(例えば、60μs経過後)の第1電極21,22間の電圧を、内部抵抗検知回路37を通じてCPU6に入力する。そして、予め設定された計算式又はマップを用いて、入力した2つの電圧の差電圧(変化量)ΔVから、内部抵抗Rsの値を検知する。
【0050】
従って、本実施形態1では、ガスセンサ制御装置3によるセンサ1の制御が開始されると、マイクロコンピュータ9のCPU6により、第1目標温度Tj1に対応する内部抵抗Rs(センサ部10fの温度Tが第1目標温度Tj1になったときの第1固体電解質体13の内部抵抗Rs、これを第1目標内部抵抗Rs1とする)が設定される。そして、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが第1目標内部抵抗Rs1になるように、ヒータ制御回路31が発熱抵抗体26への通電を制御する。これにより、センサ部10fの温度Tが第1目標温度Tj1に制御される。本実施形態1では、この制御を、第1ヒータ制御ということにする。
なお、本実施形態1では、ヒータ制御回路31及びマイクロコンピュータ9が、ヒータ制御手段に相当する。
【0051】
微小電流供給回路34は、検知セル10bの第1電極22から第1電極21側へ微小電流Icpを流すことにより、第1電極21側から第1電極22側に酸素イオンを移動させて、多孔質の第1電極22内に基準酸素濃度雰囲気を生成する。これにより、第1電極22は、排気ガスEG中の酸素濃度を検知するための基準となる酸素基準電極として機能する。
【0052】
電圧検知回路33は、検知セル10bの第1電極21,22間の電圧Vsを検知する。
比較PID回路35は、マイクロコンピュータ9のCPU6によって設定された目標電圧Vjと、電圧検知回路33にて検知した電圧Vsとの比較を行う。そして、その比較結果に基づいて、PID制御手法により、第1電極21,22間の電圧Vsが目標電圧Vjとなるように、ポンプセル10cの第2電極19,20間に流すポンプ電流Ipの大きさや向きを制御すべく、制御指示値をポンプ電流制御回路32に入力する。
【0053】
ポンプ電流制御回路32は、比較PID回路35の指示に基づき、ポンプ電流Ipの大きさや向きを変更して、ポンプセル10cによる測定室23内への酸素の汲み入れや、測定室23からの酸素の汲み出しを行う。また、ポンプ電流検知回路36は、ポンプセル10cの第2電極19,20間に流れるポンプ電流Ipを検知する。
【0054】
本実施形態1では、比較PID回路35によって電圧Vsと比較される目標電圧Vjを、2つの目標電圧(第1目標電圧Vj1及び第2目標電圧Vj2)に設定することができる。具体的には、電気回路部30は、スイッチSW1を通じて比較PID回路35に接続された第1基準電源38及び第2基準電源39を有している。第1基準電源38の電圧は、第1目標電圧Vj1とされ、第2基準電源39の電圧は第2目標電圧Vj2とされている。このため、スイッチSW1を第1基準電源38側に接続しておくことで、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に設定することができる。一方、スイッチSW1を第2基準電源39側に切り替えることで、目標電圧Vjを第2目標電圧Vj2に設定することができる。
【0055】
なお、第1目標電圧Vj1は、電圧Vsが第1目標電圧Vj1となったときに、測定室23内の排気ガスEGに含まれる酸素ガスは第1電極21上で解離するが、排気ガスEGに含まれるH2Oガスは第1電極21上で実質的に解離しない電圧値(本実施形態1では、450mV)とされている。
一方、第2目標電圧Vj2は、電圧Vsが第2目標電圧Vj2となったときに、測定室23内の排気ガスEGに含まれる酸素ガスのみならず、H2Oガスも、第1電極21上で解離する電圧値(本実施形態1では、1000mV)とされている。
【0056】
本実施形態1では、ガスセンサ制御装置3によるセンサ1の制御が開始されると、前述の第1ヒータ制御が開始される。その後、センサ部10fの温度Tが活性化温度Ta(本実施形態1では、620℃)に達したと判断されると、マイクロコンピュータ9により、目標電圧Vjとして第1目標電圧Vj1が設定され、電気回路部30によって、第1電極21,22間の電圧Vsが第1目標電圧Vj1となるように、ポンプ電流Ipの制御(フィードバック制御)が開始される。これにより、ポンプ電流Ipに基づく排気ガスEG中の酸素濃度検知が開始される。
【0057】
なお、センサ部10fの温度Tが活性化温度Ta(本実施形態1では、620℃)に達したか否かの判断は、電気回路部30によって検知される第1固体電解質体13の内部抵抗Rsに基づいて、マイクロコンピュータ9により行われる。第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが、活性化温度Ta(620℃)に対応する値(センサ部10fの温度Tが活性化温度Taになったときの第1固体電解質体13の内部抵抗Rsの値、これをRsaとする)に達したとき、マイクロコンピュータ9は、センサ部10fの温度Tが活性化温度Taに達したと判断する。
【0058】
さらに、マイクロコンピュータ9は、電気回路部30によって検知される第1固体電解質体13の内部抵抗Rsに基づいて、センサ部10fの温度Tが規定温度Tdに達したか否かを判断する。温度Tが規定温度Tdに達したと判断した場合、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjが第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更されることを許可する。一方、温度Tが規定温度Tdに達していないと判断した場合、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjが第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更されることを不可とする。
