(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
各種部品の軽量化の観点から、金属代替品として樹脂成形体が使用されているが、全ての金属部品を樹脂で代替することは難しい場合も多い。そのような場合には、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化することで新たな複合部品を製造することが考えられる。
しかしながら、金属成形体と樹脂成形体を工業的に有利な方法で、かつ高い接合強度で接合一体化できる技術は実用化されていない。
【0003】
特許文献1には、金属表面に対して、一つの走査方向にレーザースキャニングする工程と、それにクロスする走査方向にレーザースキャニングする工程を含む、異種材料(樹脂)と接合するための金属表面のレーザー加工方法の発明が記載されている。
特許文献2には、特許文献1の発明において、さらに複数回重畳的にレーザースキャニングするレーザー加工方法の発明が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の発明は、必ずクロスする2つの方向に対してレーザースキャンする必要があるため、加工時間が長く掛かりすぎるという点で改善の余地がある。
さらにクロス方向へのレーザースキャンにより十分な表面粗し処理ができることから、接合強度は高くできることが考えられるが、表面粗さ状態が均一にならず、金属と樹脂との接合部分の強度の方向性が安定しないおそれがあるという問題がある。
例えば、1つの接合体はX軸方向への剪断力や引張強度が最も高いが、他の接合体は、X軸方向とは異なるY軸方向への剪断力や引張強度が最も高く、さらに別の接合体は、X軸およびY軸方向とは異なるZ軸方向への剪断力や引張強度が最も高くなるという問題が発生するおそれがある。
製品によっては(例えば、一方向への回転体部品や一方向への往復運動部品)、特定方向への高い接合強度を有する金属と樹脂の複合体が求められる場合があるが、特許文献1、2の発明では前記の要望には十分に応えることができない。
【0005】
また接合面が複雑な形状や幅の細い部分を含む形状のものである場合(例えば星形、三角形、ダンベル型)には、クロス方向にレーザースキャンする方法では、部分的に表面粗し処理が不均一になる結果、充分な接合強度が得られないことも考えられる。
【0006】
特許文献3には、金属表面にレーザー光を照射して凹凸を形成し、凹凸形成部位に樹脂、ゴム等を射出成形する電気電子部品の製造方法が記載されている。
実施形態1〜3では、金属長尺コイル表面にレーザー照射して凹凸を形成することが記載されている。そして、段落番号10では、金属長尺コイル表面をストライプ状や梨地状に荒らすこと、段落番号19では、金属長尺コイル表面をストライプ状、点線状、波線状、ローレット状、梨地状に荒らすることが記載されている。
しかし、段落番号21、22の発明の効果に記載されているとおり、レーザー照射をする目的は、金属表面に微細で不規則な凹凸を形成し、それによりアンカー効果を高めるためである。特に処理対象が金属長尺コイルであることから、どのような凹凸を形成した場合でも、必然的に微細で不規則な凹凸になるものと考えられる。
よって、特許文献3の発明は、特許文献1、2の発明のようにクロス方向にレーザー照射して表面に微細な凹凸を形成する発明と同じ技術的思想を開示しているものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<複合成形体>
図1の複合成形体1は、金属成形体10と樹脂成形体20が接合されて一体化されたものである。
図1は、平板の金属成形体10と平板の樹脂成形体20からなる複合成形体1が示されているが、金属成形体10と樹脂成形体20の形状や大きさは、用途に応じて適宜選択されるものである。
【0014】
複合成形体1で使用する金属成形体10は、
図2(a)、
図3(a)に示すように、接合面となる平面11(11a)に複数の細孔12を有しているものである。
接合面は、金属成形体10と樹脂成形体20が接触している面であり、細孔12を有していない面(
図3(b)において、a1とa2で囲まれていない面)を含むものである。
平面11と平面11aは同一平面を示しているが、平面11は細孔12が形成されている範囲外の面(
図3(b)において、a1とa2で囲まれていない面)であり、平面11aは細孔12が形成されている範囲内の面(
図3(b)において、a1とa2で囲まれている四角形の面)である。
複数の細孔12は、