【0059】
なお、規定温度Tdは、活性化温度Taよりも高く且つ第1目標温度Tj1以下の温度である。本実施形態1では、規定温度Tdを、活性化温度Ta(620℃)と第1目標温度Tj1(830℃)との中央の温度(すなわち、725℃)に設定している。
【0060】
ポンプ電流検知回路36は、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であり、第1電極21,22間の電圧Vsが第1目標電圧Vj1となった状態において、ポンプ電流Ipとして、第1ポンプ電流Ip1を検知する。マイクロコンピュータ9は、この第1ポンプ電流Ip1を読み込む。
【0061】
さらに、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更することが許可されている場合には、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjを第2目標電圧Vj2に変更する。その後、電圧Vsが第2目標電圧Vj2になった状態において、ポンプ電流検知回路36は、ポンプ電流Ipとして、第2ポンプ電流Ip2を検知する。マイクロコンピュータ9は、この第2ポンプ電流Ip2を読み込む。
【0062】
さらに、マイクロコンピュータ9は、第1ポンプ電流Ip1と第2ポンプ電流Ip2とに基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。具体的には、第2ポンプ電流Ip2から第1ポンプ電流Ip1を差し引いた差分値ΔIp(mA)に基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。
なお、本実施形態1では、ポンプ電流制御回路32、電圧検知回路33、及び比較PID回路35により、「電流制御手段」が構成される。
【0063】
次に、本実施形態1にかかるセンサ1の制御の流れについて、以下に説明する。
なお、図2に示すように、センサ1では、微小電流供給回路34により、検知セル10bの第1電極22から第1電極21に向けて微小電流Icpを流すことで、第1電極21側から第1電極22側に、固体電解質体13を通じて排気ガスEG中の酸素が汲み込まれ、第1電極22が酸素基準電極として機能するようになっている。
【0064】
図3に示すように、エンジン101の始動と共に、ガスセンサ制御装置3によるセンサ1の制御が開始されると、ステップS1において、第1ヒータ制御を開始する。具体的には、まず、マイクロコンピュータ9のCPU6により、ヒータ制御回路31の目標内部抵抗Rsjとして、第1目標内部抵抗Rs1が設定される。そして、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが第1目標内部抵抗Rs1になるように、ヒータ制御回路31が発熱抵抗体26への通電制御(第1ヒータ制御)を開始する。
【0065】
次に、ステップS2に進み、センサ部10fの温度Tが活性化温度Ta(620℃)に達したか否かを判断する。
活性化温度Taに達した(YES)と判断された場合は、ステップS3に進み、マイクロコンピュータ9は、比較PID回路35で比較対象となる目標電圧Vjとして、第1目標電圧Vj1(450mV)を設定する。具体的には、スイッチSW1を第1基準電源38側に接続して、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に設定する。
【0066】
次いで、ステップS4に進み、ポンプ電流Ipのフィードバック制御を開始する。具体的には、電圧検知回路33が、第1電極21,22間の電圧Vsを検知する。その後、比較PID回路35が、検知された電圧Vsを、第1目標電圧Vj1と比較する。さらに、その比較結果に基づいて、PID制御手法により、第1電極21,22間の電圧Vsが目標電圧Vjとなるように、ポンプセル10cの第2電極19,20間に流すポンプ電流Ipの大きさや向きを制御すべく、制御指示値をポンプ電流制御回路32に入力する。ポンプ電流制御回路32は、比較PID回路35の指示に基づき、ポンプ電流Ipの大きさや向きを変更して、ポンプセル10cによる測定室23内への酸素の汲み入れや、測定室23からの酸素の汲み出しを行う。
【0067】
なお、測定室23内に導入された排気ガスEGの空燃比がリッチであった場合、排気ガスEG中の酸素濃度が低いため、ポンプセル10cにおいて外部から測定室23内に酸素を汲み入れるように、第2電極19,20間に流すポンプ電流Ipが制御される。
一方、測定室23内に導入された排気ガスEGの空燃比がリーンであった場合、排気ガスEG中には多くの酸素が存在するため、ポンプセル10cにおいて測定室23から外部へ酸素を汲み出すように、第2電極19,20間に流すポンプ電流Ipが制御される。
【0068】
次いで、ステップS5に進み、マイクロコンピュータ9は、排気ガスEG中の酸素濃度の検知を開始する。具体的には、電圧Vsが第1目標電圧Vj1になった状態でポンプ電流検知回路36によって検知されたポンプ電流Ipの大きさと向きに基づいて、排気ガスEG中に含まれる酸素濃度を検知する。検知された酸素濃度の検知信号は、ECU5に向けて出力される。
【0069】
次いで、ステップS6に進み、マイクロコンピュータ9は、センサ部10fの温度Tが規定温度Tdに達したか否かを判断する。
ステップS6において、温度Tが規定温度Tdに達した(YES)と判断された場合は、ステップS7に進み、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更するのを許可する。
一方、温度Tが規定温度Tdに達していない(NO)と判断された場合は、ステップS8に進み、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更するのを不可とする。
【0070】
このように、本実施形態1のガスセンサ制御装置3は、内燃機関100が始動すると、センサ1を用いて、温度Tが活性化温度Ta(620℃)に達した以降、排気ガスEGの酸素濃度の検知を行う。
但し、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であると判断された場合には、このセンサ1を用いて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。
【0071】
そこで、ガスセンサ制御装置3において実行されるH2Oガス濃度検知について、図4を参照して説明する。
図4に示す各処理(H2Oガス濃度検知処理)を実行させるプログラムは、マイクロコンピュータ9のROM7(図2参照)に記憶されており、CPU6によって実行される。
なお、図4に示す各処理(H2Oガス濃度検知処理)は、前述の排気ガスEG中の酸素濃度の検知(ステップS5の処理)が開始された後、図3に示す処理を継続した状態で並行して実行される。
【0072】
前述の排気ガスEG中の酸素濃度の検知が開始(ステップS5)されると、マイクロコンピュータ9は、ステップW1において、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であるか否かを判断する。具体的には、エンジン101からセンサ1へ排気ガスEG(被測定ガス)の供給状況が、継続して排気ガスEG中の酸素濃度が予め定めた規定値となる供給状況であるか否かを判断する。さらに具体的には、エンジン101が安定したアイドリング状態とされ、排気ガスEGが、継続して規定のA/F値(例えば、理論空燃比)の排気ガスEGとなってセンサ1に供給される状況であるか否かを判断する。
【0073】
本実施形態1では、ECU5が、各種センサ等から入力された情報に基づいて、排気ガスEGの供給状況が、上記の「規定ガス供給状況」であるか否かを検知する。具体的には、例えば、自動車が駐車中で、シフトレンジポジションがDレンジとされ、自動車のエンジン101が起動直後であるが安定したアイドリング状態である場合、ECU5は、「規定ガス供給状況」であると判断し、「規定ガス供給状況」であることを示す信号を、マイクロコンピュータ9に送信する。
マイクロコンピュータ9は、この信号を受信した場合、規定ガス供給状況である(YES)と判断し、一方、信号を受信していない場合は、規定ガス供給状況でない(NO)と判断する。
【0074】
ステップW1において、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況でない(NO)と判断された場合は、H2Oガス濃度検知処理を行うことなく終了する。
一方、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況である(YES)と判断された場合は、ステップW2に進み、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更することが許可されているか否かを判断する。許可されていない(NO)と判断された場合は、再び、ステップW1に戻り、前述の処理を行う。
【0075】
ステップW2において、許可されている(YES)と判断された場合は、ステップW3に進み、ポンプ電流検知回路36から出力された第1ポンプ電流Ip1を読み込む。この読み込まれた第1ポンプ電流Ip1の値は、RAM8に記憶される。
なお、このとき、比較PID回路35の目標電圧Vjは、第1目標電圧Vj1(450mV)に設定されたままで、第1電極21,22間の電圧Vsは、第1目標電圧Vj1(450mV)になっている。従って、第1ポンプ電流Ip1は、電圧Vsが第1目標電圧Vj1(450mV)となった状態で検知される。
【0076】
次いで、ステップW4に進み、マイクロコンピュータ9は、電気回路部30のスイッチSW1を切り替えて、比較PID回路35の目標電圧Vjを、第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2(本実施形態1では、1000mV)に変更する。これにより、これ以降、電気回路部30によって、電圧Vsが第2目標電圧Vj2となるように、ポンプ電流Ipの制御が開始される。
【0077】
その後、ステップW5に進み、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjを第2目標電圧Vj2に変更してから規定時間が経過したか否かを判断する。ここで、規定時間は、目標電圧Vjを第2目標電圧Vj2に変更してから、ポンプ電流制御回路32によるポンプ電流Ipの制御によって、第1電極21,22間の電圧Vsが第2目標電圧Vj2に安定するまでに要する時間である。この規定時間は、予め試験により把握して、マイクロコンピュータ9のROM7に記憶させてある。
【0078】
ステップW5において、規定時間が経過していない(NO)と判断された場合は、ステップW6に進み、先のステップW1と同様に、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であるか否かを判断する。ステップW6において、規定ガス供給状況でない(NO)と判断した場合は、ステップW9に進み、電気回路部30のスイッチSW1を第1基準電源38側に切り替えて、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に戻した後、一連の処理を終了する。一方、ステップW6において、規定ガス供給状況である(YES)と判断した場合は、再びステップW5に戻り、前述の処理を行う。