図2(a)に示すように、平面11(11a)に対して斜め方向に穿孔されたものである。
金属成形体10と樹脂成形体20は、金属成形体10が有している斜め方向の細孔12内に樹脂が入り込んだ状態(樹脂侵入部30が存在した状態)で強固に接合されている。
細孔12は、細孔が連続した溝であってもよいし、細孔と溝の両方であってもよい。
【0015】
複合成形体1で使用する金属成形体10は、
図2(b)に示すように、接合面となる凹部平面11aに複数の細孔12を有しているものでもよい。
凹部平面11aは、全体が平面11から凹んだ平面である。
平面11は細孔12が形成されている範囲外の面(
図3(b)において、a1とa2で囲まれていない面)であり、凹部平面11aは細孔12が形成されている範囲内の面(
図3(b)において、a1とa2で囲まれている面)である。
複数の細孔12は、
図2(b)に示すように、凹部平面11aに対して斜め方向に穿孔されたものである。
金属成形体10と樹脂成形体20は、金属成形体10が有している凹部平面11a内と斜め方向の細孔12内の両方に樹脂が入り込んだ状態(樹脂侵入部30が存在した状態)で強固に接合されている。
細孔12は、細孔が連続した溝であってもよいし、細孔と溝の両方であってもよい。
【0016】
図1、
図2に示す複合成形体1では、金属成形体10と樹脂成形体20は、それぞれの平面同士が接合一体化されているが、曲面同士が接合一体化されたものでもよい。
曲面同士が接合一体化された複合成形体1であっても、斜め方向の細孔12内(または凹部平面11a内と斜め方向の細孔12内の両方)に樹脂が入り込んだ状態(樹脂侵入部30が存在した状態)で強固に接合されている。
【0017】
<複合成形体の製造方法−1>
次に
図1に示す複合成形体1の製造方法を説明する。
図2(a)、
図3(a)に示す細孔12は、
図4(a)に示すように、金属成形体10a(細孔12が形成される前の金属成形体)の平面11に対して、レーザー(L)を斜め方向に照射して形成する。
このとき、平面11とレーザー(L)の照射方向とのなす角度αは鋭角であり、好ましくは15〜85°であり、より好ましくは25〜75°である。
【0018】
図2(a)、
図3(a)に示す細孔12の開口部の大きさDは、開口部が正方形であるときは10〜300μmが好ましく、30〜300μmがより好ましい。Dが前記範囲内であると、接合時に樹脂が入り込み易くなるので好ましい。
前記開口部が長方形、円形または他の形状であるときは、正方形であるときと同面積になる大きさのものであることが好ましい。
【0019】
図3(a)に示す隣接する細孔12の間隔(H)は、150μm以下の範囲が好ましく、100μm以下の範囲がより好ましい。
隣接する細孔12の間隔(H)は、前記範囲内であれば等間隔でなくてもよい。
【0020】
図2(a)に示す細孔12の平面11から細孔底13までの深さ(長さ)Fは、15〜750μmが好ましく、50〜450μmがより好ましい。Fが前記範囲であると、複合成形体1における金属成形体10と樹脂成形体20の接合強度が高められるので好ましい。
【0021】
図2(a)、
図3(a)に示すようなそれぞれが独立した細孔12を多数形成することに代えて、例えば
図3(a)において縦列または横列に連続した溝を形成することもできるほか、細孔と溝の両方を形成することもできる。
細孔12の数は、複合成形体の用途、複合成形体に対して求められる接合強度などに応じて設定することができるものであるが、
図3(b)に示すように、細孔12が形成された範囲(
図3(b)のa1とa2で囲まれた実線で示す四角形の範囲)内における細孔12の開口部の占める面積(占有率)が10〜95%の範囲になるようにすることができる。
細孔12の合計の体積(1mm
2当たり)は、10×10
-3mm
3〜600×10
-3mm
3の範囲が好ましい。
【0022】
図2(b)、
図3(a)に示す細孔12は、
図4(b)に示すように、金属成形体10a(細孔12が形成される前の金属成形体)の凹部平面11aに対して、レーザー(L)を斜め方向に照射して形成する。
なお、予め金属成形体10aに凹部平面11aを形成した状態で、凹部平面11aに対してレーザー照射して細孔12を形成する方法、金属成形体10aの平面11に対してレーザー照射することで、凹部平面11aと細孔12を形成する方法のいずれの方法も適用できる。
このとき、平面11とレーザー(L)の照射方向とのなす角度αは鋭角であり、好ましくは15〜85°であり、より好ましくは25〜75°である。
【0023】