【0079】
ステップW5において、規定時間が経過した(YES)と判断された場合は、ステップW7に進み、マイクロコンピュータ9は、ポンプ電流検知回路36から出力された第2ポンプ電流Ip2の値を読み込み、RAM8に記憶する。
なお、このとき、第1電極21,22間の電圧Vsは、第2目標電圧Vj2に安定している。従って、第2ポンプ電流Ip2は、電圧Vsが第2目標電圧Vj2(1000mV)となった状態で検知される。
【0080】
次いで、ステップW8に進み、マイクロコンピュータ9は、第1ポンプ電流Ip1と第2ポンプ電流Ip2とに基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。具体的には、第2ポンプ電流Ip2から第1ポンプ電流Ip1を差し引いた差分値ΔIp(mA)に基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。
【0081】
なお、本実施形態1では、予め、試験により、排気ガスEG中のH2Oガス濃度(%)と差分値ΔIp(mA)との相関を把握して、マイクロコンピュータ9のROM7に、H2Oガス濃度(%)と差分値ΔIp(mA)との相関関数あるいはマップを記憶させている。従って、マイクロコンピュータ9のCPU6は、この相関関数あるいはマップを利用して、差分値ΔIp(mA)から排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知することができる。
その後、ステップW9に進み、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に戻す。これにより、一連のH2Oガス濃度検知処理を終了する。
【0082】
ところで、第1ポンプ電流Ip1は、排気ガスEG中のH2Oガスが第1電極21上で実質的に解離しない状況下で検知された電流である。一方、第2ポンプ電流Ip2は、排気ガスEG中のH2Oガスが第1電極21上で解離する状況下(H2Oガス由来の酸素イオンが発生する状況下)で検知された電流である。つまり、第2ポンプ電流Ip2は、第1ポンプ電流Ip1に比べて、排気ガスEG中のH2Oガス由来の電流分だけ大きい。従って、第1ポンプ電流Ip1と第2ポンプ電流Ip2とに基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知することができる。
【0083】
一方、第1電極21,22間に印加される電圧Vsを高くする(第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更する)と、第2固体電解質体11においてブラックニングが生じやすくなる。また、第2固体電解質体11のブラックニングは、活性化温度Ta以上の温度範囲においては、温度が低いほど生じやすい。つまり、活性化温度Taであるときが最も生じやすく、これよりも高い温度ほど生じにくくなる。
【0084】
このため、センサ部10fの温度Tが活性化温度Taに達した段階で、H2Oガス濃度を検知すべく、第1電極21,22間の電圧Vsを、第1目標電圧Vj1よりも高い第2目標電圧Vj2になるように制御すると、特に第2固体電解質体11のブラックニングが生じやすくなる。従って、第1電極21,22間の電圧Vsを上昇させる(第2目標電圧Vj2にする)にあたっては、センサ部10fの温度Tが酸素濃度検知を開始する活性化温度Taになった段階よりも、さらに高い温度になった時点で上昇を開始させたほうが、ブラックニングは生じにくくなる。
【0085】
そこで、本実施形態1のガスセンサ制御装置3では、センサ部10fの温度Tが、規定温度Td(活性化温度Ta(620℃)よりも高い温度、本実施形態1では725℃)に達したと判断された場合に、目標電圧Vjを、第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更するのを許可する。これにより、温度Tが活性化温度Taよりも高い規定温度Td以上になってから、第1電極21,22間の電圧Vsを、第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に上昇させることができる。
【0086】
かくして、本実施形態1では、被測定ガス中のH2Oガス濃度を検知するべく、第1電極21,22間の電圧Vsを第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に上昇させても、第2固体電解質体11においてブラックニングが発生する可能性を低減することができる。特に、本実施形態1では、ガスセンサ1の起動から間もない場合など、センサ部10fの温度Tが第1目標温度Tj1よりも低い段階において、被測定ガス中のH2Oガ
ス濃度を検知するべく、第1電極21,22間の電圧Vsを第1目標電圧Vj1から第2
目標電圧Vj2に上昇させる場合においても、第2固体電解質体11においてブラックニングが発生する可能性を低減することができる。
【0087】
なお、本実施形態1では、ヒータ制御回路31、及び、ステップS1の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第1ヒータ制御手段に相当する。また、ステップS6の処理を行うマイクロコンピュータ9が、温度判断手段に相当する。また、ステップS7の処理を行うマイクロコンピュータ9が、許可手段に相当する。また、ステップW1,W6の処理を行うマイクロコンピュータ9が、供給状況判断手段に相当する。
【0088】
また、比較PID回路35、スイッチSW1、第1基準電源38、ステップS3及びW9の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第1電圧設定手段に相当する。また、比較PID回路35、スイッチSW1、第2基準電源39、及び、ステップW4の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第2電圧設定手段に相当する。また、ポンプ電流検知回路36、及び、ステップW3の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第1電流検知手段に相当する。また、ポンプ電流検知回路36、及び、ステップW7の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第2電流検知手段に相当する。また、ステップW8の処理を行うマイクロコンピュータ9が、H2Oガス濃度検知手段に相当する。
【0089】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態2の内燃機関200を構成するガスセンサ制御装置203は、実施形態1のガスセンサ制御装置3と比較して、マイクロコンピュータ9のROM7に記憶されている制御プログラムが異なり、その他は同等である。また、本実施形態2ガスセンサ制御装置203による制御は、実施形態1と比較して、H2Oガス濃度検知処理の一部のみが異なり、その他について同様である。従って、ここでは、実施形態1と異なる点を中心に説明し、同様な点については説明を省略する。
【0090】
実施形態1では、排気ガスEGが規定ガス供給状況であるか否かに拘わらず、継続して、第1固体電解質体13及び第2固体電解質体11の温度Tが第1目標温度Tj1になるように、第1ヒータ制御を行った。従って、第1ポンプ電流Ip1及び第2ポンプ電流Ip2は、いずれも、第1ヒータ制御下で検知された。
【0091】
これに対し、本実施形態2では、ECU5により、排気ガスEGが規定ガス供給状況であると判定された場合、第1ポンプ電流Ip1を検知した後、マイクロコンピュータ9により、第2目標温度Tj2に対応する内部抵抗Rs(センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2になったときの第1固体電解質体13の内部抵抗Rs、これを第2目標内部抵抗Rs2とする)が設定される。そして、ヒータ制御回路31が、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが第2目標内部抵抗Rs2になるように、発熱抵抗体26への通電を制御する。これにより、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2になるように制御される。本実施形態2では、この制御を、第2ヒータ制御ということにする。
なお、第2目標温度Tj2は、第1目標温度Tj1(830℃)よりも高い温度(本実施形態2では、950℃)である。
【0092】
本実施形態2では、第1ポンプ電流Ip1は、第1ヒータ制御下で検知される。
一方、第2ポンプ電流Ip2は、第2ヒータ制御下で、しかも、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2となった状態で検知される。
【0093】
次に、本実施形態2のH2Oガス濃度検知について、図5を参照して説明する。
図5に示す各処理(H2Oガス濃度検知処理)を実行させるプログラムは、マイクロコンピュータ9のROM7(図2参照)に記憶されており、CPU6によって実行される。
なお、図5に示す各処理(H2Oガス濃度検知処理)は、実施形態1と同様に、図3に示すステップS1〜S5の処理が行われた後、図3に示す処理を継続した状態で並行して実行される。
【0094】
前述の排気ガスEG中の酸素濃度の検知が開始(ステップS5の処理が実行、図3参照)されると、マイクロコンピュータ9は、ステップU1において、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であるか否かを判断する。具体的な判断手法は、実施形態1のステップW1と同様である。
【0095】
規定ガス供給状況でない(NO)と判断された場合は、処理を終了する。
一方、規定ガス供給状況である(YES)と判断された場合は、ステップU2に進み、実施形態1のステップW2と同様に、マイクロコンピュータ9は、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2に変更することが許可されているか否かを判断する。許可されていない(NO)と判断された場合は、ステップU1に戻り、上述の処理を行う。
【0096】
ステップU2において、許可されている(YES)と判断された場合は、ステップU3に進み、ポンプ電流検知回路36から出力された第1ポンプ電流Ip1を読み込む。この読み込まれた第1ポンプ電流Ip1の値は、RAM8に記憶される。
【0097】
次いで、ステップU4に進み、ヒータ制御回路31の目標内部抵抗Rsjを、第2目標内部抵抗Rs2に変更する。つまり、ヒータ制御回路31によるヒータ制御を、第2ヒータ制御に変更する。これにより、第1固体電解質体13及び第2固体電解質体11の温度Tが、第2目標温度Tj2に制御される。
【0098】
次に、ステップU5に進み、マイクロコンピュータ9は、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2(950℃)に達したか否かを判断する。具体的には、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが、第2目標内部抵抗Rs2にまで低下したか否かを判断する。