図2(b)、
図3(a)に示す細孔12の開口部の大きさDは、開口部が正方形であるときは10〜300μmが好ましく、30〜300μmがより好ましい。Dが前記範囲内であると、接合時に樹脂が入り込み易くなるので好ましい。
前記開口部が長方形、円形または他の形状であるときは、正方形であるときと同面積になる大きさのものであることが好ましい。
【0024】
図3(b)に示す隣接する細孔12の間隔(H)は、150μm以下の範囲が好ましく、100μm以下の範囲がより好ましい。
隣接する細孔12の間隔(H)は、前記範囲内であれば等間隔でなくてもよい。
【0025】
図2(b)に示す細孔12の凹部平面11aから細孔底13までの深さ(長さ)F1は、15〜750μmが好ましく、50〜450μmがより好ましい。F1が前記範囲であると、複合成形体1における金属成形体10と樹脂成形体20の接合強度が高められるので好ましい。
図2(b)に示す平面11から細孔底13までの深さ(長さ)F2は、25〜1250μmが好ましく、60〜1250μmがより好ましい。F2が前記範囲であると、複合成形体1における金属成形体10と樹脂成形体20の接合強度が高められるので好ましい。
F2−F1から求められる数値が、平面11からの凹部平面11aの深さとなる。
【0026】
図2(b)、
図3(a)に示すようなそれぞれが独立した細孔12を凹部平面11a内に多数形成することに代えて、例えば
図3(a)において縦列または横列に連続した溝を形成することもできるほか、細孔と溝の両方を形成することもできる。
細孔12の数は、複合成形体の用途、複合成形体に対して求められる接合強度などに応じて設定することができるものであるが、
図3(b)に示すように、細孔12が形成された範囲(
図3(b)のa1とa2で囲まれた四角形〔凹部平面11a〕の範囲)内における細孔12の開口部の占める面積(占有率)が10〜95%の範囲になるようにすることができる。
なお、
図2(b)では、
図3(b)のa1とa2で囲まれた四角形の範囲全体に凹部平面11aが形成されているため、a1とa2で囲まれた四角形の範囲に対する凹部平面11aの占有率は100%となる。
細孔12の合計の体積(1mm
2当たり)(凹部平面11aの体積は除く)は、10×10
-3mm
3〜600×10
-3mm
3の範囲が好ましい。
【0027】
次の工程にて、細孔12が形成された金属成形体10の接合面(平面11、凹部平面11a)を含む部分を金型内に配置して、樹脂成形体20となる樹脂を使用してインサート成形して、複合成形体1を得る。
このインサート成形工程によって、
図1に示す金属成形体10の細孔12内部(凹部平面11aを有しているときは、さらに凹部平面11aの内部)に樹脂が入り込んで樹脂侵入部30が生じた状態の複合成形体1が得られる。
【0028】
図1の複合成形体は、細孔12が同じ斜め方向に形成されたものである。このため、
図1に示す矢印X1方向に樹脂成形20を引っ張ったとき、引張方向と細孔12の中心軸方向のなす角度α(
図4の角度αと同じ)が鋭角となるため、接合強度が特に高められる。
【0029】
また複合成形体で使用する金属成形体が曲面を有するものであるときには、
図5(a)、(b)、
図6に示すようにレーザー照射する。
図5(a)に示す金属成形体50は丸棒であり、表面(周面)51が樹脂との接合面となるものである。
表面(周面)51に接する平面55を考えたとき、平面55に対して斜め方向(角度α)になるようにレーザー照射する。
【0030】
図5(b)は、
図5(a)において凹部曲面51aを有している丸棒(金属成形体)50を使用した実施形態であり、凹部曲面51aを含む面が樹脂との接合面となるものである。
凹部曲面51aに接する平面55を考えたとき、平面55に対して斜め方向(角度α)になるようにレーザー照射する。
【0031】
図6は、金属成形体60が曲面61を有している板状のものであり、曲面61が樹脂との接合面となるものである。
曲面61に接する平面65を考えたとき、平面65に対して斜め方向(角度α)になるようにレーザー照射する。
金属成形体60が
図5(b)のような凹部曲面を有しているものの場合には、
図5(b)と同様にしてレーザー照射する。
【0032】
次の工程にて、細孔12が形成された金属成形体50の接合面(
図5(a)の周面51、
図5(b)の周面51、凹部曲面51a、
図6の周面61)を含む部分を金型内に配置して、樹脂成形体20となる樹脂を使用してインサート成形して、複合成形体1を得る。
このインサート成形工程によって、