【0099】
ステップU5において、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に達していない(NO)と判断された場合は、ステップUDに進み、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であるか否かを判断する。具体的には、ECU5から継続して、「規定ガス供給状況」であることを示す信号を受信している場合には、規定ガス供給状況である(YES)と判断する。一方、「規定ガス供給状況」であることを示す信号の受信がない場合は、規定ガス供給状況でない(NO)と判断する。
【0100】
規定ガス供給状況でない(NO)と判断した場合は、ステップUCに進み、ヒータ制御回路31の目標内部抵抗Rsjを、第1目標内部抵抗Rs1に変更する。これにより、ヒータ制御回路31によるヒータ制御を、第1ヒータ制御に変更する。その後、一連の処理を終了する。
【0101】
一方、ステップUDにおいて、規定ガス供給状況である(YES)と判断した場合は、再び、ステップU5に戻り、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2(950℃)に達したか否かを判断する。このようにして、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に達するのを待つ。
【0102】
ステップU5において、温度Tが第2目標温度Tj2に達した(YES)と判断された場合は、ステップU6に進み、実施形態1のステップW4と同様にして、比較PID回路35の目標電圧Vjを、第1目標電圧Vj1から第2目標電圧Vj2(1000mV)に変更する。
【0103】
次に、ステップU7に進み、実施形態1のステップW5と同様に、目標電圧Vjを第2目標電圧Vj2に変更してから規定時間が経過したか否かを判断する。規定時間が経過していない(NO)と判断された場合は、ステップUEに進み、先のステップU1と同様に、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であるか否かを判断する。ステップUEにおいて、規定ガス供給状況でない(NO)と判断した場合は、ステップUBに進み、電気回路部30のスイッチSW1を第1基準電源38側に切り替えて、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に戻す。次いで、ステップUCに進み、ヒータ制御回路31の目標内部抵抗Rsjを、第1目標内部抵抗Rs1に変更した後、一連の処理を終了する。一方、ステップUEにおいて、規定ガス供給状況である(YES)と判断した場合は、再びステップU7に戻り、前述の処理を行う。
【0104】
ステップU7において、規定時間が経過した(YES)と判断された場合は、ステップU8に進み、マイクロコンピュータ9は、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2で安定しているか否かを判断する。具体的には、電気回路部30によって検知された第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが、第2目標内部抵抗Rs2で安定しているか否かを判断する。
【0105】
なお、本実施形態2では、センサ部10fの温度Tが、第2目標温度Tj2±10(deg)の温度範囲内の変動にとどまっている状態を、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2で安定した状態としている。この状態は、第1固体電解質体13の内部抵抗Rsが、第2目標内部抵抗Rs2±10(Ω)の範囲内の変動にとどまっている状態に相当する。従って、ステップU8では、内部抵抗Rsが、第2目標内部抵抗Rs2±10(Ω)の範囲内の変動にとどまっている状態であるか否かを判断する。
【0106】
ステップU8において、温度Tが第2目標温度Tj2で安定していない(NO)と判断された場合は、ステップUFに進み、先のステップU1と同様に、排気ガスEGの供給状況が規定ガス供給状況であるか否かを判断する。ステップUFにおいて、規定ガス供給状況でない(NO)と判断した場合は、ステップUBに進み、電気回路部30のスイッチSW1を第1基準電源38側に切り替えて、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に戻す。次いで、ステップUCに進み、ヒータ制御回路31の目標内部抵抗Rsjを、第1目標内部抵抗Rs1に変更した後、一連の処理を終了する。一方、ステップUFにおいて、規定ガス供給状況である(YES)と判断した場合は、再びステップU8に戻り、前述の処理を行う。
【0107】
ステップU8において、温度Tが第2目標温度Tj2で安定している(YES)と判断した場合は、ステップU9に進み、マイクロコンピュータ9は、ポンプ電流検知回路36から出力された第2ポンプ電流Ip2の値を読み込み、RAM8に記憶する。
なお、このとき、第1電極21,22間の電圧Vsは、第2目標電圧Vj2に安定している。また、センサ部10fの温度Tは、第2目標温度Tj2で安定している。従って、第2ポンプ電流Ip2は、温度Tが第2目標温度Tj2(950℃)となり、電圧Vsが第2目標電圧Vj2(1000mV)となった状態で検知される。
【0108】
次いで、ステップUAに進み、マイクロコンピュータ9は、第1ポンプ電流Ip1と第2ポンプ電流Ip2とに基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。具体的には、実施形態1と同様に、第2ポンプ電流Ip2から第1ポンプ電流Ip1を差し引いた差分値ΔIp(mA)に基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知する。
【0109】
その後、ステップUBに進み、目標電圧Vjを第1目標電圧Vj1に戻す。さらに、ステップUCに進み、ヒータ制御回路31の目標内部抵抗Rsjを、第1目標内部抵抗Rs1に戻す。これにより、ヒータ制御回路31によるヒータ制御を、第1ヒータ制御に戻す。これにより、一連のH2Oガス濃度検知処理を終了する。
【0110】
ところで、本実施形態2では、センサ部10fの温度Tを、第1目標温度Tj1よりも高い第2目標温度Tj2とした状態で、第2ポンプ電流Ip2を検知する。
このように、第2ポンプ電流Ip2を検知するにあたり、センサ部10fの温度Tを第1目標温度Tj1よりも高い第2目標温度Tj2とすることで、目標温度を変化させない場合(目標温度を第1目標温度Tj1としたままの場合。但し、第1電極21,22間の電圧Vsは同じ第2目標電圧Vj2とする)に比べて、排気ガスEG中のH2Oガスの解離を促進させることができる。さらには、後述するように、検知する第2ポンプ電流Ip2を安定させる(第2目標電圧Vj2に制御される電圧Vsの変動に伴う第2ポンプ電流Ip2の変動幅を小さくする)こともできる。
【0111】
ここで、図6に、第1電極21,22間の電圧Vsとポンプ電流Ipとの相関関係を示す。なお、図6では、相対湿度80%の環境下で、A/Fを理論空燃比とし、センサ部10fの温度Tを830℃(第1目標温度Tj1)に保った状態での各測定値を△で示し、これらを結んだ曲線を破線で示している。一方、相対湿度80%の環境下で、A/Fを理論空燃比とし、温度Tを950℃(第2目標温度Tj2)に保った状態での各測定値を○で示し、これらを結んだ曲線を実線で示している。
【0112】
図6からわかるように、第1電極21,22間の電圧Vsを同じ1000mV(目標電圧Vj)とした場合(図6におけるA点とB点)で比べると、センサ部10fの温度Tを830℃(第1目標温度Tj1)としてポンプ電流Ipを検知した場合(A点)よりも、温度Tを950℃(第2目標温度Tj2)としてポンプ電流Ipを検知した場合(B点)のほうが、曲線の傾き(微分係数、変化率)が小さくなる。従って、電圧Vsが同じ1000mV(第2目標電圧Vj2)となった場合でも、温度Tを830℃(第1目標温度Tj1)としてポンプ電流Ipを検知した場合(A点)よりも、温度Tを950℃(第2目標温度Tj2)としてポンプ電流Ipを検知した場合(B点)のほうが、得られるポンプ電流Ipの測定値が安定する(電圧Vsの変動に伴うポンプ電流Ipの変動幅が小さくなる)といえる。
【0113】
このことから、目標温度を830℃(第1目標温度Tj1)としたままで、第1ポンプ電流Ip1に加えて、第2ポンプ電流Ip2をも検知する場合(温度Tを上昇させない場合)に比べて、目標温度を950℃(第2目標温度Tj2)に上昇させて第2ポンプ電流Ip2を検知する場合には、排気ガスEG中のH2Oガス濃度の検知精度を高めることができるといえる。かくして、本実施形態2によれば、排気ガスEG中のH2Oガス濃度をより適切に検知することができる。
【0114】
また、前述のように、第1電極21,22間の電圧Vsを高くすると、第2固体電解質体11においてブラックニングが生じやすくなることがわかっている。
これに対し、本実施形態2のガスセンサ制御装置203では、センサ部10fの温度Tを高くする(第2目標温度Tj2とする)ことで、第1目標温度Tj1で第2ポンプ電流Ip2を検知する場合に比べて、第2ポンプ電流Ip2が安定する第1電極21,22間の電圧を低くすることが可能となる。
【0115】
ここで、図6を用いて具体的に説明する。図6によれば、目標温度を950℃とした場合において電圧Vs=1000mVとしたとき(B点)の曲線の傾き(微分係数、変化率)は、目標温度を830℃とした場合において電圧Vs=1100mVとしたとき(C点)の曲線の傾き(微分係数、変化率)と同等になることがわかる。従って、目標温度Tjを830℃(第1目標温度Tj1)とし、目標電圧Vjを1100mVとして、第2ポンプ電流Ip2を検知する場合と同等の検知精度を得るのであれば、目標温度Tjを950℃(第2目標温度Tj2)とした場合には、目標電圧Vj(第2目標電圧Vj2)を1000mVまで低下させることができることになる。
【0116】
つまり、本実施形態2のガスセンサ制御装置203では、第1目標温度Tj1のままで第2ポンプ電流Ip2を検知する場合と同等の検知精度で良いとするならば、センサ部10fの温度Tを高い温度(第2目標温度Tj2)に制御することで、第1目標温度Tj1のままで第2ポンプ電流Ip2を検知する場合に比べて、電圧Vsの第2目標電圧Vj2を低くすることが可能となる。これにより、第2固体電解質体11におけるブラックニング発生の可能性を低減することができる。このようにした場合でも、排気ガスEG中のH2Oガス濃度をより適切に検知することができる。
【0117】
また、第2固体電解質体11のブラックニングは、活性化温度Ta以上の温度範囲においては、温度が高いほど生じにくくなる。