図1に示すものと同様に、金属成形体50の細孔12内部(凹部曲面51aを有しているときは、さらに凹部曲面51aの内部)に樹脂が入り込んで樹脂侵入部30が生じた状態の複合成形体が得られる。
【0033】
図1と同様の複合成形体(但し、曲面同士が接合した複合成形体)は、細孔12が同じ斜め方向に形成されたものである。このため、
図1に示す矢印X1方向に樹脂成形体20を引っ張ったとき、引張方向と細孔12の中心軸方向のなす角度α(
図5、6の角度αと同じ)が鋭角となるため、接合強度が特に高められる。
【0034】
<複合成形体の製造方法−2>
図1に示す複合成形体1で使用している金属成形体10は、
図2に示すように同じ斜め方向の細孔12を形成することに代えて、
図7、
図8に示すように、異なる斜め方向に形成された細孔12a、細孔12bを有するものにすることができる。
【0035】
図7、
図8に示す細孔12a、細孔12bを有する金属成形体10は、平面11に対して異なる斜め方向(角度α1、α2)になるようにレーザー照射して形成する。
図7、
図8では、細孔12aを形成するためのレーザー(L1)の照射方向と、細孔12bを形成するためのレーザー(L2)の照射方向が180°逆方向である例であるが、レーザー(L1)の照射方向とレーザー(L2)の照射方向は異なっていればよく、複合成形体の用途に応じて照射方向は適宜設定することができる。
角度α1と角度α2は、同じ角度にすることができるが、鋭角であれば異なる角度にすることもできる。
細孔12aを形成した後で細孔12bを形成してもよいし、細孔12aと細孔12bを並行して形成してもよい。
【0036】
図1の複合成形体1において、
図8に示すような異なる斜め方向に形成された細孔12a、細孔12bを有する金属成形体10を使用したとき、矢印X1方向に樹脂成形20を引っ張ったときだけでなく、反対方向の矢印X2方向に樹脂成形20を引っ張ったときの接合強度も高められる。
【0037】
<複合成形体の製造方法−3>
図1に示す複合成形体1で使用している金属成形体10は、
図2および
図8に示すように斜め方向の細孔12を形成することに代えて、金属成形体の平面に対して斜め方向に円形をなすようにレーザー照射して形成された、
図9、
図10に示すような円形の溝12cを有するものにすることができる。
【0038】
図9、
図10に示す円形の溝12cを有する金属成形体10は、平面11に対して異なる斜め方向(角度α)になるようにして、かつ円を形成するようにレーザー照射して形成する。
なお、円形の溝12cに代えて、多数の細孔12cにより円が形成されたものでもよい。
円形の溝12cは、接合面(平面)11の所望箇所に対して、同じ大きさのものまたは異なる大きさのものを複数形成することができる。
円形の溝12cは、複数の円からなる同心円が形成されたものでもよい。
また円形の溝に代えて、多角形、楕円形などの溝にすることもできる。
なお、
図9、
図10において、
図2(b)に示すように、金属成形体10の平面11に円形の溝12cを含む凹部平面11aを形成することもできる。
【0039】
図1の複合成形体1において、
図9、
図10に示すような円形の溝12cを有する金属成形体10を使用したとき、どの方向に樹脂成形20を引っ張ったときであっても、接合強度が高められる。
【0040】
<複合成形体の製造方法−4>
図1に示す複合成形体1で使用している金属成形体10は、金属成形体の平面に対して異なる斜め方向に円形をなすようにレーザー照射して形成された、
図11、
図12に示すような円形の溝12cと円形の溝12dを組み合わせたものにすることができる。
【0041】
図11、
図12に示す円形の溝12cと円形の溝12dを有する金属成形体10は、平面11に対して異なる斜め方向(角度α1、α2)になるようにレーザー照射(L1、L2)して形成する。
図12では、角度α1と角度α2はα1<α2の関係であるが、同じ角度であってもよい。
図11、
図12では、円形の溝12cと円形の溝12dは二重の同心円を形成しているが、3重以上の同心円が形成されるようにしてもよい。そのときの溝は、交互に同じ斜め方向にレーザー照射して形成された溝であることが好ましい。
図11、
図12では、円形の溝12cと円形の溝12dは同心円をなすように形成されているが、円形の溝12cと円形の溝12dは、別々に形成されていてもよい。
なお、円形の溝12cと円形の溝12dに代えて、多数の細孔12cまたは12dにより円形が形成されたものでもよい。
円形の溝12cと円形の溝12dは、接合面(平面)11の所望箇所に対して、同じ大きさのものまたは異なる大きさのものを複数形成することができる。
また円形の溝に代えて、多角形、楕円形などの溝にすることもできる。
図11、
図12においても、
図2(b)に示すように、金属成形体10の平面11に円形の溝12cを含む凹部平面11aを形成することができる。
【0042】
図1の複合成形体1において、
図11、
図12に示すような円形の溝12cと円形の溝12dを有する金属成形体10を使用したとき、どの方向に樹脂成形20を引っ張ったときであっても、接合強度が高められる。
【0043】
次に、
図13、
図14により本発明の複合成形体の作用を説明する。
図13は、
図1に示す複合成形体1と同じものである。
図14の複合成形体100は、金属成形体110と樹脂成形体120が接合されたものであり、金属成形体110は、平面111に対して垂直方向の細孔112を有するものである。
金属成形体110と樹脂成形体120は、細孔112内に樹脂が入り込んだ樹脂侵入部130により接合されている。
【0044】
図13(a)、
図14(a)は、複合成形体1を矢印X1方向に引っ張り始めた状態を示している。
図13(b)、
図14(b)は、矢印X1方向への引っ張りを継続した状態を示している。
図13(a)、
図14(a)にて矢印X1方向に引っ張ったとき、樹脂侵入部30、130があることによって、
図13(b)、
図14(b)に示すようにX1方向(平面11)に対して垂直なY1方向への力が生じる。このY1方向への力は、樹脂成形体20の端面20aと樹脂成形体120の端面120a側は、樹脂成形体20の端面20bと樹脂成形体120の端面120bと比べると大きくなる。
【0045】
図13の複合成形体1は、樹脂侵入部30の中心軸方向が平面11に対して斜め方向になっており、Y1方向への力に対する抗力が大きくなるため、金属成形体10と樹脂成形体20が剥がれることが防止される。
一方、
図14の複合成形体100は、樹脂侵入部130の中心軸方向がY1方向と同じ方向になっており、Y1方向への力に対する抗力が小さいため、
図14(c)に示すように端面120a側に近い樹脂侵入部130から抜け始める。そして、このとき金属成形体110内に残っている樹脂侵入部130に対してはせん断応力が働く。
そして、
図14(d)に示すように、端面120b側の樹脂侵入部130の一部は、樹脂のせん断強度に達して千切れた状態で金属成形体110側に残り、樹脂成形体120が剥がれてしまう。
【0046】
本発明の複合成形体で使用する金属成形体の金属は特に制限されるものではなく、用途に応じて公知の金属から適宜選択することができる。例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウムまたはその合金、銅、マグネシウムおよびそれらを含む合金から選ばれるものを挙げることができる。
【0047】
本発明の複合成形体で使用する樹脂成形体の樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマーも含まれる。
【0048】
熱可塑性樹脂は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができる。
【0049】
熱硬化性樹脂は、用途に応じて公知の熱硬化性樹脂から適宜選択することができる。例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができる。
【0050】
熱可塑性エラストマーは、用途に応じて公知の熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
【0051】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーには、公知の繊維状充填材を配合することができる。
公知の繊維状充填材としては、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維等を挙げることができる。
炭素繊維は周知のものであり、PAN系、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等のものを用いることができる。
無機繊維としては、ガラス繊維、玄武岩繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維等を挙げることができる。
金属繊維としては、ステンレス、アルミニウム、銅等からなる繊維を挙げることができる。