これに対し、本実施形態2では、ステップU5において、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に達したことを確認した後に、ステップU6において、目標電圧Vjを第2目標電圧Vj2に設定している。これにより、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に達した後に、第1電極21,22間の電圧Vsを、第2目標電圧Vj2に向けて上昇させることになる。従って、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に達する前に目標電圧を第2目標電圧Vj2に設定する場合に比べて、第2固体電解質体13におけるブラックニング発生の可能性を低減することができる。
【0118】
また、ステップU4以降の第2ヒータ制御によって、センサ部10fの温度Tを第2目標温度Tj2まで上昇させるにあっては、ハンチング(オーバーシュート)が生じて、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に安定して制御されるまでに時間を要する場合がある。これに伴い、第2ポンプ電流Ip2が安定するまでに時間を要することがある。
【0119】
これに対し、本実施形態2では、ステップU8において、センサ部10fの温度Tが第2目標温度Tj2に安定したことを確認した後、ステップUBにおいて、第2ポンプ電流Ip2を検知している。すなわち、温度Tを第2目標温度Tj2まで上昇させた後でも、温度Tが第2目標温度Tj2に安定するのを待って、第2ポンプ電流Ip2を検知する。これにより、安定した第2ポンプ電流Ip2に基づいて、排気ガスEG中のH2Oガス濃度を検知することができるので、検知精度をより一層高めることができる。
【0120】
なお、本実施形態2では、ステップU1,UD,UE,UFの処理を行うマイクロコンピュータ9が、供給状況判断手段に相当する。また、比較PID回路35、スイッチSW1、第1基準電源38、ステップS3及びステップUBの処理を行うマイクロコンピュータ9が、第1電圧設定手段に相当する。また、比較PID回路35、スイッチSW1、第2基準電源39、及びステップU6の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第2電圧設定手段に相当する。また、ステップS6の処理を行うマイクロコンピュータ9が、温度判断手段に相当する。また、ステップS7の処理を行うマイクロコンピュータ9が、許可手段に相当する。
【0121】
また、ヒータ制御回路31とステップS1及びステップUCの処理を行うマイクロコンピュータ9とが、第1ヒータ制御手段に相当する。また、ヒータ制御回路31とステップU4の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第2ヒータ制御手段に相当する。また、ポンプ電流検知回路36、及び、ステップU3の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第1電流検知手段に相当する。また、ポンプ電流検知回路36、及び、ステップU9の処理を行うマイクロコンピュータ9が、第2電流検知手段に相当する。また、ステップUAの処理を行うマイクロコンピュータ9が、H2Oガス濃度検知手段に相当する。
【0122】
以上において、本発明を実施形態1,2に即して説明したが、本発明は上述の実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、実施形態1,2では、センサ1とECU5との間にガスセンサ制御装置3を設けるとともに、センサ1とガスセンサ制御装置3,203とでガスセンサユニット4,204を構成した。しかしながら、ガスセンサ制御装置3,203の配設態様は適宜変更可能であり、例えば、ガスセンサ制御装置3,203をECU5内に組み込み、センサ1とECU5とによってガスセンサユニットを構成するようにしてもよい。
【0123】
また、実施形態1,2では、規定温度Tdを、活性化温度Ta(620℃)から第1目標温度Tj1(830℃)までの温度範囲のうち中央の温度(すなわち、725℃)に設定した。しかしながら、規定温度Tdは、この温度に限らず、活性化温度よりも高く第1目標温度以下の範囲内の値であれば良く、好ましくは、活性化温度から第1目標温度までの温度範囲のうち中央の温度以上の温度である。
【0124】
また、実施形態1,2では、ガスセンサとして、排気管に装着されるガスセンサ(センサ1)を例示した。しかしながら、本発明は、例えば、EGR装置を備えるエンジンの吸気管に装着されて、吸気ガス中の特定ガス(例えば酸素)の濃度を検知するガスセンサ、及び、これを制御するガスセンサ制御装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0125】
1 全領域空燃比センサ(ガスセンサ)
3,203 ガスセンサ制御装置
4,204 ガスセンサユニット
5 ECU
9 マイクロコンピュータ(供給状況判断手段、温度判断手段、電圧設定手段、ヒータ制御手段、許可手段、H2Oガス濃度検知手段)
10 センサ素子
10b 検知セル
10c ポンプセル
10d ヒータ
10f センサ部
11 第2固体電解質体
13 第1固体電解質体
19,20 第2電極
21,22 第1電極
23 測定室
26 発熱抵抗体
30 電気回路部
31 ヒータ制御回路 (ヒータ制御手段)
32 ポンプ電流制御回路(電流制御手段)
33 電圧検知回路(電流制御手段)
35 比較PID回路(電流制御手段)
36 ポンプ電流検知回路(第1電流検知手段、第2電流検知手段)
37 内部抵抗検知回路
100,200 内燃機関
EG 排気ガス(被測定ガス)
Ip ポンプ電流
Ip1 第1ポンプ電流
Ip2 第2ポンプ電流
Vs 第1電極間の電圧
Ta 活性化温度
Td 規定温度
Vj 目標電圧
Vj1 第1目標電圧
Vj2 第2目標電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6