有機繊維としては、ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維、ジアミンとジカルボン酸のいずれか一方が芳香族化合物である半芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリエステル繊維(全芳香族ポリエステル繊維を含む)、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維などの合成繊維や天然繊維(セルロース系繊維など)や再生セルロース(レーヨン)繊維などを用いることができる。
【0052】
これらの繊維状充填材は、繊維径が3〜60μmの範囲のものを使用することができるが、これらの中でも、例えば金属成形体10の接合面11に対して形成されるマーキングパターンの幅(細孔12の開口部の大きさ、または溝の幅)より小さな繊維径のものを使用することが好ましい。繊維径は、より望ましくは5〜30μm、さらに望ましくは7〜20μmである。
このようなマーキングパターンの幅より小さな繊維径の繊維状充填材を使用したときには、金属成形体のマーキングパターン内に繊維状充填材の一部が張り込んだ状態の複合成形体が得られ、金属成形体と樹脂成形体の接合強度が高められるので好ましい。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー100質量部に対する繊維状充填材の配合量は5〜250質量部が好ましい。より望ましくは、25〜200質量部、さらに望ましくは45〜150質量部である。
【0053】
本発明の複合成形体の製造方法では公知のレーザーを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He−Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。
【0054】
レーザーの照射条件、例えば、波長、ビーム径、細孔の間隔、周波数などは、接合対象となる金属成形体と樹脂成形体の大きさ、質量、種類、さらには求められる接合強度等に応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0055】
実施例1、比較例1、2
実施例1は、金属成形体(アルミニウム:A5052)面に対して、
図4において角度α=60°でレーザー照射して、
図2に示すような斜め方向の細孔(表1参照)を形成した。
比較例1、2は、金属成形体(アルミニウム:A5052)面に対して、垂直方向(角度α=90°)からレーザー照射して、垂直方向の細孔(表1参照)を形成した。
金属成形体(アルミニウム:A5052)は、横15mm×縦60mm、厚さ1mmであり、レーザーの照射範囲(
図3(b)の実線の四角範囲)は、a1=10mm、a2=4mm、a3=1mm、a4=2.5mmであった。
レーザー照射条件は、次のとおりである。
【0056】
<レーザー照射条件>
レーザー:YV04
出力:5.5W
波長:1064mm
ビーム径:30μm
スキャン速度:500mm/sec
周波数:50kHz
【0057】
金属成形体に細孔を形成した後、下記の方法でインサート成形して、実施例1(
図13(a))と比較例1、2(
図14(a))で示す複合成形体を得た。
<インサート成形(射出成形)>
樹脂:GF60%強化PA66樹脂(プラストロンPA66−GF60−01(L9):ダイセルポリマー(株)製)
樹脂温度:320℃
金型温度:100℃
射出成形機:FUNAC ROBOSHOT S−2000i−100B
【0058】
〔引張試験〕
実施例1、比較例1、2の複合成形体3を用いて、引張試験を行って接合強度を評価した。結果を表1に示す。
引張試験は、金属成形体側を固定した状態で、金属成形体と樹脂成形体が破断するまで
図15に示すX1方向に引っ張った場合の最大荷重を測定した。
<引張試験条件>
試験機:テンシロンUCT−1T
引張速度:5mm/min
チャック間距離:50mm
【0059】
〔曲げ試験〕
実施例1、比較例1、2の複合成形体3を用いて、曲げ試験を行って接合強度を評価した。結果を表1に示す。
曲げ試験は、支持台200上に複合成形体3をおいた状態で、金属成形体と樹脂成形体が破断するまで
図16の矢印で示すように金属成形体側から圧子201で押した場合の最大荷重を測定した。
<曲げ試験条件>
支点間距離:
図16のw=64mm
試験速度:2mm/min
圧子の半径(R1):5mm
支持台の半径(R2):5mm
【0060】
【表1】